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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第19章:王国崩し
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第311話 ゴーマ王国攻略戦(3)

 上空には濛々とした黒煙が広がり、ゴーマの汚い悲鳴と絶叫を遠くに聞きながら、僕はアルファを飛ばす。

 こっちの僕は現在、単独行動中。南大門を燃やした直後に、僕は本体と『双影』の分身とに分かれ、一方がアルファに乗って単騎駆けである。

 役目は勿論、王国を崩壊させる要となるコア爆弾の設置。

 ゴーマ王国はセントラルタワーを通す天井の上に建国されている。この最下層エリアは、確かにこれより下の階層が存在しない……しかしセントラルタワーだけは数百メートルも下まで続いている。要するに、タワーを中心に半径数キロの巨大な落とし穴となっているのだ。なので、ここは地面ではなく、穴の上を塞ぐだけの薄い覆いみたいなものである。

 この足場を爆弾によって崩落させるのが、作戦の肝だ。ここだけは絶対に失敗ができない。

 幹部会議をしていたサーバールームから、可能な限りの建築情報を収集し、すでに遺跡を支える魔力供給をカット。現在は王国を支える足場は物理的な耐久のみで維持されている。

 ここの支柱を幾つか吹き飛ばせば、ただでさえ大量の土が覆われ、その上さらに数々の建築物を載せた足場は即座に崩壊する……はずである。

 別に、僕だって爆破解体のプロでもない。ダイナマイトなんて触ったこともないし、建築関係の知識なんぞも持ち合わせちゃいない。今の僕にあるのは、高校物理の知識程度である。二年生だからまだ物理Ⅱも終わってないんだけどね。

 本当に柱を破壊できるのか。目星をつけた柱を破壊して本当に崩落させられるのか。大いに不安の残る、今作戦で一番の賭けになるところだ。

 一応、似たようなサイズと材質の建造物を遺跡街から見繕って、コア爆弾で爆破する実験なんかも行ったが、やはり絶対とは言い切れない。

 それでも、出来ることは全てやった。ありったけのコアをつぎ込んで、爆弾も最大限の個数を用意してある。夏川さんが横流ししてくれたボス級モンスターのコアがなければ、これだけの数は揃えられなかっただろう。

 そんな全員の努力の結晶であるコア爆弾を目いっぱいに詰め込んだ鞄をぶら下げて、アルファは静かに、素早く駆け抜けていく。

 本隊と陽動部隊は派手に暴れるのが仕事だけれど、こっちは爆弾セットの隠密行動。それ相応の装備もしてきた。

 僕もアルファも、王国の街並みに溶け込むようにボロ布で全身を覆い、さらに『虚ろ写し』で風に吹かれて飛んでいく布切れ、に見えるように幻術もかけてある。チラ見程度では、ラプターに乗った人間だとはまず分からない。

 さらに王国に潜入した分身から、レム鳥で回収させておいた『射手の髑髏』を組み込んだ『隠密の杖』も装備している。ボロ布ギリースーツ、幻術、気配遮断スキル、と現状で最高の隠密特化装備に身を包んだ僕は、今のところ見つからずに済んでいる。

 現在、爆弾の設置は二か所が完了している。今は三か所目、本隊も目指している東門付近の地点を目指して走っているのだが……

「やっぱり、そう上手くはいかないか」

 見えてきた目標地点には、ゴーマの警備隊が居座っていた。

 奴らは勿論、僕の狙いを知ってて守りについているワケではない。単純に、常に警備をつけておくような施設がそこにあるからだ。

 ここは東門近くに建てられた、石造りの倉庫である。木造ではなくわざわざ石で作ってある以上、ただの食糧庫や物置などではない。軽く調べた限り、どうやらここは貴重品専用の倉庫らしい。

 鍛冶場で精製された金属や、一定以上のサイズのコア。予備の武器も少々ある。他には酒や砂糖などの嗜好品なんかも収められている。

 各門には門番ゴグマを筆頭に、それなりの地位にあるゴーマ兵もいるから、恐らくソイツら用の商品なのだと思う。一般ゴーマや雑兵如きでは、手出しできない品ばかりだ。

 石造りに警備兵も置いているのは、僕らのような外敵ではなく、盗みに手を出す不埒な輩に対するものだと思うけれど……ちっ、奴らめ、こんな状況のくせに真面目に警備なんぞしやがって。

