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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第13章:学級会
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第181話 超ド級ボスモンスター

岩と砂ばかりの荒野を進み、切り立った断崖絶壁が形成する大きな谷の底を、俺達は全員で歩いていく。

 話によれば、ボスのいる現地に到着するまで徒歩で一時間以上はかかるという。その間に、俺達はおおよその情報交換をしておく。

「『勇者』に『聖女』かよ。らしいっちゃあらしいが、あつらえたように出来すぎだな」

「俺は自分が勇者に相応しいとは思っていないけど……龍一の『王』ってのも大概だろ」

「うるせーよ。俺だって好きでコレになったワケじゃねぇ」

 何にせよ、龍一も特殊な天職を獲得していることに違いはない。野々宮さん達から話を聞いた限りでは、自分達とは比べ物にならない、圧倒的な戦闘能力を持っているという。

「それでも敵わないボスか……」

「まぁ、見りゃあ分かる。今回は様子見だ、倒せるとは思っちゃいねぇ」

「そんな奴にちょっかいかけて大丈夫なのか?」

「ツイてるところは、ボスはその場から動かないことだ。こっちが逃げても、奴は追いかけてこれねぇ。お蔭で、俺も命拾いできたってワケだ」

 ボス部屋からは動かない、というのはこれまでと変わりないようだ。もしかして、あのジャングルで見かけた空飛ぶドラゴンみたいなのが相手かも、と思ったのだが、どこまでも追いかけ回される心配がないのは幸いだろう。

 逆に言えば、それくらいしかこちらに有利な点はないという。

「そろそろだ」

 龍一がそう呟くと同時に、谷に漂う空気が変わったような気がした。これは、強い魔力の気配が漂っている。

 気を引き締めながら進めば、すぐに谷底は抜けて、ボス部屋へ――いや、ただボスが居座る広大な岩山が現れた。

「なんて数だ……アレが全部、魔物なのか」

 すり鉢状の大地の中心にそびえ立つ巨大な岩山。樹木のように林立する岩の柱に、岩山の天辺からは天高く塔のように一際高いのがそびえ立っている。

 そんな石の林をもつ岩山に、ガーゴイルという羽の生えたゴーマみたいな魔物が数えきれないほどの群れを成していた。

「俺と悠斗の二人で行く。他の奴らは淵から先に入って来るな」

「龍一、あの数をたった二人で相手するっていうの? いくらなんでも無茶よ」

「そうです、私達だって兄さんと一緒に戦えます」

「涼子、桜、あの猿共を相手にするのはお前らだ」

 これまでにない大規模な魔物の軍勢を前に、委員長と桜が慌てて声を上げたが、龍一はそれをあっさりと切って捨てる。

 いや、そもそも龍一は、あのガーゴイルの大軍すら見てはいない。

「構えろ、悠斗。来るぜ、本命がな」

 瞬間、大地に走る地響き。地震か、と思うよりも前に、目の前にそびえ立つ岩山が変化を迎える。

「な、なんだアレは……大きすぎる」

 巣穴から出てくるように、一匹の蛇が現れる。

 それは最早、蛇、と呼んでいいのかどうか分からないほどの巨大さだ。本当に、何だアレ、電車よりもデカいんじゃないのか。

「行くぜ、悠斗」

 あまりに巨大な大蛇の出現に呆然とする間もなく、さっさと龍一が突撃を始めていた。

 いつの間にか、その両腕は黒と金の籠手に包まれ、手には黒い大剣が握られていた。

「おい、待てよ龍一! ったく、仕方ない奴だな。桜、援護を頼む。俺達はあの大蛇を叩くから、ガーゴイルは任せる」

「分かりました、兄さん。どうか、お気をつけて」

「無理はしないで、いざとなったら龍一を引きずっててでも逃げてきて、悠斗君」

「分かってるさ」

 そうして、俺も龍一の後を追って、見上げるほどに空高く鎌首をもたげる、超巨大な大蛇のボスへ向かって行った。




「――まぁ、そういうワケで、アイツを倒すのには力も数も足りねぇ」

「だから、ここで大人しく他のクラスメイトの到着を待っていたってことか」

「流石にあのデカブツは、俺一人じゃどうにもならねぇからな」

「一人でどうにかしようとしたのかよ」

「喧嘩売って返り討ちにあったのは久しぶりだぜ」

 と、ボロッボロになりながらも、どこか楽しそうに言う龍一。

 ああ、何となく予感はしていたけど、龍一にとってこのダンジョン攻略も、スリリングな喧嘩と同じようなモノなんだろう。純粋に戦いを楽しむ、というメンタリティにおいて、俺はコイツ以上の奴を知らない。いや、爺さんは越えてるかも。戦闘狂だしな、あの人。

