第306話 同時多発テロ演習
「————今から皆さんには、ちょっとテロリストになってもらいます」
はぁ、みたいなリアクションは、僕の戯言のスルースキルをみんなが習得済みの証である。まぁ、神の名を叫んでは自爆特攻しちゃうくらい乗り気になられても困るけれど。
「はい注目。今回の王国攻略において重要なのは、この三点」
僕は最早、委員長ではなく教師のように、お手製の黒板モドキに板書していく。
「速やかに城壁を越えて侵入。陽動と攪乱のための大規模な放火。そして、籠城地点の確保だ」
作戦はまず、王国内に入れなければ始まりもしない。
ここで躓けば、一旦引いて機をあらためるしかないだろう。ただ、そうなると折角、侵入に最適だと見極めたポイントがバレてしまうし、相手の警戒もより上がる、あるいはこちらへの追跡を許すかもしれないので、一発勝負で成功させるのが前提となる。
ヤマタノオロチの時は、ただそこにいるだけのボスモンスターだったから、幾らでも仕切り直しができた。けれど、相手は人間並みに知恵の回るオーマ率いる大軍団。こちらの動きを見た上で、様々な対応をとってくる。僕の想定を超えてくる可能性だってあるのだ。早々、下手な動きはできない。
「やっぱり密林塔の時と同じで、火ぃつけまくって街を混乱させるって感じか」
「そうだね。でも今回はあの時よりもさらに大規模で、動きも難しくなる」
だからこそ、事前のリハーサル、演習をしっかりと行うのだ。ぶっつけ本番で挑んで、上手く建物に火をつけられませんでした、では困る。
「ひとまず、城壁越え、放火陽動、籠城開始、までの流れは今作戦での前半戦になる。ここまでは予定通りに進められないと、その後の作戦遂行に支障が出るから、確実に実行できるようにしておきたいんだよね」
作戦の流れもしっかり覚えてね。
「まず、王国に侵入するポイントはここ。ここは特に城壁が低いとか、崩れているとか、別にそういうワケではないけれど、最も警備が手薄なんだよね」
僕が王国マップに①と示した箇所を指す。作戦の第一段階、侵入路としてマークしたその場所は、王国潜入調査の時にも潜伏した廃棄場である。
あのホームレスや病人、怪我人、障碍者が打ち捨てられている場所だ。
ゴミ溜めのようなあの場所は、汚いモノ好きなゴーマでさえも近寄らない。ここへやって来るのは、王国に居場所を失った者か、役立たずと見限られた奴を捨てに来る者。それから、ゴーマ社会の最底辺であるコイツらを、遊びで殺しに来るような悪ガキ共くらいである。
「見張りがいないのはいいけどさ、普通にあの壁超えるしかないわけ? もっと他に隠れて入れる場所とかさぁ」
「生ゴミと家畜の糞尿で溢れたドブ川潜れば、壁超えずに入れるけど、芳崎さんはそっちのルートの方がよかった?」
「ごめん、大人しく壁登るわ」
いや、いいんだよ。僕だって川の方から潜って潜入しようかと最初は考えたけれど、あまりの汚染具合に諦めたし。一緒にジャージャを運んだ相棒ゴーマを刺し殺して死体遺棄した、あのブタガエルが群れている川である。
あの川は砦の方には通っていないが、おおよそ王国を横断するような形で流れている。何か所かは、川から水を引き込む水路が造られ、溜池になっていたり。とても上等とは言えないが、それでもある程度の用水工事ができているのは、流石はオーマ王の統治である。
「他にも何か所か潜入ルートは考えたけど……結局、楽に城壁越える方法を思いついたから、これが一番手っ取り早いよ」
勿論、それの練習も含めて今回の演習目的でもある。
「それで、侵入した後は放火を始める。でも、目につく全てに火を点けるわけじゃないよ。籠城地点に向けて移動しながら、放火ポイントに火をつけて行くことになるから」
侵入地点である廃棄場。この場所は王国では南西にあたる。クロックポジションでいえば、北を正面として8時方向といった位置だ。
西側一帯はゴーマの居住地となっているので、まぁ、捨てに行きやすい場所に廃棄場を設けたといったところか。例のブタガエルのドブ川も、廃棄場の脇を通り抜ける形で流れている。
