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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第18章:最下層攻略
309/523

第303話 自由の翼

「ふぅ……」

 龍一は口から、ゆったりと紫煙を吐き出す。

 フカフカのソファに足を投げ出して座りながら、愛飲している煙草を思う様に飲む。完全にリラックスモードである。

 しかしながら、彼の表情はあまり優れないようだった。

「————だから言ったであろう。ここから外に出る道などないとな」

 その声は、今日も硬く閉ざされた巨大な門の向こう側から届く。

 この隔離区域とやらに落とされてから、どれだけの時間が経っただろうか。恐らくは、鼻歌交じりに料理などをしている小太郎そっくりの姿をした『侍女』に聞けば、正確な日時を答えてくれるだろうが、わざわざ聞きたいとは思わなかった。

 明らかに封印された門の向こうから話しかけてきた、謎の声の主を放置して、龍一はひとまず隔離区域の探索を試みた。ここに住むモンスターはどれも凶悪か醜悪であり、ただの天職持ちではあっという間に命を落としただろう。

 しかし天職『王』として破格の戦闘力を有する龍一は、この高難度エリアのソロ攻略を推し進め、そして新たな強敵を倒すごとに、それを喰らってさらに力を増して先へと進み続けた。

 そこら中から湧いて来るモンスターも厄介だが、奥の部屋にはボス級のモンスターも存在している。苦戦は免れない。ボロボロの激闘となったこともあったが、その全てを龍一は見事に制した。

 その戦いの果てにあったのは、ただの行き止まり。

 隔離区域はどこにも外へ通じるルートが存在しない、という無慈悲な事実が判明した。

 もうこのエリアで足を踏み入れていないのは、謎の声の主が封印されている、この門の向こう側だけである。

「これ以上、探す場所などありはせぬだろう? さぁ、どうするのじゃ龍一よ。お主の力なら、そこでただ生き永らえるだけならできようが」

「ちっ、うるせぇな。少しは静かにしていろよ」

 探索している間は、この封印門のある広間を拠点としていた。それなりの期間、拠点として利用していたので、今となっては充実した設備と住環境が整っている。

 龍一が座っているソファもその一つ。毒沼のように穢れた汚水に侵されたエリアに生息していた、スポンジ状の部位を持つ水棲モンスターを狩り、クッション材として柔らかな座り心地を実現している。

 ベッドのマットレスも同様の素材を用い、布団には鳥形モンスターの羽毛が使われており、他にもモンスター素材の革や骨が様々な用途で利用されている。

 無論、それらの家具一式は全て侍女によるもの。本物の小太郎同様に、器用に錬成能力を用いて、アレコレと勝手に作り続けているのだ。

 もし小太郎本人がこのエリアを攻略したならば、やはり同じように快適に過ごせる拠点を作ったことだろう。

「はーい、ご主人様ぁ、本日のランチ、妖しいパープル謎肉の謎煮込みができましたよー」

「その食欲の失せる料理名やめろや」

「名前と見た目はアレですが、味の方はなかなかですよ。ご主人様の毒耐性なら余裕です」

「耐性スキル前提の飯なんざ食わせんな」

「大丈夫ですよ、美味しいモノほど毒があると言うではないですか」

 全く安心できないことを言いながら、侍女は嬉々として紫色に発光する謎の煮込み料理を器にたっぷりと盛っていく。

「こんなもんを一生食っていくのは、御免だな」

 しかし他に食料もないので、今は食べるより他はない。

 このエリアで手に入る食材といえば、モンスターの肉と、随所に生えている植物だ。肉も野菜も、どちらも等しく穢れ切った隔離区域の魔力環境によって汚染されている。

 そのまま喰らえば完全にただの毒物でしかないが、侍女が用意した大きな壺のようなモノが、どうやら小太郎の『魔女の釜』と似た特殊な錬成機能を発揮することで、ある程度までの解毒を可能としているようだ。そうして、毒性を抜いたモンスター肉と毒草や毒キノコを調理して食べてきた。

