第274話 ザガン
「ふわぁ……あれ、下川どこいった?」
「さぁな、外でションベンでもしてんじゃねーのか」
そんな気だるげな会話をしながら、寝起きのだらしない顔をした上田と中井の二人とすれ違う。
一言挨拶だけ交わした俺は、そのまま階段を降り、最も広い塔の一階大広間へと向かう。
「おはようございます、兄さん」
「ああ、おはよう、桜。今日は早いな」
「今日は私が給食当番なので」
確かに、白いエプロンをつけた姿は給食当番の証だ。このエプロンを人数分用意したのも桃川で、サイズについて無駄に桜と言い合いとかしていたな。
広間には、すでに朝食が配膳される準備がされていた。
ここから奥の方がキッチンスペースとなっており、双葉さんが様々な食材を流れるような手つきで捌いている。大鍋に入ったスープは煮立っていて、空腹を誘う匂いを俺のいるところまで漂わせていた。
様子を見る限り、昨日の内に小鳥遊さんがこしらえたキッチンは過不足なく機能しているようだ。今までの様に桃川の『魔女の釜』という調理に風呂、トイレにまで活用できる万能な魔法が失われた今、こういった設備を用意できるのは『賢者』である小鳥遊さんしかいない。
火と水と氷のマジックアイテムをそれぞれ作り、コンロと流し、冷蔵庫としている。
ここ最近、彼女には負担をかけっぱなしだが……しばらく、この塔を拠点として活動していかなくてはならない以上、最低限の設備は整えなければならない。
「双葉さんは、その、どうだ?」
「ああして、料理している分には普段と変わらないですね。逆に言えば、特に症状が改善されたとも言えません」
料理を含めた日常生活に、ダンジョンを進むための行軍なんかは、問題なく双葉さんがこなせるのは本当に幸いだった。お陰で、彼女は『狂戦士』として戦うことがなくとも、クラスにおいてお荷物にはならず、むしろ料理の腕だけで十分すぎるほどの貢献をしてくれている。
「兄さん、彼女のことは、姫野さんに任せておきましょう」
「そうだな。今も俺には、双葉さんにかける言葉が見つからないから」
みんなのいる食堂代わりの広間で、顔を合わせれば挨拶くらいはできるようにはなったが、それ以上の会話は避けている。
双葉さんのことは、元からの友人である姫野さんに丸投げ状態だ。申し訳ないとは思うが、それでも、こういう時に任せられる人物がいるということは非常にありがたい。
体に深い傷を負えば大変だが、心の傷もまた、同様に厄介なものである。ほとんど本人次第と言える問題なのだが……俺は、いつか必ず双葉さんなら乗り越えられると信じている。
「ほわぁ……みんなぁ、おはよぉ……」
「おい小鳥、まだ髪が跳ねてるぞ」
「ええー、どこぉー? 明日那ちゃん直してー」
「しょうがないな」
などと仲良く言い合いながら、明日那と小鳥遊さんが広間に姿を現したのを皮切りに、続々とクラスメイト達が集まってきた。朝食の時間は明確に定められているワケではないが、この集まりの良さは、やはり美味しい匂いに惹かれているとしか思えないな。
そうして、今日も全員分プラス一人分の料理が並ぶ大テーブルに、みんなが席へと付き始めた、その時であった。
「————た、大変だよっ!」
「んっ、美波、どうしたのよそんなに慌てて……というか、どこに行っていたのよ」
そういえば、いつもなら委員長と共に現れる夏川さんが、今日に限ってはいなかった。陸上部の朝練などで、彼女は早朝に弱いということはないから、寝坊したとすれば珍しいと思っていたが、どうやらそんな呑気な理由はなさそうだった。
「ゴーマの軍団が来てる! というか、もう囲まれてるよっ!」
「なんだって!?」
まさか、俺達の存在がゴーマ王国の奴らにバレていたとは。
「全員、戦闘準備だ!」