「廃棄場をスタート地点として、僕らは東門を目指して移動していく」
ゴーマ王国には分かりやすく東西南北の四か所に大きな門がある。中でも南の門が特に大きく、王国の玄関口といってもいい。僕が入ったのも、この南大正門からだ。
他の三か所は、おおよそ同じくらいの規模。特別に巨大ではないが、小さいというわけでもない。ゴグマ含めたゴーマ軍団が出入りしやすいくらいの幅と高さはしっかりととってある。
「僕らの籠城地点がこの東門になるけれど、その道中で南大正門は派手に燃やして封鎖するのは絶対条件だ」
ここから抜けられて、裏手に回り込まれても困るし、大勢のゴーマが避難のために外に逃げられても困るのだ。
「基本的には四か所の門は全て封鎖して、ゴーマ共は全員、王国と一緒に落ちてもらう」
一匹たりとも逃がさん。長年、お前らを囲い、守り抜いてきた王国の城壁は、炎と崩落の破滅から逃がさない檻と化すのだ。
「で、僕らとは反対側、時計回りに進んで行くのは、レム率いる捨て駒陽動部隊だ」
僕らの方に敵が殺到してきても困る。逆方向でも大騒ぎを起こして、せめて軍団を二分するくらいはしておきたい。
そこでレムの出番というわけだ。
召喚できる使い魔のスケルトンを筆頭に、とにかく数だけ揃えた捨て駒部隊を結成。コイツらをとにかく、ゴーマの居住区である西側で放火させまくる。
随時、部隊員は散りながら広範囲に火の手を広げつつ、レムが率いる陽動本隊は確実に西門と北門を燃やして封鎖させる。
これで、南大正門を燃やし、東門は僕らが陣取って塞ぎ、西門と北門はレムが燃やして封鎖する。四か所全てを抑えられる。
「最終的に、燃える範囲は北から東にかけての一部を除いて、王国の全てに火を放てる」
「うわぁ……マジで全部燃やす気なのかよ」
「安心してよ上田君、奴らの建物はほとんど木製で、藁葺みたいな小屋に、ボロ布のテントも沢山ある。燃やしやすい建物ばっかりだから、僕らみたいな小勢でもちゃんと大火事にできるから」
「誰もそんな心配してねーよ」
「んー、でもどっか一部は全く手つかずになるみたいじゃん。いいの?」
杏子はちゃんと、全部に火ぃつけないことを心配してるじゃん、上田君。
「うん、僕らもレムも火をつけにいけない北東地域は、ほとんどが畑になってるから」
畑というか田んぼというか、泥豆と泥芋を作っているところだ。流石に畑作地帯なんかは無視していい。それに、そこら中に火をつけられた状態で、ひとまず一般ゴーマ共が避難できるだけの場所は残しておいた方がいいだろう。
兵士だけでなく、一般ゴーマ共もヤケクソになって襲ってこられても面倒だし。
聡明なオーマだ、すぐに火の手の上がっていない場所を特定し、燃える建物がない空き地のような畑作地帯を避難所に指定してくれるだろう。
まぁ、王国内にいる限り、崩落からは逃れられないんだけどね。
「ひとまず、作戦の前半戦はこんな流れになる。ちょうど装備も出来上がって来たところだし、新装備の実験も兼ねて、みんなで演習しよう————と、その前にもう一つ、話しておきたいことがあるんだよね」
こっちはある意味、王国攻略よりも重要と言ってもいい。これをどうにかするか決めておかなければ、王国攻略しても意味がなくなってしまう。僕らにとっての最重要案件だ。
「今までずっと……そう、僕が毒殺の濡れ衣を着せられて逃亡してから、ずーっと考えていたことだ。どうやって小鳥遊を排除し、蒼真君と和解するか。その上手い方法を」
僕は今でも、蒼真君のことを殺すべき敵だとは思っちゃいない。彼の身内贔屓にはほとほと困らされてはいるけれど、その正義感は本物だ。勿論、実力も。僕らクラスメイトを守れる力が、彼にはある。守れなかったのは、やり方を間違っただけだ。
だから、ただ小鳥遊を出会い頭で即殺すのではダメなのである。それをすれば、蒼真君にはレイナを殺した時と同じ恨みを僕に抱かせることになってしまう。今度こそ僕への憎悪にとり憑かれ、天職『勇者』から『桃川絶対殺すマン』にジョブチェンジを果たすだろう。
