第202話 砂漠エリア探索
探索という名の魔物素材調達のお使いクエストをみんなに押し付け早数日。お蔭さまで、順調に素材は集まり、『賢者』謹製の武器を全員に持たせることができた。
『銀鉄の剣』:錆付いた長剣の本来の姿。銀の刃は、銀のように見える合金らしい。強度は鋼と同等だが、魔法の効果を高めるようで、刻まれた『鋭利』の魔法陣によって、鋭い切れ味が付与されている。
『レッドアックス』:僕が今でも愛用している『レッドナイフ』と同系列の、火属性の斧。ただし火力はこっちの方がずっと高く、十分に実戦向け。血塗れた大斧に、ありったけ火の魔石をつぎ込んで作った。
『黒鉄の大斧』:メイちゃんのハルバードと同じ、重く硬い金属で作られた大斧。魔法の効果は一切ないが、その破壊力と耐久性は、狂戦士の戦いぶりにもついていける。遺跡街で発見したリビングアーマーから鹵獲した武器を錬成して製作。
『クールカトラス』:ジャジーラが持っていた上質な短剣を、ありったけの氷の魔石と、あと委員長の協力によって作られた、氷属性のカトラス。短い片刃の刃は、切れ味は並みといったところだが、魔法の力はレッドアックスを上回る。使い手によっては、下級氷魔法まで行使可能。
これらの武器は、『銀鉄の剣』が上田、『レッドアックス』が中井、『黒鉄の大斧』が山田、『クールカトラス』が中嶋、とそれぞれ装備することとなった。
今のクラスの中では、彼らの武器が最も貧弱だったので、最優先で装備格差の是正を試みたのだ。
戦いとは、弱い奴から死んでいく非情な世界である。まして、彼らは蒼真君とは比べるまでもなく弱い。ただでさえ弱いのだから、せめて装備くらいマシにしてあげないと、雑魚モンス戦でも余裕で死にかねない。僕も赤ラプターに殺されかけたし。
それから、すでに現時点で最高クラスの錬成武器を使っている蒼真君達のメイン武器を強化するなら、さらに厳選された素材にコアなども相当量が必要となるので、自然と時間がかかってしまう。お手軽に作れるそれなりスペックの錬成武器を揃える方が早い。さっさと揃えて、みんなの装備を底上げした方が効果的だろう。
四人は今まで使っていた武器よりも明らかに高性能な新武器に喜んでいたし、プレゼントした僕の評価も上がるし、いいことづくめ。
強いて言えば、小鳥遊にヤル気が見られないことか。愛しの蒼真君か、大切なお友達の装備じゃなければ、気合いも入らないといったところ。
僕の見立ててでは、小鳥遊が本気を出せば、現時点で防具とポーションとその他マジックアイテムも試作品ができているはずだ。それが、四人の武器しかできていないのだから、手を抜いているのは明らかだ。おい小鳥遊、お前に魔力がまだまだ残っているってことはお見通しだぞ。なに魔力切れのフリしてサボっていやがる。
コイツはそろそろ本気でヤキを入れた方がいいかもしれない。
「おーい、桃川ぁ……俺もいい加減、魔法の杖欲しいんだけどー」
「ごめんね下川君、水の魔石の集まりが悪いから、杖はまだ無理だよ」
ちくしょー、とあからさまにガッカリしている下川には、うん、本当に悪いとは思っている。
魔法の杖はかなりレアドロップだからね。極稀に魔術士タイプのリビングアーマーが持っているか、宝箱に入っているか。