「ソロはこういう時、辛いよね」

 ゴーヴ兵が少々に、ゴーマが十数体といった編成。上田一人で一分とかからず殲滅できる程度の部隊だが、相変わらず攻撃力に欠ける『呪術師』一人だと、こういう場面で苦労する。

 時間をかければ、呪術を駆使して一体ずつ始末して気づかれることなく倒し切ることもできるだろうが、今はそんな悠長なことをしている暇はない。爆弾の設置個所はまだ王国各所に残されている。

 本気出したレムでも瞬殺できるけれど、今は陽動部隊の方に制御の大半を割いているため、アルファには機動力のみでさほどの戦闘能力は期待できない。

 僕の爆破作業が遅れれば、それだけ本隊の籠城時間が伸びる。稼ぐ時間が増えれば増えるほど、ギラ・ゴグマ襲来の危険性は増す。タイミングとしては、奴らが出張って来るところで崩落させたい。残ったギラ・ゴグマと交戦することだけは避けたい。ザガン一体だけでも、僕らにとっては途轍もない脅威である。

「だから、今回ばかりは力で押し通らせてもらおうか————さぁ、僕に力を貸せ、バズズ」

 取り出したのは、血のような赤黒い色に染まった頭蓋骨。ギラ・ゴグマのバズズ、奴の髑髏である。

 これまで頭蓋骨は『愚者の杖』に嵌めて丸ごと一個そのまんま使っていたが、このバズズ髑髏だけは、かなりの加工を施している。

 それは仮面、と呼ぶべき形状だ。

 鬼のような髑髏面に、頭蓋の半分ほどが残る。内側には、粗削りなゴーマ式の魔法術式がびっしりと刻み込んだ。正直、自分でも何でこれで機能するかよく分かんないけど、動くからヨシ、ってことでそのままにしてある。

 そんな怪しい造りのバズズ髑髏仮面を僕は被り、

「変身————『屍鎧』」

 足元に広がるのはただの影ではなく、レムを作り出す時に現れる混沌のように渦巻く黒々とした謎の現象。黒い底なし沼から這い上がるように、赤黒い肉の塊が蛇のようにくねりながら、一気に僕の体へ巻き付いてゆく。

 見るからに気持ち悪い肉の触手が全身に絡みついていくワケだが、不思議と嫌な感触はしない。何というか、自分の手で自分の体を触っているような、そんな感覚である。

 そうして、瞬く間に僕の全身は肉塊に包み込まれてゆき————再び目を開いたその時には、僕の視界は随分と高い位置にあった。

「うん、感度良好。システムオールグリーンって感じ」

 もしここに鏡があれば、僕は自分が赤い大鬼のような姿と化したのを確認できるだろう。

 これこそが、僕が編み出した新たな呪術『屍鎧』。

 とはいえ、実はそんなに大したモノではない。モンスターの素材をベースに、自分自身をそのモンスターに変身させるとか、生体パワードスーツと化すとか、そういった別口の能力などではない。

 コレは単純に『屍人形』の中に、僕自身を埋め込んでいるだけなのだ。

 何故こんな真似をすることになったのかと言えば、今作戦ではレムの制御力を限界ギリギリまでに使ってしまうからだ。陽動部隊がなければ、レムは普通にバズズを素材とした強力な『屍人形』となって戦えば良い。

 流石に巨人化能力そのままを引き出すことは出来そうもないけれど、バズズはギラ・ゴグマとして素の状態でもゴグマを越える強さの魔物だ。魔力を振り絞って全力で『屍人形』と化せば、過去最強の力を持った人形になっただろう。

 だが、そんな強力な人形を扱うなら、それ一体だけで限界となる。

 今作戦では陽動部隊の他にも、偵察用の鳥に、騎乗用となる魔物達と、レムは様々なところで仕事を担っている。それら全てを無視して、単体戦力極振りのバズズモードを運用すれば、作戦そのものの遂行が不可能となってしまう。

 強力な屍人形。だが、使えないのでは意味がない。コイツを十全に扱う制御力が、どう足掻いても足りない————そうだ、僕自身が直接操作すればいいんじゃね?

