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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第18章:最下層攻略
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第292話 潜入作戦

「流石は王国だ。凄い賑わいだな……」

 思わず、心の中でそう呟く。レムの偵察で分かってはいたが、いざこうして自分の目で見れば、やはり実感させられる。

 首尾よく潜入した後は、『隠密の杖』の効果で身を隠し、ゴーマの目を避けながら、恐らくはただの居住区画と思われるテント街を抜けて行った。

 密林のゴーマ砦にも居住区のテント街が広がっていたが、ここはそこの比ではない。本格的に太く高い柱を設けた、巨大なテントが幾つも建っている。あの大きいテントはマンション代わりの大型集合住宅といったところか。

 そんなマンションテントが立ち並ぶだけでも人口規模の大きさを窺い知れるというものだが、やはり目に見えて大勢のゴーマがひしめく市場のような場所を見て、奴らの数の多さを思い知らされる。

「これだけ数が集まれば、経済も発展してるって感じなのかな」

 しばし、市場の様子を観察する。

 見たところ、金での買い物ではなく、物々交換を行っているようだ。ゴーマのくせに貨幣経済が浸透していたら生意気だよね。

 市場は商店が立ち並ぶというより、各々が交換できる物を持ち寄って、その場に広げているフリーマーケットのようなスタイルだ。

 ギャーギャーとそこかしこでやかましい叫び声を響かせて、物々交換の交渉を行っている。やはりゴーマの知能は低いし、感情的な抑えも聞かないような奴らなので、そこかしこで喧嘩沙汰が発生していた。

 で、度が過ぎるとゴーヴ兵が介入し、両成敗とばかりにぶっ殺し、両者の物品を押収と。ゴーマ文化に相応しい、なかなか野蛮なフリマ模様である。

「この広さじゃあ、一日で回り切るのは難しいな。身を隠せる場所を探しておかないと」

 広大な城塞都市を、たった一日で調査しきるのは無理な話だ。元よりある程度の日数をかけて、可能ならこの分身体はずっと内部に潜ませておきたい。

 今日のところは大まかな街の把握と、身を隠す場所の選定だけで十分だろう。セントラルタワーは、当然ながら一般ゴーマが易々と立ち入れる場所ではない。その周辺に近づくだけでも、要注意だ。

 僕自身がしっかりと都市内を把握し、潜伏場所を見繕ってから、しっかりと中枢部の調査に入ろうと思う。

 そんなワケで、僕は『隠密の杖』で隠れ潜みながら街を見て回り、本体の僕が詳細に地図を書き込んでいく、という作業をひたすらに行った。

「グギャギャ、グベ————ンバっ!?」

「おっと……」

 路地裏、というかテント裏を歩いていた時、気配察知で認識していたが、明らかに僕には気づいていないから放っておいたゴーマが、ぶつかったことで僕の存在に気づいてしまった。

 見れば子供のゴーマで、棒切れを片手に無邪気に駆け回っていたようだ。

 ロクに前も見ずに走っていたら、影のように存在感を消していた僕に気づかず、そのまま衝突してしまったと。

「なるほど、気配遮断で隠れていても、ぶつかると流石にバレるのか」

「ンババ、グブ————ンンッ!?」

 なんか無駄に叫び出しそうだったから、ゴーマのガキを毒針で一突き。

 ゴーマの死体なんてこの街の中じゃあありふれたものだけど、万一、何かしらの騒ぎになっても困る。

「やれやれ、死体を処理して証拠隠滅なんて、潜入ステルスゲーム以来だよ」

 容量だけはある背負い袋にガキを詰め込み、仕方なくブタガエルの川へと向かう。橋の上から落とすだけで、すぐに食べて死体を消してくれる頼れる奴らだ。

 そうして、ちょくちょく邪魔なゴーマを殺しては、ブタガエルの川で隠滅しつつ、一日が終わって行った。




「おはようございまーす」

 王国潜入二日目。

 ゴミ捨て場の方がまだ清潔感あるんじゃないの、と言うほどに淀んだ腐臭漂う場所で、僕は爽やかな朝を迎える。うーん、分身の感覚遮断がなければ、こんな汚らわしい場所には一歩も入りたくはないよね。

