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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第11章:孤独の射手
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第161話 遺跡街攻略(1)

 さて、色々と悲劇的な感じになってしまった桜井戦だったけれど、勝利した以上は存分に戦利品をいただかせてもらう。

「改めて見ても、凄い弓だ。この出来は、小鳥遊さん並みじゃないか」

 まず、最大の収穫はスナイパー桜井の武器である弓。黒光りする大きな角を材料とした、無骨な長弓だ。


『黒角弓』:上質な地竜の角を用いた大弓。呪術の影響により黒化している。


 何故か『直感薬学』が働いて、武器の名前と説明文が頭に過った。長く使ってきたお蔭でスキルレベルが上がったのか、それとも、最初から鑑定の対象設定がガバガバなのかは分からないけれど。

 ともかく、そこらのゴーヴが使っている原始的な弓とは比べ物にならない品質であることは間違いない。ただ、その分だけ扱いも難しそう。

 具体的にいうと、めっちゃ弦が固い。これはアレだな、STRが一定以上ないと装備できない類のヤツだ。

「レム、これどう? 使えそう?」

「グガガ、ゴガァアアアア!」

 金属繊維の筋肉を振るわせて、レム初号機はパワフルに黒角弓を引き絞って見せた。おお、凄い、これなら使えそうだ。ゴライアス素材をふんだんに取り込んだお蔭で、ここまでのパワーに至れたといったところ。試してみたけど、三号機では引けなかった。

 とりあえず、黒角弓はレムのメイン武器に決まりだ。

 勿論、メイちゃんなら余裕で黒角弓を引けるけど、特に弓の扱いに慣れているワケではないし、あの規格外のバストサイズで弓を引け、というのは無理のある話ではないだろうか。

 それから、黒角弓の他にも、桜井君は取り回しが聞きそうな短弓もサブウエポンとして所持していた。こっちは、順当にゴーヴの弓を強化したような感じで、弦を引くのにそこまで強烈なパワーは求められない、扱い易い一品となっている。こっちの短弓は、とりあえず三号機に持たせることにした。

「やっぱり、矢玉も色々用意してたんだな」

 弓とセットで、桜井君は毒矢をはじめとした、様々な矢玉を持っていた。


『毒矢』:『ポワゾン』が付加された毒の矢。


『猛毒矢』:『猛毒ヴィオラ・ポワゾン』が付加された強い毒の矢。


『麻痺毒矢』:『麻痺パライズ』が付加された毒の矢。


『黒矢』:黒化した矢。


『炎玉』:火の魔石を用いた点火装置と可燃性の油を詰めた玉。


『煙玉』:『黒煙スモーク』を封じた玉。


『毒煙玉』:『ポワゾン』の煙を封じた玉。


『眠り玉』:『睡眠シエスタ』の霧を封じた玉。


 どうやら『呪術師』雛菊さんは、毒、麻痺、睡眠、という状態異常魔法を習得していたようだ。それらを矢に『付加エンチャント』することで、様々な効果を持つ矢玉を製造した。

「うーん、残念だけど、今の僕には全く同じモノは作れそうもないな」

 それでも、『ポワゾン』を付加した毒矢は作れるというだけで、十分だ。他のモノにしても、僕が麻痺毒や睡眠薬を作れば、結果的には同じ効果を持つ矢が作れる。というか、麻痺矢はすでに『クモカエルの麻痺毒』で実用化してるし。

 それから、『煙玉』などの玉の方は……見た限りでは、玉そのものは魔法ではなく、単に素材を加工して作ったモノだというのが分かる。魔物の皮か何かで、袋状にして包んでいるようだ。『簡易錬成陣』で製作したのだろう。ならば、僕にも同じモノが作れるはず。

「これは中々、創作意欲の湧いてくる能力だよ」

 モノの加工、というのは地味ながらも非常に手間も労力もかかる作業だ。木を切り倒したところで、ホームセンターで売ってるような綺麗な材木に加工するだけでも、どれだけの作業と工具、機械を要するか。

