第317話 王国の最期(2)
「————美波から連絡が来たわ。みんな、行きましょう」
委員長がスマホを仕舞いながら、真剣な表情でそう言った。
「涼子、一体何が起こっているのですか」
「私が説明するより、見た方が早いわ」
「ですが……兄さん、本当にこれで良いのですか」
「もう決めたことだ。委員長を信じよう。みんなも、それでいいな」
全員、頷きはしてくれるが、その表情は困惑の色が強い。
それもそうだ。俺自身、一体どういう状況になっているのか全く分かっていないので、不安な気持ちが大きい。それでも、委員長の作戦を信じると決めたのだ。
俺はあの日、委員長から言われた通り、作戦の詳細を聞かずに協力することを約束した。あの後、俺の方からみんなを説得して、今回は委員長に全て任せようと、ひとまずは納得してもらったのだ。
結局、彼女の真意は何も分からないまま、今日という日を迎えた。委員長はただ、今日が王国を攻める準備が整う日なのだと、そう俺達に言うだけだった。
夏川さんだけが単独で王国の様子を見に行き、作戦通りに事が進んでいるかの確認を行っている。俺達は隠し砦から通じる地下道を通って、王国に最も近い出入口で待機していた。
どうやら、作戦は順調に進んだらしく、いよいよ王国へ攻め込む時が来たと委員長は断言している。
ここにいても、王国の方から何か物凄い轟音が聞こえてきたから、何かが起こったことは間違いない。けれど、それが何なのかを委員長はいまだ語ろうとはしなかった。いや、単純に王国がどうなっているのか、これから出向いて見れば分かることだ。
覚悟を決めて、行くとしよう。
準備は整えてきた。王国を突破しセントラルタワーへ突入を果たした後、最後の目的地である天送門を目指すために、攻略用の装備と物資もしっかり持ち出してきた。だから、ここから先は自分自身の目で見極めよう。
「みんな、こっちだよ!」
静かに、素早く森を駆け抜け王国の近くにまでやって来ると、夏川さんがこちらに向かって手を振って呼びかけていた。
「美波、大丈夫?」
「うん、全部作戦通りだよ。ちょっと、信じられないくらいに……」
委員長も改めて、王国の状況を目にした夏川さんに確認をしている。
目の前に聳え立つ高い石垣。その向こう側からは、濛々とした噴煙が幾つも立ち上っており、尋常な様子ではないことがすでに伺える。
しかしながら、静かだ。あまりにも静かすぎる。
王国内で何か大きな破壊活動などが行われたというならば、そこに住む万単位のゴーマ達が騒がないはずがない。まして奴らは俺達を警戒してか、警備も厳重に固めている。ちょっとした事でも、ゴーマ兵がハチの巣をつついたような大騒ぎをするはずなのだが……ほとんど奴らの気配を感じない。王国は不気味なほどに、静まり返っている。
「それじゃあ、行きましょう。悠斗君、まずはあの門を破壊してもらえるかしら」
「そんな正面から堂々と行って大丈夫なのか? 確かに、全く敵の気配はしないが……」
「大丈夫だよ、蒼真君。北門には、もうゴーマは一体も残っていないから」
どうやら、本当にゴーマの守備兵は皆無らしい。夏川さんがそこまで保障するのなら、これ以上は心配の言葉を口にはするまい。
俺は『聖騎士の神鉄剣』を抜き、静まり返った北門の前に立つ。
「————『光の聖剣』っ!」
固く閉ざされた巨大な門を両断するべく、目いっぱいに力を込めて増大させた光の刃を振り下ろす。
相手は硬く巨大だが、決して動くことのない的に過ぎない。敵の邪魔も入らないとあって、全身全霊の一撃を難なく繰り出せた。眩い白い輝きが炸裂し、巨大な光の柱と化して破壊力を解放する。
ズズッ、ドドーン!
