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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第19章:王国崩し
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第310話 ゴーマ王国攻略戦(2)

「ひゃっはぁ!」

「汚物はぁ」

「消毒だぜぇえええっ!」

 ハイテンションな叫びと共に、朝から賑わい始めたゴーマの市場は、地獄のような猛火に包まれて行く。

 廃棄場から真っ直ぐ出た僕らは、まずこの市場というか、食料品を中心として物々交換をしている奴らが立ち並ぶ大きな通りへとやってきた。この市場通りは最初の目的地である南大正門から中央砦まで続く大通りと、垂直にぶつかるように南から西にかけて伸びている。

 市場通りに僕ら本隊は南寄りから出て、陽動部隊は西寄りの位置に出ている。チラっと見れば、予定通りの方向に濛々と黒煙が上がっている。僕が跨っているアルファも特に何かを訴えかけたりしていないので、レム達も順調に暴れ始めているようだ。

 さて、陽動部隊は信頼と実績のレムにお任せで、僕らも頑張るとしよう。

「炎上させるのは楽しいけど、あんまりグレ使いすぎないでよねー」

「おっと、悪ぃな! やっぱこんだけ派手に燃え上がるとな」

「アタシ、火遊びとか好きなんだよねー」

 遺跡街で練習こそ重ねてきたが、実際に街を燃やし、火達磨になって転がるゴーマ共がいると、断然楽しくなってくるよね。僕も鍛冶場をテロった時は妙なテンションになっちゃったし。

 ともかく、二人の装備も調子が良さそうでご機嫌である。


『ラジエータージャケット』:研究を重ねて実用化された耐熱装備。外観は赤い毛皮のジャケット。横道から剝ぎ取れた火耐性の高い赤色毛皮に、委員長の氷結晶を核として冷却用の結界を展開し、火の海でも高熱を遮断する。氷結エリアで作ったカイロと構造は同じ、あれの逆バージョンといったところ。ただ炎の真っただ中で使用する前提なので、酸欠にならないよう風の光石を核にそよ風を起こす程度の機能を組み込み、常に新鮮な酸素を供給できる機能も組み込んでいる。ジャケット型になったのは、マントだと接近戦するのに邪魔くさいとの意見が出たので、前衛組みはジャケットである。色々と機能を詰め込んだ結果、防弾ベストみたいな感じに膨れ上がったけど、これはこれでカッコイイと思う。


『ラジエーターマント』:試作品だった耐熱マントの正式採用版。素材がもったいないので、耐熱マントをそのまま改良した。こちらは接近戦をする必要がない後衛組みが着用。


『風流偃月刀』:横道でMPKしたゴグマの片割れが装備していた風属性の大剣を、上田専用にリサイズした一品。形状は偃月刀のような幅の広い片刃となっているが、長柄武器にはしていない。刀身にはエメラルドに輝く風属性魔力のラインが輝く。上田は『魔法剣士』ではないので、それなりに良い品質のこの魔法剣を使っても『風矢エールサギタ』がせいぜいだが、突風などもある程度のコントロールで放つことが可能。この場においては、風を煽ることで急速に火の手を広げることができる。


『ブレイズアックス』:これもMPKされた片割れのゴグマが持っていた、火属性の大斧を改修したもの。使用者は芳崎さん。彼女は火属性と相性が良かったのか、それなりの溜め時間を経れば、なんと中級攻撃魔法の『火炎槍イグニス・クリスサギタ』を発射することができる。ただ、本来は大きな槍のような形状となるところが、本職じゃないせいかただ大きな火球になってしまう。でも撃ってしまえば効果は同じ。その爆発力によって、盛大に炎を撒き散らしてくれる。


 上田芳崎コンビはそれぞれの魔法武器を振るって、どんどん火の手を広げて行ってくれる。勿論、『魔法剣士』である中嶋は、『炎剣サラマンドラ』でもって二人に負けない勢いで炎を振りまく。

 すでにして、右を見ても左を見てもオレンジ色に輝く炎が渦巻き、耐熱装備がなければ苦しい状況になっていただろう。ボロ布の服しか着てないゴーマはもっと大変だね。もう体に直接火がついていなくても、耐えられないほどの灼熱が周囲一帯を包み始めている。

「ブゲェ……グウウゥウエエ……」

 赤子を抱えた母親らしきゴーマが、高熱にあえぎながら必死に通りから逃れようと歩いているところを、アルファの健脚が撥ね飛ばし、燃え盛る木造平屋へとぶち込む。邪魔だよ、こっちは急いでいるんだから、フラフラ歩いてんじゃあないよ。

