第308話 恋愛禁止ブレイカー(2)
「ちょ、ちょっと待って……落ち着いて、早まった真似は止すんだ……」
と、まるで刃物でも突きつけられているかのような事を口走っている僕だけれど、現に、絶体絶命の窮地に立たされていた。
「確かに、今のウチはドキドキしてるし、勢いでやってるとこもあるけど……後悔はしてない」
いつもより、ちょっと恥ずかし気にそう言う杏子だが、ちょっと恥ずかしいじゃあ済まされない恰好をしている。
今の杏子は、脱いでいた。
全裸ではない。だがしかし、際どいラインを描くユキヒョウ柄下着の上下を装備している。
肉感的な褐色の肌に、僅かに局部を覆う白黒模様の布地が栄える。なんて装備だ、全裸よりエロい。
僕は調子に乗って露出高めのセクシーなデザインにしたことを、心の底から後悔した。まさかこの火力全振り装備が僕自身に向けられるなんて……
「い、勢いでやっていいことと悪いことって、あると思うんだよねぇ」
「こんなの、勢いじゃないとやってられないっての」
それは分かる。分かるけれど、今はホントに困るから。
どうしてこうなった。と言うほど、予想外の突飛な行動とも言えないだろう。
ゴーマ王国との一大決戦を控えた前夜だ。未練を残さず解消しておく、最後の機会。
僕はみんなとの食事を終えた後は、明日の準備をほどほどにチェックしてから、自室へと戻った。
戻ったら、杏子がいた。僕を待っていてくれたようだ。
決戦前夜に、彼女とゆっくり語らうなんて素敵やん、などと思っていると杏子が脱いだ。
止める言葉を発する間もない、速やかかつ見事な脱ぎっぷり。目の前でスルスルと、あれだけ見慣れたセーラー服を脱がれると、それだけで一気に現実感がなくなった。まるで、あの雲野郎の淫夢トラップにかかったかのようで。
そしてユキヒョウ柄下着となった夜の戦闘準備完了した杏子を前に、この命乞いレベルの情けない狼狽えようになっている今の僕に至っている。
「ウチの気持ち、分かるでしょ」
「……うん、分かるよ」
分かっているつもりだ。杏子が僕のことを、どれだけ思ってくれているか。
直接的なアプローチをかけられるのだって、これが初めてじゃあないしね。でも、ここまで迫られたのは初めてだ。僕の対応限界を一足飛びに越えてきている。恐るべきユキヒョウ装備。
「なら、僕の気持ちも、分かってくれるよね」
ちょっとずるい言い方だと思う。でも、他に言い様がないほど追い詰められているのも事実。そもそも、僕は真っ直ぐ誠実、素直な良い子でもなんでもない。卑怯卑劣、相手の裏をかく絡め手が基本の『呪術師』なもので。
「今は、今はまだ、こんなことをするワケにはいかないんだ」
「そんなに、ウチとはイヤ?」
「頭を下げてお願いしたいほどだよ、でも、今はダメなんだ。そうしたら、きっと僕は後戻りできなくなる……杏子が思ってるより、僕は弱いし、余裕もない、限界ギリギリなんだよ」
いつの頃からか、人の前で弱音を吐かなくなった。
指揮官が不安を見せれば、すぐに部下に波及し、士気の低下に繋がる。なんて理屈を聞いたことはあるけれど、真面目にそれを実践しようと決意をしたワケではない。なんとなく、自然と、僕はそういう風になった。
多分、人の上に立つって、みんなを率いて引っ張っていくって、そういうことだと思うから。
「だからだよ。小太郎はもう一杯抱え込んでるんだからさ、少しくらいいいでしょ。ウチのことエロい目で見てくれてんなら、好きにさせてあげたいの」
ぐはぁ、血を吐くような思いとは正にこのことか……杏子は僕と付き合うとか付き合わないとか、そんな段階の話をしているんじゃあなかった。僕が無理して頑張ってるから、体を使って慰めてやってもいいなんて、そんな決断を下せるほどとは。
でもダメだ。それをすると、本当に僕は全てを投げ出してしまうかもしれない。そこだけは、どうしても自分に自信が持てない。みんなを助けるという覚悟を捨ててしまうほどの危険性が、杏子の魅力にあるのだから。
