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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第11章:孤独の射手
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第154話 二度目の奇襲

「朝食が昨日の残りモノじゃないって、凄いことだよね」

「そう? 別に、普通だよ」

 メイちゃんが当たり前のように用意してくれた朝食は、昨日のロイロプスステーキ食べ放題とは打って変わって、起き抜けにやさしいアッサリ系の料理であった。

「ねぇ、このスープに入ってる団子ってどうしたの?」

 手元にある食材は肉と芋と野菜が少々。団子など所持していない。コイツは一体どこから出て来たんだ?

「それ、バナナイモからとった片栗粉で作ってみたの。ジャガイモとは微妙に風味が違うけど、まぁまぁ美味しくできたと思うんだけど……もしかして、口に合わなかった?」

 とんでもない。

 そういえば、片栗粉って本来はカタクリっていう植物の根で作るけど、店で売ってるものは馬鈴薯デンプン、つまりジャガイモを原材料にしているらしいと、小学校の家庭科の授業で聞いたことあるような、ないような。

 ともかく、イモがあればデンプンが抽出できて、片栗粉の製造も可能ということなのだ。僕には全く思いつきもしなかったアイデアだ。そして何より、『魔女の釜』を使いこなしているからこそ、片栗粉を作り出すことに成功したのだろう。

「美味しいよ。っていうか、団子まで作るとか凄いよ」

 メイちゃんの凄いところは、一つの食材から、様々なバリエーションに展開できる、料理の知識と、それらを美味しく作り上げる腕前であろう。テレビで一流の料理人がありあわせの材料で美味しい一品料理を仕上げてスタジオ大興奮、みたいな番組見たことあるよ。上手な人は、縛りプレイをさせても上手なものなのだ。

「これ、ハーブティーのつもりなんだけど、どうかな?」

「うーん、独特の臭みあるけど、お茶として飲めないことはないと思う」

「やっぱり、風味が強すぎるよね。これはちょっと失敗かなぁ」

「でも水以外のモノが飲めるのって、凄い進歩だよ」

 食後のハーブティーまで嗜んで、僕はダンジョン生活始まって以来の満足感ある朝食を終えたのだった。

「それじゃあ、探索の続きと行こうか」

「うん!」

「グガァッ!」

 元気のいい返事と共に、昨日は途中で中断した広場周辺地域の探索を再開。探索だから、まだ次の広場へ向かうつもりはない。だから、大量のロイロプス肉の他、メイちゃんズキッチンと化している沢山の魔女鍋に、風呂場もそのままにしてある。

 荷物持ちを含め、レムの戦力も最大化させておきたいし、まだ二三日はこの広場に滞在することになるだろう。

 そんなワケで、今回は昨日の工場とは反対側を進む。

 こちら側は、特に目立つことはない民家風の建物が雑然と続いている。工場のような目立って大きな建物はない。せいぜい、三階建てのアパートみたいな箱型の建造物があるくらいか。

「ひとまず、あの高いマンションみたいなところまで行ってみようか」

 ここから目立って見えるのは、10階建て相当と思われる、背の高いビルである。外観からしてマンションっぽいけれど、ひょっとしたら違うかもしれない。宝箱、あるといいな。

 そうして、歩き始めること五分。

「あっ、ジャージャがいるよ、小太郎くん」

 街角をトコトコ歩いていくジャージャの小さな群れを発見。大きいのと小さいのが混じっている。家族なのだろうか。

 こういう廃墟の街を、草食動物が闊歩していく光景は長閑さながらもポストアポカリプスな雰囲気を感じる。ほら、ここゾンビも出てくるし?

「ロイロプスの肉があるから、今回は見逃そうよ」

「でも、種類が違えば、また違った味わいがあって美味しいよ?」

 なるほど、一理ある。飽食の現代っ子の僕らは、代わり映えしない食事にすぐ飽きが来ることだろう。同じ肉でも、バリエーションは多い方がいい。

「荷物になるから、帰りがけに発見したら、一頭狩ろう」

「うー、そうだよね、そうするよ」

 見つける度に新しい肉をゲットしていたら、探索がいつまでたっても進まないよ。天道君の黄金魔法陣アイテムインベントリーがあれば、好きな時に好きなだけ回収できるのに。マジチートだよね。

 メイちゃんが名残惜しそうな視線でジャージャを見送りつつ、探索を続行。

「キョォアアアアアアアアアッ!」

 直後、けたたましい叫び声が響きわたった。この声は、つい昨日も聞いたばかり。

「ハイゾンビだ!」

 言うと同時に、予想に違わず民家の角から、筋線維丸出しの赤いマッシブボディなハイゾンビが姿を現した。声か、臭いか、それとも魔力察知か、明らかに僕らのことを認識しており、アスリートみたいな逞しいフォームで全力疾走だ。

