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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第14章:学園塔生活
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第227話 決戦前夜

 マジックアイテムといえば、『生命の雫』しか印象にないけれど、定番RPGのように様々な効果を持つモノが色々と存在している。蒼真パーティなんかは僕がいなくなった後、宮殿エリアなどでそれなりに入手していた。

 たとえば、防御効果のある『ガード・リング』、スピードアップできる『疾駆の羽根飾り』、恐怖に負けない『勇気のメダル』などなど。それでも、やっぱり死亡ダメージをチャラにできる『生命の雫』は破格の効果だ、

 天職の力があれば、マジックアイテムの持つ効果はささやかなものになってしまう。今更、メイちゃんが『力の腕輪』を装備しても、強化のほどは実感できない。また、移動系武技である『疾駆ハイウォーク』を習得している者に『疾駆の羽根飾り』は意味がなかったり。

 しかしながら、僕のように身体能力がとにかく低い貧弱スペックだと、これらの効果は喉から手が出るほど欲しい、貴重な強化手段である。

「はっはっは、金にあかせて最強装備を整える気分だ!」

 目の前にジャラジャラと並べられた数々のマジックアイテムを前に、僕は笑いが止まらない。

 まぁ、金は払ってないし、言うほど最強の装備にもならないけど。

 これらのマジックアイテムは、今までの探索の成果である。あらためて攻略済みのエリアを探索すれば、それなりに取りこぼしのあった宝箱なんかも残っているものだ。

 お蔭で、最低でも一人当たり2個は配れるくらいの数は手に入ったし、効果被りなどで装備しても意味がない余りなんかも出始めている。

 ここにあるのは、ほぼ余りモノである。だから、僕が独占しても問題ないわけで。

 自分を優先してマジックアイテムを使えば不満が出るからね。全員に行き渡り、その上で余りモノが出るくらいの数が集まるまで、僕はずっと待っていたよ。

「やっぱり、まずは力! 力こそパワーッ!」


『力の腕輪』:強化魔法『腕力強化フォルス・ブースト』が込められた腕輪。


 文字通り、腕力を強化する魔法の効果を得られる。大山も『腕力強化フォルス・ブースト』を使っていた。

「凄いな、これ。単純に二倍くらいパワーアップしてるんじゃないか」

 エントランス工房にゴロゴロしている色んな素材や光石なんかを持ち上げて、効果を実感。体感で50キロくらいの物でも、普通に担ぐことができた。

 これくらいなら鍛えた男なら発揮できる筋力で、超人的というほどではない。でも、僕の細腕でこれだけパワーが出るなら相当な効果である。

「これはSTRを一定割合で上昇するんじゃなくて、固定数値で上昇させるタイプと見た」

 ゲームだとバフの効果は、自分のステータスを元値として、その10%とか20%とか割合で上昇させるタイプと、STR+10とか攻撃力+100というように決まった数値を加算させるタイプがある。

 元のステータスが貧弱すぎる僕でも、目に見えた効果を得られるということは、最初からある程度決まったパワーが増大するようになっているのだろう。僕にとっては大幅な上昇値でも、メイちゃんからすれば誤差みたいな値である。

「やっぱり、元から強い人には効果が薄い感じになるのか」

 僕にとってはありがたい。これなら雑魚の一撃でダウン余裕な貧弱ステータスの僕も、それなりの強さを得られる。

「次は防御かな。痛いのは嫌なので!」


『ガード・リング』:武技『硬身ガード』と同じ効果を発動させる指輪。


 コイツの効果も実証済み。ぶん殴られたり、石をぶつけられたりしても、ノーダメージで済むくらいの硬さがある。

 武技を止めるほどの防御力はないけれど、ガーゴイルに引っかかれたり、噛み付かれたりしても平気になるのは心強い効果だ。多分、邪魔が入るとすれば奴らだからね。

「そして何より、速さが足りない!」


『疾駆の羽飾り』:武技『疾駆』を宿したように、速く走ることができる。


 移動速度ってのは大事な要素だ。いざという時も、逃げ足は速いに限る。

 これを使えば、100メートルもオリンピック選手並みの速さで駆け抜けられる。おまけとばかりにジャンプ力も上がる。

 コイツを使って遺跡街をパルクールしたかったかな。

「あと、体は資本だから」


『バイタル・ブレスレット』:体力、スタミナを増強させる腕輪。


 体力ってそもそもなんなんだ、と思うので実証できてないけど、負傷しても生存していられる時間は伸びたりするんだろう。できれば痛みも抑えてくれれば嬉しいんだけど、流石に実験するのはイヤだったので試してない。

