第160話 守りたかったモノ
ピルルルルゥ! と、どこか場違いな電子音が鳴り響いた瞬間、僕はホっと安堵の溜息を吐いた。
「――もしもし、小太郎くん? 終わったよ」
「そっか、良かった。桜井君は?」
「大丈夫、ちゃんと殺したから」
その報告に一抹の悲しさを覚えるのは、勝者の驕りか。
「分かった、今すぐそっちに行くから」
「うん。私はこのまま、屋上で待ってるね」
短いやり取りを終えて、僕は自分の携帯電話を切った。
今回の作戦は、敵本陣となる桜井君の狙撃ポイントにメイちゃん単独で突っ込むという、実質ただの強行突破である。
僕は嘘の盾役である分身と、サポート役であるレムと鳥軍団を繰り出すだけ。僕の本体は、突破作戦に出番のなかったレム初号機とアラクネと三号機の護衛と共に、橋の近くでお留守番である。いざ作戦が始まれば、橋を眺めながら鳥軍団を突入させるタイミングを計るだけしか仕事はなく、後はもうルインヒルデ様にお祈りするくらいしかできることはなかった。
作戦の立案と準備こそ僕が行ったけれど、やはり、戦場に立たないとどこか申し訳ない気持ちでイッパイになる。ただ作戦の成功を待っているだけ、というのはなかなか精神的につらいものがあった。
多分、僕は将の器じゃないのだろう。戦地に送り出すのが、見ず知らずの赤の他人だったら、何とも思わないかもしれないけど。誰だってそんなもんか。
ともかく、長いようで、実際のところは五分にも満たない作戦が終了したことで、ようやく僕もこの橋を渡ることができる。いや、良かった、本当に、上手くいって良かったよ。
メイちゃんからの戦勝報告を受けて、僕はすぐに待機場所のこじんまりした建物を出て、桜井君のビルへと向かった。
橋を歩く途中で、道路に幾本もの矢が突き立っているのを見て、あらためて戦闘の激しさを実感する。本当に、こんな矢の雨の中を突っ切っていったのかと、ゾっとするね。
盾役している時は分身側に意識を通していたから、僕も突っ切る真っ最中の光景はリアルタイムで経験してはいる。激しく盾が揺れるから、視界はブレブレだったけど。
グルグルと橋の上の戦いについて思いを巡らせていると、あっという間に渡り切る。ここを渡るために一週間近くの準備期間を費やしたというのに、実際に渡ればすぐである。当たり前といえば、当たり前のことだけれど。
そうして、僕は敵の本丸であったスナイパービルを見上げた。
「メイちゃん、この高さを登ったのか……」
いやぁ、まさか壁をそのまま走って登るとは。アレは完全に、メイちゃんのアドリブである。本来なら、そのまま玄関に突入して、ビルを登る手はずだった。
あんなことが出来るとは知らなかったから、遠目に見ていてビックリした、というか、僕の目の錯覚かと思ったよ。一体、いつあんな壁走りが可能になる移動系武技を習得したのだろうか。後で聞いてみよう。
一瞬、僕も彼女に習って壁を登っていってみようかと思ったけど、速攻でバカな考えは振り払う。アラクネに乗れば登れないことはなさそうだけど、こんな高いところを生身でブラブラしているとか、正気の沙汰じゃないよ。
というワケで、僕は大人しく玄関から入って屋上まで登ることとする。
「あっ、一応、罠とかあるかもしれないから、三号が先行して」
「グガガ」
勇ましくレム三号機が正面玄関を潜り、エントランスに入っ――ドズンッ!
