第166話 遺跡街のボス(1)
それなりの日数をかけて突き進んできた遺跡街だけれど、いよいよゴールが見えてきた。
「どうやら、あそこがボス部屋で間違いないみたいだ」
「うん、そうだね」
ほとんど深い森と化した遺跡街だけれど、この辺はかなり高いビルが乱立していて、元々は中心街だったのだろうと思われる。
ここなら宝箱も沢山ありそうだけれど、オープンワールドの洋ゲーみたいに延々と探索していたら時間がいくらあっても足りない。なので、この辺からはほぼ目的地に向かって真っすぐ進んできた。
そんな高層建築の森の中において、ボス部屋があると思しき建物は、随分こじんまりとしている。高さも5階程度で、ビルにも木々にも埋もれるようだ。
けれど、魔法陣コンパスは確かにここを指し示し、何より、他とは違う、異様な気配というか、淀んだ魔力のようなものを感じられた。
「レム」
「グゴゴ」
ややくぐもった返事をあげて、レムが先行してボス部屋ビルへと突入。
現在のレム初号機は、ポーション入りの宝箱を守っていたリビングアーマー三体の素材をふんだんにつぎこんで、更なる強化を果たしている。
ゴライアスから得た鋼の筋肉を持つ肉体に、黒い重厚な甲冑を纏い、見た目は完全にリビングアーマーの同類となっている。どこからどう見ても、立派な黒騎士だ。
ただ、奴らの中身は空っぽだけれど、レムはちゃんと中身が入っている。あのブリキのバケツみたいなフルフェイス兜の奥には、鬼のような髑髏フェイスがあり、爛々と赤い眼光を放っている。
装備の方は、大剣と大槍、メイスと盾のセット、全てそのまま拝借した。
残念ながら、僕が使える『簡易錬成陣』程度では、この品質の高い鋼鉄の武器を強化するだけの加工力はない。『賢者』小鳥遊小鳥の錬成なら、ここから魔法の武器にすることもできるのだろうけど、まぁ、これが初期スキルの限界ってところ。
特に強化はしなくても、リビングアーマーの武器は優秀だ。それを扱う膂力さえあれば、十分に頼れる頑丈な武器だ。そして、欲張りに三体分の武器を全て装備したレムの力は、文句なしに歴代最強であろう。
そんな黒騎士レムは、盾とメイスを手にビルへと入っていった。屋内となれば、リーチの長い大剣と槍はあまりよろしくない。なので、取り回しやすいメイスを選んでいるのだと思う。
けど、この武器選択も別に僕が指示したワケではなく、レムが自分で判断して持っているのだ。やはり、レムはスケルトンと違って、自分でモノを考えられるお利口さんである。
「グゴ、ガガガ」
「敵も罠もナシ、か。よし、僕らも行こう」
「うん」
レムに続いて、僕とメイちゃんもビルへ入った。エントランスはその辺と変わったところはない、ただの伽藍堂。残念ながら、宝箱は置いてない。
「ボス部屋は、地下にあるっぽいな」
コンパスは明らかに、床の下を指している。となれば、まずは下へ降りる階段を探さなければ。
ビルの内部は、部屋も通路も、やはりどこも変わり映えがしない。本当にここであっているのか、と若干不安になるくらい、何の変哲もない廃墟ぶり。
おまけに、ハイゾンビの一体すら出てこない、静かなものだ。
「小太郎くん。多分、この下じゃないかな」
「うん、それっぽいね」
メイちゃんが一階で階段を見つけてくれた。目立たない避難用の階段なのか、それとも隠し階段だったのか、フロアの隅っこにあって、壁で囲われていた形跡があった。今はすっかり囲いは崩れて、ただ端の方に階段があるのは丸見えだったけど。
「それにしても、目立たない建物に、秘密の地下とは、あんまり良い予感はしないね」
ハイゾンビというゾンビ系モンスが跳梁跋扈するエリアだと思えば、ここはゾンビパニックを引き起こした黒幕組織の秘密研究所……みたいな設定が頭に思い浮かんでくる。そもそも、このダンジョンそのものが秘密の地下施設のようなもんだけど。それにハイゾンビは所詮、ダンジョンの中では底辺階級なので、その存在には大したインパクトもない。
そんなことを考えながら、僕らは何のトラブルもなく、ボス部屋へと辿り着いた。
