第293話 共同潜入作戦(1)
「やぁ、夏川さん、久しぶり。こんなところで会うなんて、奇遇だね」
「本当に、桃川君なんだね」
真剣な声音は、それだけ警戒しているということ。
夏川さんとて、僕の『痛み返し』を忘れてはいまい。だから本物か分身か分からない段階では、僕の首を切り裂くことはできないのだ。
もっとも、こうして僕へ声をかけた時点で、彼女なりに聞きたいこともあるのだろう。
「そうだよ、頑張って追いついたんだ。お陰で、上田君達を助けられたよ。5人も締め出すなんて、酷い話だよね」
「どうして、そのことを知ってるの!?」
「だから、5人とも僕が助けたから、事情を聞いたんだよ」
「そ、そっか……みんな無事なんだ、良かったぁ……」
そう喜色を漏らす夏川さんの言葉に、偽りはないと思いたい。
蒼真ハーレムにあって夏川さんは、桜ちゃんや明日那と違って、僕と会話が成立するマトモな娘である。委員長と同じく中立に近い立場なので、彼女と接触できたのはこれ以上ないほどの幸運。
そう、これはチャンスだ。
「夏川さん、良かったら僕の話を聞いて欲しいんだけど」
「……いいよ。私も、桃川君には聞きたいことがあるから」
よし、まずは交渉のテーブルにつくことには成功したぞ。夏川さんが相手なら、もうこれだけで協力は確定したも同然だ。
なにせ彼女は、すでに5人ものクラスメイトが都合よく締め出されたシーンを目の当たりにしているのだ。
この期に及んで、小鳥遊小鳥の身の潔白を心から信じる、とは思うまい。本当は君だって、疑っているんだろう。だから僕に声をかけたんだ。
「先に聞いておくけど、時間大丈夫? お互い色々とあるから長くなりそうだし、なんだったら場所を変えてもいいけど」
「気にしなくていいよ。私は調査のために一人で潜入したの。長く潜んでいられるように、しっかり準備もしてきているから」
おっと夏川さん、いきなり自分から事情を暴露とは。これでは、自分一人で無防備なんだと宣言しているも同然じゃあないか。
僕の『気配察知』にも全くかからずにナイフを突きつけたステルススキルは凄まじいけど、こういうところはやっぱり隙が多いよね。でも腹黒い駆け引きを、真っ直ぐな性格の彼女には求めるべきではないだろうけど。
「それじゃあ、まずは僕があの後、どうして来たかを聞いてもらおうかな————」
夏川さんに協力を取り付けるためには、こちらの経歴は素直に、嘘偽りなく語った方が良い。なぜなら、ここに至るまでの出来事で、隠すべきことはなに一つないからだ。
何より今の僕にとって重要なのは、怪しいところがないのだと印象付けること。
逃げた先で葉山君と合流し、杏子と三人で力を合わせて森を抜け、山を越え、横道を倒して最下層までやって来た。そして、追放されたクラスメイト5人を助け出し、今に至る。
学級崩壊を起こした君らよりも、よっぽど立派な行動をしてきたと思うんだけどねぇ?
