第240話 選ばれし三人
ヤマタノオロチは無事に討伐された。
僕が最後に放った、いわば即死呪術と呼んでも過言ではない『告死の妖精蝶』によって、見事、コアは真っ二つに割れた。
即死とかチート級の威力だけれど、そもそもが『生命の雫』使い捨てになるので、これからもあまり頼れる技ではないだろう。手持ちに『生命の雫』級の超回復アイテムがなければ、手札にすらならない。
ともかく、ヤマタノオロチが討ち果たされたことで、ついに次のエリアへと続く転移魔法陣が解放された。
ヤマタノオロチは倒れた後、切り落とした首と同じように、その巨躯の大部分が魔力となって消え去った。
点々と鱗や甲殻、骨の一部などが残った程度である。
勿論、それらは貴重なレイドボス素材として回収させてもらうのだけれど、戦利品の話は置いておいて、転移魔法陣についてである。
「やっぱり、ここは元々、普通のボス部屋だったみたいだね」
「ああ、そのようだな」
ヤマタノオロチが消えたことで、その肉体があった岩山の地下は巨大な空洞となった。八つの首が出入りしていた洞窟を潜り抜けると、その岩山の地下空間へと入れる。
もっとも、最終形態で岩山が真っ二つに割れている状態なので、上を向けば空が見えるけれど。
で、そんなオロチ本体が引き籠っていた空間には、実に見覚えのある石造りの壁と床が、半ば以上崩れながらも、確かにその形を残していた。
空間の中央はこれまで通って来たお馴染みのダンジョンと同じような石畳で、しっかりと転移魔法陣が刻み込まれている。
「小鳥遊さん、どう、転移使えそう?」
「うん、ちゃんとコアに反応しているから、いつも通りに転移は発動するよ」
「それは良かった。もしかしたら、転移魔法陣そのものがダメになっている可能性もあったからな」
良かったよー、と小鳥遊は蒼真君の周りをチョロチョロしながら笑っている。
「それじゃあ、素材を回収次第、学園塔に戻ろうか」
「転移しなくていいのか?」
「えっ、蒼真君このまま行く気なの? 正気?」
戦闘は終わったばかりだ。
死者こそいないものの、上田と中井とか、治療が必要なレベルでの負傷者は多い。
「いや、休息するなら別に転移先の妖精広場でも」
まぁ、確かに僕らは、今までボス倒したらそのまま転移に直行だったけど……学園塔にはどれだけの物資を集めていると思ってるのさ?
「転移は準備が整うまでしないよ。次のエリアで、食料が調達できるとも限らないしね」
「それもそうか」
「あと、メイちゃんには先に戻ってもらって、祝勝会の準備もしてもらっているし」
「お前、これだけの激闘をした後に、双葉さんに料理させてるのか」
「僕なんてトドメ刺したMVPなのに、転移魔法の調査に素材回収と休む暇もなく仕事してるんですけど」
「分かった、俺が悪かったよ。お前の好きにしてくれ」
口の減らない奴だ、と大袈裟に溜息をつく蒼真君である。
「まさかヤマタノオロチが一瞬でリポップするとは思えないけれど、一応、監視は残しておくから」
「分かった、その上で、次のエリア攻略のための準備を整えてから出発しよう」
祝勝会の開催は、翌日とした。
メイちゃんも気合いを入れて仕込みをしているので、流石に今日の夜には出せない。
オロチ素材も回収し、僕ら全員が学園塔に戻った頃は、すでに陽が落ち始めていた。
長い戦いの上に、ピンチの連続だったので、みんなの疲労感は相当なものだけど――僕は夕食後、大事な話を切り出すことにした。
「今日は本当にお疲れ様。みんな疲れていると思うけど、どうしても聞いて欲しい話がある」
真面目な顔で僕がちょっと久しぶりの学級会の開催を宣言する。
天道君でさえ「俺は寝るぜ」と勝手に去らないので、全員の承認は得られたも同然だ。
前置きはなく、僕は単刀直入に言う。
「最深部にあるという脱出用の『天送門』。これで脱出してもらう3人の候補を決めた」
「桃川、それは――」
ある意味、アンタッチャブルな話題だ。これまでの学園塔生活で、誰もがこのことについて言及はしなかった。
誰だって分かっている。これを言い出せば、必ず争いごとになると。
だが、このまま進むにあたって、決して避けてはいけない問題でもあるのだ。
