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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第13章:学級会
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第189話 学級会(5)

 さて、僕と勝の親友コンビによって樋口が倒された話も終わり、本当に僕が殺してきたクラスメイトは最後となった。

「それで、他に誰か殺したことある人は?」

 僕の気軽な問いかけに、みんなは重苦しい沈黙をもって応えてくれる。あれー、もしかして、ガチで人殺したことあるのって、実は僕とメイちゃんだけ?

 そんなわけはないんだけどなぁ……

「ふーん、ホントにみんな誰も殺さずにやって来たんだ? 自白するなら今の内だよ」

「桃川君、どうして私を見るの」

「いやだって委員長、殺人罪の次の話は、殺人未遂になるよ。自白するのと、告発されて話すのとでは、印象が違うと思わない?」

「はぁ……さっき話したからいいかと思ったのだけれど、それもそうね、これもケジメだと思って話すわよ――美波!」

「ひゃい!?」

 唐突に委員長に呼ばれて、悪くない『盗賊』こと夏川さんが素っ頓狂な声をあげていた。

 夏川さんさぁ、この話の流れで何で自分は蚊帳の外にいると信じているかのようなとぼけた顔をしていられるのかな。

「改めて言うけれど、私と美波は以前、負傷した双葉さんを見捨てたわ」

「うぅ……ご、ごめんないさいぃ……」

「もう、そのことは別にいいのに」

 メイちゃんは本心から気にしていなさそうだが、罪を許すか許さないかとは別に、犯行の動機解明と事件の全貌を明らかにするのは大切なことである。そして、こういう事があったんだ、とこの場にいる全員に周知しておくことに意味があるのだ。

「どう思いますか、コメンテーターの蒼真君?」

「……何故、俺に話を振る」

「そりゃ勿論、自分の仲間の罪に対してはどう思っているのかなって、気になるでしょ」

 君に散々、罪科を糾弾された身としては。

「俺には何も言えない。何を言っても、綺麗事にしかならないだろう」

「えー、そんならしくない。もっとこう、非常に身勝手な犯行で情状酌量の余地はない、メイちゃんを見捨てた委員長と夏川さんは死んで詫びろ、俺は絶対に許さない、とか言ってよ」

「誰が言うか」

「僕には言ったくせにー」

「黙れ。どの道、ここでの罪は問えないのだから、何も言う意味はないだろう」

 おっと、僕が無罪判決を勝ち取った理論を、今度は蒼真君が言うとは。やっぱり、キレてなければ普通に頭が回るよね、蒼真君。

「まぁ、流石の委員長もこれくらい追い詰められれば、人を見捨てることもあるってことだよね」

「自分の無力さを恥じるわ」

「あの状況じゃあマジで見捨てる以外に選択肢はないよね。僕も最初の頃のメイちゃんには苦労させられたよ」

「だ、だからあの頃の話はしないでーっ!」

 懐かしいなぁ、二人で一緒に痩せた赤犬を槍で刺して、経験値獲得しようと頑張ったりしたよね。

 感傷に浸りつつも、委員長がメイちゃん見殺し未遂事件について理路整然と語り終えてくれたので、次の話題に映って行きたいと思う。

「さーて、他に殺人未遂やらかした奴はいるかーい?」

 返って来るのは、やはり重い沈黙のみ。

 いやいや、絶対いるでしょ、殺人未遂やらかした奴。それも、僕に対しては絶対に隠しておけないほど、犯行が明らかになっている奴がさぁ。

「黙秘権を行使するなら、黙ってさえいればバレないような罪じゃなければ意味ないよね。すでに発覚してるのにだんまりを決め込むのって、一体どういう心境なんだろう――ねぇ、剣崎さん?」

「っ!」

 ビクリと肩を震わせる剣崎明日那。

 顔面蒼白でひたすら俯いている姿は、なるほど、罪の意識はあるようだね。

「明日那、悪いことは言わないわ。このまま桃川君にいやらしく告発されるよりも、素直に自白した方が貴女のためにもなるわよ」

 えっ、ちょっといやらしいって何さ。確かに、やらしい自覚はあるけれど、でも、僕のいやらしい感情はメイちゃんと蘭堂さんの二人にしか向けられてないからね!