「ほ、本当、なんだよね……?」
「疑うなら、葉山君にも上田君達にも会うといい。追放の件に関しては、夏川さんに落ち度はないから、気兼ねせずに話せるでしょ」
今すぐは無理だけどね。僕だって満を持しての潜入捜査に来ているのだから。
ただ、調査が終わった後なら、夏川さんの信用を得るためにみんなと顔合わせなり、話し合いの場なりを設けるのは望むところである。
「ううん、いい、信じるよ。だって、これが嘘だったら私は桃川君を信じなくなるでしょ。そんな短絡的な嘘はつかないし、やるならもっと上手なこと言うでしょ?」
「なんでみんな僕のこと詐欺師みたいな扱いすんの?」
酷くない? こんなにもみんなのために、一生懸命に尽くしているというのに。
「桃川君の方こそ、私に口止めとかしなくてもいいの?」
「別に、小鳥遊にはもう僕らがここまでやって来ていることは知られているから。夏川さんがここであったことを話しても、そんなに大きな不利にはならないし」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。アイツは僕が例の塔にアクセスした時に、こっちを遺跡のシステムで監視していたから。夏川さんも『盗賊』なら、このダンジョンには監視カメラのような機能が随所にあるのは気づいてるでしょ?」
「うん……なんだか視線みたいなのを感じるところもあるし、それに連動して罠が作動するようなところもあるから」
夏川さんは古代文字の解読はできないし、遺跡の機能を操ることもできないが、『盗賊』の高精度な感知系スキルで、そういったものを感じとる能力がある。だから遺跡に色々な仕掛けがあることは知っているし、おおよそどんな効果なのかというのも理解している。
そして『賢者』であるならば、そうした仕掛けを自ら使うことも出来るだろうと、納得もできるはずだ。
「夏川さんのことも、僕は助けたいと思っている。というより、是が非でも殺さなければならないのは、小鳥遊小鳥ただ一人だけだ。裏切り者のアイツさえ排除できるなら、僕は桜ちゃんや明日那だって、助かったって構わない。数は減ってしまったけれど、それでももう一度、二年七組を結束させるには、これしか方法はない」
僕は別に、蒼真ハーレムの殲滅を狙っているワケではないのだ。蒼真君の『勇者』の力は味方として役立ってもらいたいし。
別に小鳥遊を殺せたからといって、それでダンジョンからみんな脱出してハッピーエンドというわけでもないのだ。結局、その後は自力で何とかしなければいけない。
「だから、夏川さんには僕を信じて、協力して欲しいと思っている」
「わ、私は……」
「と言っても、今すぐは信用できないよね。蒼真君を裏切ることに、なんて後ろめたさもあるだろうし」
「うっ……ホントに、そういうとこ鋭いよね」
相手の立場に立って考えるって、大事なことだからね。僕は人の気持ちを思いやることのできる人間です。
「夏川さんが僕をどこまで信じるかは一旦、置いておこう。その上で提案したいんだけど、こっから先の調査、僕と一緒に協力してやらない?」
「えっ、うーん……」
「ゴーマ王国の攻略はどっちの立場に関わらず、必要なことでしょ。万が一、小鳥遊が僕らを排除したとしても、王国を突破できなければどっちみち終わりだからね」
「確かに、ゴーマ王国は共通の敵ということになるけど……いいの?」
「ここはお互い、協力して最大限の情報収集をした上で帰還すればいいでしょ。どっちも損はしない、得をするウィンウィンってやつだよね」
僕は夏川さんの破格の隠密能力が欲しい。
一方、夏川さんは生身であり、命の危険が付きまとう。そこで、いざって時は分身に過ぎない僕と、あとはレム鳥全羽つぎ込んででも彼女のフォローができる。
大した戦力にはならないけれど、それでもちょっとした捨て駒があれば、彼女はゴーマ軍団に囲まれるくらいの状況から脱せられるだけの能力はあるのだ。
「うーん……よし、分かったよ。ここの調査、桃川君と協力するね」
「ありがとう、交渉成立だね。よろしくね、夏川さん」
「————今日は、帰りが遅くなるやもしれん」