 人間は道具を使うことで、文明を発展させてきた。数多の道具を発明し、使いこなすことで、僕らの現代文明が築かれている。

 だがしかし『簡易錬成陣』は、そんな人類の進歩そのものである数々の道具の存在を否定する、正しく魔法と呼ぶべき効果があると、僕は思う。

 材木加工? そんなもん、錬成陣にかければ粘土細工でも弄るように、自由自在に変化させられるだろう。

 木も石も金属も、全て術者の思うがままに操れる。

「生産チートって、こういうことを言うんだっけ」

 僕は試しに『簡易錬成陣』で、矢を作ってみた。一分とかからずに、完成した。

 石の鏃は鋭く、矢柄の木は綺麗な直線で質感は滑らか、ちゃんと矢羽もついている。特筆すべきは、この石、木、羽、と異なる材料の接合部分が、綺麗にくっついている点だ。本物の矢は、鏃をはめ込んだり被せたりして接続しているらしいけれど、錬成陣で作った矢は、どう見ても接合部が融合しているようにしか見えない。

 こんな矢一本だけでも、すでに現代の技術では再現不能な加工がなされている。恐るべき魔法の力。ちょっとだけ、漫画で読んだ錬金術師キャラになった気分。まぁ、ド派手なエフェクトで巨大な物体を錬成したり、なんて真似はできそうもないけれど。

「でも、この『簡易錬成陣』だけで、日本に戻ったら一生食っていける技術力だよね」

 ただし、残念ながらダンジョンサバイバルにおいては、武器や道具を細々と作っていく程度の能力にしかならないけれど。いや、それでも、この魔法があれば、今まで足りなかった色んなモノをお手軽に作り出せるだろう。

 とりあえず、最近はすっかりレシピが豊富になってきた、食事を盛り付ける素敵なお皿が欲しいかな。




 余すところなく戦利品を回収して、僕らはビルを後にする。流石に、ここを拠点にして活動していくほど図太くはない。ひとまずは、次の妖精広場を目指す。あるいは、先にボス部屋に辿り着くのかもしれないけれど。ともかく、今日は久しぶりに魔法陣コンパスの導きに素直に従って、遺跡街を進む。

「小太郎くん、来るよ」

「うん、僕も何となく分かったよ」

 通りを進み始めること五分、やはり現れたのは、今日も元気に全力疾走のハイゾンビ君である。君らは本当に、お外を駆けまわる幼稚園児のように活力に満ち溢れているよね。

「キョォアアアアアアアアアッ!」

 すっかり聞きなれたお馴染みの絶叫が、遺跡の街角に響き渡る。

 普通ならこの声が聞こえた時点で、僕は奴らの襲来を察する。でも、今回はメイちゃんとほぼ同じタイミングで、ハイゾンビの襲来を感じ取ることができた。

「うーん、何だか不思議な感覚だなぁ」

 と、僕は桜井君の髑髏が嵌った『愚者の杖』を握りしめながら、そんな感想を漏らす。とりあえず、『気配察知』の効果は適切に発揮されているようで、一安心。何というか、オートで発動するパッシブスキルってのは、リアルにおいては物凄い便利だよね。下手なアクティブスキルは、どれだけ強力でも発動させなければ何もないのと同じだし。使いどころを見極める、ってのは意外に難しい、センスが求められるものだ。

「えーっと、試し撃ちとか、する?」

「勿論。メイちゃんはバックアップお願いね」

 うん、という明るい返事と共に、メイちゃんは道の端に避ける。代わりに前へ出るのは、黒光りする重厚な『黒角弓』を構えるレム初号機と、高品質の短弓を持つ三号機。

 そして、アラクネから手渡された『呪術師の髑髏』へとリロードを済ませた『愚者の杖』を握る僕が、レム二人と並び立つ。

「さぁ、来いよ」

「ウォオオガァアアアアアアッ!」

 半分以上、緑の蔦に覆われた建物の角から、ハイゾンビが先を争うように飛び出してくる。彼我の距離は、50メートルといったところか。奴らの足なら、5秒もあれば駆け抜けてくる距離だけれど、遮蔽物の無い開けた道路のど真ん中を疾走してくるだけなら、良い的である。

「――『ポワゾン』」

 僕が『愚者の杖』で、雛菊さんの呪術『ポワゾン』を放つと同時に、レムの弓から矢が放たれる。

 開けた場所に、ただ真っ直ぐ走り込んでくるだけの的。今のレムにとって、ヘッドショットを狙うことは容易い。

 ストン、と綺麗にハイゾンビの額に矢が命中。ゾンビのセオリーを順守してくれる奴らは、頭部に攻撃を喰らうと素直に死んでくれる。

 ヘッドショットにより仕留められたハイゾンビが、走った勢いのまま三体倒れ込んだ。ん、三体?

