第302話 巨人殺し(4)
ふぅ、ギリギリだった。いや本当に、あと30秒でも作業が遅れていれば、確実に犠牲者が出ていた。
「ありがとう、葉山君、キナコ、ベニヲ」
「ナァーン」
「コユキは葉山君の傍にいてあげてよ」
限界を超えてまで魔力を振り絞って時間を稼いでくれた葉山君は、鼻血を噴いてぶっ倒れていた。心から申し訳なく思うけれど、僕も、いまだ『土星砲』ステンバイしている杏子も、倒れた葉山君の介抱はしてあげれらない。
その代わりとでも言うように、コユキが死んだように眠る葉山君の顔をペロペロしていた。まさかと思うけど、食べたりしないよね? 心配してあげてるんだよね?
ともかく、僕はそんな葉山君を後にして、巨人化バズズが大暴れする戦場へと真っ直ぐ駆け付けた。
「グッ、ンダバァ……ガンザバドガ!?」
おっと、こんな小さな僕の存在に気付いたのか。こっちから注意を引くアクションをするまでもなく、バズズは弾かれたように振り向き、何事かを叫んでいた。
いや、きっと奴の気を引いたのは、僕の手にある杖だろう。
うーん、君には分かるのかい? 横道の発するキモい気配ってやつをさ。それ、僕も感じるよ。
「喰らいつけ、『無道一式』————」
杖を掲げる。ついに、コイツに秘められた真の力を解放する時が来たようだ。
相手は巨人。実に食い甲斐のある大物だ。さぁ、頑張れ横道。お前に愛があるのなら、応えてみせろ!
「————『完全変態系』解放」
描かれるのは、赤黒い不気味な魔法陣。杖の先端にある横道の頭蓋骨が、まるでアンデッドとして蘇ったかのように、元気に大口を開いてガタガタ言い始める。
そうして瞬時に形成された魔法陣はかなりの大きさで、その大きさに見合った巨大なモノが、飛び出して行った。
「ンババッ……ボン!?」
お仲間とご対面だね。君に名前を呼んでもらえて、ボン君も嬉しそうだよ。
ほうら。大口を開けて一直線だ。
「オオォオバァアアアアアアアアアアアッ!」
「グバァアアアアッ!?」
ただでさえ汚いゴーマの声で、さらに汚らしい叫びを上げてバズズへと喰らいついて行ったのは、ボンの頭だ。
だが、力士のような逞しいゴグマ体型は、もうそこにはない。ボンの頭部は如何にもアンデッドらしく半分は崩れていて、皮膚は剥がれ、肉も骨も剥き出し、なんなら脳みそもボロボロ零れている。
そんなボンヘッドがくっついているのは、蛇のような、と形容するには少々語弊があるだろう。蛇のように長くくねっているだけの、肉塊だ。
血と脂で滑った筋線維剥き出しの赤い肉に、ゴーマ特有のゴキブリ的皮膚もあれば、スパイクマンモスの茶色い毛皮もある。これまで杖に食わせてきた獲物の特徴が歪なパッチワークのように現れている。
中でも目立つのはやっぱりゴーマっぽい部分だ。食った量が一番多い。
ともかく、そんな風にこれまで杖が喰らってきた獲物の肉を、魔法陣から大放出するのが、この杖の真の能力である『完全変態系』である。
横道は喰らった獲物の肉体を自ら生やすことで、その能力を行使していた。それを最大限に発揮したのが『完全変態』であり、杖は見事にその能力を再現してくれているのだ。
本来は横道と同じように、必要に応じて体を出せばいいのだけれど、バズズという巨人の身動きを封じるには、胃袋空っぽにする勢いで全力の全開放をするしかない。
先端をボンの頭としてバズズに、正確には左肩の辺りに喰らいついたあたりで、さらに肉塊のボディは蠢き、新たな頭をズブズブと生やしていく。
「ンバッ! グバァ……ドンゴブラァッ!?」
バズズは生え出した二つ目の頭を見て、さらに目を剥く。
ソイツはすっかり赤い鱗が半分以上も剥げ落ちて無残な有様だけれど、それでも、確かにサラマンダーの獰猛な頭部を形作っていた。
「ゴォオアァアアアアアアアアアアアアッ!」
チロチロと火の粉を噴きながら、サラマンダーは牙を剥く。
肩に喰らい付いたボン頭を引き剥がそうと伸ばした右腕へと、サラマンダーヘッドは噛み付いた。
「よし、拘束成功だ……」
巨人の動きを食い止めるほどのパワーと質量を発揮してくれた『無道一式』の力に声を上げて喜びたいところだけれど、正直、そんな余裕はない。
「……ちくしょう、ガブガブと飲みやがって」
杖を握りしめる僕の両手には、背骨の柄から棘のようなものが伸び、剣ダコなどとは縁遠い柔らかい手のひらに突き刺さっている。そうして、流れ出る僕の血を一滴も残さないように、ズルズルと杖へ吸収されている。
ただ手のひらから血が流れ出る感触だけでなく、魔力も結構な勢いで吸われている感覚だ。
ああ、これはアレだね、葉山君の『霊獣化』と似たような代償、発動コストといったところ。蒼真君、君はチート能力に覚醒した時、ちゃんと何かを支払っているのかい? それ、後でヤバい額の請求来ちゃうパターンじゃない?