「逃げたくなったら、駆け落ちしてもいいって、言ってくれたよね」
「うん。今からでもいいよ」
ごめんね、そこまで不安に思わせるくらいの作戦しか立てられなくて。成功率100%、勝ち確、やらない理由がない。それくらい楽勝に思える戦況になれば良かったけれど、今の僕らじゃ結局のところ、イチかバチかの賭けに出る部分は絶対に出て来てしまう。
万全の準備はした。練習もした。メンバー全員の固い結束もある。それでも勝利は盤石とは到底言えない。
やっぱり直前でビビって、逃げ出したっておかしくない、危険な作戦だ。
「僕にはその言葉だけで十分だよ。その上、こんなに迫られて、嬉しいのとエロいのとでもう冷静に考えられないくらいだ。これ以上は正常な判断できなくなる」
「いいじゃん、全部忘れて、ウチに甘えていいんだよ」
「そしたら絶対、立ち直れなくなるから。言ったでしょ、僕は弱いんだよ」
だからこれでいい。ここまででいい。
偉そうにリーダーぶってる僕が、みんなが思うよりイッパイイッパイで、自信も余裕もないって、知ってくれていればいいのだ。それはきっと、僕のことを心から信頼してくれるメイちゃんにもないことだ。
杏子だけが、僕の弱さを知っていてくれるなら、それだけで十分なんだ。
「お願いだよ。あと少し、もう少しでみんなを救える。このダンジョンから脱出できる————だからこれ以上、僕を誘惑しないで」
「はぁ……まさか、ここまで拒否られるとは思わなかった」
ようやく諦めてくれたのか。あるいは、事ここに及んで据え膳食わぬ僕に呆れたか。杏子はあからさまに大きな溜息をついた。
「ウチ、これでも覚悟して来たんだぞ」
そして、その猫のように魅惑的な目から、ポロリと一粒の涙が零れ落ちる。
「あっ……ごめん……」
反射的にその言葉が出るけれど、どの口で謝罪など言えるのか。
杏子の泣き顔を直視する勇気などなく、僕はどこまでも気まずく視線を逸らし、俯き————そして次の瞬間、艶めかしい温かさと柔らかさに、全身が包み込まれた。
「はい、捕まえた」
「っ!?」
一瞬、思考が飛ぶ。
捕まった。体が動かない。僕は今、杏子に抱きしめられている!
「はっ、あぁ……」
何か言おうとして、情けない声しか漏れなかった。
仕方がない、この全身に受ける感触はあまりにも魅惑的で官能的。際どいビキニラインの下着しか身に着けていない火力装備の杏子は体感的には全裸である。艶めかしい褐色の肉体がダイレクトに僕の体へ熱を伝える。
その熱烈な直接攻撃は瞬く間に僕のライフを削って行く。やめて、僕の理性はもうゼロぉ————っていうか、これはガチでヤバい!
ただでさえ背の低い僕が、真正面から長身の杏子に抱きしめられれば、僕の顔はちょうど胸元に。情熱的な熱さを宿す大きな胸に挟まれて、僕はその魅惑の谷間から彼女の顔を見上げる。
「もう、小太郎は難しく考えすぎ」
悪魔が笑っていた。いや、これもう淫魔だよ完全に。
少しだけ涙の跡が残る顔は、艶やかな笑みが浮かんでいる。
騙された。僕はいとも容易く騙されてしまったのだ。女の涙に。
レイナや小鳥遊の涙には何とも感じなかった僕だけれど、杏子の涙にはこれほどまでにコロっと騙されてしまった。なんたる油断。なんたる浅はか。
後悔しても、今更もう遅い。これはもう完全に詰んだ。具体的には、あと10秒もせず僕の理性は消滅する。
「大丈夫、ウチに任せなよ。こういうの……初めてだけど、まぁなんとかなるしょ」
ああ、魅了の魔眼ってこういうの? 淫魔の微笑みに、若干の恥じらいが含まれた表情で見つめられながら、そんなことを言われれば僕はもう手も足も出ない。いや手も足も今まさに出ようとしているけれど、違う、そうじゃない。
理性消滅までのカウントダウンは残り約5秒。
僕に残されたこの最後の時間で、何か……何か手を打たねば、僕は流されるがまま童貞卒業式突入だ。どうする、桃川小太郎!?
