第329話 最後の学級会(4)
「————ふっざけんなよぉ、桃川ぁ! テメぇ、いい加減にしろやこのビチグソがぁっ!!」
怒りの叫びと共に、小鳥遊が立ち上がる。
同時に、僕も叫んだ。
「撃てぇ、杏子っ!」
「————『破岩長槍』っ!」
ずっと構え続けていた杏子の黄金リボルバーから、迷いなく上級攻撃魔法が放たれた。
彼女は、まだ人を殺したことはない。いくら小鳥遊が黒幕とはいえ、抵抗はあるはず。それでも、この状況下に置いて真っ先に攻撃を加えられるのは杏子しかいない。
最悪、撃つのを躊躇しても仕方がないと思っていたが、彼女は僕の期待に答えてくれた。
放たれた『破岩長槍』は、生身の人間など直撃すれば一瞬でミンチにできる強力な攻撃魔法だ。小鳥遊小鳥という非力な少女を殺すには過剰な威力。
オーバーキル確実の大きな石の杭による一撃はしかし、
「止まれぇえええええええええっ!!」
中空でピタリと石杭が止まる。
高速で飛来する推進力と、高速回転しているはずの砲弾は、全ての運動エネルギーが停止した。
一体、どういう理屈で停止した石の塊が浮いていられるんだと思っている内に、重力の存在を唐突に思い出したかのように、ガランと音を立てて床へと落下していった。
「く、そ……これが、本気の『神聖言語』かよ……」
「止まれ、そして、ひれ伏せ。身の程知らずのクソザコモブ共が」
ガクン、と僕の体が自然と膝を屈する。
体が言うことを聞かない、というよりも、上から無理矢理に押さえつけられているような感覚だ。
重力魔法とかで地に這いつくばるのって、こんな感じなんだろうか。
「どう、これが小鳥の本気。『神聖言語「天界法15条・調停者特権第1項」』は、あらゆる戦闘を止めることができる。つまり、小鳥にはどう足掻いたって、お前らはカスリ傷一つつけることはぁ、できねぇーんだよぉ!」
きゃはは、と甲高い耳障りな笑い声をあげる小鳥遊。
だが、そう調子に乗るだけはあるようで、見事に全員の動きを止めている。
ちくしょう、これはマジで本物のチート能力じゃないかよ。『神聖言語』ってスキルレベル上げたら、ここまで破格の効果が出るのか。
「ったく、人が黙ってたらベラベラと、いい気になりやがってよぉ。これで私を追い込んだつもりかぁ? 調子こいてんじゃあねぇぞ桃川!」
はい、その通り。完全に追い込んだと思って、調子に乗っておりました。
いやぁ、まさかこんな状況でキレて本性現わすとは思わないよ。このまま完全に拘束して完封するはずだったのに。
「み、見たかよ蒼真君……これが小鳥遊の本性だ」
「嘘、だろ……これは一体、どういうことなんだ、小鳥遊さん」
「ふふ、どうもこうもないよ、蒼真くん。だってぇ、桃川があんまりにもムカつくからさ、心の広ぉい小鳥でも、キレちゃうよこんなの」
いつも蒼真君に見せる無邪気な笑顔で、そんなことを平然とのたまいやがる。
どうやら、もう猫を被るのも止めたようだ。
「小鳥遊、お前、もう蒼真君の心を操る準備もできてるのかよ」
「だからぁ、そーいうところが、一番嫌いなんだよね」
正解を言い当てられて、大層不機嫌そうな表情で、膝を屈した僕を見下ろしてくる。
でも『イデアコード』なんて人心を惑わず邪法なんて持ってんだから、予想できて当然だろう。
僕は絶対、お前が正攻法で蒼真君を攻略するとはハナから思ってなかった。お前の性格からいって、最終的には蒼真君を自分の意のままに操れるよう洗脳することを目指すはずだ。
恐らく、それは奴の思惑通りに事が進んで、最後の二人きりになった時にするものだろうと予想していたのだが……
「でも、もういいや。死ねよ、桃川。お前は、あまりにも小鳥の、偉大な女神エリシオンの意思を、邪魔しすぎた。その罪深さを思い知れ、『天罰刑法4条・追放刑』————」
「ぐっ……が……ぁあああああああああああっ!!」
獣のような雄叫びが響く。
