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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第17章:学級崩壊
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第278話 安息の砦

「なんてことをしたんだ、明日那……」

 怒りで叫ぶよりも、信じたくない逃避の気持ちが強すぎて、つぶやくような声が出た。

 けれど、目の前で起った現実を受け入れざるを得ない。

 明日那は確かに、姫野さんを外へと突き飛ばした。閉じ行く扉。寸前まで迫っているゴーマの追撃。

 そんな場所へとクラスメイトを放り出した彼女の行為は、殺人と言うより他はない。こんなの、電車が来る寸前のホームへ突き落すことと、何ら変わりはないだろう。

「ゴーマが追ってくるのは、姫野のせいに違いない……こうしなければ……誰かが、こうしなければいけなかったんだ」

「そんなワケないでしょう、この馬鹿っ!」

 パシン! と音を響かせたのは、委員長が明日那の頬を叩いたからだ。

 明日那の能力なら、素人のビンタなど見切れないはずがない。甘んじて受けたのは、本当は罪を犯したという自覚があるからだ。

「明日那、貴女は本当になんてことを……二度目よ、仲間を殺そうとしたのは、もうこれで二度目なのよ! どうかしているわ!」

「何とでも言ってくれ。私は、桃川のことも、姫野のことも、この手を汚したことに後悔はない。アイツらは仲間なんかじゃない。私達を陥れようとする敵だ」

「疑わしきを罰していれば、仲間なんて誰も残らなくなるわよ」

「たとえ非道と言われようとも、仲間が全滅するよりは、よほどいい」

「これで守ったつもり!? 勝手なことを————」

「委員長、止めるんだ」

「止めないで、悠斗君。明日那はどうしようもなく、許されないことをした」

「ああ、分かってる。だから、それは俺が言わなきゃいけないことなんだ」

 そうだ、このまま委員長にだけ言わせていてはいけない。

 信じたくはない。何かの間違いだ。あるいは、明日那の言い分が正しいと、心の片隅で認めてしまう自分もいる。

 それでも、許してはいけない。黙って許容してもいけない。

「明日那、お前は罪を犯した。仲間を手にかけたんだ。決して許されることじゃない……これ以上、言い訳はしないでくれ」

「言い訳、か。そうだな、どう言い繕ったところで、人として正しい行いだったとは言えないだろう。だから、これは私の素直な気持ちだ」

 明日那の目尻には、涙が浮かぶ。

 けれど、泣き叫ぶことはせず、瞳を潤ませながらも、真っ直ぐに俺を見つめて言った。

「蒼真、あの瞬間、お前が出ていかなくて良かった。こうして罪を咎められても、お前を失うことに比べれば……」

「やめろ! やめてくれ、それ以上は、もう言うな……」

 俺のせい、だったのだ。結局、俺が弱いからこうなった。

 今朝方の襲撃から、中井と野々宮さんを失ったのは、俺がザガンに勝てないから。こんなボロボロになるまで追い回されるのも、俺がゴーマの軍団を倒し切れないから。

 そして4人もの仲間を助けられず、挙句、明日那に姫野さんを追い出させる凶行もさせてしまった。

 全て、俺の力不足だ。ザガンを倒せず、ゴーマ軍団も止められず、姫野さんの疑惑に対しても、仲間に安心を与えることもできなかった。

 その結果がこれである。俺は、何もできなかった……ただ、次々と仲間を失い、明日那の手まで汚させた。

 もしも本当に、姫野さんが邪悪な眷属として俺達全員の殺害を目論んでいたとしたならば、きっと俺には止められなかっただろう。

 だからといって、明日那の行いを擁護することはできない。姫野さんがまだクラスメイトのままだとするならば、ただ仲間を一人殺したことになってしまう。信頼を裏切られた、彼女の気持ちは如何ほどか。人として、決して許せることではない。