「なんだか、この辺は普通のダンジョンと変わらない雰囲気だね」
地下に降り立った、メイちゃんの感想には同意する。
遺跡街の建物は無機質なコンクリっぽい感じだったけれど、ここは僕らが最も見慣れた石造り風となっている。急に序盤のエリアまで戻ったような気分だ。
けれど、ここのボスは間違いなく、この先に待ち構えている。開け放たれた暗い広間の向こうから、はっきりと魔力の気配が漂う。
「それじゃあ、ここでちょっと休んで行こう」
「うん」
明らかに不気味な気配と存在感を放っているボスのことは放っておいて、休憩も兼ねてしっかり準備をさせてもらおう。気分は、ボス戦手前のセーブポイント。
どうせお前ら、ボス部屋から出てこないだろう。だったら、ここでノンビリしててもいいじゃないか。それに、ボスなんて僕らが訪れるまで、永遠に待機状態だったんだろ? なら、その待ち時間がちょっとばかり伸びて、一体何の不都合があるんですかね。
「小太郎くん、お茶沸いたよ」
「ありがとう」
謎ハーブを煎じたお茶モドキを飲みながら、ハチミツ団子を食べる。うん、やっぱり、甘いモノがあるってのはいいよね。脳に糖分も補給できるし。それに甘味があると、この微妙な風味のハーブティーもそれなりに美味しく感じるよ。
ふぅー、と一服しながら、ボス戦前に最後の戦力確認をしておく。
まずは、最強のエースにしてメインアタッカー、『狂戦士』メイちゃん。
彼女の武器は、これといって更新はない。メインウエポンは『黒鉄のナイトハルバード』と『ダークタワーシールド』のままだ。元々、リビングアーマーの鹵獲品を小鳥遊小鳥が錬成して強化した一品だから、これを越える性能の武器が手に入るとするならば、それこそリビングアーマーのボスでもないと無理だろう。
ただ、桜井君との戦いで、盾には何か所か穴が空いてしまっている。この分厚い大盾を貫通するとか、本当にヤバい威力だよ。ともかく、穴をそのままにしておくのもアレだったので、ひとまず僕が『簡易錬成陣』で応急処置は施しておいた。
あまりに硬い素材、あるいは魔法の性質的なせいか、『簡易錬成陣』で加工できるモノには限りがある。具体的には、この『ダークタワーシールド』を構成する漆黒の金属はピクリとも反応しなかった。僕が頑張って扱えるのは、ただの鉄くらいまでだ。なので、盾の穴はゴーヴの剣の刀身を利用した、鉄で塞いでいるだけである。
こんなのでも、やらないよりはマシだろう。
それと、メイちゃんにはサブウエポンで呪いの武器みたいに不気味な気配を発する『八つ裂き牛魔刀』がある。桜井君を殺したのも、この剣らしい。切れ味抜群で、使い心地も良いと、メイちゃんお気に入り。やっぱり、元々は自分の包丁だったからかな。
装備の更新はなくても、現状でも十分以上に通用する武器だと思っている。前のボスである、ゴライアスなんて瞬殺だったしね。
次に、レム。初号機は、リビングアーマー風の黒騎士にアップグレードできたワケだけど、三号機の方もちょっとだけパワーアップできている。余ったリビングアーマーの装甲を取り込んで、今までのように各所に鎧を形成していた。
三号機の装備は、初号機の武器をそのままおさがりとして流用。ただ、黒騎士と化した初号機とのスペック差が広がったので、肩を並べて前衛よりも、弓をメインにした方が効率的じゃないかと思ったり。まぁ、状況次第だけどね。
二号機であるアラクネも、ちょっと久しぶりに輸送コンテナこと宝箱を背中から下ろして、戦闘に集中してもらう。
それから、ボスに挑む前に『愚者の杖』でスケルトン部隊を召喚して、武装もさせておく。といっても、アラクネの輸送量にも限度があるので、人数分の剣しかないけれど。それでも、普段は丸腰だから、剣を持ってるだけかなりマシだろう。
さて、あとは僕だけど、真っ当な武器として使えるのは、いまだに『レッドナイフ』と、あとは最大攻撃力として『樋口のバタフライナイフ』だけだ。