「くっ……わ、私は……」

 剣崎は委員長の言葉を聞いて、思いつめた表情ながらも口を開いた。

「剣崎明日那は転移の直前に僕を突き飛ばして置き去りにしたんだ。明確な殺意があり、非常に身勝手な犯行で情状酌量の余地はない、死んで詫びろ、僕は絶対に許さない」

「桃川君、お願いだから自白くらいさせてあげて!」

「いやだって、なかなか白状しないから」

 蒼真君はじめ、ハーレムメンバーの皆さんは剣崎が語り出すまで待ってあげられる優しさがあるだろうけど、僕にはそんな情けをかけてやる義理はないし? 自分の犯した罪くらい、さっさと喋れ、キリキリ吐け。

 と、決して嫌がらせのためだけに、この話題を振ったワケではない。

 ちょうどいい機会だから、ここにいる全員にしっかり周知しておきたいんだよね。あの剣崎明日那がガチでシャレにならない殺人未遂やらかしました、ってね。蒼真ハーレムヒロインズには気を付けよう。

「本当のところ、どうして僕を突き飛ばしたのか、聞きたいと思っていたんだよね」

 全員に当時の状況を説明してから、僕は核心的な問いをした。

 剣崎明日那が僕のことを嫌っているのも、不信感を抱いているのも知ってはいたが、だからといって自ら手を汚すような真似をわざわざするだろうか。

 これでオナニー事件のように言い争っている最中というなら、怒りのあまりに手が出たという事態になってもおかしくない。しかし、ピンチのところを『勇者』蒼真君の登場で助けられ、無事にみんなで転移できるよねという、あのタイミングで僕を排除する犯行に及んだのは、今にして思えばかなりの不自然さだ。

