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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第16章:零下饗宴
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第249話 ドロップアウト組み(1)

「まずは装備の確認だ。みんな、今持ってるモノ全部出して」

 おらジャンプしろよ小銭ジャラジャラ言うとるやんけ、みたいな勢いで全員の持ち物チェックを開始する。

 でもまぁ、当然のことながら、わざわざ検分するほどの持ち物を持っているのは、僕だけだった。

「桃川マジでどんだけ持ち出してきてんのよ」

 宝箱の中は、昨晩に手料理を振舞ったように、飲食物や調理器具をはじめとした快適にサバイバルを過ごすための装備一式が詰め込まれてある。これは非常用としてあらかじめ準備しておいたモノ。

 蘭堂さんが感心よりも呆れの方が強そうに言っているのは、この非常用セットの他にも、色々とあるからだ。

「自分の装備は最優先で持ってくるに決まってるでしょ」

 すっかり愛用となっている『愚者の杖』をはじめ、僕の頼れる仲間たちこと、各種クラスメイトの頭蓋骨セット。

 それから、呪わしくも思い出深い『樋口のバタフライナイフ』に、地味に付き合いの長い『レッドナイフ』。

 勿論、僕が丹精込めて作り上げた『エアランチャー』とその弾薬各種。

 僕の装備は全て回収することに成功している。

 馬鹿だなぁ小鳥遊、ああいう時は念のためにターゲットの武装は先に破壊しておかないと。

「でも、流石に蘭堂さんがついてくるとは思わなかったから、リボルバーは武器庫に置きっぱなしになっちゃったよ」

「まぁ、それはしゃーないし」

 もしかしたら、という可能性に思い至ったとしも、僕は彼女の相棒である黄金リボルバーを持ち出すことはしなかっただろう。

 蘭堂さんが残った場合、愛用の武器がないと困るからね。

 あの時、レムは一階エントランスに閉じ込められた状態ではあったが、武器庫をはじめ一階フロアは自由に移動できた。武器庫には当然、他のみんなの武器もある。

 それをレムに破壊工作させたり、盗ませたりもできたけれど、僕はクラスメイトみんなを危険にさらしたいワケじゃない。

 僕が去った後も、彼らはダンジョンを進む。それも、小鳥遊という裏切者を抱えたまま。

 彼らの身の安全を考えると、装備品を失わせて戦力を低下させるワケにはいかない。

 場合によっては、それらが全て僕に向けられる凶器になるかもしれないけれど……今のみんなを危険に晒すリスクは避けたい。

「武器は僕の分しかないけど、その代わり、いい素材は色々といただいてきたから」

 僕が盗んできたのは、何もヤマタノオロチのコアだけじゃあないんだよ。

 非常用セットと並行して、装備品開発の中で作り出された数々の高品質素材を、僕はちょっとずつチョロまかしていた。これもまた、非常用の物資として。

 それに加えて、あの時には目星をつけていた素材も持てるだけ持ち出してきたのだ。

 蘭堂さんが精製できる最高光度の光鉄素材各種に、強力なモンスターのコア。委員長が精製した氷結晶もある。

「これをメインにして、後は適当な素材を集めれば、それなりの武器は作れそうだよ」

「流石桃川、マジで容赦の欠片もねーな」

 そうでしょ、初めてにしては自分でもなかなかの火事場泥棒ぶりだと思う。

「リポーションとアクセサリーも幾つかくすねてきたよ。あと、使い勝手はいいから桜ちゃんのカンテラもね」

 ズラズラと並べに並べると、ちょっとしたお店でも開けそうなラインナップである。

 僕、このダンジョンを脱出したら、雑貨屋でも開こうかな。異世界何でも屋さん的な。

