第24話 集う仲間達
「……そうか、佐藤さんが」
委員長から、これまでの事情をおおよそ聞いた。猟犬のように赤犬を連れたゴーマの群れとの戦いで、女子の佐藤さんが死んだ。彼女の天職は射手で、戦闘の際は後方に立ち援護に徹していたが、赤犬とゴーマの連携と、なによりその数でもって、包囲を許し、後ろをとられてしまったという。
委員長と夏川さんが助けに向かおうとしても、目の前の敵に精一杯。そのまま戦い続け、数を半分ほど削ったあたりで、ようやく割に合わない相手と見たのか、引き上げて行ったそうだ。戦いが終わった時には、佐藤さんの死体はすでにそこになかった。撤退と同時に、ゴーマ共が狩った餌として引きずっていったに違いない。
二人でボロボロになりながらも、どうにか先に進み、この妖精広場へとたどり着いたという。
「わ、私……もう、ダメだと思って……でも、蒼真君と桜ちゃんが、来てくれて、良かったって、まだ、なんとかなるかもって……うぅーっ!」
「大丈夫、大丈夫ですよ、美波。四人いれば、きっと、大丈夫ですから」
またポロポロと涙を零して泣き出す夏川さんの姿が痛々しい。ひとまず、彼女を慰めて、落ち着かせるのは桜に任せておこう。
「覚悟は、していたつもりだったけど……やっぱり、誰かが犠牲になったって聞くと、ショックだよ」
「佐藤さんの他にも、犠牲になっている人は、もっと多いはずよ」
重い溜息をつく委員長を見ると、そんなはずはない、なんて気軽には言えなかった。
「実はね、佐藤さんの前に、双葉さんも、ね……」
「そんな、どうして!?」
「彼女は、戦いに向いていなかったのよ。ゴーマに刺されて、治す手段もなくて、そのまま」
何てことだ、ちくしょう。そういう時にこそ、桜がいれば……絶対、助けられたはずだ。何より、委員長に、怪我をした仲間を置き去りにさせる、なんて残酷な真似をさせずにすんだ。
「くっ……仕方ない、とは言わない。けど、そんな状況なら、早くクラスメイト全員、合流しないと。余計な犠牲はこれ以上、増やしたくない」
「クラスメイト全員、ね……悠斗君は、脱出できる人数が三人まで、という情報は、もう届いてる?」
さらに顔色を暗くする委員長の問いかけに、俺は「ああ」と小さく頷いた。
確か三つ目の妖精広場まで来た時だったと思う。ダンジョンの最奥にあるという『天送門』と、起動に必要なコア。そして、門を潜れるのは三人までという、絶望的な人数制限。その知らせが、俺の下にも届いた。
「敵に回る人も、いるわよ」
「そう、かもしれないな」
「土壇場になって、裏切る人だって」
「うん、ありえない話じゃない」
「それでも、みんなを集めるべき、なのかしら」
生き残りたいのは、誰もが同じ。誰だって死にたくない。そして、他人を蹴落としてでもいいから、自分だけでいいから、何が何でも助かりたい――そう思う人だって、いる。きっと、多くの人はそう思う。人間として当たり前の、生存本能。
「委員長、ここにはもう、四人いる」
「……ええ、そうね」
「俺は誰も、見捨てたくない。桜、委員長、夏川さん。誰か一人切り捨てろといわれても、そんなことはできない。それに、三人を生かすために、俺が犠牲になるつもりも、ない」
「ふふっ、我がままね。贅沢、というべきかしら」
「こんな状況じゃあ、そうかもしれないな。けど、俺はその我がままを、何が何でも貫き通してみせる。俺は誰も見捨てない。生き残った奴は全員で、必ず元の世界に帰るんだ!」
諦めきれるわけがない。こうして、本当に犠牲が出た以上、尚更だ。俺の決意はより一層に固くなる。
そうだ、こういう理不尽な状況を覆すために、俺は強くなりたかったんだ。そのための『勇者』の力だろう。
「はぁ……ごめん、ごめんね、悠斗君。私、嫌な事ばかり言って……私だって最初は、本当に、心から、そう思っていたはずなのに」