 スタミナの方はバッチリ効果が出てる。コイツがあれば、フルマラソンだっていきなり完走できそうだ。

「ヤバい、もしかして今の僕って、人間としては最高峰の身体能力じゃない?」

 パワー、スピード、スタミナ、これだけあれば、どんなスポーツをやっても一流になれるんじゃないだろうか。

 だが悲しいかな、この異世界において、地球の人間の限界など雑魚スペックでしかない。ゴーヴとどっこい、といった程度。

「天職の能力は破格だよ。みんな、これよりも強い力があるんだから……」

 上田や中井でも、すでに人間を越えた力を発揮しているし、ジュリマリだって女子だけど彼ら以上の能力だ。

 そして、そんな超人的な前衛組みをさらに越えた力を持つのが、三人のエースである。

 まぁ、今更それを嫉んでも仕方がない。僕にはほら、呪術と生活力があるから!

「とりあえず、これで最低限の能力は得られたぞ」

 あの岩山は険しいからね。素の能力で乗り込むと、ただ登って行くだけでも厳しいものがある。

「ギリギリ、全部の効果を出せて良かったよ」

 マジックアイテムは、持てば全ての効果が発揮されるワケではない。ゲームシステムみたいに、装備枠の制限……というより、組み合わせや相性の問題があるようだ。

 たとえば同じマジックアイテムを持つと、その内の一つしか機能はしない。異なるマジックアイテムでも、相性があるらしく、一緒に持つと効果発揮しない、または著しく落ちる、といった現象が見られた。

 なので、装備するマジックアイテムは必要な分だけ、かつ、相性で効果が阻害されない組み合わせを選ぶ必要がある。

 そんなに装備に悩むほど、数も種類もないけどね。

 僕はみんなの中でも一番、多く装備していることになる。マジックアイテム4つ持ちだ。

「もう少し錬成の腕か、解読できるようになれば、マジックアイテムも改造できそうなんだけどな」

 残念ながら、今の僕では無理だ。下手に弄って壊すのがオチである。

「杖が一本できただけ、よしとしよう」

 僕は『外法解読』と『呪導錬成陣』の二つを使って、試行錯誤の末に自力で新たな杖を作ることに成功した。

 名付けて『エアランチャー』。

 杖というより、発射装置なんだけど。形状としては、短発式のグレネードランチャーみたいな感じ。

 風の宝玉を動力源として、玉を打ち出す構造だ。一応、『風刃エール・サギタ』も撃てる。

 自前で毒煙玉などの玉シリーズも生産できるようになったので、活用しようと思ったのだ。僕は射手じゃないから、玉付きの矢を撃っても命中率などたかが知れる。とてもじゃないが実戦では使えそうもない。

 かといって、手で投げるのも……肩にもコントロールにも自信はないもので。

 そこで、『愚者の杖』に装填すると『風刃エール・サギタ』を撃てる風の宝玉を上手いこと利用すれば、風魔法でいい感じに玉を飛ばすグレネードランチャーみたいなモノを作れるのではないかと思い、製造に着手した。

