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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第11章:孤独の射手
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第162話 遺跡街攻略(2)

 デカコッコを倒した後、コッコやラプターや赤狼などの群れる魔物達をほどほどに蹴散らして、無事に次の妖精広場まで辿り着くことができた。

 コッコのねぎまを腹いっぱい食べて、その日は就寝。ネギっぽい野菜をたまたま採取できたし、木の枝を『簡易錬成陣』にかければ串も一瞬で用意できるし、僕の能力ってだいたい料理にばかり使われてる気がするけど、まぁ、美味しいからよしとしよう。

 二つ目の妖精広場にまで来たけれど、遺跡街はまだまだ先が続くようで、ここはただの通過点として、翌日にはさっさと後にする。

 さぁ、今日も元気にダンジョン攻略だ、と張り切って外に出たのと、ほぼ同時であった。

 ズン、ズン、という地を揺らすほどの大きな足音。デカい奴が、デカコッコとは比べ物にならないほど大きな魔物が、そこにいる。

 幸いにも、メイちゃんの直感と僕の『気配察知』とで、その大きな魔物が姿を現す前に、隠れることができた。

「グルルル……ゴフッ、ゴフ」

 荒い鼻息と唸り声を漏らす魔物は、あのサラマンダーと獲物の奪い合いをしていた、サンダーティラノと似たような姿だった。外観は二足歩行の大型肉食恐竜。

 その全身を覆うゴツゴツとした岩のような甲殻と、角ばった頭部の形状から、ゴアに良く似ている。

 ティラノよりは小さいのだが、奴らは三体で群れていた。ラプターを遥かに超える巨躯のくせに、群れで行動するとは、恐ろしい奴らだ。

「アイツが、『グリムゴア』って奴か……」

 ヤマジュンの魔物情報ノートに、ゴアの上位種とされるグリムゴアという魔物について記されていた。

 もっとも、サイズに見合った強さを持ち、少数で群れを形成する、という程度の情報しかないけれど。ああ、それと、地属性の力を使うとかなんとか。恐竜が流暢に詠唱して魔法をぶっ放すとは思えないから、砂とか石のブレスでも吐くってことなんだろう。

「下手なボスよりも厄介だよアレは」

「小太郎くん、どうするの?」

「勿論、スルーの方向で」

 あのグリムゴアを倒せば、かなりデカいコアが手に入るだろうけど、今すぐ必要というワケではない。ここでアイツらに挑むメリットは皆無である。

 なので、隠れ潜んだ廃墟の中で適当に時間を潰しつつ、念のためにスケルトンを率いたレム三号機に偵察もさせて、グリムゴアが付近から去ったことを確認してから、ようやく本日のダンジョン攻略は始まった。