「いや、いいんだ委員長。こんな状況じゃあ、弱気になってしまうのも、仕方ない」
いくら冷静沈着、頭脳明晰な委員長でも、立て続けに二人も犠牲者を目の当たりにすれば、精神的に限界だろう。まして、俺達と合流する直前までは、佐藤さんを失い、たったの二人きりになってしまった。自分達の命さえ、危うい状況だった。
とても冷静でなんて、いられるはずがない。
「魔物は恐ろしいけど、『天職』を持ったみんなが集まれば、きっと対抗できる。もしかしたら、全員で『天送門』で送れる方法が見つかるかもしれないし、最悪、そのまま歩いて脱出したっていいんだ」
この世界には、少なくとも人間の王国が存在しているのは間違いない。世界中歩き回って、実はこの星は人類の存在しない未開の惑星でした、なんてことだけはないのだから。歩いていけば、人里まで出られる可能性はある。
「悠斗君が言うと、そんな無茶なことでも、できそうな気がするわ」
「今は『天職』があるんだし、結構イケると思うけど」
俺みたいな戦闘能力だけでなく、サバイバルに長けた能力だってあるかもしれないし。そんな能力者が集まれば、普通の人間としてサバイバルするよりも、遥かに生存できる可能性は高い。
「まぁ、何とかなるって。それに、その内に龍一とも合流できるだろうし」
「ちょっ、ちょっと、どうしてそこでアイツの名前を出すのよ!」
むしろ、ここで出さないといつ出すんだよって感じだけど。
「もう、なに笑ってるのよ、失礼ね」
「あはは、ごめんごめん。ただ俺も、早く龍一に会えればなと思って。やっぱり、安心して背中を任せられるのは、アイツだけだからさ」
「はぁ、悠斗君も意外に無茶するって、聞いてるわよ」
「心外だな、俺は巻き込まれてるだけだって」
「どうだか」
何だか、俺が好き好んで喧嘩しているみたいな不名誉な言われようだが、まぁ、とりあえず委員長が元気を取り戻したようで良かった。
「ところで、悠斗君の天職は何? 随分と余裕でここまで来た、っていう雰囲気だから、かなり強いんじゃない?」
「ああ、俺の天職は――えっと、ちょっと、笑わないでくれよ?」
笑わないわよ、とクールな微笑みで頷く委員長。よし、その言葉、信じるからな。
「……俺の天職は『勇者』だ」
「あはははっ! まさか、ホントに勇者になってるなんて!」
い、委員長の嘘つきぃーっ!
四人となった俺達は、休息もほどほどに、他のクラスメイト達を探すべくダンジョンへ繰り出した。探す、とはいっても、とりあえずは魔法陣のコンパスが示すとおりに進んで行くしかないのだが。他のみんなも、これを頼りに進んでいるはずだから、いつかは合流できるはず。
「早速、お出ましだな……夏川さん、準備はいい?」
「うん、大丈夫! 蒼真君が隣で一緒に戦ってくれるから、凄く心強いよ」
歩いていた大通り、その前方からは呻き声を上げてゾンビの群れが迫り来ている。そんな状況なのに、夏川さんはいつものように晴れやかな笑顔を浮かべて、手にした武器を構えた。彼女は右手にナイフ、左手に包丁を持っている。ナイフはゴーマから奪ったものだが、包丁は双葉さんの形見だそうだ。
そうして彼女は、魔物と正面から切り合える能力を持っていたから、たった一人で前衛を務めていた。いくら『天職』があるといっても、女の子が一人で魔物と戦うなんて、あまりに過酷だ。
俺が守る、そう言えるだけの強さは、残念ながら俺にはまだない。一人では勝てない、守りきれない。だから今は、みんなの力を貸してくれ。
「夏川さんの背中は、必ず俺が守るから」
「にはは、あ、ありがとう、蒼真君……」
何故か頬を赤らめて視線を逸らされたけど、嬉しそうにはにかんではいるから、少しは信頼されている、と思ってもいいだろう。いい傾向だ。頼れる仲間がいれば、心に余裕ができて、より冷静に、安全確実に立ち回れるようになる。