明確な方針を示さないまま放置していれば、最深部に近づくにつれて、3人の脱出枠というのは無視できない誘惑と化す。最後の最後で、自分がこれに滑り込めれば、無事にこんなダンジョンから抜け出せるのだ。
それと同時に、いつ誰が裏切るか、なんて疑心暗鬼にもなるだろう。
僕なんて裏切り候補筆頭だよね。
「桃川君、私たちは全員で脱出すると決めたはずよね」
「そ、そうだべ! それを言っちゃあ……戦争、だろうが……」
「まぁ、落ち着いてよ。全員脱出の方針は前提とした上で、僕は3人の脱出も利用するべきだと思っている」
しばらくザワザワするけれど、僕はみんなが落ち着くのを待つ。
ヤマタノオロチ討伐を乗り越えた今なら、みんなにも僕の案を聞き入れてくれる余地がある。いや、実際に僕の作戦通り、とはいかなかったけど、倒した成果をもって、信頼に繋がっている。
だから、話すなら今なのだ。
「分かった、お前の話を聞こう、桃川」
「そうね、まずは桃川君の提案を聞いてから、それから判断しましょう」
蒼真君と委員長の呼びかけに応じて、みんなもようやく静まってくる。
はい、みんなが静かになるまで、5分かかりましたー、なんて全校集会ネタを挟むのは我慢しておこう。
「さっきも言ったけど、僕らが全員でダンジョンを脱出するのを目指す、これは変わらない。そして、当初の予定では、全員が転移で脱出できる方法を探る、というつもりだったよね」
まぁ、これもはっきりと決めていたことではないんだけどね。蒼真君あたりが、こういうことを言っていたと思う。
そうでなくても、全員で脱出できる手段を模索する、という方針はみんなに伝わっていたと思う。
「けれど現実的に考えて、全員が転移魔法陣で脱出できない可能性も十分にある」
というか、できないだろう。
わざわざ3人だけ、という前提ルールが提示されているのだ。
ならば、それはルールを提示する側の奴らには3人だけだという確信があってのこと。
あるいは、ダンジョンの難易度を変化させている管理権限を持つ者が、それしか許さないよう設定している。
恐らく、脱出枠3人の人数拡大に、僕らが付け入る隙はないと思う。
あったとしても、それを突けそうな能力を持つのは『賢者』小鳥遊だけ。コイツ一人に僕含めクラスみんなの命運を全賭けなんて、絶対に御免だね。
「だから、徒歩でダンジョンから脱出する計画を立てたい」
僕はこの学園塔生活を通じて、僕らならこの世界のどこに出て行っても、進んで行けるという自信を得た。
実際に、学園塔にはしばらく食うに困らないだけの食料は集まっているし、衣服も足りているし、素材さえあれば装備品だって更新できる。
ぺんぺん草の一本さえ生えない不毛の地でもなければ、僕らは大丈夫だ。
「僕らのほとんどは歩いてダンジョンから、人里まで向かう。その一方で、確実にアストリア王国とやらに脱出できる3人には、僕らを探してもらうんだ」
最初に届いたメール情報に、はっきりと明記されている。
ダンジョンの最深部にあるのは『天送門』という転移魔法陣であること。
そして、転移先はアストリア王国にある王都シグルーン、その神殿だと。
王国に王都と名乗るくらいだから、寂れた農村みたいな場所ではないだろう。それなり以上の人口を擁する、立派な人間の国家だと推測できる。
なおかつ、僕らが召喚されるタイミングでメッセージを伝えることができるほど、魔法の技術も持っている。
僕らが今習得している、魔術士クラスの天職の魔法能力を考えると、ああいう効果はかなり高度で特殊な術式だと推測できる。そういった進んだ魔法技術を持っているのなら、文明の方もまるっきり中世ヨーロッパレベルってこともないだろう。一部では、現代の地球を越える技術力を有していてもおかしくない。
つまり、そこそこ進んだ魔法文明国家と期待されるアストリア王国ならば、どことも知れない僕らを探しに行けるだけの手段なりも得られる可能性は十分にある。
「この異世界が地球と同じ程度の惑星と仮定するなら、星空や環境から、今僕らがいるこの地域をおおまかに特定することはできるはずだ」
