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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第4章:二つ首の猛犬
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第33話 練習(2)

「――黒髪縛り」

 通路をウロつくスケルトンの足首に、影から飛び出した黒い髪の束が巻きつく。けれど、今回は雑草のようにバラけることなく、しっかりと一本のロープのようにまとまった上で、絡みついていた。

「やった、三つ編み成功だ!」

 そう、発動した黒髪の戒めは、見事な三つ編みとなって現れていたのである。

 大カエルとの戦闘で、僕の『黒髪縛り』は何の足止めにもならなかった。少しばかり髪の毛が絡みつく程度では、魔物相手では簡単に振り払われてしまう。

 現状、僕が戦闘において役に立ちそうなのは『黒髪縛り』によって身動きを封じることくらいだから、まずなによりもコイツの強化は優先される。しかし、いざ強化しようと思っても、手持ちのスキルポイントを振り分けて、なんてゲーム的なことはできない。

 では、どうすれば強化できるのか? 今のところ思いつくのは三つ。

 一つは、単純により強力な能力を授かること。要するにレベルアップ。けど、これは神様の気まぐれみたいなものだから、どの程度戦えば新スキルを獲得できるのか、あるいは、どんなスキルを与えられるか、というのは自分で選べない。文字通り、神頼みなパワーアップである。

 二つ目は、繰り返し能力を使うことによる習熟。熟練度システム、とでもいえば、ゲーマーな僕にはピンとくるし、そうでなくても、練習すればそれだけ上手くなるっていうのは分かりやすい話だ。

 これがただの気のせいではないというのは、コンスタントに同じ技と魔法を使い続けた平野君と西山さんの存在によって証明されている。劇的に威力が向上するというワケではないけれど、それでもスキルそのものに使い慣れる、というのは戦いにおいて非常に重要なことに違いはない。鍛える価値は十分にある、というよりも、これから攻略を進めるにあたって必要不可欠な要素になるだろう。

 最後の三つ目は工夫、である。これは能力そのものの威力や効果は変わらなくても、使い方に一工夫することで、色々と応用を利かせようというものだ。双葉さんが狂戦士パワーで投石をしたのも、一種の工夫だといってもいい。

 そして僕は、『黒髪縛り』の髪の毛を三つ編みにする、という工夫を、今正に成功させたのだ。効果は一目瞭然。バラけた髪の束よりも、一本の無駄なくまとまっている方が遥かに強度があるだろう。

「うーん、意外とやればできるもんだね」

「やったね、凄いよ桃川くん!」

 双葉さんの賞賛の声が、素直に心地いい。

 ちなみに、三つ編み縛りで拘束されたスケルトンは、双葉さんがバトルアックスの一撃で速やかに粉砕してくれた。

「ありきたりだけど、やっぱりイメージが大事なんだ」

 とりあえず最初に何も考えず試した時は、見事に失敗した。けれど、三つ編みの編み方を思い出しながら、自分のちょっと長めの髪を使って実際に編み編みしてイメージを固めてからやってみると、結果はご覧のとおりである。

「よし、次は長さと数に挑戦だ!」

 双葉さんを連れて通路をグルグル回ること十数分。覗き込んだ部屋の中で、見事に二度目のエンカウント発生である。気分は正にRPGのレベル上げだ。

「はぁ……とりあえず、今はこんなもんか」

 結果は、髪の長さ二メートル。三つ編みの本数は二本同時が限界。二本出すと、長さは半分の一メートルが限界というのが判明した。

 散々スケルトンを縛って弄んだ後は、例によって双葉さんが粉砕。よくよく考えるととんだ鬼畜の所業であるが、科学の発展のためには犠牲はつきもの的な発想で割り切る。向こうだって、僕らを殺そうと襲い掛かってくるのだから。

「凄いね、桃川くん。こんなに呪術が成長しているなんて!」

「い、いやぁ、別に、あはは……」

 ニコニコ笑顔でストレートに褒めてくる双葉さんの言葉が、堪らなく恥ずかしい。基本、僕は褒められ慣れていないし、いくらなんでもこんな連続でベタ褒めされれば、恥ずかしさの方が勝るというものだ。

