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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第18章:最下層攻略
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第300話 巨人殺し(2)

「大丈夫、今のみんなの実力なら、必ずギラ・ゴグマでも完封できる」

 ただし真っ向勝負で、とは言っていない。

 必要なのは、何よりもまず犠牲を出さずにギラ・ゴグマを始末すること。そのためには、こちらから仕掛ける奇襲のアドバンテージを最大限に利用する。

「奴らに奇襲を仕掛ける場所はここ。山の麓で、何かの観光施設みたいな建物が残ってるとこ」

 サラマンダーを討伐するにあたって、ボン隊はこの遺跡が建つ麓から登って行ったことを確認している。元々、登山道として整備されていたのだろう。かなり登りやすく道が残っており、緩やかな傾斜で山頂まで続く。

 100前後の人員を抱える部隊で山登りをするなら、絶対このルートを選択する。通る道が分かっていれば、待ち伏せもしやすい。

「まずは、ここを通りがかった奴らの前に現れて、注意を引く」

「ヒャッハァ! ここは通さねぇぜ!」

 物凄くサマになってるチンピラ声で、上田が単独でボン隊の前へ躍り出る。

「ボン隊の先頭はゴーマとゴーヴの混成で十数体ってこと。上田君は、とりあえずコイツらを派手にぶった斬っててよ」

 それと同時に、左右に潜ませていた面々が煙玉を投げ込む。この投げ込む位置調整も地味に大事。だから、それも込みで練習済み。

 ボンが山の上でサラマンダーと死闘を繰り広げている間、僕らはこの奇襲ポイントで綿密な打ち合わせとリハーサルを済ませていたのだ。

「四方を煙幕で包まれれば、まず足が止まる。で、その状況で真っ先に動き出すのはボンだ」

 まとまった数がボンと一緒に上田に向かって行っても、フォローはできるようにしてはおいたけど。杞憂で済んで良かったよ。

 煙幕投入の直後に、左右の伏兵部隊も突撃をかます。

 ここでの伏兵部隊というのは、主にスケルトンとハイゾンビ。あとは、レムにコアを与えて制御できる限界数のラプターも出した。アルファではなく、普通のラプターだ。だってこっちのがコストが安いから、数だけ揃えたいならコイツに限る。

 雑魚モンスター代表みたいな面子だけれど、煙幕で視界を奪って動揺しているゴーマ兵を襲うならば十分すぎる。それでもこっちの数は少ないし、単体での戦闘力もゴーヴに劣る。でも、その代わり全員死を恐れないから、怯むことなく全力で敵に襲い掛かってくれる頼もしい捨て駒達だ。

 それから、奇襲地点をちょうど見渡せる建物上階の窓辺に、姫野と中嶋の両名を配置して、掩護射撃をさせている。

「姫野さんは、随分と『光矢ルクス・サギタ』の扱いが上手くなったようで?」

「ちょっと、私を戦闘でも酷使しようっていうの!?」

「じゃあ淫魔の力でゴーマに取り入る潜入任務やってみる?」

「私もみんなと一緒に戦うわ! 援護射撃は任せて!」

「中嶋君も、姫野さんと一緒に掩護でお願い」

「えっと、俺は突撃する方にいなくていいのかい?」

「今回の奇襲じゃ遠距離攻撃持ちを増やした方が効果的だと思う。でもいざって時は、突撃組のフォローに行ってもらうかもしれないから」

「うん、分かった。そうならないよう、頑張って魔法を撃つよ」

 いまいち頼りなさそうな返事の中嶋だけれど、きちんとした魔法剣を与えれば、立派に魔術師クラスと同等の働きをしてくれる。

 追放生活の間に使い込んでガタがきていたけど、僕がしっかり修理した『クールカトラス』に加えて、横道討伐でMPKしてやったゴグマから鹵獲した武器を元に錬成した風属性の剣、氷と風の魔法剣二刀流で、中嶋はあの氷雪エリアを思わせるブリザードの如き攻撃魔法を撃ち込んでくれた。

 そうして、雑魚軍団の突撃と姫野・中嶋コンビの掩護によって、多少の間は優勢を維持できる。

 もっと効果的に襲わせるなら、上田登場と同時の方がいいのでは、と思うかもしれないけれど、ここで大事なポイントはボンの注意を上田一人だけに集中させることだ。どの程度、他のゴーマ兵が足を止めるかってのは二の次でいい。

