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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第13章:学級会
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第192話 委員と係(1)

 結論から言うと、転移魔法陣は無事に発動した。

 分身の僕を行ったり来たりさせて、転移の安全性と向こう側を確認してきた。

 ここから飛んで出た先は、ボス部屋ではなく妖精広場のようだった。良かった、これでボス部屋に繋がっていたら、リポップしたボスと鉢合わせ、とかありそうだったし。

 それで、このエントランス一階の転移魔法陣からは、四つの場所へと飛ぶことができる。

 一つ目は、僕とメイちゃん待望の海辺の無人島風エリア。アルファの元になった赤ラプターに襲われ、大山杉野コンビを相手にした、ここから一つ手前のエリアということになる。とりあえず『無人島エリア』と呼ぶことにした。

 二つ目は『暗黒街』と呼ばれている、常に夜のように暗い不気味な廃墟の街。ここは、蒼真パーティが攻略してきた、手前のエリアである。

 三つ目は、荒れ果てた宮殿エリア。メイちゃんがまだ蒼真パーティに居た頃に通った、白い綺麗な宮殿エリアを丸ごと廃墟にしたような場所らしい。ここは、天道チームが通って来た手前のエリアだという。

 そして四つ目は、砂漠エリア。見渡す限りの広大な砂漠と、点々と遺跡らしき建物が残っている。この砂漠エリアだけは、誰も見覚えがないそうだけど……パターン的に考えると、ここも一つ手前のエリアという扱いなのだろう。

「要するに、これまでのエリアでレベル上げしたり装備を整えてから、ヤマタノオロチに挑んでねってことか」

 ますます人為的な介入を疑う展開だけれど、今の僕らにとってはこの上なく役立つ。

 ひとまず、これだけのエリアに戻れるならば、ヤマタノオロチ討伐の準備もできそうだ。

「はい、それでは第二回、二年七組学級会をはじめまーす!」

 早くも第二回となった学級会の開会を、僕は宣言する。

「今回の議題は、ここで生活していくにあたってのルール決めと、それぞれの役割分担よ」

 小鳥遊転移魔法によって、本格的にこの塔を拠点として、ヤマタノオロチ攻略に向けて活動していく方針が固まった。

 かねてより委員長が気にしていた、共同生活においての取り決めを、いよいよしっかり固めようというわけだ。

 とはいえ、僕らは一生ここで暮らしていくつもりはないから、ここでの生活は基本的にヤマタノオロチ攻略のための準備を中心に進めていくことになる。その一方で、ただ生活するだけでも色々と仕事はあるから、その辺を含めて、不公平のないように、それでいて適材適所になるように、割り振りを決めていく。

 天職という力がある以上、女子は非力なので危険なことはさせずに家事中心で、とかはありえないし。

「とりあえず、原案は僕と委員長で決めたから、まずはこれをよく読んで欲しい」

 転移魔法の開通と、そこから通じる四か所のエリアの簡単な周辺調査をしている間に、僕と委員長が話し合ってさっさと原案は作っておいた。こういうのは、先におおまかに形にしておかないと、いつまでたっても完成しないからね。

