表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第12章:それは荒ぶる野獣のように
176/535

第171話 見るからに分かりやすい囮作戦

 僕は今、一人で砂浜へと出てきている。

 無事に制圧して拠点としたホテル、その目の前の広がっているビーチで、のんびり日光浴だ。上半身裸の水着姿で、丸腰であることは一目瞭然。

 その辺の木を材料にして、再びビーチチェアとテーブルを作ってセッティング。キンキンに冷えた水が満たされたカップをテーブルに置いて、準備完了。

 僕は満を持して、チェアに寝そべり、無防備な眠りの体勢へと入った。

「これで釣れればいいんだけど」

 と、僕はビーチでくつろぐ僕を眺めながら、つぶやいた。

 ビーチで日光浴させているのは、勿論、僕の分身たる『双影ふたつかげ』である。

 赤ラプターの一番の狙いは恐らく僕で、そして、夜襲の時に『双影』は使わなかったから、この呪術の存在を奴は知らない。

 だから、これ見よがしに『双影』を囮として、赤ラプターを誘き出すのだ。

 僕とメイちゃんと黒騎士レムは、エントランスの窓辺に陣取り、無防備な半裸の僕に向かってラプター共が襲い掛かって来るのを待ち構える。

 一階エントランスは、入り口を含めて外から中が見えないよう各所に板を張ってある。魔物の侵入を防ぐには役に立たない薄いベニヤ板みたいなものだけど、遮蔽物としては十分。

 こういうちょっとした工作なんかも、『簡易錬成陣』があれば楽に仕上げられる。半日もあれば完了したよ。

 他にも、新しいレム三号機とかも作り直したりも――

「あ、小太郎くん、ラプターが出て来たよ」

「もう来たのか。思ったよりも早い、っていうか、やっぱりずっと監視してたんだな」

 森の方からヒョッコリ現れたラプターを確認してから、僕は一旦、『双影』の方へ意識を切り替える。

「出てきたけど、一体だけか。様子見とは、どこまでも慎重な奴め」

 現れたラプターは、普通の奴が一体だけだ。森の中にお仲間が潜んでいるのだろうが、ビーチの方まで歩み出てきたのはその一体のみで、後続はない。

 明らかに罠を警戒して、偵察のために派遣したとしか思えない。

「やっぱり、あからさますぎたかな……メイちゃんはそのまま隠れてて。ここはスケルトンだけで対処するから」

 本体に口だけ喋らせて、チェアに寝そべる僕は今やっと砂浜に現れたラプターに気づきました、みたいな態度で起き上がる。

「うわぁー、ラプターだぁ! こんなところまで出るなんてー」

 一応、下手くそな演技をしつつ、僕はビーチから慌てて逃げ出す。

「キョォアアアッ!」

 走り出した僕の背中に向かって、ラプターは鋭い鳴き声と共に駆け出す。

「うわー、たすけてくれー」

 緊迫感のない棒読みの悲鳴に合わせて、スケルトン部隊を繰り出す。コイツらは最初から、周囲の警戒も兼ねてホテルの外を歩かせている。スケルトンくらいなら、表に出していても余計な警戒を赤ラプターには抱かせないはずだから。

 ともかく、剣を振り上げてご主人様(偽)のピンチに、スケルトン共はガシャガシャ骨の足音を鳴らしながら駆け寄ってくる。

「キョアッ、キアアアーッ!」

 もう少しで僕の背中に追いつくところまで迫っていたラプターだったが、スケルトン部隊の出現を見て、すぐさま反転。森に向かって真っすぐ逃げ帰って行った。

「余計な戦闘は避けたか……まぁいい、罠を確信させるほどのボロは出てないはず」

 赤ラプター側から見れば、今の一幕は、僕がウッカリ油断して一人になったところを襲われ、運よく近くのスケルトン部隊が駆け付けるのに間に合った、ように思えなくもない。少なくとも、メイちゃんと黒騎士レムが手ぐすね引いて待ち構えている、という部分は一切バレていない

 赤ラプターとしても、これが僕の油断なのか、罠なのか、判断がつききらないはずだ。

「うーん、奴を誘き出すには、もう少し工夫が必要かな」

 結局、その日はもう、僕が再びビーチに出てもラプターが現れることはなかった。




 翌日、念のために僕はもう一度、同じような囮作戦を実施した。ただし、僕が一人きりでビーチでゴロゴロしているのは流石に誘ってるようでわざとらしくなるから、それらしい作業をさせることに。