 不法侵入者で寝床を持たない僕が、王国内で目立たずに一夜を過ごせる場所を探した結果、ここに行きついた。

 王国のゴーマ人口は万を超える。それだけの数が集まれば、当然、貧富の格差も発生する。いや、それは単に貧しいというだけではない。生きている以上、一定数必ず発生する存在。

 すなわち、怪我人や病人である。

 ここはある種の隔離区画だ。城壁に囲まれた街の中でも、端も端。タワーを中心点として大きく円を描くような城壁だが、一部は凹凸のようになっている一角もある。ここはそんな、城壁の凹部分。三方をほぼ高い壁に囲まれ、常に暗がりになるような悪い立地だ。

 どうやら、ゴーマ共はここに養えない怪我人や病人を置き去りにしているらしい。手足のない奴がそこらに転がっていて、生きてはいるが、ロクに食えずにこのまま死ぬだろうという有様。

 痩せ細って飢えた者、体がなんか紫に変色している者、ずっと苦しみに呻いている者。

 彼らを養う者はおろか、その死を見届けようという者さえいない。ここは、まだ生きているというだけの、死体置き場なのだ。

 ここにゴーマが来るのは、誰かを捨てに来る時だけ。

 あとは、死んだ奴らを虫やら鳥やらが集って腐肉を食べて片づけてくれる。

 そんなワケで、ここには不法侵入者を見つけたとしても、騒いで仲間に知らせることの出来るゴーマは一匹もいない。何かを叫んでも、その声は誰にも届きはしない。ここに打ち捨てられているのは、すでに死んだとみなされた者達だから。

 いやぁ、王国内にこんなに身を隠すのにいい場所があるなんて。こういう仲間を捨てるような場所って、普通は壁の外に作るもんだと思ったけど、捨てに行くのも面倒なのか、内部に作っちゃうからつけ込まれるんだよ。

 これでひとまず、安全な宿は確保できた。他にいい隠れ場所がなくても、とりあえずここにいれば分身体が見つかることはないだろう。

「それじゃ、行ってきまーす」

 と、僕はカムフラージュ用に隣に置いておいた、謎の病気に苦しみの声を漏らし続けるゴーマに一声かけてから、意気揚々と出発した。




 それから、さらに二日ほどかけてゴーマ王国の中心部以外は、おおよその調査が完了した。

 セントラルタワーを囲うゴーマの街の地理は、おおよそ頭に入ったし、詳細な地図も描けた。単に街について覚えただけでなく、奴らの文化というか、どうやってこれだけの都市を維持しているのかも、何となく見えてきた。

 この都市はやはり、中心に行くほど重要度の高い施設が集まっている。

 タワーはゴーマ王オーマのいる居城だ。ここにオーマが出入りしていることは確認済み。外出しても、必ずここに帰って来るので、ここに住んでいるのは間違いない。

 勿論、オーマを守る親衛隊と、あらゆる世話をしているだろう腹のデカいメスゴーマもかなりの数がいる。流石は王様、立派なハーレムを築いていやがる。

 白髪に白髭で明らかにジジイと思われるオーマが、若いメスをこれでもかと実に分かりやすく侍らせているのを見ていると……メチャクチャに蹂躙してやりてぇという、正義感が湧いてくるよね。またメスの腹捌いてから毒薬の実験台にしてやろうか。

 しかしながら、王宮たるタワー内部はまだ侵入どころか接近もできておらず、オーマ達の出入りを確認できているに過ぎない。中がどうなっているのか、詳しいことはまだ不明。

 それから、タワー周辺は城壁によって囲まれ、しっかりと要塞化してある。

 この要塞内には、選りすぐりの精鋭達が常に駐留している。王宮警備の親衛隊も、ここを住居として、交代することで24時間体制での警備を実現している。

 しっかりとシフト制の勤務形態となっているのは、オーマの発案だろうか。なんにせよ、親衛隊の半数は常に万全の体勢で控えていることは間違いない。

 だが警戒すべきはオーマを守る親衛隊よりも、ザガンである。ゴグマを越えた強力な個体であるギラ・ゴグマのザガンは、間違いなく王国でも最精鋭、あるいは主力を任される将軍などの地位にあってもおかしくはない。恐らく、奴もこの要塞内に住んでいると思われる。

