第147話 豹柄パンツは誰が為に
「ごめんなさい。これは偶然、手に入ったモノで、どうか一つ見逃してください」
色々と言い訳は考えたけれど、素直に謝罪することが一番だと僕は結論を下した。だってメイちゃんは、蒼真桜や上中下トリオのように、口八丁で丸め込めればそれでいい相手ではない。心から信頼の置ける彼女だからこそ、僕も嘘は吐きたくない。
「ううん、謝らないで、小太郎くん。たとえ、どんな経緯で手に入れたものでも、私は気にしないから」
「ありがとう、メイちゃん」
僕の誠実な気持ちを分かってくれて、本当にありがとう。
「それで、誰のパンツなの?」
ちいっ! いい感じで話が流れなかったかチクショウ!
ど、どうする、素直に白状してしまえば、蘭堂さんの命が危うい気がする、何となく。だって、真顔のメイちゃん怖いんだもん。これ完全に狂戦士の顔ですわ。
彼女に嘘を吐きたくない気持ちは本当だけれど、かといって、全ての真実を洗いざらい話すのが、お互いにとって良いことだとは限らない気もするという、都合のいい言い訳も脳裏の片隅に過る。
おいおいおい、マジでどうするよ……黙秘権を行使するのにも、限度ってもんがあるだろう。僕はできる限り、メイちゃんには誠実でありたい。だがしかし、本当に正直にありのままを告白するってのか? 蘭堂さんの豹柄パンツ最高です、毎晩使ってます、もう手離せない素晴らしい一品、星5です! などと、言えるのか?
言えるワケねーだろ、羞恥プレイとセクハラのダブルインパクトかよ。無言でハルバード叩きこまれても文句言えないぞ。
「……」
結局、僕は顔に冷や汗だか油汗だか知らないけれど、とにかく嫌な感じの汗ダラダラで、無様にも黙りこくるしかなく、
「これ、蘭堂さんのでしょ」
ッ!? と、ピンポイントで的中させてきたことへの動揺は、どうにか、顔に出さずに堪えられたと思う。これまで、それなりに死線を潜り抜けてきた経験は、伊達ではない!
「か、カマをかけようたって、その手には乗らないよ」
「ウチのクラスの女子で、このサイズのパンツを穿くのは蘭堂さんだけだよ」
し、しまった、体型とサイズで一気に特定された!
蘭堂さんはクラス一の爆乳の持ち主だが、デカいのは胸だけではない。お尻も大きいのだ。
そして二年七組の女子は、蒼真桜を筆頭とする美少女グループは勿論のこと、そうでもない西山さんとかの普通からちょいブサ女子を含めても、ほぼ標準体型。女子で太っているとハッキリ言える体型の持ち主は、かつてのメイちゃんしかいなかった。
そして、あらゆる意味で規格外のメイちゃんを除外した場合、二年七組の女子でヒップサイズのトップは、間違いなく蘭堂さんであろう。バスト、ヒップ、共に堂々のワンツーフィニッシュを飾る、ワガママボディである。
「私ほどじゃないけど、蘭堂さんも大きいから。海外製の特注品なんて、普通の子は持ってないよ」
それ、海外製の特注品なんですか!?
「しかもこれ、結構、有名なブランドだよ。蘭堂さんらしいよね」
その豹柄パンツ、そんなに高価なモノだったんですかぁ!?
