表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第15章:ヤマタノオロチ討伐戦
237/521

第232話 ヤマタノオロチ討伐戦・第三段階

 岩山への突入ルートは、度重なる僕の分身特攻によって確立されている。

 分身とレムスペアだけでも岩山まで辿り着くことができるので、この面子で足止め喰らうことはまずない。

「おらー、落ちろー」

「『光矢ルクス・サギタ』」

 霧に紛れて、フラっと現れるガーゴイルは大抵、蘭堂さんか桜ちゃんが一発撃って排除してくれる。いいよね、雑魚を一撃で倒せる遠距離攻撃持ちは。

「へっ、俺だってこの杖がありゃあ、ガーゴイルなんて一撃だべ――『水矢アクア・サギタ』」

 そうそう、地味に下川も迎撃に役立っている。

 残念ながら攻撃魔法の方はあまり威力が高いとはいえない水属性魔法だが、ついに手に入れた水魔法用の杖を振るえば、ガーゴイルを下級攻撃魔法一発で倒せるほどの威力が得られる。


『ケルピーロッド』:運よく泉で釣り上げたケルピーで作った長杖。水属性魔力を操る器官であるケルピーの角をメインにして、骨や皮なども使って全体の魔力伝導率を上げたりしている。下川待望の水属性魔法杖だ。


 素材の味を丸ごと活かしているので、先端にあるケルピーの角先に、テニスボールサイズの水球が形成されると、そこからレーザーのように一直線となって高圧の水流が放たれる。

 霧の向こうから飛来してきたガーゴイルの胸を貫き、そのままさらに薙ぎ払うと翼を切り裂き撃墜する。

 固い石の表皮を持つガーゴイルの胴体は貫通できるが、切り裂くまではできない。でも翼くらい薄い部位になると、切断までできるようだ。

 ガーゴイルは別にトドメを刺してもあまり意味はないので、厄介な飛行能力さえ奪えればそれで十分だ。

 魔術士クラス三人による対空迎撃により、僕らは一度も足を止めることなく岩山まで辿り着くことができた。

 ちなみに二列縦隊で、配置は以下の通り。

 先頭、下川・黒騎士。二番目、蘭堂・山田。三番目、アルファ騎乗の僕、メイちゃん。四番目、アラクネ。殿は桜・ミノタウルス。

 桜ちゃんは護衛役がミノタウルスなの凄い嫌そうな顔してたけど、いざって時に殿で捨て駒になっても敵を食い止める役目ができるのは、幾らでも替えの利くレムだけだ。メイちゃんと山田には、そんな真似はさせられないからね。

「ここからは、地上からもガーゴイルが走って来るかもしれないから、注意してね」

「うん、分かったよ」

「ようやく俺にも仕事ができるな」

 魔術士三人だけで敵の抑えは十分だったけど、ここからはメイちゃんや山田などの前衛にも出番があるだろう。

 あきらかに傾斜のつき始めた地面を踏みしめて、いよいよ岩山登山開始だ。

 ガーゴイルが巣食う敵陣であり、奴らが襲ってくる数もここからは一気に跳ね上がる。

「ちっ、コイツら見えてんのか? 襲ってくる数が増えてるべ!」

 奇声を上げて飛び掛かって来たガーゴイル二体をまとめて水圧カッターで切り裂きながら、下川はちょっと焦った声で言っている。

「いや、これでも普段よりはかなり数が減ってるから。目くらましの効果は十分に発揮されてるよ」

「マジか、これでもかよ……」

「グガーッ!」

 黒騎士レムが、大剣で地を這うように四足歩行で急接近してきたガーゴイルをまとめて薙ぎ払う。そうそう、コイツら四足で走るのが一番速いんだよね。猿みたいな挙動だ。

 今みたいに、前衛組みにもちらほらとガーゴイルを斬り飛ばす機会が増えてきた。

 周囲一帯は下川の霧が立ち込めて何も見えないが、それでも着実にガーゴイルの密度が上がって来ているのを実感する。

「桃川ぁー、まだー?」

「山頂まではもう少しだ」

 ちょっと息が上がって来た蘭堂さんが愚痴る。彼女の方をアルファに乗せればよかったか。

「道はホントにこれであってんだべか」

「目印は見失ってないから、大丈夫。このまま進んで」

 岩山に乗り込んでから、迷わず最短で頂上を目指せるよう、ちゃんとマーキングも施している。

 僕はかつて、山のような超大型モンスターを討伐する大規模クエストで、勇んで乗り込んだはいいが道に迷って右往左往し、結局ロクに活躍できなかった苦い経験がある。特殊な道順のクエストのくせに、マトモにガイドビーコンが機能してないのは開発の怠慢だと思うんだよね。