お振込みは、今すぐ女神エルシオン口座へ、みたいな。
「ルインヒルデ様、僕はローンも組まないし、リボ払いなんぞもしない、ニコニコ現金一括払いなんで、どうかお力をぉ!」
ここが踏ん張りどころ、と心得て喰らい付いた拘束を絶対に引き剥がされないよう気合を入れて血と魔力を注ぎ込む。
それに応えるように、発動した『完全変態系』はさらに肉塊の体を膨らませ、三つ目の頭となる、スパイクマンモスの頭部を作り出した。パオー、とか鳴きながら、あのパンクなトゲトゲに覆われた野太い鼻がバズズへと巻き付き完全に奴の身動きを封じた。
「今だ、レム! 行けぇーっ!」
黒騎士レムが、正に黒い風のように全速力で突撃してゆく。
バズズも流石と言うべきか、武器を持たない素手の状態で向かってくる黒騎士に、何かがあると察したのだろう。体を抑え付けられながらも、それでも蹴飛ばそうと足を振るうが————
「そこだぁ!」
土星砲発射。
完璧なタイミングで放たれた杏子の必殺技は、レムに直撃するコースで振られていたバズズの右足に命中した。
「ングァアアアアアアアッ!?」
やっぱ巨人でも痛覚はそれなりに残ってるみたいだね。思わずと言ったように、苦し気な絶叫をバズズは吠えた。
土星砲はちょうど右膝の皿を直撃。貫通して吹っ飛ばすことはなかったが、自分の胴体くらいあるサイズの大岩が音速で飛んできて膝に当たったのだ。膝の皿など粉みじんに砕け散り、インパクトの衝撃のままに、本来の稼働部位とは真逆の方向へと折れ曲がった。
おお、マジで痛そう。もうローキックできないねぇ?
つまり、これでレムがご到着ってワケだ。
バズズ君、お届け物だよ。大切なギラ・ゴグマ仲間であるボン君から、真心の籠った、彼の魂そのものだ。
「ブラストォーッ!」
ズドォオオオオオオオオオオンッ!
耳をつんざく爆音と、大地を揺るがさんばかりの大爆発が巻き起こる。
ヤマタノオロチでも、横道戦でも、結局は出番のなかったコア爆弾だったけれど、ついにその威力のお披露目だ。
そこらのボスモンスターよりずっと強力なギラ・ゴグマだ。そのコアを贅沢に丸ごと一個使ったコア爆弾は、正に僕の期待通りの威力でもって爆ぜてくれた。
「ガッ……グ、グゴォオ……」
濛々と煙る黒煙の向こうで、バズズは唸り声を上げている。
まぁ、これでトドメまで刺せるとは思ってないよ。流石は巨人。コア爆弾を至近距離で喰らっても、まだ体は原型を保っている。
全身黒焦げとなり、ブスブスと重度の火傷から煙が噴く。霊獣との戦いで負った傷を回復する、なんて技も見せてはくれたけれど……右足が折れ、左足は股の付け根まで吹き飛ばされた状態じゃあ、もう取り返しは付かない。お前はもう、詰んでいる。
「みんな、行け! 頭を潰して殺し切るんだぁーっ!」
僕にできることは、もうこれで全部。
バズズを拘束するために、『無道一式』にボンの死体とサラマンダーの死体半分を食わせ、おまけに装備はぎ取った後のゴーマ兵も残さず食べさせて、それから姫野が血濡れになって摘出してくれたボンのコアを用いてコア爆弾の作成。
これで何とか奴の両足を吹き飛ばして、巨人を地に伏せさせる。それでも尚、生きている強靭な生命力の巨人を、あとはもう前衛組みんなの頑張りに任せる。
お膳立てはした。トドメは任せたよ、みんな。
僕も魔力切れ寸前で力なく膝を屈しながら、雄たけびを上げて倒れたバズズへ躍りかかる勇敢な戦士達を眺めることにした。
「————そうか、ボンとバズズが討たれたか」
あまりにも重苦しい沈黙が、玉座の間を支配した。
ズタボロの伝令によってもたらされた情報は、オーマをして渋い顔で黙らせるほどの凶報である。
王国の誇る大戦士二人が殺された。それも、よりによってニンゲンに。
これで災害も同然の強力なモンスターとの戦いで死んだのならば、彼らの名誉はまだ守られる。王国のために、命を賭して戦ったのだと。
