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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第20章:外の世界へ
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第342話 生け捕る方法(2)

その日の夜のことである。

 僕は以前から考えていた勇者蒼真捕獲作戦について、有識者を招いて相談をすることにした。尚、お呼び立てした有識者は、桜ちゃん、委員長、天道君、の三名である。

 なぜこの三人だけなのかといえば、彼らの同意が得られれば他に反対する人は誰もいないし、僕の案を実行するにあたっても、三人の協力が必要不可欠になるからだ。

「————というワケなんだけど、どうかな?」

「論外です! どれだけ人の命を弄ぶというのですか、この外道っ!!」

「桜ちゃんにはまだ聞いてないから」

「桜、静かにして」

「桜、ちょっと黙ってろ」

「どうして涼子と龍一まで!?」

「話が進まないからよ」

「俺はお前の癇癪まで世話してやる気はねぇぞ」

「うぅ、ぐぬぬぬ……桃川ぁ!」

「えっ、僕関係なくない?」

 二人に塩対応されて、早くも涙目になってる桜ちゃんだけど、この子に構っていると本当に夜が明けかねない。

「はぁ、桜ちゃんのお気持ちは後で少しは聞いてあげるからさ、今は委員長の言う通り、話を進めたいんだよね。で、その話っていうのは、僕の作戦をどう感じるかという気持ちのことじゃなくて、有効かどうか、可能かどうか、っていうとこだよ」

「間違いなく、有効ね」

「ああ、悠斗には絶対、効くだろうな」

 早速、色よいお返事が二人から返って来た。

 まぁ、やっぱり誰でもそう思うよね。蒼真悠斗という人物を多少は知っていれば、簡単に想像がつく。

「だが実際に出来るかどうかは、話が別だな」

「ええ、難しいと思うわよ。桃川君の能力なら、すぐ形になるとは思うけれど……それで本当に悠斗君に通じるかどうかは、怪しいわね」

 当然の懸念である。なにせ勇者様は勘が鋭いからね。こっちが罠を張っていれば、直感で見破って来るだろう。

「だからこそ、三人の協力が……特に、桜ちゃんの協力が必要なんだよね」

「私は絶対に嫌ですよ。こんな非人道的な行為に手を貸すなんて」

「悠斗はぶん殴ったところで、目ぇ覚ますとは思えねぇぞ」

「そうね、手段を選んではいられない状況よ」

 非人道的云々というなら、まず一番許されない小鳥遊を断罪してきてよね。まったくもう、桜ちゃんは相変わらず、ケチをつけられる人にしかケチをつけないんだから。親に文句を言う子供かよ。僕は君のママじゃないっての。

「僕の意見に反対するのはいいけれど、それならより有効と思われる対案を出して欲しいものだね。少なくとも、僕は桜ちゃんの愛に溢れる説得だけを頼りにするつもりは毛頭ないから」

「兄さんには必ず、私の言葉なら届きます」

「ヘッドフォンつけて爆音流すだけで防がれるような策はちょっと」

「そうやって人の揚げ足取りばかり!」

「小鳥は古代の装備で『聖天結界オラクルフィールド』も操れるのよ。桜の言葉を聞こえなくさせる対処をとることくらい、簡単にできるでしょう」

 いくら小鳥遊がバカだからといっても、桜ちゃんが説得してくることくらいは想定している。そして実際、彼女の言葉が一番蒼真君には響くだろうことも。

 ならば当然、桜ちゃんの説得対策をしているに決まっている。対策以前に、単純に会わせないようにするだけでも十分なわけで。

「相手が絶対に対策している作戦に全てを賭けるなんて真似、僕は許すわけにはいかないよ」

「だから私達には、桃川君の言う卑劣な策も必要なのよ」

「卑劣って言った」

「お前は自分のやり方を卑劣だと思わねぇのかよ」

「天道君、こういう言葉がある。精神攻撃は基本」

 うん、昔の人はいいこと言った。どれだけ強かろうとも、人間である以上、感情は絶対に切り離せない。感情はないとか、感情は殺した、とか無表情で言い放つ冷酷キャラは、最終的には感情に目覚める前フリ。

 別に蒼真君は無感情キャラではないし、むしろその対極に当たる相当に感情的な人物である。これが蒼真の血筋なのだろうか。もうちょっと理性的になる遺伝子を残して欲しかったね。

「とにかく、他にこれといった有効策が出ない以上、今の内から進めておくべきだと思うわよ」

「確かに、悠斗に通じるようにするには、時間がかかるだろうな」

「だから桜ちゃん、ここは大人しく協力してよ」

「くっ、ですが、こんな真似……何か、他に良い方法が必ず……」

「その他の方法を模索する時間も、あんまりないんだって。時間かけ過ぎると、小鳥遊の洗脳もより完璧な仕上がりになるだろうし————ああ、蒼真君は今頃、一体どんな目に遭っているんだろうねぇ」

