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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第20章:外の世界へ
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第350話 セントラルタワー攻略(3)

「行けぇー、スケルトン三等兵! 仲間の屍を越えて進め!」

 要所で防衛線を展開している警備用オートボットを、雑に突撃させては強行突破を敢行。

「倒れた奴のライフルを拾って戦えー」

 兵士はいるけど、銃が足りないから二人一組にして、死んだらソイツのを拾って戦闘続行させるという、非常に画期的な歩兵運用法を考案したのはソ連だっけ? なんかスナイパーの映画で見たことある。

 先人の知恵というのは素晴らしい。僕は偉大な同志に感謝の念を捧げながら、『愚者の杖』片手に消耗した端からスケルトンを補充しては突撃をさせ続けた。

「よし、ここのホールは制圧完了だ」

 二階まで吹き抜け構造となっている広間を制圧し、分身の僕は後続の本隊へと連絡した。

 最初に入った倉庫での戦闘以降、警備ボットの抵抗は弱く、散発的になっている。このホールみたいに防衛に適した場所であっても、大した数が揃っておらず、スケルトン突撃だけであえなく制圧できる程度だ。メイちゃんを筆頭に、主力のクラスメイト達は戦闘せずに済んでいる。

 ボットがすでに打ち止め状態、というのならいいけれど、恐らくは慌てて小鳥遊が防衛戦力を結集させ、阻止戦を構築している最中なのだろう。

 各階層に残されたボットは、奴の指示が行き届いていないか、せめてもの足止めで半端に割り振ったか。

「アイツの最終防衛線に差し掛かるまで、みんなの力は温存させてもらおう」

 ゴーマの王国民から採取したノーマル魔石はまだまだ沢山残っている。コレの消費だけで道中が済むなら、こんなにコスパがいいことはない。

「桃川君、階段があったよ!」

「でかした!」

 流石は本職の『盗賊』だ。制圧したホールから方々に伸びる通路へ偵察隊を出していたが、先に夏川さんが下へ向かうための階段を見つけてくれた。

 このセントラルタワーは、優れた古代魔法文明の粋を集めた建築物であるが、やはりどれだけ文明が進んでも、絶対にアナログな構造は残すようであった。エレベーターの代わりに転移魔法で行き来するのが基本となっても、上下階を物理的に繋ぐ階段は必ず設置されている。

 タワーは現在、小鳥遊の逃走防止のために天道君の軍令によって、一律で転移の使用が禁止されている。奴が自由に行き来できるのは、エントランスで逃げるのに使った、最奥まで飛ぶための緊急避難用転移と、天送門のある階層内くらいだというのは、すでに判明している。

 奴の逃げ場は塞いでいるが、僕らが奴の元に向かうために転移で一足飛びすることもまた、できなくなっている。

 エレベーター代わりの各階ポータルが使えない以上、階段を通って降りていくしかない。

 その階段にしても、有事の際を想定してのことなのか、一階から最上階まで貫く構造になっておらず、一定階数ごとに階段の位置が変わる設計となっている。

 お陰で、階段位置が変わる度にその階だけは探索して階段を見つけなければ先へは進めない。全く、最後までダンジョンらしい探索要素をぶち込んでくれて、楽しませてくれるね。

「なぁ、もう結構下りて来たはずだけど、まだつかねぇのか?」

「これで20階分は下りたことになるけど、まだ半分も行ってないだろうね」

 本体の僕は、隣で歩く葉山君に答える。

 突入した搬入口はちょうどタワー中腹の辺り。ほぼ半分の位置とはいえ、タワーの高さは相当なもの。恐らく、世界で一番高い高層ビルよりも、さらに高いと思われる。

 ここまで進んで来た感じ、古代の高層建築は決して1フロアの高さが統一して作られているわけではないことが分かる。人間が活動するのにほどよい高さが基本であることは確かだが。吹き抜け構造の広間は勿論、フロア丸ごと天井がめっちゃ高いこともあれば、どういう目的なのか傾斜のついたフロアなんかも存在していた。

