第296話 修行再び
小太郎が分身をゴーマ王国の偵察へと送り込んだ日。
現状では情報収集待ちとなるため、他のクラスメイト達は若干の暇を持て余すこととなっていた。
外ではゴーマの軍勢がそこら中をウロついていることには変わりないので、あまり積極的な探索はできない。
しかしながら、食い扶持の確保に装備や物資の充実のために、狩りは行われている。レム鳥による厳重な警戒と、入念な逃走経路の確保などの対策によって、本拠点直上にある遺跡街ではそれなりに行動ができるようになっている。
それでも学園塔での生活に比べれば、格段に探索の仕事は減っている。十分な休息期間がとれたことで、短期間とはいえ過酷な放浪生活を送っていた五人も、すっかり元気を取り戻していた。そして、元気になるとただ黙って休んでいるのも退屈に過ぎず……
「ちっ、蒼真の教えを真に受けんのは癪だけど、知ってる修行法なんてこれくらいしかねぇからな」
『剣士』上田は、小太郎に用意してもらった木刀を片手に、ジャージとシャツ一枚のラフな格好で素振りを始めた。
剣を握って僅か数か月とはとても思えない、流麗かつ力強い振り。
「今は少しでも、強くなるしかない。暇があるなら、トレーニングくらいするべきだろう」
同じ格好の山田は、野球部で行われていた基礎トレーニングを繰り返し行っていた。各種筋トレに走り込み。しかし天職を授かり超人的な身体能力を得た今となっては、それ相応の負荷も加えなければ効果は見込めないので、総重量100キロの重りをつけて行っている。
「そういやぁ、中嶋は?」
「アイツは工房で姫野さんと」
「はっ、イチャついてんのかよ」
「桃川に酷使されている」
「俺、『剣士』で良かったわマジで」
「まぁ、アレを見るとな……俺も『重戦士』で良かったと思う」
そんなことを話しながら、上田と山田の二人はストイックにそれぞれの鍛錬に励む。
普通の人間では到底耐えきれないメニューを軽い準備運動がてらにこなし、体が温まって来たところで、二人はどちらともなく向かい合った。
上田は自然な動きで木刀を構え、相対する山田はバットのような野太い木の棍棒と、愛用の盾を手にした。
ここから先は、実戦形式の模擬戦だ。お互いに木製武器の一撃を受けたところで、どうにかなるほどヤワな体じゃない。木刀と棍棒なら、武技込みでも全力で打ち合える。
睨み合う『剣士』と『重戦士』。ただの模擬戦とはいえ、得も言われぬ緊張感が広間を満たし————
「おおっ、なんだよお前ら、こんなとこで何やってんだー?」
どこまでも呑気な声が響き渡り、二人は気が抜けたように構えを解いた。
やって来たのは勿論、クラス一の能天気男、葉山理月である。
散歩でもしているのか、すぐ隣にはベニヲが駆け回り、リライトの腕にはコユキが抱かれていた。
「おう、葉山。見て分かんだろ、修行だよ、修行ぉー」
「修行!? マジかよ、そんなことやってたのか、真面目かお前ら」
「お前が呑気なだけだろが」
懐いた犬に、可愛い子猫を抱えたリライトの姿は、ペット大好きな金持ち坊ちゃんかというような雰囲気である。どこまでも気の抜ける姿を見せるリライトに、上田も呆れ気味のため息を吐いた。
「なんだよ、俺だって過酷なサバイバル生活を生き延びてきたタフガイだぜ。っていうか、俺も混ぜろよ!」
「待て、葉山、お前の天職は『精霊術士』だろう? 俺達と同じ真似するのは」
「そうそう、貧弱な魔術師クラスじゃあ、俺らの相手にはなんねーなぁ?」
真剣な忠告をくれる山田と、挑発的な表情を向ける上田に対し、リライトの男としての闘争心に火が着いた。
「言いやがったな、上田。剣士がナンボのもんだよ、この精霊術士リライトの力、見せてやるぜっ!」
何故か自信満々に豪語するリライトに、渋い顔の山田と、噴き出すのをどうにか堪える上田であった。
「ぷくく……分かったよ葉山、そこまで言うなら相手になってもらおうじゃねぇの」