「す、すげぇ……何がなんだか分かんねーけど、とにかくすげぇ……」

 僕が広げた圧倒的な物量の数々に、葉山君は驚くことしきりである。

 まぁ、この異世界に来て僅か一週間。それも森の中をモンスターのお友達とサバイバルしてきただけの葉山君には、このレベルの装備品や物資を揃える余地などあるはずもない。

 僕だってダンジョン攻略一週間の頃といえば、武器はゴーマの鹵獲品、回復は傷薬Aのみで、食事も妖精クルミがまだメインを張っていただろう。

「葉山君も、よく揃えた方だと思うよ」

「ちくしょう、こんだけのモノ見せられたら逆に恥ずかしいだろが」

 そんなことないよ。

 ゴーマのボスから鹵獲したという、鉄の槍とナイフは、錆もついておらず品質はいい状態を保っている。序盤でコレを入手できたのはラッキーだよ。

「それに、精霊憑きの道具なんて、流石は『精霊術士』だよね」

 特に注目すべきは、無限に水が出る革袋、無限に着火できるジッポライター、無限にバッテリーが持つスマホ、とそれぞれ精霊が宿ることで無限の使用を可能としている道具だ。

 どれも元々はごく普通の道具に過ぎなかったが、まず間違いなく『精霊術士』である葉山君が使っているからこそ、精霊が宿りマジックアイテムと化したのだ。

 桜ちゃんのカンテラのように、本来ならその天職に見合った錬成スキルを駆使して、マジックアイテムの製作が可能となるのだと思われるが……葉山君が精霊を従える能力はなかなかに高いのかもしれない。

「つっても、別に俺が作ろうと思ってできたワケじゃねーしな。みんないつの間にか、勝手に住み着いただけだし」

「近いうちに葉山君も錬成スキル習得できるかどうか試してみようよ。まずは『簡易錬成陣』からね」

「お、おう」

「葉山、覚悟しとけ。桃川はこういうのスパルタだぞ」

 そんなぁ、あんなに懇切丁寧かつ実践的に錬成を教えてあげたのに。お金とれるレベルの指導だと自負しているんだけど。

「それじゃあ、ひとまずはここを拠点にして準備を進めよう」

 現状、蘭堂さんは手ぶらだし、葉山君の装備もダンジョン攻略を進める上では貧弱だ。それに、クマのキナコもいるので相応に食い扶持も増えている。

「まずは、手持ちの食料も心もとないから、狩りから始めることにしようか」




 呪術師、土魔術師、精霊術士、と前衛不在の恐ろしく不安なメンバー構成が、僕の新パーティとなる。

 僕もこれまで色々なパーティ組んできたけれど、不安感で言えば歴代2位を争うだろう。

 僕的に最悪のパーティ編成不動の1位は、樋口の時だ。僕単独の上に樋口というボスがいて、さらにはレイナもいるという、今にして思うと凄まじい極悪パーティだったよね。

 2位は因縁の付き始めとなる蒼真ハーレムパーティか、密林塔のレイナ逆ハーレムパーティだろう。ハーレムと名の付くパーティにロクなもんがねぇな。どちらも甲乙つけがたい。

 蒼真ハーレムパーティの時は、メイちゃんが一緒だったし、レイナの時はヤマジュン協力の元で、上中下トリオも山田も僕へと協力的になってくれた。味方がいるという点で、樋口の時よりは遥かにマシなのだ。

 今回の新パーティは、単純に戦力的に不安というだけで、味方に不和が特にないのは大きなメリットである。

 思えば、僕らはそれぞれの理由ではぐれ者となっている。僕は裏切りに合い、蘭堂さんはそんな裏切り者の僕についてきた。葉山君は最後に教室から出たせいで、みんなと大きく時間がズレてはぐれた状態に。

 さらに言えば、葉山君の相棒キナコも、ボス争いに負けて群れを追い出されているし、赤犬のベニヲも負傷したせいで群れに見捨てられている。

 使い魔に至るまで、メンバー全員見事にはぐれ者。本来あるべき居場所にはいられなくなった、いわばドロップアウト組みとでも言うべきか。

 そう考えると、なかなかにアウトローな集団になったような気もする。このまま盗賊団でも結成する?