1:聡明な桃川小太郎は、ここで起死回生のアイデアを閃く。
2:偉大なるルインヒルデ神が奇跡を起こしてくれる。
3:性欲は正直である。
残り2秒。僕はすでに杏子の大きな胸に顔を埋めながらも、運命の選択をする。
「れっ、レムぅ……」
「はい、あるじ」
扉の外から、ひょっこりと顔を覗かせる銀髪幼女なレム本体。
そう、僕は自室に戻る際にはレムを同行させていた。基本、毎晩一緒に寝ているから。
そして部屋に杏子がいるのを見て、自動的に気を利かせてくれたレムは、そのまま音もなくフェードアウト。部屋のすぐ外に待機していたのだ。
恐らく、僕がこのまま選択肢3の色欲に屈した残酷な結末を選んでいれば、レムはそのまま門番にジョブチェンジして邪魔者の侵入を防いだことだろう。
だがしかし、最後の瞬間に僕が選んだ選択肢は、やはり1。この『呪術師』桃川小太郎、初戦の鎧熊をはじめ、伊達にピンチの連続を切り抜けてはいない!
この性的に詰んだ状態から、一発大逆転の策としてレムを召喚。仲間の邪魔を入れることで、良い雰囲気を完全破壊!
「むぅ、小太郎、往生際悪すぎぃ」
「ご、ごめん杏子……」
それでも僕は、今はまだ君の体に溺れるわけにはいかない。逃げ場はいらない。背水の陣でゴーマ王国との決戦に挑むのだ。
「はぁ……しょうがない、今日はレムちんと一緒に寝るかぁ」
「えっ、寝るの? 一緒に?」
「おい、これ以上ウチに、女として恥かかせないでよね。添い寝くらいはさせろ」
「その恰好で?」
「ウチ、寝る時は基本こんなだし。てかブラは外すし」
「その恰好のままでお願いします!」
そうして、僕らは親子三人川の字で、みたいなポジショニングで寝ることに。
右隣には布団に入ったところでますます魅惑的な杏子がいて、左隣には別に寝る必要もないけど一緒に寝転がってくれるレムがいる。
つまり、すぐ隣の杏子に誘惑されつつも、逆隣のレムのせいで手出しも決して許されない、僕の我慢が限界突破してもどうにもならんという、僕のポジションだけ危険な地獄のようなフォーメーション。
さようなら安眠。明日の作戦、一日延期しちゃおうかなぁ……
『淫紋』:精と魔の相転移。愛は一種の呪いでもあり、性交はそれを成す儀式として遥か古の時代より用いられてきた————
翌日。作戦決行当日。
目覚めたら、僕の腕が杏子の胸に挟み込まれていて、いきなり作戦失敗しそうになった。
いやぁ、葉山君が空気を読まず「みんな起きろぉーっ!」と余計な目覚ましコール叫んでくれなかったら、今度こそ僕の理性消滅で終了だったよ。
「おはよ、小太郎」
「……おはよう」
僕は今、朝チュンというのを経験しているのだろうか。朝日の光は差し込んでないし、スズメの声も聞こえないけれど、布団から身を起こしている素敵な女性の裸があれば、シチュエーションとしては条件を満たしているといってもよいのでは。
勿論、朝から理性全開で、僕は視線逸らしに鋭意努力中である。
「ちゃんと寝れた?」
「うん」
必死に目を瞑って耐え忍んでいる内に、いつの間にか寝落ちしていたよ。
寝覚めからしてドタバタしたけれど、調子は悪くない。あんだけ性欲抑えて寝たというのに、今はやけにスッキリしている感じすら覚える。強いて言えば……魔力がやや減っているような気がする。
まぁ、別に自分の魔力量なんてMPゲージで表示されてるワケでもないから、大体の体感でしかないけれど。気になるほどの魔力消費じゃないし、作戦実行時点では回復するくらいの感覚だ。
なんて、僕は自分のことを考えながら、なるべく杏子を意識しないように着替えを済ませて行く。その短い間にも、他愛ない会話を交わすけれど、それだけのことが妙に照れ臭く感じてしまった。
