第338話 外法の先(2)
「ふっ……ふふふ……ふぁーっはっはっはっは!」
「桃川君、うるさい」
高笑いする僕を、どこまでも冷めた目で睨みながら姫野が言う。何という塩対応。
だが、今の僕は思わず高笑いしちゃうほどにはテンション上がってる。
そりゃあ上がるに決まってる。今まで、新呪術といえば大体は僕が必死に頭を捻って活用法を見出すようなのが基本だった。いや最近はそこまででもなかったかも。
ともかく今回の新呪術は、今まさに「これが欲しかったんだよ!」をピンポイントで狙ってくれた効果を宿している。
「はっはっは、見よ、これが呪神ルインヒルデ様より授かりし、新たなる力!」
『禁呪解法』:言葉が通じれば、それは人か。否、魔も獣も言葉は解する。されどそこに理解はなく、故にこそ禁忌とされる。人の身でありながら、悪魔の言葉、獣の声を解するならば、それは人か人外か。だが、より強い呪いを記し刻むには、そうするより他はない。
「ふーん、意味わかんね」
「まったく、これだからルインヒルデ式のフレーバーテキストに慣れていない奴は! この『深さ』が分からないなんて、やっぱり人として『浅い』んだよねぇ」
「桃川君が未だかつてないほどウゼぇ」
ふふん、僕くらいになれば、このフワッフワな説明文だけでおおよその効果内容が分かるというものよ。というか、呪術名だけで明らかなんだけど。
「この『禁呪解法』は要するに、『外法解読』の上位スキルなんだよ」
「ゴーマ語が読めるようになるヤツだっけ? そんなのさらに解読できるようになったって……な、なったら、もしかして……」
「そう、装備更新だね!」
「イヤァアアアアアアアアアアアアアア!」
ふはは、姫野の悲鳴が心地よい。絶望の嘆きは甘美なモノ、ってルインヒルデ様も言ってるし。
「新呪術によって、僕の錬成能力はさらに一段階、上のものとなったのだ! これまで作った全ての装備品を更なる強化ができるし、新しいのを作り出してもいい。そしてここには、古代兵器を元にした素材が山ほどある……いやぁ、夢が広がるね」
「悪夢……悪夢だわ、これは……」
「ああ、本当に良かった。この新しい錬成能力がなければ————オーマとザガンの素材を、持て余してしまうところだったよ」
それが僕の悩みどころであった。贅沢な悩みともいう。
オーマとザガンの頭蓋骨とコア。これはヤマタノオロチの巨大コアに匹敵する、最高品質の素材である。武器にするにせよ、アイテムにするにせよ、その力を最大限まで引き出したい。
このレベルのゴーマ素材は、最早ここのダンジョンで入手するのは不可能な一品モノ。オーマ並の知能と力を持つ奴が現れたとしても、王国を築き上げるには百年単位かかるしね。
折角の激レアボス素材。ただの強力なコア爆弾にして使い捨てるなんてとんでもない。是非とも、今後もずっと一線級に足る装備品として仕上げたいところ。
なのだが、肝心の錬成能力が僕には足りなかった。
今日から狩猟班が活動開始だし、王宮から剥ぎ取る敗残兵のコアと宝物庫漁りなど、素材集めそのものは順調なだけに、非常に歯がゆい思いをしていた。かといって、無理に手を出して半端な出来になっては元も子もない。
果たして、タワー攻略開始までの限られた時間内に満足いく装備に仕上げることができるか、と不安に思っていたところに、この新呪術である。
ありがとうございます、ルインヒルデ様。僕の信仰心は鰻登りでございます。是非、今後ともよろしくお願いします。