 それは勿論、最初の一撃となるボンへのステルスアタックだ。

「上田君に気を取られてガラ空きの背中を襲うのは、芳崎さんと山田君。まだ新しい武技に慣れてはいないようだけど……間違いなく上級にあたる武技だから、最大威力の一撃を叩き込んで欲しい」

「オラァッ! (剛大打撃ヘヴィメタルスマッシュ

「ウラァッ! (大断撃破ブレイクインパクト

 実はヤマタノオロチ討伐後に、いつの間にか習得していたという武技を、二人には使ってもらった。

 武技は慣れないと、発動そのものはできても、戦闘で使っていくのは難しい。

 特に二人の新たな武技は、その威力に見合うかのように、これまで以上に正確なフォームと力が必要らしい。力を溜める、というようなワンアクションがいるなら、一瞬の判断が生死を分ける実戦では使いにくい。

 僕らと合流して、今日に至るまで練習する時間はそれなりにあったから、隙だらけの背中にぶち込むくらいは十分にできるだろう。

 そして、見事に二人の武技はボンの背中に炸裂した。

「うっわマジかよ、ピンピンしてるじゃん」

「かなりの手ごたえはあったんだがな……」

 それなり以上に血飛沫が上がってるけど、全く痛がる素振りさえ見せない元気なボンの姿に、僕も二人と同じ気持ちになる。渾身の一撃をステルスアタックで直撃させたんだから、これで殺せる、とまではいかなくても、戦闘に支障でるくらいの手傷は与えたかったよ。

 でも、巨人化していない素の状態なら、まだ十分に倒せるメはある。

「このまま行くぞ、オラァアアア!」

「一気に押すしかねぇ!」

「くっそ、変身しなくても強ぇじゃねぇかよ!」

 三人とボンの真っ向勝負が始まった。

 巨人化を使うまでは、そのまま戦うように指示している。歴戦の前衛戦士三人組なら、巨人化さえ使われなければ対等以上に戦えると僕は信じていた。

 実際、かなりいい勝負を演じているが……伊達にギラ・ゴグマとして特別視されてはいないようだ。ボンは力任せ全開で、豪快に巨大棍棒を振り回し、三人の連携攻撃を寄せ付けない。

 誰かが掩護に入れば奴の優勢も崩せるだろうが、他のゴーマ兵の足止めをここで緩めるわけにはいかない。ボン単独で三人相手に押しているのだから、後ろからちょっかいがかかれば危険だ。

「上田君、もう下がっていいよ」

 スマホでそう連絡した。ちなみに、僕のガラケーはないので、代わりに中井と野々宮さんのスマホを拝借させてもらっている。今、上田に連絡したのは中井の方ね。

 当然、戦闘中なので上田からの返事はないけれど、こっちの声が届いていればそれで十分だ。作戦時間そのものは数分の予定なので、最初から通話状態にしている。

「今だっ!」

 ほどなくして、上田が機を見て撤退を叫んだ。

 三人で巨人化前ボンを素早く仕留めきれなかった時は、適当なところで下がると打ち合わせしてあるので、山田と芳崎さんもスムーズに背後の煙幕へ飛び込み姿をくらませた。

「よし行け、レム!」

「ブモァアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 ここで、体だけ用意して待機させておいたミノタウロスを投入する。

 限界数でノーマルラプターを稼働していたけど、煙幕の中で乱戦が始まりほどほどに数が減り始めた。一体か二体ほど機能停止させれば、ミノタウロスをフルスペックで動かせるだけの制御力はすぐに取り戻せる。

 制御力の限界はあっても、この切り替えの素早さはレムの強みだよね。体さえ用意しておけば、状況に応じて最適な体を戦線に投入できるのだから。

「————『黒髪縛り』」

 そんなワケで、三人が退いた後にボンの足止め専用に用意したミノタウロスと、僕の『黒髪縛り』が炸裂する。

 横道戦に倣って、頑丈な太い鎖を用意して、黒髪でそれを絡ませて拘束するのだ。いやぁ、姫野さんは本当に鎖を作るのが上手になったよね。ヤマタノオロチの時に「もう一生分、鎖を作った気がする……」とか中嶋に愚痴ってたけどけれど、まだまだこれからだよ。

