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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第11章:孤独の射手
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第164話 大ボス

 天道チームの荒れた果てた宮殿エリアの攻略は、順調に進んでいる。

「『一撃穿フルスラスト』っ!」

「『強大打ヘヴィスマッシュ』っ!」

 ジュリの繰り出す『黒金の槍』とマリの振るう『黒金の斧』は、共にリビングアーマーの重厚な装甲を打ち破る。龍一の錬成士謹製の武器と、より上位の武技を習得した二人は、今やこの動く鎧兜と真っ向勝負で打ち勝てる力を持つ。ただし、一対一だと分が悪いので、基本は一体に対してコンビであたる。

「はぁ、コイツ固すぎてヤダもぉー、『石矢テラ・サギタ』!」

 一方、杏子は新たな攻撃魔法を授かることはなかったものの、防御の固いリビングアーマーに対してほぼ撃ちっぱなしとなる『石矢テラ・サギタ』の熟練度が上がった模様。威力、精度、連射速度、どれも少しずつ向上し、さらに三発まで同時発射が可能となっている。

 流石に、一発でリビングアーマーの鎧をぶち抜くほどの威力はないが、撃ち続けて一体をボコボコにしながら動きを封じるくらいはできるようになっていた。

「杏子、もういいよ!」

「後はアタシらが――オラァ、『強大打ヘヴィスマッシュ』っ!」

 杏子が文句を言いながらも『石矢テラ・サギタ』を浴びせ続けて足止めされていたリビングアーマーに対し、ジュリマリコンビが武技を叩き込み一気に四肢をバラす。

 中身のない鎧だけの彼らに、死の概念があるのかどうかイマイチ分からないが、とりあえず手足がなくなれば動かなくなる。そして、動きさえしなければ、ソレは最早脅威でもなんでもない。

 ジュリマリコンビの前衛と、立派な『土魔術士』として成長してきた杏子、ギャル三人組だけでも、今は最高で三体まではリビングアーマーを相手にして、勝利できるまでに経験を重ねてきたのだった。

 このエリアの攻略を始めて三日経過した現在では、現れるリビングアーマーの相手はもっぱら三人で、龍一はよほど数が多いか、灰色の奴よりも強力な黒い鎧が現れた時しか、戦うことはない。

 リビングアーマーの装備品は、スケルトンのものよりも格段に高品質であり、戦利品としてはかなり美味しい。おまけに、このエリアではそれなりに宝箱もあり、ポーションをはじめとした魔法のアイテムも入手できる。

 宝箱の設置に伴って、仕掛けられている罠も増加傾向にあったが、龍一の『目』を欺けるモノは何一つなく、片っ端から解除かスルーで、難なくお宝だけを手にしている。

 そうして、武器・アイテム、共に充実してきた今日この頃であるが……杏子待望の土魔術士用の武器は、いまだナシであった。

「やっとボスか」

 合わせて一週間ほど費やして、広大な宮殿エリアを踏破し、ついにボス部屋と思しき巨大な扉へと辿り着いた。

 何の気負いもなく、龍一は重く閉ざされた両開きの扉を、蹴り一発で開け放ち、堂々と中へと立ち入った。

 そして、相手もまた堂々と、巨大な広間の中央で待ち構えていた。

 身の丈3メートルはある、巨大な漆黒の騎士である。本体そのものといえる鎧は、これまで相手にしてきたリビングアーマーよりも重厚、かつ豪奢な装い。艶やかな黒い装甲には、随所に黄金の装飾があしらわれ、その出で立ちは騎士というよりも、将軍という方がしっくりくる。

 そして、床に突き立てられた大剣も、同じく黒地に金装飾の華麗なデザイン。しかし、黒一色の刀身は分厚く、鋭く、そこに秘める破壊力は見た目以上であると察するに余りある。

「一人、か。取り巻きはいねぇようだが――」

「『石矢テラ・サギタ』っ!」

 龍一が将軍アーマーに向かって行くよりも先に、杏子の攻撃魔法が炸裂した。

 元より、ただのリビングアーマーの装甲を凹ませるにとどまる威力しかないため、さほどダメージを与えられるとは思わなかったが……石の弾丸がその鎧に触れる寸前で砂のように小さな粒と化して砕け散ったのは、想像に反する光景だった。