「というワケで、僕はこれからオーマとザガンの加工に入るから。他の作業は出来そうもない」
「この裏切り者ぉ! どうしろってのよ、山のような素材をさぁ!?」
「明日から蘭堂さんと中嶋君をこっちに戻すから」
「もう、頼むわよ……私だっていい加減、限界なんだから」
「ふーん、限界、ねぇ……?」
「な、なによ」
僕がジト目でねっとり絡みつくような視線で見つめると、姫野は露骨に視線を逸らした。
「姫野さん。君も僕の錬成作業を手伝って、随分経つよね」
「全くよ。学園塔の時から、アンタにはずーっと酷使されっぱなしじゃない。何よ今更、少しは悪いとか思ってるワケ?」
「いやなに、これだけ経験を積んだんだ。色んな作業も、随分慣れたというか、上手になったよね」
「そりゃこんだけやってりゃ、誰だってそうなるわよ」
「姫野さん、僕に隠していること、ない?」
「……はぁ? そんなのあるわけないじゃない。プライベートは別よ」
「勿論、仕事についてだけど……もしかして、気づいていないだけ、かもしれないなと」
「な、何が言いたいのよ……」
「姫野さんさぁ————」
僕はにっこり笑いながら、それはもうヒマワリのような眩しい笑顔を浮かべながら、姫野の肩にポンと手を置いて、真実の一手を突き付けた。
「————『基礎錬成陣』、習得してるでしょ?」
「っ!?」
ビクーン、とそれはもう分かりやすいほどに姫野は反応した。
顔色はサーっと血の気が引いてゆき、体はガタガタと震えている。うん、武者震いってやつかな。
「なっ、なんのことよ……そんなナントカ錬成なんて、知らないわよ……」
「『基礎錬成陣』は、今まで使ってきた『簡易錬成陣』の上位スキルだよ。これまで習得したのは小鳥遊しかいなかったけれど、名前からして錬成スキルとしては普通くらい。魔法でいえば中級みたいなものだろう。ともかく、そこまで特別なモノではないね」
だから、こんだけ『簡易錬成陣』使って、色んな素材を加工しまくっていれば、スキルレベルだか熟練度だかも、上がるに決まっているよね。で、この錬成陣シリーズが汎用スキルであれば、単純に使いこめばスキルレベルも上がってくれるだろう。
いやぁ、姫野の努力がついに報われて、僕は嬉しいよ。
「だから、そんなの知らないって!」
「隠さなくたっていいじゃないか。僕も『簡易錬成陣』は使えるからね。魔法陣の形は空で描ける程度には暗記しているんだよ————さっき姫野さんが使ってた陣は、形が違ってたよね?」
「気のせいじゃないかしら」
「この砦で作業を始めてから、今までよりも加工速度、品質、どっちも明らかに向上しているしね。『基礎錬成陣』を使って、簡易と同じ仕事をすれば、かなり楽になったんじゃあないのかなぁ?」
「そんなこと……私は、一生懸命お仕事しているだけなの……」
「姫野さん、怒らないから、素直に言ってごらん?」
「う、うぅ……ホントぉ?」
半泣きで僕を上目遣いで見上げる姫野だけれど、全くキュンと来ない。ああ残酷な容姿格差。
けれど、僕は笑顔で答える。
「本当だよ」
「……『基礎錬成陣』、習得しました」
「なんでそんな大事なこと早く言わないんだよっ!」
「お、怒らないって言ったじゃなーい!」
僕も錬成スキルが上がり、姫野のスキルも上がった。これぞ正にスキルアップ。
桃川エントランス工房の未来は明るいぞ! さぁ、今日も張り切って、お仕事お仕事!
