第179話 葉山理月
俺の名前は葉山理月。
「りつき」、じゃなくて「リライト」だ。俗にいうDQNネームとかキラキラネームとかいうやつだけど、まぁ、俺くらいの爽やかイケメンになれば、ちょっとした個性の一つに過ぎない、みたいな?
そう、名前なんて些細なこと。人として、男としての価値を決めるのは、容姿、能力、そして性格の総合力だ。
その点、俺はどうだ?
まずは顔、言うまでもなくイケている。風呂上りに洗面所の鏡に映る俺の顔なんてヤベーからな。いやぁ、この時のフェイスを見せられる女の子が、今のところ一人も存在しないことが悔やまれる。
それに、俺はこの生まれもった容姿にただ胡坐をかくような真似もしない。毎朝髪はセットしているし、香水も軽くつけている。男の嗜みってやつ?
次に、俺は文句なしに普通にハイスペックだろ。あの有名私立の白嶺学園に合格した時点で学力は完璧……あ? 補欠合格? それはアレだよ、入試の時は腹の調子が悪かったんだよ。
それに男は頭だけじゃねぇ、身体能力、運動神経の方がモテる上では重要だ。そして俺は、勉強よりスポーツの方が得意だし。
何と言っても、バスケ部不動のエース。中学三年間はずっとスタメンのレギュラーだったからな。白嶺に入ってからは……さ、流石に文武両道な学園だけあって、バスケ部のレベルもかなり高いから、一年からレギュラーにはなれなかったけどぉ……
いやいや、やっぱ一番大事なのは中身、性格だろ。
いくら完璧超人といっても、蒼真悠斗みたいな鈍感野郎や、天道龍一みたいな俺様野郎では、人間としてはどうかってことよ。
けれど、俺は違う! 俺は蒼真みたいに女の子の好意を全力スルーしないし、それどころか些細な言動でその奥ゆかしい恋するハートも察してあげられる――だから、ウチのクラスの美少女軍団の誰か一人くらい、そろそろ俺になびいてくれてもいい気がするんだが?
まぁ待て、焦るな俺。まだまだ高校生活はこれからが本番。学園祭はもうすぐだし、冬の球技大会は俺の独壇場であるバスケだ。俺という真のイケメンの存在をアピールしつつ、女子との距離が急接近しちゃうイベントが起こることは、確定的に明らかだろう。
そう、俺のバラ色の高校生活は、これからなんだ――そう、思っていた。
「ヤベぇ……これ、マジでヤベぇよ……」
どこからどう見ても、森の中なんですけど。
チャイムがなって、朝のホームルームが始まるかと思いきや、唐突な異世界召喚宣言。崩壊する教室で、次々とクラスメイトが底の知れない闇へ落っこちていく中で、俺だけは隅にあった掃除用具箱にしがみついて耐えていたというのに……とうとうそれも限界を迎え、俺も闇の中へと落ちてしまった。
これは夢だ。起きたら布団の中か、教室の机で肘ついていることだろう。
そう思っていたのに、目が覚めたら森の中だよ。
どこだよ、マジでどこだよここ。
「魔法の異世界って……ウッソだろお前……」
あまりに突然の出来事だったから、話半分にしか謎の放送を聞いていなかったが、確かそんな感じのことを言っていた。
どういう設定のドッキリだよ。今どき、小学生だって騙されねーよ、とは思うが、あの教室崩壊から、こうして森の中に放り出されている以上、信じるしかないじゃん。
「ど、ど、ど、どうすんだよコレぇ……」
しばし呆然。
右を見ても、左を見ても、名前の分からない植物と木々が生えているばかり。
「いきなりサバイバル生活ってか……無理だよ、俺、バスケやってるだけのスポーツマンで、アウトドアは専門外だよ」
林間学校でキャンプの経験と、あとは河原でバーベキューするのは得意なんだけど。この深い森の中では、泥水を啜って、蛇やらカエルやらを獲って喰らうような、ガチのサバイバル術がなければ通用しないパターンだろ。
まずい、マジでまずいぞこれは。このままだと、何もできずに野垂れ死ぬ。
「ああっ、そ、そういえばぁ!?」
ここで閃いた俺は、やはり天才!