「まずは急いで、外の5人を助ける方法を探そう」

「……そうね。ここで議論していても、何も解決しないもの」

 まだ諦めるわけにはいかない。扉の外に取り残された、姫野さん、上田、山田、中嶋、芳崎さん、5人の仲間はまだ死んだワケではないのだから。

「小鳥遊さん、この扉は開けられそうか?」

「うぅ……ここからじゃ、無理だと思う。きっと、この遺跡のどこかに、扉とか制御している装置みたいなのがあると思うの。それを見つけられれば」

「なら、まずはそれを探しに行くしかないか」

「そうするしかなさそうね。この場に残っていても、どうしようもないわ」

 この分厚い扉一枚の向こう側で、取り残された仲間達がいることを思えば、ここから離れるのは心苦しい。完璧な防音性を誇る遺跡の扉は、向こう側の騒ぎを僅か程もこちらには伝えてくれない。

 今頃、彼らは扉を叩いて助けを求めて叫んでいるだろう。あるいは、自分達に対する罵詈雑言か。たとえどんな恨み言を彼らにぶつけられようと、甘んじて受け入れよう。たとえ殴られたって構わないから、もう一度、顔を合わせられるようにと俺は願う。

「姫ちゃん……姫ちゃん……」

 すぐ傍で、双葉さんが扉に手をつけて、呆然と友人と名前を呼んでいた。

 今の彼女が、現状をどこまで正確に理解しているかは分からないけれど……大切な友達が危険な外へ放り出されてしまったことは、理解しているのだろう。

 不安げな声で姫野さんの名前を呼ぶ彼女の姿を、俺はこれ以上、直視できなかった。




 結局、扉を開くことに成功したのは、あれから丸一日以上も経過してからだった。

 扉の外の地下空間には、沢山のゴーマの死骸が転がり、激しい戦闘の跡だけが残されていた。その中にはゴグマも含まれており、厳しい戦いだったとこが窺い知れる。

 分かったことは、それだけだ。

 当然だが、彼らの姿はもうそこにはなく、死体も確認できなかった。生きているのか、死んでいるのか、それすらも分からない状況だ。

 ゴーマとの戦いを無事に切り抜け、俺達と合流するため、あるいは、見切りをつけてどこかへと去って行ったのなら良いのだが。しかし、もしゴーマに敗北すれば、その死体は間違いなく奴らの食い物にされる。結果として、この場に死体が残る可能性は非常に低いので、死亡を確認することも難しい。

 一応、各自のスマホに連絡もしたが、誰にも繋がらなかった。彼らの生死を確かめる術は、今の俺達にはなかった。

 生きているかもしれない、と淡く儚い、それでいて都合のいい希望が抱けるだけ、この状況は幸いだろう。

 少なくとも、俺はまだ沢山の仲間を一気に失ったことを、受け入れることも、割り切ることもできてはいない。まだ彼らが生きているかもしれない、という希望に縋り付くことで、何とか平静を保っていられるような気さえしている。

 なにが『勇者』だ。こんな情けない奴の、一体どこに誇れる勇気があるというのか。

「なぁ、龍一、俺は間違っているのか……」

 頼れる親友は、もういない。

 こんな弱音も、アイツになら吐けただろう。けれど、桜にも、委員長にも、こんなことは言えない。

「……それとも、桃川なら、もっと上手くやれたのか?」

 アイツと自分を比較するのは、もう何度目になるだろう。

 ヤマタノオロチを討ち果たすまでは、あんなに上手くいっていた。多少のトラブルもあったが、過ぎ去った今となってはどれも笑い話で済みそうなものばかり。飲酒騒動だの夜這い事件だの、今じゃすっかり昔の話のようだ。