 ザガンは直接、クラスメイトのいる密林塔まで乗り込んで来たので、親衛隊として王の警護に付きっ切り、というワケではないことは確かだ。

 有事の際には自ら兵を率いて動き出す立場。もしも僕らが王国内を攻めたなら、先に出てくるのはザガン率いる主力部隊となる可能性が高い。

「まぁ、そんなのと真っ向からぶつかる気はないけれど……」

 戦うにしろ、避けるにしろ、相手の戦力は出来得る限り把握しなければ。単純な戦力情報だけではない。折角、ここまで来たのだ。奴らがどういう体制で軍を動かしているのか、指揮官の数、武装や兵糧の管理、などなど。現地で得られる情報は可能な限り集めたい。

 その辺はまだまだこれからだけど、奴らの兵数とこれだけの人口を支える食料供給をどうしているのかについては、すでに現段階の調査でも判明している。

 王国を支える最重要のインフラ設備は、転移魔法陣だ。

 要塞の前には大きな広場があり、そこが現役稼働している転移魔法陣となっている。今の僕なら見ただけで転移施設だと分かるけれど、つい昨日にはオーマ王御自ら実演までしてくれた。

 転移広場の魔法陣は、かなりの大きさだった。百を超えるゴーマ共を一度に転移できるほどに。

 僕が目撃したのは恐らく、ダンジョンのどこかへまた新たな開拓村を作りに行くのだろう一団であった。武装したゴーヴ数名に、資材と物資を積んだ荷車と多数のゴーマという編成。全員が武器をもっていないこと、メスが多数含まれていることから、狩りではなく定住を目的とした集団だと断定できる。確か、僕らが滅ぼしてやったゴーマ村も、あんな感じの数と構成だったからね。

 あのゴーマ村を観察した段階で判明していたことだが、ゴーマは非常に多産だ。人間を超える繁殖速度であり、放っておけばあっという間に増える。正にゴキブリ、下等な生き物ほど沢山産みやがる。

 あんな小さな開拓村でもそれが分かるくらいだったのだ。この万を超える王国ともなれば、本当にすぐ城壁から溢れんばかりとなるだろう。

 その人口爆発を抑えているのが、ダンジョンへの開拓団派遣である。

 王国は常に安定して養えるゴーマ人口だけを住まわせ、それを越えると開拓団として送り出すのだ。全滅しても、口減らしの人口抑制策としては成功。開拓が上手く行けば、ゴーマの生息圏は拡大し、王国には貢物が送られオーマは儲けられる。

 命の軽いゴーマであり、絶大な権力と軍事力を握っているオーマだからこそ、合理的にゴーマ人口のコントロールも可能なのだ。いざとなれば、兵に命じて間引くことだって奴ならできるだろう。

 そうした開拓団の出発とは別に、転移で王国へ飛んでくる奴らの存在も確認できている。

 これはダンジョンの別なエリアへと狩りに出かけた狩猟部隊と、かなり成功している開拓団がまとまった貢物をもってやって来る、二つのパターンが確認できた。

 だが、転移の発動そのものはオーマしかできないのだろう。どちらの時も、必ずオーマが転移広場で杖を振り上げ、呪文を唱えて、転移発動を行っていた。

 王の権力として転移を操る術を独占しているのか、それとも、発動させる方法を覚えられるだけの知能を持つのがオーマだけなのか。どちらにせよ、オーマ以外が転移を使うことはないと見ていいだろう。他に出来る奴がいるなら、開拓団と狩猟部隊の送り迎えなんて雑務、ソイツに任せるだろ。