よし、ここはいいところを見せて、しっかり夏川さんに頼ってもらえるよう、頑張ろう。
「兄さん、美波、エンチャントをかけますから」
「ん、ああ、ありがとな」
桜から『光の守り手』を俺の剣と夏川さんのナイフと包丁にかけてもらって、戦闘準備は完了。しかし、桜のヤツ、何でちょっと不機嫌なんだ? 声がトゲトゲしい気がするんだけど。
「それじゃあ、涼子ちゃん、援護ヨロシクね! 蒼真君、行こう!」
「ああ!」
聖なる白い輝きを宿した刃を携えて、俺と夏川さんは共に『疾駆』の速度でもって、ゾンビ集団へと斬りかかった。
「もう、兄さんも美波も、敵に突っ込みすぎです!」
夏川さんとゾンビを殲滅して、意気揚々と戻って来たら、桜に怒られてしまった。
「ご、ごめんね桜ちゃん。でもでも、蒼真君と一緒だったら、凄く楽に戦えたっていうか、ちょっと楽しかったっていうか」
「まぁ、確かに、ちょっと調子に乗ってしまったことは、謝るよ」
夏川さんの戦闘能力を間近で体感して、ついつい勢いが止まらなくなってしまった。あんなに素早い動きで戦える女の子なんて、元の世界に存在するはずがない。けれど、その強さが今の俺には嬉しくて、肩を並べて戦えることが楽しくて――まぁ、そんな感じで好き勝手に暴れたら、そりゃあ怒られるか。
「まぁ、いいじゃない桜。私達が援護する暇もないくらいの圧勝よ。蒼真君の強さも圧倒的だし、これなら美波も安心して前で戦えるわ」
「ああ、夏川さんは、俺が庇ってでも守り切るから」
「にはっ! そ、それは、蒼真君、それはぁ……」
「兄さんが怪我しても意味ないんですからね!」
「大丈夫だって、その時は桜に治してもらえばいいだろ?」
「もうっ! そういう問題じゃ――」
俺は至極真っ当なことを言ったつもりなのに、何故か火に油を注いでしまったように桜はいよいよ激しく怒りだしてしまった。全く、男なら女の子を庇うのは当たり前のことだというのに。何をこんなに怒っているんだか。
「でも、次からは私達との連携を練習する意味も込めて、もう少し落ち着いて戦いましょう」
俺だけ桜に散々説教を食らった後に、委員長の方針を採用して、俺達は再びダンジョンを歩き始めた。
これまで、俺と桜の二人だけでも、小規模な魔物の群れなら対処しきれていたのだ。ここでさらに、『盗賊』として素早く鋭い近接戦闘能力を誇る夏川さんと、『氷魔術士』として多彩な氷の魔法で攻撃も防御もこなせる委員長が加わったことで、戦力は単純に倍、いや、それ以上の相乗効果を発揮する。
正直、もうゾンビや赤犬がどれだけ現れても、負ける気がしない。
「――兄さん!」
「こっちは俺一人で十分だ! もう一匹は三人で叩け!」
一際大きな森林のドームに辿り着いた俺達は、そこで赤犬の大群に襲われた。群れを率いているのは、初めて見る大型のボス犬だ。それも二体。オスとメスのツガイなのだろうか。二体は別々の群れを率いるボスではなく、あくまで一つのチームとして、犬とは思えないほど戦術的な連携を駆使して襲い掛かってくる。
もし、俺と桜の二人だけだったら、この数と連携を前にはかなりのリスクを背負うことになるが……今は、頼りになる仲間達がいるんだ。やはり、負ける気は微塵もしない。
「『三裂閃』っ!」
俺が放った三連続の剣閃を見舞う大技は、機敏に身を翻したボス犬によってあっけなく空を切る。そんな攻撃は見切っている、とばかりに、どこか小馬鹿にしたように口元を歪ませたボス犬だが……所詮は犬、ということか。こんな見え見えのフェイントに引っかかってくれるんだからな。
「――そこだっ!」
鋭く繰り出すのは、一本のナイフ。『三裂閃』を放ったのは右手一本だけだから、左手は空いている。そこで、『剛力』をかけながらナイフを投げつけてやれば、分厚い毛皮のボス犬にも、深く刃が突き刺さる。
「ギャウっ!」
脇腹に命中し、悲痛な悲鳴を上げるボス。その隙は、あまりに致命的。