全てが止められた空間の中で、動き出す人影が一つ。
「うわ、メイちゃん、動けるのか」
錆びついたロボットみたいにぎこちない動き。けれど、メイちゃんは一歩、また一歩と踏み出し、小鳥遊へ向かって歩き出した。
その手に、絶対の殺意を宿した黒鉄のハルバードを握りしめて。
「はぁあああっ!? な、なんで動けんだよコイツ! 止まれ! 止まれよ、止まれっつってんだろぉ!!」
流石に全力を発揮しているらしい『神聖言語「天界法15条・調停者特権第1項」』とかいう大仰なスキルでも、メイちゃんの動きを止めきれないことに小鳥遊は動揺している。
あっ、もしかしてお前……隠し砦生活の中で、メイちゃん相手にソレ使いまくったんじゃないの? 多分、耐性スキルとか獲得したんじゃないだろうか。
「頼む、メイちゃん! 早く小鳥遊を————」
「ぉおおおおおおおおおっ!」
メイちゃんも動くだけでも苦しいのだろう。歯を食いしばり、修羅のような表情で絶対停止の力で満ちる空間を、止まることなく突き進み続ける。
見ろよ、蒼真君。みんなが動けない絶望的な状況の中でも、たった一人で敵を討ちに立ち向かっている、今のメイちゃんこそ勇者に相応しい姿じゃあないかい。
「とっ、止ま、らない……くそ、くそぉ! なんとかしろぉ、明日那ぁあああああああっ!」
「こ、小鳥……」
「守れぇ! 小鳥を守れっ、明日那ぁ!!」
「私は……小鳥を……守るっ!」
守るっ! じゃねぇよこのボケ! どう見ても本性現わして黒幕確定しただろうが!
果たして『イデアコード』で操られたか、それともガチで素なのか、剣崎明日那は神聖言語の戒めから解き放たれ、敢然と立ち上がる。
「開けっ、『拡張空間・第三階梯』!」
剣崎のすぐ傍に、白く輝く魔法陣が浮かび上がると共に、その内より二振りの剣が現れる。
ちいっ、空間魔法まで持ってやがったか、小鳥遊め。
「邪魔をっ、するなぁああああああああ!」
鈍い動きのまま、立ち塞がる剣崎目掛けてハルバードを振るうメイちゃん。
「ふっ、双葉ぁあああ! うぉおおおおおおおおおおおおおっ!」
対する剣崎は、小鳥遊から与えられた予備の剣を握り、メイちゃんの進撃を食い止める。
「ははっ、あはは! そうだよ明日那ちゃん、小鳥を守って。そのままクソブタ女を止めててよ!」
この場で唯一動けるメイちゃんを食い止めることに成功し、小鳥遊は笑い声をあげてはしゃぐ。
けれど、剣崎をけしかけたせいか、僅かに体が動かせるようになった……気がする。
希望的観測だが、小鳥遊も『神聖言語「天界法15条・調停者特権第1項」』でここにいる全員を止めるのは、ギリギリの精一杯なのではないだろうか。
だとすれば、さらに他に力を割くようになれば、この拘束も緩んでいくはず。
「おい桃川ぁ、なんだその生意気な面は? まぁだ勝機があると思ってんのかぁ? ちょこっと動けそうになったくらいで、勝てるなんて思うんじゃねぇよバァーッカ!」
プルプル震えながら必死で動こうとしている僕を指さして、小鳥遊は嘲笑う。
「小鳥がここに来た時点で、もう勝ちなんだよ。お前が必死こいてクソゴーマ共を残らず駆除してくれたお陰でぇ、セントラルタワーに楽に辿り着けたんだから」
両手を広げ勝ち誇ったように言いながら、小鳥遊は踵を返す。
奴の向いた先にあるのは、オーマの玉座。いいや、その先にある、セントラルタワーの正面入り口となる、閉ざされた巨大な門だ。
「さぁ、開け。新たな管理者様の着任だよ」
『————シンクレアコード、認証。ようこそ、アルビオン中央政庁へ』
綺麗な女の声のアナウンスが響き渡ると共に、ゴウン、と門が稼働を始めた。
「管理者、だと……まさか、お前……ダンジョンマスターになるつもりかっ!?」
「うふふ、言ったでしょ? 小鳥はね、女神様に選ばれたの。選ばれなかった劣等種のお前らとは、格が違う尊い存在なの」