「……なにこれ」
三号機が潰れている。エントランスのど真ん中で、デカい瓦礫に押し潰されたのだ。ここのビルは他と同じように風化しているけれど、まさかこのタイミングに偶然、レム三号機の真上に落下してきたワケではあるまい。
「罠あるかも、とは思ったけど、殺意がガチすぎるよ桜井君」
すでに死んだはずの桜井君だけど、残された雛菊さんを何が何でも守るんだという怨念染みた意思を感じるようだ。もし、これでブービートラップにかかって僕が死んだら、シャレにならないよ。
「ごめん、メイちゃん、ちょっと到着遅れるかも」
最大限の警戒をすべく、僕は先行役となるレム三号機を作り直してから、ビルの攻略に取り掛かった。
またレム三号機を壊されたらたまらないので、魔力だけで幾らでも替えが効く『スケルトン召喚』を利用して、トラップだらけの屋内を進む。四体ほど潰しながらも、どうにか悪質なブービートラップの数々を越えて、僕はやっと屋上まで到着した。
「あっ、小太郎くん。遅かったから、心配しちゃった」
「うん、罠が仕掛けてあったから、ちょっと手間取って――って、メイちゃん、大丈夫!? 凄い血まみれじゃないか!」
肩に腹に太もも。急所こそ直撃は避けたのだろうけど、それ以外の部分にはかなり矢が刺さってしまったようだ。結果、ほぼ全身血塗れと化している。
無傷では済まないだろうことは、予想していたし、遠目で見ていても分かっていたけれど、いざ、こうして近くで彼女の姿を見ると、その痛々しい姿に気が動転しそうになる。
「ああ、これ? 大丈夫だよ、もう傷薬も塗ったし」
僕がビルを登るのに苦労している間に、突き刺さった矢はすでに自分で抜いて治療したようだ。血塗れの矢が、すぐ傍に転がっているのに気付いた。
「いや、でも、これはちょっとヤバいんじゃないの」
「うーん、毒矢はちゃんと解毒薬が効いてるし、痛み止めも飲んでるから、そんなに痛くもないから。それに、ちょっとくらい血が出ても、私は『増血』があるから全然大丈夫だよ」
桜井君が毒矢を使ってくる可能性も、最初から考慮していた。大体、ゲームでも矢の種類といえば、火矢と毒矢はお決まり。ついでに、魔法が付与されて氷属性とか雷属性の矢が、みたいなことも考えたけど、こっちはなくて良かった。
ともかく、もし桜井君が毒矢を所持していた場合、メイちゃんのフィジカルだけで押し切れない可能性は高い。だから、これまであまり使い道のなかった、青花から作れる解毒薬を、メイちゃんにはあらかじめ服用してもらったのだ。
どうやら、ちゃんと効果はあったようで本当に良かった。『痛み止め』も、一応の役にはたってるみたいだし。
「でも、無理はしないで、今日はこのまま休んでて」
「うん、ありがとう。でも、その前に、雛菊さんを」
「ああ、そうだよね」
重傷を負って寝たきり状態らしい、けど、雛菊早矢はまだ生きている。天職の力があれば、どんな方法で逆襲されるか分かったものではない。すでに桜井遠矢を殺した以上、彼女もまた、殺さなければならないだろう。
チラリと視線を向ければ、屋上の隅の方に、桜井君の首なし死体が目に入った。傍らには、生首が置いてある。瞼は閉じられているのは、メイちゃんなりの供養か。
魔物との戦いの中で殺されるならいざ知らず、こうして、ただ死体だけを見てしまうと……いや、やめよう。今の僕には、そんな感傷に浸る権利はないだろう。彼を手にかけたのはメイちゃんではあるが、殺したのは僕だ。あの凄惨な首なし死体は、僕が望んだ結果である。
「それじゃあ、行こうか」
メイちゃんと連れだって、ビルの中で寝ているだろう雛菊さんを探しに、屋上を後にする。相手は重症者だから、もう戦闘になることはないので、メイちゃんの出番もないだろう。けれど、万が一に備えて同行はしてもらう。
トラップ対策に先頭をスケルトン二体で行かせ、その次にレム初号機。僕とメイちゃんが並んで、最後尾は三号機だ。アラクネ二号は体がデカいので、あまり屋内での移動には向かないから、エントランスに待機である。
「多分、この最上階にいると思うんだけど」
桜井君は屋上で睨みを聞かせていた。一日の大半をそこで過ごしているはず。ならば、少しでも近くに彼女を置いておきたいはず。