蒼真君の第一探索部隊が、暗黒街で幾つか宝箱を発見してはいるものの、中身はポーションか魔法のアクセサリといったモノばかり。特に物凄い効果を秘めたモノは出ていない。
でも、魔石が沢山あれば杖も作れるらしいので、水魔術士用の杖も、このまま素材集めを続けていればその内できるだろう。小鳥遊が作ってくれれば、の話だが。
「はい、それじゃあみんな、ちゅうもーく」
現在は夕食中なので、全員、妖精広場の食堂へと集まっている。
僕がコツコツとテーブルと椅子を作ったお蔭で、噴水の傍らには巨大な円卓が設置されている。残念ながら、中華料理屋みたいにグルグル回るターンテーブルは作れなかったけど、おい、デカいちゃぶ台とか言うな。
ともかく、僕らは騎士のように円卓へとついているワケだ。
「明日は砂漠エリアの探索もしようと思うんだよね」
これまでは、攻略経験のある海岸エリアと暗黒街しか、素材調達の探索には出ていない。ダンジョンのシステムを考慮すれば、僕らでも十分に攻略可能なエリアだとは思うが、やはり未知の領域というのは危険が伴う。
海岸エリアと暗黒街では、難易度的には暗黒街の方が断然高い。もし、これくらいの難易度差で、砂漠エリアが暗黒街より厳しかった場合、かなりの高難度ということにもなりかねない。
学園塔の拠点運営も安定していない初日から、砂漠エリアに挑むほど僕らは無鉄砲でも無計画でもない。
けれど、そろそろ様子見くらいはしていってもいいとは思う。
もしかすれば、ヤマタノオロチ攻略に役立つお宝なんかが手に入るかもしれないし。
「そうね、いいんじゃないかしら」
「メンバーはどうするんだ?」
委員長は賛成しているし、蒼真君も面子を聞いているということは、行く前提で話している。
ざっと見渡しても、反対意見はないようだ。というか、僕の意見に反対できるのは蒼真君と天道君くらいだしね。
みんな如何にも学生らしく、僕らは多数決の民主主義で決めるのが当たり前だよね、みたいな雰囲気になっているけど、すでに過半数を抱きこんでいる僕の派閥は多数決なら100%勝てるんだよね。戦力的には微妙でも、人数的には多数派なのが我が桃川派閥である。
しっかり根回しさえしておけば、学級会が始まる前から結果は決められる。ああ、素晴らしきかな民主主義。
「砂漠は誰も行ったことがない未知のエリアだから、最高戦力で行きたい」
というワケで、ぼくのかんがえたさいきょうのパーティの発表でーす。
砂漠探索部隊
隊長・『呪術師』桃川小太郎
副隊長・『氷魔術士』如月涼子
『勇者』蒼真悠斗
『王』天道龍一
『狂戦士』双葉芽衣子
『盗賊』夏川美波
「この6人で行こう」
「ちょっと待ってください、何故、私がメンバーに入っていないのですか」
いやぁ、だって桜を入れたら、いざって時に絶対ゴネるじゃん? そんなの面倒じゃん?
天職『聖女』の治癒魔法は安全策としては魅力的だけど、聖女様本人の性格が致命的なので、予期せぬ災害が起こるより、アホみたいな人災が起こる方がよっぽど高確率なんだよね。
「初めてのエリアだから、索敵力高くて罠の察知も解除もできる『盗賊』の夏川さんは外せないから。7人になると、ちょっと人数増えすぎて、強い魔物も寄ってくるかもしれないからね」
つまり、オメーの席ねーから!
