第313話 ゴーマ王国攻略戦(5)
「————あるじ、やられた」
「そっか、全滅?」
「ぜんめつ……めつめつ」
まぁ、こうして幼女レムを再召喚している時点で、そういう状況なのはお察しだが。
「ねぇ、ちょっと陽動部隊が潰されるの早くない? 大丈夫なの?」
あからさまに不安そうな表情を浮かべながら、再召喚のせいで全裸状態なレムの着替えを手伝っている姫野が聞いてくる。
あのさぁ、ここで僕が「大丈夫じゃない」って言ったらパニック確定じゃん。不安かもしれないけど、部隊が崩壊しそうな危険性に繋がる質問とか安易にして欲しくはないな。
現在、僕は姫野と一緒にロイロプス一号車に搭乗し、車内でレムの再召喚を行った。限界ギリギリまで消費していた制御力がほぼ元通りに戻ったならば、それは制御していた体が消え去ったことに他ならない。
陽動部隊は早くも出張って来たギラ・ゴグマによって、あっという間に壊滅させれてしまったのだ。
「大丈夫、むしろギラ・ゴグマ三体も一気に釣れたんだ。陽動の役目は十分以上に果たされたよ」
陽動部隊とはいえ、絶対にそっちに食いついてくれるとは限らない。地味に今回の賭けになった部分その2である。
オーマは目玉の使い魔でそれなり以上の状況を確認できる。それでいて、しっかり伝令兵を走らせて自分の下に前線の情報が上がるような体制も構築しているのだ。奴が戦況を見ているならば、陽動部隊の方へ先に手を打つよう仕向けるような工夫くらいはしておいた。
僕ら本隊とレムの陽動部隊は、ほぼ同時に破壊活動を始めたように思えるけれど、実は陽動の方が先に動くよう調整している。本隊は南大門へ向かう間は、進路上の一般ゴーマを殺し、市中警備の小隊を蹴散らしながら、進むことを優先した。道すがら放てるだけの火は放ちはしたけれど。
一方の陽動部隊はとにかく派手に暴れ回りながら、市場通りを西に向けて進ませた。数だけは揃えた捨て駒軍団達は、松明と油を手にさらに街中へと散って行き、そこら中に火を点けまくる。
空から僕らの破壊活動を見た時、陽動の方が被害規模は大きく、早い。単純に、パっと見で人数が多いのも陽動部隊の方だし。何より、ただのスケルトンでも『虚ろ写し』によって人間に見えるようにしてあるのだ。すでにギラ・ゴグマを二体も失ったのだ。人間の数が多い方を絶対に警戒する。逆に大半がスケルトンだと見破られていれば、本隊を狙われた可能性が高いが……陽動側にギラ・ゴグマ三体を擁する主力部隊を差し向けた以上、それも杞憂に終わったよ。
ともかく、オーマなら絶対に本隊と陽動の規模を見抜いた上で、確実に戦力を集中して各個撃破を狙うと思った。アイツはただ敵が現れた順番に、場当たり的に兵力を逐次投入していくなんていう愚策は決して侵さない。
本隊と陽動部隊の二つが存在するなら、残り四体となったギラ・ゴグマを二体ずつに分けてそれぞれに差し向ける、という判断は必ず避ける。だって二体が同時に討たれているんだからね。向かわせた全員が撃破される危険性をオーマは理解している。
だから、奴が大戦士を繰り出すならば三人以上を出すと踏んだ。そして、それだけの主力が陽動部隊に向いてくれれば、僕らの安全は保障される。
けれど、レムの善戦虚しく陽動部隊が殲滅された以上、今度はこちら側へと急行してくるだろう。
「でも大戦士はやっぱり規格外の強さだよ」
「えっ、見たの?」
「なんとか見えた」
最初に王国に潜入させた『双影』って、まだ王宮内に潜んでいるからね。隠し通路を這いずり回って、街が一望できる場所から顔を出して偵察させておいた。お陰で結構、敵の動きが分かる。現在進行形で拡大中の、大火災の規模もね。マジで火の海ってこういうことだよ。
「残りのギラ・ゴグマの巨人化を見れて良かった」