 桃川が裏切り、俺がクラスを率いなければいけなくなった。

 やれること、やるべきこと、全部必死でやってきたつもりだ。けれど終わってしまえば、俺はたったの一日で、合わせて7人もの仲間を失ってしまった。

 とんだ無能である。敵が強いだとか、予想外の事態だとか、そんなことはダンジョン攻略では当たり前。それを何とかしてこそのリーダーだろう。

 だというのに、俺は……俺は一体、何をやっているんだ……俺達は本当に、前へ進んでいるのか? 進んでいたとしても、それは単なる破滅に向かっているだけなのかも……

「ご飯だよー」

 能天気な双葉さんの声が耳に届いて、暗い思考に囚われボンヤリしていた俺は、ハっと頭を上げる。

「兄さん、大丈夫ですか? ボーっとしていたようですけれど、疲れが溜まっているのでは」

「あ、ああ、大丈夫だ。疲れてはいるけどな」

 はは、と苦笑を浮かべながら、心配そうに顔を覗き込んでくる桜に応えた。

 いかん、みんなに不安を与えるような姿を見せてはいけないのに。

「やった、今日はデザートがある!」

「もしかして、これで砂糖を全部使い切ってしまったんじゃないかしら」

「大丈夫だよ、これは倉庫で見つけたやつだから、しばらくは甘い物を食べられるよ」

 双葉さんの報告を聞いて、「ヒャッハァ!」と夏川さんが奇声を上げている。多分、喜んでいるのだろう。

「明日那ちゃん、私のデザート、食べてもいいよ!」

「いや、いいんだ小鳥、無理するな」

「でも、明日那ちゃん元気ないから……」

「そういうのは、気持ちだけで十分だ」

 反対側では、明日那が小鳥遊さんを撫でていた。

 確かに、明日那は俺以上に思い詰めている様子が見受けられるが……ひとまずは、小鳥遊さんと一緒にいられれば大丈夫だと思う。

「それじゃあ、いただきます————」

 と、こうして俺達が平和に食事をできるようになったのは、ようやく安全地帯を見つけたからだ。

 あの扉を越えて入った遺跡だが、どうやらここは小さな砦、のようなものらしい。

 小鳥遊さんが言っていた扉を制御できるような設備、いわゆる制御端末というべきか、それを発見し、起動したことで明らかになったことだ。

 大きな祭壇とセットになっている石板型の制御端末によって、この砦内部のことはおおよそ掌握できているそうだ。今はあの扉も自由に開閉ができるし、他の扉を開くこともできる。

 扉さえ締め切っていれば、ゴーマが攻めて来ても問題ない。奴らでは、この古代遺跡の砦に侵入する手段がないからだ。

 扉も壁も、奴らには破ることはできない。まして古代遺跡にアクセスし、小鳥遊さんからコントロールを奪う、なんて真似もできるはずがない。

 それができていれば、とっくの昔にここもゴーマの根城にされている。

 ここは砦として堅い防備を誇るだけでなく、最下層エリアの何か所かに通じる転移魔法陣もあった。これのお陰で、最悪、全ての扉をゴーマ軍団が封鎖しても、脱出することはできる。

 勿論、出た先からこちらへ転移で戻ることもできるため、砦を拠点として最下層エリアの探索へ出ることも可能だ。

 その他にも、かなりの機能が生きている場所であるせいか、他にも色々と使える設備があった。

 まずは、双葉さんが利用しているキッチン。小鳥遊さんが錬成で設備を作るまでもなく、火、水、冷凍の問題は解決した。

 元々が砦の厨房らしく、料理に必要なものは何でも揃っている。この遺跡がまだ生きているお陰で、設置されている設備も全て利用が可能。ここを使うのに必要なことは、みんなで隅々まで掃除するくらいだった。

 倉庫にはまだ使えそうな物資、または壊れているが素材として再利用できそうな物などが、それなりに残っていた。

 古代の武器らしきものが原型を保って残されており、中には銃器と思しき形状のものも多くあった。残念ながら、それらは長い時間の果てに風化し、その威力を発揮することはできない。

 そういったガラクタ含め、倉庫にある物は小鳥遊さんが錬成をすれば、今の俺達の武器を強化するための素材とすることもできる。

 全員の武器を強化していくにはしばしの時間がかかるが、この安全な砦にいれば問題はない。それに、錬成に利用できそうな設備なども見つかっているため、もしかすれば更なる強化もできるかもしれない。

 他にも色々とあるが、とりあえず、ここにいれば安全と、衣食住の心配はせずに済みそうだった。

「もっと早く、この場所を見つけられていれば……」

「兄さん、それは言っても仕方がないことです」

「ああ、大事なのは、早くみんなを見つけることだ」

 ようやく安全な場所を見つけられたのだ。最下層エリアからの脱出はできないものの、転移でこのエリアの探索に出ることはできる。

 俺達はひとまず、あの5人はゴーマの襲撃を生き残り、洞窟の外へ出ていったと仮定して、彼らを探すことにした。今更、俺達が現れても恨まれるかもしれないが、外は相変わらず危険なことに変わりはない。まずはこの安全な場所に集めてから、幾らでも恨み言を聞くとしよう。