第一狩猟班である双葉芽衣子、蘭堂杏子、葉山理月、中嶋陽真の四人は、地下道から上がって森の中を進む。
レム鳥による空中索敵と、ハイゾンビの周辺警戒、そして護衛兼荷物持ちのタンクとアルファが同行している。
ゴーマ王国が滅び去ったことで、セントラルタワー周辺の森は随分と静かになっている。毎日、何千ものゴーマ達が狩猟採取に勤しんでいたのが、今や一体もいない。
あの日、偶然にも王国に帰らず森にいたゴーマがいたとしても、帰る場所を失えば野生のまま生き延びることは難しいであろう。この豊かな森に潜む数多のモンスターが、数百年の長きに渡って君臨していた者達が消え去ったことに気づき、その縄張りを拡大していくのはそう遠い話ではない。
そんな森の事情などは露知らず、ベニヲとコユキを従えて歩くリライトは、堂々と四人の先頭を行く芽衣子の大きな背中を眺めながら、ポツリと漏らした。
「なぁ……あれホントに双葉さん、なのか?」
「久しぶりにその質問聞いたわ」
「なんだよ、みんな言ってんのかよ」
「生きてたのか葉山! ってのと同じくらい言ってる」
今更そんなこと聞くのかよ、と呆れた表情で隣を歩く杏子が言う。
四人の隊列は、芽衣子が先頭、後衛であるリライトと杏子の二人を間に、後ろを中嶋が守る並びとなっている。
すでにゴーマ王国もなく、地下道を彷徨う狂戦士のような規格外の存在も確認されていないこの森は、狩猟班の戦力をもってすれば危険度は低い。多少のお喋りをする余裕はあるし、それが許される程度には二人も慣れている。
そんなワケで、数メートルの間隔をおいて先を行く芽衣子には気取られぬよう、リライトは彼女についての話をヒソヒソと杏子に囁きかけた。
「いや、だってよ、あまりにも変わり過ぎて。ビフォーアフターってレベルじゃねぇぞ」
「惚れた、とか言い出すな頼むから」
「言わねぇよ。言わねぇけど……アレは学園にいたらヤバいだろ。天下捕れるぞ」
控え目に言って爆乳美人の芽衣子の女性的魅力は、男ならすれ違えば二度見、三度見はするレベル。純粋に容姿だけでいえば蒼真桜が抜きんでているが、決して劣るとは言えない愛らしい顔に、その圧倒的な核爆級ダイナマイトボディは他の追随を許さない。
巨乳より美乳、を信条とする美の求道者であるリライトであっても、今の芽衣子の破壊力を前にしては、心が惑わされてしまいそうだ。
顔120点、体90点の蒼真桜に対し、顔90点、体120点の双葉芽衣子。この二人が並び立てば、白嶺学園を二分する勢力となったであろう。
「流石に妬けるぜ、桃川」
「小太郎は双葉がああなる前から、命救って、世話してたんだぞ」
そりゃあ、惚れもする。と杏子は言外に滲ませる。
「このダンジョンに来た最初の頃だろ? 桃川が苦労してたなんて、ちょっと想像できねーよ」
戦闘力に直結しない三つの初期呪術だけを持たされて、自分の身を守るだけで精一杯だった頃の小太郎を、リライトは知らない。
ヤマタノオロチ戦後に、小鳥遊を出し抜いて逃げ出してきた時点の小太郎は、ダンジョン攻略初期と比べれば、呪術も精神も大きく成長を果たしている。
「ウチと出会った時はボロボロだったし、今ほど余裕もなかったな」
どうにか樋口を殺した直後に現れた天道ヤンキーチームに拾われた頃でも、小太郎の『呪術師』としての力はまだ未熟であった。そのせいか、あの頃は常に気を張って警戒感を露わに、まるで怪我した野良猫のような雰囲気だったと、杏子は思い出す。だからこそ、構ってやりたくなる気持ちになったことも。
「ってことは、一番苦労した時期に、一緒にやってきた相棒って感じか」
俺とキナコのように、と思えばその絆の深さは窺い知れるというものだ。
「競い合うには、強敵すぎねーか?」
「うっせ、ウチだって分かってんだよ、そんなことは……」