 ともかく、ミノタウロスと鎖のお陰で、ボンの動きは完全に止まった。

 そして、いよいよ危機感を覚えたか、それとも面倒くさくなったのか、奴の全身が赤く輝く文様が浮かび上がった。

「ようやく巨人化を使うか。でも、もう遅いんだよね————杏子、トドメだ」

「よっしゃ、任せろ。見てろよウチの必殺技ぁ!」

 と、僕のすぐ隣で自信満々な笑みを浮かべる杏子の前には、すでにして巨大な岩の塊が完成していた。

 直径およそ3メートル。どこの岩山から持ってきたのか、というほどの赤茶けた荒削りの大岩。勿論、これは杏子が土魔法によって作り出したものだ。

 だが、この岩塊を構成するのは土魔法のみではない。

 巨大な岩そのものよりも目立つかもしれないのが、その周囲に渦巻く砂の帯だ。サラサラとそこだけ砂嵐が起こっているように、綺麗な帯状となって円を描いている。要するに、土星みたいな感じ。

 なんでも、これは土精霊が力を貸してくれている状態なのだそうな。僕には分からないけれど、葉山君の見立てでは、かなりの数の土の微精霊が集まっているということだ。

 で、この土精霊のお陰で、これほどまでに巨大な岩の塊を形成し、維持し、そして撃ち出すことを可能とする。

 いつからか、杏子がこっそり葉山君に相談して必殺技の開発を始めたそうで、その成果がこれなのだ。そして、僕は自身気に見せてくれたこの必殺技を見て、ボン討伐を決意できた。

 これの元は限界まで力を込めた土属性上級攻撃魔法『破岩長槍テラ・フォルティスサギタ』。それを土精霊の力を借りることで、更なる強化を果たした魔法と言える。

 けれど、ただのバフ付き扱いじゃあ味気ないし、確実にギラ・ゴグマも倒せると確信できるだけの威力を叩き出すコイツは、必殺技として名前をつけてあげるべきだろう。

「どっせええええええい!」

『土星砲』、と名付けた必殺の土魔法が、杏子の気合の入った雄叫びと共に放たれる。

 超重量の大岩が高速で撃ち出されたことで、僕も杏子も髪がブワァーっと風圧で煽られた。

 土星の環のようになっていた土精霊の動きが、さながらマズルフラッシュの如く弾けるように散りながら、同時にぶっ放された岩塊の尾のようにたなびいた。発射した後も、岩そのものからもブースターのように推進力を放って加速を続けているらしい。

 杏子と本体の僕が陣取っているのは、姫野・中嶋コンビが掩護射撃をしていた建物の、道を挟んで反対側にある別棟だ。

 この『土星砲』は、威力は抜群だが発動までに結構な時間がかかるのが唯一にして最大の難点である。当然、強力な魔法なので、チャージを始めた段階から大きく魔力が発せられるので、恐らくはゴーヴくらいでも気づかれるだろう。

 だからこそ、『土星砲』発動を悟られないようにする必要があった。長い溜め時間に、魔力察知のリスク、そして一発外せばお終いのロマン砲である。

 確実に当てる。それも奇襲の優位を生かして、全く気付かれていない状態で命中させるのだ。

 そのために、一連の奇襲攻撃を先に仕掛けた。いざ戦闘が始まれば、多少の魔力の気配が漂っても、そっちを気にしてはいられない。上田の目立つ登場、射線は遮らないように焚いた煙幕、捨て駒部隊の突撃と掩護射撃、そして三人の連携攻撃。全て、この奇襲作戦の本命である『土星砲』のためだ。

 果たして、乾坤一擲の必殺技は、

「ふっ、勝ったな」

「しゃあっ! 直撃ぃー、ザマァ!」

 見事に上半身が土星砲にぶっ飛ばされ、地面に下半身だけで倒れたボンを見て、僕は杏子と喜ぶ勢いで抱き合った。うーん、おっぱいおっぱい。

「ンバァアアアアアアアアアアアアアッ!」

「ボン!? ボン!?」

「ギラ・ゴグマ、ボン! ジンダァアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 おおー、最強戦士なギラ・ゴグマが無様にぶっ潰れたことで、奴ら大騒ぎじゃあないか。

 変身中は攻撃されないと思った? 残念だけど、魔法陣光ってから数秒は巨人化すんのに時間かかるのは、観察してて知ってんだよね。大砲一発ぶち込むには十分すぎる無防備タイムだ。