「っ!? に、兄さん……分かりました。いいでしょう」

 兄貴を引き合いに出されて、ようやく渋々といった感じで了承の言葉を発する桜ちゃんだけど、そもそも君には決定権も拒否権もないからね? いつまで自分が他人に指図できる立場だと思っているんだろう。とっくに平和な学園でのクラスカーストは崩壊したというのに。

「それで、一体私に何をさせようと言うのですか」

「これから桜ちゃんには、レムと一緒に過ごしてもらう」

「レム、ってあの白い女の子ですか」

「そう、この白い女の子だよ」

「はい。レムです」

 黙って僕の後ろの方で待機させていたレムを、親戚の子供でも紹介するかのように桜ちゃんの前にお出しする。お辞儀して、ちゃんと自己紹介できて偉い。

 今や僕らの中で幼女姿のレムは馴染んで久しいが、桜ちゃんはほとんど初見に近い。積極的に僕と関わることがない以上、レムとの接点も生まれないのも当然。狩りに出る時は黒騎士だったりするし、尚更である。

「これは、桃川の趣味なのですか?」

 改めて、僕とレムをまじまじと交互に見てから、心底軽蔑した視線でド無礼なことを問いやがる桜ちゃん。

「よりによってこの僕を、ロリだのペドだの疑惑をかけるというのかい」

 ああ、なんという屈辱だろう。メイちゃんと杏子によって、そんじょそこらの巨乳好きとは一線を画すレベルになった僕に対して、これほどプライドを傷つける疑いはないよ。

「それはそうでしょう、貴方のような変態が」

「実の兄を狙う近親相姦ガチ勢のド変態と比べたら、僕の巨乳好きなんて健全もいいとこじゃないか」

「殺す」

「ちょっと桃川君、言っていいことと悪いことってあるでしょう!?」

 俄かに殺意を漲らせて立ち上がりかけた桜ちゃんを、委員長が必死のインターセプト。

「先に僕の性癖にケチをつけた桜ちゃんが悪いんじゃあないか」

「涼子、貴女も油断していてはいけませんよ。この間、龍一と一緒に桃川がお風呂に入っていたこと、私は知っていますからね」

「……殺す」

 そして一瞬でドス黒い殺意を纏って寝返る委員長。

「た、たまたま! たまたま入る時間が被っただけのことだから!」

「でも事実でしょう」

「親友のトラウマ抉って自分の味方を増やすなんて、よくもそんな非人道的な真似ができるなぁ!?」

「やっぱり、龍一の目を覚ますには……殺すしかないのね……」

「目ぇ覚ますのはオメーの方だろ涼子」

 僕が必死に視線で訴えた救援要請に、渋々ながら答えた天道君がようやく委員長を抑えに動いてくれた。尚、抑え方は正面からのハグという物理的かつ即効性のある迅速な対応であった。

「桜、このテの話題はマジでヤベーんだから、軽々しく言うんじゃねぇ」

「ふん、桃川が悪いんですよ」

「どう考えても桜ちゃんの過失100%じゃないか。いや、未必の故意ってやつじゃないのこれは」

「うるせぇ、どっちも余計なこと言ってねぇで、さっさと話を進めやがれ。今すぐ涼子を解き放ってもいいんだぞ、桃川」

「それじゃあ、レムのことはよろしく頼むよ、桜ちゃん」

 天道君たっての希望とあって、再びレムを前へ。

 僕の性癖など疑う余地なんて欠片もないというのに、それでも桜ちゃんは目の前のレムを胡乱な目で眺めていた。

「この子は、貴方の使い魔なのでしょう。私を監視するつもりですか」

 今度はそういう方向性から攻めるのか。まぁ、気持ちは分からないでもない、真っ当な疑いではあると思う。最初からそれだけ言えば良かったのに。

 とはいえ、これもまたあらぬ疑いであることに変わりはない。

「僕は桜ちゃんを毎日観察しているほど暇じゃないし、娯楽に飢えてもいないよ。監視されてる、とか言うと電波でイカれた陰謀論者っぽいから、やめた方がいいよ桜ちゃん」

「くだらないケチばかりつけていないで、一体どういう目的なのかを素直に答えなさい!」

 全く、自分は素直じゃないくせに、他人には素直を要求するなんて、とんでもないね。いや、桜ちゃんはどこまでも自分に素直な態度をとっているから、こうなっているのか。

「だってこの作戦を実行するのは、僕じゃなくてレムだし。桜ちゃんが、しっかり教え込んでくれないと」

「それなら、教える時間を作ればいいだけでしょう。四六時中、付き纏われる理由にはなりません」

「日常生活からずっと一緒にいることが大事なんだよ。それは僕で実証されているからね」

「……やはり監視するつもりでは」

「桜ちゃん大丈夫? 頭にアルミホイル巻く?」

「いりませんよっ!!」

「もう、少しは落ち着きなさい、桜。桃川君もあまり余計なことは言わないで」

 あっ、委員長はもう落ち着いたんですかね?