僕は小鳥遊を呪い殺す、蒼真君とは和解する、そのどちらも達成しなければならない。
「ようやく、その方法を思いついた。だから、まずはみんなにそれを聞いて欲しいんだ————」
僕の腹案を懇切丁寧に説明してから、小一時間後。やって来たのは遺跡街。演習するにはうってつけのロケーションだ。
ゴーマ共が今やすっかり僕らの襲撃にビビり散らして王国に引っ込んでいるので、遺跡街も閑散としている印象である。半ばほど緑に飲まれてはいるものの、普通の森よりは徘徊しているモンスターも少ない。
そんないつもより静かな崩れかけの廃墟が沢山立ち並ぶこの場所で、僕らは存分に演習ができる。
「よしよし、いい燃え具合じゃあないか!」
視線の先に轟々と燃え盛る火炎に包まれた3階建て廃墟ビルを眺めて、満足げに頷く。
コンクリみたいな造りの廃墟を、ここまで大きく炎上させられるのだから、ゴーマの木造建築も余裕だろう。
そう、この廃墟ビルは生い茂る緑の蔦の他に、特に可燃物は存在しないのだが、これほど派手に炎に包み込まれているのには勿論、理由がある。
「中嶋君が中級魔法まで使えるようになって、本当に助かったよ」
「いやぁ、きっと本物の炎魔術師には劣ると思うよ。でも、この魔法剣のお陰で、かなり強力な火属性が使えるから」
素直に褒められてやや恥ずかしそうにしながらも、中嶋は手にした赤い剣を掲げた。
『中級魔法剣技』:中級魔法を扱えるようになる。使用できる魔法は、装備した魔法剣の属性と性能によって決められる。
『炎剣・サラマンドラ』:サラマンダー素材をふんだんにつぎ込んだ、贅沢な火属性魔法剣。最も大きな脚の爪をベースにして、牙と火光鉄を錬成させた幅広の片刃刀身には、僕が刻み込んだ術式に沿って、マグマのようなオレンジ色の輝きが宿る。鍔や柄は上質な鱗を使い、サラマンダーらしい真っ赤な拵えとなっている。ちなみに、デザインは天道君が以前に使っていたサラマンダー素材の赤い王剣を参考にさせてもらった。
この度、バズズ倒してゲットした中嶋君の新スキルが『中級魔法剣技』であり、彼の為に作り上げたのが『炎剣・サラマンドラ』である。
ルインヒルデ様のフレーバーテキストと違って、非常に簡潔な説明文が示されている『中級魔法剣技』だが、コイツの説明のミソは『中級魔法』という単語にある。
「中嶋君、ちょっとあっちのビルに一発お願い。防御魔法の方で」
「分かったよ————『火炎防壁』」
赤き炎剣を一振りすれば、瞬く間に刀身から渦巻く炎が放たれ、ターゲットのビル壁面へ着弾した瞬間、巨大な火柱が、いいや、炎の壁が立ち上がる。
そう、火属性魔法の攻撃である火の玉をぶっ放すだけでなく、火の壁を形成する防御魔法も使えるのだ。しかも、これは単体防御の『盾』系ではなく、範囲防御魔法の『壁』系である。
この『炎剣・サラマンドラ』を装備した中嶋は、普通の攻撃防御だけでなく、範囲攻撃魔法『火炎砲』と範囲防御魔法『火炎防壁』まで使えるようになったのだ。これはもう、一端の炎魔術師といってもいい。
それだけの魔法の力を備えながら、剣術面でも本職剣士並みに武技も扱えるのだから、強力な魔法武器を装備させれば中嶋の実力は一気に伸びることとなる。
今の中嶋なら、剣崎襲って押し倒せるのではなかろうか。いや、あの暴力女は体術もあるから、組みついてからも危険だろう。メイちゃん並みの圧倒的パワーがなければ、マウントポジションでボコボコにはできない。
「よし、上田君、あそこに向かって投げて」
「へへっ、いよいよコイツを試せるぜ————うらぁ!」
と、意気揚々と中嶋の燃え盛る『火炎防壁』に向かって投げ込んだのは、
『焼夷グレネード』:火光石とサラマンダーの鱗を砕いた粉末と少々のコアで作られた、爆発よりも大きく炎を広げることを目的とした、焼夷用のグレネード。起爆は魔力式で、投げる時にちょこっと魔力を流すだけなので、衝撃が加わっても爆発はしない安全設計。
勢いよく投げつけられた『焼夷グレネード』は、高さ5メートルほどにまで吹き上がっている炎の壁へと飛び込んだ次の瞬間には、
ドドッ、ゴォオオオオッ!