「ナントカ言って、魔法の力が貰えるんだろぉ!」
慌てて鞄をひっくり返して、みんながやっているから渋々、書いておいた魔法陣と呪文が記されたノートを取り出す。たしか、コレを使えば魔法が得られるっていう話だ。
「俺オカルトとかは信じないタイプなんだけどぉ……今だけはお願い、神様ぁ!」
ウチ禅宗だけど、何でもいいから頼むぜ神様。この危機的状況をひっくり返せるドえらい魔法を俺にくれ! 気分は正に10連ガチャ。頼む、SSR来い!
天職『精霊術士』
『微小精霊使役』:まだ、小さな小さな子どもたち。でも、この子たちはいつも、あなたのすぐそばにいるよ。ほら、耳をすませて、みんなの声がきこえるよ。
『精霊召喚陣』:あなたが呼べば、来てくれる。どんなに離れていても、心は繋がっているから。
『精霊言語解読・序』:ほんの少しだけど、お話できる。心をこめて、声をかけてあげて。あなたの気持ち、きっと届く。
「……?」
このポエムみたいな説明はなんなん?
ねぇ、これどうやんの? ちょっと待って、俺、魔法とか完全初心者なんで、ちゃんと説明してくれないと分かんないっす。
そもそも精霊ってなんだよ。俺にはそれらしい姿は見えないし、勿論、声も聞こえない。
耳をすませば聞こえるよって言ったじゃないですかーっ!
「い、いや待て、落ち着け、まだあわあわ、慌てるような時間じゃない……そうだ、召喚、召喚ってやつを試そう」
まずは精霊を呼び出す。そこから精霊さんとお話しでOK? きっと俺が呼べば、途轍もなく強力な光り輝く神々しい奴らがどんどん現れるに違いない。
「よし、いいぜ……来い、精霊!」
しかし、何も起こらなかった。
「来い! 来いよ精霊!」
しかし、何も起こらなかった。
「来い、来いよ! 頼むから来てください精霊さん!」
しかし何も、
「お願いします、何でもいいので来てください精霊様……」
何も、起こりはしない!
「え、えっ……どういうこと? もしかして俺、騙されてる?」
ここまで何も起こらないと、そもそも魔法とか精霊とか、そんなファンタジーなもんはハナっから存在しないんじゃねぇのと思ってしまう。
いや、むしろ実在する方が困る。本当に魔法の力を得られるはずなのに、俺にはこの何も起こらない精霊術士にさせられたってことは、完全に丸損じゃねぇか。
「こ、これは何かの間違いだろ……もう一回、やり直しして、リセマラして……」
しかし、一度使ったノートの魔法陣は、どんだけ必死こいて呪文を叫んでも、何の反応も見せなかった。
「ち、ち、ちっ、ちっくしょぉあぁーっ!」
あまりの理不尽に我慢の限界に達した俺は、腹立つくらいに無反応なノートをビリビリに破り捨てる。ええい、こんなモン、ケツ拭く紙にもなりゃしねぇ!
「おい、どうすんだよ、こんな詐欺みてぇな無能力でやっていけっかよぉ!」
破いたノートの紙片が風に攫われて散りながら、俺の叫びもまた、虚しく響くだけ。八つ当たりの怒りなど、すぐに冷めてゆく。
「な、なぁおい、これマジでどうすりゃいいんだよぉ……」
どんどん不安が増してくる。こんな深い森の中に居続けたらヤバいことは分かるのだが、これからどうすればいいのか分からないし、どうにかできる自信もない。
今の俺にあるものは、精霊術士という名の無能力と、教科書の入ったカバンだけ。実質、何もないに等しい。
「っていうか、他の奴はどこにいるんだよ……もしかして、俺だけはぐれてんじゃねぇよな……」
確か、ダンジョンがどうのこうのと言っていた気がする。でも、俺がいるのはどこからどう見てもただの森で、ゲームで見たような洞窟やら遺跡やらといったモノは見当たらない。
クラスのみんなは天職の力を得て、RPGのように楽しいダンジョン攻略をすでに始めているのかもしれない。でも、俺だけはぐれて一人ぼっち。
ありえる、実際に俺は今正に一人きりなのだから。
そんな最悪の想像を一度してしまえば、更なる不安がどんどん押し寄せてくる。こ、こんな場所で一人とか、やっていけるはずがねぇ!