即座に、クラス全員動き出す。目の前にある出来立ての朝食が諦められないのか、肉やパンを口にくわえる奴もちらほらいるが……ちゃんと武器庫に向かっているので良しとしよう。
「夏川さん、敵の数はどれくらいだ」
「塔の正面からは、ゴグマ2体とゴーヴ10体、ゴーマがえーと、50くらいかな? 一番数が多いよ。それから、後ろと左右にも、ゴーヴとゴーマを合わせて30くらいの集団がいる」
どうやら夏川さんは、真っ先に敵の気配を察知した上に、偵察まで済ませてきてくれたようだ。委員長にも言わずに偵察に出たのは危険だが……彼女は自分の力を過信するような性格ではない。恐らく、報告に戻る時間すら惜しいと判断してのことだろう。
「……それくらいなら、なんとか迎え撃てるか」
報告にある敵の数は全て合計すると、ゴグマ2、ゴーヴ30、ゴーマ90だ。包囲しているゴーヴとゴーマの混成部隊は、ゴーヴ10、ゴーマ20と仮定している。
今の俺達なら、ゴーマが100体群れていてもさほどの脅威にはならない。あの城壁で見たような、鎧と鉄の武器で武装していたとしても。
ゴーヴ30体も、なんとかなるだろう。ヤマタノオロチ戦を乗り越えた俺達なら、ゴーヴを倒すのにもそれほど手間取らない。
問題は正面にいる2体のゴグマ。四本腕の奴ではなく、普通のゴグマだという。ボス級としてもなかなかの強さを誇るが……大丈夫だ、今の俺なら、ゴグマ2体を同時に相手しても問題なく倒せる。
数は圧倒的に向こうが有利で、しっかり包囲もしてきているが、俺達がいるのは頑丈で大きな塔である。
出入口は正面のみで、敵の侵入を制限することが可能。いくらゴグマでも、この塔の壁を破壊して突破してくるのは無理だ。
「蒼真君、もう敵が来るよ!」
夏川さんが叫ぶ。
流石に、この距離にまで敵が迫って来れば、俺も他のみんなも気配を察することができる。
「先に俺が行く————『ソードストレージ』セレクト、『聖騎士の剣』」
俺はみんなよりも先んじて、剣を空間魔法から取り出して手にする。
学園塔にいた頃は、この『ソードストレージ』は武装解除していたが、桃川の裏切りがあって以降は、常に武器を入れることにした。お陰で、こういう奇襲の時も素早く対応できる。
「グヴァラァアアアッ!」
「ゲブッ、ゼバァ!」
塔の正面入り口から、鎧兜に槍を持った完全武装のゴーヴが全力疾走で飛び込んできた。文字通りの一番槍、という奴か。
「ここから先は、一体も通しはしない————『一閃』」
武技で一気に間合いを詰め、横薙ぎの一閃で二体まとめて切り飛ばす。
もう30秒もしない内に、みんなも武器を手に戦闘を始められるだろう。その僅かだが、貴重な時間を俺は稼ぐ。
「ゾグラ、ゴブンドォオ!」
「疾っ!」
さらに続けて駆け込んできたゴーマを切る。
幸い、奴らは足並み揃えて突入することもなく、我先にと戦功を競い合うように突っ込んでくるだけ。
足の速い者から順番に飛び込んでくるだけで、ここの入り口は一つきり。囲まれる心配もなく、出てくる順に相手をすればいいので、非常にやりやすい。予想外の奇襲をされたが、地の利はこちらにある。
「悠斗君、みんな準備完了よ!」
そうこうしている内に、杖を握った委員長がみんなを連れて武器庫から出てくる。
「みんな聞いてくれ、敵はゴグマ2、ゴーヴ30、ゴーマ90、四方に散って塔を囲むように配置についている。敵は多いが、俺達なら倒せない数じゃない。このままここで迎え撃つ」
バラバラに突っ込んでくる奴を片付けつつ、俺は作戦を伝える。勿論、指示を出すまでもなく、前衛組みは俺と並んで、目の前のゴーマを切り伏せてくれている。
「防衛戦は、ヤマタノオロチ以来だぜ」
「今更、ゴーマ相手にビビるかよ」
