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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第14章:学園塔生活
202/519

第197話 探索計画

 学園塔生活2日目は、昨日と同じく生活基盤の安定に務める。

 狩りによる食料の確保と並行して、使えそうな素材も集めて来てもらう。ここでいう使えそう、というのは装備やレムにつぎ込むための魔物素材ではなく、材木や植物素材、その他、遺跡にある残骸などである。

 これらを使って、すぐに錬成で作成できそうなモノから揃えていくことにした。

「はい、それじゃあみんなにパンツ配りまーす」

 という僕の呼びかけに、意外なほどみんなが喜んだのは、まぁ、このダンジョンを今日まで生き抜いてきた者からすると当然の反応だよね。

 僕らは着の身着のまま、制服姿でこの異世界ダンジョンへ放り込まれた。着替えはジャージ程度。

 ならば、シャツ、パンツ、靴下などの下着類はどうなのか。答えは、どうにもならない。

 妖精広場の冷たぁーい水で石鹸の実を片手にゴシゴシ洗濯して、同じパンツを穿き続けるのだ。万一、穴が開いたり破けたりしようものなら……

 でも僕とアラクネの蜘蛛糸にかかれば、シャツとパンツと靴下くらいは幾らでも量産できる。サイズの調整も錬成にかければ一発で終わる。

 それでも、流石に18人分の下着一式とサイズ調整はちょっと大変だったけど。あーあ、僕も女子の下着サイズ調整して、みんなのスリーサイズ情報を正確に記録しておきたかったな。

 小鳥遊さんが女子を担当したので、大元の下着を作った後は彼女に丸投げである。ブラに関しては、メイちゃんに水着作った時の経験が生きたよね。

 見事な完成度の蜘蛛糸ブラを手に、若干冷たい目を僕に向けてきた恩知らずには、サラシでもくれてやることにするかな。

「ああー、やっぱ新品は最高だべー」

「靴下って、こんな履き心地だったよな」

「もうゴーマの布きれ巻いた代用品なんて使ってられねーな」

 サバイバル経験者である上中下トリオは、特にジャストフィットの新品下着を喜んでいる。うんうん、靴下とか、汚れると地味にキツいんだよね。アメリカ軍もベトナム戦争でぬかるんだジャングルでソックスがドロドロになったの苦しかったらしいし。

「これはマジで助かるわ、サンキューな桃川」

「二枚あってもフツーにキツかったしな」

 ジュリマリコンビの物言いから、どうやら彼女達は最初からパンツを二枚所持していたことが窺える。どうして二枚持ち歩いているんだ、と思うが、そこはほら、きっと女子には男子には分からない事情があるんだよ。

 しかし、ならば蘭堂さんも豹柄パンツをレムに託しても、もう一枚持っているからノーパンではなかったことになるのか。

 待てよ、それじゃあ昨晩、替えのパンツと思しき黒を僕に一泊二日でレンタルしてくれたということは、今の蘭堂さんは……そうか、だからジャージを着ているんだね。

「ねぇ桃川ぁ、豹いたら豹柄で作れんの?」

「錬成あるから素材あれば大体なんでも作れると思うけど、蘭堂さん豹柄好きなの?」

「桃川はどうなのよ」

「人を選ぶデザインだけど、似合う人には抜群に似合うよね。だから、蘭堂さんにはとてもよく似合っていると思うな」

「へへー、だろー?」

 ええ、そうでございますね。蘭堂さんは豹柄がとてもよくお似合いでいらっしゃいます。ご自分の魅力を理解なさることは、素敵なファッションの第一歩かと。超エロくて僕は大好きです。

「良かったね、小太郎くん。みんな喜んでくれて」

「うんうん」

「何故、私だけサラシなのですか……」

 桜ちゃんはそれで十分でしょ? 僕の作ったブラなんてつけたくないと顔に書いてあったし。

 さて、みんなに下着を配って調整しているだけで、早くも二日目は終わろうとしている。すでに陽は沈みかけ、夕食の時間となる。

 給食係のメイちゃんは当番と、あと臨時の手伝いとして女子勢を率いて、保存食の量産も始めていた。なので、今夜はそれらの試食もかねて、あえて干し肉や干物などを食べることに。さりげなく、ドライフルーツなんかも用意しているあたり、メイちゃんのこだわりを感じるね。

