表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第14章:学園塔生活
216/520

第211話 修行(2)

 さぁ、始まりました『勇者』蒼真悠斗VS『剣士』上田洋平の剣術勝負。

 両者、同じく正眼の構えで相対し――今、勝負の合図が、

「うわー、蒼真君強ぇー」

 勝負は一瞬で終わった。

 先に仕掛けたのは上田だった。流石は天職『剣士』と思わせるだけある、鋭い上段振り下ろし。

 それを蒼真君は完全に見切って、半歩下がって、いや、地味に体の角度も僅かに傾げていた。そんな動きで上田の一刀を見事に回避。

 だが、剣士上田もさるもの。そのまま素早く斬撃から刺突へと移行。腹部めがけて放たれた強烈な突きは、あえなく空を切り――そこで、ついにカウンターの一撃を蒼真君が繰り出した。

 ピタリ、と上田の額直前で止められた木刀。

 一方の上田は、完全に突きを放って体勢が伸びきっている。

 誰がどう見ても、勝敗は明らかだった。

「く、クソ……」

「どうする、もう一回やるか?」

「……いや、いい。マジで強ぇな、蒼真」

「これが蒼真流の力だ。上田、お前の腕前もかなりのものだ。鍛錬すれば、すぐに強くなるだろう」

「へっ、そうかよ」

 とか言いながら、満更でもない顔の上田。

「意外と素直に負けを認めたね」

「誰もがお前のように、屁理屈を並べて悪あがきをするワケじゃないからな」

「うるせー桃川。これは剣士にしか分かんねーことなんだよ」

 爽やかな勝負の終りに水を差すような失言だったか。決して、上田がゴネて揉め事になると面白そうとか思ってないよ。もしそうなったら、どうせ収拾するの委員長と僕だし。

「ごめんごめん、いい勝負だったよ」

「今更、白々しいぜ桃川」

「そんなことないよ。上田君の振り下ろしから、突きの切り替えしはなかなか良かったよ。もしかして、最初から蒼真君が避けることを計算にいれて、突きの方が本命だった?」

「お、おう、まぁな」

「桃川、意外と目がいいんだな」

「へへっ、褒められちゃった」

 僕、蒼真君のそういうとこ好きだよ。良いところは良いと言う。妹にも是非、見習って欲しい態度である。

「さて、他に俺と勝負をしたい人はいるか?」

「というか、これは全員経験しておいた方がいいんじゃないかな」

「そうだな。先に少しでも、蒼真流の技を体感してもらいたい」

「はい! じゃあ次、私やるね」

「メイちゃんはナシで」

「うーん、双葉さんは止めておこう」

「ええー、なんでー」

 なんでって、いい予感がしないからだよ。

 今この時に必要なのは、蒼真師匠の圧倒的な剣術の技をみんなに理解してもらうこと。でもメイちゃんがやると、技を力で覆してきそうだし。

「仕方ねぇ、次は俺がやるぜ」

 親友である上田に続き、中井が声をあげた。

 メイちゃんはそんなに勝負してみたかったのか、若干、納得してなさそうな表情ながらも、大人しく中井に次鋒の座を譲った。

「いいだろう。さぁ、どこからでもかかって来い」

「『戦士』舐めんなよ、剣もフツーに使えるんだからなぁ」

 そんな感じで、順番に蒼真師匠との勝負が始まった。

 勿論、全員ほぼ瞬殺であった。




「――なるほど、これは予想外の展開が起こったね」

 蒼真師匠による熱血指導の傍ら、僕が主導する錬成会では、ひとまず全員が発動ラインに達した完成度の『簡易錬成陣』を描き上げるところまで来ていた。

 問題は、いざ錬成陣を発動しようとした時のことである。

「でもまぁ、これ半分くらいは成功と言っていいんじゃないの?」

「そうかしら……いや、そうかもね」

「錬成においても、それぞれの属性に沿った効果になるようですね」

 珍しく、桜ちゃんと意見が一致したものだ。まぁ、結果を見れば誰でも同じ見解に至るけれど。

 錬成陣の発動そのものは成功した。全く何の反応も起こらなかった、という者は一人もいない。その辺は流石に、みんな何かしらの魔法適性を持つからだろう。

 で、発動したそれぞれの錬成陣には、各自の属性を反映した効果が現れたのだった。


『氷結錬成陣』:氷属性による錬成。


『水分錬成陣』:水属性による錬成。