 宝箱から得た魔法の杖を一本ダメにしたりもしたけれど、無事に完成と相成った。

 コイツの肝は、どう見てもランチャーだけど『愚者の杖』と認識させることと、発射する風圧の出力調整だ。

 呪術師の僕は真っ当に風属性の杖を装備したところで扱うことはできない。でも『愚者の杖』の発動対象になれば、呪術扱いで『風刃エール・サギタ』も撃てるようになる。

 一体どういうルールなんだと疑問に思うが、とにかく僕が魔法の杖を扱うためには、『愚者の杖』に頼るより他はない。

 とりあえずランチャーでも『愚者の杖』と認めてくれた、ルインヒルデ様のガバガバ判定には素直に感謝の祈りを捧げている。

 撃ち出す風圧の出力調整は『外法解読』が役立ってくれた。

 ゴーマの魔法陣から解読した、各部の術式を丸ごとパクって刻んでみた。それで、実際にどういう効果を及ぼすのかを検証して、使える効果と組み合わせを試した。

 その結果、テニスボールサイズの玉を真っ直ぐ飛ばす風圧に調整することに成功したのだ。

 これで僕でも簡単にそれなりに遠くへグレネードをぶち込むことができるようになった。

 そう、雛菊さんは毒煙玉くらいに留まっていたけれど、僕は作ったよ、爆発する本物のグレネードを。

 材料は火の光石とコアを少々。別に火属性魔法でなくても、上手く衝撃を与えるだけで爆発するようになるのだ。

 同じく、氷の魔石を使えば冷気が噴出するし、雷だったらバチバチとスパークが散る。

 材料さえ揃っていれば、下級くらいの攻撃魔法は全て再現できるだろう。

 今回は攻撃用に求めているので、火と雷の二種類しか作ってないけど。

「材料はあるけど、持ち込める玉数にも限界あるし……とりあえず、こんなもんか」

 自分が持って移動に不便が出ない程度の量に絞らなければならない。多少はレムに予備を積む予定ではあるけれど。

 ランチャーはスリングで肩からかけて、玉を入れておくポーチと、その他色々とアイテムを持っていくためのバックパックも作った。

 自分用の装備も、おおよそ揃ってきた。あとは、気合いを入れてレムの主力機を改造していくくらいか。

「流石にそれは明日にするか」

 気が付けば、周りに誰もいなくなって久しい。

 エントランス工房で残業しているのは僕だけで、他のみんなはさっさと風呂に入って寝ていることだろう。

 まったく、ウチの社員にはヤル気の欠片もなくて、実に嘆かわしい。

「桃川ぁー、まだやってんのー?」

 片付けもそこそこに、よっこいしょと立ち上がったところで、蘭堂さんが顔を出してきた。

「今終わったとこ。あとはもう風呂はいって寝るだけだよ」

「お疲れ。背中、流してあげよっか?」

「えっ、いいの!?」

「ええよ」

 思わず即答で食いついてしまったが、よくはないだろう。凄く良いけれど、これはよくない。

「凄いやって欲しいけど、規則を破るワケにはいかないから」

「風紀委員様だぞ。だから、ウチがルールなの」

「権力の乱用はやめてよね」

 そこまで権限与えてないし。風紀委員はルールを順守させるのがお仕事で、ルールを作るのは仕事じゃないよ。立法、司法、行政の三権分立って覚えてる?