 近くで狩って来た、アルパカ的な草食動物であるジャージャを、砂浜で解体する。新鮮な食糧の確保はどの道必要だし。まぁ、ついでみたいな作業である。

 僕は新造したレム三号機、ホテルにあったジャジーラの死体を流用した、のを相棒にして、メイちゃんの助言の元で、食肉の解体に挑んでいる。周囲には、それっぽい護衛役として、剣を持たせたスケルトンを二体ほど置いといてる。

 赤ラプター部隊の実力なら、襲えば瞬殺できる弱小戦力だ。

 しかし、昨日の今日で警戒しているのか、今回は偵察という名の捨石ラプターすら繰り出してこない。

「やっぱり、ダメだったか」

「グブブブ、ゴバァアアア!」

「うわぁ!? お前は呼んでない!」

 ラプターが出てこないと思ったら、砂浜から大蟹が現れた。ジャージャを解体した血の臭いにでも惹かれてやって来たのだろう。

「小太郎くん、倒しに行った方がいい?」

 エントランスに隠れている本体の僕に、メイちゃんが尋ねてくる。

「いや、分身と三号機とスケルトンだけで対処するよ」

 できれば、メイちゃんがホテルから飛び出してくる場面を奴らに見せたくはない。彼女がここに潜んでいる、とは当然予測しているだろうけど、予測と確信とでは、その情報の扱いは全く違ってくるからね。

 というワケで、メイちゃん&黒騎士レム抜きという、ちょっとした縛りプレイで大蟹の相手をすることにしよう。

「――あ、危ねー、ギリギリだったよ」

 甲殻の隙間から、剣を刺されて力尽きた大蟹が横たわる。

 ジャジーラベースのレム三号機は、まぁまぁのスペックではあるけれど、硬い甲殻の鎧を持つ大蟹相手には苦戦を免れえない。

 僕が『黒髪縛り』で抑えつつ、さらにスケルトンが捨て身で止めて、ようやく三号機が刃を通せる隙間を狙えるか、という際どいパワーバランスであった。一歩間違えれば、大蟹が僕まで肉薄し、鋭いハサミで一閃し、『双影』の存在がバレるところだった。

 赤ラプターなら、血肉の代わりに黒い魔力の靄を霧散させながら、死体が消滅するところを見れば、ソレが本物ではなく偽物なのだと気付くだろう。

「苦戦の末の勝利だけど……これでも、まだ襲ってこないか」

 大蟹相手に大騒ぎしながら戦っては、四体ほどスケルトンを犠牲にしつつも、勝ちを拾ったこの状況。勝利者であれば、油断も生まれるタイミングだけど、ラプターは現れない。

 やはり、メイちゃんと黒騎士レムが健在であると踏んで、警戒しているのだろう。

「僕の単独行動だけじゃあ、釣りきれないか……それなら、いいだろう、お望みの戦力分断をしてやろうじゃあないか」

 そのための実験も、すでに試している。それに、ちょうどよく大蟹の新鮮な素材も手に入ったことだし、何とかなるだろう。




「というワケで、今日から囮作戦2号でいきます」

 そのために必要なのは、レムの素材だ。とりあえず昨日の大蟹の甲殻は、鎧候補素材として利用させてもらおう。

 他に手持ちの素材としては、あの夜襲で返り討ちにしたラプター素材が少々と、前回のボス戦である触手回復するハイゾンビボスの素材が、これまた少々。いくら荷物持ち係のアラクネがいるとはいっても、積載量に限度はあるから、多少の素材しか持って来れない。

 そして、新たにレムの体を新造するなら、丸ごと死体一つ分くらいの、ベースとなる素材が欲しいのだ。

「なるべく強そうな魔物を狩ればいいんだね」

「でも、あまりに強すぎて、僕らが消耗するような相手は避けなきゃいけないけど」

 隙を見せれば赤ラプターが襲ってくるから、本末転倒である。

 というワケで、強い魔物素材は欲しいけど、あんまり強すぎる奴はスルーという、酷く微妙なラインを狙う魔物狩りを開始した。ついでに、このリゾート風遺跡群の探索も込みである。今度こそ、空けられていない宝箱を見つけられるといいな。

「小太郎くん、ジーラがいるけど、どうする?」

 最初に発見したのは、この辺ではすっかりおなじみのジーラ部隊。遺跡街でのゴーマと同じように、奴らも武器やアイテムを目当てに積極的に探索しているのだろうか。

「あんまり大した装備はしてないけど、探索の邪魔になりそうだから、始末しておこうか」

 こういう時は、先制攻撃をかけられる方が有利ってね。

 黒騎士レムは桜井君からの鹵獲品である『黒角弓』というかなり上等な弓があるし、三号機にだって、雛菊さん謹製の短弓があるのだ。僕は『ポワゾン』があるし、メイちゃんは石を投げるだけで十分な殺傷力を誇る。