 別に僕は酷い方向音痴でもないけど、かといって特別に方向感覚や直感に優れているワケでもない。慣れない地形、似たような風景、そんな場所を歩けば道にだって迷う。

 このヤマタノオロチの岩山は、正にそんなところである。

 単純に上を目指すといっても、場所によっては断崖絶壁で登れないような箇所もあるし、特に大きな石の大樹が立ってガーゴイル密度ヤバいところなんかもある。

 なので、特攻偵察でそういう地点を回避しつつ、最短ルートで目標地点へ到達できるように、しっかりと目印はつけておいたのだ。いやぁ、ガーゴイルが押し寄せレム達が次々と倒れる中で、ペンキで目印書き込む作業はなかなかスリリングだったよね。

 あ、ここは分身の僕が下半身を食らわれながらも、気合いで描き切った目印ポイントだ。

「もうすぐ到着だ。蘭堂さん、準備しといて」

「うーい」

 いつものヤル気のない返事。でも、そこから繰り出す彼女の仕事はいつも完璧だ。

 こと土魔法に関して、蘭堂さんは僕の期待を裏切ったことは一度もない。

 練習だって重ねてきた。だから、本番でも彼女ならば絶対に上手くできる。

「――よし、ここだ」

 地面に描かれた巨大なバツ印は、僕らが辿り着くべき目的地を示している。

 ここだ、この真下にヤマタノオロチを動かす無限の生命力、その源となる本体コアがある。

「下川君!」

「おう、広げるぞ、みんな集まれ!」

 下川がケルピーロッドを掲げ『水霧アイズ・ミスト』を操作する。

 僕らが陣取る、ここの周辺だけは霧を払う。一か所に留まり、逃げ場はないので、大型ガーゴイルなどがいきなり飛び出してくるのは避けたいから、最低限、警戒に足る視界は確保しなければならない。

 見る見る内に白い霧は晴れて行き、山頂地点の殺風景な岩地が露わとなっていく。

水霧アイズ・ミスト』はケルピーロッド込みで最大展開させれば直径500メートルほどの範囲を覆い尽くすことができる。岩山の頂上付近は丸ごと霧に隠れていることだろう。

 その濃霧の中で、僕らのいる掘削地点だけは、おおよそ体育館くらいの広さで霧を避けている。

 そして、霧を晴らしたことで、最初からこの地点に居座っていたガーゴイルの群れが露わとなり、奴らは一斉に僕らの方へギラついた視線を向けてきた。

「まずはこの地点を制圧する! みんな、行けーっ!」

 おおおおっ、と猛々しい唸りを上げて、メイちゃんが先陣を切ってガーゴイルの群れに突っ込む。

 振り下ろしたハルバードからは、ズドォン! と凄まじい音がして、ガーゴイルがバラバラになって何体もぶっ飛んでいく。多分、衝撃波が発生する『破断』が炸裂したのだろう。