「じゃあ、僕は先に行ってるから。一応、レムは残しておくよ」
「そこまでしなくても、ちゃんとバレないように出てくって」
今更、恋愛禁止のルールなんて、って僕でも思うけれど、建前としては一応ね。わざわざ僕と杏子が同じ部屋から出てくる姿を目撃されて、余計な騒ぎを起こしたくはないさ。
そんなワケでレムを警戒役に杏子の下に残して、僕は一人、部屋を出て妖精広場へと向かった。
「みんな、おはよう。軽く朝食をとってから、出発しよう」
今作戦は日の登り切った朝に開始とすることにした。真夜中でも、明け方でもなく、一日の活動をみんながし始める頃。僕らの感覚でいけば、ちょうど一時間目が始める頃合いだ。朝起きて、朝食をとって、それから学校へ通学、とそんな日常的な感覚のタイムスケジュールで進行する。
ゴーマ王国へはこちらから奇襲を仕掛けるような形ではあるけれど、夜闇に紛れないのは、侵入後は視界が明るい方が良いからだ。
ゴーマ側からは、レム率いる陽動部隊を見つけてもらわないと困るし、僕らとしても奴らの動きがよく見える方が良い。今作戦は王国へ乗り込んだ直後からは、派手に火をつけて暴れ回るので、夜の暗さはあまりメリットにならない。それに王国内を知っているのは僕だけで、それだってざっと見て回った程度。視界が制限される夜に、初見の街を走り回るのは不安が残る。
そういうワケで、全員集合してから広場で朝食。杏子も何喰わぬ顔で合流した。
食べながら軽くブリーフィングを済ませ、各自最後の装備確認をしてから、いよいよ出発だ。
「今日でこの拠点ともオサラバか」
それなりの準備期間を経たけれど、あっという間だったな。学園塔の時よりも、準備が忙しかったし。時間的余裕も人手もなかったから。
けれど、ここは僕らが再起を図るための希望の砦となってくれた。作戦決行の今この時まで、ただの一度もゴーマやモンスターの奇襲もなく、僕らを匿い続けてくれた。全ては、『彷徨う狂戦士』のお陰である。
「ルインヒルデ様、妖精さん、どうか作戦が成功しますように」
最後にみんなで妖精広場の妖精さん像と、それぞれの天職神にお祈りしてから、いざ出発。僕らは列を成して、作戦開始地点へと速やかに移動を開始する。
この現地への移動もリハーサル済み。勿論、こんなタイミングで『彷徨う狂戦士』と出くわすこともない。彼は現在、僕の想定通りの場所を、今日も優雅にお散歩中である。
僕らの方も、気が付けば歴戦のクラスメイト揃いだ。特に気負いもなく、雑談交じりに歩きながら進んで行く。
けれど、ちょうど最初の目的地となる、地下から地上へ出るポイントへと到着する頃には、自然と口数も減ってゆき、今では鋭く周囲の気配を探る鋭い目つきへと変わっていた。
ここは幾つもある地下鉄駅の一つ。潜入場所と定めた王国の廃棄場からは最も近い駅だ。単純に最寄りの入口ならば、もっと近いところもあったのだけれど、出発はここからでなければいけない。
その理由は、この場所を見れば一目瞭然だろう。
ここは地下駐車場のような空間となっている。通常の駅ホームもあるが、それに隣接するように広がっている。
武骨なコンクリート風の灰色の石造りの壁と床に囲まれただけの空間を、薄暗い照明が照らし出す。そんな不気味というか物寂しいというか、そんな空間が広がっているだけで、特には何もない。ないのだが、この広さも高さもあるまま、地上へ向かって緩やかなスロープを描いて通じているのだ。十トントラックでも楽に出入りできるほどの通路である。
ちなみに、地上への入口の方はシャッターで閉じられているのだが、これの開閉は駅にあった石板で操作が可能。地上側からの侵入はシャッターで防げるし、こちら側からは好きな時に開けられる。