「俺の華麗な槍捌きにひれ伏しな! じゃあ山田、ちょっとコユキ持ってて」
「お、おう……うおぉ、小っちぇぇ……」
コユキを山田に託すと、その小さな体を恐る恐るといった様子で抱えた。
「木の槍はその辺にあるから、好きなの選べ」
「なんでこんなイッパイあんだよ」
「桃川は凝り性だから」
無駄にバリエーション豊富に用意された木製武器の数々が置かれた広間の隅で、リライトはしばし得物を物色し、見事に『レッドランス』と同じ長さの木槍を発見し、意気揚々と戻って来た。
「どしたい、上田、早く構えろよ」
キリっとした表情で、まぁそれなりに慣れた様子で槍を構えたリライトが言い放つ。
「はっ、素人相手に構えなんていらねーだろ」
腰に手を当てながら、ただ右手で木刀を握っただけの体勢で笑う上田。
「なんなら、ご自慢の精霊の力を借りたっていいんだぜ? 火とか雷とか、出せるんだろ?」
「剣道三倍段って知ってるか? リーチが長い方がそんだけ有利ってことだぜ。つまり、槍を持つ俺の方が三倍有利ってことだ————覚悟しやがれ、上田ぁあああああああっ!」
そうして、勢いよく踏み込んで槍を突き出したリライトは……
「————な、何が起きたのか全然分からねぇ」
気が付けば、冷たい床に転がっていた。
特に体に痛みはない。木刀で打たれた覚えもないが、強いて言えば、槍を握っていた両手がジーンと痺れているような感覚はする。
そこでようやく、しっかりと握りしめていたはずの槍がなくなっていることに気が付いた。
「ワンワン! クゥーン」
主の姿に、心配そうにベニヲが駆け寄ってきて、鼻先を寄せてきた。リライトはそんなベニヲを撫でながら、のっそりと立ち上がる。
「なっ? だから言っただろ、相手になんねーって」
見れば、変わらず棒立ちの上田がそこにいた。
さっきと変わっているところといえば、その左手にはリライトの木槍があること。
「マジかよ、どうなってんだ……」
「槍ぶっ叩いて手放させた後、お前を適当に投げて転がしてやっただけよ」
ちなみに、リライトを投げた技は蒼真流『体崩し』である。学園塔時代に体術も前衛組みには一通り教えられている。非力な素人同然のリライト相手になら、片腕一本でも楽にかけられる。
「な、なんだよそれ、強すぎだろ……」
「まぁ、これが天職の力ってやつ? そういやぁ、お前は桃川と蘭堂と一緒だったから、俺らみてぇな前衛組の天職は初めてだったよな」
学園塔では誰に教わるでもなく常識だった天職能力の差であるが、リライトは『呪術師』と『土魔術師』しか比較できる者がいなかったため、『剣士』や『戦士』といった天職がどれほどの力を誇るのか、体感したことは今回が初めてとなった。
五人の救助から今日まで、彼らの戦いぶりを目にすることはあっても、戦闘中はのんびり他の人を観察するほどの余裕はリライトにはない。
「凄ぇ、こんなんマジで達人じゃんか! 山田もこんな強ぇーのか?」
「おおぉー、よしよし、おぉー」
山田は分かり切った勝負になど目もくれず、腕の中でゴロゴロしているコユキに夢中だった。実はずっと撫でたくて仕方がなかったが、女子のように気軽に言い出せず……挙句このザマである。
「あの山田に、思いっきり木刀で頭ぶっ叩いても、多分気づきもしねーんじゃねーかな。『重戦士』は防御が特にスゲーから」
「嘘だろおい、化け物じゃねぇか」
「まっ、俺らはあのヤマタノオロチも倒してきた歴戦の猛者だからな。そりゃ強ぇよ。けど、それでも蒼真はもっと強ぇし、あのザガンってデカブツも強ぇ。余裕こいてられねぇんだよ」
「そうか……」
クラスメイトの達人級の腕前を実感したことで、これから挑まなければならない相手の強大さを、リライトは改めて実感した。
「よっしゃ、そんじゃあ俺も、気合入れて修行するぜ!」
「お前は槍を振るより、なんか精霊の力を伸ばす方向性でいいんじゃねぇのか?」
「うるせー、俺は剣も槍も使う感じで戦うタイプなんだよ」