「さて、後は消化試合だね。一匹残らず始末しよう」

「りょーかーい」

 ボンが瞬殺されて完全に戦意喪失したゴーマ兵を殲滅するのは、今の僕らにとってはあまりにも簡単な作業だった。それに、ここは開けた見晴らしの良いロケーションなので、逃げ出した奴も丸見えだし。

 さて、きっちりゴミ掃除も終わったことだし、サラマンダー素材をいただくとしようか。




「……また、俺だけ何もしてないんだけど」

 上田達が勝利の喜びを分かち合って騒いでいるのを、葉山君は捨てられた子犬のような目で見つめていた。

「今回は、葉山君はいざって時の保険だから。何もしないで済んだのが大成功だよ」

「いや、分かってる。分かってはいるんだ……でもな……」

「もう、気にし過ぎだよ。僕はちゃんと見ていたよ。残党狩りの時、逃げるゴーマを仕留めていたじゃないか」

「たまたまこっち側に来た奴を一匹だけ背中から刺しただけだぞ! この状況で討伐数1とか逆に虚しいわ!」

「まぁ、キナコとベニヲは残党狩りだけでも結構な活躍だったしね」

 ボンが倒れれば、もうキナコとベニヲの霊獣組を温存しておく必要はない。ゴーマを一匹たりとも逃がさないようにするために、こっちも全員投入だ。

 キナコは前衛戦士の面目躍如とでも言いたげに、獰猛な雄叫びを上げて狼狽えているゴーマ兵の集団に突っ込んで大暴れ。

 ベニヲの方は一目散に逃げていくヘタレゴーマ共を俊足でもって捕捉し、火炎放射で焼き払った。

「コユキも意外と活躍してたよね。ゴーマくらいなら、もう凍らせることができるなんて」

 僕は掩護で逃げていく奴らを『黒髪縛り』で妨害する役目に徹していたけれど、そんな僕を真似たのか、コユキも逃げるゴーマに向かって冷気のブレスを吐いていたのだ。

 あのユキヒョウのように、骨の髄まで瞬時に凍らせるような冷気はまだまだないけれど、ゴーマの足首一つを凍り付かせるくらいはできるようだ。

 そうして逃げ足を封じられれば、後はウチの頼れる前衛組が手早く始末してくれる。動きさえ止めれば、トドメを刺すのは彼らにとっては流れ作業に過ぎない。

「え、ちょっと待って……それじゃあ俺の活躍って、コユキ以下ってことに……」

「よーし、それじゃあ戦利品のサラマンダーを検分しようかなぁ!」

 基本ポジティブシンキングの葉山君だけど、落ち込むと面倒くさいから、そろそろスルーしてあげた方が身のため、もとい、彼のためでもある。大丈夫だよ、葉山君は今のままで。

 ともかく無事にボン隊の殲滅が完了して、僕はスキップしそうな気分で、巨大な荷車に積み込まれたサラマンダーの元へ向かった。

「ああぁー、結構派手にやられちゃってるなぁ」

「うん、そうだね、残念だね。これはちょっと素材として利用するのは無理なんじゃないかなぁ?」

 頭をガッツリと潰され、翼と後ろ脚を一本ずつ折られた、実に痛ましい姿のサラマンダーを見て、姫野はやけに弾んだ声で言っている。

 もしかして損壊が激しい分だけ、使えない部位が増えて錬成作業が楽になる、だなんて甘っちょろいこと考えているんじゃあないよねぇ?