 天道君が後ろから抱きしめたままだから、精神が安定しているのだろう。

「ただお喋りしたいだけなら、他所でやれ」

 天道君がまたかよお前ら、とばかりに呆れた視線をくれる。まだ委員長リリースしないでね。

 確かに、ようやく立場が逆転して僕にも桜ちゃんとのトークを楽しむ心の余裕が生まれたけれど。二人がさっさと決めろよ、と促してくるので、桜ちゃんも早く折れてよね。

「別に世話を焼かなくもいい、ただ一緒にいればそれでいいんだ。レムは見た目通りの幼女じゃないから、面倒なんてない。むしろ、何でも言うこと聞いてくれる、とっても良い子だよ」

 と、レムをナデナデしながら桜ちゃんへ推す。

 本当は僕の方にずっとついてて欲しいけれど、仕方なく桜ちゃんにつけてあげてるんだからね。僕の可愛いレムを。

「ただの子供ではない、というのは分かりますが……」

「はいレム、桜ちゃんと握手」

「あくしゅ」

「……はい」

 さしもの桜ちゃんも、小さな子供を邪見に扱うことはないようだ。僕の使い魔だと頭で理解しつつも、愛らしい銀髪幼女であるレムが差し出した小さな手を前に、悩みながらも握り返した。

 やはり、可愛いは正義。

「それじゃあ、レムをよろしくね、桜ちゃん」

「はぁ……仕方ありませんね。分かりましたよ」




 そうして、桃川小太郎主催の秘密会議が解散した後のことである。

「まったく、あの男と話しているだけで疲れますね……今日はもう、お風呂に入って早く寝ましょう」

 ふわぁ、と欠伸混じりの息を吐きながら、桜は真っ直ぐ浴場へと向かう。

 元々は広いシャワールームでしかなかったが、小太郎がやって来てからはいつもの手腕を発揮して、早々に大浴槽を設置させていた。シャワーがあっても風呂はちゃんと作る、その日本人らしい働きぶりは桜も認めざるをえない。

 そうして、今や立派な大浴場と化した元シャワールームへ入り、セーラー服へと手をかけた————ところで、気が付いた。

「……」

 真っ赤な瞳が、今まさにセーラーを脱ぎ去ろうとする自分を見つめていることに。

 一言も喋ることなく、影のように静かに付き従ってついてくるだけのレムのことは、ついその存在を忘れてしまいそうになる。

 小太郎のように減らず口を叩かれるよりは比べるべくもなくマシであるが、レムが彼の使い魔であることに変わりはない。監視などする気はないと言ってはいたものの、こうして見つめられると、その赤い瞳の向こう側で、あの小さな悪魔がニヤついている姿を桜はつい連想してしまった。

「後ろを向いててもらえますか」

「はい」

 唯々諾々と従い、レムはその場で反転。ただ黙って武骨な灰色の壁を見つめる、銀髪頭が桜の方へと向くだけとなった。

 これで目線を通して見られていたとしても、自分の裸を見られる心配はない————

「いえ、やはりこちらに来てください」

「はい」

 桜はレムを呼びよせた。

 目の前で立つだけのレムへ、桜は膝を折って目線を合わせる。

「レム、一緒に入りましょう」

 小太郎に風呂を覗かれるなど絶対に御免だ。

 けれど、こんな小さな子供を放っておいて、自分だけゆっくり風呂につかるという行動は、厳格に育てられた蒼真桜の矜持に反する。

 いくら使い魔とはいえ、この子は人形でもロボットでもない。魔法で召喚した使い魔であっても、そこに生物らしい感情が宿るというのは、自ら中級精霊たる『白疾風』を扱うようになって実感できている。

 いいや、たとえただの人形だったとしても、本物の女児同然の姿で動くレムを、物のように扱ったりなど桜は決してしなかった。

「ほら、バンザイして」

「ばんざい」

 両手を上に上げさせて、甲斐甲斐しくレムの脱衣を桜は手伝う。意外にも慣れた手つきなのは、道場に通う小さい子供の世話を焼いた経験なども、あればこそであった。

 そんな経験が、まさかこのダンジョンサバイバルの最中で役立つ時が来るとは、なんて自嘲気味に思っている内に、レムは真っ白い裸へとなっていた。

 桜も手早く脱衣を済ませる。小太郎に覗かれているかも、という疑惑は拭い去れないが、レムを前にそれにこだわることはやめた。

 スラリとした美しい肢体をレムの前に晒した桜は、嫌悪とは対極にある優し気な微笑みを浮かべる。

「それでは、入りましょう」

「はい」

 小さなレムと手を繋いで脱衣所から浴場へ入る姿は、まるで仲の良い姉妹のようであった。

「レム、私のことは姉さんと呼びなさい」

「だめです」

「……な、何故ですか?」

「あるじ、から、さくらには、めうえの呼びかたするな、と命じられています」

「桃川ぁあああああああああああああああああ!!」

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― 新着の感想 ―
桜は蒼真君と小太郎君が絡まなければまともっぽい。
レムたんのおめめは青色では?
[気になる点] ん? レムの目は最初は青のはずだったのでは?
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