「ちょうどいい、今度こそ杖の試し撃ち――」

「アァアアアア!」

「ちょっ、早い、来るの早いから――ええい、『風刃エール・サギタ』っ!」

 折角の初攻撃魔法に、カッコつける暇もなく僕は杖から『風刃エール・サギタ』をぶっ放した。

 微かに魔力が杖に流れてゆく感覚と共に、即座に薄緑に輝く風の刃が放たれる。矢のような速度で飛翔してゆく『風刃エール・サギタ』は、狙い違わず、一直線に突撃してくるハイゾンビに命中。

 マッシブな胴体を横一文字に切り裂き、激しい血飛沫が上がる。ハイゾンビはのけ反り、全力ダッシュが止まった。

「ウォオアアッ――グ、ギ、キィイアアアアアッ!」

 だが、胸元に深い切り傷を刻み込んだまま、血塗れのハイゾンビは倒れることなく、再び走り始めた。

「うわっ、マジかよ、HP高すぎじゃない!?」

 一撃で倒し切れなかったこともショックだし、痛々しい傷痕のままで元気いっぱいに猛ダッシュのハイゾンビに、僕はかなり焦る。

 早く、もう一発、っていうか、二発で倒したら、速攻で他の奴に距離を詰められる!

「ウォガッ、アァ……」

 けれど、僕が二発目を発射するよりも前に、ハイゾンビはあっけなく倒れた。

 その額には、深々と矢が突き刺さっていた。ヘッドショット。

「レムぅ!」

「グル、グガガ」

 頼れる相棒のナイスアシストに、僕は感動する。

「ふぅううう――『撃震』」

 そして感動している間に、メイちゃんが武技で殺到してきた後続のハイゾンビの群れをブッ飛ばしてくれた。

風刃エール・サギタ』の一撃にも耐える、タフなマッチョボディを持つハイゾンビは、メイちゃんの武技を受ければ、首や手足があらぬ方向にねじ曲がりながら激しく地面を転がり、二度と起き上がることはなかった。

 僕の攻撃魔法と、メイちゃんの武技に、威力の差がありすぎる件について。

「メイちゃん、僕やっぱり『呪術師』として、後衛に徹しようと思うんだよね」

「うん、小太郎くんは私が守るから、安心して!」

 そういうワケで、魔法の杖を手に入れてちょっと調子に乗っていた僕は、心していつも通りのチキンプレイをしようと思うのだった。




 魔法の杖の残念な威力にガッカリしながらも、探索は続く。

 ひとまず目指した高層マンションに向かう途中、二回ほどエンカウントが発生した。一回は、さっきと同じハイゾンビ。二回目は、赤犬、よりも一回り大きく、面構えも獰猛な、狼と呼ぶべき獣型モンスターだった。とりあえず『赤狼』と呼称。

 どっちの戦闘でも、僕は適当に『黒髪縛り』でちょっかいかけるだけで、メイちゃんとレムの頼れる前衛コンビによって、難なく討ち果たされた。

「ふぅー、ようやく到着か」

 ヌルい戦闘を乗り越えて、マンション前まで辿り着く。

「入り口のところ、崩れてるみたいだね」

 とりあえず正面玄関にあたる部分は、派手に瓦礫が崩れていて、小柄な僕でも通り抜けられそうな隙間もなかった。

「じゃあ、裏口か、適当に窓からでも――」

 と、お喋りしている最中に、僕の視界に白いラインが横切った。

 あっ、これ、デジャビュ、じゃなくて、間違いなく以前に経験したことだ。そう、すぐにピンときた。

 そして、ピンときたときには、もう白いラインこと蜘蛛糸が、僕の体をグルグル巻きにしていて――

「うわぁああああ――」

「小太郎くん!」

「――ああああ?」

 蜘蛛糸に捕らわれて、物凄い速さで上昇していく勢いを感じたところで、僕の体はガクン、と止まった。

 見れば、僕に巻かれた蜘蛛糸の根元を、メイちゃんが掴んでいる。僕の体は現在、マンション二階の窓辺を越えた辺り。マジか、ジャンプして掴んだのか。

「ふんっ!」

 気合いの入ったメイちゃんの声と同時に、ブチリ、という音が響いて僕を吊る蜘蛛糸が千切れた。僕はメイちゃんに抱え込まれて、うわっ、おっぱい柔らか、じゃなくて、自由落下を始め、地上へと無事に帰還。

「アラクネだ! 逃がすな、レム!」

「グルルガガァアアアッ!」

 僕の指示が分かっていたかのように、レムはすでに弓を引き真上へと構えていた。

 見上げれば、そこにはやはり、上半身が人型で下半身が蜘蛛のアラクネが、マンションの最上階付近の壁にへばりついていた。

 このエリアにも生息しているとは。高いビルもあるから、実は森林ドームよりも住みやすいのかもしれない。

 ともかく、レムが放った矢は運よく、いや、確かな弓の腕前によって、壁面から逃げようとしていたアラクネへ命中。人型の腹の辺りに、矢が刺さっていた。

「キアアアア!」

 悲鳴を上げて、グラリと体が傾ぎ、そのまま落下――だが、すぐに体勢を立て直し、六本の蜘蛛足でマンションの外壁に踏ん張った。

「よくも、小太郎くんを――はああっ!」

 レムが二の矢を番えるよりも前に、メイちゃんが雄たけびと共に、愛用のハルバードをぶん投げていた。

 凄まじい勢いで高速回転しながら、壁面スレスレを水平に飛んでゆくハルバードは、その巨大な斧の刃でもって、見事に壁に張り付くアラクネを刈り取った。

「ァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 女性の投身自殺者か、と思うような悲痛な甲高い悲鳴を上げて、30メートルはありそうな高さを落下し――ドズンッ!