「うわっ、なにアレ、バリア? ズルくない?」

「蘭堂、お前、俺より手ぇ出すの早ぇって相当だぞ」

「え? だって敵だし、魔物だし、っていうかボスじゃん。撃っていいでしょ」

「もうちょい後先考えて……いや、俺が言えた義理ではねぇな」

 やれやれ、とばかりに溜息を吐いてから、龍一は切り替えていくことにした。

「アイツは俺がやるから、お前らは手を出すな」

「ウチの攻撃は通じないみたいだし、天道に任せるわ。あとヨロシクね」

「天道君、頑張ってね! あと、杏子はちょっと向こうで話をしようか」

「天道君なら、絶対に勝てるよ! で、杏子はちょっとあっちで反省しようか」

「えっ、なにこのウチが悪いみたいな流れ?」

 なんなのよー、と不満げな表情で、両脇をジュリマリに抱えられてズルズルと扉の方へ引っ張られていく杏子へ、龍一は一瞥すらせず、真っ直ぐにボスだけを見据えた。

「よう、お前はなかなか強そうだ」

 世辞ではなく、純粋な事実。目の前に石像が如く微動だにしない将軍アーマーからは、あの赤いドラゴンに勝るとも劣らない強力な気配を感じさせる。いや、天職『召喚術士』東真一に操られて意識が乱れていた上に、かなり年老いていたドラゴンと比べて、SF映画の殺人マシーンのように研ぎ澄まされた殺意をみなぎらせる将軍アーマーの方が、戦闘時に発揮するパフォーナンスは高いだろう。 魔物としてのスペックは老いた死にかけとはいえドラゴンの方が上だが、持てる全力を発揮する将軍アーマーは総合的な戦闘能力では大きく上回るに違いない。

 そして、これまでのリビングアーマーの動きを見るに、彼らには剣術の心得がある。槍にしろ、斧にしろ、ただ力任せに振り回すだけでなく、きちんと人間が編み出した武器の効率的な扱い方をしている。ダンジョンをウロついている奴らでも、それなりの腕前を持っていた。ならば、彼らのボスである将軍アーマーは、達人級とみるべきだろう。ただ真っ直ぐ襲い掛かってくるだけだった、横道よりは遥かに厄介な使い手だ。

 久しぶりに、本気で戦えるだけの相手に巡り合えた。

「楽しませてくれよ」

 傲岸不遜に笑う王に対し、将軍は静かに剣を構えた――




「やった、勝った!」

「さっすが天道君!」

 ジュリマリコンビの黄色い声が、若干、頭に響く。だが、激戦を終えた体に『ワイルド7』の一服が沁みて、心はすっかり落ち着いた。

「ふぅー、流石に疲れたな」

 小太郎から買い取った貴重なタバコをしっかり味わってから、龍一は思い出したように、将軍アーマーの兜を貫く『王剣』と、抉りだしたコアを掴んだ『王鎧』の籠手を消した。

 輝く黄金の粒子と共に形を崩し始めた王の剣と鎧は、その場に転がる鎧兜を巻き込む大きな渦と化しながら消えて行った。


対象素材設定

『冥将の大剣・ザムドリンガー』

『冥将の鎧兜・ザムドボゥグ』


王剣精製開始――完了

『王剣』新形態『冥剣・ザムド』


 流石に、久方ぶりの強敵とあって『王剣』も新たな力を獲得した。

 拵えは、将軍アーマーが使っていた大剣と似ており、分厚い刀身の両刃で、黒地に黄金の文様が輝く。その圧倒的な切れ味と重量による破壊力は勿論、その剣に宿す能力も同様に発揮するだろう。

 将軍アーマーの大剣は、振るえば衝撃波を放ち、床を叩けば石畳を隆起させ、挙句の果てには刀身からバリバリと雷撃まで撃ってみせた。

 戦いを終えたボス部屋は、床の三分の一が叩き割れ、壁の半分は焦げ跡が広がっている。もっとも、それらの破壊の跡は、龍一とボスが半々で刻んだものではあるが。

 ともかく、王剣に新たに強力な魔法の力が宿ったのは事実。

 ちなみに、以前の王剣にも、それぞれドラゴンの赤い大剣には『火竜剣・サラマンドラ』、スケルトンボスの大剣には『無骨』と、名前はついており、その気になればいつでも同じ形態にできる。地底湖で戦ったワニ型リザードマンのボスを倒して得た、水属性を宿す青い拵えの大剣なんかもあるのだが、特に出番はなかったので一度も使ったことはない。