「おい、桃川。奴らお出ましだぞ」

 隊列の先頭を、火炎放射をぶっ放しながら突き進む山田から、敵影見ゆとの報告。

 これまで道すがら始末してきた巡回中の警備兵の小勢とは異なり、一体のゴグマが100近いゴーマを従えて、通りの先に陣取っているのが僕にも見えた。

 流石に襲撃を見越してそこら中に兵を配置しただけある。防衛線の展開もなかなかの早さだ。

 けれど、その程度じゃあ今の僕らは止められないよ。

「山田君、懲らしめておやりなさい」

「はいはいご老公、了解だぜ」

 アルファの背の上でふんぞり返って言うと、山田君から的確な返しがきたもんだ。意外と時代劇とか好きだったりするんだろうか。

 ともかく、ここは山田に任せておけば大丈夫。ロイロプス二号車は、伊達じゃない!

「突っ込むぞ! 退けぇえええええっ!」

 山田の雄叫びと共に、ロイロプス二号車が急加速。強行突破と理解した前衛組みが、通りを塞ぐように展開するゴーマ部隊へ、先んじてそれぞれの攻撃魔法を叩き込む。勿論、僕ら後衛組みもグレなどをぶち込んでやるが、

「グブブ……ブングルドガァ!」

 大きな盾を構えたゴグマは揺らがない。ただのゴーマ兵は火が着いて大騒ぎしている奴らもそれなりにいるが、完全武装のゴーヴ兵くらいだと陣形を維持し続けている。

 一発で突き崩すには、やはりさらなる威力が必要だ。

 さぁ行け山田、『重戦士』の真の力を見せつけてやれ。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ドガガッ、ギィイイン!


 と、けたたましい衝突音が響く。特に武技や魔法の威力はない。純粋な突進力でもって大盾を構えるゴグマへとブチかましたのだ。

「ブガッ……ググギガァ……」

 流石のゴグマも重騎兵山田の突撃には耐えきれず、通りの脇まで転がっていた。しかし、ダメージはそれほどでもない。頭を振りながら、のっそりと体を起こして行く。

 恐るべきタフネスだが、こっちだってお前くらいの相手にはもう慣れている。

「『一閃スラッシュ』」

「『大打スマッシュ』」

 上田芳崎コンビの武技が、立ち上がる寸前の無防備なゴグマを襲った。

 繰り出した武技は共に、最初に習得した基本技。だからこそ、最も使い慣れた鋭い一撃は正確にゴグマの急所を捉える。

 野太い首が半ばまで切り裂かれて大量の血飛沫を上げるのと同時に、デカい頭が斧で叩き割られ、分厚い頭骨の破片と脳漿を炸裂させた。ゴグマとはいえ人型モンスターの定めとして、頭をやられれば即死は免れ得ない。

 高耐久のゴグマでも、山田が崩し、前衛二人がトドメを刺す。流れるようなコンビネーションによって、あえなく地に倒れ伏したのだった。

「————『双烈ブレイザー』」

 ゴグマへのトドメとは別に、いまだ踏ん張っているゴーヴ兵へと中嶋の連撃武技が襲い掛かる。

 右手には『炎剣サラマンドラ』を、左手には『クールカトラス』を握った魔法剣二刀流で、炎と氷の斬撃をゴーヴ共へと喰らわせる。本来、連撃系の武技は単体に対して連続攻撃を仕掛けるものだが、使い慣れれば雑魚を次々と切り倒して行くのにも使える。中嶋の腕前は、難なくそれを行えるほどには熟達していた。剣崎の指導の賜物だろうか。

 ともかく、中嶋が『双烈ブレイザー』で目ぼしいゴーヴ兵を薙ぎ払ってくれたお陰で、すっかり進路上から邪魔者は消えた。これで僕ら後衛組みも楽に通過ができる。

 転がったゴーマ兵の背中をアルファで踏みつけながら、通りを突き進む。

「もうすぐ南門だ。準備はいい?」

「へっ、ようやく体が温まって来たところだぜ」

 風の魔法剣で延焼を拡大させながら、上田が自信満々に答える。他の面子も、気後れしているような者は一人もいない。勿論、僕自身も準備はバッチリである。

 今のところは負傷も消耗もしてはいないので、当初の予定通りに南門を襲えるだろう。王国で一番大きい南の門は、さっき突破して来た奴らよりも充実した戦力で守られている。けど、今の僕らなら大丈夫。別に門を開いて突破するワケじゃないしね。

「見えて来たな————」

 僕は先頭をひた走る山田と並走しながら、市場通りを抜けて王国一番の大通りへと出て、南の大門を確認した。普段から二体ものゴグマの門番が配置された厚い防備の施される場所だが、今回はさらなる防御が成されている。