大戦士長ザガンは扉の前で、そう言葉を発した。
血気盛んな荒くれ揃いのゴーマ戦士を束ねる長として、彼の口から発せられる言葉は王に次いで畏怖と覇気に溢れている。
しかし、そんなザガンも最愛の妻にかける言葉には、どこか柔らかさを感じさせるものであった。
「はい、旦那様のお帰りを、お待ちしております」
静々と頭を下げるのは、ザガンの腰元ほどにしか身長のないメスゴーマ。
下民とさほど変わらぬ貧相な体格に、メスの魅力の源である腹部の膨らみも実に慎ましいものだ。誰が見ても、王国が誇る最強の大戦士長に相応しいメスではない。
だが、ザガンは彼女を選んだ。
幼い頃より傍仕えをしてきた、数多の世話役の一人に過ぎない、彼女だけを選んだのだ。
オーマ王より、もっと沢山の妻を娶り強き子を成せ、と言われること数限りないが、ザガンはいまだ、彼女一人だけを妻とする意地を貫き通していた。
「いや、あまりに遅くなるようなら、先に寝ていろと」
「たとえ夜が明けようとも、私は旦那様のお帰りをお迎えしとうございます」
尚も深々と頭を下げる彼女を前に、ザガンはそれ以上を言うのは止めた。
まだ卵の一つも身籠っていないとはいえ、常日頃から妻の身を案じている。
しかし、彼女が夫であり、大戦士長である自分に心から尽くしてくれる気持ちも、よく分かる。そして、そんな彼女の気持ちを感じる度、ザガンの逞しい胸の内に、万年凍り付く風雪の地にて焚火に当たった時のような温かさを覚えるのだ。
「うむ、まぁ、無理はせずとも良い」
「お気遣い、ありがとうございます」
「ではな、行って参る」
「はい、行ってらっしゃいませ、旦那様」
そうして、ザガンはいつもと同じく愛する妻一人だけに見送られ、住処としている一室を後にした。
ここは要塞の中にある、上位の者だけが住まうことを許されている大遺跡を利用した居住区だ。大戦士長たる者、王に次いで広く豪奢な部屋に住む権利を有するのだが、多妻を抱えず、数多の従者も不要としたザガンが求めたのは、ただ愛する妻と二人で慎ましやかに暮らせる空間のみであった。
そんな二人の愛の巣から、すぐ傍にある王宮へと向かうザガンの足取りは、普段よりもやや重いものであった。もっとも、その些細な変化を感じ取れる者など、オーマ王か妻くらいのもだが。
王宮の警備につく親衛隊から頭を下げられながら、ザガンは迷いなく目的の場所へと歩みを進める。辿り着いたのは、玉座の間に次いで、大きな扉が備えられた広間だ。
重厚な石の両開きの扉を門番が開き、ザガンは中へと足を踏み入れる。
両脇に太い円柱が立ち並ぶ、大広間である。その広い室内で最も目立つのは、中央に突き立つ石板の数々。
石板、というよりは石の箱とでも言うべき、正方形に近い四角形だ。大遺跡の力を今も宿すことを示す、赤い光の文様が次々と浮かび上がっては消えて行く。
それがちょうど六つ。中央の床に描かれた魔法陣を囲むように、等間隔に配置されている。
遥か古の時代において、これがどのような役割を果たしたのかはザガンにも想像しえないが、今の王国においては、選ばれし者だけが座すことができる、神聖な席とされていた。
そして、その席にはすでに五人が座っていた。
「へっ、ようやく来やがったか、大戦士長様よぉ」
「ふん、若造が早くも吠えおる」
「我らの長たる大戦士長が最後に来るのは当然のこと」
「どーでもいいけど、早く始めちゃってよね、ダリぃー」
「んあぁー、腹減った」
それぞれが、それぞれの反応をもってザガンを出迎えた。
この六つの席に座ることが許されるのは、ゴグマを越えギラ・ゴグマへと至った、ゴーマにおいて最高の戦士のみ。『巨大化』を習得せし、大戦士である。
今ここに、王国最強の戦力である大戦士六人全員が集結していた。
「皆の者、オーマ様の命は聞いているな」
大戦士長ザガンが最後に席へと腰を下ろし、自らに迫る実力者達に向けて口を開いた。
「ニンゲン共が出やがったんだろぉ? 早く殺らせろよっ!」
「まったく、状況というのをまるで理解しておらんのう」