つまり、大型車を発進させる車両基地としては、ここがうってつけというワケだ。
「じゃあ、姫野さんと山田君はロイロプスに乗って」
「はーい」
「おう」
あまり気乗りしない姫野の声音と、いつも通りの返事をくれる山田。二人が乗り込むのは、別々のロイロプスである。
『ロイロプス一号車・装甲輸送仕様』:今までお世話になっていたロイロプスを、今作戦のためにフルカスタムした一台。最大の特徴は、搭乗者たる姫野を守るためのコンテナを背負っていること。杏子の簡易トーチカをベースに、主にゴーマ武器から精製した金属素材によって形成したコンテナは、奴らのショボい弓矢など何発当たろうが貫くことはできない。コンテナ内は緊急治療を想定した作りになっており、二人までなら負傷者を収容できる。従来通りの輸送車として物資なども積みこむと同時に、胴体側面には作戦で使用する焼夷グレネードなどの消耗品を収納した小型コンテナも設置してあり、そこから補給が可能となっている。一号車は常に隊列の真ん中に配置させ、治癒と補給を専用に行う役回りとした。
『ロイロプス二号車・重装突撃仕様』:『重戦士』山田が騎乗する専用機。ゴーマ軍の隊列を真正面から突破するために、ただでさえ重量級なサイのモンスターであるロイロプスに、世紀末感溢れるいっぱいトゲトゲのついた攻撃的な装甲を全身に纏わせた。さらに主武装として大型火炎放射器を搭載。山田はコイツを使って王国へ火を放つ。
「杏子は————もう乗ってるね」
「やっとグリリン乗り回せるし!」
ここ最近はずっとこの地下駐車場に隠しておいたグリリンに、杏子は嬉々として乗り込んでいる。すっかり愛車だよね。
このグリリンの方にも装甲の増設と、杏子がぶっ放すための『焼夷弾』を始めとした各種専用弾を納めた弾薬箱なんかも鞍のすぐ傍に追加させた。
「葉山君も、大丈夫そうだね」
「おうよ! この日の為に、めっちゃ練習したからな!」
カラっとした笑顔で、ラプターに騎乗した葉山君が答える。
このラプターは、マジで普通のラプターである。勿論、『屍人形』にはしてあるけど。
葉山君は本来、僕と同じ魔術師クラスなので、これといった身体能力強化はない。戦場をただ走り回るだけでも大変で、さらに戦闘も加わるとなれば、どこまで体力がもつか分かったものではない。特に今回は王国内を大きく移動することになるので、移動速度の低下は死に直結する。
そこで、葉山君にも今回は騎乗してもらおうと相成った。本人の言う通り、練習の甲斐あってラプターに乗るのは随分と様になってきたし……なにより、葉山君の右腕を通じて、どうも普通に乗りこなす以上の制御力を発揮しているようだ。
恐らく僕が移植した右腕に宿る闇精霊が、同じく呪術である『屍人形』のラプターに干渉し、影響を与えているのではないかと思っている。事実、葉山君が手綱を握っていると、レムもそのラプターの操作が非常にしにくい、と言っていたのだ。何らかの影響があるのは間違いない。
ともかく、葉山君も一端の騎兵として活躍できるくらいの機動力は期待できる。
「よし、乗れる人は全員、乗ったね」
葉山騎兵化理論と同じく、これで足の遅い面子は全員が騎乗した。
上田、芳崎、中嶋、の三人はいずれも身体強化の恩恵による脚力の増大に加え、移動系武技も獲得している。そしてベニヲは狼の疾走力を持ち、キナコもあのずんぐりむっくりな体型でも、野生の熊同様に四足歩行形態だと人間を越える速力を発揮する。動物の熊でも時速50出るのだ。魔物のキナコなら、さらに速度も出る。
僕も愛車のアルファに乗り込めば、これで完全に出撃準備が完了だ。
さぁ、ゴーマ王国を落としに行こうか。