 こんな程度でここまで大袈裟に褒められると、速攻でダメになってしまいそう。優しくて料理もできて褒め上手だなんて、双葉さんはダメ男製造機にでもなるつもりなのだろうか。

「と、とりあえず、次は泥人形を試してみるよ」

「うん、頑張ってね桃川くん」

 慈母のような眼差しに見守られながら、僕は気持ちを切り替えて呪術の行使に集中する。

 今回試すのは、泥以外で人形ができるかどうか。というより、魔物の素材などを利用することで、より強力な人形を作り出せないか、といった方が目的としては大きい。

 泥人形の役立たずぶりは、大カエルとの一戦だけで明らかだ。せめてもう少し耐久性が上がってくれないと、囮にもならない。せいぜい、大道芸の見世物として小金を稼ぐくらいしか、使い道は思いつかない。

 しかし、もしも素材次第で強力な人形を作り出せるのだとすれば……夢は一気に広がる。さぁ、出でよ、僕の最強のサーヴァント!

「……あ、泥がない」

 と気づいたのは、スケルトンの残骸を利用して、正しく人形の骨格となる形を整えた時点であった。ウナギ登っていたテンションが、その事実を前に急降下を始める。

 呪術名として『泥』とついているのだから、流石に泥が原材料に含まれていないと成功するビジョンが見えない。

「やっぱり泥は必要なの?」

「うん、スケルトンの骨を骨格にして、泥を筋肉に、みたいなイメージだから。水は持ってるから、もうちょっと砂だけでもあるといいんだけど――」

「そっかぁ……じゃあ、えいっ!」

 軽快な掛け声とは裏腹に、鋭い破砕音が鳴り響く。何事、と思いながら見ると、バトルアックスをフルスイングで部屋の壁に叩き付けている双葉さんの姿が。

「あ、ほら、やったよ桃川くん! 砂が出てきたよ!」

 双葉さんが叩き割ったのは、レンガのように分厚い石の壁。斧の刃が食い込んだ部分は完全に石壁を叩き割ることに成功したようで、その向こう側にある地下の砂をサラサラと吐き出していた。

 ダンジョンの構造からいって、ここが地下にあるのは間違いなさそう。だから壁を壊せば、そのまま地層がお目見え、という理屈なんだろうけど……試しに叩いてみるには、この石壁はあまりに頑丈だろうに。

「あ、ありがとう」

 どこまでもナチュラルに狂戦士パワーを発揮する双葉さんに若干引きながらも、望みのモノは揃ったのだから素直に礼を言うより他はない。

 ともかく、これでスケルトン素材の泥人形の制作実験に取り掛かれる。

 重要なのはイメージ。呪術の発動手順そのものは、前に一回やって十分に覚えた。だから、あとはひたすら完成形を出来る限りリアルに思い描きながら、やってみるだけだ。

「混沌より出で、忌まわしき血と結び、穢れし大地に立て――」

 床の上に、スケルトンの骨の欠片を人型になるように配置。その上から双葉さんがくれた砂と、ペットボトルに入れておいた妖精広場の水を混ぜ混ぜして作った泥を被せる。構造としては単純至極。だから複雑なイメージも必要ない。

 これで失敗したら、恐らくは他にもう何をやってもダメだろう。

 だから、マジで頼むよルインヒルデ様。僕にもう少しくらい、希望を持たせて――そんな祈りを奉げながら、僕は泥の人型に鮮血の雫を垂らした。

「――『汚濁の泥人形』っ!」

 果たして、効果は即座に現れる。

「やった、立った!?」

 呪いの命を吹き込まれた泥人形は、僕の願い通りにすっくと立ち上がる。

 見た目は最初に作った泥人形とほぼ同じ。組み込んだ骨は内部にあるから、外見は相変わらずの泥一色、なのだけれど……決定的に違う点が、一つだけ。

「わ、この子、何だか仮面を被ってるみたいだね」

 そう、双葉さんの感想通り、今回の泥人形は仮面を被っているのだ。それは頭の位置に置いておいた、骨の一欠片である。60%の円グラフみたいな形をした欠片が、泥人形の顔にピッタリと張り付いているのだ。