「それどっちも魔法武器だろ? 実質、ただの魔法攻撃じゃん」
『レッドランス』は火の玉を、『烈風カマキリ丸』は風の刃を。それぞれ繰り出すことで、遠距離の攻撃魔法を掩護射撃のように撃ち込むのが今のリライトの基本ポジションである。
すなわちモンスターに肉薄して、その刃で切ったり突いたりすることはまずない。キナコとレムが、そこまでの接近を許さない。
「ぐうっ、そ、それでも、多少は使えた方がいいだろが! おい、剣の使い方、教えてくれよ上田ぁ」
「俺だって人に教えられるほどじゃねぇんだけど……まぁ、基礎的なことくらいならいいぜ」
地味に剣の教えを請われたことで気分が良くなってしまった上田は、つい安請け合いをしてしまう。
上田自身は剣術の経験など皆無であり、学園塔の短い期間で蒼真悠斗から指導を受けただけしかないのだが……天職『剣士』が剣術の最適解を教えてくれるので、基礎を教えるくらいの能力はすでに備わっていた。
「おーい、来たぞー、って葉山じゃん」
「おっ、なんだよマリも来たのか? 俺も今日から修行すんだよ!」
広間に遅れてやってきた芳崎博愛が、修行宣言をするリライトを怪訝な眼差しで見た。
「ええぇー、アンタがぁ? 意味なくなーい?」
「意味なくねーよ! 俺ももっと強くなるんだって!」
「まぁ、別にいいけどさ……アンタじゃ誰も相手んなんないしょ」
「ふっ、安心しろよマリ、女子であるお前に相手をお願いすることはねぇからな」
「あ?」
リライトの舐めた態度にカチンときたマリ。上田は「あーあ」という憐みの表情で、失言をかましたリライトを眺めた。
「構えろよ、葉山ぁ」
ついさっき天職『剣士』の力を思い知らされたくせに、全く状況を理解してないリライトは本気で信じられないと言った顔で問い返す。
「いやいや、流石に女子相手にそれはまずいだろ!? 怪我させたらどーすんだよ、やめとけってマリ」
「怪我ぁすんのがどっちか、すぐに分からせてやるよ————オラァッ!」
そうして、襲い掛かったマリに秒で組み伏せられたリライトは、
「ぬぁあああああーっ! 痛だだだぁ!?」
「『戦士』舐めんなよコラぁ!」
「ヤベぇ、マジ痛ぇってコレ! ってか力強っ! ビクともしねぇ!?」
マリは女子としても背は高いが、バスケ部であるリライトの方が身長、体重は上回る。男女の体格差、筋力差、体重差、どれをとっても女子のマリが男子のリライトを抑え込める道理はない。
だが、そんな物理的な制約をあっさりと覆してしまうのが天職の力である。
『戦士』として戦い続けてきた今のマリならば、たとえ横綱相手であろうと片腕で軽くあしえらえるであろう。
「どうだ葉山、分かったか」
「わ、分かりましたぁ……」
ようやく解放されたリライトは息も絶え絶えに言う。転がった自分のすぐ傍で堂々と立っているものだから、マリのスカートの中が丸見えな状態となっているが、そんなことに全く気付かないほどリライトはショックを受けていた。
これで真っ当な男の子。女子に力づくで組み伏せられて、素直に喜べる性癖ではない。
「クゥーン、クゥーン……」
「べ、ベニヲ……今度は俺、もうダメかもしれねぇ……」
また心配でやってきたベニヲを、リライトは泣きそうな顔で撫でていた。というか、ちょっと泣いていた。
「みんなー、そろそろご飯でもー、ってなに、どうしたの? 何で葉山君、フランダースの最終回みたいな感じになってんの?」
今にも力尽きそうな悲しい表情でベニヲを優しく撫でるリライトを見て、桃川小太郎が問いかけた。
「おう、桃川。まぁ、女子の芳崎にやられて、男子のプライド傷ついた的な?」
「『戦士』に力で敵うワケないでしょ」
何やってんだコイツ、と呆れたジト目で悲壮感たっぷりにベニヲを抱きしめるリライトを見る小太郎。
「葉山、なんか天職の力、理解してない感じだったからさ」
「なるほど、分からせられた感じで」