 ともかく、事情はどうあれ今は一緒になったので、このまま仲良くやっていければいいなと、今のところ能天気に考えている。

「なぁおい桃川、あの子ホントに大丈夫なのかよ?」

 肉を求めて歩き始めて早々、葉山君がコソっと耳打ちしてくる。

 視線の先には、メンバーの中で唯一優れた体格とパワーを誇るキナコのすぐ隣を、チョコチョコと歩く幼女レムの姿がある。

 使い魔同士、仲良くしてくれればいいなと僕は思っているのだけれど、葉山君は何をそんなに心配しているのだろうか。

「あんな前にいたら、戦いになったら危ねぇだろ」

「いや、レムは前衛として働いてもらわないと」

 メンバー全員が魔術師クラスで構成された新パーティでは、前衛役を使い魔に頼るより他はない。葉山君はキナコを、僕はレムを、それぞれ前に立たせるのが最善の配置だ。

「無理だろあんなチビっ子に」

「どの道、レムが前衛張れなくなったら僕らはお終いだから」

 またしてもメイちゃんとお別れしてしまったこの現状でも、僕がまだ平静を保てているのはレムがいるからだ。レムさえいれば、僕の護衛能力は実戦レベルで保障される。

 貧弱な呪術師が堂々と活躍するには、何を置いても頼れる前衛が必須なのだ。

 そういうワケで、すっかり小さくなったレムの背中を、僕は満幅の信頼を寄せて見つめるのだった。

「スンスン……プグゥ!」

 森の中を、ちょこちょこ採取しながら進んでいると、キナコが吠えた。

 鼻を鳴らしながら、熊なのにウサ耳みたいな長い耳をピーンと立てて、周囲を鋭い目つきで見渡す。

「グルゥ、プガガ!」

「マジかよ、キナコ。おい桃川、なんか魔物の群れっぽいのが近づいてきてるらしいぞ」

「それって逃げられそう?」

「キナコ、どうなんだ!」

「プガァ!」

「すぐそこまで来てるってよ。やるしかねぇぞ!」

「了解、それじゃあ戦闘態勢だ。蘭堂さん、前と後ろに壁一枚ずつお願い」

「おっけー」

 蘭堂さんはさっと手を翳せば、すぐにボコボコと分厚い土の壁が隆起する。

「おわぁ!?」

 いきなり出てきた壁に葉山君が実に初見らしいリアクションしているけれど、僕はヤマタノオロチの陣地構築で毎日見た光景だからね。

 ともかく、僕らは打たれ弱い魔術師クラスなので、こういう隠れられる壁がある方が安全だ。ゴーマ相手でも、流れ矢の一本で即死しかねないからね。

 ここの森ではそこまで強力な奴らが群れで現れるってことはないと思うけど、さて、何が出てくるか。

 僕は『呪術師の髑髏』を填めた愚者の杖と、グレネードを装填したエアランチャーを片手に、壁に隠れながら敵の到来を待つ。


 ————ブゥウウンン


 耳障りな羽音が、静かな森の中に響く。

 この羽音には聞き覚えがある。コイツは確か、

「ナイトマンティスか。それなら、群れの正体はアリ共だな」

 虫の洞窟以来である。久しぶりだなぁ、などと思っていると、奴らはついに姿を現した。


 キシキシキシ!


 先頭を飛ぶナイトマンティスと、それに随伴するポーンアントの群れ。案の定の構成だが、ちっ、カマキリの奴、二体いやがる。

「蘭堂さん、カマキリ!」

「よっしゃ、行けぇーっ、『破岩長槍テラ・フォルティスサギタ』ぁ!」

 まずは開幕ぶっぱ。蘭堂さんの上級攻撃魔法がドォン! と音を立てて撃ち出される。

 まさに大砲と言うべき大質量の岩の円柱が、高速で射出され————次の瞬間には、ナイトマンティスの体が弾け飛んだ。

 おまけとばかりに、貫通した砲弾が後続のアリを巻き込んで砕け散る。

 うん、流石にオーバーキルだったな。中級攻撃魔法で十分だった。

「は? なんだよ今の……蘭堂、お前……」

「んあぁー、やっぱ黄金銃ないと上級は疲れるわぁー」

 圧倒的な攻撃力を前に戦慄の表情の葉山君と、しみじみとため息つきながら肩をグルグル回す蘭堂さん。なんかそうやってると、おっぱい大きすぎて肩凝ってますみたいな動きに見えて、もうそれだけでエロい。