「うわっ、黒角弓の方は頭貫通してるよ」

 レム初号機が放った矢は、狙ったハイゾンビの頭を射抜いた。だが、貫通力の衰えない矢は、頭蓋と腐った脳をぶち抜いて、そのすぐ後ろを走るハイゾンビへと襲い掛かっていた。

 結果、一射で二体倒すという名人芸のような結果になったのだった。

 凄い、これほどの貫通力があるなら、ロイロプス並みの大きな魔物が相手でも、毛皮や甲殻をぶち抜いてダメージを与えられそうだ。黒角弓を装備したレムは、間違いなく歴代ぶっちぎりの火力を誇る。

 さて、黒角弓の素晴らしい威力に感動するのもほどほどに、僕も自分の攻撃の結果を確認せねばならない。

 といっても、一目瞭然だったけど。

「うわー、強い、これ普通に高威力だよ」

ポワゾン』のかかったハイゾンビは、口から血を吐きながらぶっ倒れ、その場で数秒もがき苦しみ……そして、二度と立ち上がることはなくなった。

風刃エールサギタ』では二発以上は食わらせないと倒せなかったハイゾンビを、たった一発で仕留めるとは、攻撃力が段違いだ。しかも、『ポワゾン』の強みは威力だけではない。

 実はこの『ポワゾン』、毒の玉や煙などを発射しているワケではない。自分の視界内に収めた相手に対し、ほぼ必中なのだ。

 感覚的には、魔力の波動のようなモノを照射している、といったところだろうか。狙い方としては、弾を撃つ、というよりも、懐中電灯のライトを当てる、くらいの感じだ。で、ちょっとばかり当たれば、あの有様である。

「なんだよこれ、呪術師がこんな攻撃力持ってていいのかよ」

 雛菊さん、ひょっとしてこの『ポワゾン』って、初期スキルだったりします? それって、こう、何て言うか、控えめに言って妬ましい。

 即死級の毒をぶっ放す雛菊流呪術。方や、相手を微熱状態(笑)にするルインヒルデ流呪術。まさか、同じ呪術師でもこれほどまでに攻撃力格差があるとは、思わなかったよ……く、悔しい……ビクンビクン。

「凄い、小太郎くん、全部倒しちゃったよ!」

「ああ、うん、凄いね……凄い威力だよコレ」

「あれ、何故かあんまり嬉しそうじゃない?」

 気にしないで、メイちゃん。これはただ、そう、ほんのちょっとだけ抱いてしまった、つまらない男の嫉妬心みたいなものだから。

 さて、僕の個人的な感情は置いておいて、道中の戦闘でひとまず威力や効果などの性能確認はできた。

 橋を越えた先に広がる遺跡街は、街並みにさほど変化はないが、心なしか緑が増え、より多くの動物・魔物が活動しているようだった。

「ギョア、ギョア、グェエーッ!」

 と、汚い鶏みたいな鳴き声を上げているのは、鶏をモンスターチックな凶暴デザインにして、ダチョウサイズにまで大きくさせた、鳥型モンスターである。ただ、羽毛は茶色いので、ニワトリというよりかはチャボの方が正確だけど。

 鋭い鉤爪のついた逞しい二脚で地をかけては、ぶっといクチバシをガツンと獲物に突き立てる。その獰猛さと凶暴さは、紛うことなく肉食性。そして、奴らは群れていた。

「おー、ハイゾンビ共が食われてる」

 どうやら、遺跡街を駆け抜けるハイゾンビも、自然界においてはキッチリと食物連鎖に組み込まれているらしい。五人組のハイゾンビは、同じく五羽編成の肉食ニワトリによって、次々と仕留められていく。ハイゾンビは痛みも恐怖もなく、死ぬまで暴れ続けるタフネスを持つが、それ以上のパワーを誇る相手に対しては割と無力である。

 トップスピードからのニワトリキックであっけなく地面に倒れ、そのままデカいクチバシでガツガツと突っつかれれば、あっという間にただの生肉と化す。

「鳥型のラプターみたいなものかな。どっちの方が強いんだろうか」

 今は亡きラプターレムに思いを馳せながら、僕は『鷹目ホークアイ』によって、遠くで繰り広げられている魔物同士の弱肉強食の観察を打ち切った。

 とりあえず『コッコ』と名付けたこの鳥型肉食モンスターは、今の僕らにとっては大した脅威ではない。百羽、千羽、と大群になればその限りではないけれど、コイツらの群れは多くても十数羽。戦闘能力は確かにハイゾンビよりは上だが、メイちゃんがハルバードで一撃すればあえなく真っ二つだし、レムが黒角弓で射抜けばやっぱり一体目が貫通して後ろの奴にあたる程度の肉質だし、『ポワゾン』でも一発で倒せる相手である。