腕を組んで言うマリの言葉に、小太郎もうんうんと頷いた。
「葉山君、これに懲りたら、前衛組と力で張り合うのは止めなよ。天職の差は覆しようがないからね。自分の能力を伸ばしていかないと、いいことなんて一つもないから」
「うぅ、桃川ぁ……お前なら、お前になら、俺も勝てるかも……」
「あっ、ダメだ、無様に敗北しすぎて勝利に飢えちゃってるよ」
「諦めろ、葉山。お前じゃ桃川にも勝てねぇぞ」
「な、なんだとぉ!?」
「うん、まぁ、葉山じゃ桃川には勝てねーなぁ」
「マリまで!? なんだよ、そんなに桃川ってフツーに戦っても強いのか!?」
「いや、普通に戦ったら弱いけど……でも葉山君相手なら負けることはないだろうね。なんなら、試してみる?」
「お、おうよ! 悪いが桃川、俺も後がねぇんだ、本気で勝たせてもらうぜっ!」
ふんす、と鼻息荒く立ち上がったリライトに、小太郎はやれやれと言った様子で、木刀の小太刀二本を手に取った。
「じゃあ、桃川飛刀流の力、見せてあげるよ」
「————うぉおおおっ! な、なんだソレ!? おい伸ばして来るなんてズリーぞ、ぐわぁあああああああああああああああああっ!」
「うぅ……キナコぉ、俺はもうダメかもしれないぃ……」
「プググ、プガァ」
「おいおい葉山、いつまでもメソメソしてねーで、さっさと寝ろよな」
まさかの『呪術師』桃川小太郎にも敗北を喫したことで、夕食が終わってもショックを引きずってキナコに縋り付いてるリライトに呆れながら、上田は自室へと戻って行った。
クラスメイト達もそれぞれ解散し、食堂代わりの妖精広場にはリライトとキナコ達だけが残った。コユキだけはすでにリライトの膝の上で丸くなって眠っているが。
「ちくしょう、俺、最弱だったのかよ……」
「プガ、プガーウー」
「気にするに決まってんだろぉ……女子にも桃川にもボコボコにされてよ、情けないったらねぇぜ」
「————葉山ぁ、まだそこでグズってたの?」
「あん? なんだよ蘭堂ぉ……お前も俺のこと笑いに来たのか」
「アンタがボロ負けするなんて、当たり前すぎて誰も笑ってねーし。つーか、ちょっと話あるから、聞いてくんない?」
「俺に話? そりゃまた、珍しいな」
いつものような、単なる雑談ではないだろうとリライトは杏子の素振りからすぐに察した。
食堂からは一度退席したはずの蘭堂杏子がわざわざ戻って来たのも、きっと自分にその話とやらがあるからなのだろう。
「なんつーか、その……ウチももっと強くなりたいかなって」
「はぁ? もう充分強ぇーだろお前は」
口を尖らせてリライトは言う。
ここに来るまで一緒にやって来たのだ。杏子の活躍ぶりは嫌でも目に入っている。というか、三人パーティの時は基本的に攻撃を担当するのは杏子であった。
土魔法による攻撃は威力、速度、射程、どれをとっても強力。一人だけ銃で武装しているようなものだ。コユキの親であるユキヒョウを仕留めたのだって、杏子の一撃である。
攻撃だけでなく、土魔法が真価を発揮するのは防御面だ。堅固な防御魔法の数々に、トーチカや防壁などの拠点建築。『土魔術師』は間違いなく戦力の中核を担う存在であり、それは新たに五人ものクラスメイトが加わっても揺るがない。
「でも、横道ん時は全然役に立たなかったし。やっぱ、スゲー強い奴を相手した時に、頼りになるくらいじゃないと」
「あん時は奇跡に助けられただけじゃねーか。誰だってありゃどうしようもねぇって」
霊獣化に目覚めたのは、奇跡のようなものに過ぎず、決して自分の実力などではないとリライトは思っている。あんな土壇場は二度と御免だとも。
「そのどうしようもない状況ってのを、桃川は何度も超えてきてんの。で、きっとこれからもそういうのがあるんだよ……蒼真と小鳥遊を敵に回してんのは、そんくらいヤバいと思ってるし」
「うっ、それは、まぁ……」
リライトとしても、五人の話を聞くと、とても楽観などできない。