 それにしても、乾燥や漬け込みなどの時間を丸ごとカットできるのは、錬成陣ではできない、『魔女の釜』だけの機能でもある。ちょっとしたアドバンテージがあると、嬉しくなるよ。

 ちなみに、全員で食事をする食堂は妖精広場で固定だ。噴水という水場がある唯一の場所ということで。水はセルフサービス。

 大人数で集まることを想定したかのように、普通以上に広い妖精広場には、幾らでもスペースがあるから、テーブルとイスもセットしたいところだけど、流石にそこまで今日の内にでは手が出なかった。

 なので、とりあえずデカいテーブルを一つだけ作って、あとは芝生に座り込むスタイルになっている。でも、今まではほぼ全員、テーブルすらない状態だったから、凄い進歩だよね。

「みんな食べながら聞いて欲しいんだけど、明日からは本格的に装備を揃えるための探索もしていこうと思う」

 魔物や動物で溢れているダンジョン、特に海辺の無人島エリアに行き来できるので、食料の確保に困ることはない。昨日と今日で、それなりに獲物はとれているし、後は何人かが行くだけで18人分の食い扶持は十分に維持できるだろう。

 空っぽの宝箱は保存容器としては優秀だ。すぐ痛むようなナマモノも冷蔵庫以上に長く保存してくれる。

 他にも、適当な空き部屋を委員長の氷魔法で凍結し、蘭堂さんの『永続化エタニティ』をかけて、冷蔵室も用意してある。学園塔に居る限りでは、食料保存の心配もない。

「欲しいのは、リビングアーマー級の強力な魔物素材に、コア。それと勿論、宝箱もね」

「基本的に強い魔物を狙うことになるけれど、そこは私達自身のレベルアップも兼ねてのことだから、各自、気合いを入れて臨みましょう」

 委員長の言葉に、おおよそ皆は頷いている。ただし、さっさと食べ終わって噴水に腰掛けて煙草吹かしている天道君は除く。

「それじゃ、明日の探索パーティ発表しまーす」

 そうして、僕はすでに設置済みの黒板に、パーティ編成を書き込む。

 黒板は勿論、錬成で作り上げた。教室にあるものよりも一回り以上は小さいサイズだけど、全員で見るには十分な大きさ。そして、これくらいのサイズになると、錬成できるのは小鳥遊小鳥だけ。

 材料は、荒野に転がってた黒っぽい岩。黒板というより単なる石版だけど、とりあえず使うには十分な黒さと書き心地。チョークは、これも荒野に転がってた軽石みたいな白っぽい石。

 なんだか、子供の頃に石を拾って道路にお絵かきしていたのを思い出す感覚だ。

 そんなことより、重要なのは僕と委員長が頭を捻って考え出したパーティ編成である。



第一探索部隊

隊長・『勇者』蒼真悠斗

副隊長・『治癒術士』姫野愛莉

『戦士』中井将太

『重戦士』山田元気

『戦士』芳崎博愛

レム3号機



第二探索部隊

隊長・『氷魔術士』如月涼子

副隊長・『聖女』蒼真桜

『双剣士』剣崎明日那

『魔法剣士』中嶋陽真

『剣士』上田洋平

レム初号機『黒騎士』

レム4号機『ミノタウルス』



狩猟部隊

隊長・『水魔術士』下川淳之介

『盗賊』夏川美波

『騎士』野々宮純愛

レム2号機『アラクネ』



「こんな感じになってるけど、何か質問ある?」

「何か、随分とバラけてるな」

「ねぇ、これ大丈夫かな?」

 手を上げてハッキリと質問はしないけれど、ザワザワしながらパーティ編成についてお喋りしている。

 この反応も当然だろう。基本的には、これまで組んでいた人とは別々になるよう配置しているからね。それだけで、不安感を覚えるのは当たり前だ。

「この編成には理由はあるよ。委員長、説明はお願いね」

「はいはい、みんな静かにして。今までのパーティとバラバラになっているけれど、そう心配することはないわ。ここにいる誰もが、ダンジョンをここまで進んできた実力者なのは間違いないのだから」