「あんだとぉ、ジジィ。テメーがクソニンゲンを捕まえられねーから、この俺がわざわざ出張って来てんだろぉーが。おっとぉ、その奴らを最初にまんまと逃がしちまったのは、大戦士長様だったっけなぁ?」
「口を慎め。長に対し、無礼であろう」
「でもさー、王国の周りを何匹もニンゲンがウロついてんのに、まだたったの二匹しか仕留めてないってのはヤバくない?」
「オデ、ニンゲン……食べたい」
早々に好き勝手に騒ぎ立てる大戦士達に、ザガンの口から小さくため息が漏れる。
大戦士は最強の戦力だが、その分それぞれ我が強く、統率するのは非常に難しい。全員を集めた時、大人しく話を聞かせるだけでも一苦労である。
「此度のニンゲンは、これまで倒してきた者とは異なる。全員が邪神の加護を持つ強力な個体であり、その脅威はオーマ様もお認めになるところ……故に、我ら大戦士を王国へと集結させたのだ」
大戦士長ザガン率いる、王国最強部隊である『大戦士団』は常に全員が王国にいるわけではない。
大戦士団は六人の大戦士と、長以外の五人がそれぞれ選び抜いたゴグマ五人を配下とする、総勢三十七名の少数精鋭で構成されている。普段は大戦士とゴグマで編成される班ごとに、仕事が割り振られる。
大戦士長と大戦士の二班が王宮警備を担当。残りの三班は、より強力な武具を求めての大遺跡探索や、強大な魔物の狩りを行う。各班は王宮警備と探索狩猟任務を一定期間の持ち回りとなっている。
基本的に王国の安全は盤石であり、そこに最強の大戦士全員を置いておく意味は薄い。その力をもって大遺跡より数多の収穫をもたらす方が有益であり、何より大戦士たる者、常に戦い続けることで力を示さねばならない。故に、大戦士団の半数以上となる三つ分の班は探索狩猟任務に従事させているが……王国の危機となれば、その限りではない。
そうして本日、探索狩猟担当の三班が緊急連絡を受けて王宮へと帰還を果たし、久方ぶりに大戦士全員集合と相成ったのだ。
「バズズ、ギザギンズ、ボン、速やかな帰還、オーマ様もお喜びだ。よく戻って来た」
「ったく、もうちょっとでデッケぇ地竜を狩れるとこだったのによぉ、オーマ様の命令じゃあ仕方ねーからよぉ?」
ザガンに対し全力でガンを飛ばしているのが、大戦士バズズ。
若者らしい血気盛んさと、若くして大戦士にまで至った天性の才能により、自らを最強と信じ貪欲に大戦士長の座を狙っている。
だが、その露骨な態度を多少なりとも抑えるだけの理性を持てない限りは、オーマ王が彼を長に抜擢することはないだろう。ザガンとしても、彼に後継を譲るのも悪くないと思っているが、長に相応しい器となるまでは今しばらくの時間と経験を擁するだろうと考えている。
「まぁ、俺は別に適当にやってただけだから、王国に戻る方が楽できそうでいいかなーって」
ヘラヘラ笑いながらヤル気の欠片もない物言いをするのが、ギザギンズ。
こちらもまだまだ年若く、大戦士としての実力は現段階でバズズを上回っているが、怠惰な性格が極まっており、向上心というものが全く見られない、これはこれで困った者だ。それでいて最低限は、オーマ王に怒られない程度には仕事をこなす知能と器用さはあるので、大戦士長としても厳しい叱責はできない問題児だ。
「ねぇねぇ、オデがニンゲン食っていい?」
そして、さっきから明らかに低知能な発言しかしていないのが、ボンである。
ギラ・ゴグマというより、まだゴグマに近い大きく太い体格をしているが、これでも『巨大化』を習得した大戦士には違いない。
大戦士に相応しい力こそ持つものの、知能は発達せずより本能的な行動しかとれないため、ボンだけは常に狩猟班として放し飼い状態である。
自分より強い者には従うので、オーマ王とザガンには従順だ。
「ジジゴーゴはニンゲン捜索から王宮警備に戻れ。バンドンは引き続き警備だ」
「ほっほ、ようやく城に戻れるわい。この老骨に森を駆け回るのは、少々堪えるでのう」
「ははっ、王国の守りはこのバンドンにお任せあれ!」
オーマ王と同じように白い髭を生やしているのが、最年長の大戦士ジジゴーゴ。先々代の大戦士長の頃からこの座にあり続ける正に歴戦の猛者であるが、寄る年波には勝てず僅かずつにだが力の衰えを感じさせる。