だがしかし、ニンゲンを相手に敗北は許されない。ただのゴーマ、ゴーヴ、どんなに譲ってもゴグマまでが被害の許容範囲だ。
王国の力の象徴たる大戦士が、ニンゲンと戦い負けたなど、絶対にあってはならないことだ。
その、最悪が起こってしまった。そんなことは、今この場に集った大戦士達にも分かり切っていること。
「者共、下がれ」
「しかし、オーマ様、我らにどうかご指示を」
最年長たるジジゴーゴが顔を伏せたまま、オーマへと請うた。これは王国始まって以来の危機である。このまま下がってどうするべきか、オーマ以外に道を示せる者はいない。
「……ニンゲン共がこの機に乗じ、王国へ攻め寄せてくる可能性はある。急ぎギザギンズ隊も呼び戻し、より一層の守りを固めよ」
「ははっ!」
「詳しい沙汰は、追って伝えよう。余に考えがある」
「オーマ様の御心のままに!」
そうして、王宮警備を担うジジゴーゴとバンドンは退出する。
「他の者も、下がっておれ。しばしの間、誰もここへ入れるでないぞ」
親衛隊も、女も、全てを下がらせる。
そうして、ただ一人オーマの下へ残ることを許されたのは、いまだ直接指導という罰を受ける、拘束された大戦士長ザガンのみとなった。
玉座の間に二人だけとなった後、おもむろにオーマは席を立つ。
「おのれ……おぉのれぇえええええっ、ニンゲン共めがぁああああああああああああっ!」
手にしていた酒の満ちた杯を床へ叩きつけ、小さな卓に乗せられた飲食物を食器や燭台ごと放り投げる。
「よぉくぅもぉ、やってくれたなぁ! 余の誇る大戦士をぉおおおおっ!」
しばしの間、オーマは怒りの限り絶叫しては暴れ回る。握った杖で所かまわず殴りつけ、目につく物を破壊した。
八つ当たり。そう、あの聡明な王であるオーマが、今は理性を失ったただのゴーマが如く荒れていた。
「ぜぇ……はぁ……ザガン」
「……」
肩で息を切らしながら、ただ王の凶行を黙って見つめるのみだったザガンを呼ぶ。
返事はない。
オーマは、ザガンの口に噛ませられた轡を見て、言葉を話すことを禁じていたことを思い出した。
「……失望したか、ザガン。なんと、余の無様なことよ」
激しく燃えるような憤怒の表情は一転。憂いさえ帯びた表情で語りながら、オーマはザガンの轡を自ら解いた。
「いいえ。この国難にあって、我が身の不甲斐なさを恥じ入るばかりにございます」
「この失態、誰がお前のせいにできようか。余もまた、ニンゲンを侮っておったのだ……」
自嘲するように呟きながら、オーマは再び玉座へと腰を下ろした。
「深く悔いておられるからこそ、こんな私めに、オーマ様の御心の内をお見せくださったのでしょう」
大戦士をニンゲンによって討たれた。これを誰よりも恥じ、悔い、怒っているのはオーマ自身に他ならない。王として強靭な理性を持つオーマでさえ、あまりの怒りに我を忘れるほどだ。
そんな激情に支配されようとも、決して配下に無様な姿は見せまいと、退出を命じたオーマの自制心に、ザガンは心底敬服した。
怒りのままに『巨大化』を使って暴れた自分との差を、まざまざと見せつけられた思いである。
「ああ、そうだとも。ザガン、お前には見ていて欲しかったのだ」
彼はただの大戦士長ではない。歴代最強にして、自身に迫る聡明さがある。強さと賢さを兼ね備えた理想的な配下。
故に、王を崇拝し、従うだけの駒ではない。王という立場と、オーマという自分自身を、より理解して欲しい。すなわち、ザガンを自身の理解者という対等な存在であることを求めたのだった。
「余をおいてゴーマの王はおらぬ。だが、この身は全知全能の神ではない。及ばぬこともある。過ちを犯すこともある————大戦士を二人も失った責は、全て余にあるのだ」
「恐れながら、オーマ様のご期待を受けながらも、ニンゲンに敗れ去ったボンとバズズの力不足にございますれば」