僕はバズズしか巨人となったギラ・ゴグマの姿は目撃してはいないけれど、どうやらザガンと比べて姿が異なっているらしいことは把握している。
つまり、同じ巨人化でもただ体がデカくなるワケではなく、角が生えたり爪が生えたりで、それぞれ固有の変化や能力があってもおかしくないと推測した。で、その固有能力を知らないばかりに対処しきれない初見殺し、みたいな危険性もあるので、できれば陽動部隊との戦闘でそれを見ておきたいと思っていた。
いや、マジで見ておいて良かったよ。そう思うほど、三体のギラ・ゴグマは異なる戦闘能力を誇っていた。
まずは王宮警備を担当している、と思われるバンドン。
奴の巨人化した姿は、亀を模したような重厚な外殻に覆われていた。背中には不気味な緑と黒の文様が描かれた巨大で分厚いトゲトゲした甲羅がある。背面はまず攻撃は通らない。杏子の『破岩長槍』でもアレは割れないな。『土星砲』でも、どこまで壊せるか。
目立つのは甲羅ではあるけれど、全身も同じような文様が描く角ばった甲殻に包み込まれ、天然の鎧兜を着込んでいるような状態だ。特に両腕は小型の盾を装着しているかのように甲殻が大きく肥大している。こちらも生半可な攻撃は弾くだろう。
武器はボンと同じような巨大なメイス。しかし、鮮やかな緑の輝きが随所から発せられているので、風属性の魔法武器だろう。
二体目のジジゴーゴ。主に市中警備を担当しているように見えたが、僕らの襲撃が明らかになった途端に、王宮まで呼び戻されていた。単独でいるところを襲われて撃破されるのを恐れての措置だろう。
で、コイツはどうやら四本腕タイプのゴグマから進化を果たした奴らしい。だって、巨人化したら腕が四本になってたし。
バズズよりも毛深いゴワゴワした茶褐色の毛皮に身を包み、逞しい四本腕を広げる姿は巨大なゴリラのようである。甲殻を身に纏っていないのでバンドンほどの固さはないだろうが、パワフル&タフネスなのはゴリラチックな姿から想像に難くないし、バズズほどではないが俊敏な動きも見せるだろう。
何より恐るべきなのは、やはり四本腕それぞれに握られた魔法武器だ。バチバチとスパークを纏った手斧を両手に握り、肩口から生える方の腕には、青い輝きを放つ両刃剣と、マグマのような色合いを見せるハンマーがある。
両手の斧は雷属性。青い剣は水か氷。ハンマーは土属性だろう。くそう、全部欲しい。殺してでも奪い取ってやる。
最後の三体目。コイツが一番、注意が必要だ。ゴーマにしては珍しい、なんか気だるげな雰囲気を持つヒョロっとした細長い優男っぽいギザギンズ。
なんとコイツは、魔術師タイプの巨人だったのだ。
巨人になっても、ヒョロヒョロした体格をしていた。力強さを感じない細長い手足に、青白い皮膚で、とても打たれ強くは見えない。
けれど、頭から背中にかけて大きなヒレが生えており、そこにメラメラと青い炎が立ち上っている。手足や肩口からも長いヒレが生えていて、どこか魔術師が纏うローブを連想させた。
武器は持っていない。しかし、首から下げたネックレスと両手首に装着された腕輪は、どれも強い真紅の輝きを発しており、杖代わりの魔法装備であることは明白だった。
奴が長い手を掲げると、その掌には青い炎が渦巻き、大きなファイアーボールを形成し————
「あとは、ミノタウロスからフルボッコだったね」
青い火球が直撃し、リーダーであり最大戦力のミノタウロスが爆発炎上。すでにこの時点で瀕死に追い込まれていたが、すかさず距離を詰めてきたジジゴーゴが両手の雷斧で連撃を叩き込む。
これによって完全にミノタウロスがトドメを刺された。
その一方ではメイスを振り上げたバンドンが戦車のように地上にいるスケルトン達を蹴散らし始めた。