「俺も行くぜ!」

 メイちゃんほど派手ではないが、山田も硬い防御を活かして果敢に突撃。黒騎士、ミノタウルスと肩を並べて、ガーゴイル共を次々と薙ぎ払っていく。

「桃川、貴方も少しは戦ったらどうですか」

「僕これでも真面目に戦ってるんですけどー」

 こういう時、呪術師の火力不足が浮き彫りになるね。味方も多いから、下手に『腐り沼』も広げられないし。

 この状況で僕にできる精一杯は、『黒髪縛り』で嫌がらせをしつつ、『ポワゾン』を撃ちまくるくらいだ。雛菊さん、いつもお世話になってます。

 一方、桜ちゃんは僕に嫌味を言うだけあって、存分に弓から光の矢を撃ちまくって、次々とガーゴイルを片付けて行く。

 えっ、三本同時に撃って、しかも別々の方向に曲がって三体の敵を同時に射抜くんですか? なにその超絶性能、ズルい、桜ちゃんには勿体ないから僕にちょうだいよ。

「……『聖女』の頭蓋骨あったら僕にもできるかな」

「今何か不吉なことを考えてませんでしたか!?」

「いくら雑魚ばかりだからって、戦闘に集中してよ桜ちゃん」

 ちょうど制圧も完了したところだ。充実した前衛と後衛が揃った、なかなか豪華なパーティだからね。普通のガーゴイルが群れてるくらいなら、すぐに排除は完了だ。

「蘭堂さん、どう?」

「ウチはいつでもいいよ」

 よし、さっきの制圧に参加させなかったのは正解だ。準備はすでに万全といったところ。

 こっちも目印の地点に、無事に全員集合し終わっている。

「それじゃあ、お願い」

「よっしゃ、ウチの本気、見せてやんよぉ――『大山城壁テラ・ランパートデファン』」

 気合いを入れて発動させたのは、土属性の上級範囲防御魔法だ。

 蘭堂さんが黄金のリボルバーに、大きな魔法陣を瞬かせながら、前後左右にぶっ放していく。


 ゴゴゴゴ!


 そんな地響きと共に、僕らの四方から大きな石壁がせり上がってくる。壁の厚さはおよそ50センチ。それが地面を揺るがせながら生えてくる。

 うーん、このゆっくり出てくる感じは、初期の頃の『岩石槍テラ・クリスサギタ』を思い出すね。

 そもそも、魔法が必ずしも一瞬で効果を現すとは限らない、というのを僕はそれで知ったのだ。

 蘭堂さんの魔法発動があんなに遅かったそもそもの原因は、発動に使った魔力量が多いからだ。『石矢テラ・サギタ』は銃弾のように超高速で飛ばせるのは、魔力量が低くて済むから。

 天道君謹製のリボルバーによって、この辺の魔力制御はかなり自分で操れるようになったようだけど、本気で魔力を振り絞って魔法に注ぎ込むと、瞬時に魔法現象が顕現できないほどの大質量を生み出すこともできる。

 だから、今正に発動中の『大山城壁テラ・ランパートデファン』は、それだけ本気を出しているということだ。

「ギャオギャオ!」

「グギィイアアアアアアアッ!」

 僕らの存在を感知したのか、霧の向こうから新たなガーゴイル共が現れる。この周辺には、まだまだ沢山いるだろうからね。奴らが尽きることはないだろう。

「シェルターが完成するまで、全力で防御だ!」

 この地点でまず最初に始めることは、安全に掘削するためのシェルター造りである。

 基本設計はトーチカと同じ。けど、前線司令部よりも広く作らなければいけない上に、あまりのんびり時間もかけていられない。

 だから、素早いシェルター建設のために、蘭堂さんとは特訓してきた。

 まずは四方の壁を『大山城壁テラ・ランパートデファン』一発で仕上げる。全ての壁が出現するまでには時間がかかるが、壁四枚を順番に出すよりは早いし、総合的な消費魔力も節約できる。

 蘭堂さんは中心で、建設のための魔法発動に集中している。だから、他の全員で彼女を守る。

 すぐ隣に立つのは桜ちゃん。いざって時に『聖天結界オラクルフィールド』で瞬時にガードができる。何人かくらいなら、あの万能バリアの中に入れることができるので、警護対象の最終防衛手段にはもってこいだ。だから、間違っても自分一人だけバリアに入るなよ。

 次に立つのは、後衛である僕とアラクネ、下川だ。

 僕らはそのまま、いつも通り攻撃支援。

 そしてメイちゃんを筆頭とした、山田、黒騎士、ミノタウルス、の前衛組みが建設を邪魔しにやってくるガーゴイルを蹴散らす。アルファももう僕は降りているので、自由に動かして敵を倒させている。