 というワケで、簡単なルールと割り振りを委員長が書いてくれたノートを、みんなで回し読みしてもらおう。

 原案の内容は、以下の通り。



校則1・学級会の決定に従うこと。校則違反、その他の問題が発生した場合は、学級会を開き、そこで処分を決定する。


校則2・恋愛禁止。告白、またはそれに類する宣言、行動を禁じる。


校則3・学園塔内での武装解除。各自の武器は所定の武器庫に保管すること。


校則4・決闘禁止。如何なる問題が発生した場合でも、暴力による解決は許されない。


校則5.無断外出禁止。学園塔外へ出る時は、両委員長の承認を必要とし、行く先・目的・予定の周知を徹底すること。



男子クラス委員長・桃川小太郎

女子クラス委員長・如月涼子


風紀委員長・蒼真悠斗

風紀副委員長・蘭堂杏子


保険委員長・蒼真桜

保険副委員長・姫野愛莉


広報委員長・夏川美波


装備係・小鳥遊小鳥


ヤマタノオロチ監視係・桃川小太郎


清掃係・当番制


洗濯係・当番制


給食係・双葉芽衣子 当番制


天道くん係・如月涼子



 とりあえず、こんな感じである。

 校則に委員、係、と如何にも学校的な名前になっているのは、何て言うか、僕らはまだ学生なんだという、自分のアイデンティティを忘れないための、せめてもの抵抗だ。

 これで風紀委員を監察官、保健委員を衛生兵、給食係を補給部隊、などと呼んでいれば、ただでさえ荒んだダンジョンサバイバル生活が、より過酷な状況みたいな気持になってしまいそうだし。

 こんな状況だからこそ、少しでも学園生活という日常を思い出させる名前が欲しかった。

 なんて、甘えた後ろ向きな考えかと思ったけれど、委員長も「いいんじゃないかしら」と素直に賛成してくれたので、これで行くことにした。

 さて、僕が委員長と並んで、男子委員長の肩書きを手に入れたのは、半ば形式的だけど、立場を明確にしておきたかったからでもある。僕は委員長、その他大勢の男子生徒ではない。貴方とは違うんです。

 ともかく、名実ともにこれでひとまず僕は、この18人だけの二年七組においての確かな立場を確立したことになる。当面はこれを維持できるよう、支持率には気を付けようと思う。

 校則に関しては、とりあえず必要最低限のことだけ書くことにした。

 基本的に学級会で物事を決めるという誰もが納得する素晴らしい民主主義制度に、すでに決定した恋愛禁止。

 他に、『殺すな、犯すな、盗むな』という人間の社会生活を営む上で最低限度のモラルも一応、校則として盛り込んでおこうかと思ったんだけど、

「桃川君、それはないわ」

 委員長が僕のことを、心から人間という存在を信じていない哀れな人を見るような目で言われてしまったので、省くことにした。

 まぁ、現代日本人なら忌避して当たり前の大罪だから、これらをやらかすような状況なら、校則に定められていようがいまいが、関係ないほど切羽詰まってるだろうしね。抑止力にならないなら、わざわざ定める意味もないか。

 そこで、少しでも『殺すな』つまり殺人に発展する可能性を下げるために、次善の策として校則3の武装解除を定めた。校則5は念のための名目に過ぎない。重要なのは実際に武器を手離させることのできる校則3である。