男の僕では気づけない、衝撃の新事実である。これは次に使う時から、さらにありがたみも増すというか……っていうか、次なんてねーだろこのパターンは……
「そ、そ、そうなんだ、凄いね」
すでにして蘭堂さんを庇う意味もなくなった僕は、酷く適当な相槌を打つことしかできなかった。ごめんね蘭堂さん、女子高生のパンツ事情に僕が詳しくないばっかりに、あっけなくメイちゃんに持ち主を看破されてしまったよ。
申し訳ないとは思うけれど、かといってこれから女子のパンツに詳しくなる気もないけれど。
「ねぇ、小太郎くんって、もしかして……女の子の体より、下着の方に興味があるタイプなの?」
「いいえ、中身の方が全然興味あります」
メイちゃんに嘘は吐けないからね。正直に答えるしかないよね。
「そうなんだ」
「そうだよ、決して僕が無理いって蘭堂さんからパンツ譲ってもらったワケでは断じてないから。これはアレだよ、僕がはぐれた時に、探しに向かったレムが餞別にもらったらしくて、えーっと、ほら、蘭堂さんならこういうキツめの冗談かますこともなきにしもあらずかなといったところで」
「そっか、良かった」
良かった? 本当に? ねぇ、本当にそう思ってるのメイちゃん、こんな怪しい言い訳が通じた感じで大丈夫なのか。逆に心配になってくる。
けれど大体、今の釈明に嘘はない。正直なところ、蘭堂さんがどういうつもりでレムにこのパンツを託したのか、その本心は僕があずかり知るところではない。強いて言えば、男慣れしている彼女が、童貞少年丸出しな僕を相手に、コイツにはコレが喜ぶだろうと思ってくれたのかと。
「それじゃあ、このパンツ、私がもらってもいい?」
「えっ」
「やっぱり、下着が一枚しかないのは、ちょっと……」
ちょっとばかり、恥ずかしそうに言うメイちゃん。そのリアクション、見ている僕の方が恥ずかしくなってくるんですけど。
「それに、今の私なら、このサイズでちょうど良さそうだし」
「そ、そうだよね! 是非、メイちゃんが使ってよ!」
ここが落としどころだ! そう僕は見極めて、もろ手を上げて彼女の提案に賛成した。
「ありがとう、小太郎くん」
「いやぁ、お礼なら、蘭堂さんに言ってよ」
大切な夜のお供だった、豹柄パンツを失うのは、非常に寂しいことである。
だがしかし、この海外有名ブランドの豹柄パンツが、メイちゃんという新たなマスターと出会ったことは、とても素敵なことのように思える。
豹柄パンツのメイちゃんか。うん、悪くない。普通の女子生徒なら持て余す特注サイズでも、彼女が穿けばはちきれんばかりにパツパツになるであろう。
「……はぁ、丸く収まって良かったよ」
流石に今回は、メイちゃんからの信頼も失墜するレベルのスキャンダルかとマジで焦った。いくら命の恩人といっても、ダンジョンサバイバルの極限状況下で下着ドロする奴だと思われれば、そりゃあ見限られたっておかしくない。
生きた心地がしないプチ修羅場だったけれど、どうにか上手く解決した。また一つ、僕は死線を潜り抜け、強くなった気がする。もう二度と御免だけど。
メイちゃんが豹柄パンツ発見で揉めたりしながらも、無事に妖精広場を出発した僕らは、ちょっと久しぶりに遭遇したスケルトン小隊を速攻で始末し、その骨を素材にして、ひとまずレムを再創造した。完成した形態はやはり、素材の味を活かしたシンプルな黒スケルトン形態。
とりあえず、装備品もそのまま拝借して、剣と槍を持たせておいた。
「おかえり、レム」
「ガガ!」
「レムちゃん、久しぶりだね。小太郎くんのこと、ずっと守ってくれたんだよね……本当に、ありがとう」
「ガガガ!」
メイちゃんに髑髏頭を撫でられて、レムも喜んでいる。なんだかんだで、二人もかけがえのない戦友だしね。レムもメイちゃんと再会できて嬉しいだろう。
そうして、僕、メイちゃん、レム、と懐かしの編成となって、ダンジョンを進む。ここから先は、コンパスに従って真っ当にボス部屋の転移魔法陣を目指している。
この辺のエリアは、スケルトンが出現したように、最初の頃と同じような石造りとなっている。ジャングルに白雲エリアと、変な場所を進んできたせいで、むしろこっちの方が落ち着くくらいだ。
だが、油断は禁物。なんだかんだで、ここは最初の頃とは比べ物にならないほど、ダンジョンの奥へと近づいた場所。罠があるかもしれないし、単純に強力な雑魚モンスも――
「あっ、ボス部屋あったよ」
めちゃくちゃあっさり、ボス部屋まで辿り着いてしまった。まぁ、こういう時もあるだろう。