 その代り、実力にバラつきはあるけれど。

「全員、一緒に行動したらダメなのか?」

 いまだにザワつく中、はっきりと質問をぶつけてきたのは、やはりというか、蒼真君であった。

 学園塔で仕事のある留守番メンバーを除いた、13人全員を一つのパーティとする、というのは当然の発想だ。そりゃあ二手に分かれた方が探索の効率はいいけれど、安全面を考えれば戦力の分断は最悪である。

「蒼真君は、みんなで一緒に行動した方がいいと思う?」

「……いいや、思わないな」

「どうして?」

「あまり大人数で行動すべきじゃない。そんな気がする」

「そうだよね、それが答えだよ」

 流石、天職『勇者』ともなれば、鋭い直感でそういうのを感じ取れるようだ。

 僕には全く直感的な危機や忌避感を覚えたりはしないけれど、理由の推測くらいはできる。

「このダンジョンは多分、難易度調整されてるからね」

 僕自身の経験と、一時パーティ離脱していたメイちゃんの体験談、それに、他のクラスメイトの話を総合すると、道中の雑魚でもボス戦でも、ちょうど倒せるくらいの強さとなっている。他にも、今回のクラスメイトの生き残り全員が合流した状況などを合わせて考えると、僕らのダンジョン攻略を管理されている可能性というのは非常に高い。

 それが神の遺志によるものか、異世界人の陰謀か、あるいはこのダンジョンそのものに組み込まれているプログラムに過ぎないのか。何にせよ、ダンジョン攻略の難易度管理システムに抵触するような行動は、余計な危険を招きかねない。

「だから、5人前後の編成で、どんなに多くても10人未満には、パーティの人数を抑えたいよね」

「桃川、やはりお前もそう思っているのか」

「まぁ、大体みんな察しているだろうけどね」

 確たる証拠はない。けれど、誰もが察しているからこそ、全員行動は避けようというワケだ。

 勿論、ヤマタノオロチ戦はどう考えても大人数での挑戦が前提のレイドバトルだから、遠慮なく総力戦を仕掛けさせてもらうけど。

「そんなワケで、こういう編成にしたけど、どうかな」

「これでもパーティバランスはとれるようにしたつもりよ」

 まず、パーティリーダーは当然、リーダーシップのある者に任命している。『勇者』蒼真と委員長を、探索部隊の隊長としていることに、文句をつける者はいないだろう。

「あ、あのー、桃川君、なんで私が副隊長なのかな」

 言う割に、あんまり不服そうな顔はしてないね、姫野さん?

 蒼真君に続いて副隊長のポジションが美味しい、この機会を利用してお近づきに、とか考えているのだろう。

「副隊長は指揮に期待するってよりも、回復担当できるから兼任って感じだよ」

「桜と姫野さんは、私達の中でも貴重な治癒魔法の使い手よ。より大きな危険の伴う探索部隊にそれぞれ配置したし、戦闘では後衛だから、戦況もよく見えるはずよね」

 いざって時は、撤退の決断くらいは下して欲しいね。退路も確保しといてくれると、グッド。もっとも、桜と姫野さんには、あんまり期待はしていないけれど。

「でも私、大した治癒魔法は使えないし……」

「だから蒼真君がいる第一部隊にしたんだよ」

 姫野さんが純粋な天職『治癒術士』じゃないことは、ヤマジュンとの話でとっくに知っている。眷属である彼女が、今後、凄い治癒魔法を習得する可能性はほぼないだろう。

 だが、それでも初期スキルである『微回復レッサーヒール』は即効性のある治癒魔法として有効だ。

 姫野さん自身は回復役として最低限の能力しかないけれど、蒼真君が一緒にいれば大体どうにかなるだろう。

「安心してくれ、姫野さん。君のことは、俺が必ず守るから」

「そ、蒼真君……ありがとう」

 蒼真君、そういうところだよ。

「攻撃魔法を使える後衛が薄くなってしまうけれど、その分、前衛の戦力はどちらも同じくらい充実しているわ。想定されるリビングアーマー級の魔物でも、十分に対抗できるはずよ」

