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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第20章:外の世界へ
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第348話 セントラルタワー攻略(1)

「妖精広場を突破するのは不可能だ」

 というのが、僕の出した結論だった。

 妖精像の目からビームが強すぎる。あれを正面から突破するのは無理ゲーだよ。ゲームでいえば絶対に進行できないように封鎖しているタイプのギミックだと割り切ることにした。

「うむ。妖精広場が完全な機能を有しておるならば、正面から突っ切るのは絶対に無理じゃな。アレはただの自動迎撃装置などではない————本物の、神の力が宿っておるのじゃ」

 と、教えてくれたのは勿論、遥かなる古代の生き証人であるリベルタだ。

 伊達にリベルタを天道君から借り受けて、司令室に引き篭もっていたワケではない。彼女からは、聞けるだけの情報は聞き出している。

 勿論、この脅威のレーザータレット妖精像についてもね。

「要するに『天職』と同じように、神様から力を特別に授かった存在ってことね」

 今更、神が力を与えてくれるシステムに疑問を差し挟む余地はない。神様のご加護がガチで存在するのが、この異世界である。

 そして神の力を授かるのは、どうやら僕ら異世界召喚者だけではないのだ。

 思えば『天職』持ちの僕ら以外にも、神の力を授かった特別な存在をすでに知っている————『彷徨う狂戦士』だ。

 アレは人間でもなければ、オーマみたいな人型モンスターとも違う。リベルタの説明によれば、超ヤバい魔神の力を利用したせいで、暴走してこのアルビオンを滅ぼした真のラスボス、もとい古代兵器である。

 狂戦士は暴走したことで兵器として完成しなかったが、妖精像はまた別の神の力を利用して作り上げた装置なのだ。それこそ正に、いつかルインヒルデ様が言っていた『妖精女王』なのかもしれない。その節は大変お世話になりました、また『告死の妖精蝶』よろしくお願いします。

 そんな妖精像だが、恐らくは狂戦士ほど強い加護を宿しているワケではないのだろう。それでも通常の古代兵器とは、一線を画す超性能となっているのは間違いない。

 というワケで、現役性能を誇る妖精像は、正しく特別製の突破不可能ギミックなのである。

 で、そういうギミックで進行ルートを塞がれている時はどうするか。

 ゲームによって解決法は色々あるけれど————今回、僕が採用したのは、回り道。つまるところ、他のルートを探すことである。

 絶対に突破できないんだったら、スルーすればいいんだよ。

「————さぁ、ここからは時間が勝負だ! みんな、行くぞ!」

 そうして急かしながら、慌ただしく僕らはゴーマ王宮を駆ける。

 本日、いよいよ始まったセントラルタワー攻略。隠し砦を出発した僕らは、まずはゴーマ王宮までやって来た。

 そこから、二手に分かれる。玉座の間にある正面入り口に向かうチームと、最初にタワーへ突入をかけるチームだ。

 小鳥遊が僕の動きを監視していることは知っている。

 少なくとも、正面入り口の光景は常に把握しているはずだ。タワーへ入る唯一の出入り口だからね。ここさえ抑えておけば、僕らがいつやって来るかが分かる。

 だから、これ見よがしに来てやったさ。

 装備担いで、全員集合————ただし、半分はダミーだけど。本物なのは、葉山君、委員長、桜ちゃん、姫野、中嶋、の5人。

 僕は分身があるからいいとして、他の4人は服装や装備、背丈にカツラまで拵えた上で、スケルトンに『虚ろ写し』をかけて見た目だけクラスメイトに仕立て上げている。天道君はガタイがいいので、スケルトンではなくマッチョ自慢のハイゾンビがやってるけど。

 そんな偽物だらけの正面担当は、特にやることはない待機組である。役目は、今この時だけ小鳥遊の目を引くことだけ。

 今まで僕の分身とレムや召喚獣は、妖精像チャレンジでよくタワーには突入していたけれど、他の仲間は誰も連れてこなかった。夏川さんでさえ、危険なのでタワー内への侵入は許していない。