「本当に残念だよ。傷のある部分を使えるようにするには、かなり手間がかかりそうだ」

「えっ、その砕けた鱗とか使うつもりなの?」

「サラマンダーは貴重なドラゴン素材だからね。砕けた鱗一枚、無駄にする気はないよ」

 その昔、僕は拾ったサラマンダーの鱗一枚だって大事にレムに使ってあげたんだ。

 それに、これから王国攻略するにあたって、このサラマンダーはとても重要な装備用素材になってくれるだろう。

「こんなデカい奴を加工するの、どんだけかかるのよ……」

「あのサラマンダーを一頭丸ごと使えるなんて、ワクワクするよね!」

 だから、ここは喜ぶところだよ、姫野さん。ほら、スマイルスマイル。

「それじゃあ、手早くゴーマから剥ぎ取って、撤収しようか」

 そうして、ゴーマの武器と鎧兜まで、金属の使われているものは余さず回収し、僕らの頼れる輸送車両ロイロプスに積み込みを終えた、ちょうどその時であった。

「……あるじ」

「ん、どうしたレム?」

 と、僕は聞いたけれど、視界の端でキナコが耳をピンと立てたのを見て、確信した。

「敵、来る」

「敵襲だ! 全員、構えて!」

 叫ぶのと同時に、けたたましい音が響き渡った。

 それは山のある方とは反対側、僕らがやってきた森の方向からだ。

 ドドドド! と森の木々が次々と倒れて行くのが見えた。この麓の遺跡に続く道ではなく、森の真っただ中を強引に突っ切っているのだと、一目で分かる。

 そして、あっという間にソイツは僕らの前へと姿を現した。

「ヒャアッハァアアアアアアアアアアッ!!」

 文字通り、爆発するように炎を噴き上げながら、ご機嫌な絶叫を上げて道のど真ん中へと降り立つ。

 全身から揺らめく炎を纏っているのは、目立つ金の装飾品に、赤い腰布のみを巻いた半裸のゴーヴ。

 いや、たとえその全身に走る赤い刺青の文様が見えなかったとしても、僕はコイツの顔だけで十分に判別がついた。

「ギラ・ゴグマのバズズだ!」

 なんでここにコイツがいるんだ!?

 出発前の時は、いつも通りに王国周辺の探索兼警戒についていたことは確認していたけれど……まさか、この奇襲作戦実施にあたって、ここ半日の間にレムの監視が途切れてしまったタイミングで、僕らを追いかけて来たのか。

 僕らの姿を、あの目玉に捕捉されていたのか。それとも、他にゴーマの斥候でもどこかに潜んでいたのか……どちらにせよ、予期せぬタイミングで新たなギラ・ゴグマと遭遇してしまった現実は変えようがない。

「ボン、ンバ、ズヴェダ……ヴェハハハハ! ボン、ザジャグドガゴゴジン!」

 バズズは、僕らの後ろに倒れているボンの下半身だけ残った遺体を指して、笑っていた。

 同じギラ・ゴグマという仲間を倒された、怒りや悲しみといった感情はない。きっと、奴にあるのは僕ら人間如きに倒されたという軽蔑だけ。

 相変わらず奴らの言葉は分からないけれど、アイツが何を言っているのかは分かる。

 お前、今絶対に「ボンは我々六人の中では最弱。ギラ・ゴグマの面汚しよ」って言ってるだろ。

「お、おい、どうすんだ桃川」

「流石にいきなりもう一体と戦うのはヤバくない?」

 上田と芳崎さんがコソっと聞いてくる。

 他のみんなも、この予期せぬ状況に動揺を隠せない。

 ボンは作戦通り首尾よく討伐に成功した。けれど、この結果を見て誰もギラ・ゴグマは余裕で倒せる、などとは思っていない。

 今回の奇襲作戦で最も重要なポイントは、最強のゴーマであるギラ・ゴグマを巨人化させる前に倒す、この一点にあるからだ。

 すなわち、今の僕らには、まだ巨人化を果たしたギラ・ゴグマを確実に倒せるという保証も自信もない。まして、あの時の蒼真君みたいにぶっつけ本番で挑むなんて絶対に御免だ。

「ギラ・ゴグマ、バズズ!」

 だが、アイツは僕らを逃がすつもりは毛頭ない。

「ギラ・ゴグマ、バズズ!!」

 逞しい胸板をドンドン叩いて、堂々と名乗りを上げる。

 初めてザガンが現れた時と、全く同じ行動。それはきっと、戦士として誇り高く戦いに臨むことを示すと同時に、全力を尽くすことの宣言なのだろう。

 直後に、バズズの体は凄まじい魔力に包まれると共に、全身の刺青が眩い真紅の光を発した。

「ギッ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

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― 新着の感想 ―
安心しろ葉山。後詰めの戦力があるってのはすごい安心感があるんだ。 戦闘力はあるのに戦力にカウント出来ない精霊術師もいるんだから、討伐数1でもかなり立派だ。 ・・・お前のことやぞ、レイナ。
[一言] 『赤き熱病』が来るか?
[良い点] 「ンバァアアアアアアアアアアアアアッ!」 「ボン!? ボン!?」 「ギラ・ゴグマ、ボン! ジンダァアアアアアアアアアアアアアアッ!?(ギラ・ゴグマ、ボン! 死ンダァアアアアアアアアアアアア…
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