「おおー」
「燃えてる、燃えてる」
勢いよく炎が噴き出し、ただでさえ大きな火の壁が、さらに拡大するように延焼範囲を広げた。
焼夷グレなので、爆破の瞬間だけ炎を出すだけではダメなのだ。大事なのは炎上範囲、そして炎上時間である。
より広範囲、より長時間、燃え続けることで消化を困難にさせ、その場を火元として機能させ続ける。一発で着火しなくても、これだけの勢いで燃え続けていれば、近くのモノには必ず飛び火するだろう。
「アタシも投げたいんだけど」
「ウチも」
「おい、俺にも投げさせろよ!」
「火遊びはほどほどにねー」
この焼夷グレは全員の共通装備だから、みんな使用感の確認は必要だ。
杏子と芳崎さんのギャルコンビは派手に燃えるグレを投げ込んではキャッキャとはしゃぎ、葉山君は「うおおーっ!」と大炎上に興奮気味。うむ、炎というのは人を興奮させるものなのだ。
ひとしきり遊んでからは、応用編。
杏子には専用の焼夷弾を用意して、『ロックブラスター・ソードオフ』で発射してもらう。
僕が頑張って作った土魔法専用のショットガンだけど、天道君の黄金リボルバーが戻って来た今、メインウエポンの座はすっかり奪われてしまった。
けれど『ロックブラスター・ソードオフ』の真価は、専用の弾丸を使うことで、土属性魔法以外の効果も再現できる点だ。その代表例となるのが、今回の焼夷弾でもある。
構造は単純そのもの。要するに発射する弾丸はただの『石矢』で、焼夷弾はその弾頭部分としてくっついてるだけ。
焼夷弾はグレと違って、魔力式と衝撃感知の二重起爆構造になっている。地味にグレよりも手間がかかる一品。
発射の際に杏子が焼夷弾に魔力を流すことで、いわば安全装置が解除された状態となり、一定以上の衝撃で爆発するように機能するのだ。『石矢』の弾速をもって撃ち出されるので、命中時には人がそのまま投げるよりも強力な衝撃が加わるのは間違いない。なので、うっかり魔力流して解除してても、ちょっとした衝撃くらいで暴発しないような設定にはしている。
ともかく、焼夷弾も上手く作動しており、実質、『火矢』を撃てるも同然となった。ちょっと高い場所に陣取るだけで、燃えやすいゴーマ王国の居住地などあっという間に火の海にできるだろう。
一方、『精霊術士』たる葉山君も負けてはいない。
彼が火の精霊にお祈りしながら投げつけた焼夷グレは、通常の3倍くらいの威力となって燃え上がるのだ。ただし、威力上昇は結構バラつきがあり、全く強まることがないこともある。
葉山君曰く、精霊は子供みたいに気まぐれなところもあるから、ダメな時はダメらしい。
けれど、これも彼の才能か、それとも人徳か、基本的にどの精霊も協力的である。葉山君が真剣に祈り、願えば、彼らは必ずその力を貸してくれる。
「っていうか葉山君、なんか右腕のパワー上がってない?」
「やっぱり、そう思う?」
自分でも驚き、というように葉山君が漆黒に染まった闇の右腕を振る。
上田や芳崎さんは天職によって超人的な身体能力となっている。だから、ただモノを投げるだけでも、世界記録越え余裕の飛距離を叩き出せる。
けれど『精霊術士』の葉山君は、僕と同じように特にそういったフィジカル強化の恩恵はない。だから、あくまで常人の範囲での投擲力となるのだが……その飛距離と速度は、前衛職である二人に迫るほどのものだ。
どう考えても、闇の精霊が宿る新たな右腕の力だとしか思えない。
「強くなる分にはいいけれど、なんか違和感とかない? いきなり腕がポロっととれても困るし」
「いや、全然大丈夫……だと思う」
「ホントに? 闇の力に浸食されて、ダークリライトに覚醒されても困るんだけど」
「闇属性だからって、別にそんな邪悪な力はねーからな? みんないい子だぞ」
僕の力は割と邪悪だと思うんだけどね。でも、葉山君が大丈夫だと平気な顔で言うのなら、心配ないだろう。結局のところ、精霊について一番理解できるのは、彼しかいない。