「桜、今回は軽い調査みたいなものだから。そう心配するなよ」
じゃ、蒼真君、あとは愚妹のフォローよろしくぅー。
「桃川君が行くなら、私は行かなくてもいいんじゃないかしら?」
「委員長がいてくれないと、天道君が来てくれなさそうだし」
「龍一ぃー?」
「うるせー、睨むな。今回はついていってやる」
うんざりした顔の天道君だが、とりあえず同行の意思はあるようで一安心だ。
気が乗らない、などの超個人的な理由で協力を辞退できる自由が彼にはある。だから、僕としてはあまり無理強いさせられないから、使いどころが限られるんだよね。
「ねぇ、これ桃川が行く意味あんの?」
「蘭堂さん、確かにこの面子の中だと明らかに僕が足手まといに見えるけどさ」
「素直に心配してやってんだっての!」
「あっ、そうなんだ、ありがとね」
てっきり僕みたいなクソザコナメクジが初見エリアの攻略組みとか、調子乗んなとかいう意味合いかと素で思ってしまった。自覚はあるもんで。
「初めて行くエリアだし、自分の目で使えるモノがあるかどうか確かめたいんだよね。別に『魔力解析』使える小鳥遊さんでもいいんだけど?」
チラッ。
小鳥遊は聞こえないフリをしている。
まぁ、蘭堂さんにはそれらしい理由を語ったけれど、本当の理由としては、そろそろ僕もダンジョン探索に出ないと、みんなに危険なこと命令するくせに自分は、などという因縁が出てきそうだからね。誰から、とは言わないけど。
実に馬鹿馬鹿しいけれど、女のケチってのはそんなものだ。まして、憎い相手となれば尚更。何もなくたって、とんでもない極悪人に仕立て上げるからね。階段の下からパンツ覗いた、とか。
それに、いざという時の備えもようやくできるようになったから、僕自身がエントランスの転移魔法陣を利用しても大丈夫だ。もし小鳥遊が僕を締め出そうとしても、対策できる。
「それじゃあ、メンバーも決定したことだし、明日はこれで砂漠に行こう。いつもの探索は休み。狩猟だけにしておいて、蘭堂さんもそっちに同行して。小鳥遊さんは仕事溜まりまくってるから、僕がいなくてもサボらず働いてね」
翌日、朝。僕ら砂漠探索部隊の6人は、初めての砂漠エリアへとやって来た。
「うーん、マジで砂漠としか言いようがない景色だなぁ」
地平線まで続く砂の海に、ギラギラと照りつける日差し。誰もが思い描くような砂漠のテンプレみたいな景色である。ご丁寧に、遠くの方にピラミッドっぽい遺跡まで見えた。
「ねぇ、ここは外? それともダンジョンの中?」
「多分、ダンジョンだと思うな」
「俺もそう思う。だが、ここは相当の広さだぞ」
「ここ今までで一番広いんじゃないかなー」
メイちゃん、蒼真君、夏川さん、と直感鋭い勢が断言しているので、ここもダンジョンの中で間違いないようだ。真っ当に攻略するなら大変そうだけど、まぁ、探索だけと思えばちょっと気が楽だ。
「おい、さっさと行くぞ」
「ちょっと龍一、一人で勝手に行かない!」
早速、天道くん係が世話を焼いている。やはり連れて来て正解だった。
「とりあえず、あの如何にも何かありそうなピラミッドから調べに行こうか」
あからさまに目立つけど、逆に言えば、それ以外にはマジで何もない。僕らは祠状になっている砂漠の妖精広場を出て、真っ直ぐピラミッドへと進んで行く。
編成は、先頭は不動の夏川さん。次に前衛として蒼真君と天道君の最強コンビ。後衛に委員長と僕が並び、最後尾はメイちゃんと黒騎士レムが固めている。なにこの滅茶苦茶安心できる陣形は。編成だけなら、正に理想的だ。
「……日差しがキツいし、砂の足場も良くないな。次来る時は砂漠装備整えた方がいいかも」
ずっとこの炎天下な砂漠を、学生服に上靴の学生スタイルで進み続けるのは、流石にキツいだろう。また仕事が増えるよ、やったね小鳥ちゃん。
帽子かローブ、ブーツなどが欲しいなーなどと砂漠装備について考えていると、ピラミッドまで到着した。良かった、幻とかじゃなくて。
思ったほど、ピラミッドは大きくはない。スフィンクスも設置されてないし。