「ちょうどいい機会だから、教えてよ、剣崎さん。どうして僕を殺そうとしたのか」

「そ、それは……分からない」

「はぁ?」

 思わずキレそうになる剣崎の解答だったけれど、被害者である僕以上に怒りを迸らせているメイちゃんの姿を見て、逆に冷静になってしまった。

 うん、怒るのは分かるけど、今この場で殴りかかるのはやめようね、メイちゃん。

 身振りで彼女を止めつつ、僕はさらなる追及をはかる。

「分からないってなに? もうちょっと上手い言い訳は思いつかなかったのかな」

「違う! 私は、あの時のことを、本当に覚えていないんだ……どうして、自分があんなことをしたのか、自分でも、よく分からない……」

 頭を抱えて苦悩する迫真演技――というワケでもなさそうだ。

「桃川君、明日那はあの時、かなり錯乱していたわ。私達も転移した直後に問い詰めたけれど、はっきりとしたことは何も聞けなかったのよ」

「ふーん、あまりにも突発的な犯行だったから、自分自身でもよく分かってないと」

 いいだろう、そこは認めてもいい。僕を突き飛ばす瞬間、剣崎の頭の中が真っ白だったとしても、それほどおかしな精神状態ではない。

 重要なのは、その前段階。ここで僕を突き飛ばそうと、判断してしまったその理由にある。

「まぁ、僕があの時、随分と剣崎さんに恨まれて、怪しまれていたのは知っていたけど、蒼真君が助けに入ってくれたあんなタイミングでやらかしたのが、違和感あるんだよね」

 どう考えても、その後に殺人罪の追及は免れえない。まさか、全員から手放しで僕を排除したことを賞賛される、とは思っていないだろう。

「どうかしら。あの頃の明日那はかなり桃川君を敵視していたから、無防備に背中を向けてしまったから、手を出してしまったのかもしれないわ」

 なるほど、隙を晒した僕が悪いと。

 そこは重々、反省しているところだ。伊達にメイちゃんにハグされて転移されてないよ。ただ豊満な肉感を楽しんでいるだけじゃないよ、ホントだよ。

「チャンスだと思ったからヤった、っていうのはおかしくないか……」

「明日那は双葉さんが桃川君の呪いで操られているとか、自分達も洗脳しようとしているとか、そういう懸念を抱いていたのよ」

「えー、なにそのデンパな被害妄想は」

「私もそこまではないと思うけれど、ありえないとも言い切れないでしょう」

 なるほど、どうやら僕が思っていた以上に、警戒心が強まっていたようだ。早くコイツを何とかしなければ洗脳される、そしてエロ同人のように乱暴されるとか思ってたワケか。

 僕からすれば予想の斜め上を行く変態的発想ではあるが、うっかり信じちゃっていれば、後先考えずに、チャンスとみて僕の排除を衝動的に――といったところか。

「うーん……まぁ、今はそういうことにしておいてあげるよ」

 もう少し突っ込んだ説明を委員長に求めたり、剣崎に聞いたりもしたけれど、これ以上、信憑性のある動機解明には結びつかなかった。

 確かに、それほど不自然ではない。だが、心から納得もできない感じ。気にはなるが、これ以上この場で追及しても仕方のないことだろう。

「ちなみにさ、あの転移の後って、荒れなかった?」

「あまり思い出したくないわね」

「委員長がとりなしてくれなかったら、私、殺してたよ」

「委員長マジでありがとう」

「そう思うなら、桃川君はちゃんと双葉さんの手綱を握っていてちょうだい」

 任せてよ、僕とメイちゃんの信頼関係は完璧だから。僕がGOサイン出せば、今すぐにだって剣崎を八つ裂きにしてくれるに違いない。

 逆に言えば、僕が指示しなければ、メイちゃんだって今は機ではないと抑えてくれるはずだ。

「それで、言い訳の他に、僕に言うことはないのかな剣崎さん?」

「わ、私は……お前のことは、今でも怪しいと思っているし、信用もしていない!」

「メイちゃん、剣崎さんが決闘で勝たなきゃ謝る気はないって」

「任せて、すぐに全裸で土下座させてあげる」

「明日那! 何でもいいから今すぐ謝りなさい!」

「ヒッ……ご、ごめんなさい……」

 ふむ、どうやら剣崎はいまだにメイちゃんに対するトラウマを克服できてはいない模様。いいよね、暴力による恐怖の支配っていうのは簡単お手軽で。

「桃川、いい加減にしろ。この場で告白した罪は問わないというなら、明日那が謝罪する必要もない」

「蒼真君はさ、無罪になるからと自分の罪をしらばっくれる女と、それでも誠心誠意、罪を認めて謝罪する女の、どっちがタイプかな?」

「ふざけるな! お前だって一言たりとも謝ってなんかいないだろう」

「当然だよ、僕は襲ってくる敵を倒しただけ、正当防衛だから」

 でも、剣崎明日那はどうだろうね。いくら僕の存在が怪しかろうが、あの時点では仲間だった。明確な悪事の証拠もないというのに、個人的な感情で仲間を手にかけるのは、誰がどう見ても罪だよ。

「桃川、お前は――」

「やめてくれ、悠斗……いいんだ、これは私がしでかしたことだから……」

「明日那……」

 ほう、剣崎なかなか健気なところがあるじゃないの。まさか自分から蒼真君の止めに入るとは。乙女心的には、自分の為に怒ってくれただけで大満足みたいな? その辺の気持ちも、是非とも根掘り葉掘り聞き出したいところだけど、今そういう雰囲気じゃないね、残念ながら。