 タワーの外観にそれらのフロア高の違いは全く反映されていないが、内部はかなり自由な構造になっているのは間違いない。もしかすれば、空間そのものに干渉して実際の面積よりも広くしたりされているのかもしれない。

 流石に今のところ、タワーの中なのに大自然が広がる屋外フィールドが、なんてことにはなっていないけれど。

「ずーっと階段下りてると、あの雪のエリアに入る時のこと思い出すな」

「ああ、山越えて入ったとこ。あそこも相当な深度だったよね————っと、思い出話している場合じゃなくなりそうだよ」

「おっ、どうした」

「小太郎くん、何かあった?」

「フロアの雰囲気が変わった。絶対、ここからは何かあるね」

 と、本体の僕は葉山君とメイちゃんをはじめ、同行しているクラスメイト達に状況を伝える。

 そして雰囲気の変わったフロアへ一足先に辿り着いた先行偵察部隊の分身の僕は、ライフル構えたスケルトン達に護衛されながら、周囲の様子を伺いながら進み始める。

「随分と荒れた場所だな……ここは魔法の保護が効かなかったのか」

 搬入口からここまで下りて来た20階層分は、これといって特徴はないフロアであった。白い壁と通路ばかりの、今まで攻略してきた遺跡風ダンジョンと似たような感じ。

 けれどこのフロアからは、かつての活動の跡が感じられる、雑然とした雰囲気が漂う。照明すら辛うじて維持できているといった様子で、非常に薄暗く、急にホラゲーのステージに迷い込んだようだ。

「うーん、この感じは工場みたいだな」

 錆びついてボロボロになった金属パイプやらダクトらしき設備が、壁や天井を縦横に這っている武骨な造り。こういう場所は以前にも見かけたことがある。

 あれはレイナ殺した後、メイちゃんと再び二人きりになって再出発をした時に訪れた遺跡街のエリア。そこで初めてハイゾンビを目撃した古代の工場みたいな場所と雰囲気がよく似ている。

「ォオオ……」

「ァアアア……」

 ほうら、耳を澄ませてみれば、ハイゾンビの元気な叫び声が聞こえてくるようだ————

「浸ってる場合じゃないな。構え、撃て」

 暗い通路の奥から、これでもかと自らの存在を主張しながら、強靭な筋肉と白い甲殻を纏ったハイゾンビが、相変わらずアスリートのように綺麗なフォームで全力疾走しながら駆け込んでくる。

 正面、左右、と全ての通路から。

「まずい、この物量は抑えきれないかも……」

 すでにスケルトン部隊が綺麗に整列して、全ての銃口をハイゾンビに向けて射撃を開始している。

 アルビオン軍正式採用ライフルは、ちゃんとハイゾンビにも通用するようで、それなりに倒せはしている。通路を真っ直ぐ突撃するしかないハイゾンビに対して、一方的に撃てるのだ。弾さえ通れば倒せない道理はないのだが……如何せん、一発で即死とはいかない。

 ヘッショを決めれば一発だが、胴体には数発は撃ち込まないと倒せないし、手足に当たったくらいでは怯みもしない。

 ある程度の攻撃に耐えられれば、痛みも恐れもないアンデッドモンスターはやはり厄介である。

「なんとかこのウェーブは凌いだか」

 辛うじて、ハイゾンビに突っ切られることなく倒し切ることには成功した。だがギリギリだった。

 これがウェーブ制の防衛戦するタイプのゲームだったら、僕はここで切り上げるだろう。

 けど、残念ながらこれは現実と言う名のクソゲーだ。そしてこのダンジョンにおいて、ゲームマスターを名乗るのは最低のクソ女である。

「ォオオアアアアアアア!」

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「ですよねー」

 間髪入れずに、次のウェーブ開始である。

 それもハイゾンビだけでなく、良く見れば走って来る奴らの後方には、通路を埋め尽くさんばかりのノーマルゾンビの大群まで続いている。

「くそっ、ガチの物量作戦に出たか」

 ゴーマの次くらいにダンジョン中に蔓延っているのがゾンビだ。そこかしこで見かけるということは、それだけ数が多いということ。そして野生のモンスターも同時に繁殖しているにも関わらず、ノロくて弱いゾンビが淘汰されることなく相当数、数千年を経ても残っているといいうことは、ほぼ無尽蔵に湧いているということでもある。