『鉄鉱錬成陣』:土属性による錬成。ある程度の鉱物を錬成強化できる。


『光錬成陣』:光属性による錬成。微小な光精霊を宿すことができる。


 と、それぞれ別個の錬成陣となっている。

「っていうか、普通に新スキル獲得してるよねこれ」

「多分、こういうキッカケがあれば、いつでも習得できたのではないかしら」

「俺らも魔術士やって長いからな。習得条件は満たしてた、って感じだべ」

 確かに、僕にもそういう経験ある。『愚者の杖』とか、もっと早くに試していればさっさと習得できていた感じするし。

「あのー、なんか私だけ普通の錬成陣なんだけどぉ」

「いやいや、姫野さんだけでも『簡易錬成陣』を発動できて良かったよ。即戦力だよね」

 何故か姫野さんのみ、『簡易錬成陣』を僕と同じように通常発動ができた。

 特にこれといった属性に偏りがないからだろうか。『治癒術士』がそういう性質なのか、あるいは、『眷属』としの特性か。

 姫野さんが何かしらの『眷属』らしい疑惑はあるけれど、こうして普通に錬成陣を成功させたことを思うと、それほど彼女の力は僕らと大きくかけ離れているワケではなさそうだ。これで悪魔でも召喚しそうな鮮血の錬成陣とか発生したら、一気に魔女裁判フラグだったけど。

 今はそういうトラブルは御免だよ。

 どちらにせよ、姫野さんが『簡易錬成陣』を使えるなら、すぐにでも作業を始められる。習うより慣れろ。よし、早速シフトに組み込もう。

「それじゃあ、みんなはそれぞれの錬成陣の性能確認と行こうか。姫野さんはそこで山積みになってる光石の不純物を分離しておいて」

「えっ、あの、それってどうすれば……」

「まずは自分で試行錯誤してやってから、分からないところを聞いてよね。じゃあ、まずは委員長の冷やすだけっぽい『氷結錬成陣』から行こうか」

「冷やすだけとか言わないで。そんな気はするけれど」

 流石に『氷結錬成陣』と固有の錬成スキルになっているんだから、何かしらの効果があるとは思いたい。

 そんな期待と共に、適当な魔物素材を氷結錬成にかけてみた。

「うーん、マジでこれは凍らせるだけっぽい……」

 そうとしか思えない実験結果に、委員長も非常に残念そうな表情である。

「こういうこともあるよ。元気だして委員長」

「本当のこと言っていいわよ桃川君」

「いやぁ、他人がクソスキル掴まされるところを見ると、ちょっと楽しい気分になるよね」

 僕も呪術師として苦労させられた経験があるので、尚更に愉悦。

「気を取り直して、次いってみようか」

「お、俺の『水分錬成陣』はクソスキルじゃねーべ!」

 委員長の残念な結果を見て、下川は若干ビビりながらも、『水分錬成陣』を発動させた。

 その結果、判明したことは、

「なるほど、液体ならかなり高度に操作できるんだね」

「けどよぉ、海水を水と塩に分離できたところで、あんま使い道はねーべ」

 水分錬成の特徴は、液体の成分を自由に混合・分離できることである。

 下川が言った様に、海水を水分錬成にかければ、真水と塩分とその他に瞬時に分離することができる。この成分分離は『簡易錬成陣』ではできない。

 海水から塩を取り出すだけなら『魔女の釜』でも可能だが、これはあくまで釜の中で水分を蒸発させることで塩を残して得られるという、物理的な工程が存在している。

 だが水分錬成は、いきなり水と塩に分離できるのだ。つまり直接的に成分を操作しているところが強み。

 ということは、加熱・冷凍、蒸留やら遠心分離やら、そういった方法を介さずに、どうやって取り出すか分からない成分も抽出できるし、単純な成分解析もできそうだ。

「よし、下川君は今からポーション担当ね」

「はぁ?」

「なけなしの本物ポーションを託すから、劣化ポーションと成分を比較しながら、何が欠けているか、あるいは何を加えれば本物になるか、割り出して」

「な、なんだよソレぇ、できんのかよ」

「できるかできないか、じゃない。やるんだよ」

 いやぁ、これで行き詰っていた劣化ポーションの再生計画も始動できそうだ。

 劣化ポーションは暗黒街の狼男がよく所持しているし、廃墟からも発見できる。そこそこの数を集めることはできるが、やはり劣化なので回復効果は失われている。だが、コイツを元通りにできれば、一気にポーションの所持数を増やせる。