俺はそのまま距離を詰め、体勢を立て直す前に、ボス犬の首を『一閃』で落とした。
「やったわね、悠斗君」
「ああ、そっちもお疲れ様」
俺がボス犬を仕留めるのと同時に、三人も上手くボス犬を倒したようだった。まぁ、桜と委員長から光と氷の集中砲火を浴びた上に、夏川さんのナイフが襲い掛かるのだから、ボス犬程度の能力では三十秒ともたないだろう。
ボスに接近を許すほど群れが削れた段階で、俺達の勝利は決まっていた。二体のボスが倒れると、残っていた群れはあっという間に逃げ去っていく。
「……ん、これは」
ボス犬からコアを回収しようと思ったら、鎧熊を倒した時と同じように、光の粒子となって消え去っていった。
獲得スキル
『火耐性』:火属性のダメージを減少させる。
頭の中に浮かび上がる、機械的なメッセージ。
なるほど、この光になって消えるのは、俺が獲得スキルを得られる時の合図ということか。輝く粒子が俺の体に吸い込まれていくように見えるから、もしかしたら魔法の力で魔物のパワーを吸収でもしているのかもしれないが。
何にしろ、分かりやすい。ついでに、コアだけは綺麗に残るのも、摘出の手間が省けて便利だな。
そうして、俺達のダンジョン攻略は順調に進んで行った。充実した戦力、頼れる仲間。戦闘を重ねるごとに、俺も、みんなも、新たな『天職』の能力を獲得し、さらに強くなっていく。
けれど、俺はまだダンジョンの本当の恐ろしさというのを、見てはいなかった。鎧熊には一度破れているにも関わらず、俺は、真の意味で『死』と直面することを、このあまりに順調な道程に忘れかけていた。
そんな馬鹿な俺の目を覚ます事件が起こったのは、広い、これまでで最も広い石造りの空間に辿り着いた時のことだった。
「――きゃああああああああああっ!」
絹を裂くような悲鳴が響きわたる。そこでクラスメイトの誰かが襲われている、というのはわざわざ口にしなくても理解できた。
俺達は悲鳴の響いた部屋の奥に向かって、一目散に駆けだす。頼む、間に合ってくれ――
「どけぇええええっ!」
そこには、これまでに見たことがないほどの数のゴーマが群れていた。相変わらず、汚らしい格好で、粗末な武器を手にした黒いゴブリンのような食人鬼達。だが、どれだけ数がいようとも、今の俺達の敵じゃない。
俺は躊躇なくゴーマの群れに斬り込んで行く。すぐ後ろには夏川さんが続き、桜と委員長の援護射撃が飛んでくる。切り伏せたゴーマの死体を踏み越え血路を切り開き、あっという間に包囲の内側へと出でる。
そこにいたのは――
「ああっ、蒼真くん!? 蒼真くんだぁーっ!」
「なにっ、蒼真だとっ!」
見慣れた二人の女の子。一人は夏川さんよりも小柄で、弱々しい、守ってあげたくなる小動物のような子。もう一人は、錆びた長剣と短剣の二刀流で勇ましく構えた、長いポーニーテールが特徴的な凛々しい子。
どちらもクラスメイト。そして、俺の友人だ。
「小鳥遊さんと、明日那かっ!」
良かった、見たところ二人ともまだ無事だ。小柄な方は小鳥遊小鳥。剣を構えているのが、剣崎明日那。
小鳥遊さんの方は武器も失ったのか、呆然と立ち尽くしたままブルブルと震えている。そして、明日那は彼女を守るように、背中に庇って立っている。
「助かった! 蒼真と、他にも、仲間がいるようだな」
「ああ、桜と委員長が一緒だ」
「私もいるよっ!」
「あぁーっ! 美波ちゃん!」
一歩遅れて参上した夏川さんは、明日那とは反対側の立ち位置で、小鳥遊さんを庇うように立つ。これで前方は俺と明日那、後方は夏川さんで、小鳥遊さんを守り切れる。あと一歩遅かったらと思うと、ゾっとする。
「明日那、とにかく今は、このゴーマの群れを片付けるぞ」
「いや、群れの方は、あまり問題じゃない。蒼真、落ち着いて、アレを見てくれ……」
頬に大粒の冷や汗を流し、暗い表情で前を向く明日那の視線を追う。