 勝手に増えていく剣のことなど、龍一は一々覚えていない。形態変更も、今のところは手加減して戦う時に『無骨』を使う程度である。

 だが、今回ばかりは今までエースであった『火竜剣・サラマンドラ』を越える力を得たので、以後は『冥剣・ザムド』を振るうことになるだろう。

 そして、龍一が得たのは『王剣』の進化だけではない。


捕食スキル


『ファントムメイル』:冥将の鎧兜と同等の防御力を持つ、不可視の鎧を身に纏う。


『ネガウェイブ』:刀身から闇の魔力による衝撃波を発する。


『カースドソイル』:闇の魔力に侵蝕された黒き土。


『エンドボルト』:闇の魔力に閃く黒き雷。


『ネザーヴォルテクス』:冥将が放つ必殺の斬撃。おぞましい闇のオーラが破壊の渦を巻く。


『フィアーゲイズ』:恐怖系の威圧により、敵の注意を引く。


『ホラーブレイク』:アンデッドに対する耐性と威圧。


『テラーブレイク』:ゴーストに対する耐性と威圧。


 ズラズラと頭の中に羅列される情報の感覚にウンザリしながら、龍一はさっさと転移を果たすべくコアを片手に歩き出す。

 ボスの武器も鎧兜も龍一が吸収して糧にしたことで、回収すべきモノはほとんど残ってはいない。だが、全てが消えてなくなったワケではないのだ。

 龍一はチラリと、吸収しきれなかった鎧の残骸に目を向けると、それらに向かって手をかざした。

「……『従者・錬成士』」

 黄金の魔法陣と共に、輝く粒子の錬成士達が、黒金の装甲を元に新たな武具を創造してゆく。一分と経たずに、金の光は弾け、作り出された新たな武器が、主たる龍一の手に握られていた。