「そうだっ、助けを呼べば!」
天才的な閃き再び。俺はガンマンのように素早い動きでポケットにいれてたスマホを抜く。
「け、圏外……」
あまりに無慈悲な圏外表示。しかし、ここが地球ではない異世界ならば、当たり前のことでもある。
「一人かよ……俺、一人なのかよ……」
悲しいかな、これがSNSでしか人と繋がれない現代っ子の末路か。スマホが通じない、ただそれだけで世界から隔絶された孤独感に襲われる。
いや、これはガチの比喩表現抜きで、俺は物理的に一人ぼっちと化している。誰の助けも期待できない。もぅマヂむり、手首切りそう。
「うっ、く、うぅ……」
どうしようもない絶望感。思わず、涙がこみ上げてくる。
男として情けない? うるせぇ、なら俺と同じ状況に陥ってみろってんだ。こんなもん、女子じゃなくなって泣くぜ!
「ううぅ……ど、どうしよう……俺、こんな、生きていけねぇよぉ……」
ガキみたいにメソメソと泣き始めた、ちょうどその時だった。
ガサリ、と茂みが揺れる。
「だ、誰かいるのかっ!? おい、助けてくれ、俺はここだーっ!」
瞬時に顔を上げて、俺は叫んだ。
無様に泣いているところを見られた、という恥ずかしさなどない。誰かいる、俺は一人じゃない。ただ、それだけで一筋の光明が差したように思えてならない。
そして俺の希望に応えるかのように、ガサガサと茂みをかき分けのっそりと現れたのは、
「プググ、グアー」
若干、間抜けな鳴き声を上げる、熊だった。
「く、熊……なの、か?」
薄い茶色の毛皮に身を包み、二足で立ち上がる人間大の獣といえば、熊だとしか思えない。しかし、妙に頭は大きいし、ウサミミみたいな長い耳だし、何より、顔つきがリアルな熊というより、ぬいぐるみっぽい。
だが、テディベアのように可愛らしいというよりは、やけに眼つきが鋭く生意気な感じである。
「あのー、もしかして、中に誰か入ってます?」
「プガァ!」
コイツ着ぐるみでは、と思って聞いたら、返って来たのはちょっと刺々しい鳴き声。
グワっと口を開けて声を上げた時に、その口の中が作りものではない生々しさがあったのを見て、マジでコイツは本物の熊の一種なのだと理解させられてしまった。
改めて見ると、手足の爪はなかなか鋭いし、毛皮の質感もリアルすぎる。
いくら着ぐるみっぽい外観とはいえ、本物の熊であることに違いはない。そして、人間は熊に襲われたら勝てない。
少なくとも、どこぞの猟師のジジイみたいに鼻先にパンチ叩きこんで撃退させる勇気は持てない。
「あ、あ、あばばば……」
言葉にならないとは、正にこのことか。
誰かがいると思って大声で呼んだら、まさか異世界の熊を呼び寄せるハメになるとは。俺はなんて間抜けなんだ。
だが、数秒前の自分を責めるよりも、今この瞬間どうするかが重要だ。
少なくとも、わき目も振らずに走って逃げるのは無理。
熊って人間よりも足が速いっていうけど、それ以前に、俺の両足がガックガクに震えて走るどころか歩くことさえままならない。足どころか、全身が硬直したように動かない。
「プグゥ、プガガ!」
「ひいいっ!?」
いくら着ぐるみっぽい外観とはいえ、俺よりはデカいし、横幅も相当なこの熊に襲われれば、ひとたまりもない。
牙を剥きだして威嚇の声を上げる熊を前に、ただの人間はあまりに無力。
「はっ、そ、そうだ、こういう時は死んだフリだ」
天才的な閃き、三度目。
そうだ、熊に襲われた時の対処法といえば、死んだフリ、と古今東西決まっている。熊に死んだフリ、といえばこんなに有名なんだから、きっと異世界の熊にも通用するに決まってる。
「ぐ、ぐえぇ……死んだぁ……」
この土壇場でありながら、俺の神がかり的な演技力が発揮され、実に自然な死にざまを演出。ゆっくりと土の上に俺は地面に横たえ、固く目をつぶる。
これで、とりあえず死にました、というのは野生の熊でも分かるだろう。
さぁ、獲物は死んだぞ。どうだ、これで諦めて熊はどこぞへ去るに違いない――チラっ
「プググ」
熊の鼻息を感じる。こ、コイツ、本当に死んだかどうか確かめているのか!?