杏子の気持ちを知るリライトは、こうして改めて双葉芽衣子という女子の魅力を目の当たりにしたことで、つい可哀想な視線を送ってしまった。
「まぁ、俺はお前を応援するけどよ……頼むから、無事にダンジョン抜け出すまでは、奪い合って揉めたりするなよな」
「はぁー? チャンスがあったら協力しろし」
「あん時はお前しかいなかったから良かったけど、今はそんな危ない橋渡れねーって」
王国攻略に挑む前夜。杏子が女として覚悟を決めて桃川の部屋へ向かったのを見送り、邪魔が入らないようフォローをしたリライトであったが、強力な対抗馬がいる状況で、そこまで露骨な真似はとてもできない。杏子を応援する気持ちはあるが、芽衣子と小太郎の深い関係についての理解もあるが故に。
「それにしても……双葉さんって、ホントにそんな強いのか?」
「ガチればキナコもボコれるぞ。霊獣の方な」
「それはウソだろお前……ウソだよな?」
「そんくらい強くなきゃ、一人でザガン倒せねーっての」
芽衣子が駆け付けた最終局面、その戦いを杏子は意識が朦朧としながらも最後まで見届けた。しかし、霊獣召喚で魔力を使い果たして倒れていたリライトは、芽衣子の戦いぶりを全く見ていないのだ。
強いて彼女が戦う姿を目にしたのは、小鳥遊が本性を現したあの時に、剣崎と斬り合っている姿くらい。小太郎によれば、あの時は『神聖言語』の影響下にあって相当に動きが制限された状態だったと言うが……だからこそ、誰もが口を揃えて言う『狂戦士』の圧倒的な強さを上手く想像できずにいた。
美しくダイエット大成功した姿からして、ただならぬ気配を感じるが、あまり強さには結びつかない。何なら、いざという時は男子として俺が守らなければならないのでは、と思ってしまうほどだった。
「まっ、葉山もすぐ分かるって」
彼女と共に狩りに出て来れば、嫌でもその強さは見せつけられる。
そして杏子の言葉通りに、すぐにその機会はやって来た。
「ウォオアアアアアア!」
「ゲェエアアアアアア!」
と、大きな叫び声が四方から木霊してくる。その発生源は、隊列の周囲に展開させていたハイゾンビのものだ。
一方向ではなく四方から、ということはつまり、全方位から一斉に敵が襲い掛かって来たということに他ならない。
「グルルゥ……ワンワン!」
「敵襲だ! やべぇぞ、もう囲まれてる!」
鋭く吠えるベニヲを傍らに、レッドランスを構えるリライト。コユキも敵の気配を察してか、フワフワの白毛を逆立たせて威嚇のポーズをとっていた。
「ちっ、まだ見えねーぞ」
ガサガサと周囲の茂みがざわめく。わざと音を立てて、お前達を包囲しているぞと圧力をかけているのだろう。幾つもの気配が素早く走り回っているのは感じ取れるが、敵の群れはいまだ姿を現さなかった。
「————中嶋君、後ろは任せて大丈夫?」
「えっ、うん、大丈夫だよ。両サイドにはタンクもいるし」
すでに立ち止まった芽衣子は、振り向かずに前を見据えたまま、殿を務める中嶋へと声をかけた。
思わぬ呼びかけに、ややどもりながらも応えた中嶋であったが、彼とて一端の魔法剣士である。頼りない雰囲気とは裏腹に、炎と氷の双剣を構える姿には隙がない。
「蘭堂さんは、みんなの守りと掩護をお願いね。葉山君は……えっと、無理しないでね?」
「俺だけ期待されてない!?」
「まぁ、双葉はお前の力も知らねーしな」
だからこそ、この機会にお互いの力を知って欲しいという小太郎の差配である。芽衣子とリライト、方向性は違うが、二人とも心から信頼する仲間なのだから。
「で、双葉、アンタは?」
「私はボスをやるよ」
大盾とハルバードをどっしりと構えた芽衣子から、薄っすらと赤いオーラが立ち昇る。不退転の意思を感じさせる、堂々とした仁王立ちの彼女に対抗するかのように、群れを率いるボスもゆっくりと茂みを割ってその姿を現した。
グルルル、ルォオアアアアアアアアアアアアッ!