 壁の出現率はまだ半分ほど。あと一分くらいはかかりそうだ。

 でも、ガーゴイルの現れる数も、それほどでもない。まだ余裕をもって前衛組みだけでも殲滅できる程度だ。やはり下川の霧による目隠しは効果が出ている。連れて来て正解だよ。

「おい、上から来るぞ、気を付けろ!」

 下川が杖を振り上げながら、上空に向かって水流を放つ。

 ガーゴイルの厄介なところは、曲がりなりにも飛行能力を持つ点だ。

 ただのゴーマだったら壁を作るだけで防ぐには十分なのだけれど、空を飛べる奴らにはいくら壁を高くしても無駄である。

 頭上に煙る霧から、バサバサと翼をはためかせて降下してくるガーゴイル共のシルエットが見えた。

「クソッ、奴ら結構いるぞ!」

「対空迎撃って難しいよね」

 空を飛ぶ相手を撃ち落とすのは、非常に難しい。高射砲みたいなのを撃ちまくっても、当たるかどうか分からん。

 僕もFPSで空を飛ぶ系の敵を狙い撃つの苦手なんだよね。クレー射撃とかやる人ってマジで凄いと思う。

「でも、流石にあれだけ群れてれば――」

 下川が焦るほど、かなりの影が頭上に見える。

 僕は愛用である『愚者の杖』を一旦手放し、代わりに肩から下げていたオモチャみたいな『エアランチャー』を構える。

 装填してあるのは、火光石を原料にしたグレネードだ。

「当たれぇーっ!」

 僕の祈りの叫びをかき消して、ドカーンと紅蓮の花が咲く。

「おおー、当たったよ」

「うおおっ、熱っつ!? あぶねーべや桃川ぁ!」

 見事、群れるガーゴイルをグレネードの爆発で一網打尽にできたのだが、砕け散って火がついた奴らの残骸が降り注いでくる。

「ごめん、下川君、気を付けてね」

「お前だけガードしてんのズルいべや!?」

 いやぁ、咄嗟に隣にいたアラクネが僕に盾を翳して破片を防いでくれたんだよね。アラクネは荷物係も兼ねているから、予備の装備品なんかも持っている。

 咄嗟に盾を出してくれるとは、レムの機転の利き具合は素晴らしい。

 やはり、持つべきものは優秀な下僕である。

「何を騒いでいるのですか。まったく、この程度の敵で……『光砲ルクス・ブラスト』」

 弓を引いた桜ちゃんは、範囲攻撃魔法で次に降下を試みたガーゴイルをまとめて撃ち落としてくれた。

 おのれ『聖女』、やはり真っ当な攻撃魔法じゃあ敵わない。

「――はぁー、やっと壁全部出たわー」

「よし、次は柱だ」

「ほーい」

 完全に発動した『大山城壁テラ・ランパートデファン』は、高さ5メートルを誇る石壁となって、見事に四方を塞いでいる。

 早く天井も塞ぎたいところだけれど、体育館サイズの面積に天井を張るなら柱が必要だ。素人の設計でやってるから、余分に柱を作るくらいじゃないと強度も怪しい。

「『岩石槍テラ・クリスサギタ』」

 柱として利用するのは、懐かしき初期スキルである『岩石槍テラ・クリスサギタ』。

 けれど、今は蘭堂さん自身のレベルアップと、リボルバーの補正も加わって、あの頃とは比べ物にならない速度で展開される。

 それは正に本来の攻撃魔法のように、ドーンと一気に天を衝く勢いでぶっとい石の柱が生えるのだ。

 あっ、ちょうど降下してきたガーゴイルが柱に当たってブッ飛ばされたよ。

「前衛組みはこっちに集まって。上から抜けてきた奴がいたら対処して」

 すでに壁は完成したので、地上を走ってくる奴らは防げる。残った侵入路は空だけで、そうとなればガーゴイル共も積極的に上から飛んで来るだろう。

 こうなると、メインの迎撃役は僕らになる。

 いささか不安になるが、これでも黒騎士が武器を黒角弓に持ち替えたりと、遠距離攻撃の手は増えている。遠近どちらの武器も普通に扱えるのは、地味にレムの強みなんだよね。

「おい、天井塞ぐぞーっ!」