 そんな僕の動きを奴が見ていたならば、こうして全員がやって来ると、いよいよ攻略しに来るんだな馬鹿どもめ、と思うだろう。

 それでいい。奴は妖精広場で唯一の進行ルートを完全に封鎖できていると思っているし、僕がこれを突破できるとも考えない。神の力が宿った特別な兵器だというのは、小鳥遊も知っての上だろうからね。

 だから、僕がクラスメイト率いてやって来ても、妖精像任せで特に警戒はしない。けれど、絶対に注目はする。

 僕がどんな小細工を弄して、妖精広場に挑むのか。そして、それが失敗して無様に敗走、あるいは間抜けにも犠牲者を出すか。奴はテレビで野球観戦するオッサンのように、僕らの一挙手一投足に見入ってくれるだろう。

 そうやって注目を引くことで、少しでも本命である突入チームを悟られないようにするという作戦、とも呼べない、まぁ小細工である。

「それじゃあ頼んだよ、天道君、リベルタ」

「うむ、任されよう」

「いきなり使い走りかよ」

 相変わらずの不機嫌顔で、ペっと奈落の底へと咥え煙草を捨ててから、天道君は颯爽とリベルタへと跨った。

 ここは王宮から見て南東方面の断崖だ。ちょうど中央要塞の城壁は崩落で崩れ去っており、何の障害物もなく地面の途中からいきなり絶壁になっているような地形である。

 そこから飛び降りるように、リベルタに乗った天道君が離陸する。

 大きな黒竜は、眼下の獲物に狙いを定めたハヤブサのように急降下。タワーの壁面たる断崖絶壁を滑るように飛びながら————ボッ! と音を響かせて火球を吐き出した。


 ドドドォオオオオオオオオオ————


 俄かに吹き上がる爆炎と衝撃。

 着弾地点は、そそり立つタワーのちょうど半ば辺り。リベルタはそこで大きく翼を広げて急制動をかけ、さらに火球を撃ち込んだ。

 続けて響き渡る爆音。濛々と吹き上がって来る黒煙の中で、いよいよ勢いをつけて壁へと突っ込む竜の影がチラっと見えた。

 そこで、着信アリ。

 受け継いだ野々宮さんのスマホで、僕は通話に出る。

「桃川、開いたぞ」

「ありがとう。すぐ降りるよ」

 非常に簡潔な天道君との連絡を終えて、僕も崖っぷちへと身を乗り出す。

「小太郎くん、気を付けてね」

「落っこちるんじゃねーぞ」

「こっちも分身だから大丈夫」

 メイちゃんと杏子からご心配のお言葉を賜りながら、黒騎士レムに抱っこされた分身の僕は、迷うことなく奈落へ飛び込んだ。

 直下までは、すでに丹念に編み込んだ黒髪ロープが垂らされている。レムは片手でソレを握り、勢いよく滑り落ちてゆく。

 下から吹き上がって来る火球の黒煙に包まれながら、数秒。ギャリギャリと硬く握りしめた手で急制動をかけて、降下速度を落とす。

 そして軽く体を振って反動をつけた勢いで、僕を抱えたまま黒騎士レムが飛ぶ。

 その先にタワーを覆う壁面はなく、僕らはそのまま中へと着地した。

 潜入、成功だ。

「げほっ、ごほっ! ちょっと、煙濃すぎるよ!」

「換気してやるから、少し黙ってろ」

 ゴウッ! と突風が吹き抜けて、籠った黒煙を外へと押し流して行く。流石は天道君、風魔法も片手間で習得済みってことかい。

 お陰様でどんどん排気が進んで、少しずつ視界も開けてゆく。

「やっぱり、ここって搬入口か何かだったんだね」

 かなりの広さがある空間で、天井も高い。けれど鉄骨のような太い柱の構造体が縦横に伸び、大型のコンテナが幾つか積んである風景からして、倉庫といった印象を受ける。少なくとも、優雅にダンスパーティーを開催できるホールではないね。