「俺らの拠点にカチ込みかけたこと、後悔させてやるぜ!」
重戦士の山田を筆頭に、上田と中井が武器を振り上げヤル気をみなぎらせている。
こと迅速な判断を要する戦闘に限って言えば、滅多なことでは誰も口を挟むことはない。学級会のように紛糾することなく、俺の指示に従ってくれる。
小鳥遊さんのことで大いに疑心暗鬼に陥ってはいるが、この戦闘時の結束が崩れない限り、俺達はまだ大丈夫だ。
「この調子で塔に敵を引き入れて撃破していこう。もうすぐ、主力のゴーヴが突撃してくるはずだ。ゴグマが2体とも入ったら、桜と委員長が防御魔法で入口を塞いで分断。ゴグマ以外が突っ込んで来ても、ソイツらを適度に引き込んで、同じように分断する。ゴグマさえ倒せば、あとはいつもの雑魚狩りとそう変わらない。ある程度削れば、向こうが勝手に退くだろう」
先んじて飛び込んできた奴らは、偵察とも呼べないような小勢だ。
そろそろゴグマ含め、大きな気配が接近してくるのを感じる。本番はここからだ。
「二階には、下川、小鳥遊さん、双葉さん、姫野さん、の四人が上がってくれ。下川は、塞いだ入口を突破しようとする奴を窓から撃って妨害して欲しい。残りは全員、この一階で引き込んだ敵を倒す」
クラスの非戦闘員は、今や小鳥遊さんに加えて、双葉さんも該当する。そして彼女を適切に動かすには、姫野さんが一緒にいる必要もある。
姫野さんは『治癒術士』ではあるが、戦闘にはそれほど優れないので、小鳥遊さんと双葉さんの二人と一緒に安全な場所に下がっているのは、あまり問題にはならない。重傷者が出た場合は、彼女たちのもとまで運んで治療に専念もさせられる。
「……ちょっと待て、下川いねぇぞ」
「はっ? そんなワケ……マジだ、いねぇ!?」
「な、なんだって?」
俺は当たり前のように全員揃っている前提で話していたが、改めてクラスメイトの顔を見渡してみれば、下川の姿はどこにもなかった。
「まさか、この状況で寝坊してるワケじゃないだろうな」
「いや、寝袋にはもういなかったけど」
「おう、先に起きてると思ったんだが」
ああ、そういえば、起き抜けの二人がそんなようなことを話していた。下川がまだ部屋で眠っていないとするならば、どこにいったのか。
まさか、散歩かなにかで一人で外に出て、奴らに襲われたなんてことは————
「蒼真君、ゴグマが来るよっ!」
「ええい、仕方ない。みんな、さっき言った通りだ。姫野さん、双葉さんを頼んだ!」
「わ、分かったわ! ほら、双葉ちゃん、行くよ」
「うん、いいよ、姫ちゃん」
冷や汗を流しながらも、姫野さんは双葉さんの手を引いて、奥の階段へ向かい二階へと上がる。双葉さんは俺達の戦いを目にしても、普段と変わらぬ穏やかな表情で、姫野さんに手を引かれるまま、大人しく歩いて行った。
少し遅れて、小鳥遊さんも二人に続いて、安全な二階へと上がっていった。
「なぁ、下川の奴、マジでどこ行ったんだ」
「知らねぇよ……けど、まぁ、アイツなら大丈夫だろ、多分……」
この状況下で姿を見せない下川に、友人の上田と中井は不安を隠せない表情を浮かべているが、残念ながら今はその捜索に出ている余裕はない。
まずは、目の前の敵を返り討ちにしなければ。
「敵は間違いなく、あの王国からやって来ている。もしかすれば、更なる増援もあるかもしれない。ゴグマを倒した後も油断せずに行こう」
みんなにも、自分にも言い聞かせるようにそう言い放ち、俺は次の瞬間には飛び込んでくるだろうゴグマへ向けて、意識を集中させた。
「————これで、終わりだオラァ!」
「喰らいやがれ、このデカブツが!」
斧と槍、それぞれの武技が炸裂し、ついに致命傷に達した二体目のゴグマがドシーンと音を立てて崩れ落ちる。
トドメを刺したのは、『戦士』中井と『騎士』野々宮さん。