ただ、今のメインウエポンと言うならば、やはり『愚者の杖』になるけれど。さて、どの髑髏を装填するのが一番いいだろうか。
「うーん、ガチバトルなら、やっぱり『呪術師の髑髏』かな」
その魅力はやはり、『毒』の圧倒的な攻撃力。『付加』で味方の武器に毒をプラスできることも加味すれば、戦闘そのものでは『呪術師の髑髏』で得られるスキルが最も有用だ。
というか、スケルトン部隊を召喚するには『召喚術士の髑髏』が必要だけど、その後は別に杖がなくても命令と操作はできるから、戦闘中になれば髑髏は変更した方が良かったりする。
それにしても、本当に戦力が充実してきたものだ。メイちゃんに、レムが三機、そしてスケルトン十三体と、人数だけならかなりの大所帯。ボス部屋って、こんな人数で雪崩れ込むような場所だっけ。
まぁいいさ、この数も含めて、今の僕らの全力だ。
「そろそろ、行こうか」
「うん」
まるで、ちょっと立ち寄っていた喫茶店を出ていくような気軽さで、メイちゃんは立ち上がる。その全く緊張を感じさせない頼もしい背中に続いて、僕はいよいよボス部屋へと踏み入った。
「これはまた、趣味の悪い広間だね」
案の定、ボス部屋は広間となっているのだが……その辺に突き立っている円柱が、妙に捻じれている。壁には、蔦なんだか蛇なんだか、よく分からんウネウネした気持ち悪いレリーフがビッシリと掘られていて、ずっと見ていると気分が悪くなりそうだ。
「大丈夫だよ、戦うのには邪魔にならないし」
デザイン面ではなく、戦闘における立ち回りのことしか考えていないメイちゃんは、すっかり立派な狂戦士だ。ダンジョンで出会ったばかりの頃だったら、この邪神の神殿みたいな禍々しい内装に、ワンワン泣き出してしまっていたもしれない。ハハッ、そんな姿、今ではもう想像できないよ。
「確かに、悪趣味なデザインってだけで、特別に何か仕掛けがあるワケではなさそうだけど……お?」
キョロキョロと広間を見渡していると、薄暗い奥の方から、ヒタヒタと静かな足音をたてながら、大きな人影が歩み出てきた。ボスのお出ましだ。
「見たところ、ハイゾンビのボスってところか」
筋線維剥き出しの不気味な赤い体に、白っぽい甲殻が張り付いた姿は、すっかり見慣れたハイゾンビと似ている。ただし、ボスはかなりデカい、身長3メートルは軽く超えているだろう。
体型はマッチョ、というか、やけに上半身が肥大化しているような感じだ。これでもかと筋肉の鎧を束ねた分厚い胴体と、ギチギチに張りつめた野太い両腕は、見るからにパワー系である。
なんだか、コイツもゾンビ撃ち殺す系ゲームで見たことあるようなデザインのボスだった。
「メイちゃん、どう?」
「力は強そうだけど……圧倒的という感じはしない、かな」
彼女がそう感じたのなら、その程度の実力のボスなのだろう。
なんといっても、メイちゃんは蒼真パーティ在籍中には、パワーもテクニックもあるリビングアーマーのボスと戦い、さらにはゴグマ四天王と四本腕の大将ゴグマにストレート勝ち、という経験がある。
実はボスの強さって、パーティの強さに合わせて設定しているのでは、と思ってしまうほどの強敵揃いだったワケだ。でも、今は僕と組んでいるお蔭で補正でも働いたのか、現れたのはハイゾンビのボス。
コイツなら、それほど苦戦せず順当に勝てるのではないだろうか――などと、思った矢先である。
「ムォオオオ……ヒョォオアアアアアアアアアアッ!」
膨れ上がったマッチョのくせに、オカマみたいな甲高い男声で、ボスが絶叫を上げた。戦闘開始の合図か何か、かと思いきや、
「ウォオオオオオオオ!」
「アァアアアアアアアアアッ!」
物凄く聞き覚えのある、元気の良い雄たけびが、広間一杯に響き渡った。
「こ、コイツ、まさか――」
不気味なデザインの捻じれた柱から、気持ち悪い壁のレリーフから、俄かに赤いラインの歪な魔法陣が浮かび上がり、ハイゾンビが這い出てくる。
コイツらは、やっぱり魔法陣で召喚されてはダンジョンに解き放たれていたのか、なんてことよりも、奴らが出てくる魔法陣の数は……ざっと見て、十を超えている!