 さて、僕らが侵入を果たしたこの倉庫搬入口は、天道君がリベルタに乗って一週間ほどタワーの外壁を詳しく調査をした結果に発見したものだ。

 妖精広場が越えられないから、別のルートを探す。けれど内部構造的には、下へ向かうにはあの妖精広場を通らなければいけない。かといって床に穴を開けて下るのも、現役で稼働している魔法建築構造のせいで、簡単に破壊することはできない。

 流石にこの百階層はありそうな床を、地道に『腐り沼』で溶かすのは無理があるし、時間をかけ過ぎればそれだけでアウトだ。

 そこで考えたのが、どこかで外壁をぶち破って、妖精広場を無視すると同時に大幅なショートカットも狙う、一石二鳥の突入作戦である。

 勿論、タワー外壁は床材よりも遥かに分厚く頑丈で、リベルタがブレスをぶちかましても破壊はできないだろう。けれど、どこかに破壊できる箇所があるかもしれない。一部だけヒビの入った壁を、爆弾で壊して入れるような、そんな場所が。

 これも希望的観測で実行したワケではない。天道君がリベルタに乗って登場したシーンを思い出してもらいたい。あの時、ド派手にエントランスの壁をぶち破って彼らは現れたのだ。

 あれは偶然でも演出でもなく、あそこは破壊して突っ込める、と判断した上でやったことだ。僕がゴーマ王国攻略のために、この階層の構造体に対する魔力供給をカットしたお陰でエントランス付近も脆弱化していたようだ。

 そんな感じで、どこでもいいからタワーへの魔力を遮断、あるいは最初から魔力が通っていない箇所、が存在していれば十分に破壊し内部へ侵入できるという算段だ。

 結果的に、天道君が発見してくれたのが、この搬入口というわけで。恐らく正門などとは違って、硬く閉ざすような入口ではないこと。元々は渡り廊下のように通路が最下層エリア地下の階層と繋がっていたから、本来はタワー内側にあったこと。などの理由によって、この部分だけは魔力を受けて強度を増す構造になっていなかったと推測される。

 まぁ、どんな理由であっても、こうしてぶっ壊せたんだから何でもいいよね。

 そうして、あからさまに突破口を探し回っていたワケだけど、小鳥遊がこの調査行動に警戒して全く妨害行動に出なかったのは、こっちも偽装していたからだ。

 お前、僕がただただ奈落の底を、ゴーマ素材採取のために漁り続けていたと思っていただろ?

 実際、ギラ・ゴグマ含め大多数の王国民ゴーマには貢献してもらったけれど……本命は、天道君の突破口探しなんだよね。

 奈落の底でかき集めた物資を地上に上げるために、リベルタにコンテナ掴ませて空中輸送させていた。実際に色んなモノを運んでもらったから、タワー周辺をあちこち飛び回っても違和感はなかっただろう。

 小鳥遊はきっと、天道君がコキ使われている、程度の認識だったはず。本当はタワーの入れそうな場所をじっくりねっとり探していました、と分かっていれば絶対に邪魔するか、自ら弱点を探して対策する。

 侵入がこうして成功した時点で、小鳥遊の怠慢は証明された。QED。

「グガガ」

「ん、なに、レム? あそこ?」

 倉庫の一角を指さして、黒騎士レムが教えてくれる。ああ、そこに監視カメラあるのね。

 正確にはカメラではなく監視用の魔法装置だけれど、とりあえずぶっ潰すべくレム鳥を飛ばしながら、僕は小鳥遊が見ていると信じて、中指を突き立てた。

「ファッキンビッチ!」




「————侵入路が開いたわ。みんな、行きましょう」

 連絡を受けた委員長の一声で、正面エントランスに待機していた面子が一斉に駆け出す。

 タワー中腹にある搬入口を破壊して、突破口を開くことに成功した以上、最早ここに居座っている理由はない。

「いよいよだな……待ってろよ、キナコ」

 リライトも気合を入れて、みんなに続く。背負ったリュックの中には、重箱みたいな大きな弁当箱に、目いっぱいに唐揚げを詰め込んである。

 必ずキナコを助け出し、コレを腹いっぱい食わせてやるんだ————そんな思いが胸の内をグルグルと巡っている間に、目的地へと到着した。

「エレベーター設置完了! いやぁ、ギリギリだったね、杏子」

「練習したかんな」

 と、小太郎本体と杏子が、ハイタッチして喜んでいる。

 龍一がリベルタと飛び立ち、分身小太郎と黒騎士レムが降下していった地点には、クレーンに吊るされた形のエレベーターが設置されていた。勿論、誰もが利用したことのある自動で開閉する扉のついた箱型などではなく、足場とフレームだけの簡易的な昇降機と言うべきものだ。