「折角、労ってやろうと思ったのに」

「気持ちだけありがたくいただくよ」

 本当に、こうして気安くお喋りできるだけで、気持ちも楽になる。わざわざ、僕のことを様子見に来てくれただけでも十分すぎる。

 いいね、誰かに気にかけてもらえるってのは。

「桃川、無理してない?」

「別に、いつも通りだよ」

 強がりではない。今みたいに多少の残業はしてるけど、睡眠時間は確保してるし、三食ちゃんと食べさせてもらってるし。

「なんか結局さ、桃川が作戦立てて、何するかって決めてるじゃん。だから、余計に責任とか、そーゆうの感じてるのかもって、ちょっと思ったから」

「大丈夫だよ。ありがとね、そう言ってもらえるだけで十分だよ」

「……なんか解答がジジ臭い」

 えー、なにそれ酷くない? 割と真面目に言ったつもりなんだけど。

「まぁ、ウチはバカだから、桃川がどこまで考えてんのかは知らないけど」

「うん」

「ちょっとは否定しろっての!」

「あっ、すみませんでした、つい」

 だって蘭堂さんがクラスで学力最下位なのは事実だから……赤点とか蘭堂さんでしか見たことなかったし……

 だがしかし、せめて一言「そんなことないよ」と否定しておくべきだった。

 お蔭で、罰ゲームみたいに僕は頬を掴まれてもみくちゃにされてるワケで。

「とにかく、ちょっとは心配してんだっての。いきなり倒れたりすんなよな」

「これぐらいへーきへーき。半分は趣味でやってるみたいなとこあるし」

『呪導錬成陣』のクラフト能力優秀だから、面白すぎるんだよね。

「ウチはそんなに強くもないし、あんま役に立てることはないけど」

「全然、そんなことないよ。蘭堂さんの能力は、どんな攻略法を立てるにしても要になるくらい強力だから」

 いやマジで、地形を変えたりあっという間に野戦築城したり、他の誰にも真似できない能力だよ。

「そんなのほとんど、桃川に教えてもらったことばっかじゃん」

 フツーは教えてもできないから。

 天職『土魔術士』であり、なおかつ本人の才能もなければ、ここまでの能力は発揮できない。正直、蘭堂さん魔術士クラスの中で一番才能あると思う。

「ウチにはちゃんと、土魔法以外にもできることあんだから」

「……この前、メイちゃんに給食当番クビにされてなかった?」

「別にド下手じゃないからな。でも、アイツに料理で挑むのはもう二度としない」

 蘭堂さんそんなことしてたんだ。地味に女子力には自信あったのだろうか。

「ねぇ、桃川」

 ちょっと来い、とばかりに手招きをする蘭堂さん。

 大人しく一歩近づくと、蘭堂さんはわざとらしく、右を見て、左を見て、後ろを振り返り、周囲を確認。

 そして――僕のことを抱きしめた。

「その気になったら、ウチの部屋に来な」

 そう耳元で囁かれて、僕は何か返事をするよりも前に、頬に唇が押しつけられる感触がして、

「えっ、ちょっ!?」

 なんて、間抜けな返しをした時には、もう抱擁は解かれていた。

「一回くらいなら大丈夫っしょ!」

「い、一回って何の一回さ……」

 それ、どこまでいっても一回は一回でカウントされるんですか。

「じゃあね、桃川、おやすみ」

 散々、人の心を揺さぶっておいて、蘭堂さんは小悪魔みたいな笑顔を浮かべて戻って行った。

「……くっそぉ、誰だよ恋愛禁止とか言い出したヤツは」

 今日はちょっと、平常心で眠れそうもなかった。

 蘭堂さん、知らない内に眷属『淫魔』とかにジョブチェンジしてるんじゃないのか。

 ホントに、こんな思わせぶりな真似して僕をドキドキさせてどうしたいんだよ。好きなのかよ、本当に好きなのかよ僕なんかのことが――

 でも、それを確かめるワケにはいかないんだ。このダンジョンを抜け出すまでは。

 だから、一刻も早くヤマタノオロチを倒さなければ。僕の素敵な恋愛経験のためにもね。




 気が付けば、もう一月近い時間が経過しようとしている。光陰矢のごとし、とは言うものの、それは毎日やるべきことがあるからこそだと思う。

 きっと、僕が立案したヤマタノオロチ討伐作戦は、自分が想像していた以上に、みんなにとって目に見える目標となってしまったのだと感じる。とうとう来たるべき決戦の日を、意識せざるを得ないというか。みんなの雰囲気も、どこか自然と引き締まっているように思えた。

「ようやく、準備も整った」

 工房の忙しさもピークを乗り越え、ヤマタノオロチ攻略のために必要なモノは揃いつつある。

 姫野さんが五か年計画しちゃうほどの固定用アンカーは、150セットを完成させた。

 最初は頭一つあたり100本を見込んだけど、そんなに数を打ち込むのも大変だから、半分の50本換算にした。

 僕の構想通り、頭に突き刺す部分は大きな返しの付いた銛になっていて、柄から鎖が伸び、地面に打ち込んで固定する杭へと繋がっている。一本一本、丹精込めた手作り錬成による一品だ。僕らの努力の結晶である。

 拘束作業は速やかに行う必要があるので、杭の方はあらかじめ地面へと設置済み。本番では上手くここに誘導して倒さなければいけない。

 まぁ、僕らが岩山に乗り込む前の段階までなら、何度でもリトライできるので気軽に挑戦できる。

「だから、明日の本番もまずは気軽に……」

「あっ、小太郎くん、ここにいたんだ」

 後片付けも終わったのか、メイちゃんがエントランス工房に顔を出した。

 最後の晩餐、と言ったら不吉だけど、まぁ景気づけに今晩の料理はいつもより豪華だった。地味にこの日の為に、色々とメイちゃんが仕込みをしていたのも知っている。貴重な砂糖も惜しみなく使って、デザートまで用意して、実質フルコースである。