「クソっ、雑魚が湧くタイプのボス戦なのか」
「小太郎くん、下がって」
少しだけ心配そうな視線を、チラっと僕に送ってくれるメイちゃん。
ボスと同時に、ハイゾンビ共も一緒に襲われれば、僕の身は危うい。
でもね、ゲームだとこのテのギミックのボスっていうのは、後手に回ったらジリ貧になるものだ。だって、雑魚敵はどうせ無限湧きだろうから。
「メイちゃんとレム、二人でボスを倒して」
「でも、それじゃあ小太郎くんが」
「僕は残りで何とか凌ぐ。というか、ハイゾンビを受け持つから、その間に一刻も早くボスを倒すんだ!」
「うん、分かった!」
「グルル、ゴガアアッ!」
僕の指揮を信じてくれるメイちゃんは、二つ返事でハイゾンビボスへと向かって行った。そして、そのすぐ後ろには黒騎士なレム初号機が続く。
ボスに対する短期決戦を狙うなら、最大戦力をぶつけるしかない。初号機まで僕の下から離れさせるのはかなりの不安があるけれど、この状況下では時間がかかればかかるほど、不利になるのは僕らの方だからね。
というワケで、エース不在の僕は死ぬ気で防衛戦である。
「それでも、慣れた相手が湧くだけ、マシってものかな――広がれ、『腐り沼』!」
まずは、多少なりとも地の利を得るために『腐り沼』を展開。退路はないし、必要もないから、僕は壁を背にして、前方全てに沼を広げた。
ハイゾンビは全力疾走かつ痛みを感じないので、『腐り沼』とはあまり相性がよくない。奴らは平気で数メートルは毒沼を渡ることができる。少しばかり足が溶け落ちた程度では、決して止まらない。
だから遺跡街ではほとんど使わなかったけど、全く効果がないワケでもないんだよね。
「ァアアア――オヴァァアアアッ!」
さて、間抜けな野郎が早速、盛大な毒の飛沫をあげて沼に頭っからダイブしてきたぞ。バシャーンと派手に水面を滑るハイゾンビは、相変わらず絶叫を上げているが、流石に全身が溶けていくと痛みなり危機なり感じるものなのか、その声は若干、苦しそうな雰囲気である。
ハイゾンビは一途な乙女のように、僕らを見かければ真っ直ぐに走り寄ってくる。つまり、足元はかなり不注意なのだ。
階段ほどの段差があれば、認識してジャンプしたり駆け下りたりもするけれど、毒沼の水面ギリギリで水草のようにユラユラと黒髪触手を漂わせているくらいなら、奴らは全く気に留めない。というか、気づきもしない。
そして二足歩行の人間型が、全力疾走中に縄に足が引っかかればどうなるか。その答えが、くだらないバラエティ番組の罰ゲームみたいにスっ転んでいるハイゾンビの姿というワケだ。
ついでに、ハイゾンビにはあまり仲間意識ってのはない。人のフリを見て、我がフリを直せない低能野郎共だ。だから、お仲間が明らかに足を引っかけて転んでいるにも関わらず、俺は絶対大丈夫だし、とでも言うように自信満々にダッシュしてくるんだよなぁ。
「アバァアアアアッ!」
「ウギョォオアアアアッ!」
前後左右で派手にクラッシュしているハイゾンビ達。とりあえず、先陣を切って駆けこんできた奴らに関しては、ほぼ『腐り沼』だけで止めることができた。
転んだ奴らは、適度にレム三号機とスケルトン部隊が頭を刺して処理。ついでに、可能な限りは毒沼から死体を避けておく。
毒沼を死体で埋めて突破口にするのは常套手段というか、群れる奴らが大挙してくるといっつも発生するからね。今はスケルトンという人手もあるから、多少は死体除去作業もはかどるけれど……うーん、やっぱり、それだけで凌げるほど甘いウェーブではなさそうだ。
「参ったな、召喚速度が思ったよりも早い」