僕へと振り返った小鳥遊が、微笑みを浮かべて言い放つ。
奴はゲームマスターとはいえ、完全に自由自在にダンジョンを操れるワケではなかった。それなり以上の制約があったからこそ、基本的には無力な足手纏い系少女を演じて黙ってクラスの破滅を見守るスタンスをとっていた面もあるだろう。
だがしかし、この明らかにダンジョンそのものの管理機能を有する中枢機関を掌握するようになれば……正に、この場所の全てを意のままに操るダンジョンマスターの誕生だ。
「だから、お前らみたいなゴミクズの命なんて、小鳥の掌の上。今度こそ神様のシナリオ通りに、みんな、みぃーんな、殺してあげる。『勇者』を覚醒させるための、立派な生贄になってね?」
きゃははは! と耳障りな高笑いを響かせて、小鳥遊は開かれたセントラルタワーへと向かう。
恐らく、あそこに一歩でも入ったら、管理者権限が承認される。
必要なアクセスコードの類は、最初っからクソ女神に与えられているのだろう。
奴はただ、この場所に辿り着きさえすれば、ダンジョンを操る全ての能力を手にすることができたのだ。
これも勇者覚醒のシナリオを全うするために与えられた、選ばれしゲームマスターの権限かよ。
「ま、まずい……止めろ、小鳥遊を……」
「あはははは! 無理無理、無理だよ! もう小鳥は誰にも止められな————」
「————行っけぇ! 『招雷』ぃいい!」
「ぴぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
バチコーン! とけたたましい雷鳴と共に、割れんばかりの絶叫が小鳥遊から轟いた。
一瞬、迸った紫電の輝きが、悠々と笑いながら歩き出した小鳥遊に直撃したのだ。
それを放ったのは、膝を突きながらも、スマホを握りしめた右腕を突き出す、一人の男子。
「葉山君!?」
「桃川ぁ、精霊だっ! 精霊の力は、この止まる力ん中でも、止まらねぇ!!」
そうか、精霊は『神聖言語』の停止効果の対象外なのか!
ということは、精霊ってのは女神エリシオンの力が及ばない、全く別の概念、根本的に異なる存在なのだろう。
よく気づいた。いや、『精霊術士』の葉山君じゃないと気づけない。僕らじゃそもそも、精霊の力を意識的には使えないのだから。
けれど、今はそれをやるしか方法はない。
「杏子ぉ! 土精霊の力だけで、撃って!」
「う、おおぉ……頼むぞ精霊、あの腹黒女をぶち抜けぇ————『石矢』っ!」
ギギギ、と音がしそうなほどの硬い動きでリボルバーを構えた杏子。
その銃口には魔法陣ではなく、ただオレンジ色の輝きがぼんやりと灯り————そして、甲高い音と共に石の弾丸が発射された。
「ちっ、外れた。おい精霊、しっかり狙えよアホぉ!」
残念ながら、キィン! と音を立てて小鳥遊の転がる左方数メートルの床に着弾し、攻撃は外れてしまった。
土精霊の力だけで撃ったのは、初めてのぶっつけ本番だ。照準も制御も甘くなってしまうのは仕方のないことかもしれない。
杏子は震える手でリボルバーを向けながら、再度、攻撃しようと再び土精霊の力の証である光を輝かせていた。
「い、痛ぃい……なんでこんな、酷い、酷いよぉ……」
葉山君のスマホにチャージされた雷精霊による『招雷』が直撃し、床に倒れ込んだ小鳥遊がガチ泣きしながら、よろよろと蠢いている。
やはり能力がチートなだけで、本人は打たれ弱い。しかし、戦わないくせに装備だけは万全にしていたか、奴の制服がブスブスと黒焦げになっているだけで、生身の方は大きな火傷を負った様子は見られない。
「もう一発だ、喰らいやがれ————」
「うっ、うううぅ……よくもやりやがったなぁ、葉山ぁああああああああ!」
涙を流しながら絶叫する小鳥遊。
構わずスパークを散らすスマホを向けた葉山君に対し、小鳥遊も手元に空間魔法の光が瞬くと共に、何かを握っていた。
な、なんだアレは、まさか銃なのか!?