もっとも、大戦士の力はそれでもゴグマとは隔絶したものであり、まだ二十年、いや、三十年は現役であり続けるだろう。ザガンにとっても、頼れる先達である。
そんなジジゴーゴだからこそ、最初の偵察隊として出たザガンと入れ替わり、ニンゲン狩りだと意気込む若い兵士達を取りまとめ、捜索と追撃の指揮を執っていた。
バンドンはザガンと共に王宮警備を続けていた。実直な性格で、ザガンを大戦士長に相応しい実力者と認め、素直な尊敬も見せているので、曲者揃いの大戦士にあっては珍しく忠実な部下であった。ニンゲン襲来の非常時にあって、彼が王宮警備担当で良かったとザガンは心から思っていた。他の者なら、警備を放り出し、我先にと飛び出しかねない。
「これよりは、ニンゲンの捜索をバズズ、ギザギンズ、ボンの三人に行ってもらう」
「へへっ、いいのかよぉ? 俺がニンゲン共、みーんな食っちまうぜぇ?」
「探すのは面倒くさいけど、久しぶりにニンゲンは食べたいかなぁ」
「食う! ニンゲン、いっぱい食う!」
「ニンゲン相手に、容赦も遠慮も無用。存分に功を競うがいい」
ザガンが色めき立つ若き大戦士達に言う。
大戦士団が集結したことで、ザガン、ジジゴーゴ、バンドンにより王国の守りは万全に、そしてバズズ、ギザギンズ、ボンによってニンゲンを狩る。これで攻守共に盤石な体勢となった。
他の大戦士もゴーマ兵も、二十にも満たないニンゲン相手に大袈裟だと思うだろう。しかしザガンは、オーマ王のこの油断の無さこそが、数百年に渡り王国を治め続けた王の器なのだと確信している。
「ニンゲンを率いる長は、この俺と対等に戦える実力者だ。オーマ様は、白く輝く力を発揮する奴の姿を聞き、『光の御子』であると仰られた」
「光のぉ、あんだって?」
「オーマ様の言うことは難しすぎて、よく分かんないよねぇ」
「オデ、ムズかしい、話、ニガテ」
「『光の御子』という名が何を現わすのかは、俺にも分からん。だが、わざわざ名がつく存在だという意味を理解せよ。相手は少数なれど、決して油断するな。くれぐれもニンゲンなどに『巨人殺し』の栄誉を与えるな」
「はっ! この俺が、ニンゲン如きに負けるわけねぇだろが。ビビりやがって、舐めんじゃねぇぜ!」
忠告を挑発としか受け取れないバズズは、今にも飛び出さんばかりに腰を浮かせたが、
「待て。もう一つ、言っておくことがある」
ザガンはそれを止める。
自ら刃を交えた『ユー』と名乗った『光の御子』の強さは警戒に値するが、ザガンにはそれと同じ、あるいはそれ以上に不安を感じる存在がいた。
「ここ数日、各地でオーマ様の『目』を潰し続けている者がいる。まず間違いなくニンゲンの仕業に違いない」
「ふーん、じゃあそれも『光の御子』ってヤツがやってるんじゃあないのー?」
「いいや、恐らく奴ではない」
「なら、どんなヤツなのさ?」
「『光の御子』は、俺を相手にしても怯まず立ち向かう勇ましき者。だが、この『目潰し』は邪悪なニンゲンらしい狡猾さを感じさせる。先日の報告によれば、『光の御子』とは別のニンゲンの一派が、追撃部隊を退け逃げおおせたと聞いている。恐らくは、その一派を率いるまた別の長がいる」
「おいおいマジかよ、ニンゲンの群れが二つもいるってことかぁ? 面白くなってきたじゃねぇか!」
「なるほどね、勇ましき者と、狡猾なる者、がそれぞれニンゲンを率いているワケだ」
「ああ、その通りだ。このいまだ姿を見せない『狡猾なる者』は得体が知れない。何を仕掛けてくるのか、全く予想もできん。捜索の際には、どこにその者らが潜んでいるか、よく注意せよ————」
「————見てよ夏川さん、敵幹部会議だよ」
「敵幹部会議?」
「敵の幹部が集まって、なんか重い感じで話し合ってる会議だよ。漫画とかで見たことない?」
「えっ、私、そんなに詳しくないし、よく分かんないかも……」
「まぁ、いいや。とにかく、これで王国最強の『ギラ・ゴグマ』が六体いることは分かったし……やっぱり、アイツが『ザガン』か」
大戦士が集結した広間、その天井裏にて『狡猾なる者』が今まさに潜んでいることを、さしものザガンも知ることはないのであった。