 高さ5メートルほどの巨大な門は固く閉ざされており、その前に陣取るのは実に四体ものゴグマである。いずれも全身を覆う鋼の鎧兜で武装しており、手にはそれぞれの属性魔力が輝く武器が握られていた。

 極めつけは、四体の内の一体は四本腕であること。間違いなく、メイちゃんがピラミッド城でぶっ倒したという大ボスの四腕ゴグマだ。勿論、四つの手の全てに武器が握りしめられており、なかなかの迫力である。

 けど、コイツがいることも織り込み済み。強敵であることは間違いないが……別に、倒さなくっても構わないのだろう?

「さぁ、行くぞ横道、気合入れろよ————『完全変態系リモンスターズ』解放」

 僕はアルファの上で高らかに横道の杖こと『無道一式』を掲げる。掌には『黒の血脈』を発動させて自ら血を滲ませ、杖に吸わせていく。全力稼働じゃなければ、棘で手を刺すほどじゃない。そのまま使うとアレ痛いし、痛み止め併用して対策するのも手間だしね。

 さて、僕の狙いは、南門を守る守備隊長たる四腕ゴグマだ。

「————『百腕掴み』」

 異形の頭蓋骨が牙を剥いて大口を開くと、血色の魔法陣を描き出し、底無しの胃袋にため込んだ獲物を解放した。

 飛び出してきたのは、やはりキメラのように様々な特徴を併せ持つ部位が交じり合った肉塊。しかし、形状そのものはムカデのようなシルエットとなっている。ただし、生え揃っているのは百の足ではなく、腕だ。

 この『百腕掴み』は、より相手を拘束しやすいように、杖から吐き出す肉体の形状を再構築したものだ。

完全変態系リモンスターズ』は横道自身が嫌というほど披露してくれたように、無数のモンスターの特徴をもってして攻撃も防御もできる万能技だ。しかし、だからといって奴と全く同じようには使えない。恐らく、この杖を常に全力解放の無制限で使い続ければ、術者である僕自身も喰らわれてしまう気がする。少なくとも血は吸い尽くされそう。

 そういうワケで、『無道一式』を上手に使うことを考えて、試行錯誤するのは当然のこと。

 で、最初に開発したのが『百腕掴み』だ。

 バズズ戦では巨人化を果たした奴を一瞬とはいえ止めきるほどの拘束力を発揮してくれた。あの時は取り込んだ獲物全開放だったが、必要なのは相手の体を掴む腕部と、振り解かれないパワー、引きちぎられない耐久力だ。

 そうして効果的な拘束技を目指した結果……ムカデの足が腕に変わったような、超キモい肉体をぶっ放す『百腕掴み』というわけだ。

 赤黒い筋線維剥き出しの肉をベースにして、ゴーマやゴーヴの人型の手に、ゴグマの野太い腕。鍵爪の生えた恐竜や鳥型モンスターの脚に、熊やカエルなどなど、とにかく『掴む』ことのできる形状の部位をありったけ生やしている。

 ゴグマの胴回りほどもある野太い大蛇のような長くくねる肉塊から、そんな幾つもの雑多な腕を生やした気色悪い物体が、恐ろしい速度で四腕ゴグマへと向かう。

「グベラ、ンバッ! ゴンダルガァ!?」

 おっと、流石の四腕ゴグマもあまりのキモさにドン引きしているぞ。その気持ち、よく分かるよ。僕も初めて発動させた時、こんな生命を冒涜するような存在を作り出してよかったのか、と割と真剣に思ったし。でも使う。強いから。

 しかし流石は大ボスだけあり、四つの手に握った武器を素早く構え、迫りくる『百腕掴み』を迎え撃つ構えだ。

「させっかよ」

 そこで、上田が投げつけた閃光ナイフが炸裂。完璧なタイミングだ。

 目の前で弾けるフラッシュに視界を奪われるのは一瞬のこと。だが、すでに目前まで迫っていた『百腕掴み』が四腕を絡め捕るには十分すぎる隙となった。

「ブグル、ブンダゴォオオオッ!」

 自慢の四刀流を繰り出す間もなく気持ち悪い肉塊の腕に絡みつかれ、四腕ゴグマが叫ぶ。四本もの腕を持つゴグマだが、それ以上の腕が無造作に掴みかかりその動きを封じる。

 よし、この感じなら30秒は余裕で持つだろう。アクションゲームで30秒間も相手を拘束する技があれば、ぶっ壊れ性能である。十分すぎる時間が稼げたぞ。

「今だ、葉山君」

「よっしゃあ、頼んだぜ、キナコぉおおおおおおおおおっ!」

「プガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 叫ぶ葉山君に呼応して、キナコ単騎で南門に向かって雄たけびを上げ突進していく。

 着ぐるみのようなずんぐりむっくりなキナコが四足歩行で全力疾走する姿は、どこかアニメチックに可愛らしいが、見た目に反した素早い疾走の最中、その丸い体から俄かに青白い光が発する。

 どんどん高まる魔力の気配が臨界に達し、フラッシュが炸裂するような眩い輝きが弾けると、


 グウォオガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!