 僕ら全員で遠距離攻撃による先制を仕掛ければ、ジーラ部隊はあっという間に全滅した。

 そうして、何の収穫もなく探索を再開。

 しばらくウロつくが、これといった魔物と出会うことはなかった。ジャージャをはじめ、温厚な草食の奴らが多い。この辺は随分と平和なエリアなのだろうか。

 かと思えば、いきなり建物の角から、ゴアの上位種であるグリムゴアが現れたりもして、焦って隠れることも。あの巨体で群れる魔物なんて、まだ相手にしたくはない。あんなのとやりあえば、本気で赤ラプターがトドメを刺しに来るだろう。

 なかなか、良さそうな魔物が見つからない。勿論、宝箱もない。

 いかん、これでは今日一日を無為な散歩で終わらせてしまうことに……と思い始めたあたりで、僕らは見つけた。

 見つけたというか、出くわした。小さな円形ホールみたいな建物の中に踏み込んだ時に、奴らはその中にいた。

「ブモモ、ボォオアアアアッ!」

 と、荒ぶる牛のような鳴き声を上げるのは、牛の頭……だが、体は四足歩行ではなく、二足歩行のゴリラのような体型だ。

 ミノタウルス、と呼んだ方がいいのか。いや、それにしては、ゴリラ成分が強すぎるように感じる。ボスのゴライアスが、頭だけ牛になったバージョンみたいな。

 よし、コイツの名前は『ミノゴリラ』だ。

「二体か……メイちゃん、いけそう?」

「うん。ゴグマよりは弱そうだから」

「それじゃあ、レムと二人でお願い。僕は外のラプターを警戒するよ」

「任せて」

 パワフルなミノゴリラには、こちらもメイちゃんと黒騎士レムのパワータッグで挑んでもらおう。こういう時は安心して任せられるよね。

「――小太郎くん、終わったよー」

 そして、実はミノゴリラには初見殺しのユニークスキルが! などということは一切なく、順当に戦いは終わった。

「よし、コイツをベースに、新しいレムの体を作るぞい」

 それでは、今回のレシピ。

 基本ベースとするのは、とれたばかりの新鮮なミノゴリラの死体。

 次に、完成後の鎧代わりの外殻として、大蟹の甲羅。サブとしてラプターの鱗と爪。

 それから、効果は未知数だけど、ハイゾンビのボス素材を惜しまず投入だ。

 あとは、いつも通りにマンドラゴラや、僕から採取できるアレなどを加えて、

「――『汚濁の泥人形』」

 完成だ。そこそこの魔力を持っていかれて、ちょっとフラつく。けど、ぶっ倒れるほどではない。

「グルル……ウゴォアアアア!」

「おお、何かいつもより魔物っぽい」

 元気な産声(?)を上げて、混沌の魔法陣から立ち上がる、レム四号機。

 黒騎士レムに匹敵するほどの大きな人型だ。その身に纏うのは、筋肉の鎧。マッチョなミノゴリラをベースにしただけある。

 いや、恐らくはハイゾンビボスの肉片も影響している。ベースはミノゴリラだけど、全体的なシルエットは、上半身が一回り大きい人間のようなマッシブボディだ。流石に、クリーチャー然とした異形のハイゾンビボスほど膨れ上がってはいないけど、それでも、似ているのはボスの方だと言える。

 あれくらいの量でも、こういう結果になるとは、もしかしてボスモンスターの素材は影響力が強いのだろうか。それともコレが特殊なのか、あるいは素材同士の組み合わせ・相性なんかもあるとか? ふーむ、これからもっと要検証かな。

 さて、そんなハイゾンビボスのようなパワフル体型の四号機だが、アイツと決定的に異なる点は、ミノゴリラ譲りの凶暴な猛牛染みた面構えと、大蟹から頂いた甲殻の鎧である。

 昨日、僕が必死こいて仕留めた一匹に加えて、さらにメイちゃんが軽く二匹仕留めてきてくれたお蔭で、甲殻だけはたっぷり使用できている。

 マッチョな巨躯を、ゴツゴツトゲトゲした蟹の甲殻でほとんどカバーできている。リビングアーマーの装甲ほどではないにしても、ラプターの牙では文字通りに歯が立たない防御力は軽くあるだろう。