また、魔物が襲撃するとすれば、一階から上がって来るより他はない。少なくとも、屋内に突如として出現する幽霊みたいな魔物はいないし。防衛の観点で見ても、生活拠点を構えるなら最上階か、その付近を選ぶはずだ。
「やっぱり、間違いない。トラップもないし、生活の跡がある」
この最上階だけ、妙に綺麗である。そして、部屋の一角は倉庫なのか作業場なのか、魔物の素材や木材などが転がっている場所もあった。単純に、ここには廃墟としての誇りっぽい空気ではなく、人が住む生活臭のようなものを感じられる。
「……人の気配は感じないけど。誰もいないみたいだよ」
メイちゃんがつぶやく。ならば、このフロアは生活しているけど、雛菊さんは別の場所で寝かせられているのか。あるいは、彼女の気配察知を掻い潜るような隠れ方をしているのか。能力次第では、ありえないことではない。
「もしかしたら、隠れ潜んで僕らを狙っているのかもしれない。気を付けて探そう」
「うん、そうだね」
スケルトンをさらに召喚させて、どこから現れてもすぐに対応できるようにして、家探しを始めたが――すぐに、それは終わった。
雛菊早矢を発見した。
「そうか……そういう、ことだったのか……」
彼女は、頑張って桜井君が手作りしたであろう、小奇麗なベッドの上で眠っていた。決して目覚めることはない、永遠の眠り。
雛菊早矢は、すでに死んでいた。
「こ、小太郎くん、これって……」
「雛菊さんは、今さっき死んだようには見えない。少し腐敗が始まってる。もっと前、一週間か、一ヶ月か、分かんないけど、でも、死んでからそれなりの時間は経ってるみたいだ」
素人目で見たって、雛菊早矢が死亡していることは明らかだ。脈拍や呼吸を図る必要性すらない。外傷こそ見当らない綺麗な外見だが……その顔色は、死人以外の何者でもなかった。
「それじゃあ、桜井君は」
「多分、彼女が死んだ現実を、受け入れられなかったんだ」
狂っている。そう、一言で切って捨てるのは簡単だろう。
事実、その通りでもある。桜井君は混乱したり錯乱した様子は微塵も感じられなかった。至極真っ当に、傷ついた雛菊さんを助けるために、クラスメイトを脅してまでポーションを求めていた。
あまりにも正気なあの姿が、彼の狂気そのものだったとは。
「そ、そんな、桜井君……」
一番、ショックを受けているのは、彼を殺したメイちゃんだろう。
もしも、桜井君が雛菊さんの死を受け止めていれば……きっと、彼とは敵対することもなく、すんなりと仲間になることができただろう。
けれど、そうはならなかった。桜井君が愚かだったわけでも、イカれたわけでもない。
きっと、彼にとって雛菊さんは、全てだった。
「ねぇ、小太郎くん。せめて、二人を一緒に埋めてあげられないかな」
「うん、そうだね。そうしよう――」
けれど呪術師としての僕が、ただの感傷に任せて二人を弔うことを許さない。
桜井遠矢は、僕らの前に立ちふさがった強敵だ。そんな敵を討ち果たしたのなら、その勝利を少しでも価値のあるものにさせてもらおう。
君たちの死を悼む気持ちはあるけれど、僕には、まだこれから先を生きていく方が重要だ。
「だから、その首だけは貰っていくよ」
『射手の髑髏』:天職『射手』を授かった者の髑髏。
『呪術師の髑髏』:天職『呪術師』を授かった者の髑髏。
召喚術士に続き、『愚者の杖』で使える新たな髑髏を手に入れた僕だけど、とても素直に喜ぶ気持ちにはならない。
雛菊さんの首は、レム初号機に落としてもらった。流石に、メイちゃんには頼めない。僕自身の手でやるべきところだけど、非力な僕ではそもそも人間の首を斬り落とすことが難しい。
そうして手に入れた二人の生首を『魔女の釜』にいれて、時間をかけて焼く。死体を骨にするなら、焼くのが一番だし。
ついでに、死体も焼いた。ビルの近くに大きく深い釜を作って、二人を入れて焼く。焼き終わったら、そのまま埋め立てる。火葬場と墓場を兼用である。
わざわざ焼いて骨にしたのは、万に一つでもアンデッドとして蘇るのは避けたいからだ。敵としても、心情としても、もう彼らと戦いたいとは思わない。
自分で殺しておいてなんだけど、出来る限りの供養はしたつもり。せめて、天国で二人が幸せになってくれ、と思い願うくらしか、僕にはできないけれど。
「……はぁ」