 というワケで編み出されたのが、この『屍鎧』だ。

 思えば、僕はレムが万能過ぎるから、彼女に扱いを任せ過ぎていた。本来は呪術師である僕が自分の意志で、手足のように屍人形を操るのが正しいスタイルなのでは? と今更ながらに思ったりも。

 ともかく、この『屍鎧バズズ』にはレムの制御力は一切使われていない。僕が『双影』を操るのと同じような感覚で、僕自身が動かすのだ。

 操作方法が『双影』と同じだから、別に僕本体が分離していても操作はできる。でも、操作に集中すればそもそも本体も動けない無防備状態になるので……いっそ強力な『屍人形』の中に取り込んでしまった方がかえって安全なのでは、という発想。今回みたいに敵地に乗り込んで戦うなら、ロボットパイロットのように『屍人形』と本体が一体化した『屍鎧』の方が効果的だろう。

「ギラ・ゴグマの力、見せてやる」

 そんな独り言を置き去りにするように、凄まじい速度で僕は、『屍鎧バズズ』は駆け出した。

 身の丈およそ2メートル半。半獣人のような姿となっていた奴の巨人化形態とよく似た、赤色の毛皮と皮膚に、頭は山羊のような二本角が生え、口には鋭い牙が並ぶ獰猛な面構え。

 元から巨人化バズズの顔は鬼のような形相であったが、呪術によって再構成されたせいなのか、それとも怨念によるものか、より異形の鬼面となっている。

 恐らくスペック的には、素のバズズ以上となっているだろう。でも巨人化の力は絶対に越えられないけど。

 なんにせよ、たかがゴーマの警備隊を殺し尽くすにはオーバースペックだ。ただ走るだけで、この加速である。一気に周囲の景色が流れて行くのは、まるでチートを使って本来出せない速度でキャラを動かした時のような感覚だ。

 これで全速力ではない。常人並の動体視力しか持ち合わせていない僕では、ただ動かすだけでも超人的な身体能力を扱い切れないということか。

 それでも、『双影』式の直接操作だ。自分で扱い切れる範囲に留める限りでは、十二分にコントロールできる。僕が一体、どれだけアクションゲームをやってきたと思っている。パワーとスピードに全振りの格闘タイプなんて、プレイアブルキャラとしちゃあ定番だろう。

 アルファを走らせる以上の速度で疾走、それでいて足音も立てずに石造りの貴重品倉庫へ急接近。まずは建物の裏手側へと回り込み、ダラダラと歩哨をしているゴーマ二体組みへと迫る。

「ンブッ————」

「ゲッ————」

 突如として飛び出した赤鬼姿な僕を目にして、反射的に声を上げ、ようとした時には、この掌はゴーマの顔にアイアンクローを決めていた。

 二体の立ち位置は1メートルちょっと離れたくらいの中途半端な距離感だ。この大きな体なら、腕を伸ばせば同時に二体の顔面を掴める。そうして、ギリギリと引き絞るように力を込めて行き、ゴーマの頭をゆっくりと握り潰す。バズズの力があれば、ゴーマの頭などトマトも同然だ。

 断末魔を上げることさえ許さず、静かに二体を始末することに成功。よし、まだ他の奴らに気づかれてはいないな。

 僕は同じ要領で倉庫の左右側面に立つ歩哨を殺してから、一旦、倉庫の屋上へと登った。登るというか、バズズの身体能力があれば垂直ジャンプだけで二階建て程度の高さなんて上がれるんだけど。

 屋上から、正面に陣取る警備隊を見下ろす。奴らはほどほどにバラけていて、南西の方から濛々と立ち上る黒煙を眺めながら、ギャアギャアと話し合っている。あんだけ煙が上がっていれば、とんでもない火事が起こっているとゴーマでも分かるだろう。

 けれど、ここまで離れていれば、自分達が駆け付けてどうこうするほどでもない、みたいな結論で警備任務を続行しているのだろう。まぁ、どんな判断を下そうとも、王国のゴーマは全て死ぬんだけど————とりあえず、お前らは一足先に地獄へ逝くといい。