 ただ、移動速度がハイゾンビよりも速いから、油断はできない。『ポワゾン』の地味な欠点は、相手をちゃんと視界に捉えていないと発射できないことと、一体の相手にしか効果を与えられないことだ。

 だから、目にも映らぬ超スピードで動かれたり、視界を遮られる深い森の中では、発動ができない。他の攻撃魔法のように、とりあえず撃って牽制、ということもできないのだ。

 これは、場所によって使用する際に注意しなければならない点だろう。

 これと併せて、『ポワゾン』の連射性能も、それほど高くない。連続的に使用するなら『風刃エールサギタ』の方が確実に早いだろう。

 強力だが、確かに欠点はある。『ポワゾン』だけに頼り切るのは危険だと、僕は最終的な結論にいたった。

 ちなみに、僕らが道中で倒したコッコは、今日の晩御飯である。焼き鳥祭りの予定。だって、「コイツは結構、美味しいよ」って直感薬学が言うから……

 新鮮な鶏肉を入荷しつつ、僕らは先へと進んでゆく。

「小太郎くん、これ、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。みんな温厚な草食恐竜みたいだし」

 芝生のように綺麗な緑一面の絨毯が敷き詰められた大通りを歩く僕らの周囲には、トラックのような巨躯を誇る、四足歩行の奴らがノシノシと歩き回っている。

 外見としては、角のないトリケラトプスといったところだろうか。ロイロプスは僕らを見るなり血走った眼で突撃をかましてくる暴走野郎だったけれど、この角無しトリケラは、牧場で飼われる牛のように、呑気にモシャモシャと草を食べている。なんて平和な奴らなのだろうか。

「食べられるのかな」

「食べられるけど、僕らが返り討ちにする魔物の肉だけで十分だから、無用な殺生は避けようよ」

「そうだよね、食べきれない分は、とらないべきだよね」

 食べきれるなら、狩るつもりなのだろうかメイちゃんは。いや、狩るんだろうな。そして、美味しかったら優先的に狩ることになるのだろう。

 まぁ、僕だってより美味しいお肉は食べたいし、そのスタンスに否やはない。

 そうして、長閑なトリケラ達の群れを通り過ぎた、その時であった。気配察知センサーに感アリ。僕らを狙う、アクティブモンスターが来る!

「クェエエエエエエエエエエッ!」

 と、けたたましい鳴き声を響かせながら、空から大きな影が舞い降りる。

「うおっ」

 吹き抜ける突風は、その巨体を空へと羽ばたかせるに足る力の発露。バサッ、バサッ、と大きな羽音と共に、目の前に大きな鳥型の魔物が着地していた。

「おお、デカいなコイツ……」

 ドラゴンほどではない、が、単なる鳥と呼ぶにはあまりに大きすぎる。

 二本の足に、大きな翼を広げる姿は、あのサラマンダーと骨格は似ているものの、羽毛と甲は半々だ。顔はトカゲのようなドラゴンフェイスではなく、コッコと同じように、ギラついた眼つきに巨大なクチバシを持つ鳥の面構えである。

 でも、翼は羽毛じゃなくて、コウモリみたいな翼膜のあるタイプなんだよな。鳥と竜の合いの子、鳥成分大目、という感じ。

「デカコッコ、だな。顔つきもちょっと似てるし」

 僕らの後ろには、食べごたえのありそうな大きな体の草食恐竜が群れているというのに、コイツは完全に僕らを狙っている。みみっちいのか、それとも、人間を優先して捕食する習性があるのか。

 どちらにせよ、飛行能力を持つ魔物を相手に、逃走するのは難しそうだ。

「メイちゃん、お願い。レムは毒矢で」

 サラマンダーと比べれば小さいが、さっきのトリケラ君と同じ程度には大きい。コッコみたいに、軽くあしらえるとは思えない、大きな魔物である。下手なボスよりもボスモンスターらしい。手加減や様子見することはできない。

 前衛は『狂戦士』に任せ、レムには現状では最大攻撃力に近い毒矢を使わせる。

ポワゾン』と『付加エンチャント』と『簡易錬成陣』の三つがあれば、毒矢は今後も安定して生産が可能。つまり、手持ちの分は使い切っても問題ない。毒矢なんて、幾らでも僕が作ってやるから、遠慮なくぶっ放してよ。