溜息ばかりが漏れてくる。やはり、心から殺したいと思えるほど憎い相手でなければ、どうにもこうにも、自分の中で割り切れない。とうとうメイちゃんに殺人という大罪を背負わせてしまった、罪悪感もある。
けれど、何もかも、今更の話だ。割り切れなくても、僕は先に進むため、やるべきことをやらなければ。
僕は手に入れたばかりの、まだ仄かに熱が残る桜井君の頭蓋骨、『射手の髑髏』を杖に嵌め込んだ。
『気配察知』:敵の気配を察知する感知力が鋭くなる。
『気配遮断』:気配を断ち、影のように身を潜め、静かに行動できる。
『鷹目』:鷹の目のように、遠くのモノを正確に捉えることができる。
発動した能力は、射手のモノなのに弓に関する技が何一つなかった。もしかすると『愚者の杖』は単純に、初期能力三つ固定ではなく、術者に応じたスキルがセレクトされるのかもしれない。実際、杖を装備している前提なのに、弓矢の武技が発動できても意味がない。手が塞っているから、そもそも弓が引けないわけだし。
「けど、これはなかなか有用だぞ」
射手というより、盗賊や暗殺者のようなスキル構成である。そして、それらは呪術師の僕がどう頑張っても手に入りそうもない効果だ。
特に、ストレートに狙われたらヤバい僕にとって、『気配遮断』という隠れ潜むスキルはありがたい。『鷹目』も今回のように離れた位置から作戦に参加する場合では、役に立つし、単純に双眼鏡代わりとしても使える。
『気配察知』に関しては、まぁ、メイちゃんの方が鋭いし、レムもそれなりに敵の感知はできるから、このパーティでは必須というほどではないけれど、持っていて損はない。前衛が戦闘に集中している時、後衛の僕が敵の増援や伏兵、あるいは第三勢力な乱入者が現れる可能性を考えれば、警戒能力の意義は十分にあるだろう。
さて、次に試すのは、地味に驚きだった雛菊さんの『呪術師の髑髏』である。
「まさか、僕の他に『呪術師』がいるとは……」
彼女もルインヒルデ様から、凄惨な方法でイマイチな能力の呪術を授かったのだろうか。ひょっとして、能力被って発動ナシなんてことに、と期待半分不安半分になりながら、僕はその力を確かめた。
『毒』:敵を毒の状態異常に陥れる。
『付加』:魔法の効果を物質に付加することができる。
『簡易錬成陣』:簡易的な略式錬成を行える。理解と解明。分解と再構成。
「……おお?」
なんだコレ、僕の呪術とは随分と毛色の異なる名前が並んでいる。というか、他の魔術士系と似たようなネーミング。これ、本当にルインヒルデ様が与えた呪術なのだろうか。
「もしかして、同じ天職でも、神様が違うんじゃないのか」
てっきり、一つの天職には必ず一柱の神という、ゲームライクなイメージがあったけれど……よく考えれば、天職の数だけ神様がいるならば、この世界は唯一神によって創造されたモノではなく、多神教の世界観だということに間違いない。ならば、様々な神様が存在してもおかしくないのだ。
同じ剣士でも、片手剣か大剣か、あるいは二刀流か、ナイフ専門か、などなど、様々なパターンが考えられる。
天職としても剣崎明日那の『双剣士』や山田の『重戦士』といった、上位派生のようなものも存在している。つまり、同じ剣という武器を使う天職の神でも、『剣士』と『双剣士』の二種類あることは確定だ。
だから、天職のバリエーションの数だけ神様がいるのではなく、同じ天職でも複数の神様が存在している可能性も、十二分にありえる。
「なるほど、そういう世界観なのか……もしかして、ルインヒルデ様って呪術の神の中でもドマイナーな存在なのでは」
おっと、今のはナシで、ナシでお願いします。僕の崇め奉るルインヒルデ様は呪術業界ナンバーワンの神様でございます。もうメジャーもメジャー、呪術といえばルインヒルデ、それ以外は中小零細かモグリのクソザコナメクジばかりに決まってます。
「それにしても、コレは大当たりじゃないか」
内容的には、『賢者』のモノに近い。『簡易錬成陣』なんかは、完全にモロ被りである。しかし、だからこそその有用性は知っている。
この『簡易錬成陣』と『付加』があれば、ついに僕も本格的な魔法武器、マジックアイテムの製作ができるかもしれない。あっ、そうか、桜井君が使った毒矢は、矢に『毒』を『付加』して作ったんだ。
他にも、メイちゃんに対して毒煙みたいなのも撃ち込んでいたし、色々と雛菊さんが矢玉を作っていたのだろう。なかなかに強力なコンビである。