「ともかく、あれを正攻法で倒すのは難しいぞ」

 いまだかつてない、超巨大ボス蛇との戦いに、俺と龍一コンビは見事なまでに負けた。言い訳の仕様もなく、俺達はあまりの強さに、奴からの逃走を選び……命からがら、この妖精広場まで戻ってきた。

 龍一もボロボロだが、俺も似たようなものである。

「けど、五匹目まではいったぞ」

「アレ、あと何匹出てくるんだよ……」

 最初、大蛇は一匹だった。あのとんでもない巨躯に圧倒こそされたが、俺と龍一の二人がかりでソイツの首を落とすのに十分はかからなかった。

 思いのほかあっさり倒した――と思ったところで、同じ奴が二匹、岩山から出てきた。

 一瞬、目の錯覚か、さもなくば幻を見せる魔法にでもかかったか、と思いたかったのだが……どうしようもなく、二匹の大蛇が追加されたことは現実だった。

「あ、あのー、蒼真くん……」

「ん、どうしたんだ、小鳥遊さん」

 あからさまに龍一を怖がって、近づいてこない小鳥遊さんだったけれど、意を決した表情で、恐る恐る近づいて、話しかけてきた。

「あ、あのね……あの蛇、全部で八匹いるみたいだよ」

「分かるのか、小鳥遊」

「ひゃうっ!?」

 唐突に龍一に問いかけられて、飛び上がらんばかりに驚く小鳥遊さんだが、涙目になりつつも頷き返した。まるで、獅子に睨まれた小鹿のような反応である。

「わ、私の『魔力解析』には、あの岩山の中に、同じ魔力の反応が八つあったから……間違いない、と思う」

 どうやら、あの岩山はガーゴイルの巣であると同時に、中はあの大蛇の巣でもあるらしい。あんなデカい奴らが八匹も寄り集まって暮らしているのか。

「やっぱり、分析力なら『賢者』の力は頼りになるね。小鳥遊さん、他に分かったことはある?」

「うん、えっと、全部で八匹だけど……本当は、一匹なの」

「はい?」

「あのおっきい蛇は、全部繋がってて、一匹の魔物なの!」

「――なるほど、要するにヤマタノオロチって奴か」

 龍一が的確に、大蛇ボスの正体を言い当てた。八つの首を持つ大蛇の怪物といえば、確かにそうと言うより他はない。

「あの、それでね、そのヤマタノオロチを倒すには、中心にある一番強い魔力の塊、多分、コアがある、そこを壊すしかないとないと思うの」

「もしかして、アイツの首が再生するのって」

「うん、中心のコアから魔力が供給されて、首を治しているんだよ」

 俺達が負けた原因の大きな理由には、大蛇の数が多いというだけでなく、倒したはずの奴も再生することもあげられる。

 俺と龍一は首尾よく最初の大蛇の首を落としたが、次に現れた二匹目と三匹目の相手をしている内に……一匹目の首が再生していたのだ。

 青白く輝く光の粒子が、切断した首の断面を覆いながら、ゆっくりと、しかしそのサイズを考えれば凄まじいスピードで頭部が再構築されていった。

 5分ほどで無傷の頭が再生し、再び俺達に対してその巨大な牙を剥いた。

 それから、頑張って三つの首を相手に大立ち回りを繰り広げ、どうにか三つとも破壊に成功したら、そこでさらに追加で二匹の大蛇が登場し、挙句の果てに口から炎や雷やらを吐き出すブレス攻撃までしてくるようになり――結局、倒した三つの首が再生し、合計五匹と化した状態で、どうにもならなくなり撤退の決断を下した。