「桃川、私が悪かった……本当にすまない、許してくれ」

 有言実行、好きな男の手前、剣崎はとうとう頭を下げて僕へと謝罪した。

「うん、お前のことは絶対許さない。このダンジョンから出たらちゃんと落とし前つけさせてやるから、覚悟しとけよ剣崎」

「桃川ぁーっ!」

「蒼真君、勘違いしないでよね。無罪になるんじゃなくて、処分が保留になるってだけだから」

「ここが落としどころよ、悠斗君。桃川君も、これで矛は収めてくれるわね」

 委員長の仲裁も手慣れたものだ。この学級会が始まって何回目だよ。経験値ガンガン上がってる感じだね。

 ともかく、剣崎明日那の殺人未遂の一件は司法取引の材料とさせてもらおう。本当にみんなでここから脱出できた時、僕を裁こうとするならば、剣崎も道連れだ。

「ついでに、蒼真君が僕のこと怒り狂って斬り殺そうとした件も、貸しにしとくから」

「おい、あんな状況で――」

「悠斗君、後先考えずに手を出してしまったのは事実だから」

「貸しにしとくから」

「……分かった、今はそれでいい」

 サラっと流されそうだったけど、蒼真君がレイナ殺しの現行犯で僕を殺そうとしたのも普通に殺人未遂だからね。司法取引の材料は、多ければ多いほどいい。

 とりあえず、僕が知るところの殺人未遂はこの辺だ。となると、次の罪状は……

「それじゃあ、他に告発されそうな奴は――」

 チラリと視線を向ければ、次に目を逸らしたのは下川だった。その隣の上田は俯き、さらにその隣の中井は寝たふり。

 なるほど、告発される覚悟はあるようだね。

「下川君」

「はい! マジですみませんでした! ほんの出来心だったんです!」

「上田君」

「あの時はどうかしていました! 本当はあんなコトなんてするつもりはなかったんです!」

「中井君」

「でも小鳥遊さんを選んだのは下川だからぁ!」

「蒼真君、判決は?」

「あの時、俺はお前達を見逃したが……どうやら、間違いだったようだ」

「三人とも死刑だって」

「おいおいおい、ちょっと待て桃川! ここで謝れば無罪なんだべ!?」

「話がちげーぞ!」

「俺らなんにもやってねぇだろぉ!?」

 あーもう、ギャーギャーうるさいなぁ。しょうがないじゃない、殺人に比べて、強姦ってのはイメージ面ではさらに悪い罪状だから。

「ごめん、下川君……僕では君達の弁護はこれ以上できそうもないよ」

「諦めんの早ぇーべや桃川! 俺、お前のことちょっと信じてたんだぞぉ!」

 おっと、蒼真君の殺意のオーラにあてられて、割とマジ泣き寸前になっているぞ。

 一方、この件については一番の当事者である小鳥遊さんは、特に何か発言することはなく、如何にも当時の状況を思い出して恐ろしい、とでもいう涙目で震えながら、ここぞとばかりに蒼真君に抱き着いていた。

 果たして、その行動が電気椅子のスイッチを押すに等しいってことを、彼女は理解しているのだろうか。

 抱き着く小鳥遊さんを優しげに蒼真君が撫でる反面、彼の怒りのボルテージはぐんぐん上がっているのを感じるぞ。

 これはあんまりふざけてないで、そろそろ真面目に弁護に入ってやらないとまずいかもしれない。

「とりあえず、三人とも深く反省しているようだから、許してあげてよ小鳥遊さん」

「ううっ、ふぇえ……」

「沈黙は肯定と受け取るね」

「ダメーっ!」

 なんだよ、喋れるじゃないか。ただの泣き真似だったのかな。

「じゃあ、何か言うことある?」

「わ、私……許せないよ、あんな酷いこと……すっごく、怖かったよぅ……」

 うーん、なるほど、この弱々しくも健気に告白する小鳥遊小鳥の姿は、これ以上なく暴漢に襲われた乙女の反応として模範的なほど。これを見れば、誰もが彼女を助けたくなるし、慰めてあげたくなる。同時に、こんな可愛くて良い子を襲った奴は苦しみぬいて死ねと思うことだろう。

 だが、僕には通じない。そういうの、レイナみたいでかえってムカつくんだよね。

「ふーん、でも『水流鞭アクアバインド』にグルグル巻かれただけでしょ? 怪我したワケでもないし、そんなに騒ぐほどのことじゃないよね」

「な、なんてことを! 最低です!」

「桃川君、流石にその言い分は私もどうかと思うわ」

 蒼真君よりも先に、妹が僕を罵倒し、委員長もやや引いた感じで僕を見ている。

「じゃあ聞くけどさ、小鳥遊さんは何で捕まったと思ってんの?」

「そんなの決まっているでしょう!」

「具体的に言ってくれないと、小鳥遊さんはナニされると思ったの?」

「そっ、そ、それは……」

 レイプ! って言えよ。

 桜ちゃん、ここで言いよどむとは。堂々と「レイプ!」と叫ぶのは、流石に戸惑われたか。一応、人並みの羞恥心はあったんだね。

「……男がか弱い少女を捕らえたなら、それは手籠めにすると古今より決まってます」

 手籠め、ときたか。また古風な言い方を。

 しかし、蒼真君が助け舟を出すよりも前に、覚悟と機転を決めて、堂々と言い放ったのは、正直ちょっと桜ちゃんのこと見直しちゃった。

 やはり蒼真桜、ただの美少女ではないか。

「いいや、違うね蒼真桜。僕はそうだと思わない」

「なにを……この期に及んで、また屁理屈をこねようというつもりですか、桃川」

 キっと睨みつけても美しい切れ長の目を、僕は生意気さしか定評のないジト目で見つめ返した。

「あの時、三人は小鳥遊さんを人質にしようとしたんだよ。君らから、コアや装備を奪うつもりでね」

 名付けて、強姦より強盗の方がマシだよね作戦だ!

 上中下トリオ、君達は僕にとっては貴重な味方だよ。だから、桜の言う通り、屁理屈をこねてでも、君らを弁護しよう――もし失敗したら、ゴメンね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒の魔王でもありましたが、今話よりも遥かに先の出来事に関する、ネタバレ注意が感想にありました。
[一言] 桃川おもろすぎる
[一言] 小太郎キレッキレで草
感想一覧
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