一拍遅れて、切り裂かれた門が地面へと倒れ込む音が響く。
そうして、ついに開かれた王国の門、その向こう側は————
「なっ、なんだコレは!?」
門の向こうには、何もなかった。
無数に張られたゴーマのテント居住地も、雑なオンボロ木造建築も、それどころか地面そのものが存在していない。王国を囲う巨大な城壁の内側は、丸ごと大地の底が抜けた超巨大な大穴と化していたのだ。
中へ潜入こそしたことはないが、偵察で外から内部の様子を眺めたことは何度もある。間違いなく、ここは無数のゴーマが住まう巨大な城塞都市だったのだが……この光景を見ると、全て幻だったかのように錯覚してしまう。
「涼子、これは一体……」
「ゴーマの王国の真下は、元々大きな空洞だったのよ」
「なるほど、タワー周辺はそういう構造だったのか」
「しかし、よくもここまでやったものだな」
ゴーマ王国という強大な敵勢力が壊滅したのは喜ぶべきことだが、この有様は想像を絶する。流石の明日那も、慄くような表情で底の見えない奈落を覗き込んでいた。
「す、凄いよ委員長! ねぇねぇ、どうやったの!?」
「王宮には例の石板があったから。小鳥に教わった通りに、美波が操作してくれたのよ」
「わっ、そうなんだ! 小鳥が役に立てたみたいで、嬉しいな」
古代遺跡の機能を利用すれば、確かにこんなことも可能なのかもしれない。もしかすれば、ゴーマが王国を築き上げた空洞の天井部分は、福岡ドームのように稼働できる構造なのだとすれば、それを動かせば地面丸ごと落とせるのは当然の結末だ。
この最下層のど真ん中は、エリア一帯を支配するなら最適の立地だが、実は巨大な縦穴の真上という最も不安定な場所だったということ。ゴーマではなくとも、そんなことには気づかずに、この場へ陣取ってしまうだろう。
「ともかく、これで王国ごとゴーマの大軍団も穴の底に落ちて壊滅したわ。残るのは、中央の要塞にいる奴らだけ」
「あのザガンと、他のギラ・ゴグマも全部落ちたから、残ってるのは王様のゴーマと、あとはゴグマくらいだよ」
「本当か、まさかザガンまで倒しているなんて」
しかし、いくら巨人になれても、いきなりこんな大穴に落とされてはどうしようもない。あまりにも崩落の規模が広すぎる。いざ崩れ始めれば、逃げ場などどこにもないだろう。
「これで私達だけでも、ようやく何とかなるくらいの数まで減らせたわ。この大崩落で、敵はまだかなり混乱しているはずよ。この機を活かして、一気に王宮まで攻め落としましょう」
「ああ、分かった。これは千載一遇のチャンスだ。逃す手はない」
みんなも同じ気持ちだろう。流石にここまで見事にお膳立てされれば、覚悟を決めて挑むより他はない。
全員、武器を手に気を引き締めて、ゴーマの残党がいる中央部へと向かう。
「ここ、本当に歩いても大丈夫なんですよね?」
「構造的には、南北を縦断するように太い柱が通っているそうよ。実際、こうして落ちずに残っているのだから、一番頑丈な骨組みなのでしょう」
「にはは、私の勘も大丈夫って言ってるから、ちょっとくらい戦っても落ちたりなんかしないよ」
崩落した大穴にかかる橋のように、北門から中央の要塞まで真っ直ぐ伸びる道だけがそのまま残されている。桜でなくても、こんな場所を歩けば不安にもなるだろう。
恐らく、心の底から大丈夫だと思って歩いているのは夏川さんだけ。委員長も理屈では安全だと理解はしているのだろうが、若干、顔色は悪い。
「むっ、悠斗」
「ああ、分かっている、明日那。どうやら、向こうの方から出迎えてくれるようだな」
道の向こう側から、隠すことなく強い敵意が感じられた。