さて、気になるのは、『毒』がどの程度の威力があるかってことだ。メイちゃんは毒矢を直撃したけど、解毒薬で中和したから、効果のほどはイマイチ分からない。要検証である。
記念すべき第一呪術であり、不動のいらない子ナンバーワンの座に輝く『赤き熱病』よりは効果があると思いたい……
「小太郎くん、まだ起きてたんだ」
杖を弄り回していると、メイちゃんから声をかけられる。言われてから、時計を見れば、夜の12時は過ぎていた。基本的に昼行動夜就寝の生活習慣を維持しているので、普段よりも夜更かししているのは事実であった。
「あー、うん、もう寝るよ。大体、検証も終わったし」
曰くつきの事故物件、といった状態であるが、今日は桜井君の拠点であるビルをそのまま利用させてもらう。今更、前の妖精広場まで戻る気はないし、他の安全そうな廃墟を探すのも無駄な手間である。家主を殺した場所に居座るのは、あまり良い心地はしないけれど、今の僕らに住環境をどうこう言えるような余裕はないし。
「一緒に寝ても、いいかな」
「えっ」
よしもう寝るかよっこいしょ、と杖を投げ出し起き上がったところで、僕は固まった。
「一緒に寝ても、いい、小太郎くん」
どうやら、聞き間違いではなかったらしい。ここで難聴スキルを発動させて、聞かなかったフリをしても、今のメイちゃんからは平気で三度目の問いかけがされるだろうことが容易に想像がつく。かなり、表情がマジだった。
「えっ、いや、それは……いいけど、っていうか、どうしたのさ」
ええい、落ち着け、他意はない。どうせ、きっと、他意はないに決まっているだろう残念ながら。
だから、あからさまに意識してますみたいに、しどろもどろになるんじゃない。こういう時は、冷静に、クールに対処しなければ……
「ごめんね……怖く、なっちゃって」
「怖い?」
ゴライアスを力でねじ伏せ、超人スナイパー桜井君を正面突破で斬ってみせた、『狂戦士』双葉芽衣子が、一体何を恐れるというのか。いや、皮肉でも何でもなく、純粋にそう思う。
「うん、もし、小太郎くんが死んじゃったら……私も、桜井君と同じになるのかなって」
ハっとして、息が詰まる。
何て、何て言い返せばいいんだろう。
分かんない、けど、分かる――きっと、それは僕も同じだろうから。
「大丈夫、だよ……そうなるかもしれないけど、そうならないように、頑張るっていうか……」
あー、もう、何を言ってるんだ僕は。もうちょっとマシな返事はできないのかよ格好悪い。
「僕も、同じ気持ちだから。メイちゃんを失ったら、なんて怖くて考えたくもないよ。だから、必ず二人で、一緒に生き残らないとダメなんだ」
そのためならば、クラスメイトの生首だって利用してやるさ。だから、僕の呪術師としてのちょっとした非道行為には、目をつぶってくれるとありがたい。
「うん、そっか……良かった」
何が良かったのかは分からないけど、メイちゃんはどこかホッとしたような、柔らかな微笑みを浮かべた。ひょっとして、君のことは戦力としてしか見てないから、とか無意味に残酷な手駒宣言でもされると思ってたのだろうか。どんな鬼畜だよ僕は。ちゃんと人としての情は持っているはずだよ、多分、まだ、少しだけ……
「ありがとう、小太郎くん。じゃあ、寝よっか」
「うん」
それで、マジで一緒に寝るの? ベッドイン?
一瞬、淡い期待を胸に抱いて、今日も寝巻代わりのセクシーなジャージ姿で大迫力の生爆乳を前に、ヤバい期待をさらに抱え、いざ――と男の覚悟を決めた瞬間、ほら、そこに寝袋が二つあるじゃろ? と、弱気にして理性的な僕が、頭の片隅で天使のような悪魔のささやきをしやがった。
寝袋かぁ……多分、桜井君と雛菊さんが、ダンジョン攻略のお供として作ったモノなんだろうな。割としっかりモコモコした毛皮で作られていて、温かそうで、『簡易錬成陣』で作ったのかな、なんて思いながら、僕はその寝袋に包まれて、ゴロンとメイちゃんの横に転がった。
うん、分かってたよ、同じベッドにインはありえないって、分かってた……けど、こんなのあんまりだ……
「おやすみ、小太郎くん」
「うん、おやすみ、メイちゃん」
最後の最後で、桜井君に復讐されたような気分になりながら、僕は黙って就寝した。