 すごい美味しかったです、ごちそうさま。みんなで頑張って、食材を集めてきた甲斐もあったよ。

「緊張してる?」

「流石に、今回は自分以外の命もかかっているからね」

 責任の重さってヤツは、いくら僕でも感じるよ。というか、僕は別に平気で他人を利用できるような冷酷非道なキャラではない。僕は普通、普通だよ、フツー。

「でも、やれるだけのことはやった。後はもう、信じるしかないよ」

「うん、私は小太郎くんのこと、信じるよ」

「僕もメイちゃんのことは信じてる。だから、いざという時は……」

「任せて。私は小太郎くんを助けるためなら、何でもするし、何だってできる」

 それがどんな非道であろうとも、それを実行できるだけの覚悟と行動力がメイちゃんにはある。だからこそ、僕は信じられる。

 たとえ背中を桜に見せることになっても、僕の隣にはメイちゃんがいる。万に一つでも僕に殺意を向けたなら、光の結界ごと奴を真っ二つにしてくれる。

「ねぇ、小太郎くん。本当は、戦いの前にこんなこと言うべきじゃないかもしれないけど……」

「いいよ、何でも聞くよ」

 戦いが終わった後に話す、というのもフラグだしね。聞ける話は聞いておく。

「もし失敗して犠牲者も出たら、二人で逃げよう」

「やっぱり、それしかないよね……」

 犠牲者が出ても、ヤマタノオロチを倒せれば、僕は責任を果たしたことになる。けれど、誰かを失った上に、作戦まで失敗すれば僕の立つ瀬はない。

「死人を出して作戦失敗したら、いくら僕でも挽回は不可能だよね」

「小太郎くんにだけ責任を押し付けるなんて間違ってる」

「人が死ねば、攻めずにはいられないよ」

 みんな作戦には賛成したことだとか、納得ずみだとか、そういう問題じゃない。これは感情の問題だから。

 そして、そうなることを分かっているから、メイちゃんはわざわざこんなことを言うのだろう。

「どんなに酷い結果になっても、私は傍にいる。逃げ道は、私が切り開いてあげるから」

「ありがとね、そう言ってもらえると気が楽になる」

 他の人が聞けば最低と言われるだろうけど、僕の気持ち的にはこういう対応が一番ありがたいわけで。

 僕はあの桜まで含めても、誰にも死んでほしくはないし、そのために最善を尽くしている。

 しかし、だからといって力が及ばなかった時、その責任を被って腹まで切るつもりはない。みんなのために働くけれど、みんなのために死ぬのは御免だ。

「でも、大丈夫、心配ないよ」

「そうかな」

「そうだよ。曲がりなりにも、クラスはまとまってる」

 これでダメなら、恐らく僕らだけじゃどう足掻いても勝てない相手だ。自分で言うのもなんだけど、これ以上ないほど万全の態勢を整えたと思う。

「全員が迷いなく力を発揮できるのは、今しかない。誰もが希望を持って戦える、今回が最初で最後だ――だから、必ず明日、ヤマタノオロチを吹っ飛ばしてる」




「――それで、話ってなにかな、小鳥遊さん」

「わざわざ、こんなところに呼び出すくらいですから、深刻な話なのでしょう?」

 学園塔5階の密会部屋。

 そこには、蒼真兄妹と、二人をここへ呼び出した小鳥遊小鳥の三人がいる。

「うん……」

 よほど言い出しにくい話題なのだろう。呼び出しの張本人である小鳥だが、その幼い表情は迷いに満ちている。

「大丈夫、ここには間違いなく俺と桜しかいないから。誰かが盗み聞きししてる気配はない」

「話してください、小鳥。どんなことでも、聞きますよ」

 迷子になった子供のように不安げな態度の小鳥に、二人は優しく微笑みかける。

 そうして、幾許かの沈黙を経て、小鳥はついに口を開いた。

「あ、あのね、本当はこんな時に、言い出さない方がいいって思うんだけど――」

 明日は、ついにヤマタノオロチとの決戦である。

 士気は高く、英気を養い、準備は万端。誰もがベストなコンディションを整え、来るべき決戦に臨む。

「――桃川君は、何か隠しているの」

「そりゃあ、アイツは俺達に言えないことの一つや二つはあるだろう」

「ええ、あの桃川ですし。どうせいつも、よからぬことばかり考えているに違いありません」

「違うの! そういうことじゃなくて……みんなの命が危なくなるくらい、何か凄い秘密を隠している……そんな気がするの」

 必死な小鳥の訴えに、流石に二人も表情から笑顔が消える。

 桃川小太郎のことを、心の底から仲間として信用してはいない。

 桜は勿論、悠斗だって、常に小太郎のことは監視するくらいの気持ちで接してきた。

「だが、今更アイツが、俺達を裏切るとは思えないが……」

 レイナを殺した怨敵。

 だがしかし、ヤマタノオロチという強大なボスを前に、クラスをまとめ、作戦計画を立て、準備を整え、いよいよ決戦に臨めるまでに至ったのは、小太郎のお陰だと、悠斗は認めている。