 今日の紫肉の謎煮込みも、目をつぶって食べれば、割とモツ鍋に近いような味わいである。味だけなら十分食べられるレベルだが、如何せん、見た目は汚染食材全開の輝きぶり。

 こんなものを食べ続けていれば、いつか見た核戦争で崩壊した世界を舞台にした映画に登場するミュータントにもでなってしまいそうな気分であった。

「いい加減に、覚悟を決めて妾の下へ参れ」

「食ったばっかだぞ、少しは待っとけ」

「ほう、ということは、いよいよその気になったようじゃのう!」

 気は進まないが、現状ではそれ以外に選択肢はなかった。

 このお喋りな封印者には、すっかり名前で呼ばれるようにはなったものの、龍一は気を許したことはない。

「本当に、よろしいのですかご主人様?」

「他に道がねぇからな。このエリアのラスボスだと思って行くさ」

「安心せよ、とって食うたりなどせぬぞ」

 本当に無害な存在なら、こんな大仰な封印などされてはいないだろう。

 しかしながら、たとえこの門の先に封じられているのが悪魔であったとしても、ここを開けるより他に選択肢は残されてはいない。こんな陰気な場所で一生を過ごすつもりはないのだから。

「コイツは、どんなヤツだと思う?」

「おっ、いいですねぇ、ご主人様。賭けますか」

「そういうことを聞いてるワケじゃねぇんだが……まぁいい。乗ってやろうじゃねぇか」

「わはーい! ではでは、私が勝った暁には、ご主人様には甘くとろけるような熱い一夜を過ごしていただきましょう!」

「やっぱやめるか、ギャンブルなんてくだらねぇ」

「ご主人様が勝ったなら、おタバコの量を一日3本追加でお作りいたしましょう」

「よぅし、二言はねぇな? 今更やめたはできねぇぞ」

 龍一のタバコ生産量は、なんだかんだで侍女が握っている。健康のために禁煙を推してくる彼女によって、一日当たりの消費量は厳しく制限されているのだ。

 かくして互いの欲望は一致して、封印者の正体を言い当てる賭けは成立した。

「絶対、ロリババアですよ。種族はヴァンパイアですね」

「俺はただの骸骨になってると思うがな」

「お主ら、妾が見えぬからと好き勝手言いおってからに……」

 龍一と侍女の予想も決まったところで、いよいよ二人は門へと向かう。

 赤い光の文様が浮かぶ金属門の前で、龍一は『王剣』と『王鎧』を纏い完全武装を整える。開いた瞬間に戦闘が始まっても、対応できるだけの構えは忘れない。

「よし、行くぞ」

「はい、ご主人様のお望みのままに」

 重厚な黒と金のガントレットに包まれた龍一の左手が、門へと触れる。

 瞬間、赤い光の文様は激しく明滅を始め、複雑に絡み合うように描かれたラインが一本、また一本を消えてゆく。

 そうして全ての光の線が消えた時、ただの巨大な鉄扉と化した門が、ゴゴゴと音を立てて動き出す。どれほどの時間、閉ざされていたのだろうか。錆びついた重苦しい音と、ザラザラと門の凹凸や隙間に詰まった汚れを吐き出しながら、ゆっくりと、だが確実に門は開かれて行った。

 門の先には、黒々とした闇が広がっていたが、開かれたことでぼんやりと光が灯り始めた。バチバチと音をたてながら、広大な空間が薄っすらとした白い光で照らし出されてゆく。

 そうして、薄闇の向こう側に、ついに封印者の姿が浮かび上がるのだった。

「ああ、よくぞ妾の前へ来てくれた。歓迎するぞ、龍一」

「……ドラゴン」

 そうとしか言えない、姿であった。

 このダンジョンに来て早々に相手をすることとなった、真っ赤な火吹き竜サラマンダー。それとよく似た、大きな翼と二足の、ワイバーンタイプのドラゴンだ。

 鱗の色は、闇夜のような漆黒。しかし角や爪、胴から尻尾にかけて装飾されたような縁取りは、煌びやかな黄金に輝いている。その姿は奇しくも、龍一の王鎧とよく似た色合いであった。