 そして、歩き始めて五分としない内に、再び僕らの足は止まった。

「ねぇ、小太郎くん、あれってもしかして……」

 ゴクリ、と生唾を飲み、欲望の色が燃えるメイちゃんの視線の先には、大きな黄色い塊と、その周辺をブンブンと飛び回る無数の羽虫――

「うん、もしかしなくても、蜂の巣だよね」

 廃墟の軒下に作られた、大きな蜂の巣だ。心なしか、飛び回っている蜂も大きいような気がする。ミツバチなのか、スズメバチなのか、蜂型モンスターなのか。

 どういう種別になるのかは分からないが、とにかく、蜂に近づきたいと思う日本人はおるまい。奴らに目を付けられる前に、さっさと離れるのが吉だと思うのだが、

「ハチミツ、とれるかな」

 ここに、何が何でも蜂の巣に挑みたい勇者が一人。いや、働き蜂が必死こいて集めて回った蜜を丸ごと横取りしようというのだから、盗賊というべきか。

 ともかく、ウチの狂戦士はハチミツという名の黄金を前に、不退転の決意を固めているようだ。

「あー、スズメバチみたいな肉食の蜂だったら、ハチミツはとれないんじゃないかな」

「でも、ミツバチだったらとれるよ!」

 いや、うん、そう力説されなくても、分かっている、分かっているよそんなことは。すでに、僕の『直感薬学』が脳裏に囁きかけている。

「その通りだよ、メイちゃん。あのハチ、ミツバチだよ。スズメ並みのデカさと凶暴さがあるみたいだけど、間違いなくハチミツを溜めこんでるよ」

「やったーっ!」

 大喜びのメイちゃんは、もう完全に蜂の巣を諦めるという選択肢は存在していないだろう。

 そんなに、ハチミツを食べたいのだろうか……食べたいんだろうな。

 このダンジョンに落とされてからは、もう口にすることは不可能と思われた甘味である。女の子はスイーツが大好きなのは、僕でも知ってる常識だ。女の子の上に食いしん坊であるところのメイちゃんが、ハチミツという甘味を見逃すはずがないというのは自明の理であろう。

「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「待って、落ち着いて、ここは準備を整えて、蜂の巣に挑もうよ。えーと、ほら、一滴でも多くハチミツは採取したいでしょ?」

「あっ、そ、そうだよね」

 まぁ、メイちゃんがハルバードで『激震』を炸裂させれば、無数のミツバチをブッ飛ばしつつ、巣を回収できるとは思うけど。でも、万が一、力加減を誤って、蜂の巣が木端微塵に吹き飛んで貴重なハチミツの雨を降らせることになってはまずい。

 そりゃあ、僕だってハチミツは食べたいし、『直感薬学』が割と真面目に反応するレベルで、栄養含めて優れた効果があるらしいし。ここで採取をすることは、そう無駄な贅沢というワケでもないだろう。

「さて、どうしたもんか」

 ひとまずメイちゃんをなだめたものの、あんまり時間をかけていれば、いつ理性を失って飛び出していくか分かったものではない。うーん、僕は特に養蜂業の経験はないから、上手に蜂の巣からハチミツを採取する方法なんて知らないけれど……とにかく、まずはあのブンブンうるさい蜂共を黙らせればいいのだろう。

「よし、任せたよ、レム!」

「グガガ!」

 元気よく返事をする、レム初号機と三号機。そして、二人に続くスケルトン小隊。合わせて十五名が、蜂の巣特攻隊である。

 装備は、その辺で調達した木の棒と、松明と油。あとは、蜂の巣回収用の蜘蛛糸ネット。

 まずは、ガラガラと骨の音を立てながら、松明を持ったスケルトン達が蜂の巣目がけて突撃。当然、やかましい上に、色が黒という蜂を刺激させる色合いのスケルトンに対し、蜂は即座に襲い掛かる。無数の蜂は黒々とした塊と化して、スケルトンへと殺到する。

「その攻撃性が仇となるのさ。焼き払えー」

 怒れる蜂にたかられるスケルトンは、そこで火をつける。自分に向かって。松明の油は、最初からスケルトンの体に塗りたくってある。松明をかざせば、即座に引火。

 一瞬のうちに見事な焼身自殺を決めたスケルトンは、その身にまとわりつく蜂と共に轟々と燃え盛る。

 これをスケルトン十三体分繰り返せば、襲い掛かってくる蜂の大半を焼却処分できる。いやぁ、こういう時、使い捨てできる恐怖心のない下僕ってのは便利だよね。

 レム二人が木の棒で巣をガンガン叩きながら、中の蜂を刺激して追い出しつつ、ほどほどのところで、巣を落とす。アラクネと協力して用意した蜘蛛糸ネットで回収して、そのまま、出発して間もない、妖精広場へと持っていく。

 あとは、ハチミツを巣から絞り出すためだけに用意した、『魔女の釜』に放り込めば、ミッション完了である。

「やった、やったよ……私、もう二度と甘いものは食べられないのかと思ってたから……」

 涙ながらに喜びを表すメイちゃん。すでに巣から垂れてきたハチミツをペロペロと舐めて、ご満悦。やはり、女の子にとってスイーツというのは、必要不可欠な精神安定剤なんだな。

「あー、久しぶりに食べると、すっごい美味しく感じるね」

 かくいう僕も、ハチミツをペロペロし始めたら止まらなくなってきた。この口いっぱいに広がる、まろやかにして濃厚な甘みは、この上ない満足感をあたえてくれる。

「よし、それじゃあ私、頑張って美味しいお菓子を作るからね!」

 ペロペロもほどほどに、メイちゃんが早速、調理用に設置しっぱなしだった『魔女の釜』へと向かっていった。

 あれ、もしかしてこれ、今日はもうダンジョン攻略はしない感じ?