前衛を務める俺と明日那、そして最も勘の鋭い夏川さんも、二本のナイフを引き抜き臨戦態勢だ。
敵がわざわざ出張って来たのは、こちら側の城壁がほとんど機能しないからだろう。中央に築かれた要塞は、綺麗に丸ごと残っているわけではない。5メートルほどの高さの城壁は、ちょうどその辺りが崩れ落ちるかどうかの境目となっており、ここから見える範囲でも半分ほどが崩れ去っていた。
穴だらけと化した城壁から自由に攻められるよりは、まだこの一本道で迎撃した方が良いと考えたのだろう。こっちとしては、後ろを守りやすくてその方がありがたい。
「桜、後ろは任せたぞ」
「はい、兄さん」
小鳥遊さんと双葉さん、二人の非戦闘員を守る最後の砦は桜になる。本来は委員長も後衛につくべきだが、もうこれだけしか人数がいない以上は、中衛となって戦闘に集中してもらう。
前衛は俺と明日那と夏川さんの三人だけ。正直、一体だけでも敵に抜けられると厳しいが、それでもこれで頑張るしかない。
装備は出来る限り最高の状態まで整えた。これほどまでに有利な戦況にもなっている。ならば、後はもう自分達の力を尽くして戦い抜く。
「さぁ、行くぞ。俺達は絶対、みんなでここを越えてダンジョンを脱出するんだ!」
「あっ、ああぁーっ!?」
俺が先陣を切って迫りくるゴーマ軍へ切り込もうと一歩を踏み出した、その矢先のことである。小鳥遊さんの叫び声が上がった。
「なんだ、どうしたんだ!」
「どっ、ど、どうしよう……大変だよぉ!」
振り向けば、半泣きでオロオロしている小鳥遊さんの姿が映る。いきなり、後ろから敵が現れて、という状況ではないうようだが、
「兄さん、まずいことになりました」
同じく状況を察したらしい桜が、表情をこわばらせながら言う。
「おい、一体どうしたって————ん、ちょっと待て」
パっと見た限りでは、異常はない。敵の姿もない。そう、敵はいないのだが……一人、足りない。
「双葉さんは、どこに行ったんだ?」
「それが……全く、見当たらないのです」
「どういうことだ!?」
あの目立つ長身の双葉さんの姿が、どこにもない。
落ち着け、俺が門を破壊した辺りでは、間違いなく一緒にいた。隠し砦から出る時も、彼女には今回ばかりは武器を持たせて、物資も背負ってもらった。大きなハルバードと盾を持ち、さらには大荷物まで抱えた双葉さんは、多少離れたところで見失うような姿ではない。
彼女は桃川の毒殺未遂の一件以来、正気を半ば失ったような状態だったが、決して一人でフラついて消えることはなかった。ちゃんとみんなと一緒について来ていたし、何の問題もなく行動ができていたはずだ。
だからこそ、だろうか。俺も、桜も、非戦闘員として後ろで一緒にいる小鳥遊さんも、双葉さんはいつも通りついて来ている、と思い込んでいた。
「えっと、気がついたらいなくて……どこではぐれちゃったのか、小鳥、全然分んないよぉ!」
「なんてことだ、急いで探さないと」
「悠斗! もう敵が来るぞ!」
鋭い明日那の掛け声に、俺は再び前を向く。
複数のゴグマを擁する、ゴーヴの軍団が道を歩いて来る姿がもうはっきりと目に見えるほどの距離にまで来ている。とてもじゃないが、人探しをしている余裕はない。
「仕方がないわ、まずは目の前の敵をなんとかしましょう。双葉さんは……王宮を制圧してから探す方が、かえって安全よ」
「……くそっ、そうするしかないか」
状況的に、双葉さんが俺達よりも前に出て要塞に突っ込んでいることはありえない。残ったゴーマは全員がここに立て籠もっていることを考えれば、外は安全でもある。できれば、隠し砦にでも戻っていてくれればいいのだが……ええい、今は戦いに集中しよう。