か、か、勘弁してくださいよぉ……
「……」
ここが我慢のしどころだと心得て、俺の鼻先でフガフガしている熊の気配をビンビンに感じながら、必死に息を押し殺す。
頼む、お願いだから、見逃してください!
ペロっ。
「ひゃうっ!?」
普通に声をあげてしまった。いやだって、コイツ、急に頬を舐めるから……
「……プクク」
「な、なに笑ってんだよぉ……」
熊のペロペロ攻撃により、俺の完璧な死んだフリ演技は見破られてしまった。
バッチリと目を開けた俺の前には、どこか馬鹿にするように笑った、ように見える熊の顔があった。
「ち、チクショウ……殺せよっ! おら、どうした、食えよ!」
人間、追い詰められると本当にヤケになるもんだ。
俺は言葉なんて伝わるはずがないのに、熊に向かって叫んでいた。
「食えよ! 食ってみろよコノヤォーっ!」
「プクク……タ、タ……タベナイ」
「……あ?」
「タベナイヨ」
「しゃ、喋ったぁあああああああああああああっ!?」
ある日、森の中。俺は、喋る熊に出会った。
「あっはっはっは、なんだお前、良い奴だなぁ!」
「プックック、イイヤツ」
その辺にあったちょうどいい倒木に、俺と熊はベンチのように仲良く腰掛け、実に友好的なファーストコンタクトを果たしていた。
「流石は魔法の異世界。まさか熊が喋れるとはな」
「オレ、シャベレル」
かなーり怪しい外人みたいにカタコトではあるが、確かに熊の喋る言葉が俺には分かる。耳の方には、ガウガウ言って吠えているようにしか聞こえないのだが、不思議とその意味が頭の中でカタコト日本語程度に理解できてしまう。
で、いざ話してみれば、熊には俺を襲う意思はなく、ただ見たことのない変な奴がいるなと思って、好奇心で近づいただけらしい。おいおい、この爽やかイケメンを捕まえて変な奴はねーだろ。まぁ、異世界のお喋り熊さんに大和男児の魅力を分かれってのも無茶ぶりってもんか。
ともかく、日本語が通じるってんなら、熊とだってコミュニケーションしてやんよ。
「俺、葉山理月ってんだけど、お前は?」
「オレ、ナマエ、ナイ」
「マジで、何で?」
「ナマエ、モテル、ボスダケ」
「へぇ、何か群れ社会の厳しいトコみたいな? 分かるよそういうの、下っ端ってのはどこの世界でも苦労するもんだからなぁ」
俺もファミレスでバイトしたとき、正社員でもねぇのにバイトリーダーとかいう奴がやけに偉そうに指揮ってやがったしな。フリーターと学生バイトだったら、将来性を見越せば学生の方が上じゃねぇかと思うんだが。
「ムレ、モドレナイ」
「お、もしかして迷子か。なんだよ俺と一緒じゃーん」
「オレ、ボスニマケタ。ムレ、デル。ヒトリデイキル」
あっ、なんかそういう話、ガキの頃に見た野生動物を追いかける系のドキュメンタリー番組で聞いたことあるぞ。
ボスの座を巡って戦うことは、群れを成す動物ではよくあることで、負けた方が大抵、良い目に遭うことはない。野生の世界にセーフティネットなどない。
「そうか、お前も色々あったんだな……いや、ここでネガティブになっちゃダメだ! もっと前向きに考えていかないと。えーと、ほら、もうお前を縛るモノは何もない、自由の身だ! 群れのボスがなんぼのもんじゃ、お前は孤高の一匹狼だぜ!」
「オレ、オオカミ?」
「いや、狼ではねぇな」
そもそも熊って群れで生活する動物じゃねぇし。異世界だから生態が違うのか。
「どっちにしても、名前がないのは不便だし、俺がいっちょ、カッコイイ名前つけてやっか?」
「ナマエ」