ボス部屋は、オルトロスを相手にした時の様な両開きの扉になっており、そっと中を覗き込めば、ただの大広間となっている。
ボスは奥にいるのか、まだ見えない。
「よし、行こう」
今回は正攻法で挑む。せいぜい、退路だけは確保して、ヤバかったら逃げられるように注意はしておく。
僕はレムを前に立たせつつ警戒心全開で、メイちゃんは全く恐れ知らずにズカズカとボス部屋へと踏み入っていく。
「ゴルルルゥ……」
薄暗い広間の奥から、獰猛な獣のような唸り声が響く。どうやら、ちゃんとボスはいるようだ。
「小太郎くん、下がってて」
「扉の前にいる。ヤバい時は、すぐ出よう」
了解、と後ろ手にハンドサインだけを出して、メイちゃんは現れたボスと対峙した。
「アイツは……ゴライアスだ!」
筋骨隆々のゴリラ体型に、角の生えた凶悪な面構え。一度、その姿を見たことがあるから間違いない。
天道君はゴライアスを瞬殺したけど、樋口はコイツとの戦闘は避けていた。単純な戦闘能力は極めて高いボスモンスターである。
「メイちゃん、気を付けて、アイツはパワーもスピードもかなりある!」
と、僕が叫んだその時には、ゴライアスは動き出していた。あのゴグマと同じくらいにはデカい、3メートル超の巨躯だが、シュタっと小さな音だけを立てて、凄いスピードで跳躍。
真っ直ぐに、最も近い相手であるメイちゃんへと、ゴライアスは鋭い牙を剥いて飛び掛かる。あまりの速さに、僕が『黒髪縛り』で足止めのフォローをする隙もなかった。
まずい、これは正面きってのガチンコ勝負に持ち込まれそうだ。果たして、メイちゃんでもフィジカルモンスターなゴライアスを相手に、勝てるだろうか……
「ふんっ!」
と、僕の心配をブッ飛ばすように、メイちゃんのちょっと女の子とは思えない勇ましい掛け声と、ガツン! と大きな鈍い衝突音がボス部屋いっぱいに響き渡った。
なんだ、と思った時には、『ダークタワーシールド』という大盾を突き出した体勢のメイちゃんと、無様に腹を向けて仰向けにひっくり返ったゴライアスの姿が。
「――『破断』」
そして、無防備に転がるゴライアスに向かって、高々と掲げられた『黒鉄のナイトハルバード』は、武技の威力を持って無慈悲に振り下ろされた。
キン、という澄んだ金属音を響かせて、ゴライアスは頭から股下まで、縦に一刀両断されていた。
「ふぅー、良かった、あんまり強いボスじゃなくて」
と、真っ二つにされたゴライアスの死体を背景に、爽やかな笑顔を浮かべるメイちゃん。うーん、この圧倒的な狂戦士の力。惚れ惚れするね。もう、メイちゃんなしで、生きていけないかも。
「凄いよ、メイちゃん。こんなに強くなってるなんて」
「そんなことないよ。武技が強力なだけ」
「でも、武技使わなくても倒せたでしょ?」
「うん」
笑顔が眩しいよ。
しかし、メイちゃんの戦闘能力は明らかに成長している。僕と離ればなれになったあの時点では、きっとゴアイラス相手に負けはしないまでも、かなりの接戦となったはずだ。
単純にパワーやスピードといった身体能力、新たに習得した武技の力、強化された質の高い武器、そして何より、メイちゃん自身の戦闘経験が積み重なり……成長、しているんだろう。そして、それは今もまだ、成長中なのだ。
「やっぱり、メイちゃんは頼りになるなぁー」
「私も、小太郎くんの役に立てて嬉しいよ」
うふふ、あはは、と和やかに談笑している内に、レムがさっさとコアを回収してくれた。
「それにしても、早速、いい材料が手に入ったよ」
ゴライアスはパワフルな巨躯に加えて、要所には刺々しい甲殻も備えている。コイツをレムの材料にしてやれば、確実な強化が望めるだろう。
というワケで、製作開始。
スケルトンレムをそのまま素体として、『六芒星の眼』に二分割されたゴライアスの死体を転がし、あとはジャングルで採取した最後のマンドラゴラをつぎ込む。
「混沌より出で、忌まわしき血と結び、穢れし大地に立て――『汚濁の泥人形』」
うおっ、や、やっぱり、ゴライアス丸ごと一頭を使って作ると、かなり魔力を持って行かれるな。 でも、休憩はしてるし、道中でもボス戦でも僕の出番は皆無だったから、魔力は満タン。魔力切れで気絶するほどではない。
堪えろ、あと、もう、少しだ……
「グ、ゴ、ガガルァアアアアーっ!」
レムの雄たけびと共に、魔法陣からブワっと黒い煙が、演出のように噴き上がる。
「はぁ……できた、完成だ」
漂う黒煙が晴れて行き、その向こうから大きな人型が現れる。
うん、大きい……コイツ、デカいぞ!?