 リボルバーを上に向けて、蘭堂さんが叫ぶ。

 ようやく柱の配置も終わり、最後の工程である天井の設置に移行する。

「『岩石大盾テラ・アルマシルド』」

 天井は中級防御魔法を利用する。

 やはり地面から生やすのと、空中で天井を形成するのとでは、かなり勝手が違ってくるみたいだ。だから、欲張って広くせず、部分ごとに張っていくのが最適解。

 慎重に、途中で崩れて落ちたりしないよう、端から順に天井を設置してゆく。

「あー、もぉー、邪魔ぁ!」

 奴らも侵入路が塞がりかかっているのを理解しているのか、上から襲ってくるガーゴイルの数がさっきよりも増えだした。蘭堂さんも途中で『石弾テラ・サギタ』ぶっ放して、設置個所のガーゴイルを排除したりすることも出てきた。

「あともう少しだ、頑張って!」

「ウチはもう十分頑張ってるってーの!」

 あと一枚、中央に開いた部分を塞げば天井も完成だ。

 最後に残った穴へと向かって、ガーゴイルはギャアギャア騒ぎながら殺到して来る。

「グレネード!」

 FPSみたいな警告を叫んで、僕は一か所に群がる奴らにグレネードをぶち込んでやる。

「うおー、またかよぉーっ!」

 下川がまた何か叫んでいるけど、効果は上々。いい感じにまとめて吹き飛んでくれた。

「今だ蘭堂さん!」

「『岩石大盾テラ・アルマシルド』ぉーっ!」

 リボルバーのトリガーが引かれ、ズズズ、と石の天井が形成されてゆき――ついに、ようやく全てが塞がった。

「桜ちゃん、灯り早く!」

「うるさいですねぇ……『光精霊召喚ルクス・エレメンタル召喚』」

 全方位を石で防げば、当然、中は真っ暗だ。

 こういう時は、桜ちゃんの光精霊は便利だよね。虫の洞窟探索の時もお世話になったの、覚えてるよ。

 それに、この広さの閉鎖空間で火は焚きたくないし。酸欠で集団自殺とか冗談じゃないよ。

「ああぁー、疲れたぁー」

「お疲れ様、蘭堂さん」

 だらしなく足を投げ出して、地べたに座り込む蘭堂さん。一仕事を終えた彼女には休む権利はあると思うけれど、

「急いで掘削準備だ」

「はぁ……しょうがねーなー」

 渋々、といった様子で立ち上がる蘭堂さんには、せめてもの労いとしてハチミツレモン入りのボトルを手渡す。委員長が冷やしてくれたから、まだキンキンだよ。

「ぷはぁ、よっし、そんじゃあやるかー」

 ボトル半分を一気に飲み干して、蘭堂さんはリボルバー片手にシェルターの中央まで歩いていく。

 さて、あとはもうひたすら掘り進めるだけだ。

 天然の岩盤層は蘭堂さんが。そして、その下に控えているだろうヤマタノオロチの外殻は僕が。

 正直、どれだけ時間がかかるか分からない。ここからの作業はどれも事前に検証はできない、完全初見攻略となる。

 自信と不安は半々。いや、不安の方がずっと強い、けれど、もう僕らは後戻りできない場所まで来てしまっている。ならば、あとはもうやるしかない。

 さぁ、最も長丁場となる、ヤマタノオロチ討伐作戦の第四段階スタートだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ついにここまで来たって感じだけど不安しかない [一言] まじで不安しかない
[気になる点] 聖女の頭蓋骨で使える初期スキルはどんなのだろ? 割となんでも優秀だからどれでも良いのかな。呪術師的に光魔法が使えるかは謎だけど。
[良い点]  なかなか順調ですね。  さて次は、新生『六芒星の眼』のお披露目ですか。 [気になる点]  閉鎖空間では火気厳禁なのは当然ですが、そんな場所で『腐り沼』使ったら、毒ガスが発生して小太郎君以…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