もうマモトな戦いにならないと早々に判断したレムによって、残りは散り散りに逃亡を開始させ、逃げつつ残された燃料を使って火を放ちながら街中へ走って行く。
もっとも、それも大した時間稼ぎにはならなかった。大半は大戦士の追撃によってぶっ飛ばされ、残りも奴らが引き連れてきた大軍が包囲するように追い込んでいく。
全滅するのに、さほどの時間はかからなかった。
「……ねぇ、桃川君。なんか、雨降って来てない?」
「降って来たね」
「こんな時に天気崩れるとか、ツイてなさすぎでしょ。折角の火事が消えたりしないわよね」
「ああ、これはオーマが消火の為に降らせてるんだよ。まさか、マジで雨乞いの儀式なんてあるなんてね」
王宮に潜む僕は、転移魔法陣の広場まで出張って来たオーマの様子も遠目ながらも確認している。お陰で、奴が発動させた雨乞いの儀式魔法もしっかり観察できた。
儀式はオーソドックスに供物を捧げるタイプだ。神官と思われるカラフル衣装のゴーヴ共が、魔法陣の各所に設置していた。まぁ、ここまでは僕も同じことやるからいい。
けれど、本物の生贄ってやつを、呪術師である僕も初めて見たよ。
オーマのハーレムの内、四体のメスが魔法陣の四隅に立つなり、自刃したのだ。まさか、と思ったら本当にやりやがった。メスは一切の躊躇なく、自らの首筋を切り裂いていた。
そうして沢山の供物と四体もの生贄を捧げることで、すぐに雨乞いの効果は発現する。
生贄から流れ出た血液が、自ら意思を持つかのように魔法陣の模様に沿って流れてゆくと、不気味な紫色に輝く光が魔法陣全体から発し始めた。同時に、毒々しい紫の煙も噴き出し始め、怪しげな煙幕に広場は包み込まれていく。
そのせいで僕の方からはっきりとは見えなかったけれど、紫色に煙る向こう側に、幾つもの蠢く触手のような、腕のようなシルエットが現れる。それらが供物や生贄を掴んでは、ズブズブと沼に沈めるかのように魔法陣へと引き込んでいった様子が朧げに見えた。
供物と生贄を飲み込むと、紫の煙は天にも昇る勢いで濛々と魔法陣から吹き上がり————王国の地上、数百メートルほどの高さでゴロゴロと雷鳴を唸らせる暗雲と化していった。
「なんだよクソッ、めっちゃ降って来やがったぞ!?」
「うわっ、空真っ暗じゃん」
今まさに土砂降りと化して、ザァザァと大粒の雨が降り始めた。外から上田と芳崎さんの驚く声が聞こえてくる。
「おい、桃川。なんか、あの雨雲かなりヤバい感じっていうか、嫌な感じがするぜ。精霊の気配も強く感じるんだけど、普通の精霊じゃねぇ」
空を見上げて、『精霊術士』として異変を察知したらしい葉山君が、一号車へ近づき僕へと声をかけてきた。
「これはオーマの雨乞いの儀式で降らせた大雨だ。魔法陣から紫の変な煙が出て、それが上空で雲になってるから、あの雲そのものが魔法みたいなものだと思う」
「なるほどな……ってことは、あの妙な精霊っぽい気配は、ゴーマの魔法だから違う感じになってるってことかよ」
「ねぇ、その変な雲の精霊に呼びかけて制御できない?」
「無理だな。完全に野生のモンスターと同じ感覚で、こっちの意志が全く伝わる気がしねぇからな」
ふむ、どうやら『精霊術士』の力で干渉できるのは、あくまで自然の精霊、あるいは僕ら人間が行使する魔法に宿る精霊達ってことになるのか。ゴーマが扱う魔法に属すると、性質が変化する、あるいは精霊に似てこそいるが全くの別な存在だとか。
「とりあえず東門の制圧は完了したし、僕らもさっさと籠城準備に入ろう」
こうしてお喋りできているのは、目標地点である東門の制圧戦が終わったからである。
自分達がここに陣取るので、南大門みたいに火を放つことはできなかったけれど、多少の時間をかければ真正面から攻略するのは簡単だ。
「門を開いて」