年季を感じさせる四角い石材で正確に組まれた正四角錐の建造物は、正にピラミッドと呼ぶ他はない。まぁ、僕はエジプトの本物を見たことはないけれど。
「まずは入口を探すために、適当にぐるっと一周しようか」
「その必要はなさそうだぜ、桃川。見ろよ、お出迎えだ」
「みんな、何か出て来るよ!」
夏川さんの鋭い声が飛ぶと共に、ピラミッドからワラワラと人影が現れる。
「うわー、ミイラだ」
「凄い砂漠っぽい魔物だね」
定番は外せない、とばかりにミイラの魔物が出現だ。多分、ゾンビかスケルトンの亜種だと思う。
ミイラ共は汚らしい包帯のような布をグルグル巻きにした如何にもな格好。ホラーとしては及第点のルックスだけど、ガチの戦闘においては裸同然の無防備である。勿論、武器も手にしておらず、素手だった。
その姿と動きから、ノーマルなゾンビと同等の雑魚だろう。だが、数だけはなかなかのものだ。
「チッ、面倒くせぇな」
天道君が手を翳すと、デカい火球を三連射。炸裂する爆風と吹き荒れる火炎によって、ミイラ共は一掃された。
「なんだ龍一、意外とヤル気あったんだな」
「そんなんじゃねーよ。おい夏川、入口はその辺にあんだろ、さっさと進めよ」
「は、はひぃー」
特に僕が何か指示を出す暇もなく、ミイラは始末され、奴らが出てきたと思われる入り口も発見され、探索は進む。いいねぇ、メンバーが強いと楽ができて。
逆に、このパーティでも僕に仕事ができるような状態なら、相当なピンチだと思うけど。
「それじゃあ、行くよ」
発見された入口は、普通に外へ開かれていた。扉や門の類はなく、その部分だけ石材を置かずに最初から中へと通じるような造りである。
入口を隠すような意図は感じない。ピラミッドだけど、特に中への立ち入りを禁止するようなつもりはない施設なのか。
「……なんか、何もないんだけどぉ」
罠や待ち伏せを全力で警戒して突入していった夏川さんが、非常に物足りない顔で報告してくれる。
彼女の先導で中へ入れば、確かに、何もない。ただ広いだけの空間があるだけで、とてもじゃないが王様の墓という感じはしない。これは見せかけだけのガッカリオブェクトだったか。
「多分、ここはただの入り口なんだろう。本命はこの下なんじゃない?」
殺風景なエントランスのように伽藍堂なピラミッド内部だが、広間の両端には下へと続く大きな階段が備わっていた。
この地下階層からが本番といったところだろうか。
「どっちの階段から行く?」
「夏川さんが選んでいいよ」
「うー、そう言われるとプレッシャーが」
変なところで責任を感じながら、無駄に悩んだ結果、夏川さんは入り口から向かって右側の階段を選んだ。
「うーん、やっぱり何もない……けど、洞窟っぽい?」
安全が確認されて、僕らも長い下り階段を降りて行けば、そこには石造りのダンジョンと天然の洞窟が半々といった感じの様子であった。
「ここ、ちょっと虫の洞窟っぽいね」
「あったね、そんなところも。ちょっと懐かしいよ」
ルークスパイダーがボスだと思ったら横道登場とか、その後モンスターハウス的な罠にかかったり、蒼真君が助けに現れなければ死んでいたヤバい場所だったけれど、最後に明日那の突き飛ばし事件のせいで、印象はすっかり薄い。
「けれど、ここは明らかに人の手が加えられているわ。魔物が掘った洞窟ではなさそうよ」
「うん、何て言うか……坑道って感じ?」
「石炭でも掘っていたのかしら」
「僕はファンタジーらしく、ミスリルの鉱石採掘に賭けるよ」
さて、ここが炭鉱なのかミスリル鉱山なのかは、先へ進めば分かることだろう。
剥き出しの岩肌に、ところどころ補強するかのような石柱。そして、点々と灯る小さな白い発光パネル。坑道のような、作りかけのダンジョンのような、そんなところを進んでゆくと――やはり、最初に異変を察知したのは夏川さんであった。
「多分、この先に魔物がいる。一匹だけど……かなり大きくて、強いよ」
どうする、と無言で問いかける夏川さん。