 天職の力があれば、素手でも人を殺せるだけの能力はほとんどみんな持ってはいるけれど、それでも武器が手元にあるかないかでは、大違いだろう。

 ここにはどうせ僕ら以外の人間はいないし、武器庫の管理も適当で問題ない。とりあえず学園塔内で武器を手離しさえしていれば良いのだ。

 あ、学園塔っていうのは、勿論、この巨大妖精広場と転移魔法陣を要する、僕らの拠点となるここの塔のことだ。

 全校生徒18名、クラスは二年七組のみ。それでも、ここに僕らという生徒がいて、一つ屋根の下で集団生活していくならば、ここは学園なんだ。

 僕としては、みんなにはここでの生活が学校にいる頃と同じような感覚でいてもらいたい。

「――それじゃあ、何か質問ある?」

「小太郎くん、委員長就任おめでとう」

「私は納得いきません、ちゃっかり委員長になるなど……それに、何故、私が兄さんと一緒に風紀委員になっていないのですか。蘭堂さんなど、最も不適格な人選です」

「なんでウチが風紀委員になってんのー? 自分でガラじゃないとは思うけど、人に言われるとフツーにムカつくからな、蒼真桜」

「あのー、広報委員ってなにするのー?」

「装備係って、小鳥だけなの……?」

「ヤマタノオロチ監視係って、桃川お前ずっと見張ってるつもりだべか」

「おい……天道くん係ってなんだコレ、なめてんのか……」

 流石に名指しで指定される話だから、みんなからの質問も活発である。

「まぁまぁ、みんな順番に説明していくから、落ち着いて聞いてよ。あ、委員長だけは先に天道君に説明してきてね。天道くん係として」

「はぁ、しょうがないわね。アイツの面倒を見れるのは私しかいないし」

「だからそのふざけた係はやめろ」

「はいはい、文句は聞いてあげるから、ちょっとこっちに来なさい、龍一」

 と、キレかかってる天道君を難なくズルズル引きずって隔離していった委員長の顔は、心なしか晴れやかである。

 うんうん、そうだよね、天道君の面倒を見るのは委員長の仕事であり、生き甲斐だからね。彼女だって色々と苦労して胃に穴が空きそうになるほどストレスを溜めているわけだし、こうして発散できる機会は作ってあげないと。校則で恋愛は禁止にされているけど、二人きりになってはいけないとは書いてないからね。

 そんな感じで、天道くん係は委員長の精神安定剤的な意味合いもあるけど、一番の目的は彼の特別扱いを公のものにするためだ。

 というのは、天道君がアレな感じで特別扱いな生徒だからではなく、この状況下でも真っ当に協力を求められそうにない人物だからである。要するに、僕がクラス委員長の肩書きにかこつけて、一方的に命令はできないってこと。

 こうして曲がりなりにもルールを決めたなら、それを守らなければ反感が生まれる。でも、根っからの不良生徒である天道君には、そういうのは最悪に相性が悪い。気が向けばやってやってもいいし、気に入らなければやらない。自分のワガママを貫き通す覚悟が決まっているのだ。

 実際、僕は天道君が掃除当番してるところ、見たことないし。何回か、委員長に引きずられて渋々やってたのを目撃できたくらい。

 そんなアウトロー上等な天道君は、だったら最初から特別扱いとしてルールの例外として定めおこうというワケだ。みんなとしても、委員長が責任を持って天道君にケチをつけてくれるとなれば、ある程度の溜飲は下がるだろう。

 そういうワケで、天道君は委員長の監視下において、自由行動を許可している。勿論、必要に応じて頼みごとはできるだけしてみるし、ヤマタノオロチ討伐戦には必ず戦ってもらうけど。

「じゃあ、天道君のことは委員長に任せておいて、みんなの質問には僕が順番に応えていくよ。だから、とりあえず蘭堂さんと桜は喧嘩するのやめてね」

「何をいきなり、呼び捨てしているのですかっ! そんなのを許した覚えはありませんよ!」

「えー、でも桜だって僕のこといつの間にか呼び捨てじゃん? てっきり、そういう仲になれたんだと思ってたよ」

「ふざけたことを。貴方は最早、敬称をつけるにも値しないのだと、言わなければ分からないのですか」

「僕も同じ気持ちだよ」

「桃川、いい加減にしろ! 桜も……あまり、つまらないことで揉め事は起こさないでくれ」

「あはは、見てよメイちゃん、委員長が不在だから蒼真君がツッコミ役になってくれたよ」

「でも委員長ほどじゃないよね」

「うんうん、もっと必死さが欲しいよね」

「おい、何でお前は当事者のくせに他人事みたいな顔していられるんだよ」

「いやぁ、蒼真君が妹を止めに来てくれたから、僕の出番はもうないかなと」

「誰のせいでこうなったと思ってる……」

「つーか、大体、蒼真のせいじゃん? 人のことにケチばっかつけてさ、それでちょっと言い返されて逆ギレとか、煽り耐性低すぎでしょ。兄貴ならちゃんと責任もって妹の面倒くらいみとけよ」

 おっと、ここで割とマジな感じで蘭堂さんがブッ込んで来たぞ。

 そう、実際のところ、蒼真桜がギャーギャー騒ぐから、炎上案件になるわけで。大人しくしていてくれれば、大体の事は穏便に片が付いたと思っている。

 でも、それを言っちゃあ、戦争かも……

「分かった、蘭堂さん。揉め事にならないよう、注意させる」

「兄さん! こんな女の言い分を!」

「桜、お前が全て悪いとは言わない。けれど、もうここにいる全員で協力していくことは決まったことだ。余計な諍いは起こすわけにはいかない……だから、俺を風紀委員長にしたんだろう」