「お願いだ、無事でいてくれよ双葉さん————」
「さぁて、それじゃあ行こうか」
短いお昼休みだったけれど、みんなでゲン担ぎのカツサンドを食べて、補給も完了。
僕らは地下道から出て、再び王国へと向かう。
今回は真正面から、王国の玄関口たる南大門から堂々と入る。巨大な門は猛火に晒されたせいで、流石に焼け落ちている。門を取り付けている巨大な柱そのものが焼失したせいだ。
大きな鉄製の門が、黒焦げになって地面にバッタリと倒れている。そう、これだけ大きな金属の塊が落ちているのだ。有効活用させてもらおう。
「姫野さん、30秒で終わらせてね」
「えっ、時間制限とかあるの!?」
当たり前じゃん、のんびりしてられないよ。僕はさっさと右側の門扉へ向かい、ルーズリーフのスクロールを広げる。姫野は一歩出遅れて慌てながらも、僕と同じように左側の門扉へとついた。
スクロールに描いてあるのは勿論、『簡易錬成陣』である。
コイツで門扉をちょこっと弄れば、金属製の巨大盾の完成だ。
「32秒」
「そんなの誤差でしょ」
「柄をつけるだけで、30秒以上はかかり過ぎだと思うんだよね」
ちょこっと弄る、のちょこっと部分は盾として保持するための柄を生やすだけのこと。門扉の金属をそのまま捻りだすだけの簡単な加工である。
うーん、これでも一応、練習させたんだけどね。やっぱり、残業後に練習してもあんまり身にならないものか。
「また今度、しっかり練習すればいいよ」
「まだやらせる気なの!?」
そりゃあ、僕らの戦いはまだまだ続くし? でも今は目の前の戦いに集中だ。
「よし、しっかり僕らを守ってくれよ、タンク」
「ウゴゴゴ……」
言葉を理解しているかどうかは非常に怪しいが、それでも命令には忠実に従ってくれる召喚獣『タンク』が、それぞれ門の大盾を手にする。
補給は何も、消耗した物資の補充だけではない。陽動部隊として派手に散って行った召喚獣達もまた、再召喚して復活させている。流石に、スケルトンとハイゾンビの装備までは用意しきれなかったけど。
召喚獣フル稼働は僕の魔力的には結構キツいことになるけれど……きちんとコアと召喚陣を用意した儀式召喚をすると、自分の魔力消費は最低限まで抑えられるのだ。下準備と手間と時間が少々かかるので、戦闘中みたいな切羽詰まった時には使えない。それでも、事前準備ができる余裕さえあるなら、コアの魔力を利用できるのは非常に便利だ。
そんなワケで、タンクも三体フル召喚してある。
ゴグマ並みの巨体を誇るパワー特化の新たな召喚獣タンクだが、流石に何メートルもある巨大門を持ち上げるのは大変なようだ。それでも丸太のような太さを誇る両腕に、ビキビキと血管を浮かばせながら、見事に持ち上げてみせた。
うん、よくやった。これで守りは万全だ。
大盾持ちのタンクを先頭に、僕らはいよいよ王国へと踏み入る。
ちょうどその時、北の方角から白い光の柱が空へと立ち上るのが薄っすらと見えた。
「おい桃川、アレって」
「うん、蒼真君達も動き始めたようだね」
王宮攻略の段階からは、彼らにも協力してもらう。
勿論、委員長には僕の名前を出さずに、潜入した夏川さんが上手いことやった、ということにして蒼真君を騙す、もとい説得してもらうように頼んでおいた。果たして、委員長がどんな口八丁で誘導したのかは分からないけれど、ばっちりこちらの動きに合わせたタイミングで攻撃を始めてくれたので、上手く成功したようだ。
事情を知らずに僕の作戦に利用されるのは哀れだけれど、僕らの方が先に命を賭けて王国攻略に挑んだのだ。大切なクラスメイトが命賭けてるんだから、君らも命賭けで戦ってくれないと割に合わないよ。