「ブゲェッ!?」

 屋上からダイブした僕は落下の勢いのまま、一番偉そうに立っている鎧を着込んだゴーヴの隊長を踏み潰す。

 鉄のプレートがひしゃげ、骨を粉砕し、臓腑を丸ごと圧し潰す。頭の上から縦にぶっ潰されたゴーヴ警備隊長は僕の足元でド派手に血肉をぶちまけて地面の染みと化した。

「グゲッ、ゼバァ!?」

「ジダゴ、バドン!」

 やはり最初に反応したのは手下のゴーヴ兵だ。隊長が踏みつぶされたカエルみたいに即死したのは驚きだろうが、何事かを叫びながらも即座に槍を構えて僕へ穂先を向けてきた。

 けど、そんなちっぽけな槍で突いたところで、この体は貫けない。圧倒的なレベル差、装備性能差、とでも言うべき開きがある。

「やっぱりリアルで戦うなら、イージーモードが一番だよねっ!」

 僕に格闘技の心得はない。学園塔の頃に、ちょこっとだけ蒼真流を齧ったけれど、軽くサンドバックされただけだから速攻で諦めたし。所詮、格闘技なんて強い者がより強くなるための武器でしかないよ。

 だから最初から強ければ、格闘技を習得していなくたって強い。素人丸出しのテレフォンパンチでも、一発当てればマッチョなゴーヴも一撃でKOできる。

 突き出された槍を回避もせずに、そのままパンチを叩き込むと、筋肉を打ち付けた鈍い感触と、インパクトの衝撃が骨まで粉砕する手ごたえのようなものが感じられた。

「グッバァ!」

 上から振り下ろすような殴りつけで、ゴーヴは地面に叩きつけられたように倒れ込む。苦し気なうめき声は上げているので、即死は免れたようだ。

 すかさず、後頭部を踏みつけてトドメを刺しておく。頭の踏みつけは、ゾンビゲーでは定番のトドメモーションである。

「ブグゥ……ンバ、ダバゴン……」

「なにゴーマのくせにビビってんだよ」

 ストンピング中の僕の背中を槍でツンツンしてきたもう一体の方のゴーヴ兵は、分厚い毛皮と筋肉の鎧でロクに穂先が通らず、明らかに狼狽した声を上げながら後ずさっていた。

 こんなに分かりやすくビビってる姿は思えば初めて見る気もするが……ああ、そうか、ゴーマ共がどんなに劣勢でも勇猛果敢に戦い続けるのって、僕らが人間だからか。

 今の僕の姿は立派な人型モンスター。中の人が人間だと分かるはずもない。だから、普通に強力なモンスターに襲われれば、奴らも普通に怖がったりするワケか。

「また一つ、ゴーマについて詳しくなってしまった」

 どうでもいいことばっかり覚えて行くな、と思いながら素人流ストレートパンチを顔面に喰らわせてゴーヴ兵を倒す。流石に頭を殴られると即死らしい。首が230度くらい回ってるよ。

「ンバァ!」

「ダーバガ! ガンベドグン!」

 人間以外には勇敢になれないゴーマ兵共は、圧倒的な実力差を見せつけられたせいで逃亡を選択した。別に放っておいてもいいが、下手に増援を呼ばれても困る。爆弾設置中に邪魔が入ると非常にまずい。

 ちょっと手間だけど、警備隊は殲滅しよう。

 背中を向けて逃げ出すゴーマ共を走って追いかけ、残らず殴るか蹴るかで片づけて行く。この身体能力は本当に素晴らしい。自分が強くなったと勘違いしちゃいそうな爽快感である。

 気分は偶然にも力を授かってしまったアメコミヒーローだ。これは調子に乗って序盤でやらかすわ。

「ふぅ、ひとまず片付いたか————『屍鎧』解除」

 装着時とは逆再生のような現象でもって、バズズの屍鎧が解けて行く。再び肉塊にバラけながら混沌へと沈み、後には汗をかいた僕だけが残る。

「やっぱ魔力消費が激しいな」

 ふぅー、と思わず息をついてしまう。

 破格の身体能力を与えてくれる『屍鎧バズズ』だが、使用にはかなり魔力を費やす。MPゲージがガリガリ削られて行く感覚だよ。

 それに見合った超人的な力、と思ってしまいそうだが、よくよく考えれば上田達前衛組みは、素の状態でこれに近い身体能力を誇っているのだ。結局、コイツの利点は貧弱な呪術師でも超人パワーになれるというだけであって、強化の度合いそのものは前衛組みと比べそこまで優れているワケではないということ。