 これも小太郎が奈落の底からゴーマ素材回収のために作り出した設備、というのは小鳥遊に見せる表向きの理由。本当の目的は速やかに、かつ重量物をタワー中腹に位置する搬入口まで仲間達を下ろすためのものである。

 タワーに突入するのは、クラスメイトを筆頭に、二代目輸送車を襲名したロイロプスの屍人形や、完全武装に大盾を携えたタンクなどの召喚獣、となかなかの大所帯となっている。

 それだけの人数と物資を、数百メートルも下にある入口へ安全に下ろすとなれば、エレベーターでもなければ無理がある。だから、小太郎は作った。

「これ、落ちたりしないよな……?」

「ちゃんと使って確認してるから。百人乗っても大丈夫!」

 不安げなリライトに対し、嘘八百を自信満々に言い張る小太郎だが、実際にエレベーターを稼働させているのは本当だ。

 リベルタによるコンテナ輸送の他にも、このエレベーターで実際に回収物資の上げ下ろしをずっと行ってきた。きちんと設計通りに、耐久重量までは安全に動くことは実証済み。

 さらに、本来の目的のためには固定型ではなく、移動して使えるような構造になっている。クレーン部分を支える重要な土台は、杏子が土魔法によって硬い楔を深く打ち込み固定する仕組みだ。底で物資回収する場所に応じて、エレベーターを移動させて使いまわしていた。

「それじゃあ、みんな降りようか」

「……」

 先陣を切って小太郎がエレベーターに乗り込むと、ついて来たのは芽衣子だけだった。

「乗らない人は、そっちのバンジー用のロープを使って降りて来てね」

「さぁ、みんな、行くわよ」

「おうよ!」

 委員長の呼びかけにみんなが応え、ゾロゾロとエレベーターへと乗り込んだ。

 まずはクラスメイト達から降下を開始する。

 ゴウンゴウン、と音を立ててエレベーターは降下してゆく。

 動力は電気に変わる魔力式……にしようと思ったが、面倒臭かったので人力である。力自慢のミノタウロスと、タンク、それからハイゾンビ達が太いロープを握りしめ、クレーンの滑車を通してリフト部分をゆっくり下ろして行く。

 全ての降下が完了すれば、エレベーターは用済みなので、人力動力を担うミノタウロス達を送還して回収。任意で出したり引っ込めたりできるところが、召喚術の便利な面である。

「やっと来たか」

 人力エレベーターが無事に搬入口まで到着すると、タバコを吹かして一服している龍一が出迎える。肩には小型となったリベルタが。隣には、何故かラーメン店主のように腕を組んで仁王立ちの桃子がいた。

「お前ら、構えろ。早速お出ましだぜ」

 龍一がタバコを吐き捨てて、『王剣』を握りしめると同時に、倉庫に繋がるシャッター型の扉が一斉に開く。

 列を成して飛び込んできたのは、白い人型。

「ふふん、小鳥遊の手先が。慌てて出てきても遅いんだよ、間抜け」

 小太郎がそう嘲笑った時には、手にした武器を振り上げた狂戦士が、すでに飛び掛かっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 賢者(野球観戦のオッサン) そら桃川に出し抜かれますわ エレベーター乗るときにちょっと躊躇してる所とか、臨場感伝わってきてとても好きです。はい エレベーターから搬入口までは橋渡しはするん…
[良い点]  なるほど!妖精広場を無視して壁に穴をあけて先へ進む――ゴーマ王国落としや天道登場など、ヒントもちゃんとありました!! [一言]  なんかもう小鳥遊達との戦いは、拍子抜けするほど思惑どうり…
[一言] いつも更新ありがとうございます。
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