ダンジョンの外に出たあの密林塔では、見ての通りのジャングルだった。
つまり、温暖湿潤な亜熱帯気候の地域に限定される。
針葉樹林が生い茂る寒冷な地域を探索する必要はないわけだ。
その上で、ここから見える星空から、緯度まで割り出せれば、範囲はかなり絞り込めそうだ。
「おおー、桃川、頭いいな」
ありがとう蘭堂さん。でも蘭堂さんに言われると、あんまり褒められた気がしないって言ったら失礼かな。
「脱出するまでに、このダンジョンが存在する場所を特定するヒントになるようなモノも、なるべく集めておきたいね」
それこそ、特徴的な植物なんかがあれば、一発で地域が特定できるかもしれない。そこにしか生えない花、なんかがピンポイントでヒットすればいい。
「ゴーマはどこにでもいそうだけど、ワイバーン型のドラゴンが空を飛んで、雷を吐くティラノサウスルがいて、ジャージャやロイロプスがいる、とモンスターの生息域でも場所を特定するヒントになるはずだ」
とにかく、ダンジョンのある場所を特定できる情報をできるだけ集めておく。
植生、生息モンスター、他にはダンジョンの遺跡の造りそのものもヒントになるだろう。この石造りの建築様式が、ここにしかないタイプという可能性もある。
幸い、僕らにはスマホという文明の利器が復活している。
容量イッパイまで、特定ヒントとなるような写真を撮りまくろうじゃないか。
「このダンジョンの場所さえ特定できれば、あとは救出に向かってくれればいい」
「なるほど……確かに、外部からの救助が期待できるなら、徒歩での脱出も可能性はずっと上がるわね」
「そうだな。ただ闇雲に外を歩くよりは、希望が持てる」
クラスメイトの反応は上々。
ただ全員で出て行くよりも、3人の救出部隊が結成できるとなれば、俄然、脱出枠への見方も変わってくる。
「なぁ、それじゃあ、その3人は誰にするんだべ?」
「適当に決めたら揉めるぞー」
「下手に立候補しても恨まれるパターンじゃん?」
ジュリマリの言う通り。3人の選抜は重要だ。
「これはみんなでよく相談して決めるべきことだと思うよ。でも、僕は最適だと思う3人を決めている」
「……それは、誰なんだ」
意を決したように、蒼真君が聞いてくる。みんなも、固唾を飲んで僕の発表を待っているようだ。
「まず一人目は、天道君」
うーん、と何とも言えないざわめきが起こる。
まぁ、天道君に面と向かって「お前だけズリーぞ!」とケチつけられる人もいないからね。
「天道君を選んだ一番の理由は、戦力だよ。アストリア王国が、安全とは限らないからね」
ダンジョンでなくても、人間社会というのも、十分警戒するに足る環境だ。
悪い奴は、どこにだっている。どれだけ高い志を持っていても、悪意ある第三者に害されればお終いだ。
まだ顔も見たことのない異世界人。同じ人間であっても、いいや、同じ人間だからこそ、最大限に警戒するべき存在だ。まさか異世界の国家に、日本並みの治安を期待するのは無理がありすぎる。
「確かに、龍一がいれば大抵の荒事はどうとでもなるか」
「いいのかよ、桃川。所詮、俺は不良だぜ? そのナントカ王国で、お行儀よく過ごせる保証はねーぞ」
「僕は天道君のこと、信じてるから。天道君なら必ず、親友を救うためならどんな手を使ってでも、必ず駆けつけてくれるって」
良く言えば親友の絆。
悪く言えば、人質である。
「ちっ、桃川、テメぇ……」
「そう睨まないでよ。天道君だって、自分だけ外に出れればそれで満足、なんて思わないでしょ?」
僕の二人の絆を利用するような人選に、天道君はなかなかマジなガンを飛ばしてくれるけど、僕だって本気で考えた末に選んでいるんだ。退く気はないよ。
「ふん、まぁいい。それで、二人目は誰だ? お前のことだ、大方の予想はつくがな」
「流石、天道君、分かるんだ」
「桜だろ」
大当たり。
「ええっ、わ、私ですか!?」
「そうだよ、二人目は桜ちゃんだ」
まさか自分が選ばれるとは、といったリアクションだけど、何で選ばれないと桜ちゃんは思ったんだろう。
合法的にメンバー除外できる絶好の機会だよ。二年七組最大の問題児であるお前を追放できるこのチャンス、逃す手はないだろうが。