「けど、オーマの転移術を覚えられれば、普通にこのエリアから抜け出せるってことだよね」

 また一つ、小鳥遊の嘘を暴いてしまったか。

 少々の偵察をすれば、ゴーマが転移を使ってダンジョンの各地に送り込んでいる、ってことは分かるはずだ。小鳥遊は随分と自信満々に「最下層エリアから出られない」と言い切ったそうだが……まぁ、これで詰め寄られたとしても、いい感じに言い逃れするのだろう。

 それ以前に、奴の下に残った面子はほぼ蒼真ハーレムメンバーだから、もう疑惑を追及されることもない。ここまで来ると、流石の委員長も身動きがとれないだろうね。

 ともかく、小鳥遊対策は置いておこう。

「うーん、やっぱり王国の支配は盤石なんだよなぁ……」

 ここさえ封じれば王国は崩壊する、というような決定的な弱点は見つからなかった。強いて言えば、オーマ自身と転移魔法陣が替えのきかない存在というくらい。

 しかし、王であるオーマの暗殺なんて難易度高すぎるし、転移魔法陣は停止できたとしても、即座に王国が滅びるほどの大ダメージにはならない。

 もっとこう、唯一の食料源を断てる、みたいな効果でなければ王国そのものにダメージを与えることはできないだろう。

 それだけ、ゴーマ王国は滞りなく運営されている。

 食料供給は森からの狩猟採取に加え、ブタガエルの放し飼いに、何やら汚らしい田んぼなのかドブなのか分からない場所で、雑草みたいな作物も生産されている。

 ブタガエルの飼育は僕もお世話になっている川の他にも、王国内に三か所の池があり、外にはさらに複数個所の池や沼でも行われている。

 作物に関しては、ドブ臭い泥地で芋と豆を育てているようだ。ゴーマが独自に品種改良したものなのか、少なくともジャングルでは見たことがない種だった。

 だが低能なゴーマでもそれなりに収穫できるようで、かなり繁殖力が強く、丈夫な作物のようである。豆も芋もドブの田んぼ一杯に育っており、結構な量が獲れていた。それぞれ、泥豆、泥芋、と呼ぶことにしている。

 このように農業と畜産、どちらも営んでいる以上、一定水準までは安定した食糧生産ができているということだ。少々の不作となったとしても、飢え死にするのは末端の一般ゴーマだけで、オーマの兵士達は飢えることなく戦力は維持されるに違いない。どっかの北の国と同じやり方である。

 さらに王国内には、武具を生産する鍛冶場も存在している。

 軍事力を支える重要施設とされているのだろう、鍛冶場は城壁の内側、要塞内に建設されている。

 どうやらゴーヴは鍛冶職人にもなれるようで、奴らが溶かした鉄を型に流し込んで、剣や槍の穂先を製造しているところは観察できた。錬成魔法の使用は確認できなかったが、『簡易錬成陣』か妖精広場の噴水のような設備を利用している可能性はある。

 ここでは職人の他にも、ただのゴーマも結構な数が手伝いに駆り出されており、下手こいて親方ゴーヴの怒りを買い、よく捻り殺されているようだ。どうせ物運びなどの単純作業にしか使わないゴーマだから、少々使い捨てでも構わないのだろう。

 王国を守る兵士達の装備が統一されているのは、この鍛冶場が稼働しているからだ。それに加えて、ダンジョン産の高品質な武器や魔法の装備、マジックアイテムなどが日々、オーマの元へ集められているというわけだ。

「ゴーマの国だからって、正直ちょっと甘くみてたかもしれない」

 あんな低能な奴らの群れなんて、絶対どっか致命的な弱点あるだろ、とか思ってました。

 けれど、オーマという優秀な頭脳をトップに、低能だからこそいいように扱えるゴーマの大集団を、奴は非常に合理的に治めている。転移をはじめとした、ダンジョンの機能を利用していることを含めても、ここの支配体制は強力な中央集権国家として安定している。