「『招雷』ぃ! って、うぉおおおっ!?」
「死ねぇ、葉山ぁ! そもそもテメぇはなんで生きてんだよ! 死んでろよ、テメぇは、死んでなきゃおかしいだろうがぁ!!」
小鳥遊が怒りに叫びながら、右手に握った小型のハンドガンみたいな武器を連発した。
リアルの拳銃、というよりは白い金属のような光沢をもつ謎の材質と薄っすらと青色の発光パーツがあることから、SFのレーザー銃みたいな感じだ。
実際、その銃口から発射されているのは、青白い輝きの『光矢』みたいなビームである。幸い、威力も性能も『光矢』と同程度に見える。
恐らく、潜伏していた隠し砦でこっそり回収した、古代の武器なのだろう。魔力のビームを放つ、ブラスターと言うべきか。
「ちいっ、そんなもんまで隠し持ってたのかよ」
さらに厄介なのは、奴の装備がブラスターだけではないことだ。
腕時計のように左の手首に、いつの間にか見慣れない腕輪があることにも気づいた。ブラスターと同じく、白い金属に青白い発光パーツ付き。
そして、確かに葉山君が放った二発目の『招雷』が、その腕輪から展開された青白く輝くシールドによって、阻まれたのも僕は確かに見た。
間違いなく、あの腕輪も古代産で、『光盾』を張る程度の防御装備なのだろう。
「プグゥウアアアアアアアアアア!」
「うおおっ、き、キナコぉ!」
いまだに『神聖言語』の効果範囲にあって、動きが硬直状態にある葉山君に襲い掛かる小鳥遊の乱射ビーム。
それを、身を挺して防いだのは、やはり一番の相棒たるキナコであった。
強制的に停止させる力の影響下にあっても、のっそりと這うように動いて、そのずんぐりした巨躯で葉山君の盾となる。
バシュバシュ! と音を立てて幾つかのビームが着弾し、キナコの毛皮を焼き焦がす。
「プグゥ! プガァアアア!」
「やめろキナコ、無茶すんじゃねぇ!」
「撃て、葉山君!」
「くっそぉ、小鳥遊ぃいいい!」
キナコが盾となったことで、葉山君がさらに奮起する。
掲げるのはスマホに加えて、穂先にチラチラと火の粉が散るレッドランスだ。
「頼むぜ、火と雷の精霊達! 俺に力を貸してくれぇーっ!」
弾ける紫電と、迸る火炎が、二筋の奔流と化して小鳥遊へと襲い掛かる。
「うううぅ……く、くっそぉ、何が精霊だよぉ、何で止まらねぇんだコイツらはぁ!」
小鳥遊の腕輪が激しく明滅しながら、光のシールドを必死で張っている。
シールドに阻まれ、雷も炎も完全に防がれているようだが、あまり余裕がありそうではない。
「————『石矢』!」
「いいっ、痛だぁああああああああああああああああっ!?」
そこで、横合いから飛んで来た杏子の一撃が、ついに小鳥遊を捉えた。
シールドは一枚の盾のように展開されており、結界のように全方位は守れない。多分、今広げているのが展開範囲の最大限度だろう。
立ち位置が幸いした。ほとんど真横から、杏子は小鳥遊を狙い撃てた。
その一撃は直撃こそしなかったが、顔の真横を飛んで行き、石の弾丸は奴の頬をかすめて少々の鮮血を散らす。
「あああああっ、か、顔ぉ! 小鳥の顔がぁ!?」
「今更ぁ、テメーの面がなんだってんだよぉ! 次は脳天ぶち抜いてやるよっ、オラぁ!」
「なっ、舐めんなよぉ、頭空っぽの乳だけヤンキー女がよぉ!」
杏子が構えるリボルバーに対し、小鳥遊もブラスターを向けた。
まずい。杏子もさっきの葉山君同様、その場で動けず棒立ち状態。遮蔽物はなく、キナコのようにカバーできる仲間もいない。
「お願い、蘭堂さんを守って————『氷精霊召喚』っ!」
その時、動いたのは委員長であった。
握りしめた白い杖の先が青白い魔法陣を描き出すと、そこから雪だるまのように丸い体のずんぐりした奴らがゴロゴロと出でる。