そこには、周囲と同じように立ち並ぶ、武装したゴーマ達。いや、違う、奥に、何かいる。
「な、なんだ、アイツは……」
ソレは、かなり大柄な人影であった。影、いいや、ソイツはゴーマと同じ真っ黒い肌を持っているだけ。けれど、全く別の種族であるかのように、体は大きい。俺よりも遥かにデカい、身長二メートルくらいありそうだ。そして何より、ただ背が高いだけでなく、その肉体は屈強そのもの。ボディビルダーのように、大きく振れ上がった筋肉の鎧を纏っている。
だが、その濁った黄色い目玉と、血塗られた汚らしい大口の空いた顔が、コイツがゴーマであることを認識させる。
「グッ、グゲッ、ゲゲッ」
奴は、俺を見て笑った。笑いながら、その口で、何かを、真っ赤な肉――いや、人間の腕を、喰らっていた。
「なっ!?」
「……アレは、高坂だ」
な、なんだって。そんな、アレが、あの引きちぎられてゴーマの餌になっている腕が、宏樹のものだっていうのか。
高坂宏樹は、俺の友人だ。いや、親友といってもいいかもしれない。中学一年からの付き合いで、龍一の次に、付き合いの長い友達だった。
頼りにしていた。普段でも、妙に抜けてしまうところのある俺を、いつも気遣ってフォローしてくれたりした。当然、このダンジョン攻略でも、宏樹は俺を助けてくれる。協力してくれる、頼りになる、仲間になる……はずだった。
「嘘、だろ……」
「すまない、蒼真……私の力が及ばないばかりに、高坂を、助けられなかった」
いいや、明日那が謝る必要なんてない。だって、宏樹はお前のことが好きだったんだ。
こんな沢山の敵に囲まれて、宏樹がお前を助けようとして、戦わないわけがない。チャンスだったはず。明日那にカッコいいところ見せられる、チャンスだったろう。強い男しか認めないと公言する明日那に、ようやく、初めて、アプローチできる最高の機会だ。
それが、ああ、どうして、何でだよ……こんな、無残な結末になるなんて……ありえない。あって、いいはずがない。
「悪いが蒼真、今は悲しんでいる暇はない。見ろ、ヤツは強い。騎士の天職を持つ高坂を、一撃で斬り伏せたんだ」
ゴーマは一息に宏樹の腕を飲みこむと、改めて俺を見て笑う。美味しい獲物が増えたと、喜んでいるのだろうか。
高坂は『騎士』だったのか。その能力の構成がどういったものかは分からないが、それでも、間違いなく戦闘向けであったろう。そんな高坂を一撃で。コイツはよほどパワーに優れているのか……いや、攻撃力の秘密は、ヤツが握る武器だ。
「明日那、あの刀は」
「妖刀、とでもいうべきかな。どうにも、あの刀身に赤いモヤのようなものを纏っているのは、目の錯覚ではないらしい」
ゴーマは右手に、一振りの刀を握っている。かなり長い刃渡りの、大太刀だ。明日那の言う通り、その波打つ波紋が美しい刀身からは、禍々しい真っ赤なオーラが立ち上っていた。
コイツが他のゴーマと比べて、格段に高い戦闘能力を持つのは一見して明らか。奴らを従えるボスなのだろうか。これだけの頭数が揃っていながら、ゴーマ共が一息に襲い掛かって来ないところを見ると、このボスゴーマが直々に獲物を殺すのを待っている、といったところか。
どちらにせよ、俺達はボスゴーマと、このまだまだ大量に残っているゴーマ軍団の全てを相手にするだけの覚悟が必要だ。
「蒼真、お前達が来てくれたことはありがたく思うが……それでも、厳しい戦いになるぞ。覚悟はいいか?」
覚悟、だって。それは正しく愚問というものじゃないかな、明日那。そんなのは今更、聞くまでもない。
だってこっちは――友達を、殺されたんだぞ。許せるワケが、ないだろう。
「行くぞ、明日那。宏樹の弔い合戦だ――」
一切の躊躇も恐怖もなく、俺は目の間に立ちはだかるボスゴーマへと斬りかかった。
第三章はこれで完結です。
次回の更新は金曜日になります。