 そんな黒と金に彩られたドラゴンは、広間の奥にある巨大な、それこそ体長十数メートルにも及ぶドラゴンの巨躯さえ悠々と収まる、巨大な水槽の中に沈んでいた。

 水槽を満たすのはただの水ではないようだ。高濃度の魔力を感じられる。

 どうやら、このお喋りなドラゴンが言うように、かなりの長期間を過ごせてきたのは、この水槽によって生命を維持する環境が整っていたからこそなのだろう。

「お前は、何者だ」

「見ての通りのドラゴンじゃ。ただし、作り物の紛い物よ。主はなく、ただの一度の出撃さえもなく、この場所に時代と共に取り残された」

「なるほど、全く分からんな」

「要するに、古代の生体兵器ってやつですね。凄いじゃないですか、このダンジョンが作られた時代を知っているなんて」

 小太郎の理解力も継承されているのか、侍女が分かりやすく嚙み砕いて補足する。

 つまり、ドラゴンの姿をした、喋れる兵器というわけだ。実戦で使われることはなく、この場所に死蔵されていたらしい。

「そいつは、色々と知っていそうな感じだな?」

「あまりにも長く、眠りすぎておったようだ。妾の記憶情報には、至る所に欠落が見受けられる……お主の疑問全てに答えることはできぬじゃろう」

「ご主人様、コイツ露骨に秘密の予防線を張って来ましたよ。生意気ですぅ!」

「知ってることを大人しく吐け。そうすれば、お前の望みとやらを聞いてやらんこともない」

「さて、何から語って聞かせるべきか。妾を作った国など、とうに滅び去っておるだろう」

「アストリア王国ですか? シグルーンという街、または地名に聞き覚えは」

「どちらも知らぬ名じゃ。やはり、時代は移ろい変わったようじゃな」

「そのナントカ王国ってなんだよ」

「最初に魔法陣で示された情報ですね。全てのクラスメイトが参照しているはずですが」

「もうさっぱり、覚えちゃいねぇ。だが、桃川の奴なら覚えてるだろうな」

 言われてみれば見た気もするが、脱出先の情報など、そこに至るまでは何の意味ももたないだろう。龍一にとっては、記憶に留めるほどのことではなかった。

「それでは、貴女を作った国の名は?」

「エメローディア。光の女神エルシオンを信仰せし、この大陸の覇権国家であったはずじゃ」

「ここがダンジョンになっているのは、どうしてですか?」

「この地はエメローディアでも有数の大都市であった。しかしある時、禁忌の力に手を出した。故に滅びた」

「もうちょっと具体的にお願いしたいですねー」

「光の女神エルシオンとは異なる、闇の魔神の力を研究しておったようじゃ。妾も、その研究成果によって開発された、試作機の一つに過ぎぬ————しかし、より大いなる力を求め、闇の魔神に近づきすぎたのじゃろう」

「ははぁ、さては事故りましたね?」

「何が発端となったのか、詳しくは知らぬ。しかし、あまりにも強大な闇の力が暴走した結果、大都市諸共、崩壊した。爆発、炎上、崩落、といった物理的な被害だけではない。魔神の力は空間そのものにも影響を及ぼし、幾層にも分断された亜空間として大都市を引き裂いたようじゃ。それがどのような有様かは、ここまでやって来たお主らの方が詳しいであろう」

「なるほど、まぁ筋は通っていますかね」

「そんな昔話なんざ、どうでもいいんじゃあねぇのか。大事なのは、ここから出られるかどうかだろうが」

 龍一には、すでに過ぎ去った過去のことに興味はなかった。壮大な歴史ロマンなど語られたところで、この場所から出られなければ何の意味もないのだから。

「件の暴走事故が発生した時に、この区画は完全に閉鎖されておる。故に、どこにも通じる道がない」

「壁を壊して穴を掘ってもダメそうなのは、このエリア丸ごと亜空間とやらで分断されているからですね?」

「然り。分断された各地を行き来する方法は『ポータル』のみじゃ。半分ほどは、地中に埋もれた状態にあるようだがな」

「ポータルって転移魔法陣のことですよね? どこが通じているのか、分かるんですか?」

「ここは暴走事故の中心地でもある、軍事施設の一角なのじゃ。中央政庁セントラルタワーとは別に、都市全域の情報が集まる中枢部でもあるからの。ある程度の情報は確認できる————そう、誰も住んではおらぬはずのこの場所に、人間がポータルを通ったことくらいは分かるのじゃ」

「ふん、俺らが四苦八苦してこのクソッタレなダンジョンを進んでいる様を、高みの見物をしていたってワケか」

「その様子を見られたら、大層な暇つぶしとなったのだがのう。残念ながら、そこまで詳しくは分からん。故に妾は、何者でもよい、誰かがここへと現れる僅かな希望のみを抱いて待っておったのじゃ」