「なんか、すげぇ光の精霊の気配を感じたぞ。アレが蒼真の力なのか?」
「そうだよ。如何にも勇者様っぽいでしょ」
「物凄い光の力が出てんのは分かるな。けど、普通の光精霊とは違う、妙な感じがするっつーか……」
葉山君が『精霊術士』だからこそ、違いが分かるのだろうか。勇者の力は、ただ強力な光魔法というだけではなさそうだし。
でも、彼の力の正体は今はどうでもいい。大事なのは、彼らが一端の戦力として機能することだ。
「これで敵の半分は、蒼真君側の対処に追われることになる。僕らに相対する敵も半減。少しくらいは、楽させてもらおうよ」
北側の要塞城壁はボロボロだ。そこを守ることを考えれば、僕らへ対処する以上の戦力を割かねばならないだろう。ただでさえ心許ない僅かな手勢を、さらに分割しなければいけないオーマの心情を思うと、泣けてくるね。
「それじゃあ、張り切って行こう。前進!」
残った柱が橋代わりとなって、南大門から要塞正面まで真っ直ぐに続く道を進む。
元々、大通りだったので道幅は十分ある。強いて障害物といえば、偶然ここにいて崩落を免れたスーパーラッキーゴーマがちらほらいるくらい。
「退け退けっ!邪魔だぁーっ!」
大盾タンクと、それに続く山田が路上に転がるゴーマを撥ね飛ばし、あるいは踏み潰して排除していく。ここにいるゴーマは逃げ惑っていた一般ゴーマとゴーマ兵くらいだから、戦闘力はあってないようなもの。でも邪魔だし目障りだから、掃除するに越したことはない。
そんな哀れな末路を辿る生き残り達を、オーマはわざわざ救出に出てくる気はないようだ。
「やっぱり、こっち側の城壁は丸ごと残ってるな」
反対側の北の方はかなり崩れているのを見たけど、僕らが攻める南側は無傷だ。この大通りの橋一本しか侵入路もないから、最寄りの崩れた場所へ迂回することもできない。
その地形上の有利をオーマは理解しているのだろう。僕らが堂々と姿を現しても、門を開いて打って出て来ることはない。無傷の城壁を利用して、そのまま籠城戦をするつもりか。
城壁の上には、今度こそ僕らを仕留めようと息巻いているゴーヴ兵達が弓を手にズラっと立ち並んでいる。中には、魔法の杖らしきモノを持った、やたらカラフルなローブ風衣装の奴らも混じっている。ゴーマの魔術師か神官っぽい奴だ。ゴーマ軍の中でも少数派のアイツらを引っ張り出して配置しているのだから、本当に切羽詰まっていると見た。
王国を囲む大城壁よりは低いとはいえ、要塞の城壁も同じく石垣で作られた頑強なもので、そこに十分な遠距離攻撃力を持つユニットを配置した。万全の迎撃態勢。
「あはは、大歓迎だね」
先手は向こう側。ゴーヴの膂力によって引き絞られた弓が一斉に放たれ、雨、とまではいかないけれどそれなりの量がまとまって降り注いでくる。勿論、火や氷やらの攻撃魔法も入り混じって飛んでくるが、大半はタンクが掲げる大盾によって防がれる。
このサイズの金属門扉を破壊しようと思うなら、弓なら桜井君並みの武技を、攻撃魔法なら上級以上じゃなければ無理だ。ただ発射しているだけの矢と、中級程度が幾つか、といった遠距離攻撃では、門の盾をノックするだけに留まる。いやホントに、頑丈だよねこの大門は。伊達に王国の正門やってないよ。
そうして奴らの攻撃をほどほどに浴びながら、僕らは防御態勢をとりつつ前進し続ける。大盾タンクに、ロイロプス一号、二号、共に頑丈な壁として機能する。反撃はしない。もう少しで、こちらの間合いに入るからね。