「それじゃあ、もし上手く八つの首を全て落とせたとしても……」

「多分、全部再生できると思う」

 絶望的な難易度だ。

 ただでさえ巨大な大蛇が、八匹。頑張って倒しても、最低でも一回は全ての頭部が再生可能。

 それに、あのブレス攻撃をするようになったことから、奴らはまだ強力な大技などを隠し持っている気がする。

「倒すには、中心部のコアを狙うしかないか」

「つっても、そこまですんなり通してくれるとは思えねぇがな」

 当然だ。ヤマタノオロチも自分の弱点くらいは理解しているだろう。きっと、だからこそ八つの首が繋がる中心部分は、あの巨大な岩山という殻の中に閉じこもっているのだ。

「首が出ているところから、侵入できそうだったか?」

「パっと見で、洞窟がギッチギチになってたから、無理だろうな」

 大蛇の首が出てくるのは、岩山の底部にある大きな洞窟からだ。そこを通って行けば、本体のある岩山内部へと侵入できるのは確実なのだが、奴の頭がそれを許してくれるとは思えない。

「岩山の方に、幾つか小さい洞窟のようなものが見えたから、そこから侵入できないかな」

「あの蜂の巣みてぇにガーゴイル共が密集しているところで、山登りに洞窟探検かよ」

 今回の戦い、ガーゴイルは無尽蔵とも思える凄まじい数がいたが、戦闘開始してもその全てが一斉に襲い掛かってくることはなかった。

 ごく一部の奴らが、といっても軽く百は超えていたけど、それらが大蛇と戦う俺と龍一に向かってきた。そして、そういう奴らを桜達の援護で排除していると、ガーゴイルはそっちを狙い始めたが……それでも、岩山に巣食っている奴らが動き出すことはなかった。あくまで、近くにいるガーゴイルが気まぐれに襲ってくる、程度の動きに見えた。

 しかし、奴らの巣である岩山まで到達すれば、流石に大群をもって襲い掛かって来るだろう。

 そうなれば、ヤマタノオロチとはまた別の意味で脅威となる。

「八つの頭を潰した上で、進入路を確保すれば……」

「そもそも、今の戦力で八つ首全部も潰せてねぇんだけどな」

 そう、俺と龍一がどんなに頑張っても、五匹までが限界だった。八つの首を全て相手に回して叩き潰すのは、いくらなんでも無理だ。

 せめてもう一人、同じくらいの強さを持つ仲間がいれば……

「双葉さんがいれば」

 いや、ダメだ、何を考えているんだ、俺は。

 ちょっとばかり強い敵を相手にして弱気になった途端、また彼女の力を頼るのか。なんて馬鹿なことを考えている。そもそも彼女は、もう桃川について敵へと回ってしまった。

 もし、この場に現れて合流できたとしても……恐らく、また肩を並べて戦うことはできないだろう。

「ともかく、今のままであのクソヘビを倒すのは無理だ。俺らが強くなるか、他の奴らを鍛えるか……後は、さらなる増援に期待、ってところか?」

 龍一の言う通りだ。現在の戦力でヤマタノオロチを倒し切ることはできない。ならば、戦力を増強するより他はない。

「大蛇と真っ向から戦うなら、接近戦のできる天職じゃないと厳しいな。明日那と夏川さんの二人と、それから、野々宮さんと芳崎さんも、『騎士』と『戦士』だから可能性はあるわけだ」

「育てるってんなら、お前に全部任せる。俺はもう、誰かのお守りをする気はねぇ」

「分かったよ。お前は好きにやってくれ。どうせ、それで強くなるんだろう?」

「クソ真面目に鍛錬ってのは性に合わねぇんだが、相手がいるなら別だ」

 あ、これは一人でひたすらヤマタノオロチに挑むつもりだな、龍一の奴。コイツの性格からして、本当は自分一人でぶっ倒したいはずなのだ。

 相手が相手だけに、危ないから止せと言いたいところだが……それで止まるような男じゃないのは、俺が一番よく知っている。

「よし、みんな、聞いてくれ!」

 方針は決まった。ひとまず、ヤマタノオロチを相手にできるだけの強さを身に着けられるよう、俺を含め、全員を鍛えることが第一だ。

 すでに、ここには俺と龍一の二人が揃っている。これ以上に、強力な力を持つクラスメイトが来てくれるとは考えにくい。双葉さんのように、心強い味方が増えることは望むべきじゃないだろう。