「理由としては天道君と同じ、桜ちゃんなら死にもの狂いで僕らを探してくれるからね」
この理由も嘘ではない。
そもそも、桜ちゃんは天職『聖女』な上に、才色兼備の完璧美少女だ。
今ではすっかり僕を目の敵にする要注意人物でしかないけれど、学園生活時代ではそうだったのだ。
そんなハイスペックな人物であり、かつ、蒼真悠斗という愛する兄貴がこちら側にいれば、どんな苦難があろうとも必ず救助を成し遂げる、強烈なモチベーションがある。
脱出できる3人の救助隊に求められるのは、安全圏に逃れても救出を諦めないことだ。
僕らを探す、と言うのは簡単だけれど、ヤル気を持続させて実際に行動し続けることは難しいだろう。まずアストリア王国という異世界国家での生活に慣れるところから始まるワケだし。
予測できない困難、トラブルも多々発生するだろう。
そんな中でも初志貫徹して、必ず助けに来てくれるだろうと、それだけの強い動機を持つ人物こそが望ましい。
その点で言えば、天道君は自分のプライドに賭けて、桜ちゃんは愛に賭けて、必ず蒼真君の元までやって来る。
これに匹敵するモチベーションを持ち得るのは、僕と別れたメイちゃんくらいだろう。
メイちゃんは送らないけどね。離れる気はないよ。
「しかし、私は……」
「桜、引き受けてくれないか」
「兄さん!」
「みんなにはズルい、と思われるかもしれないけれど……正直、桜が選ばれて、俺は安心してしまった」
蒼真君は皆に向かって、済まない、と頭を下げている。
その身勝手ながらも、真摯な姿勢に誰も批判の言葉は投げつけなかった。
「桜を脱出させること、どうか認めて欲しい。その代り、俺は命に代えてもみんなを守り抜く」
もし、これで僕が三人目は蒼真君だから、って言ったらどうなるんだろう。
ちょっと言ってみたい気もするけど、ふざけすぎると斬られそうだし、我慢しとこう。
「ま、まぁ、そこまで蒼真が言うんなら、いいんじゃねーの?」
「そうだな」
「そうだべ」
上中下トリオを筆頭に、仕方ないな、という方向性で許容する空気になる。
「僕からもお願いするよ。この二人の人選が確実だと思っているし、蒼真君には長い脱出行をするにあたって、みんなを守る要になるからね」
「私も賛成するわ」
「わ、私も!」
「蒼真が残ってくれるなら、安心だろう。反対はしない」
「うん、小鳥もいいと思うよ」
蒼真ハーレムメンバーも、次々と支持を表明している。
うんうん、君らは桜ちゃんというウザいライバルがいなくなるから、都合がいいよね。
「桃川、なんかニヤニヤしてない?」
「いやぁ、みんなの理解が得られて、僕は嬉しいなぁ」
それだけのことだよ、蘭堂さん。決して、思惑通りに運んでいることを喜んでいるワケではないんだよ。
「それじゃあ、二人目は桜で決まりだとして……最後の三人目は誰にするのかしら」
「下川君」
「下川ぁ!」
「テメーこの裏切り者!」
「ちょ、ちょっと待て、俺なんも悪くねーべや!?」
おっと、早速、上田と中井から攻撃されているぞ。ホント、仲良いよね君ら。
「おい、下川かよ」
「大丈夫なのかよアイツで」
ジュリマリも露骨に不満げな顔をしている。
「し、下川君が行くくらいなら、私にしてよ桃川君……」
姫野に至っては恨めしそうに僕を睨んでくる始末。
下川の人望のなさが浮き彫りに。
「まぁまぁ、みんな落ち着いて。不満があるのはよく分るよ」
「俺が選ばれんのは不満出て当然かよ!? そこはフォローしろよ桃川ぁ!」
「下川君も落ち着いて。これからちゃんとフォローしてあげるから」
「桃川、まさか三人目はくじ引きで選んだとかじゃないよな?」
「蘭堂さんはちょっと黙ってて」
いい加減、下川をディスり続けるのも可哀想だろう。
「みんなはあまり実感できないかもしれないけれど、下川君はしっかり狩猟部隊の隊長をやり遂げてくれたよ。彼はとても強力な魔法を使えるワケじゃないけれど、だからこそ、常に慎重な判断ができる」
天道君と桜ちゃんのコンビで一番心配なのは、暴走することだ。