「へぇ、なかなか、良く出来てるじゃねぇか」

 龍一にしては珍しく、満足そうにつぶやく。王の賞賛をいただいたその武器は、銃であった。

 黄金に輝くリボルバー。何ともド派手な見た目の銃だ。

 試しにトリガーを引けば、ガキリ、と撃鉄が落ち、六連装のシリンダーが回転する。動作は正常で、見かけ倒しのモデルガンではなさそうだった。

「蘭堂、お前が使え」

「えっ――っと、うわぁ、いきなり投げるなーっ!」

 ヒョイっと放り投げられた黄金銃を、割と鈍い杏子は見事にキャッチし損ねて、ガランガラーンと床へと取り落とす。

「で、コレって使えんの? 弾とかないし」

「ソイツで魔法を撃てば、多少は威力が上がるはずだ」

「えー、ホントにぃー?」

「後で試してみろ。ここでは撃つな、あと、銃口を覗くな、危ねーだろ」

「ほーい。でも、まぁ、ありがとね」

「大したモノじゃねぇ。それより、さっさと行くぞ」

 そうして龍一は、どうにかここのエリアにいる内に杏子へのプレゼントも完成させ、次のエリアへと転移を果たしていくのだった。




「……随分、デカい広場だな」

 転移してきて、その妖精広場の大きさに思わず声を漏らしてしまう。

「うん、これいつもの倍以上あるんじゃない?」

「ちょっとした公園だよこれ」

 ジュリとマリも、これまでにない妖精広場のサイズに周囲を見渡している。

 だが、広いというだけで、これといって特別なことはないと、すぐに判明する。いつもの妖精像の噴水に、並木のような妖精胡桃の木々と、色とりどりの花畑。

 特に気になることもないので、龍一達は早々に広場を出発した。

「うわー、なんにもねー」

 つまらなさそうに言う杏子。目の前には、ひたすらに赤茶けた荒野が広がっている。

 取り立てて目立つものといえば、背後にそびえ立つ大きな塔。ついさっき出てきた妖精広場がある建物だ。

 広場は塔の二階部分にあり、一階は巨大な円形のエントランスとなっていた。空き部屋なども見つけたが、どこもガランとしていて、特に何も見当らなかった。

 恐らく、ここで何かを見つけようとするならば、この荒野を進むより他はないだろう。

 しかし、歩き始めて1時間。変化といえば、左右に大きく岩壁がせり出してくる、渓谷の地形となったことくらい。ちょうど、谷の底を歩いている形となる。

「これ、いつ着くの」

「さぁな、まだしばらく谷は続いているようだ」

 龍一が言うなら、その通りなのであろう。事実、それから30分経過しても、変わらずに谷底の道を進み続けるのみ。

 あまりに退屈な道のりに、はばかることなく大あくびを杏子がかました辺りで、ついに変化は訪れた。

「イー、キキーっ!」

 猿のような鳴き声を上げて現れたのは、灰色の人型。グレーの毛皮の猿、というワケではないのは、そのシルエットに翼が生えていることから一目瞭然である。

「あー、なんだっけ、ああいうの、見たことある。グレムリン?」

「ガーゴイルじゃねぇのか」

 石のような灰色の体に、醜い悪魔染みた顔つき。大きく広げたコウモリのような羽は、どうやら腕と一体化しているらしい。

 この辺に教会や聖堂はないので、飾られている石像が魔法の力で動き出した、というよりは元からああいう形態の魔物であると推測される。

 もっとも、明らかに敵意剥き出しで現れた魔物を相手に、気にするべきはその生態ではなく、力だ。出現したガーゴイルは十数体。どうやら、谷の上から滑空してここまで降りてきたようだ。

「よーっし、そんじゃあ早速、撃っちゃおっかなー」

 地味に試射を楽しみにしていた杏子である。黄金のリボルバーを、へっぴり腰で構える微妙にカッコ悪い姿で、威嚇するようにギーギー鳴いているガーゴイルへと狙いを定める。

「『石矢テラ・サギタ』」

 撃鉄が降りると共に、ドォン! という発砲音。その銃口に奔ったのは、緋色のマズルフラッシュではなく、『石矢テラ・サギタ』を示す魔法陣。

 発射と同時に銃口に浮かび上がったオレンジ色に輝く『石矢テラ・サギタ』の魔法陣は、直後に粉々に砕け散り、結果的にはマズルフラッシュも同然の光となって弾ける。

 そうして放たれた杏子の『石矢テラ・サギタ』は、いよいよ襲い掛かってくるガーゴイル、その先頭を走る胸元に命中し、大穴を穿つ。鈍い音共に、灰色の体が弾け飛ぶ。

 そして、直後にはその真後ろを走っていたガーゴイルも、同じようにその身を貫かれていた。

「おお、スゲー、二匹貫通したよ」

「マジで威力上がってんじゃん」

 ジュリマリの言葉と全く同じ感想を、杏子は抱いていた。

「サンキュー天道、この銃、趣味は悪いけど、凄い強いわ!」

 驚くべきは、威力だけではなく、その連射性。

 ガキン、ガキン、と杏子は立て続けにリボルバーのトリガーを引く。

 すると、今までとは比べ物にならない速度で『石矢テラ・サギタ』は次々と撃ち出されてゆく。リボルバーの形状からして、本来、弾丸を装填するシリンダーには六つの穴が空いており、どう見ても六連発なのだが、魔法を放っているせいか、その装弾数は術者の魔力量に依存する。

 つまり、本人の魔力が続く限りは、リロードを挟まず射撃を続行できる。

 しかし、いくら連続で撃てたとしても、射撃になれない者が動く的を相手に命中させるのは難しい。だが、撃ち出すのは装填された弾丸ではなく、自らの魔法。

 杏子はこれまでの戦闘によって、『石矢テラ・サギタ』を相手に命中させる感覚もまた培ってきた。攻撃魔法を放つ時は、ただ放たれれば真っ直ぐ飛ぶというものではなく、自分の手を伸ばすように飛ばすのだ――少なくとも、杏子はそう感覚的に学んだ。

 撃ち出された弾を当てるのと、伸びる手で触れるのとでは、感覚的に繋がりがある分、後者の方が遥かに容易。要するに、真正面から向かってくるだけの魔物を相手に、一発も外す気はしなかった。

「っしゃーっ! ヤッターっ!」

 勝利の雄たけびを上機嫌に杏子は上げる。そして、その戦果を素直に祝福するジュリマリである。

「この調子なら、しばらく楽できそうだな」

 龍一は雑魚の相手を任せられると、呑気に喜びあうギャル三人組を眺めていた。

 ガーゴイルからは、特に回収すべき素材は見当たらなかった。

 どうやら、全身が石でできているワケではなく、中身は赤い血肉を持つ生物らしい。ただ、見た目通りに灰色の表皮は石のような硬質さがあり、少なくともゴーマよりかは防御力に優れている。