 これまでの小太郎の働きぶりは、決して嘘ではない。

「もし本当に桃川が私達を陥れようと思っていたとしても、この大一番で何かをするとは、少し考えにくいですね」

 桜とて、小太郎は本気でヤマタノオロチを倒すために準備してきたのだと、思っている。

 どれだけ邪悪な野心を抱こうとも、話の通じないボスモンスターは、力で打ち倒して乗り越えるより他はない。そして、小太郎個人にそれだけの力は絶対に持ち得ない。

「でも! でも……凄く、嫌な予感がするの……」

「小鳥遊さん、不安な気持ちは分かるけど」

「そうですよ、落ちついてください。小鳥には、私達がついているのですから」

「うん、ありがとう、蒼真君、桜ちゃん……でもね、きっとこの嫌な予感は、小鳥の不安な気持ちだけじゃなくて、多分、『賢者』の力が予感していること、だと思うの」

「それって、まさか予知能力に目覚めたとか?」

「う、ううん、全然、そんな凄い能力なんてないよ! 予知とか、そういうんじゃないと思うけど……でも、本当に嫌な予感はハッキリと感じるの。桃川君が、何かをするって。私達みんなを裏切って、何か悪いことを企んでいるって……」

「小鳥……」

 流石の桜も、小鳥の言葉に即座に頷くことはできなかった。

 桜は自分でも、今のクラスの中で最も小太郎を信じていないし、彼を一番警戒しているという自負もある。

 しかし、だからこそ、今ここでいきなりクラスを裏切るとは思えなかった。

 ここまで決戦準備を整えた小太郎の働きぶりは、本物だったから。

「分かったよ、小鳥遊さん」

「兄さん、小鳥の話を信じるのですか」

「俺も桃川がここで裏切るとは思えないけど……それでも、小鳥遊さんがこうして教えてくれたんだ。ちゃんと注意はするよ」

「ごめんね蒼真君、何の証拠もないのに、こんなことをいきなり言い出して……でも、小鳥の言うこと、聞いてくれて嬉しいよ」

「俺だって、心から桃川を信じるのは危ういとは思うしな。しっかり監視しておかないと」

「ええ、そうですね。小鳥、安心してください。明日の決戦では、私は桃川と同じ部隊ですから、土壇場で妙な真似はしないよう、しっかり見張っておきます」

「うん、桜ちゃんも、ありがとう」

 話を聞き入れてもらえたことで、ようやく安心できたのか、小鳥の顔に笑顔が戻る。

「でも、小鳥遊さん、このことは俺達だけの秘密にしておこう」

「そうですね、流石にこんなタイミングで言い出しては、みんなが動揺するでしょうし」

「大丈夫だよ。小鳥は、二人が信じてくれただけで、十分だから」

「ああ、桃川のことは俺達に任せてくれ」

 そうして、あまり長話をするわけにもいかないと、解散することとなった。

 先に小鳥が密会部屋を出て、自分の部屋へと戻る。

 後に残った蒼真兄妹は、どちらともなく口を開いた。

「兄さん、どう思いますか」

「どうもこうも、俺は小鳥遊さんに言った通りだよ」

 小太郎が今ここで裏切るとは思えないが、忠告を受けて警戒だけは怠らない。

 現実的に考えて、できることはそれしかないだろう。

「そう、ですね……」

「桜はどうなんだ」

「それは勿論、不安にもなりますよ」

 決戦前夜にこんなことを言われれば、動揺するに決まっている。まして、相手は常々疑い続けた小太郎である。

「一応、言っておくが、明日は作戦通りに動いてくれよ」

「分かっています。全員の命がかかっていますから……必ず、私がコアを破壊してみせます」

 小太郎のヤマタノオロチ討伐作戦に、変更はない。

 クラス一丸となり、これまでずっと準備してきた作戦だ。今更、変えられないし、変えようとも思えない。

 覚悟は決めた――そのはずなのに、二人の心には、間違いなく一点の疑念が残るのだった。

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― 新着の感想 ―
賢者はその先の脱出のときまでにハーレムメンバーも殺しにかかろうとしてんじゃねーかな?
勇者ハーレムメンバーは隙あらば小太郎君を刺しに来るな。 せめて夏川さんは単なる食いしん坊要員のままでいて欲しい。
[気になる点] 小鳥遊が胡散臭いことです。
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