「任せろ————うおぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」
丸太のようなぶっとい閂を外し、山田が一人で巨大な門を押し開いて行く。ギギギ、と錆の浮いた大きな蝶番が悲鳴を上げながら、ゆっくりと門が開かれた。
「杏子、急いで砦を建設しよう。もうギラ・ゴグマ共はこっちに向かって来ている」
「どんくらいで来そうなん?」
「30分はあるかな。ちゃんと配下を引き連れて来るみたいだし」
「そんだけありゃ余裕っしょ」
グリリンの上で自信満々に笑う杏子は、雨に濡れたせいでただでさえエロい感じがさらにエロくなっている。うっ、昨晩の我慢が響いてくる……
見てるだけで一部が苦しくなってくるので、それとなく視線を逸らしながら真面目に考える。
陽動部隊を余裕で殲滅したギラ・ゴグマのトリオだが、勢いに乗って奴らだけで真っ直ぐこっちへ駆け込んでくる様子は見られない。やはり巨人化は力の消耗が激しいのだろう。奴らは一旦、巨人化を解除して元の姿に戻っている。
その上で残党狩りをしていた配下を呼び戻し、きちんと部隊を再編しているようだ。恐らく、オーマにきつく戦力がバラけて単独行動にならないよう注意を受けているのだろう。
ゴーマにあるまじき慎重さ。でもそれを実行できるのがオーマの凄まじい統率力だ。
けれど、今回ばかりはリスクを覚悟でギラ・ゴグマを速攻で僕らにけしかけるべきだったな。今のオーマは、こちらの戦力を警戒する方が先に立っているから、後手に回り続けている。
「上田君、芳崎さん、山田君、準備はいい?」
「おうよ!」
「それじゃあ、始めよう」
東門到達からの籠城準備も当然、練習を重ねてきた。動きとしては、基本的に最初の城壁越えと同じである。
上田、芳崎、山田、の三人が鉄の杭を抱えて開かれた門から外へと出る。
『土魔法造成用鉄杭・突貫工事くん2型』:土属性専用の補助アイテム。1型は橋をかける際の柱となるような造りにしているが、こっちは大きな壁を作るタイプだ。
籠城するための砦は、王国の城壁を利用する形になる。門と城壁を正面として、外側に三辺の壁を作って四角形にする。
なにせ僕らは寡兵もいいとこだ。戦力を正面に集中できるような状況にできなければ、速攻で押し負ける。
城壁内側には当然、通路まで上がるための階段が備えられているけれど、それも門の両脇だけだ。階段だけ破壊してしまえば、奴らにとっても高い城壁として機能する。ゴーマは王国側に陣取っているのだから、側面や後ろに回り込まれることもない。もしギラ・ゴグマ含む大部隊を迂回させてくるなら、それはそれで十分な時間稼ぎができるし、問題ない。
ただ城壁上の通路側からはゴーマも通って来れるので、ここだけはしっかり潰しておかないといけないけど。それでも、最大戦力であるギラ・ゴグマは巨人なので、絶対に真正面から攻めてくるから城壁通路もそれほど大きな弱点にはならないはずだ。
最低限、両サイドと後ろの壁を建設し終えたら、後はひたすら正面の強化。とにかく、時間までギラ・ゴグマの猛攻をここで耐えなければならない。
「————よし、僕とレムの準備も完了だ。中嶋君、お願いね」
「うん、分かった」
「くれぐれも、無茶はしないでね。出来る限りの範囲でいいから」
「大丈夫、ちゃんと気を付けるさ」
「じゃあ、レムも頼んだよ」
「ブモォ、ブォアアアア!」
復活のミノタウロスと中嶋君は、僕が再召喚したスケルトン&ハイゾンビ&タンクを引き連れて、この辺一帯のさらなる火付けに向かった。
雨はますます勢いを増して降り注いでいるが、こっちだって燃料満載で来てるんだ。油がある限りは燃やし続けられるし、何より中嶋君の火属性防御魔法も燃焼効果が持続する。