 重苦しい音を上げて、アラクネは自由落下の勢いのまま、地面へと叩きつけられた。

 一拍遅れて、ヒュンヒュンと音をたてながら、アラクネを斬り飛ばしたハルバードが返ってくる。うわっ、危なっ!? と思ったのは僕だけで、メイちゃんは上を見もせずに、手を上げて難なく掴みとっていた。なにその達人技。

「小太郎くん、大丈夫!? 怪我してない?」

 アラクネへ向けていた実に狂戦士らしい殺意の視線は一変、子供を心配するママみたいな慈愛溢れる顔で、メイちゃんは僕へと向き直る。

「大丈夫、メイちゃんが速攻で助けてくれたから」

 まさか、アラクネの奇襲を防ぐとは。凄まじい超反応である。

 今のメイちゃんなら、僕がスナイパーライフルで狙撃されても、対処できるんじゃないだろうか。

「本当に? ホントに大丈夫?」

「糸に捕らわれただけだから。というか、先にこれ解いて欲しいんだけど」

「あっ、ごめんね!」

 僕自身にグルグル巻きの糸は、そのままである。ひとまず、コイツを解いてくれないことには、落ち着かない。

「ありがとう、助かったよ。メイちゃんじゃなかったら、多分、そのまま捕まってた」

「ううん、ごめんね、あんなに高いところから襲って来るなんて、思ってなくて……ギリギリのところだったよ」

 不意を突かれても、救出が間に合う瞬発力はヤバいよね。

 しかし、本当に助かった。これでまた、アラクネのせいで強制パーティ離脱させられていたら、今度はしばらく立ち直れないかもしれない。

「それにしても、ちょうどいいところで、ちょうどいい奴が現れてくれたよ」

「グガガ」

 レムが同意してくれる。アラクネの有用性は、すでに証明されているからね。

「よーし、それじゃあ早速、屍人形だ!」




 完成したアラクネ二号機を伴って、僕らは探索を続行。アラクネが陣取っていたマンションをざっと調べてみたけど、これといって収穫はなかった。宝箱は二つほどあったけど、中身は空だった。恐らく、クラスメイトかゴーヴの野郎共が持ち出した後なのだろう。

 でも僕にとっては、このアラクネ二号機そのものが最大の収穫といえるだろう。

「よし、完璧な輸送機だ!」

 僕の前には、空っぽの宝箱を二つ蜘蛛の背中に搭載した、輸送仕様のアラクネ二号機の姿がある。

 この宝箱は恐らく、モノを長期間保管するのに適した機能を有している。魔力を通すと開閉する機能が生きている内は、保管機能も維持されているだろう。

 つまり宝物じゃなくても、食料品を入れるだけでも十分に役立ってくれるということだ。食料の他にも、『傷薬A』をはじめ、僕の作り出す薬は基本的に生モノだから、長期的な保存に向かない。でも、この宝箱に仕舞っておけば、それなりに品質を維持したまま、とっておけそうなのだ。

「宝箱をクーラーボックスにするなんて、小太郎くん、頭良いね」

「いやぁ、ちょうどいい箱を探していただけだよ」

 些細なことでベタ褒めしてくれるメイちゃんにデレデレしながら、今日のところは広場へと帰ることにした。

「あっ、ジャージャ! まだいるよ!」

「輸送手段も確保できたし、狩っていいよ」

 わーい、とハルバード片手に、温厚な草食動物に襲い掛かるメイちゃんを、僕は温かい眼差しで見送った。

 アラクネの蜘蛛糸でグルグル巻きにしたジャージャを抱えて、妖精広場へ帰還。

 もう少しだけ準備を整えたら、そろそろ出発しよう。

 2018年8月24日


 現在、私が同時連載している『黒の魔王』のコミカライズが決定しました! 9月24日から、『コミックウォーカー』『ニコニコ静画』にて連載が開始します。

 まだ読んだことのない方は、是非ともこの機会に連載版『黒の魔王』と、漫画版も同時に楽しんでみてください。


 それから、書籍版『黒の魔王』が電子書籍での販売も始めます。これまで、ちらほらと電子書籍で欲しい、という方もいましたので、どうぞこの機会にお買い求めいただければ幸いです。


 詳しくは、活動報告を更新する予定ですので、そちらをご覧ください。

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