籠城側の防衛有利で、攻城する攻撃側は3倍の兵力がないと、とはよく聞くけれど、それは正攻法で攻める場合に限った話だ。元より寡兵の僕らが、正攻法で攻めるはずがないだろう。
「こっちはもう大城壁を乗り越えてきたんだぞ。この程度の高さで、止められないってまだ分からないのかな————上田君、芳崎さん、また頼むよ」
「投げるだけだから、さっきよりも楽だぜ」
「こっちは投擲スキル持ってんだよオラァ!」
大盾タンクを壁にしながら、上田と芳崎さんがそれぞれ鉄の槍を思いきり投げる。綺麗な弧を描いて飛翔した槍は、そのまま地面へと突き刺さる。
この槍の正体は勿論、『土魔法造成用鉄杭・突貫工事くん1型』だ。
「————『大山城壁』」
杏子の上級範囲防御魔法によって、ゴゴゴと大地がうなりを上げながら隆起を始める。
次々と投げられる『突貫工事くん1型』を支柱として、城壁を登る巨大な岩のスロープがゆっくりと、しかし着実に作り上げられていく。
「ンバッ!? ゼンダーヴァ!」
「ゴグガァ、ダゴゼグン!」
城壁に陣取るゴーヴ兵共が大騒ぎし始めるが、もう遅い。徐々に城壁上へと迫ってゆく大岩のスロープに攻撃を試みているようだが、その程度で上級魔法を止めることはできない。というか、発動した魔法を止めるのってかなり難しいんだよね。
恐らく発動中の術式そのものに介入できないと、魔法をキャンセルするような効果は出せない。魔法を防ぎたいなら、完成した後に飛んでくる攻撃を避けるか防ぐか、壁が造られるならソレを直接壊す方が手っ取り早い。
つまり、お前らは一級土魔法建築士である蘭堂杏子様の攻城用スロープが完成するのを、指をくわえて見ているしかないってことだ。
「よっし、完成。小太郎、出来たぞぉー」
匠の技が冴えわたる、完璧なスロープが完成した。見てください、このゴツゴツした不揃いの表面。足を引っかけて転んでしまいそうなデコボコだけど、荒削りの武骨さは頑丈な証拠。
巨大な岩の坂道が見事に城壁上までかかり、これ以上ないほど楽な突破口が開いた。
「突撃」
「ウゴゴ……ウボォアアアアアア!」
雄たけびを上げて駆け出すのは、まずは大盾タンクの二体。そのすぐ後ろに、三体目のタンクと、レムのミノタウロス。そして、ありったけ出したスケルトンとハイゾンビが続く。
「ブモォアアアアアアアアアアッ!」
「ダーガバァ! ゴンブガ、ドッバァアアーッ!」
一気に城壁上まで乗り込んだ召喚獣の捨て駒切り込み隊が、射手ゴーヴへと襲い掛かる。瞬く間に敵味方の入り乱れる乱戦と化す。
スケルトンとハイゾンビは流石にゴーヴ相手だと倒されてしまうが、構うものか。
貴重なボス級コアは爆弾につぎ込んだのでもうないけれど、普通のコアならまだまだ沢山ある。コアのある限り増員を補充して戦力を維持し続けられる。
「桃川、俺も行かせてくれ」
「うん、大丈夫そうだから、このまま一気に城壁を制圧しよう」
山田の進言を受けて、僕らも城壁へと乗り込む。
後は東門に陣取った時と同じく、城壁を利用して高速で防衛陣地を構築。簡易的な岩の砦が完成すれば、攻城戦は一転、壁の上に陣取るのは僕らとなった。
攻守逆転。ゴーマ共は、不利と分かっていながらも僕らの砦を攻めるより他はない。
それとも、要塞を放棄して王宮まで下がって立て籠もるかい? あそこはお前らの知らない抜け道だらけだ。あんなところに陣取るなら、この要塞の方がまだマシだよ。
まぁ、どうするかはオーマの自由だ。僕らは砦の防御を活かして、このままゴーマ軍を削って行くだけだ。蒼真君の北側攻勢も順調な模様。このまま戦い続ければ、遠からず戦力比も逆転するだろう。
ふふん、勝ったな。