この辺の周囲一帯を火の海にすれば、ゴーマ兵などの雑魚は近づくこともできなくなる。ただでさえギラ・ゴグマが三体も相手になるのだ。雑魚にまで手が回らなくなる。
「……かなり鎮火してきたな」
レム鳥の情報と、王宮の分身からの視覚を合わせると、折角放った火の勢いが急速に衰えていることが分かる。
激しい土砂降りだが、この東門はこれでもまだ雨脚は弱い方である。最も火の勢いが強かった南西の市場通り周辺は、バケツをひっくり返したというのを越えた、正しく滝の如き勢いで凄まじい水量が降り注いでいるのだ。
洪水でも起こすつもりかってほどの水が断続的に叩きつけられれば、流石にあの火災も消えてしまう。
お陰で、着実に街の混乱は収束に向かっており、右往左往していた警備隊も秩序を取り戻しつつある。
陽動部隊をギラ・ゴグマが殲滅を果たした、という情報も伝わっているのだろう。全体的にゴーマ部隊が動き始め、東門へ向けて集結するような流れが出来つつある。最後まで油断せず、総力を結集して残った僕らを叩き潰すつもりだろう。
「大丈夫だ、この動きなら絶対に間に合う」
ギラ・ゴグマのトリオは中央の砦にまで戻ってきている。そこから、すぐに出陣する様子はない。これからオーマに報告でもするのだろう。
一方のオーマは魔法陣の上で、雨乞い儀式魔法の行使に集中している。火の勢いが強い場所に集中的に降らせたりと、奴自身がコントロールしていることは明らかだ。
逆に言えば、この儀式魔法が続く限りはオーマ自ら直接的な命令を発せないということでもある。
一刻も早く火災を止めるのも大事だけど、オーマの指揮が止まってしまう方が問題だろう。敵ながら、そんな状態で大丈夫か、と心配になるよ。
お陰様で、この作戦の本命である僕の爆弾設置巡りが、いまだにバレることなく進行中である。もしも、コソコソと単独行動している怪しい人間がいる、とオーマの耳に入れば、警戒して先にこっちを潰してくる可能性だってあったのに。
オーマは雨乞いに集中しているから、もう僕の爆破を止める手立てはない。
お前のすぐ傍に護衛で置いているだろう最強のギラ・ゴグマであるザガンを、今すぐここへ特攻させるのが、僕の作戦を破る最善手なんだけどね。
「おーい、小太郎! こんな感じでどうよー?」
そうこうしている内に、聳え立つ断崖絶壁が如き土魔法の防壁の上から杏子が呼びかけてきた。
今や正面側の壁は、本来の城壁と比べて倍以上の厚みを持ち、高さもさらに5メートルほど伸ばしている。よしよし、練習通りに出来ているな。
「これでいいよ! 僕ももう上がるから」
「————桃川君、奴らが来るよ!」
まだ戻らないか、とちょっと心配し始めた頃に、中嶋が帰って来た。
どうやら、少し先まで足を延ばして敵の先鋒まで偵察してきたようだ。まったく、無茶しやがって。
「ありがとう。火の手もいい感じに広がっているし、もう充分だ」
僕と中嶋は『黒髪縛り』の縄梯子で防壁まで上がる。
上には、すでに全員が配置について迎撃の構え。準備してきた焼夷グレ含め、飛び道具なんかはここでもう全て使い尽くして構わない。
「作戦は順調に進んでいる。あともう少しだけ時間を稼げれば、爆弾設置も完了する。ここが山場だ、気合を入れて————」
「————ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
まるで僕の言葉を遮るかのように、王国中に響かんばかりの雄叫びと強烈な魔力の気配が迸る。
雨にも負けずに燃え盛る東門周辺の大火災。揺らめく巨大な炎の向こう側から、巨大な人影が三つ、こちらへと歩いてくるのが見えた。
いよいよ、ギラ・ゴグマ三体を擁する主力部隊のお出ましだ。
「気合を入れて行こう。奴ら全員、奈落の底に叩き落としてやる」