 だから、さらなる増援には期待せず、今ここにいるメンバーで勝とう――ということを言おうとした矢先だ。

「きゃっ! こ、この光って……転移だよ!?」

 俺のすぐ隣にいた小鳥遊さんが、妖精広場の隅で突如として始まった眩い発光現象を指して、そう叫ぶ。

「このタイミングで誰か来るのか」

 何にせよ、新たに生き残りのクラスメイトが加わってくれるなら、ありがたいことだ。

 いや、待て……必ずしも、真っ当な奴が来るとは限らない。もしかすれば、桃川が現れるかもしれない。

 そうなれば、恐らく、戦いは避けられないか――

「ふぅー、良かったぁ。無事に転移できたみたい。私、この転移って何か怖くて慣れないんだよねぇ」

「大丈夫だよ、俺がついているから、愛莉」

 光の中から現れたのは、男子と女子の二人組。カップルのように、二人は腕を組んで、ぴったりと寄り添い合っていた。

「ありがとっ! それじゃあ、ボス戦を頑張ってくれた陽真くんにぃ、いーっぱいサービスしちゃおうか……な……」

 甘ったるい声をあげて、激しいイチャつきぶりをみせる女子が、この妖精広場に集った俺達の視線に気づいたのか、一瞬にして表情が固まる。

「あー、えっと、姫野さんと中嶋、だよな? と、とりあえず、二人とも無事で良かったよ」

 この二人って付き合っていたのか。と内心思いつつ、俺はひとまず二人の合流を歓迎することにした。

「あ、あっ、ああぁーっ! そ、蒼真君っ!? ウソっ、ホントに蒼真君なのぉ!」

「うわっ、愛莉……」

 熱愛しているラブラブカップルです、みたいな雰囲気だったのに、姫野さんは俺を見るなり腕を組んでた中嶋を邪魔だと言わんばかりに突き放して、凄い勢いで迫ってくる。

 うっ、ちょっと怖い。姫野さんって、こういう子だっけ。

「ほんっとうに良かったぁ! 蒼真君と一緒なら、すっごい安心できるよぉ!」

「あ、ああ、それはどうも……」

 いきなり抱きつかれるかのような勢いに一歩後ずさったら、姫野さんは俺の両手をとって、キャイキャイとやかましいほどに喜びの声をあげている。

「はぁ、ウルセー奴が来たな」

「キャアアアっ! 天道君! 天道君もいるのぉ!? やった、もう完璧じゃない!」

 心の底からウザそうに溜息をつく龍一を見て、姫野さんは何やらさらにテンションが上がっている模様。そんなに嬉しいのだろうか。中嶋と仲良く一緒にやっていたようだから、孤独に耐えかねて、ということはないと思うんだけど。

「ふふふ、蒼真君と天道君が揃ってるなんて、これはついに私の時代が――」

「姫野さん、はしゃぐのもほどほどに。今がどういう状況か、貴女も分かっているでしょう」

 実に冷めた声音の桜が、いつまでも俺の手を握ってそうな姫野さんの前に、物理的に割って入る。

「あっ……そ、蒼真さんも一緒だったのねー」

「当然です、私は兄さんと常に共にありますから」

 冷ややかな微笑みの桜と、引きつった微笑みの姫野さん。同じく微笑みを浮かべているはずなのに、どうしてこう、不穏な気配しかしないのだろうか。

「とりあえず、姫野さんと中嶋君、二人も無事に私達と合流できて良かったわ」

 ちょっと微妙な雰囲気になったけど、委員長が率先して音頭を取って場をまとめてくれた。こういう時は、本当にありがたいよ。流石は委員長。

「それじゃあ、全員集まって。まずはお互いの状況確認からして――って、なに、また!?」

 瞬間、またしても広場の隅で輝く転移の光。

 転移ってこんなに立て続けに重なるものなのか。単なる偶然か、それとも、やはり何者かの意図があるのか。

 そんな疑問の答えなど得られるはずもなく、眩い転移の輝きは、ただ魔法陣に乗った者を送り届けるだけ。

 果たして、次に転移でやってきた者は――

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― 新着の感想 ―
[一言] 次回、新作スピンオフ小説「元鞘サキュバスは反省しない ~ダンジョンパーティーに不協和音!? 目指せ逆ハー攻略!~」が公開される…!?(なお実現難易度ルナティック)
[気になる点] ボス部屋からの転移は、やはりタイミング操作がされてる可能性大。 もしかすると、転移開始から到着まで時間差が有る可能性も? 転移途中の謎空間でホールドされてるとか…。
[気になる点] こんなもん、女子じゃなくなって泣くぜ! そこを壊すしかないとないと思うの
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