「要するに、貴女がここから出るためには、人間のご主人様が必要というワケですね」

「妾は自我を持つ兵器じゃぞ。枷がかけられるのは、当然のことであろう」

 非常に強力な試作兵器であるらしいこのドラゴンが、大人しく水槽に沈められている理由としては、納得のいく説明であった。

 龍一は特に同情も興味もないようなしかめ面で、侍女は腕を組んで「ふんふん」と訳知り顔で頷く。

「よく分かりました。素敵なご主人様と出会えると良いですね。それでは行きましょう、ご主人様。こんな捨てドラゴンなど放っておいて」

「待て待て、何故そうなる!? 妾の話を聞いておらんかったのかぁ!」

「聞いたから全力スルーするに決まってんじゃあないですか! 図々しくも、この私のご主人様を、自分のご主人様にしようなどと卑しい魂胆が見え見えですよ」

「い、卑しくなどないわ! 主を持ち、この場から解き放たれることは、妾の切なる願いなのじゃぞ!」

「っかぁー、聞きましたかご主人様? このメストカゲ、自分の欲望を切なる願いなどと綺麗事で誤魔化そうとしております。全く、度し難い爬虫類でございますね」

「このぉ、使い魔風情が! 誇り高き竜たる妾を、爬虫類のトカゲ呼ばわりなどと、許さんぞぉ!!」

「ええぇー、でも飼い主のいない捨てトガケに、一体何ができるですかぁー? 精々、その水槽の中でジャブジャブしてるがいいですよ」

「はぁ、お前は少し黙ってろ」

「ふがふが」

 何故か急に喧嘩腰でドラゴンを煽る侍女の口を塞いで、強制的に黙らせた。

 このままでは、蒼真悠斗を巡って女共が騒いでいるのと同じような、やかましい言い合いが続くだけになるのが目に見えている。暇はあるが、そんなことに付き合わされるのは御免であった。

「お前の望みは分かった。俺がお前の飼い主になって、その枷とやらから解き放ってやれば、ここから出られるんだな?」

「その通りじゃ。龍一、お主には妾の主となってもらいたい。そしてお主は、どんな手を使ってでもこんな場所から出ていきたい。互いの利害は一致しておるであろう」

「お前が自由になったとして、どうやってここから出る?」

「全ての道は塞がれた、と言ったが、一つだけ残っておる。それは、兵器たる妾を出撃させるための、発進用ポータルじゃ」

 試作兵器ではあるが、正規の承認を得れば、出撃用の転移魔法陣が稼働し外へと出られる。

 自由を求める彼女が、人間の主を必要とする理由であり、龍一にとってここを脱する唯一の方法だろう。

 龍一は自分を見つめて来る、ドラゴンの黄金に輝く瞳を真っ直ぐに見返して、応えた。

「————いいだろう。俺がお前を飼ってやる」

「そんな、ご主人様! あんなに大きなペット、本当にお世話できるのですか!?」

「だからお前はちょっと黙ってろ」

 いつの間にか拘束を脱していた侍女を、再び黙らせる。

「それで、どうすりゃいいんだ?」

「そこに手を当てるだけでよい。後の事は、全て妾が済ませる」

 と、ドラゴンの鼻先が水槽正面に備えられた、黒い石板を示す。設置位置から見て、明らかに水槽内をコントロールするデバイスに違いない。

 石板にはダンジョンの各地で見られたように、異世界の文字が光って浮かび上がっている。機能はちゃんと生きているようだ。

「ほら、これでいいのか」

「うむ。契約の前に、一つだけ願いを聞いてくれまいか」

「なんだよ」

「妾に名を授けてくれぬか」

「名前、ね……まぁ、これから飼おうってんだ、名前くらいつけてやるのが筋ってものか」

「ブーミンかグロシャブで」

「冗談じゃないわ! 万に一つもかような名づけがされようものなら、たとえこの身が滅びようとも貴様を滅してくれる!」

「ご主人様を求めるだけでなく、名前まで寄越せだなんて強欲が過ぎるんですよトカゲ! 私だって『侍女』なのに!」

「……お前の名前、桃川小太郎じゃないのかよ」

「違いますよ!? それってオリジナルの方の名前じゃあないですか! 私は侍女、ご主人様だけの侍女なのです————だから名前を! あのトカゲよりも先に、まずはこの私にお名前をぉーっ!」