 メイちゃんとレムへの命令はスムーズに決まったけれど、僕自身はどうしようか。

ポワゾン』をかけるか、いや、毒矢を使うなら、僕も毒を仕掛けるメリットはあまりない。ならば、『風刃エールサギタ』で援護射撃……いや、どうせハイゾンビを一撃で沈められないような、しょっぱい攻撃魔法である。このデカコッコの巨躯に撃ち込んだところで、効果は知れる。

「それなら、いつものように嫌がらせ特化で――行くよ、アラクネ、奴を飛ばせるな!」

 全力で『黒髪縛り』を発動。合わせるように、アラクネが蜘蛛糸を飛ばす。

 さらに同時並行で、髑髏をリロード。『愚者の杖』に掴ませたのは、『召喚術士の髑髏』である。

「さぁ行け、スケルトン三等兵!」

 戦力としてはほとんどアテにならないスケルトン部隊。けれど、コイツらは実に十三体もの数を同時に召喚できる。

 パワーもスピードも、おまけにオツムの方もイマイチな奴らだけれど、デカコッコが飛び立たないよう、その足や羽に組みついて妨害するくらいのお仕事はできる。

「クエエッ! キョワァアアアアアアアアアアッ!」

 うわっ、なんだよコイツら、超ウゼぇ!? みたいに思っているのか、黒髪触手と蜘蛛糸と、13体のスケルトンに絡まれて、怒りと焦りが入り混じったような叫びを上げていた。

 僕のソロだったらただのウザい奴で済むけれど、残念ながらウチのパーティには不動のエースにしてメインアタッカーがいるもので。

「――『破断』っ!」

「ギョォオオオアアアアッ!」

 黒いオーラのような靄を纏った、ハルバードの大きな斧刃が、デカコッコの翼を切り裂く。そこに組みついていたスケルトンごと。うんうん、スケルトン6号、君はよくやったよ。ナイスファイト、ナイスアシストである。

 メイちゃんが、頭よりも翼を先に狙ったのは、ちゃんとアイツが飛んだら厄介なのを分かっているからだ。

「うーん、叩いた方がいいのかな――『撃震』!」

 デカコッコが苦し紛れに暴れるのを華麗に避けながら、続けざまにメイちゃんが武技を叩きこむ。

「ゴギョオオアアアアアッ!」

 強烈な衝撃波を伴う武技『撃震』によって、バリバリと翼膜が破れてゆき、明らかに苦痛の声を上げるデカコッコ。片方の翼は、もう使い物にならないだろう。

 そして、翼ってのは片方がダメになれば、必然的に飛行能力は喪失される。これで、危険な空中攻撃も、飛んで逃げられる心配もなくなった。

「オオッ、オゴゴゴ……キアアッ!」

 苦悶の声を漏らしながらも、いまだ闘志は衰えていないのだろう。怒りに燃えるようなギラギラした眼つきで、メイちゃんに向かって巨大なクチバシを――叩きつけるのではなく、大きく開いた。

「ブレスかっ!」

 火の玉でも吐き出そうというのか、クチバシからチロチロと火の粉が漏れる――だが、その開かれた口腔に、二本の矢が飛び込んだ。

「ウゴッ! ゴェエエエエエエエエエッ!」

 うげぇ、炎の代わりにゲロを吐きやがった。

 だが、『ポワゾン』の効果を宿す矢が口の中で炸裂すれば、流石に吐くほど不味い思いをするだろう。

 デカコッコはそのサイズの大きさもあってか、最初にレムコンビが撃ち込んだ毒矢には、さして効いた様子が見られなかった。毒のダメージを通すには、さらなる量をつぎ込むか、あるいは耐性によって無効化されているのか、判別はつかなかったけれど、あの苦しみようから、完全に毒無効というワケではないようだ。

「はぁあああああっ!」

 そして、反撃のブレスも不発に終わり、毒でもがき苦しむというあまりに致命的な隙を晒したことで、ついにデカコッコの命運は尽きる。狂戦士が振るうハルバードの刃は、強かに鳥頭に叩き込まれた。

「どうしよう、小太郎くん、流石にこのサイズは食べきれないよ」

「大丈夫、ソイツの肉は食べられないから」

 甲殻と羽毛と、そこそこのサイズのコアをいただいて、僕らはまた、遺跡街の通りを歩き始めた。

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