 魔獣、と呼ぶに相応しい巨躯へと変貌を遂げた、霊獣キナコへと変身する。

「グゥバラ! ゼバ!」

「ダギラ、ドンバァーザ!?」

「ンバ! ンバ!」

 突如として出現したドラゴン級の巨大モンスターを前に、さしもの門番ゴグマも驚いた。それもそうだろう、なにせ霊獣キナコはギラ・ゴグマと正面切って殴り合いできるほどの怪物だ。お前らでも手に余る、明らかに格上の存在なのだから。

「グガァアアアアアアアアアアアッ!」

 獰猛な咆哮と共に、霊獣キナコは手近なゴグマへと殴りかかる。完全変態横道を叩きのめし、巨人化バズズを殴り飛ばした、その強靭極まる拳を受ければ、鎧兜を着込んで装甲化を果たしたゴグマといえどただではすまない。

 ゴシャァアアアン! とド派手な音を立てて、分厚い胴体装甲を凹ませたゴグマが真後ろにぶっ飛び、閉じた門扉に直撃。その衝撃によって門は大いに揺らされ、城壁に展開していたゴーヴの射手共が何体か落っこちて行った。

「ゼンバ、グダァーバ!」

「ドゥンガァアアアア!」

 しかし門番ゴグマも精鋭である。格上モンスターであるキナコに対して、怖気づくことなく武器を構えて立ち向かう。

 けれど、今この瞬間に重要なのは、最初に殴り飛ばした奴がダウンしているということだ。

「杏子」

「どっせえええええええええええええい!」

 土星砲、発射。

 キナコを繰り出すよりも前から、土星砲のチャージを杏子は開始していた。開幕ぶっぱは基本なので、この辺は慣れたところ。今回は愛車グリリンに乗っているので、移動と射線の確保は、グリリンが自動的に調整。杏子は合図を待って、真っ直ぐ前にいるターゲットにブチかませば良いのである。

 この土星砲は巨人化バズズの肉体さえも貫く、僕らの中での最大威力を誇る攻撃魔法だ。まだキナコにぶん殴られてピヨっているような状態で、クリティカルヒットを喰らって平気でいられるはずがない。


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオッ!


 キナコのパンチが炸裂した以上の轟音を響かせて、発射された巨岩がダウン中のゴグマへと直撃。ゴグマの巨体さえ覆うほどの巨大な大岩砲弾は、見事に全身を圧壊させた。

 激しい土煙を撒き散らすと共に、潰れた全身から一挙に押し出された膨大な血肉が門扉にぶち撒けられる。岩の下からは、僅かに足先だけが覗き、ピクピクと痙攣しているのが見えた。

「一体仕留めた! まだ拘束は持つ、続け!」

 フリーのゴグマはあと二体。その内、一体はキナコがそのまま倒し切ればいい。もう一体はウチの前衛組みにお任せだ。

「任せろよ————あのハンマー持ってる奴狙うぜ!」

「オッケー、行けよ山田ぁ!」

 ロイロプス二号車を猛進させる山田の呼びかけに、芳崎さんが答える。

 さっきと同じように、山田は二号車をぶつけるかと思いきや、門前で戦うキナコの邪魔になると判断したのか、寸前で急停車。車体が停止するよりも前に、急ブレーキの勢いで押し出されるように、山田は飛んだ。

「うぉおおおおおおおおおおおおおお、らぁっ!」

「ダッ、グボガァ!?」

 上空から思いきり大斧を振り下ろす山田の攻撃に、門番ゴグマはなんとか反応した。太い鋼鉄の柄に、青い色合いからして氷か水の属性を宿すであろうデカいハンマーを掲げて、山田のジャンプ攻撃を受けきった。

 だが、上から渾身の勢いでもって叩きつけられた山田の一撃には、ゴグマであっても軽くはなかったようだ。大きく腰を落とし、その威力と衝撃に耐えるために体が硬直している。