「わぁー、レムちゃん、背が伸びたね」
「ガル、グラ、ゴルガララ」
完成したレムは、僕の身長を遥かに超えて、メイちゃんに迫る背丈と化していた。170センチは確実に超えている。
しかし、気になる点は他にある。
「おお、筋肉ついてる」
そう、これまで骨格のみのスケルトン状態がデフォルトだったレムに、筋肉のようなモノがついているのだ。でも、肉がついている方の人体模型のような感じではなく、この筋肉は鉄のように光沢のある灰色で、触ってみると……かなり固い。これは生々しいタンパク質の感触ではなく、完全に金属の手触りだ。細い鋼線を束ねて、筋線維の代わりになっている。
何故、金属質で伸縮性のある筋肉の役割を果たせているのか……魔力で収縮する仕様なのか? よく分からん。
そんなレムの鋼の筋肉は、ほぼ全身を覆っていて、特に手足は逞しい。そのシルエットは、最早スケルトンではなく、完全に人と同じだといってよい。
名残といえば、頭だけは黒髑髏のままで、ゴライアスから受け継いだような角が二本生えている程度。
鋼鉄の筋肉を全身に纏った、鬼の髑髏顔のレムは、その成長した背丈もあって、かなりの威圧感がある。正直に言って、これまでで一番強そうだ。あと、全体的にサイボーグみたいで、一番カッコいい。レムはゴーレムじゃなくて、ロボを目指す方向性なのだろうか。
「レム、立派になって……僕は嬉しいよ」
「グルル、ガガガ!」
この鉄の筋肉を持つ新形態は、きっとゴライアス素材を使ったことだけが原因ではないはず。メイちゃんも成長したように、レムもまた成長してるんだ。
こうして、目に見えて成長が分かるというのは、実に喜ばしい。
これからは、メイちゃんがいるからゴライアス級の魔物なら幾らでも狩れる。そして、強力な魔物の素材が手に入れば、さらにレムを強化できる。
「よし、それじゃあ、行こうか」
「うん」
コアを手に転移魔法陣に乗ると、いきなりメイちゃんに背後から襲われた、じゃなくて、抱きつかれた。
「えっ、な、なに?」
「こうしていれば、転移する時も安全だよ」
ああ、なるほど、そうだよね。明日那の時は勿論、僕はなにかとボスを倒した後に重大なトラブルに直面することが多い。飛んだ先で樋口が待ち構えていたり、アラクネに攫われたり、蒼真悠斗が飛んで来たり……僕にとって最も警戒すべきタイミングが、今なのだろう。
周囲には他に誰もいない、と侮ってはいけない。いつ何時、敵が乱入してくるか分かったものではないのだから。
「ありがとう。これで、僕も安心だよ」
「うん、絶対に離さないからね」
本当にありがとう、後頭部が完全におっぱいに埋まるサービスは最高だよ。もう、ずっとこのままでいたい……そんな極楽気分で、僕らは転移の光に包み込まれていった。
今回は何事もなく無事に転移を果たして、妖精広場に到着する。先客もいない。なんか、クラスメイトがいない方が安心できるって、僕も相当、人間不信になってきたな。まぁ、こんな経験をしていれば、ならない方がおかしいか。
こういう体験を繰り返していると、信頼できる仲間を得る喜びよりも、邪魔でしかない無能な味方を抱えたり、殺し合いをするほど憎い敵と遭遇する、というストレスの方が大きくなってくる。
メイちゃんは心の底から信頼できる唯一の仲間だけれど、同じように信頼できる味方が、今後も二人、三人、と増えていく気は全くしない。彼女との信頼関係は、最早、単なる奇跡といってよい。