ハイゾンビの第一陣を粗方倒しはしたが、壁と柱の召喚魔法陣は現在進行形で稼働中であり、次々と新たなハイゾンビを送り込み続けている。
このテの雑魚召喚システムってのは、幾つかパターンがあるものだ。
召喚数が決まっているもの。召喚速度は一定で無限湧き。召喚速度あるいは召喚タイミングに時間差があるもの。最悪なのは、プレイヤーの実力に応じて、さらに追加召喚するようなタイプだ。
つまり、大量の敵を一網打尽にしても、召喚魔法がヤル気を出してさらに大量の雑魚を投入してくる、という場合もありうるってこと。そうなると、適度に数を残しつつ防戦するか、または、殺し切らずに無力化させて放置すると、召喚魔法の感知システムを誤魔化せて召喚を防げる、なんてこともできるはずだけど……ボス戦の攻略ウィキでもあれば、正確な情報が分かるのだけれど、そんなのあるわけないし、リアルタイムで分析して予測していくより他はない。
「なんか召喚を止める裏ワザでもないかな」
ハイゾンビの第二陣が駆け込んでくる。毒沼から片付けられた死体は半分程度。ということは、さっきよりも多くの奴が沼を渡って来られるだろう。
レム三号機と剣を構えるスケルトン部隊が、駆け込んでくるハイゾンビを迎え撃つが、その討伐速度はさっきよりも明らかに落ちている。
転んで毒沼に捕らわれた奴にトドメを刺すのは簡単だけど、貧弱なスケルトンは真っ向勝負となるとキツい。僕が触手で援護して、ようやく一体切り伏せることができるかという程度。
早くも、二体ほどはハイゾンビに捕まれて揉み合ってるところも発生し始めた。
全く、数の有利はこちらにあると思ったのに、まさかそれを遥かに上回る数の暴力を喰らうことになるとは。
「ちくしょう、まだどんどん召喚してるのかよ」
ハイゾンビの召喚速度に、変化が見られない。こちらの処理速度が落ちているにも関わらず、同じような数を呼び出しているということは、ハイゾンビの討伐状況に応じて変化することはない、と考えていいだろう。
召喚速度が一定であり、かつ、僕らの処理速度の限界を上回っていれば、敗北は確定。この調子で行けば、三分と経たずに奴らの数に押し潰されそうな気がする。いかん、思ったよりももたないぞコレは!
「メイちゃんは――」
チラっとボス戦のメイン会場を見れば、メイちゃんがちょうどボスに一太刀を浴びせているところだった。
肩口から袈裟懸けに、ハルバードの刃が切り裂いていく。血飛沫を上げて、深々と斬撃を喰らったボスは大ダメージのはず……なんだけど、切り裂かれた断面からは、すぐに鮮血の代わりにウネウネとしたタコ足みたいな触手が何本も飛び出て来た。
「キョォアアア、クェエエエエエエッ!」
奇妙な絶叫を上げながら、ボスはその体から野太い触手を何本も生やす、更なる異形の姿と化して、戦いを続行していた。
「クソッ、高速回復の上に変形かよ! 今はそういうクソ面倒なギミックいらないっての!」
剛腕と触手を振り回して元気よく暴れ回るボスの姿に、メイちゃんも苦々しい表情を浮かべていた。
どうやら、今のように切ったところから触手が生えて再生、というのはすでに何度か目の当たりにしているようだった。よく見れば、ボスの足や脇腹にも、触手が生えている。
どこを切っても、平然と再生をかましてくる。おまけに、触手が増えて攻撃面でも防御面でも厄介になる。下手なダメージはかえって相手を強化しているだけだ。
「まずい、まずい、これはボス戦も長引くぞ……」
僕らがボス戦に勝利するためには、まず僕がハイゾンビ軍団をそれなりの時間凌ぎつつ、さらに高速再生能力持ちのボスを倒し切る方法も考え出さなければいけないということだ。
あれっ、もしかして今回、詰んでない……?