「それ以上は、言うな。戦いに散った大戦士、貶めることはまかりならぬ」
「はっ……」
「戦うことが戦士の務め。そして、戦いに勝てる差配をするのが王の務めよ。余はニンゲンの力を侮り、見誤った」
そう、間違いなく数では劣るニンゲンの小勢。邪神の加護を得た強者揃いと聞きながらも、オーマは大戦士ならば必ず勝てると過信してしまったのだ。
恐れるべきは、向かわせた追手を分断されて各個撃破されること。ゴグマ含む多数の兵を失うのは避けるべき。
だからこそ、確実に勝てる大戦士に捜索隊を任せた。ニンゲンを見つけ次第、大戦士が駆け付ければそれで討伐は叶うと。
だが、何故そこで思わなかった。どうして、考え付かなかった。
王国最強の戦力である大戦士。この大戦士こそを、ニンゲンは単独で動く機会を待ち、各個撃破を狙っていたのだ。
「ボンの竜退治を許したのは余である。バズズは己の勘に任せて、一人で動くだろうことも、余は分かっていた」
王国から遠く離れたボン隊が、まず狙われた。
そして偶然と言うべきか、ニンゲンの動きを察知したバズズが単身、そこへ駆けつけた。
しかし、バズズが来た頃にはすでに手遅れだったのであろう。大戦士単独なら勝てるだけの戦力を、ニンゲンは持っているのだ。
二人でかかれば、確実に勝てただろう。しかし、二人の大戦士が現地にいながらも、順番に各個撃破されてしまった。全て、ニンゲンの思惑通り。
「慎重に、確実に、ニンゲンを討つべしと大戦士を配した。だが、ニンゲンは余の想定の上を行った。認めよう、余はニンゲンの策謀にしてやられたのだとな……だが、次はない」
オーマの瞳に、怒りに燃えながらも、理知的な冷静さの光が宿る。
感情的な屈辱は、すでに抑えた。必要なのは、邪悪なるニンゲンの策略を越える、賢明なる頭脳。
「ザガン、今をもってお前の拘束を全て解く」
「はっ」
「王国存亡の危機と心得よ。最早、これは狩りではなく、戦争だ。かつてこの地を支配するため、アンデッド族とジーラ族を滅ぼして以来の戦争である」
「ははっ」
「大戦士長ザガン。オーマの名を持って命ずる……ニンゲン共を、一匹残らず殲滅せよ」
「御意。このザガンが必ずや、オーマ様の御前に全てのニンゲンの首を並べてご覧にいれましょう」
「————以上が、美波が調査してきた結果よ」
「そうか、よく分かったよ……」
夏川さんは、かなり色々な情報を仕入れて来てくれたようだ。委員長の要点をまとめた説明だけでも、結構な情報量となっている。
俺はその説明を受けて、王国の攻略法を考える……よりも前に、どうしても聞かなければいけないことがあった。
「けど、どうして俺にだけこの話を?」
今日の朝食を終えてすぐのことだった。委員長から、どうしても二人で話したいことがある、と真剣な顔で言われ、俺達は砦の中でも目立たない空き部屋へとやってきた。
そうして、まず委員長から話された内容が、夏川さんの調査結果である。
ここまでの内容なら、今日の夕食後に予定している学級会……というには、あまりにも人数が減り過ぎてしまったので、そう言うべきではないのかもしれないが……ともかく、全員一緒に聞けば良いことだろう。
何故、長い説明の二度手間をかけてまで、俺に話を持ち掛けて来たのか。彼女の真意を、俺は計りかねていた。
「悠斗君、話はここからよ」
「そ、そうか」
随分と気合を入れたように、委員長が一歩詰めてくる。なんだか、思い詰めているような表情にも見えたが、今はそんなことに口を挟むべきではないだろう。
「今の説明を聞いて、悠斗君は何か王国の良い攻略法は思いついたかしら?」
「うーん、そうだな……ゴーマが遺跡の機能を完全に把握できていないことから、王宮まで辿り着けば勝機はありそうだとは思うけど、不確定要素が多すぎて危険すぎるな」