一体目のゴグマは先に俺が仕留めたが、二体目の方は他の前衛に任せることにした。今の彼らならば、ゴグマの一体くらい難なく対処できるからだ。
俺の指示した分断作戦は成功し、ゴグマ二体を引き入れることはできた。想定していたよりも随伴のゴーヴ達も多く入ってしまったが。それでも全員が揃っていれば、十分に対処できる数だった。
俺達は流動的に立ち位置が入れ替わる乱戦状態を広間で演じながらも、こうしてゴグマとゴーヴを倒し切ることに成功した。
「これで敵の主力は片付いたな」
「蒼真、このまま打って出るか?」
「それでも行けると思うが、念のためだ。地の利を生かして、このまま引き込んで戦おう」
「ふむ、堅実だな」
「残るはゴーマばかりだが、数だけは向こうの方が上だからな。安全に倒せる方法があるなら、それでいい」
ゴグマを仕留めることができず、暴れたりないとでも言いたげな明日那だったが、俺の安全策には素直に頷いてくれた。
すでにゴグマとゴーヴの多くを失った襲撃部隊は恐れるに足りないが、それでも増援が送られてくる危険性も捨てきれない。ひとまずは、このまま奴らを壊滅、または敗走させなければ。
「みんな、このまま行けるか? 負傷者がいれば、回復するなら今の内だ」
「今更、こんな程度の奴らにやられる間抜けはいないって」
「さっさと片づけて朝飯食いてーぜ」
芳崎さんと上田が、それぞれ元気な返事をくれる。
他の面子を見渡しても、返り血こそ浴びているが、自ら血を流している者は誰もいない。全員、まだまだ余裕といったところ。
まったく、頼もしい仲間達だ。
「委員長、入口を開けて、また敵を引き込んでくれ」
「了解よ」
「桜も、頼んだぞ」
「はい、兄さん」
そうして、入口を閉ざしていた氷と光の防御魔法が解除される。
外からは、相変わらずギャアギャアと騒がしいゴーマの声が響いている。そうだ、そのまま突っ込んで来い。
剣を握り、次の集団の突入を待つが……声こそ響くものの、誰も入っては来ない。
流石に奴らも分断されるのを理解して、突入するのを躊躇しているのだろうか。ゴーマの知能なら、あと2、3回は引っかかってくれるだろうと思ったが。
もし本当に不利を悟って突入しないのだとするなら、こちらから打って出る必要がある。作戦を切り替えるべきか、と考え始めた頃だった。
ついに、入口に一体のゴーヴが現れる。
「フシュウウ……」
ソイツは、一体だけで入ってきた。雄たけびを上げて突っ込んでくるでもなく、深く呼吸をしながら、ゆっくりと。まるで自分の家に上がり込むかのように、何の気負いもなく。
「なんだ、コイツは」
見た目こそ、普通のゴーヴだ。いや、身に纏う装備は全身を覆う鎧ではなく、ほぼ半裸の軽装。しかし首や耳、手足にはジャラジャラと煌めくアクセサリーを幾つも身に着けていることから、身分が高いのだろうと思わせる。
よく見れば、腰に巻いた布も、鮮やかな真紅の色合いで、基本的に薄汚れたボロキレを使うゴーマの中にあって、かなり上等な布地であることが分かる。
このゴーヴは一体、何者なのか。襲撃部隊を率いる隊長なのだろうか。
そうだとしても、何故、単独で乗り込んできた。まさか、俺達と交渉をしようというワケではないだろう。
「おいおい、ゴーヴ一匹だけで何するつもりだぁ?」
「なにコイツ、舐めてんの? 無駄にキラキラしてるし」
ゴグマを倒して勢いに乗っているのか、中井と野々宮さんの二人が前へと出る。俺よりも先に、ゴーヴへと斬りかかれる立ち位置だ。
「待て、二人とも、そのゴーヴは————」
何かおかしい、と引き留める言葉の途中だった。
「ギラ・ゴグマ! ザガン!」
ゴーヴは叫んだ。
ドン、と右手を自分の胸に打ち付けて、そう叫ぶ。
「ギラ・ゴグマ! ザガン!」