 転移は封じているから、他所からモンスターを呼び寄せることはできない。つまり、このタワーのどこかに、ゾンビを量産できるような設備が存在しているのだ。

 というか、恐らくゾンビは魔導人形オートボットが元になって作られているのだろう。壊れたまま生産設備が稼働し続けて、欠陥品の状態で外へ出荷され続けているのが、各地に蔓延るゾンビの正体だと思う。ボットの特徴である青肌と白目も、どちらもゾンビとなれば全く目立たないし。

 ボットの生産設備がこのタワーに備わっていることは、すでに判明している。特に軍事機密ではないというか、ボット生産設備は一般的に普及していたモノらしい。古代語を少々解読できれば、タワーの設備についての概要欄にそのまま書いてあることが分かる。

 もっとも、このタワーの設備が壊れているのか正常稼働できているのかは分からないけれど……どちらにせよ小鳥遊め、なりふり構わず全力稼働してやがるな。

 これがただの悪足掻きならばいいけれど、本命のための時間稼ぎであるならば、悪くない一手だ。

「いくらゾンビ相手とはいえ、この数を相手にするのは手間だぞ」

「————まったく、この程度の相手に退くなんて情けないですね、桃川」

「あっ、桜ちゃん」

 いよいよ敵の勢いに押し込まれて階段まで下がって来たというところで、長い黒髪とスカートを翻し軽やかに降り立った桜ちゃんが、僕の隣に並んだ。

「腐った死体如きに、私の行く道を阻ませはしません————『光砲ルクス・ブラスト』」

 彼女が手にした薙刀、その切先を向ければ眩い白い光が輝き、

「オオッ……ァアアア……」

 下級とはいえ、光属性の範囲攻撃魔法が通路を埋め尽くすように駆け抜けて行けば、それだけでゾンビの大群が溶けて行った。

 そう、溶けた。それはさながら、聖なる力によって不浄な存在が浄化されていくかのように、淡い輝きに包まれて消滅していったのだ。

 それも何十体もまとめて。範囲攻撃が届く内にある者は、すべてサラサラと消し飛んでいった。

「おお、初めて桜ちゃんが聖女っぽい活躍を」

「もう、下らないことを言っていないで、貴方も戦いなさい!」

 いつものように僕へと怒りながらも、桜ちゃんは次々と押し寄せて来るゾンビの大群を、眩しい光魔法攻撃と、華麗な薙刀捌きで倒して行く。

 光属性はアンデッドモンスターに対して特効的な威力を発揮するようで、桜ちゃん一人で無双状態だ。

「もう、桜ちゃん、相性のいい敵に張り切るのはいいけど、まだまだ力は温存してもらわないと困るよ」

「そうは言っても、これだけの数がいるのですから、誰かが道を切り開かねば————進めないでしょう!」

 気合一閃。蒼真流の豪快な薙刀の切り払いが、光属性の魔力を伴うことで、光の斬撃が伸びて何十ものゾンビをまとめて両断。これは最早、立派な武技なのでは。

 薙刀での戦闘をこなすことで、急激に近接戦の技量が成長している感じだ。桜ちゃんの頑張りは分かるけど、今ここで頑張らなくてもいいんだよね。

「桜ちゃん、『光の守り手ホーリーエンチャント』をライフルにかけてよ」

「はぁ、なんで今更そんなことを————」

「いいから早く。ちゃんと戦闘では指揮に従ってくれないと」

「まったく、分かりましたよ————『光の守り手ホーリーエンチャント』」

 桜ちゃんが一言唱えると、スケルトン達が握りしめるライフルに、白い輝きが灯る。いいね、この如何にもバフかかりましたよ感、分かりやすくて。闇に紛れて奇襲する時は絶対止めて欲しいけど。