 まぁいいや、休日くらい好きにとらせてくれてもいいだろう。今日はハチミツ記念日ということで。




 翌日、今度こそ本当にダンジョン攻略に出発だ。

 お菓子を作るにはあまりに材料が乏しい中、メイちゃんが完成させたハチミツ団子は、素晴らしい出来栄えだったといえよう。バナナイモのデンプン粉から、甘みを引き立てる団子を作り出したのは、流石である。

 採取したハチミツは、次にいつ手に入るか分からない貴重品でもあるので、余すところなくアラクネが背負う宝箱クーラーボックスに厳重に保管してある。『魔女の釜』でしっかりと凍らせておいたから、しばらくは保つだろう。

 スイーツによって糖分と精神力をチャージしたメイちゃんは、いつもよりもさらに溌剌とした笑顔で、元気に遺跡街を歩き出した。

 遺跡の街は、さらに緑を増やしていく。ビルと並行して、巨大な木々も林立するようになり、そろそろ街並みそのものが大きな森に飲み込まれるような気配となってくる。豊かな自然が色濃くなると共に、野生の動物や魔物もどんどん増えてきた。その代りに、ハイゾンビは随分と成りを潜めているけれど。

「――はぁ!」

 気合い一閃。メイちゃんが振るったハルバードの一撃は、大きく魔物の喉を切り裂いた。そして、それが致命傷となり、ドっと地面に力なく倒れ込む、大きなトカゲ。

 ワニよりも大きい、這うような四足歩行のトカゲは、毒のないバジリスクみたいな奴だ。イモリのようにビルの壁に張り付いていて、僕らが通りかかった時に襲い掛かってきた。

 幸い、体がデカいだけで、毒もなければブレスもはかない、物理攻撃オンリーの魔物だったので、正面対決で普通に返り討ちにすることに成功した。この毒ナシバジリスクや、デカコッコのように、サイズのデカい魔物と戦うことも多くなってきた。

 ゴライアスパワーに毒矢も使うレムは、かつての天道君から貰った素材をつぎ込んだあの頃を凌ぐ戦力を持つが、それでも、レムだけだったら危うかった。メイちゃんがいなかったら、純粋に攻撃力不足で僕はこのエリアで詰んでいただろう。そう思えるほど、この辺からの戦いは激しさを増してきている。

 強いて幸いな点をあげるとすれば、ラプターや狼などの小型モンスの群れには、あまり襲われなくなったことだろうか。敵わない、というのが本能でお察しレベルなのか、それとも、レムにアラクネと、僕らの数が増えたから避けられているのか。なんにせよ、余計な戦いは避けるに越したことはない。

 今はまだまだ余力があるけれど、あまりに連戦続きだと――おっと、またしても『気配察知』に感アリ。この感覚は、結構な強さの奴が、近くをウロついてるようだ。

 速度を落として慎重に進みながら、察知した敵を探すと……いた。

「あ、アレってもしかして」

「うん、アレがリビングアーマーだよ」

 ちょっと久しぶりに、ハイゾンビ以外の人型の魔物を見た気がする。黒い重厚な全身鎧を纏った、大柄な騎士が三体、まるで門番のように、背後にそびえるビルの入り口に立っている。

 リビングアーマーのことは、メイちゃんから聞いている。宮殿エリアという、綺麗な場所で出現したという、かなり強力な魔物だと。この『ナイトハルバード』と『ダークタワーシールド』も、リビングアーマーから鹵獲した品である。