 こんだけ魔力消費してこの性能は、正直コストに見合わない。僕の単独行動だから使う価値が出てくるのであって、普通のパーティ戦ではまず出番はないだろう。呪術師は最前線で殴ってないで、適当な呪術で敵に嫌がらせしててよ、と言われちゃう。

 葉山君の霊獣化が、どれだけ凄まじい性能か改めて実感するね。マジであれぶっ壊れ性能だよ。やはり『精霊術士』はチート職。

「さて、早く爆弾設置しないと」

 アルファを入口の見張りに残し、倉庫へと入る。暗くかび臭い室内には、雑然と木箱やら革袋やらが置かれているが、大した広さはない。目当ての場所はすぐに見つかった。

 そこは、地下へと続く階段である。

 階段を下りた先には、特に変わったところはないただの地下室が広がっている。しかし、ゴーマの建築技術では地下室を作るほど発達はしていない。

 そう、この地下室は元々あったものだ。さらに正確に言うならば、地下室ではなく、王国が乗っている天井部分の内部に開いた空間だ。

 ゴーマはただの地下室として、ここにも雑多な物品を置いているだけだが、本来は点検口か何かの用途で設置されたのだろう。遺跡特有の石壁があるだけで、石板コンソールもないから、僕には正しいこの部屋の使い方は分からないけれど。

 でも一番重要なことは、この点検口(仮)の真下には、天井を支える柱がある、ということ。

 つまり、この点検口がある場所が、爆弾を設置すべきポイントなのだ。

「朽ち果てる、穢れし赤の水底へ――『腐り沼』」

 まずは『腐り沼』を発動させる。地下室の奥、石畳の床の上にきちんと腐り沼専用魔法陣『果てる底無き』が描かれたスクロールを開いた上での発動だ。本当は供物も使いたかったが、嵩張るので今回はナシ。

 いやぁ、ヤマタノオロチを掘削した経験がここで活きて来るとはね。なんでも経験はしておくものだ。

 コレを使うのは、爆弾を柱の表面ではなく、より内側で爆発させるためだ。

 魔力の供給がなくても、遺跡の構造物は物理的にも頑強な建材で作られている。いかにコア爆弾とはいえ、表面で爆破させれば折るに至らない可能性もある。少しでも破壊しやすくするための小手先の技だ。

 そうして、より深く溶かしてゆく『果てる底無き』の効果が発揮し始めたのを確認して、僕は本命のコア爆弾をそこへ投入する。


『黒髪式遠隔コア爆弾「王国崩し(フォールンキングダム)」』:コア爆弾を一斉に作動させるための機構を組み込んだ、箱型の遠隔操作爆弾。一つあたり、二個のコアで構成されており、魔力の流れを暴走させた二つのコアが、接触することで臨界を越えて爆発するという構造だ。コア同士が触れなければ爆発はしないので、コアの間に設けた仕切りを外すだけ、という単純明快な起爆方式になっている。で、その仕切りを外すのに使っているのが『黒髪縛り』であり、コレを軽く引っ張るだけの操作で起爆できるというわけだ。二つのコアと『黒髪縛り』を仕込んだ起爆装置、これら全てを『腐り沼』に沈めても大丈夫な腐食耐性を持つ箱に納めたのが、この『王国崩し』だ。コレも葉山君と命名権を争い、危うく『ボンバー王国』になるところだった。じゃんけん、三回勝負にしといてよかったよマジで。


 30センチ四方の黒い箱型の『黒髪式遠隔コア爆弾「王国崩し(フォールンキングダム)」』を、僕は『腐り沼』へとザブンと沈める。重石は別にいらない。水底から生やした『黒髪縛り』で包んで、そのまま底まで引っ張り込めばいいのだから。

 よし、これで三か所目の設置も完了だ。さっさと次に行くとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボンバー王国。この単語を見た瞬間口に含んでいたパンを机の上にボンバーしてしまいました。「ポカポカ袋」はまだ良いほうだったんだな…
[一言] 愚者の杖に使える頭蓋骨はあくまで天職を持った人物の頭蓋骨ってことなのかな……? モンスターのやつとかはめてもどんな能力になるのか全然わからんし
[一言]  やはり爆弾は複数個所に設置するのか。    ???――これってつまりバズズの頭蓋骨は『愚者の杖』としても使用可能だったという事なのか?それとも、あくまで『屍鎧』の触媒としての髑髏、つまり『…
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