「よく分かっているじゃないか、蒼真君」

 その通り。蒼真君、君は僕のことをカケラも信じちゃいないけれど、僕は君のことを結構、信頼してるんだよね。

 言わずもがな、蒼真悠斗は正義漢だ。委員長を除けば、クラスで風紀委員の肩書きに最も相応しいとも言える。それでいて、桜ほど頑固でも融通が利かないわけでもない。

 彼の正義が揺らぐとすれば、それはきっと、僕という幼馴染を殺した犯人に対する憎悪くらいのものだろう。逆に言えば、蒼真君は僕以外の全員には、持ち前の正義と公平性とで見てくれるはずだ。まぁ、前科モノな上中下トリオあたりは怪しいけど。

「風紀委員には、今みたいな争い事を率先して止めて欲しいんだよね。治安維持、と言えば大袈裟だけど、生活する上で色んな揉め事を解決して欲しいなと。で、蒼真君なら、そういうのに一番適任かなと、僕も委員長も思ってる」

「じゃあ、なんでウチは副委員長なワケ?」

「そりゃあ勿論、それが一番公平だからさ。これで蒼真桜が副委員長だったら、あっという間に風紀委員という名の特高警察だよ」

「桃川、お前そういうところだぞ」

 おっと、早速、風紀委員長様から指導が入ってしまった。

「でもさ、綺麗すぎる川に、魚は住めないって言うでしょ?」

「まぁ、確かに……桜は少し、固すぎるところはあるし」

「に、兄さん、そんな風に思っていたのですか!?」

 えっ、そんな風に思われてないと思っていたのかよ桜ちゃん、あの態度で?

「蒼真君が厳しめの担当で、蘭堂さんがゆるめの担当って感じかな」

「ええー、そんなんでいいのかよ桃川ぁー」

「そういうところが良いんだよ。それに、蘭堂さんなら女子にも平気で言えそうだし?」

「蒼真とかあんま絡みたくないんだけどぉ」

「適当に取り成してくれれば、それでいいから。いざって時は、学級会開くし」

 実のところ、蘭堂さんの風紀副委員長の抜擢は、パワーバランスをとるためだ。

 僕には、いや、恐らくみんなが薄々感じているとは思うけれど、ここに集った18人にはすでに派閥が形成されている。

 蒼真悠斗のハーレムを中心とした勇者派閥。

 そして、僕の寄せ集め派閥。

 人数的には僕の方が多いけれど、結束が固いのは圧倒的に蒼真ハーレムの方であろう。数の桃川派と、質の蒼真派。そんな感じ。

 で、そんな蒼真派閥の女子から風紀副委員長を選んだなら、桜を選んだのとそう変わらない結果となってしまう。つまり、身内贔屓である。

 僕は蒼真君の人柄を信じてはいるけれど、それも完璧とは思っていない。彼も男だ、きっとハーレムメンバーが問題行動を起こしても、公平に裁くことよりも、庇う方を優先してしまうだろう。実際、剣崎の殺人未遂を蒼真君が追及したことはないそうだし。

 そういう点でも、蒼真ハーレムの女どもにも一切の情け容赦はない蘭堂さんがいれば、両派閥にとって公平性が保たれるということだ。

 それに、蒼真君と蘭堂さんの二人なら、意見の違いで対立しても、即座に殺し合いにまで発展するようなことにはなるまい。ほら、僕と桜で風紀委員組んだら、速攻で決闘案件だよ。

「だから、引き受けてくれるかな、蘭堂さん」

「まぁ、桃川がそこまで言うならいいけどぉ」

「ありがとね、蘭堂さん」

 如何にも渋々といった感じだけれど、了解してくれてなによりだ。

「それじゃあ、蘭堂さん、これからよろしく」

「あー、そういうのいいよ、蒼真。あんまベタベタしたら、アンタの女子から睨まれるし」

 爽やかな笑顔で差し出した蒼真君の握手を、うんざりした表情で断る蘭堂さんである。

「ええっ、ど、どういうことだよそれ」

「自分で考えなー」

 おお、蒼真君が見事な鈍感力を発揮しているぞ。しばらくは、そのままでいてくれた方が助かる。なにせ、今は恋愛禁止だからね。

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