僕らなんて、精霊の姿さえロクに見ることも叶わないのだから。
ともかく、焼夷系武装の検証は十分以上にできた。各自の能力も合わせて、有効に機能できている。
「さーて、耐熱防具の方は……おーい、山田君、どんな感じー?」
「ちっと暑さは感じるが、余裕で耐えられる。真夏にキャッチャーのプロテクター着てるよりは快適だぞ」
いまだに燃え盛っている中嶋の『火炎防壁』の向こう側から、炎を割って出て来たのは真紅の全身鎧に身を包んだ山田である。
そういえば、山田って野球部だったっけ。特にその経験が活かされた覚えがないから、すっかり忘れていたよ。
ともかく。あれだけ燃え盛る火炎のただ中にいても平気だと豪語できるのは、『重戦士』の高い防御力と耐性を差し引いても、サラマンダーの鱗で作り上げた耐熱特化の新しい鎧のお陰である。
「というか、効果のほどはお前も実感できてるだろ、桃川」
「まぁね」
炎の中をノシノシと歩いてくる山田の後ろにチョコチョコくっついている小さい奴が、また別な耐熱装備を被った僕の『双影』である。
耐熱効果を検証するには、実際に火中に投じるほかはない。でも効果が不十分だったら火傷じゃすまないので、ちょっとくらい燃えても平気な人に任せるしかない。防御特化の山田と、そもそも痛みがない分身の僕が、この耐熱試験をするのは当然の帰結である。
「でも、やっぱり委員長の氷結晶がなければ、これだけの効果は出せなかったな」
激しい猛火に晒されても燃えたり溶けたりしないのは、非常に高い耐熱性を持つサラマンダー素材の恩恵だが、高熱そのものを遮断してくれるワケではない。そこで、実際に炎の熱から身を守るために搭載しているのが、委員長の氷結晶を核とした冷却システムである。
耐熱用のサラマンダー素材と、氷結晶による冷却、二つ揃って炎の中でも平気な火耐性特化の防具が完成した。
『サラマンドメイルMKⅠ』:学園塔で作られた山田用の全身鎧を、サラマンダー素材を使って強化した赤い鎧。元々の金属装甲に分厚い甲殻を錬成しており、耐熱性能は勿論、純粋な防御力も上昇している。火竜の甲殻は伊達ではない。氷結晶の冷却システムは、兜と胸元と腰元の三か所に搭載。より強力な冷却効果が得られるので、ガチで炎の中でも自由自在に動き回れる。ちなみに、一酸化炭素や酸欠への対策として、ちゃんと兜には風の光石を利用した酸素ボンベ機能もある。ただし、冷却にボンベと機能を詰め込み過ぎたせいで、兜はかなり大きくなってしまったが。というか、鎧の方も甲殻で増大した上に他のも詰めこめるだけ機能を詰め込んでるので、兜と鎧どちらも合わせて、以前よりも大型化というか、膨れ上がったような感じになってしまった。全身鎧というより、もう宇宙服に近いシルエットになってしまったが、それでも『重戦士』山田ならば、上手く扱ってくれるだろう。
『試作型耐熱マント』:今回は盛大に火を放って回るので、僕ら自身も炎に焼かれる危険性がある。それなり以上の耐熱装備が必要となるが、それを全員分用意するとなると、あまり素材もかけられない。ただでさえサラマンダー素材は、バズズ討伐のために半分横道に食わせてしまったので、無駄遣いは許されないのだ。そんなワケで、ひとまず一着で全身を炎から守れるマントを作ってみた。
この『サラマンドメイルMKⅠ』と『耐熱マント』は、どちらもまだ試作段階だ。今回はどれだけ耐熱効果が発揮できるか、上手く機能するかどうか、といった最初の試験みたいなものである。まだまだ、これからブラッシュアップしていきたい。
「とりあえず、防具の方もいい感じだし、次に行こう」
この辺はまだまだ炎が燃え盛っているので、ずっと留まっているのは危険である。
1ブロック隣のエリアへとゾロゾロと移動。この区画も、相変わらず代わり映えのしない廃墟ビルが立ち並んでいる。その内の一つへと、僕はみんなを案内した。