「でも、ヤマタノオロチほどじゃないでしょ?」
「それは、まぁ、そうだけどぉ」
「じゃあ、挑もう。ちょうど最強のメンバーを揃えて来たんだ」
そんな安易な判断で大丈夫か、みたいな目を僕に向ける夏川さんだけど、この面子でも瞬殺されるようなヤベー奴がいるなら、どの道、僕らは生き残れないんだよね。
「行こう、夏川さん。大丈夫だ、俺達なら必ず勝てる」
「うん、そうだよね、蒼真君! 私も頑張るよ」
蒼真君のイケメンスマイルでヤル気を出している夏川さんの一方で、メイちゃんがこそっと僕に耳打ちしてくれた。
「いざという時は、私が抱えてすぐ逃げるから」
うんうん、やっぱり退路ってのは大事だよね。メイちゃんは本当に僕の求めるところを分かってくれている。
さーて、保身もそこそこに、夏川さんの言う大きくて強い魔物とやらに挑むとしようか。
それから、少し洞窟を進むと、いよいよ僕にもその存在が分かった。
ガツガツガツ、ゴリゴリゴリ。
そんな硬い物を砕いているような、不気味な異音が響き渡ってくる。
「この先は広間になっていて、魔物はそこにいる」
小声で、夏川さんから情報が届く。
ノートの魔法陣コンパスでチェックはしたけれど、この先は別にボス部屋ではない。ただの広間で、そこにたまたま強力な魔物がピンでいるというだけの状況だ。
「突入のタイミングは任せる」
すでに覚悟は決まっているのだろう。夏川さんは蒼真君と二言三言、言葉を交わすと、広間へと進んで行った。
意外にも、僕らが広間に入っても、即座に戦闘開始とはならなかった。
ガツガツゴリゴリと、豪快に音を立てて、この広間の主は食事に夢中だったからだ。
「ねぇ、小太郎くん、あれ、何を食べているのかなぁ」
メイちゃんが割と真面目に聞いて来るのも、分かる。魔物が、何を食べているのか、パっと見では分からないからだ。
広間に陣取っている魔物は、簡単に言うと、輝くミノタウルスだ。
ゴグマに匹敵する人型の巨躯に、雄々しい二本の角。僕らに向けているケツの辺りからは、ちゃんと牛みたいな尻尾も生えているし。
で、ソイツがギンギラギンにさりげなく輝いているように見えるのは、その肉体そのものが光っているのではなく、どうやら体中にクリスタルのような質感の外殻を纏っているからだ。広間を照らす大きな発光パネルの灯りに照らされ、結晶質の外殻はプリズムの如くキラキラ輝きを放つ。
なかなかに派手な見た目のクリスタルなミノタウルス、略してクリスタウルスは、洞窟の壁に顔を突っ込んでガリゴリやっているワケだ。
そう、アイツは何か動物の肉や地面の草などを食べているのではなく、岩肌剥き出しの壁にかじりついている。なに、その岩壁ってそんなに美味しいの? 何味?
「……そうか、コイツは魔石を食ってるんだ」
ついクリスタウルスの目立つ姿に目を奪われがちだが、チラっと広間の周囲を見れば、その岩の壁面には、キラキラと輝く石が星空のように点々としているのに気づける。アレは人工的な灯りじゃない、天然の輝きだ。
赤、青、黄色、と色とりどりに光って見えるのは、ここ最近で見慣れてきた採取品である、魔力を秘めた石である『魔石』に違いない。
そして、クリスタウルスはこの壁にある魔石を喰らっているのだ。
「おい、魔物の観察日記はもういいか?」
「あ、ごめんね天道君、待たせちゃったかな」
「ああ、さっさとやらせてもらうぜ」
黄金の魔法陣から、王剣を抜刀。僕でも分かるほど、濃密な魔力の気配を迸らせる天道君は、なかなかの大物を前にヤル気は満々だ。
そんな彼のヤル気に、食事に夢中だったクリスタウルスもとうとう気づいたようだ。
『勇者』と『王』と『狂戦士』の揃い踏みだ。全員から殺意の籠った気配を向けられれば、どんなに鈍い魔物だってお察しというものだ。
「フゥ……グルルル、ブモォオオアアアアアアアアアアアアッ!」
振り返ったクリスタウルスは、ルビーのように赤く燃える目を輝かせながら、広間を振るわせるほどの雄たけびを上げる。
そしてそれが、戦い開始のゴングであった。