森に轟く咆哮は、三つの響きが重なり合っていた。
三匹ではない。首が三つあるのだ。
「お、おいおい、アレってもしかして、ケルベロスってヤツかぁ!?」
オルトロスに似ている、とリライトの感想とは別に、芽衣子は思った。
巨大な狼型のモンスターだ。一つの体で三つの首を持つその姿は、いつか蒼真パーティが倒したというボスモンスターのケルベロスと一致する。
しかし、その色は異なっていた。黒に近い濃いグリーンと、淡いエメラルドが、グラデーションとなった緑の毛色をしている。
その色合いと、咆哮と共に迸る強烈な突風から、風属性を司っているのは明らかだった。炎のケルベロスが原種だとするならば、こちらは風の亜種といったところか。
ボス部屋に繋がれていないケルベロスは、この森においては強大な狼の長として、数多の配下を率いるに至ったようだ。
ウォオオオオーン! オオォオオオオオオオオオオオオン!!
圧倒的な巨躯を誇るボスの登場に合わせて、周囲から一斉に狼の遠吠えが上がる。
それは正に、この森の新たなる王を称えるかのよう。
「幸先がいいね。いっぱいコアが捕れそうだよ、小太郎くん————」
「……なぁ、蘭堂さぁ」
「あん?」
「上田とか、芳崎とか、ああいう系の天職授かった奴って、化け物だと思ってたんだよな」
「ああー、修行とか言って、遊ばれてたよねアンタ」
手も足も出ないとは、正にあのこと。リライトは剣士や戦士といった、近接戦闘系の天職の強さを初めて味わい、体で理解した。アイツらには逆立ちしても勝てないと。
上田の剣は目にも留まらぬ速さだし、芳崎はあの細腕で凄まじい怪力を発揮していた。山田に至ってはコイツ石像かよと思うほど、硬さと重さを感じた。中嶋にしたって、華麗な剣技と多彩な魔法を操る姿が、羨ましくてしょうがない。
「けど、本当の化け物ってこういうことを言うんだな」
戦々恐々と目の前で横たわる、見るも無残なグリーンケルベロスの亡骸を見つめてリライトは言った。
両者の戦いは、あっという間に決着がついた。
動き出したのは、ほぼ同時だったと思う。獰猛な牙を剥いて、三つものアギトが襲い掛かる。だけではない。無数の真空の刃を含んだ突風を浴びせかけ、範囲攻撃も同時に行っていた。
対して、芽衣子は風の刃を真正面から浴びても、怯むことなくハルバードを振り上げ踏み込んで行き、一閃。
最初の一撃、ハルバードの振り下ろしで、ケルベロスの真ん中の頭を断ち切った。明らかに斧の刃よりも大きな裂傷が走り、脳天から縦に真っ二つ。
頭一つを潰されても、怯むことなく芽衣子を左右から狼頭が襲い掛かるが、左手にした大盾をその口に叩き込んだ。
牙を砕き、舌を押し退け、口腔を砕いて、超重量の黒鉄の大盾はその先の脳まで圧し潰した。
盾を鈍器と化して二つ目の頭を潰した後、最後に残った頭を迎え撃ったのは、素手である。
一つ目の頭ごと、深々と地面に縫い留めたハルバードを引き抜いて振るうよりも、手を離して拳を振るった方が早いとばかりに、芽衣子の黒い魔力が渦巻く拳がケルベロスの頭を打った。
キャイン! と情けない声を上げて怯んだのが、致命的な隙となった。
次の瞬間には、上顎に両手と、下顎に足を、それぞれ芽衣子がかけていた。
「えい!」
やけに可愛らしい掛け声と同時に、ケルベロスの頭が裂けた。人間を丸飲みできそうな大口を、素手でこじ開け、顎は外れ、それでも勢いは止まらず上顎から力任せに引きちぎられた。
三つ目の頭が首の半ばまで引き裂かれたことで、全ての頭部を失ったケルベロスは倒れた。
最初から最後まで、リライトは瞬き一つすることなく見届けたはずだが、自分でも何を見ていたのかよく分からなかった。
ただ、双葉芽衣子の天職『狂戦士』がどういうものなのかは、理解できた気がした。
「双葉さん、マジぱねぇな……俺も頑張ろ」