「そうそう、名前、いいだろ? 俺、こういうのめっちゃ得意なんだよねぇ」
「ナマエ、ホシイ。リライト、タノム」
「オーケー相棒。よーし、お前の名前は……」
名は体を表すというが、正にその通り。リライト、というハイセンスな名前を、俺というイケメンは実に見事に体現していると言っていいだろう。流石は俺の両親。決して、当時流行っていた漫画のキャラに影響されたとか、そういうことは断じてない。
ともかく、俺はこの熊に素晴らしい名前を与えてやりたい。
出会いは絶体絶命の死んだフリだったが、それでも俺はコイツと話せて、随分と心が楽になった。ついさっきまでメソメソ泣いていた俺がアホとしか思えないくらい、取り乱していたと反省できるほどには、今は冷静になれている。
だから、そういう恩も諸々込みで、最高にクールなネーミングをかましてやるぜ。
ずんぐりむっくりの着ぐるみっぽい感じではあるが、本物の熊であることに変わりはない。ならば、やはり力強さ、ワイルドさ、なんかを前面に押し出していきたい。何より、コイツは群れを追われてこれから一匹熊として生きていく孤高の男だ。そういった男の哀愁的なイメージもそれとなく含ませておきたい。
となると、うーん、コイツの薄茶色な毛皮の色なんかも考慮して――
「お前の名前はキナコだ!」
「キナコ」
「そう、キナコだ!」
この淡い色の茶色が絶妙にキナコっぽい。そのまま丸くなれば餅っぽくもなりそう。
あんまりカッコよさとはちょっとズレた感じがするけど、一度呼んでみれば、なんか凄いしっくりくるから、これで正解だろう。俺のネーミングセンスに間違いはない。
「オレ、キナコ。イイ、キナコ、イイ」
「よしよし、気に入ってくれたようで何よりだ」
浮かれているのか、キナコはこころなしか体をソワソワさせている。それに、長いウサミミも揺れている。体全体で喜びの感情が漏れ出ているところは、なかなかに可愛いじゃあないか。
「で、キナコよぉ、これからどうするつもり?」
「オレ、ヒトリ、タビスル。モリ、デルカモ」
「おおおっ、マジで!? この森から出れんのか!」
「モリ、ヒロイ。ソト、モットヒロイ、キイタ」
「そっか、そうだよな、まだ見ぬ世界が広がってるに決まってるよな!」
そして、この深い森を抜けたなら、人里だってあるかもしれない。そうなれば、当面の生活に困ることはないだろう。
キナコと一緒にいれば、まぁ、道端で大道芸でもすれば小遣い稼ぎも余裕だろう。
「オレ、モウイク。リライト、サラバ」
倒木からすっくと立ち上がり、名残惜しそうだが、しかし覚悟を決めた確かな足取りで、キナコが二足歩行でスタスタ歩き始めた。
「あっ、ちょっ、待てよ! 俺も行く、一緒に行くから、待ってくれよキナコちゃーん!」
ここで離れれば、また一人ぼっちに逆戻り。なにより、キナコはこの森を出て行くつもりなのだ。
一緒について行く以外に、俺の選択肢はありえねぇ!
「リライト、イッショ、イクカ」
「おうよ、キナコ、俺と一緒に行こうぜ、外の世界ってとこによぉ!」
こうして、俺はキナコと名付けた喋る熊と共に、旅立つことにしたのだった。
2019年2月15日
ようやく二年七組最後の一人、葉山理月の登場です。これでやっと、クラスメイト全員を作中で描くことが出来ました。
コミカライズ『黒の魔王』の単行本第一巻が来週2月22日にいよいよ発売です。かなりの少数派だと思われますが、呪術師しか読んでいないという方は、是非この機会に『黒の魔王』にも触れていただきたいです!