とても強そうには見えない雪だるま達であったが、見かけに反して素早く杏子の元まで転がって行き、その体の大きさを活かして彼女の盾となった。
小鳥遊の放ったブラスターは、一発で雪だるま精霊の体の半ば以上を消し飛ばす。高い熱量を誇るビームを受けるには、雪の体では耐久性に劣るようだ。
だが、それでも一体あたり二発は耐え抜き、杏子を攻撃から守り続けた。
「それ以上は、させるかよ……」
今まで僕がただ黙って、精霊の力で攻撃できる葉山君と杏子だけに任せていると思っていたか。
僕だって必死に頑張ってんだ。この土壇場で、今まで試した事も、試そうと思った事もない方法を、ぶっつけ本番でチャレンジ。
幸いと言うべきか、あるいは、これぞルインヒルデ様のご加護か。手ごたえは、すでに感じている。
「頼む、そこにいるのなら、応えてくれ。闇の精霊よ、僕の代わりに、髪を結え————『黒髪縛り』」
僕にとって、最も馴染んだ呪術。
息を吸うように生やせる呪術だけれど、今はその発動も、制御も、全てを闇精霊に委ねる。
やはり、この期に及んでも僕には精霊の姿は見えないけれど……確かに、感じた。
「そうだ、行けぇ!」
黒々とした影が小鳥遊の足元に落ちると共に、そこから勢いよく黒い髪の束がドっと噴き出した。
「なっ!?」
と、驚愕の表情を浮かべる小鳥遊、そのブラスターを握る腕を、まずは黒髪の触手は捉えた。
杏子に向けられていた照準は、強引にあらぬ方向に逸らされ、無意味にビームが放たれていく。
それは最後の雪だるまが崩れ落ちるのと、ほぼ同じタイミング。ギリギリで間に合った。委員長、ナイスフォローだったよ。
「小太郎ぉ!」
「撃て、撃ち続けるんだ、杏子! なんとしても、小鳥遊をこの場で仕留める!」
「んもぉ、もぉかわぁあああ! テメーはどこまで、小鳥の邪魔を————んごぉお……」
締める。
黒髪を小鳥遊の細い首に絡ませて、とにかく締めつける。『黒髪縛り』で相手を殺す、ほとんど唯一の方法だ。
どうやら、闇の精霊はこの呪術の使い方をよく心得ているようだ。それとも、僕の指示に従ってくれたのか。
「よっしゃあ、行くぜ、このまま押し切るぞ!」
「しっかりブチ当てろよ、土精霊!」
葉山君と杏子の波状攻撃が小鳥遊を襲う。
「んぎぎぎ……ぴっ、ぎぃいい……」
奴は僕の黒髪に首を絞められて無様な苦痛のうめき声を上げながらも、必死に抵抗して腕輪シールドを振りかざし、両者の攻撃を辛くも凌ぐ。
だが、それももう限界だ。
シールドで防ぎきれず、二人の攻撃が直撃するか。それとも、このまま絞殺されるか。
『神聖言語』の戦闘停止能力が及ばない精霊による攻撃に晒され、ついに小鳥遊は追い詰められた。
あと一歩、もうあと一分も、奴はもたない。
殺す。
ここで、必ず殺し切る。
この黒幕女をぶち殺して、僕らは今度こそ、みんなでこのダンジョンを脱し、外の世界へ————
「た……助けてぇ……蒼真、くぅん……」
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
瞬間、真っ白い光が、僕の視界を焼いた。
2021年12月31日
今年最後の更新となります。ちょうど山場のシーンですので、多くは語りませんが・・・強いて言えば、桜ちゃんは『光精霊召喚』が使えます。委員長と同時期に習得していました。
それでは、次回もお楽しみに!
今年も『呪術師は勇者になれない』にお付き合いいただき、ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。