再び、同じ叫び。ドンドンと胸を打ちながら。まるで、何かを示すように。
まさかコイツ……名乗りを上げているのか。
俺はギラ・ゴグマの『ザガン』だと。
「ギィイイイイイイイイイイイイガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
そして、一際大きな絶叫と共に、ゴーヴから、いや、ザガンから凄まじい魔力の気配が爆発的に発せられた。
その瞬間、奴の全身に浮かび上がったのは、真っ赤に輝く魔法陣の文様。頭の天辺から足の先まで、全身に刺青を入れたかのように、赤く輝くラインとなっている。
その直後だ————体が弾けた。
否、弾けるように、体が大きくなったのだ。
ゴグマのような、いいや、それを越えたさらなる巨躯へと。
筋骨隆々の逞しいゴーヴの体格をそのままに、倍以上の身長を誇る5メートルほどの体へと、巨大化した。その姿、正に巨人。
「グルゥオ、ンガァアアアアッ!」
その巨人が、剣を抜いた。
元々、腰から下げていた剣である。巨大化に伴って、その身に纏う衣服や装飾品もそのまま大きくなっている。だから、その剣もまた巨大な刃と化していた。
龍一が振るう大剣さえをも軽々と超える巨大剣は、抜刀術のような凄まじい速度で放たれた。
その鋭い超重量の一閃を、俺はなんとか見切って、バックステップを踏んで瞬時に間合いから逃れる。ギリギリだった。このゴーヴは普通じゃないと警戒し、ザガンの名乗りを上げ、巨大化した瞬間、その脅威がゴグマを遥かに超える大ボス級だと察したが故に。
だから、間に合わなかった。
俺より前に立ち、俺よりも油断していた、中井と野々宮さんの二人は。
「————あっ?」
間の抜けた声を、中井が上げていた。相手が剣を振るった、と気づいたのは、すでにその刃が駆け抜けていった後のようだ。
防御も回避も、全く間に合わない。直撃。
ズルッ、と中井の体がゆっくりと分断され————上半身と下半身、真っ二つに切り裂かれた。
「ぁああああああああああああああああああああっ!」
一方、絶叫を上げる野々宮さんが仰向けに倒れた。
恐らく、騎士のスキル『見切り』を持つ彼女は、ザガンの抜刀一閃に反応できた。
龍一の槍をかざしてガードしつつ、同時に俺と同じく素早く後ろへ飛んで回避も行った。だが、あまりにもザガンに近すぎた。近づき過ぎていた。
その圧倒的な刃の威力から逃れきることはできず、彼女は両腕が斬り飛ばされ、さらに深々と胸元に斬撃の跡が刻まれていた。
「はっ? おい、なんだよ、嘘だろ……中井……」
「い、いぃやぁああああ!? ジュリ! ジュリィイイイイッ!」
呆然と声を漏らす上田と、悲鳴を上げる芳崎さん。ザガンの犠牲になったのは、二人の友人。とても正気ではいられない。
「みんな下がれ、奴は俺が止める! 桜っ、治癒魔法だ!」
俺は、取り返しのつかない失敗を犯した。
だが、それを悔いる時間はない。今はただ、目の前に現れた特大の脅威に対抗しなければ。
これ以上、犠牲は出せない。
「撤退だ! 急いで撤退しろ!」
「グブル、ゾン、バルゼンドバァ」
一撃で二人を仕留めたザガンは、満足げにゆったりと剣を構えながら、その大きな一歩を踏み出す。
この広間にいる限り、巨大化ザガンの脅威から逃れられない。コイツには敵わない。このまま挑めば必ず犠牲が出る。
だから、俺が止める。みんなを、守る。
「俺は『勇者』の蒼真悠斗だ! 来い、ザガン、この俺が相手だっ!」
「ユー、ユー、グフフ、ガブラ、ザン、ゾォアブラダ! バグダ、ユーっ!」
俺の名乗りが通じたのか否か、ザガンは確かに俺へと向いた。そうだ、来い、俺に向かって来い。お前の相手は俺だ!
「行くぞっ————『-光の聖剣』っ!」