「正攻法で正面突破はできると思う?」
「まず無理だな。ザガンだけでも厳しいのに、他に五体ものギラ・ゴグマがいるんだ」
そして最も警戒すべきなのは、ゴーマの王として君臨しているオーマだ。調査結果の要約を聞いただけでも、オーマの特異性は凄まじい。ザガン以上の戦闘能力を秘めていてもおかしくないし、何もなくたって、オーマが軍を指揮すれば途轍もない脅威となる。
多勢に無勢という構図は、どれだけ情報を入手したところで、覆しようのないものだ。
「やはり、何とか王宮まで潜入し、一気にタワーまで突入するしか方法はないと思っているが……委員長は、何か思いついたのか?」
「ええ、私に腹案があるわ」
「そうか、そりゃそうだよな。そんな都合よく作戦なんて————あるのっ!?」
俯きかけた顔を慌てて上げて、委員長を見つめた。
俺の間抜けなノリツッコミ的リアクションを受けても、委員長は硬い表情を崩さず、けれどもはっきりと言い放つ。
「本当よ、悠斗君。私に王国を攻略するための確かな作戦があるの」
「おお、そうなのか! 凄いじゃないか、一体、どういう作戦なんだ!」
「それは……今は教えられない」
委員長は露骨に視線を逸らして、そう断った。
私は隠し事をしています、と明言しているようなものだ。
嘘を吐くのが苦手なのが、委員長である。だから、隠し事をするのも得意ではない。どこまでも誠実で実直で、生真面目に過ぎるのが如月涼子という少女なのだ。
彼女が本心に反したことを口にするのは、龍一のことくらいだろう。
「どういうことか、説明してくれないか」
「どうも何も、今言った通りよ。私には王国攻略の作戦がある。けれど、それを今ここで教えることはできないの」
「作戦を隠さなければいけない理由も、教えてはくれないのか?」
「ええ、話すわけにはいかないわ」
「そんなことで、話が通ると思うのか?」
「だから、これは悠斗君、貴方が決めることよ」
「俺が?」
「私を信じて、作戦の時に従ってくれるか。それとも、信じられないと断るか」
「な、なんで……なんで、そんなことを言うんだ……」
まさか委員長が、こんな不誠実な問いかけをしてくるとは。作戦は教えられない。だが、従うかどうか決めてくれだなんて。
思わず、どうして、という言葉が口から出てくるが、それに応える気はないのだと委員長はすでに明言している。
「委員長も、小鳥遊さんのことを疑っているのか……?」
「……」
彼女は黙秘を貫く。だが、作戦を話せない理由としてはこの辺のことが妥当だろう。
「そんな、仲間を疑うような作戦で、本当に上手くいくのか?」
「なら、悠斗君は私を疑ったままで、王国攻略ができるの?」
「そ、それは……」
「悠斗君の協力が得られなければ、私の作戦は成功しない。だから、やるかどうかは貴方の判断に任せようと思ったけれど……お願いよ、悠斗君、私を信じて欲しい。私の作戦が成功すれば、必ず全員、無事にダンジョンから出られるわ」
今度こそ、委員長は俺を真っ直ぐに見つめてそう断言した。
そうだ、彼女は嘘を吐かない、嘘を吐けない人だ。その誠実な人柄を、俺は良く知っているし、だからこそ信頼している。
「……分かった。委員長がそこまで言うのなら、俺は信じよう」
「ありがとう、悠斗君」
固く握手を交わす。彼女の手はやや汗ばんでいるように感じた。そんなに、この話を持ち掛けるのに緊張したのだろうか。
「それじゃあ、今日の学級会では、みんなの説得をお願いね。作戦の詳細は明かせないけど、信じて従って欲しいって」
「うっ……ま、まぁ、頑張るよ」
桜や明日那からは、嵐のような詰問をされるだろうことを想像して、俺は早くも自分の選択を後悔するのだった。
2021年6月25日
次回で第18章は最終回です。
次章からは、いよいよゴーマ王国の攻略となります。それでは、お楽しみに。