「よしよし、中々の出来だな四号機は」

 ただし、コイツのスペックからして、やはり黒騎士レムと同時に行使するのは厳しい。動かせないこともないけど、やったら性能が落ちる。

 けど、これでいい。僕の制御力の限界を越えるだけのスペックを持つレムの新しい体をこそ、求めていたのだから。

「次は、いよいよ新呪術を試すか」

 正確には、ちょっと違うけれど。僕が授かった新呪術そのものには、目に見える効果はない。強いて言えば、そうだな……レベルアップシステムの解放、といったところだろう。


九十九つくも御霊みたま』:空の髑髏は虚無に非ず。未練と遺志は、まやかしなれども心を成し、途絶えた道を進む。その行く先は、正道か外道か。


 相変わらずの、フレーバーテキストという名の説明不足だが、これを得て変わった点はすぐに気が付いた。それは、何かにつけて便利な駒扱いをしているスケルトンを召喚しようと、『愚者の杖』を握った時のことだ。


『ハイゾンビ』:基礎的な使い魔の一種。スケルトンに筋肉と外骨格が付き、強化されている。


 今まで『召喚術士の髑髏』で召喚できる魔物は『スケルトン』のみだった。これに加えて『簡易召喚陣』と『同調波動エコー』、合わせて3つの初期スキル構成である。どう並べても、絶対に見落としは発生しないスキルの数。

 それが、まさかの4つ目である。

 というか、名前は本当に『ハイゾンビ』でいいのか。僕の勝手なネーミングが、まさかスキル名に正式採用されるとは。いや、僕が使うスキルだから、僕のつけた名前がそのまま反映されているのだろう。

「出ろ『ハイゾンビ』!」

 そして、杖を振るえば、スケルトン部隊召喚よりも多めの魔力が失われる感覚と共に、血のような赤い召喚陣から、つい最近すっかり見慣れた姿が現れた。

「ォオオオ、ウォオオアアアアアアアアッ!」

 元気な雄たけびを上げて、アスリートのような全力疾走。紛れもなく、ハイゾンビの召喚に成功した。

 勿論、呼び出した奴らは僕に向かって襲ってくる凶暴なアンデッドモンスターではなく、僕の命令に絶対服従の下僕である。

 ただし、一度に召喚できる数は7体までと少ない。それでも、ハイゾンビの力はそれを補って余りある。パワー、スピード、タフネス、どれをとってもスケルトンを遥かに上回る。

 そんな奴らが所詮は雑魚敵として処理できていたのは、敵を見つければ真っ直ぐ突撃する以外には行動パターンのないアホだから。けれど、僕の意のままに操作できるのならば、その限りではない。

「この『ハイゾンビ』なら上手くいきそうだな」

 うんうん、とそのスペックに満足して、召喚陣へと戻す。

 こうして、新しい召喚術を習得したワケだけど……これこそが、新呪術『九十九の御霊』の力なのだ。

 天職持ちの髑髏を嵌めた『愚者の杖』で行使できる能力は3つだった。恐らく、『愚者の杖』のみならば、増えることも減ることもなく、3つのままだったと思われる。他でもない、僕が使っていて、そんな気がしたのだ。

 だから、使い続けていれば熟練度が上がって新スキルが習得できるんだろ、みたいなゲーム脳全開の考えを、僕は抱くことはなかった。

 でも、ルインヒルデ様がそれを可能としてくれた。

『九十九の御霊』があれば、単なる遺骨でしかない頭蓋骨も、まるで生きているかのように経験によって成長し、新たな能力を獲得していく。説明文にある『途絶えた道を進む』とは、死んだ天職持ちが持ち得ていた才能、成長の余地を再現する、というような意味だと僕は解釈している。

 そして、それを正しい方向でレベルアップさせられるか、それとも極振り染みた変な成長をさせるかは、僕自身の手に委ねられている。この髑髏には人の魂などなく、ただ、呪術師が扱う道具であり、武器でしかないのだから。

「ここまでお膳立てされて、負ける気はしないな」

 試すべきことは全て試し、上々の結果を得ている。如何に狡猾な赤ラプターとはいえ、所詮は野生の魔物。

「人間に知恵比べで、勝てると思うなよ」

 というワケで、見るからに分かりやすい囮作戦2号、スタートだ。

 2018年12月19日


 お蔭さまで、『呪術師は勇者になれない』も3万ポイントを突破しました! 地道に定期更新を続けてきた甲斐があったかなと思います。

 連載開始時から、あるいは、途中から読んでくれた方、本当にありがとうございます。

 それでは、これからも『呪術師』をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