「足はあんまり速くないから、このまま通り過ぎれば追いかけられることはないと思うけど」

「うーん、アイツら、あからさまにビルを守ってるみたいだから、何かありそうなんだよね」

 強敵たるリビングアーマーと積極的に戦いたくはない……けれど、何かレアモノが入った宝箱があのビルにでもあるのならば、多少の危険は承知で挑むだけの価値はありそう。もし、何もなかったとしても、奴らの武器はゴーヴ共が使ってるものの比ではない。今のレム初号機なら、アイツらが持ってる大剣でも扱えそうである。

「メイちゃん一人で、リビングアーマー三体ってどう?」

「うーん、前は厳しかったけど、今なら大丈夫だと思う。武技もあるし」

「よし、じゃあまずはアイツらを倒そう。僕とレムはリビングアーマーを二体、頑張ってひきつけておくから、その間にメイちゃんは一体目を倒して。でも、無理はしなくてもいい……30秒で一体目を倒し切れなかったら、即時撤退。逃げる時は煙玉も使うかもしれないから、注意しといて」

「うん、分かったよ」

 簡単に作戦を伝えて、それから、周囲に乱入してきそうな魔物がいないか確認してから、ようやく、リビングアーマーの門番トリオへと挑む。

「はぁああああああああああっ!」

 裂帛の気合いと共に、メイちゃんが先頭切って飛び出していく。

 堂々と現れた襲撃者に対し、即座に反応して武器を構えるリビングアーマー。奴らが揃って動き出す、そこで、僕とアラクネが拘束を仕掛ける。

「――『激震』!」

 メイちゃんの武技が炸裂する。盾とメイスを持ったリビングアーマーは、流石というべきか、彼女の攻撃に反応し、的確に盾をかざしてガードしていた。だが、奴にとっても想定外のパワーだったのだろう。

 ガガガンッ! という激しい金属音を響かせながら、握った盾が吹き飛ぶ。『激震』の衝撃に耐えきれなかったのだ。

 ガードがめくられたことで、ガラ空きとなった胴体へすかさずメイちゃんが次の攻撃を叩きこむ。

 普通だったら、ここで仲間の二体がフォローに入ったのだろう。けれど、それを僕らが許さない。他人の邪魔をするのは得意なんだ。

 二体目のリビングアーマーは、両刃の大剣を持つ。僕とアラクネは、ソイツに対して黒髪と蜘蛛糸を仕掛けて動きを妨害。無論、それだけではパワー不足で止めきれない。だから、ここでレム初号機と三号機もけしかける。

「グガガ!」

 レムの持つ剣は、ゴーヴから入手したそこそこの品質のモノである。リビングアーマーの大剣と真っ当に打ちあえば、一発でへし折れてもおかしくないほど頼りないが、僕とアラクネによる拘束状態にあれば、多少は対等に切り合うことができる。

 すでに二体目の大剣持ちだけで、僕としては抑えるのは手一杯だけれど、三体目がまだ残っている。

「行けっ、スケルトン三等兵! 全滅するまで戦えーっ!」

 こういう時に、捨て駒スケルトン軍団が役に立つ。いやぁ、数っていうのは正義だよね。

 大振りの槍を振り回すリビングアーマーを相手に、まるで歯が立たない愚鈍なスケルトン達。だが、それでも彼らは十三体もいる。

 槍の一振りで三体がブッ飛ばされても、残りの十体がアメフトよろしく渾身のタックルをかまして、リビングアーマーに飛びつく。

 流石のリビングアーマーも、こうもゾロゾロとひっつかれては、そのまま戦闘続行しようとは思わなかったようだ。一体ずつ、力づくでスケルトン達を引っぺがしては、脆弱な骨の体を叩き潰す。

 それで、君は全てのスケルトンを排除するのに、いったい何秒かけるつもりなのかな?