 もっとも、多少の硬度を持つ程度では、今の天道チームの相手にはならない。ジュリもマリも、これくらいの硬さであれば、武技を使わずに刃を通せるだろう。

 大した強さのないガーゴイルは、それから、先に進むたびにその数を少しずつ増していった。

「この先に奴らの巣があるな」

 そんなことは、明らかに数を増やしつつあるガーゴイルを見れば分かる。だが、龍一がわざわざ言うということは、その巣は目と鼻の先にあることを示している。

 一体辺りは弱いガーゴイルだが、それも大群となれば立派な脅威となりうる。龍一はいつもと変わらず堂々と歩を進めるが、杏子達は密かに警戒心と緊張感を高めつつ、後を追った。

 そして、龍一の言う通り、巣は見つかった。いや、目に入らない方がおかしいほどの、それはあまりに巨大な巣であった。

「うわー、これ、ちょっとヤバくない?」

 谷底を抜けた先に広がっているのは、巨大なすり鉢状の盆地。超巨大な蟻地獄とでもいうべき形状の地形であった。

 そして、そのど真ん中に岩山がたっている。軽く高さは100メートルを越えるだろう。ほぼ円形に広がる岩山は、木々の代わりに尖塔のように鋭く尖った岩の柱が何本も突き立つ。中でも、真ん中にあるのは特に高く、東京タワーかスカイツリーかといった趣を感じさせた。

 その岩の柱や塔のそこかしこに、無数のガーゴイルが蠢いている。

 こんな岩しかない場所で、どうやったらあれだけの数の魔物を養えるのか、疑問に思うほどの繁殖振り。だが、ざっと見て奴らが餓えて苦しんでいる様子はなく、巣に近づけば、元気よく一斉に襲い掛かって来るだろうことは想像に難くない。

「流石にこの数は厳しくない?」

「ちょっと無理かも……」

 あまりの数のガーゴイル軍団を前に、三人はどこまでも弱気な発言。対して、龍一は――

「アイツはヤバいな」

 初めて聞いた、龍一の弱音に、三人は息を呑む。

 だが、それも仕方がないと思える。いくらなんでも、あれだけの数を相手に、などと考えていた三人は、龍一の危機感の真意を全く理解していなかった。

 龍一は「アイツ」と言った。無数に蔓延るガーゴイルに対し、明確に一つを指す言葉だ。

 それは言い間違いではなく、純然たる事実。彼が危機を抱く存在は、ガーゴイル如きではなく、もっと別の、より強大で、圧倒的な単一個体に対するものだ。

「まさか、あんなにデカい奴がいるとはな」

「えっ?」

「それって、どういう……」

 その時、ガーゴイル達が一斉に羽ばたいた。ギャアギャアとやかましい声を目いっぱいに叫び、不協和音の大合唱が響き渡る。だが、そんな音もすぐにかき消される。

 大地を揺るがす轟音。いや、本当に、地面が揺れている。

 岩山が、動いていた。

 最初は、目の錯覚かと思った。だが、どうやらこれはただの地震ではなく、超巨大な質量が動いたことによる震動なのだと、理解せざるを得ない。

 そう、彼らの目の前で、ガーゴイルの巣であるはずの大きな岩山は、確かに動いているのだから。


 ォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!


 地の底から響く重低音と共に、大地を割って、巨大な何かが出でる。それは、太く、長い、木の根のようで――しかし、頭であった。

 無機質な赤い瞳の輝きは、確かな生命の証。土砂の落ちた向こうには、金属質に青白く輝く鱗が並び、ゆっくりと開かれた口には鋭い牙が覗く。その口先にチロチロと蠢くのは、どうやら長い舌であるらしいが、竜の尻尾のようなサイズだ。

 巨大な、あまりに巨大な、蛇の頭がそこにあった。

 そして、大蛇という枠を超えた規格外の超大型モンスターは、ここに現れた小さな人間の存在を確かに感じ取ったようだ。蛇は真っ直ぐ、龍一を睨んでいた。

「お前ら、下がってろ……いや、妖精広場まで、走って戻れ」

 2018年11月2日


 今回で第11章は完結です。それでは、次章もお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 強大極まるモンスターが現れたことです。
[良い点] さすが龍一、敵もスケール感が違う
[気になる点] 天道チームの荒れた果てた宮殿エリア 一体辺りは弱いガーゴイル
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