「大丈夫です。きっと、私達はみんなでここから出られますよ」

「そうだな。絶望的だと思っていても、結果的にこんな場所が見つかったんだ。きっと、希望はどんな時でも残っているはずだ」




 古代の砦、その中で寝室として各自に割り当てられた個室。小鳥遊小鳥は、備え付けのベッドに小さな体を投げ出して、くつろいでいた。

「はぁ……やっと一息つけるよぉ……まさか、クソゴーマ共があんなにのさばってるなんて、想像してなかったし」

 当初の予定では、今頃は『セントラルタワー』の攻略を開始し、あとは順当にボス戦で必要な犠牲を出していくだけで良かった。

 だがゴーマの王国がタワー前に広がっているせいで、余計な障害が立ちはだかっている状況である。

「でも、いらない奴らはこれで大体、排除できたし」

 予想外の展開ではあったが、小鳥の思惑は順調に進んでいるといっていいだろう。

 まずは下川を『追放刑』によって排除。

 彼がいなくなっていることは、翌朝すぐに明らかとなるが、ゴーマの奇襲によって誰もそれを追求するどころではなくなった。

 そう、小鳥は前日からゴーマの軍勢が、早朝に仕掛けてくることを知っていたのだ。

 この最下層エリアは、これまでのエリアに比べて遺跡の機能が残っている部分が多い。この砦のように、当時と同じように使用できる設備だって幾つも残されている。

 故に、監視装置やレーダーのような設備が生きている、かつ、小鳥がアクセス可能なものであれば、人知れず利用することができた。また『投影術』による幻の分身で、ゴーマ王国の門を監視していれば、部隊の出撃と帰還を確認することもできる。

 この密かな監視網によって、ゴーマの襲来を利用することにしたのだった。

「目の前で二人死んでも覚醒しなかったから、やっぱ雑魚はいるだけ無駄なんだよね」

 そうして、予定通りに襲ってきたゴーマの軍団。

 ザガン、という名前付きネームドによって、中井と野々宮が犠牲となった。

 ここのゴーマは野生であるが故に、ボスモンスターのように、ある程度、力量に合わせて調整されてはいない。隔絶した力量差によって、最初の一撃であっけなく勝負がついてしまうこともある。