 じゃなくて、今はレムの雄姿を見届けなくては。

「レム、もう片方のカマキリは頼んだよ」

 こっちを振り返ったレムは、こっくりと小さく頷いてから、目前に迫り来ているカマキリに向かって、自ら一歩を踏み出す。

 その踏み込んだ足元、自ら作り出す影が、膨れ上がるように大きく広がった。

 レムが二歩目を踏んだ時には、影は形を成して蠢き、間欠泉のように吹き上がっては、その小さな体を飲み込む。

 そして、纏わりつく影を振り払うように三歩目を踏んで突き進んできた時には、もうそこに真っ白い幼女の姿はなく、黒々とした巨躯が現れた。

「グガァアアアアアアアアッ!」

 雄たけびを上げて、レムは黒騎士の姿と化す。

 蒼真君にぶった切られた兜も再生しており、右手には大剣、左手には大盾を携え、無傷の完全武装状態だ。

「これまで獲得した姿への変身……それが影人形の能力だ」

「すげぇ、変身!? 変身したぞオイ!」

 僕もいざその変身を目の当たりにすると、葉山君同様、ちょっと興奮してしまう。

 しかし、喜んでばかりもいられない。

 変身と言うが、中には幼女レムがそのまま入っている。

 正直なところ、幼女レムがやられるとどうなるのか、僕にも分からない。泥人形時代のように、普通に復活できるのかもしれないし、そうじゃないかもしれない……イマイチ確信が持てないので、影人形の本体、あるいは核、となっていると思われる幼女レムは傷つかないようにしていきたい。

 でも今は前衛張れるのがレムしかいないので、カマキリともタイマン張ってもらう。

「行け、レム! カマキリの刃じゃ鎧は切れない、ガンガン攻めろ!」

 ナイトマンティスとは戦闘経験があるから、どの程度の威力かは分かっている。奴の刃にリビングアーマーの装甲を切断するほどの切れ味はない。傷くらいはつくだろうけど。

 だが生身で相手するには、その素早い連続斬撃は脅威的。そんな奴を、あの頃はメイちゃんが一体を、桜ちゃん達が全員でもう一体を、という不公平な分担をしたワケだ。

 それでも、当時のメイちゃんは約30秒でナイトマンティスを始末して剣崎をドン引きさせたものだが……

「グガァ!」

 迫り来る二振りの大鎌をものともせず、力強い斬撃を叩き込む黒騎士。

 相手の攻撃は通らない。こちらの攻撃は一撃で脚を切り飛ばし、胴をひしゃげるほどの威力を誇る。

 勝負は最初からついていて、闘争本能しか詰まってないようなカマキリの頭では、スペック通りの衝突結果を迎えるのみ。

「10秒もかからなかったな」

 あっという間にナイトマンティスを切り伏せたレムは、雄たけびを上げて残党狩りを始めている。

 前衛は黒騎士レムに、キナコもアリ程度には全く力負けすることなく圧倒できている。小さい赤犬のベニヲも、元気に駆け回ってはオルトロス並みの火炎放射を吐いてアリを焼き払っていた。

 それに加えて、ライフルとショットガンを同時撃ちみたいな威力の遠距離攻撃が可能な蘭堂さんに、僕だって『ポワゾン』一発でアリは即死させられる。

 前衛も後衛も十分すぎる攻撃力があるので、十数匹のポーンアントなど、一方的に片づけることができた。

 正に完全勝利である。

「よし、カマキリのコアだけ回収しとこう。レム、蘭堂さん手伝ってー」

「はい、あるじ」

「ほーい、ってレムちんがいつの間にか戻ってる!」

 今の目的は食料入手のための狩りだから、さっさと剥ぎ取りを終わらせて出発しよう。

 流石に蘭堂さんも長い学園塔生活の中で、コアの剥ぎ取りくらいは普通にするようになっているし、レムに至ってはスケルトン時代から行っているのでエキスパートと言ってもよい。

 そんな経験豊富な二人が、僕の呼びかけに応じてすぐに駆け寄ってきてくれるのだが、その後ろで虚しく立ち尽くす男が一人。

「やべぇ……俺なんもしてねぇ……」

 割と深刻な表情でそんなことを呟いている葉山君。

 うん、それね、早くなんとかしてあげた方がいいかなぁ。

 とりあえず葉山君の戦力外問題は、今回の収穫次第ということで。

 2020年6月19日


 ようやく、活動報告を更新できました。第10章から第15章まで長々と、間違いなくこれまでで最長の長さで語っておりますので、是非とも私の苦労の結晶をご覧いただければ幸いです!

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― 新着の感想 ―
変身能力獲得でやったねレムちん。 まだ未完って話だったし、これからも〇号機レムボディ作って変身レパートリと頭数増やせるよね? 自分の装備だけ持ち出して、他のクラスメートの装備に何もしてないことの意味を…
[一言] 良し来た変身幼女だ、これで無敵だゼィ てか、今頃思ったけど、アラクネさんはいるんだよね? でもまぁ、魔術師だけやけど仲間がいるってのはいいなぁ、安心感が違うョ まぁ、リライト君はこれからだよ…
[一言] レイナに変身できれば持ってる霊獣を渡せるかな?
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