「じゃあ桃子」

「はいっ! 私はご主人様の桃子ですぅ! やった、これで私もついにネームドですよ!!」

「分かったから、お前はちょっと静かにしてろよ頼むから」

「はーい、桃子、静かにしまーす」

 ウフフ、と恍惚とした笑みを浮かべた侍女こと桃子は、それでようやく大人しく引き下がったのだった。

「で、次はお前の名前を決めりゃあいいんだな」

「うむ、妾にも良い名を頼むぞ」

「リベルタ」

 迷うことなく、龍一は即座にそう口にした。

「リベルタ、とな」

「何百年だか閉じ込められてた奴が、これから外に出ようってんだ。お前は、自由リベルタになれ」

「うむ、うむ! しかと心得た。妾はこれより、リベルタと名乗ろう、主様よ」

「まだ契約とやらは終わってねーんだろ。さっさとしてくれ」

「なぁに、そう急くでない。契約者さえおれば、こんなものすぐに終わる————むっ」

 と、ドラゴン改めリベルタは、怪訝に呻いた。

 すでに龍一の手は石板に触れており、手のひらから微弱ながらも魔力が吸収されるような感覚を覚え、契約にあたってのスキャンだか検査だかがされているのだろうことは感じられた。

「おい、どうした。何かトラブルかよ?」

「龍一よ、お主は『天職者』じゃな。何の天職を授かっておる」

「……『王』だ」

 どうやら古代国家エメローディアにあっても、神が授ける『天職』は存在していたようだ。

 光の女神とやらを信仰する一神教らしき国のくせに、多神でなければ説明のつかない天職システムが存在していることに、胡散臭い事情を嫌でも察してしまい、龍一はあまり良い予感はしなかった。

「そうか、妾は王騎になる運命であったのか……ならば、この長きに渡る封印も報われよう」

「なんでもいいが、契約はできんのか、できねーのか、どっちなんだよ」

「案ずるな、すでに契約は結ばれた」

 言うものの、龍一には特にこれといった変化は感じられなかった。侍女桃子を始めとした『従者』シリーズは、自分の召喚スキルのため、魔力的な繋がりを感じるが、リベルタの間にはそういった感覚はない。召喚スキルとは異なる仕様、あるいは、本当に単なる認証だけなのかもしれないが、詳しい仕組みなどどうでもよい事であった。

「これより妾は、『王』天道龍一が王騎リベルタである。主様へ、手綱を委ねよう」

「別に乗り回すつもりはねぇんだが……まぁいい、これで道は開けたわけだ」

 ゴボゴボと水槽内の液体が排出されてゆくのと共に、巨大な白い魔法陣が描き出される。その輝きは紛れもなく、何度も見てきた転移魔法陣の光だ。

 魔法陣のサイズと形状は少々異なるものの、ドラゴンたるリベルタが翼を広げても悠々と通れるほどの巨大な円形を成していた。閉ざされた隔離区域から脱する唯一の道が、ついに開く。

「それじゃあ、さっさと行くぞ————外の世界に、な」

 2021年7月2日


 第18章は今回で最終回です。

 めっちゃどうでもいい裏話。リベルタが入ってた水槽について。

 実験体とか化け物とか、よく水槽で培養されたり保管されたりしてますよね。私もリベルタの封印状態は、この分かりやすいテンプレイメージを踏襲することにしましたが、やっぱあまりに安直すぎるかな、と迷いなんかもありました。

 そんな時にプレイした、『サブノーティカ』という深海探索オープンワールドゲーム。

 これに、巨大な海洋生物を保管しただろう超巨大な水槽、みたいなロケーションがあるんですが、実際に見ればやっぱ巨大水槽いいなぁ、と思って、こうなりました。本編では、あまり詳しく水槽描写してもしょうがないので、大した情景描写は省きましたが。

 何が言いたいかというと、サブノーティカはとても良いゲームでした。エラー落ちさえなければ完璧でしたね。 


 それでは、次章もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 天道龍一が主人公をしていることです。
[良い点] 超安直ネーム「桃子」 からの ストレートな思いを込めた「自由リベルタ」 [気になる点] 従者さん、その名前で良いんだ…? まあ、本人が喜んでるなら、良いのか。 クラスメート達に…
[良い点] 桃子www [一言] 何気に結構小太郎のこと気に入ってるよね龍一くん
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