 もっとも、あれほどの強いゴーマがいたのは、小鳥としても想定外ではあった。

 利用できれば良いが、無理そうなら無視してタワーへ乗り込んだ方が良いだろう。

「もう一回くらい、明日那ちゃんにピンチになってもらおっかなぁ……それとも委員長あたりか……いや、先に邪魔な双葉の方が……」

 ヤマタノオロチ戦において、悠斗は明日那にブレスが直撃する窮地を救うために、第二固有スキル『天の星盾セラフィック・イージス』を覚醒させた。

 やはり勇者の力を目覚めさせるには、より近しい人間の窮地か犠牲が必要だ。

 明日那は盾の覚醒によって救われたが、中井と野々宮は悠斗が何かできる余地もなく、即死同然の結果であった。

 救われた者と、救われなかった者の差はなにか。それはやはり、悠斗との個人的な関係性の度合いによって異なるとしか言いようはなかった。

 それを残酷と言うべきか、差別と言うべきか。どうであれ、女神エルシオンは最初から生きるべき人間と死ぬべき人間の選別は、すでに終えている。

「だから、アンタ達はさっさと野垂れ死んでよね」

 小鳥は、姫野達5人が生きのびたことを、監視網によってすでに知っている。

 洞窟近辺で、ボロボロになりながらも、森の中へと分け入っていく5人組の姿を確かに捉えている。

 それ以降は、監視範囲外に移動していったので、正確な行方は知れないが。

「あーあ、残念だったよ、姫野の公開処刑が見たかったのになぁ。折角、眷属のことバラしたのに」

 眷属『淫魔』であることが発覚した問題は、勿論、小鳥の手引きによるものだ。

 姫野には角が生えたりはしていない。『投影術』の応用で、ソレっぽく見せかけただけ。一応、魔力密度を高めることで、それらしい手触りを実体として持たせてもいた。

 完全にただの見せかけにすぎないが、姫野が眷属『淫魔』であることは事実だし、本人がソレをひた隠しにしていることも、最初から知っていた。学園塔に中嶋と一緒に転移してきた時、その姿を一目みた瞬間から、賢者の鑑定スキル『真贋の瞳』によって、看破できている。

 それをあえて指摘しなかったのは、ここぞという時に暴露して、仲間の手で排除させようと思っていたからだ。

 その点、仲間を失い、さらにゴーマの追撃が続く過酷な状況は、姫野を切り捨てるにちょうどいいシチュエーションであった。

 予定としては、怒り狂った仲間の手によって無残に嬲り殺しにされるはずだったが……

「でもでも、流石は明日那ちゃんだよね。小鳥が何にもしなくても、姫野ぶっ飛ばしてくれるなんて————あはは、あの時の姫野の間抜け面も、明日那ちゃんのテンパった顔も、最高だったよ」

 人を意のままに操るのは、この上ない娯楽である。

 けれど自らが介入せずとも、思い通りに事が運ぶのも素晴らしく愉快だ。

 小鳥は遺跡の扉の開閉により、死んでも覚醒を促せないような雑魚共を一掃しようと目論んだが、すでに内部に立っていた姫野の排除をどうすべきか少し悩んだ。

 多少リスクを冒してでも、双葉芽衣子の『イデアコード』を緩め、明日那に姫野を突き飛ばすよう促そうか。それとも、後で適当な濡れ衣を着せて追放するか。

 どちらか決めかねたその瞬間、明日那はもう姫野の背中を蹴っていたのだ。

 あの瞬間、笑いだすのを堪えるのにどれほど苦労したことか。

 演技をする時に一番困るのは、ああいう笑いどころがいきなり来ることだ。

『イデアコード』の影響を受けてもいないのに、仲間の一人を見殺しにするような非道な決断を下した明日那の心中。もう安全圏にいると思って油断しきっている姫野が、外に放り出されて絶望する瞬間。

 どちらも考えるだけで、笑いが込み上げてきて仕方がない。小鳥は昔から好きだった。人が醜い一面を覗かせる時が。希望や安心を持った者が、全て崩れ去って絶望に突き落とされる瞬間が。

「ふふふ、ホントに明日那ちゃんは小鳥の親友だよぉ……やっぱり、殺すのは最後にしてあげたいな」

 それも、できれば自分か、悠斗の手で。

 最良の親友か、最愛の男か。どちらであっても、命を奪う相手としては最も絶望的であろう。

「明日那ちゃん、委員長、夏川、双葉、そして蒼真桜。あと5人。コイツらを始末して、ようやく私は蒼真くんと結ばれる……」

 桃川小太郎によって、神のシナリオは歪みつつあった。

 だが、それも今は小鳥の手によって修正されている。クラスメイトの排除は順調に進み、ゴールも目前。

 ゴーマ王国はイレギュラーな障害だが、最下層エリアの設備を駆使すれば、なんとか通り抜けることくらいはできるようになるだろう。

 最後のエリア、『セントラルタワー』にさえ辿り着くことができれば、後は神の意思によって適切に『調整された』ラスボスが上手く始末をつけてくれるだろう。

「……さーて、次は誰が死ぬのかな」

 再び進み始めた神のシナリオは、もう誰にも止められない。すでにそう確信している小鳥は、誰よりも心安らかに、ベッドで眠りに就くのだった。

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― 新着の感想 ―
三周目だけどゴミクズすぎて今でも読んでてキレてる… 作者さん見せ方上手過ぎるよ…
ビンタもなし・・・甘やかしすぎでは
自分が小鳥だったら絶対に爆笑堪えきれずに失敗してるな。 野生の名女優は怖いね。
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