 僕としては、最低でも全員に1本はポーションを持たせたいと思っている。即効性で高い回復効果を発揮するポーションは、いざという時に頼れる存在だ。

「まぁ、やるだけやってはみるけどよぉ」

 あんまり自信はなさげな様子で、下川は劣化ポーションを保管している倉庫へと向かって行った。

「さて、次は一番期待できそうな『鉄鉱錬成陣』だ」

「いやこれ絶対またなんか地味ぃーな効果な気がすんだけどぉ」

 そんなことないよ蘭堂さん。説明文ですでに『錬成強化』とある時点で、単に物質を弄り回す以上の効果が確定である。

 恐らく、これはまだ基礎的なタイプの錬成陣で、効果も微々たるものだろう。しかし、僕らでは得られなかった強化効果と、その後の成長性を見込めば、一番期待の出来る錬成陣に違いない。

「んー、じゃあ行くぞー、『鉄鉱錬成陣』!」

 と、気合いを入れて黄金リボルバーをぶっ放して発動させた『鉄鉱錬成陣』は、オレンジ色の輝きと共に、その効果を現した。

 今回、錬成の対象にしたのは、どこにでもある普通の鉄の剣である。ただの鉄、あるいは鋼であろうこの剣を鉄鉱錬成にかけて、どういう変化を及ぼすかで、おおよその効果の程度が分かるはず。

 そして、錬成陣の輝きと共に瞬時に鉄の剣はその形を変え――

「なんか鉄の塊になったんだけど」

「だねー」

 自分でやったくせに、どこまでも他人事な態度の蘭堂さんである。

 光の収まった錬成陣の上には、角ばった小さな鉄の塊と、錬成対象にならなかったであろう、柄の部分がそのまま残っている。どうやら、刀身の鉄部分のみが錬成によって、この塊に変化したようだ。

「見た目も重量も、特に変化はナシか」

 触っても、何か特別な力を感じるということもない。本当にただ刃の鉄を塊にしただけのようだが……それだと『簡易錬成陣』でも同じことができる。

「蘭堂さん、発動させる時、何か強くするイメージとか、別の形に変化させようみたいなことは考えなかった?」

「え、なにそれ? 意味わかんないんだけど」

「錬成って自分のイメージでモノを変形させるワケじゃん?」

「ふーん、そうなんだ」

「……ごめん、僕の説明が色々と不足していたみたいだ」

「いいってことよ、気にすんな桃川」

 何で僕の方が慰められてるんだろう。こういうの、何となくのイメージでお察しかと思ってたけど、うーん、蘭堂さんだしそういうところは鈍いか。多分、本当に何も考えずに錬成陣を発動させただけなのだろう。

 特に考えナシで錬成にかけると、雑な塊状になる、ということなのだろうか。

「イメージが足りないと強化の効果もないのかな」

「そうでもねぇさ。その鉄はちゃんと光度が上がってるぞ」

 そこで口を挟んできたのは、まさかの天道君。ただ何となくこの場に居合わせただけで興味の欠片もなさそうだったのに、実は仲間に入れて欲しかったとか?