「それじゃあ、弱点属性で強化もできたし、押し返すとしよう。撃てぇー」

 先と変わらずにライフルによる射撃を始めるスケルトン部隊。だが、その威力は大違い。

 光属性のエンチャントを受けたビームは、一発でゾンビを仕留め切るだけでなく、貫通して後ろの奴まで倒せるほどに強化されていた。

 流石に倍以上の火力を発揮するとなれば、再びスケルトン部隊に任せれば何の問題もない。これならハイゾンビが群れで突撃してきても対応可能。

 つまり、桜ちゃんがわざわざ最前線で無双しなくてもいいってことだ。

「もういい、戻れ、桜ちゃん」

「……こちらが優勢になったのなら、私が出る必要もありませんか」

 などとわざわざ引き下がる理由を口にしながらも、非常に渋々といった様子で桜ちゃんは戻って来た。

「よしよし、ちゃんと言うこと聞けて偉いね。いい子いい子」

「ふざけるのもいい加減にしなさい!」

 パァン! と理不尽なビンタが僕の頬に炸裂する。

「素直に褒めてあげただけなのに、酷くない?」

「その犬か猫にでもするかのような、見下げた態度をやめなさいと言っているのです」

「ええー、レムもこうやって褒めてあげてるんだよ。ねー?」

「あるじ、ほめてくれる。うれしい」

 バックアップのため、こっちへ来ていた幼女レムを撫で回すと、なんとも可愛いことを言ってくれる。僕の愛情が伝わっているようで、何よりだね。

「ほら、レムはこんなにいい子なのに、桜ちゃんときたら」

「騙されてはいけませんよ、レム。その男は貴女のことを使い魔として、いいようにこき使っているだけなのですからね」

「そんな、ただの使い魔だなんて思ってないよ。レムは家族です」

「ペットだって家族と言う人の方が大半でしょう————はぁ、貴女も自我があるのですから、あまり桃川の言いなりになっていてはいけませんよ」

 そんなメチャクチャ失礼なことを言いながら、レムの頭を撫で撫でしてから、桜ちゃんは下がっていった。

 短いながらも共同生活の内に、すっかり情が移っているね。やはり可愛いは正義。

「おーい桜ちゃん、『光の守り手ホーリーエンチャント』は切らさないで欲しいんだけどー」

「解除しなければ、半日は持ちますから」

 おお、そんなに持つのか。

 効果時間を把握しているのは偉いけど、ゾンビ相手なんだから『光の守り手ホーリーエンチャント』だけくれれば、自分が出張る必要がないってことには、僕が頼まなきゃ気づかなかったのだろう。

 うーん、もし日本に戻れたら、桜ちゃんには僕が厳選したシミュレーションRPGの数々を貸してあげよう。そうすれば、限られたユニットとリソースを使って最善手を打つ重要性を分かってくれることだろう。

 何にせよ、今回は珍しく桜ちゃんに助けられた。素直に感謝は示そう。

「桜ちゃん、助けに来てくれて、ありがとね」

「別に、貴方のためではありません。くれぐれも、私が心を許したなどと勘違いはしないでください」

 笑顔でお礼を言えば、純度100%のツン台詞が返って来たものだ。

 これを素でできる桜ちゃんは、やっぱり才能あるよ。学園一の美少女は伊達じゃないね。

「さて、火力も上がったことだし、ガンガン進んで行こう」

 ゾンビ特効の光ライフルを携えたスケルトン部隊を前面に押し出し、怪しい古代工場風フロアの探索を僕は始めた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 桜がツンツンしているように思えたことです。
[良い点] 勇者くん無しでもちゃんと言うこと聞き始めた桜ちゃん でもきっとこの言うこと聞いてるのが洗脳のせいとか言われるんだろうなw
[良い点]  順調そうでなにより。  小鳥遊小鳥は、小太郎君達の手札をほぼ見る事無く直接対決を迎える事となりそうですね。 [一言]  とは言え、小太郎君達もまた小鳥遊の手札を全て知り、対策を立ててい…
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