「――『破断』」

 最後のスケルトンに手をかけたところで、リビングアーマーは胴と腰とで真っ二つになって飛んでいく。

 メイちゃんは、すでに一体目のリビングアーマーを仕留め終わっている。仲間が誰も助けてくれなかったのだから、ガードがめくれたところに、クリティカルヒットを喰らって、あえなく一体目は撃沈。

 そして、スケルトンとじゃれあっている奴の方へ向かったのだ。

 これで、首尾よく二体のリビングアーマーが倒れた。残りは一体。完全に消化試合です。

「メイちゃん、お疲れ様。なんか、思ったよりも全然早く倒せてビックリだよ」

「ううん、小太郎くんの力があるからだよ」

 いやぁ、どう考えてもサシで戦ったら瞬殺できる火力を持つメイちゃんがMVPだけど。僕はマジで、ギリギリで30秒くらいの時間稼ぎに成功しただけで。

「だって蒼真君のパーティだったら、いつ他の魔物が私に向かって来るか分からなかったから。小太郎くんなら、ちゃんと足止めしてくれてるんだって、信じられるよ」

 聞きたくなかった、蒼真パーティの裏事情。そうだよね、蒼真君以外の全員、メイちゃんのこと死なねーかな、と思ってるもんね。信頼して、背中を預けられるワケないよね……

「そっか、僕もメイちゃんのことは信じてるから」

 でも、無理はしないし、無責任に彼女の勝利を祈るだけ、なんてことはしないつもり。だから、常に逃げ道だけは確保しておくよ。

「……とりあえず、他にリビングアーマーはいないみたいだね」

「うん。他の魔物も、近くにはいないと思う」

 よし、それじゃあ、如何にもお宝のありそうなビルに、突入と行こう。

 ついさっき使い捨てた、スケルトンを再召喚して、先頭切ってビルの正面玄関から侵入させる。ほら、いきなりシャンデリアとか落ちて来たら危ないじゃん?

「特にトラップの類はないみたい」

 新たなリビングアーマーのお出迎えもない。ビルの中は、そこそこの広さ、けれどこれと言って何もないガランとしたエントランスが広がっているだけだった。

 いや、何もないってこともないか。エントランスのど真ん中には、これ見よがしに宝箱が設置されていた。

「……あの宝箱、怪しくない?」

「そう? 大丈夫じゃないかなぁ」

 メイちゃんは宝箱を設置した人の善意を信じ過ぎじゃないだろうか。僕だったら、あんな目立つところにポツンと置くなら、絶対に罠を仕掛けるよ。というか、宝箱自体が罠というか、アイツ、ミミックじゃないのか!?

「とりあえず、スケルトンに行かせるか」

 ミミックだろうと時限爆弾だろうと、スケルトンが巻き添え喰らうだけなら何の問題もないし。

 そうして、カシャカシャ歩いていったスケルトン君は、無事に宝箱の元まで辿り着き、蓋を開き、安全を確認してから、僕の下まで持ってきてくれた。

 えっ、これ、本当に何もないの? 罠は? ミミックは?

「ほら、やっぱり大丈夫だったよ」

「そ、そうみたいだね」

 やや拍子抜けしながらも、まぁ、お宝が手に入ったのならそれに越したことはない。さて、宝箱の中身は何なのか、お宝拝見っと。

「これは……ポーション、か」

 透き通ったガラス瓶のような容器に入った、ウスボンヤリと輝きを放つ青白い液体。一度見たことあるから、分かる。コレは間違いなくポーションだ。

「小太郎くん……」

「いいじゃないか、十分すぎるほど、アタリだよこれは」

 メイちゃんは、あからさまに何か言いたげな雰囲気だったけれど、僕はあえて、気にしないことにした。

 もし、桜井君がここのポーションを手に入れることができていたら……なんて、そんな意味のないIFを、考える必要はない。

 だから、このポーションはただ、僕らが先に進むために、生き残るために、使わせてもらう。それでいい、それでいいんだ。

 2018年10月19日


 来週24日水曜に、コミカライズ『黒の魔王』第2話が更新されます。

 呪術師だけ読んでいて、先月、興味本位でコミカライズ1話だけ読んだ、という方がもしいらしたら、2話もお忘れなく!

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