「や、やった、多分これ、ちゃんと素材として適応しているんだ!」

 役立たずの『汚濁の泥人形』に、無限の可能性を垣間見た瞬間である。

「よーし、次はもっとデカいのを作るぞ!」

 ついにウナギも滝を登っちゃうくらいの勢いでテンション急上昇の僕は、すぐさま次なる実験にとりかかる。

 さて、次に使用する材料は、すでにご用意してあります。

 この部屋で倒したスケルトンは二体いる。一体は胴体がバッキバキに砕け散って原型を留めていないが、もう一体の方は、完全に頭部だけが消え去り、体は綺麗に丸ごと残っているのだ。

 これは事前に双葉さんに頼んでおいた倒し方だ。いくら鈍重なスケルトンが相手といえど、ここまで見事な結果を出してくれるのだから、彼女もかなり戦闘に慣れてきたといっていいだろう。少なくとも、ゴーマや赤犬の雑魚モンスに囲まれても、負ける姿が浮かばない。

「ねぇ、桃川くん。もしかして、大きいのを作ると、その分だけ血が必要になったりするんじゃない?」

 僕が意気揚々と等身大スケルトンへ泥んこ塗れになりながらせっせと被せていると、不意に双葉さんがそんな疑問を投げかけた。

「うん、まぁ、そうかもしれないね。でも、どこまで泥人形ができるかの限界は知っておきたいから。ヤバそうだったらすぐやめるし、大丈夫だよ」

 いくらなんでも、失血死するまで血を垂れ流すのをやめない、なんてことはない。傷薬を使えば、どうせちょっとした切り傷なんてすぐに塞がる。危険は何もないはずだ。

「そ、そっか、それならいいけど……気を付けてね?」

 うん、と空返事をしてから、どれくらい時間が経っただろう。何分、等身大の骨格全てを覆うほどの泥をシャベルなしで被せなきゃいけないから、かなり手間がかかってしまった。

 途中で水汲みに戻ったりもしたし。泥まみれで慌てて噴水から水を汲んで行く僕らの姿を、平野君と西山さんから何とも胡散臭そうな目で見られたが、今は気にしちゃいられない。

「よし、完成だ!」

 苦心の末、ようやく泥人形の素体ができあがる。構造としては、ついさっき作り上げた奴と全く同じ。サイズが完全に人間大と大きくなっただけである。

 一応、デカい泥人形制作という目的と並行して、複数体を作り出せるか、という実験も兼ねている。だから、最初に作った奴はこのまま。

 もし、全てが上手くいって等身大泥人形が動き出したなら、それなりのサイズで人形を作れると同時に、ある程度の数も同時に生み出すことが可能ということになる。目指せ、最強サーヴァント軍団、である。

「じゃあ、行くよ」

「う、うん」

 固唾を飲んで見守る双葉さんの視線を感じながら、僕は二度目の呪術行使に挑む。

「混沌より出で――」

 まずは血を一滴、垂らす。

 真っ直ぐ落下した赤い雫は、ちょうど人型の額にあたる部分で弾けた――瞬間、くらり、と立ちくらみに襲われる。

「忌まわしき血と結び――」

 何だ今のは、気のせいか。なんて思っている間に、さらに血の雫は二滴、三滴、と零れ落ちていく。

 そして、それらが泥人形に触れた瞬間。

「穢れし大地に立っ――」

 世界が、反転する。

 グラリと視界が揺れて、僕が見ていたはずの泥人形の姿は急速に視界から流れて行き、気が付けば、目に映るのは真っ白い光。あ、これ、部屋の白光パネル? それじゃあ僕、倒れたのかな。

「――桃川くん!」

 大声で叫んでいるような雰囲気だけど、彼女の声はやけに遠く感じた。

 大丈夫、と一応は言おうと思って双葉さんの方を振り向いたところで、僕の視界は暗転。もう、何も考えられなくなっ――

 2016年9月2日

 昨晩、予約投稿をした際に、急になろうのページが繋がらなくなってしまったので、投稿が遅れてしまいました。もしかして、ダイジェスト化削除の件でメンテでもしているのか・・・などと思いましたが、ともかく、遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

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