実感こそできていないが、小鳥遊小鳥が恐るべき力を持つ最悪の裏切り者であると理解はしているつもりだ。
「だから、もっとこう、何かがいんの!」
「何かって、そりゃあ、必殺技みたいな?」
「んっ、そう、それ! ウチも葉山の霊獣化みたいな必殺技欲しいんだけど」
「欲しいんだけどって言われても……そういうのって、神様から授かるもんじゃねぇのか?」
「そんなの待ってらんねーって! 神様の気まぐれじゃん、あんなの」
完全に気まぐれではなく、何かしらの条件があるだろうというのはリライトも分かってはいるが、結局のところその条件が分からない以上、お祈りするのと大差はない。
「確かに、新技授かるにはどうすりゃいいのかなんて分かんねーしな。となると、自分で新しい技編み出すしかねぇってことだけど……蘭堂も修行とかする?」
「魔法の修行ってなにすんの?」
「え、そりゃあ、使える魔法をもっと上手く使えるよう撃ちまくるとか?」
「そんなの普段からもうやってるじゃん」
少なくとも、現状習得している土魔法はフルに使っている。攻撃と防御、それぞれの下級、中級、上級魔法は状況や用途に応じて使い分けているし、使用頻度にも大きな偏りがあるわけではない。
小太郎のお陰で戦うようになってから、攻撃魔法は今じゃ息を吸うように自然に使えるし、防御魔法などは工事などでは使いっぱなしである。
熟練度、というものがあるのなら、杏子は自分の魔法はどれも十分に熟達したと言えるだろう。
「他に何かないの?」
「他にって、うーん……てか、こういうの考えるのは桃川の方が得意なんじゃねぇのか?」
なんで俺なんだよ、と改めて問うてみれば、杏子はちょっと恥ずかしそうに顔を背けて、
「たまにはウチも、小太郎に凄いとこ見せたいの」
「そのしおらしいところを見せてやれよ……」
普段ではまず見られない乙女な顔をする杏子を見て、俺にその顔を見せてどうすんだよとリライトはしみじみ思ってしまった。
「けど、そんなに焦ることねーと思うけどな。桃川がもっと強くなれ、なんて言わないってことは、今の蘭堂でも十分だって思ってるってことだ」
「小太郎は変なとこで遠慮すっから。絶対やんきゃいけないことは無理でもやらせるけど、そこまでじゃないことは強要したりしないからさ」
そういえば、そうかもしれないとリライトは思った。
そして、だからこそここまでダンジョンを乗り越えてきたし、あの5人が寄せるような信頼と実績があるのだろう。この異世界のダンジョンは、学生生活の延長にあるような仲良しこよしだけでは、決して乗り切ることはできない過酷さに満ちている。
「けど、そこまで気負うなよ。そりゃ、蘭堂が必殺技習得するのに越したことはねーけど、それで思い悩んでたら、そっちのが桃川に心配かけるぜ」
「だから心配かけないように、アンタに相談してんだって。マジでどうにかなんない? ほら、精霊の力とかでさぁ」
「簡単に言いやがって……でもまぁ、とりあえず精霊に聞いてみるくらいはできっから、まずは話してみるか」
「えっ、精霊と話せんの? っていうか、どこの精霊と話すのよ」
「そりゃあ、お前についてる精霊に決まってんだろ」
「なにそれ、ウチにそんなのついてんの!?」
服に虫が、みたいな感じで慌てだす杏子に、リライトはため息を吐きながら言った。
「はぁ……桃川の呪術には闇の精霊が出てくる、とか話したよな? なら当然、土魔法には土の精霊がいる。で、『土魔術師』ってんなら、本人にも普段から土の精霊がくっついてんだよ」
「ウチ全然分んないんだけど。どの辺にいるの? どこ? ここ?」
「見えねーならどこだっていいだろ。そんじゃあ、今からちょっと話しかけてみるけど、俺が一人で喋ってんの見て笑うんじゃねーぞ」
「必殺技使えるように頼むぞ」
「あんま期待はすんなよなー」
そうして、リライトは杏子に纏わりついている、明るいオレンジ色に輝く土精霊達へと語り掛けた————