天道君はもし、王国の治安を維持する騎士が、ギャング映画に登場するような腐りきった汚職警官みたいなクソヤロウで、それで絡まれたら喧嘩は買うし、国家権力上等とフルボッコにするまで止まらないだろう。
桜ちゃんも、遠く離れた愛する兄貴を一刻でも早く救うために、それこそ手段は選ばないだろうし、邪魔する者は許さないだろう。
そうなると、悪意のある者が襲ってこなくても、二人の方から敵を作っていくパターンに入ってしまう。
「下川君が一緒にいれば、常に警戒してくれるし、大きな下手は打たないと思うんだ」
「うーん、そうかぁ?」
「大丈夫かよ下川で」
「おい、折角褒められてるんだから信用してくれてもいいべ!」
下川は脱出枠に選ばれたのを幸運だと思ってるみたいだけど……君が脱出後に手綱を握らなきゃいけないのは、天道君と桜ちゃんだよ? その苦労を分かっているのかな。
「それに、下川君が救出部隊の人選に適していることに加えて、他のみんなは、こっちに残って脱出する時には必要な人材にもなるんだ」
みんなをまとめる委員長。防衛戦力の要であり、みんなの希望となれる蒼真君。
美味しい食事はメイちゃんがいないと作れないし、小鳥遊がいなければ装備の維持更新もままならない。
それに、たとえ特殊な技能がなくても、剣士や戦士などの前衛職というだけで、体力に優れているのだ。長い脱出行をするなら、それは十分すぎるアドバンテージである。
「だから、この編成が全員で脱出するのに最善だと、僕は思っている」
「……確かに、桃川の言うことに一理はあると思うが、やはり、いざ三人だけで送り出すとなると、不安だな」
「そうね。一度離れてしまったら、スマホで連絡とることもできないでしょうし」
そうだよね。小鳥遊スマホは『電波が届くから繋がる』という非現実的アホ理論によって確立されているので、あまり遠くに離れると通話が不可能になる。
すでに、学園塔からかけると、転移で無人島エリアなどに飛んだ人には届かないからね。
それに蒼真君の言うように、この三人組みだけで不安という気持ちも、よく分かるよ。
他のみんなも、ザワザワしながら、納得よりも不安感の方が強そうだ。
「みんな安心してよ。ちゃんと僕が四人目として、ついていくからさ」
僕はすでに、『双影』の分身だけを転移魔法陣で飛ばして活動させている。
ということは、どれだけ離れていても『双影』の呪術的な繋がりは断ち切られていない、ということの証明でもあろう。
だから、僕の分身も一緒に『天送門』で送れるはずだ。
なぜなら、分身の僕は人間ではないから。魔法みたいなモノだと認識されるだろう。
転移魔法陣は、未来の殺人マシーンを過去に送り込むように、裸の生身でしか送れない、という仕様ではない。装備品含めて手持ちのモノは全て送れる上に、レムのような存在も一緒に転移できるのだ。
だから分身の僕が問題なく送れる可能性は十二分にある。
そして『双影』がアストリア王国側にいれば、僕自身はリアルタイムで向こうの状況を知ることができる。
今の僕は分身と同時に日常動作くらいは問題なく動けるようになっている。戦闘でもしなければ、三人に同行しながら、見聞きして口を挟むことは幾らでもできるワケだ。
実質、送れないはずの四人目を送り込むという裏ワザであると同時に、お互いの状況も逐一チェックできる情報通信も確立できるという……やはり『双影』は神呪術だな。
「なるほど……まぁ、桃川がいるなら」
「そうね、桃川君が一緒なら安心するわ」
「なんだ、桃川いるなら大丈夫じゃん」
「ちょ、ちょっと待ってください、桃川も一緒なんて私は嫌です――」
「諦めろや、桜。アイツは這ってでも俺らにくっついてくるぞ」
僕が向こうにも行けることが伝わって、クラスのみんなはおおむね納得してくれたようだ。
「ね、小太郎くん。ちゃんとみんな、分かってくれたでしょ?」
「そうだね、メイちゃん」
決戦前夜、この案が受け入れられるかどうかメイちゃんにだけ先に打ち明けて相談したけど、絶対大丈夫だよ、と太鼓判を押してくれたから、僕も言い出す決心がついた。
本当にみんなが理解と納得を示してくれて、僕は嬉しいよ。
さて、これで明日の祝勝会も、心置きなく楽しめるぞ!