 そして、そんな僅かな隙でも突いていける連携力が、今の彼らにはあるのだ。

「オラァッ! 『真一閃エルスラッシュ』」

「ウラァッ! 『(大断撃破ブレイクインパクト』」

 受けの体勢で硬直したゴグマに、両サイドから間合いを詰めていた上田芳崎コンビが最大威力の武技を放つ。

 ボンはこの威力の武技が直撃しても耐えきっていたが、ゴグマではどうか。

 両足に装着された鋼のプレートは火花を上げて武技に抵抗したが、流石にこの威力の直撃には耐えきれなかった。上田の剣は見事に装甲を切り裂き、芳崎さんの斧は打ち砕いてみせる。鎧の守りを突破され、いまだ衰えぬ武技を生身に受け、

「ンボォアアアアアアアアアアアッ!」

 両の太ももを半ば以上寸断され、絶叫を上げながらゴグマの巨体が傾ぐ。

「セヤァッ!」

 そうして、どっかりと仰向けに倒れ込んだところで、処刑人のように斧を振り上げ待ち構えていた山田のトドメがゴグマの首元に振り下ろされた。正確無比にして強烈な一撃、狙い違わず首を断ち切り、生首がゴロっとその場へ転がった。

 よし、これで二体目のゴグマを撃破。

 いや、三体目だな。

「ガァアアアアッ! ゴォオアアアアア!」

 すぐ傍では、猛烈な勢いでキナコが地面を殴りつけている。地面ではなく、倒れたゴグマをボコボコにしているのだ。

 ゴグマの太い体が地面に陥没するほどの威力で殴り続けており、拳が振り下ろされる度に、血肉と砕けた鎧の破片が飛び散っている。

「もう充分だ、撤退」

「よし、もういいぞ、戻れキナコ!」

 葉山君の呼びかけに、キナコは素早く身を翻してこちらへと戻って来る。その途中で、再び光に包まれ、変身解除。霊獣化は消費魔力が激しいので、瞬間的な破壊力が欲しい時は素早く解除するに限るのだ。

 キナコに続いて、前衛組みも早々に引き上げてくる。

 四腕ゴグマを除き、三体もの門番を倒し切った。戦果は十分。あとはこの門を炎上させるだけ。

 というか、すでにして僕ら後衛組みは火の手を放っているけれど。

 僕と姫野はエアランチャーで焼夷グレを打ちまくり、城壁に陣取る射手が邪魔しないように炎を振りまいている。中嶋も火属性魔法を連射するのに専念させた。

 そして、彼には最後の仕上げをしてもらう。

「————『火炎防壁イグニス・ウォルデファン』」

 発動させたのは、火属性の中級範囲防御魔法。起点はちょうど門扉の手前。轟々と燃え盛る炎の壁が瞬間的に立ち上り、大きな門扉の全てを包み込んでいく。

 防御魔法のいいところは、効果が継続することだ。中嶋には出来るだけ長く、広く、燃え続けるように火炎防壁イグニス・ウォルデファン』を使ってもらった。追加の火種がなくても、しばらくの間は燃え続けたまま門を塞いでくれる。少なくとも、一般ゴーマがこの燃え盛る門を通って外へ逃げることはできない。

「はい、姫野さん。これ戦利品だからちゃんと保管しといてね」

「普通この状況で武器拾う?」

「貴重な魔法武器が落ちてるんだから、そりゃ拾うよ」

 四腕ゴグマの拘束を解いた僕は、そのまま『百腕掴み』を大きく一振りして、倒れたゴグマ三体の武器をそれぞれ拾って回収しておいた。本当は四腕の奴の分も回収したかったけど、こういうところで欲をかくのは危険だ。だから武器は三本分で我慢した。

 救護車であり、輸送車でもあるロイロプス一号車に乗る姫野に、回収した武器を押し付けながら、僕らは再び走り出す。

 炎上する南の大門を背にして、次は籠城地点である東門を目指す。作戦は、今のところは順調。

 けれど、これだけ分かりやすく大騒ぎを起こしたのだ。すでに、オーマは対策を打っているだろう。さて、奴らはどう出てくるか……

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒャッハー!ゴグマも楽勝だぜぃ!
[良い点] 破壊活動が楽しそうでないよりです [一言] 破壊活動をやっても一切躊躇しないってのはイイ感じです コタ君が中心にいると引き締まりますねぇ~ 異変があれば賢者も気づくハズだからどうなることや…
[良い点]  ゴグマまでは安定して倒せるようになったか。  今この場に蒼真悠斗達が来ても邪魔にしかならんから、遺跡の屋根が崩落するまで、例え彼らがゴーマ王国の異変に気付いたとしても、委員長には体張っ…
感想一覧
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