 現段階では、つけ入る隙は見つからない。

「やっぱり、何かあるとするなら、要塞内か王宮のタワーだな」

 いい加減、普通の市街地をウロつき回るのも飽きてきたところだ。いよいよ、本腰を入れて要塞まで潜入する時が来た。




「————よし、潜入成功だ」

 ここ数日、街中を回りつつも、要塞への侵入ルートもずっと探し続けてきたのだ。

 結局、これといった抜け道や警備の隙は見つからなかったので、要塞に運び込まれる物資に紛れて入ることにした。

 目を付けたのは、ドブ田んぼでとれる泥豆と泥芋。これらはほぼ毎日、デッカイ袋にいれられて、荷車に満載して要塞内へと運ばれている。その内の袋の一つを拝借し、適当に荷車に紛れ込んでおけば、後は勝手に要塞の食糧庫へと配達。

 食料輸送のゴーマは信用されているのか、要塞の門でも食糧庫でも、特に中身を検められることもなければ、数や重さを計測されることもない。ザルな管理体制、というより、ゴーマ程度じゃそういった数量管理なんかできないのだろう。奴らの知能からすれば、これくらい倉庫に入っていればOK、くらいの認識が精々である。

 そんなワケで、僕は潜入難易度ベリーイージーな感じで、要塞の食糧庫まで辿り着いた。

 食糧庫は、日本史の教科書の序盤でしか見たことがない、いわゆる高床式倉庫、みたいな感じの造りである。柱にねずみ返しがついていない辺りが、ゴーマクオリティである。

 ここには入口に見張りのゴーヴ兵が一体、立っているだけだ。注意を逸らせば、簡単に出入りできる。鍵、などという高度な細工も存在しない。これもうセキュリティという概念すら存在していないのでは。

「さて、こっから先は出たとこ勝負だな」

 ゴールであり最重要区画であるタワーへすぐにでも向かいたいところだが、流石に要塞内は兵士がそこら中をウロついている。別に警備している気がなくたって歩き回っているのだ。

 このゴーマ服は、一般ゴーマの中に紛れるなら目立たないが、ほぼ統一された装備の兵士達の間では通用しない。かといって、ゴーマは全身を覆うタイプの防具はつけていないので、変装するにはちょっと無理のある感じ。『虚ろ写し』の効果があれば行けるかもしれないが……被り物の顔を剥き出しの状態でどこまで通用するかちょっと自信が持てない。

 人間が変装しているとバレるよりかは、ただの不法侵入ゴーマだと思われた方がマシだ。とりあえず、顔だけは隠せるこの恰好のままで行こう。

 そんな見られたら一発アウトな状況なので、これまで以上に奴らの目を避けて移動しなければいけない。まだ巡回ルートのルーチンも割り出せていないので、ひとまずはレム鳥の誘導でとにかくゴーマ兵のいない場所を巡り、要塞内部の構造を徐々に把握して行こう。

 奴らの王宮であるタワーへの潜入は、この要塞の方をよく調べてからだ。見つかればアウトだが、焦らずに行こう。

「じゃあ、まずは石ころでも投げて見張りの注意を逸らそっかな————っ!?」

 と、ステルス要素のあるゲームでは定番の方法で敵の目を逸らそうと、扉に向かって歩き出そうとした瞬間である。

 日の光の入らない暗い倉庫内。けれどギラリと光るように、僕は喉元に突き付けられた刃を確かに見た。

 刃は、ピタリと僕の喉仏の全く出てない首の前で停止している。つまり、背後から掴まれ、凶器を押し付けられた格好である。

 こういう時は、何故だ、というよりも、誰だ、という疑問の方が先に湧くものだ。

 反射的に浮かんだその疑問には、すぐに答えが返って来た。

「……桃川君、でしょ」

 耳元でそっと囁くような問いかけ。外に見張りがいることが分かって上での小声だろう。

 けど、僕にとってはその一言だけで誰かと特定するには十分だった。

「やぁ、夏川さん、久しぶり。こんなところで会うなんて、奇遇だね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小太郎が思わぬ再会を果たしたことです。
[良い点] 久々に見つけた良作 [気になる点] 作者さんの書き方がとても巧く、文字数が多い作品にも関わらずさくさく読むことが出来る、とても素晴らしい作品で、気になる点はほとんどないのですが、唯一あると…
[良い点] 勇者パーティー唯一の癒し、夏川さん登場!
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