「光度ってなに? 詳しく、天道君」

「めんどくせーなー」

「委員長」

「龍一ぃー?」

「チッ、分かったよ、そう睨むな」

 やはり天道くん係、任命しておいて正解だった。

「要は魔力が籠ってるってことだ。光石みてぇにな」

「ふーん、じゃあ魔力が宿る量が光度ってワケ」

「ソイツは偏りがねぇから、純光度1ってところか」

「ちょっと待って、魔力ってやっぱ属性と無属性の違いがある上に、魔力量のレベル分けみたいなのもあるんだ?」

「その辺は小鳥遊に聞け。俺よか詳しいだろ」

「たぁーかぁーなぁーしぃーっ!」




 ほうれんそう、が出来ない上に、業務上に必要な情報をわざと出し渋るクソ社員を叱責すると、流石に委員長が間に入って止めてくれた。で、僕の代わりに気になることを聞き出してくれることに。

 やはり中間管理職というのは組織を運営するにおいて大切な役割なのだな、と僕は再認識した。それぞれの錬成を習得してくれたところで、我が学園塔エントランス工房の社員は一気に増えた。これは本格的に会社の組織編制が必要かも。

「それじゃあ、報告を聞かせてよ専務」

「誰が専務よ」

 おっと、つい社長気取りのままで口を開いてしまった。

「とりあえず、おおよそ桃川君が思っている通りよ」

 この世界には、僕らの地球と全く同じような鉄鉱石など様々な鉱物が存在している。その一方で、魔力を含んだ『光石』という異世界特有の鉱物も存在している。

 鉄鉱石に魔力は含まれていないが、精錬を経て鉄となれば、そこに魔力が含む余地が生まれるようだ。

 基本的には、光石を加えて錬成することで、魔力を含んだ鉄を生み出すことができる。金属への魔力付与は光石を利用するのがポピュラーらしいので、付与できた魔力量は『光度』と呼ばれる区分けがされる。また、魔力を宿した金属全般は『光鉄』と呼ばれる。

 光鉄を作り出すには光石との錬成が基本だが、魔術士が自ら作り出すこともできる。それが、蘭堂さんの『鉄鉱錬成陣』だ。

 つまり、光石ナシで光鉄を作り出す土魔法である。

「うーん、控えめに言って神スキルでは?」

「どうかしら。万能な効果ではあるけれど、付与できる魔力量はそれほどでもないみたいよ」

「金属の質にもよるんだろうけど、頑張っても光度2が限界ってとこだしね」

 光度は1から5の五段階評価である。

 光度1は、下級魔法の発動に補正がかかる程度。2になると、単体で下級魔法を撃てる程度。3だと中級魔法、4になると上級魔法を、それぞれ発動できるほどの魔力量となる。

 最高の光度5になると、上級魔法連発から、ヤマタノオロチのブレス級とか、その魔力量に上限はない。とりあえず4以上あれば全部5に分類されるようだ。

「でもコイツを鍛えていけば、光度3とか4も夢じゃないよ」

「魔力付与の他にも、単純な金属加工にも効果があるようだし、普通に光石を錬成することもできるから、装備を作るには便利な魔法ね」

「ねぇ、なんでウチの魔法なのに二人の方が詳しい感じになってんの?」

 そりゃあ、色々と『鉄鉱錬成陣』を試し撃ちした実験結果が目の前にあるからね。効果を確認するには十分だけど、蘭堂さんはもっと自分の力について真剣に考えた方がいいんじゃないかな。

「ウチそういうの苦手だから、桃川が考えて、教えてよ」

「いいよ」

 まぁ、誰だって得て不得手ってのはあるからね。魔法の効果の考察は、僕と委員長とかに任せておけばいいだろう。僕、短所を補うより、長所を伸ばす方が本人のためになると思うんだよね。

「じゃあ、最後は光らせるだけっぽい『光錬成陣』の確認、一応しておく?」

「いちいち人を煽らないと気が済まないようですね――」

 ささやかな煽りでも震えてくれる、実に煽り甲斐のある桜ちゃんの『光錬成陣』の効果は――

「ほらぁ! やっぱり光るだけじゃん!」

「こ、これはただ光っているだけではなく、光精霊ルクス・エレメンタルが宿っていてですね――」

「桜、落ち着いて。錬成の適性が低くてもいいじゃない」

 ともかく、微妙な性能なのもあるけれど、これで工房の生産性も向上できそうだ。

 ヤマタノオロチ攻略用の装備を整えるための、ひとまずの道筋も立ってきた気がする。

 桜ちゃんは隅っこの方で懐中電灯でも作っておいてよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 〉桜ちゃんは隅っこの方で懐中電灯でも作っておいてよ。 煽りよるぅーw しかも本人が一番自覚してるから、言い返せねぇw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