 第一部隊はスーパーエースの蒼真君を除いても、中井、山田、マリ、と戦士クラスが三人揃っている。

 第二部隊は剣崎、上田、中嶋、と剣士クラスが三人。でも蒼真君がいないことを考慮して、黒騎士とミノタウルスのレム主力機体を二機もつけている。

 戦力的なバランスはとれているはずだ。

「なぁ、俺が隊長ってのはホントにいいんだべか?」

「狩猟部隊だし下川君でも大丈夫でしょ」

「扱い雑ぅーっ!」

「安心してよ、下川君はちゃんと指揮能力あると思うし、狩りも慣れてるし、水魔法の拘束はこういうのに最適だし」

「そ、そーかぁ?」

 ヤマジュンも評価していたし、実際、僕が抜けた後にあのパーティでリーダー役を務めていたし、単なる世辞ではない。

 少なくとも、夏川さんと野々宮さんよりかは、状況判断に優れると思うし、基本的に僕と同じビビりだから積極的に危険も避けてくれるだろう。

 だから、下川には是非とも経験を積んで、こういう方向での成長もして欲しい。何も強力なスキルを授かるだけが、成長ではないからね。

「しかし、本当にこんな編成で良いのですか? 慣れない者同士で組むのはかえって危険ですし、何より、信頼も置けません」

「桜ちゃん、いくら大好きなお兄ちゃんと別なチームになったからって、ワガママを言ってはいけませんよ?」

「私は至極、真面目に言っているのです、桃川っ!」

 なんだよ人が折角、子供に接するように優しく諭してあげたっていうのに。そんなに怒らなくても……あっ、委員長、そんなに睨まないで、これは売り言葉に買い言葉というか……

「桜の言うことも分かるわよ。でもね、これから私達は一緒に戦う仲間なの。ここにいる全員がそう」

「別にプライベートで仲良くしろとは言わないけど、戦闘に関しては誰とでも連携とれるようにしとておかないとまずいでしょ」

 ダンジョンでは何が起こるか分からないし、ボスだって何をしてくるか分からない。常に決まったメンバーだけで戦いに臨めるとは限らないのだ。

「それに、ヤマタノオロチと戦う時は、複数のチームに分かれることになると思う」

「そのための練習、というワケですか。人にはやらせて、自分はやらないくせに」

「ん、それって留守番してる小鳥遊さんのこと? それとも今日は寝て過ごしてた天道君のこと?」

「いい、桜。こうして憎まれ口を叩く桃川君にも、いざという時に治癒魔法をかけてあげられるのか、ということよ」

「私が好き嫌いで、人の生死に関わることで手を抜くと思うのですか」

 テメーはゴグマ戦の時にメイちゃんに一回もヒール飛ばさなかった前科持ちだろが。

「桃川君、やめて」

「まだ何も言ってないよ」

「お互いに信用するためには、実際に背中を預けて戦うより他はないのよ」

「はぁ……まぁ、いいでしょう。涼子の言う通り、行動で示さねば人は納得しないものですからね」

 これまでの行動の結果が、僕が桜ちゃんに抱くドン底評価なんですけどー?

「桃川君」

「言ってないよ」

 委員長、もしかしてテレパシー系のスキルでも習得したのかな。釘を刺されるだけの以心伝心って、ロマンチックの欠片もないよ。

「ともかく、明日はまずこの編成で戦ってもらうことにするから。これでずっと固定ってワケじゃないし、編成は色々と入れ替えていくけど、まぁ、最終的にはみんなで仲良く戦えるように頑張ろう」

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― 新着の感想 ―
多分目がモノを言うを地でやってたんだろうなぁ。 委員長がんばれ
[良い点] 小太郎の桜に対する態度がちょうどいいぐらいだと思えました。
[良い点] なんかちょっと桜ちゃんが可愛い
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