メイちゃんには人を一心に信じられるだけの素晴らしい人格があって、なおかつ、僕が命を救ったり、敵と戦えるよう練習したり、一緒にピンチを切り抜けたりと、そういった全ての出来事の積み重ねの果てに、これだけの強い絆が結ばれたのだ。逆にいえば、人格と経験、どちらか一方でも欠ければ、強固な信頼関係は得られない。
一方、信頼を失うのも、失望するのも、恨むのも、憎むのも、実に簡単なことだ。たった一度、失敗すればそれでいい。
女子の前でオナニーかませば即刻処刑の汚物扱いになるし、男子は好きな女子が被れば、もう醜く女々しい嫉妬の嵐が巻き起こる。基本的に人間というのは、ネガティブな感情に振り切る方が容易なのだ。信じるよりも、疑う方が簡単お手軽。
何でも不安だし、何でも恐怖するし、何でも嫉妬する。そういう臆病な本能があるからこそ、人間は原始時代を生き残ってきたんだろうけど。
ともかく、今はクラスメイトが誰もいない方がいい。
もし遭遇するならば、味方になっても敵になっても、大丈夫なように万端の準備を整えておきたい。敵に回るなら、単純に戦力を強化していればいい。逆に、味方として仲間に加えるならば、絶対に裏切らないような鎖が必要だ。
その『鎖』というのは、人によって様々だろう。けど、僕の『魔女の釜』による、食事と風呂、それと蜘蛛糸のベッド、という健康で文化的な最低限度の生活環境は、かなり有効な拘束力だと、すでに判明している。あの、レイナですら、あっさり切り捨てるのに躊躇するほどの魅力がある。甘く優しい現代日本人なら、当たり前だけどね。
それに、今はメイちゃんという暴力装置もある。天道君並みの力があれば分が悪いけれど、今なら樋口だって迎えいれてもやっていけるだけの自信が持てる。やっぱり最高の安全保障ってのは、武力だよね。
さて、クラスメイトとの遭遇に備えることも大事だけど、まずはダンジョン攻略が第一。とりあえず、この辺のエリアがどうなっているのか、探索するところから始めるわけだ。
ボス戦でも消耗しなかったので、小休止だけを経て、僕らは広場を出発した。
「うわ、これはまた、凄いところに出たな」
「わー、これ、街だよね? 私、似たようなの、何かの映画で見たことあるよ」
「それ、文明が滅んだ後の世界で、ゾンビみたいな化け物と戦うやつでしょ」
「そうそう、そんな感じのやつ」
いわゆる一つの、ポストアポカリプスな街並みが、僕らの眼前に広がっていた。
見上げるほどに高い天井に、視界いっぱいに広がる大きな街は、ロボットアニメでお馴染みのスペースコロニーの景色のようだ。もっとも、宇宙空間ではなく地下空間だから、ジオフロントと呼ぶのが正解なんだろうけど。
街の主な建築物は、やはりダンジョンと同じく石造りで、ヨーロッパ風に見えなくもない。だが、マンションのような無骨な箱型の建物が多く立ち並ぶ様は、何の面白みもない日本の住宅街や団地のようにも感じる。
ざっと見て、高層マンションのように20階建て以上の高いビルもちらほらと建っているし、10階建ての大きな建物もそう珍しくはない。建築物のサイズ感でいえば、現代の日本と遜色ない。
アストリア王国とかいう、この異世界に現在ある人間の国家が、どの程度の文明度なのかは分からないけれど、少なくともここを作り上げた奴らは、21世紀の地球に匹敵する建築技術を誇っているのは間違いない。こんな広大なジオフロントをこしらえるくらいだから、確実に地球を越えているか。まぁ、この超巨大なダンジョンが存在している時点で、分かっていたことだけど。
さて、この明らかに人が住んでいたとしか思えない、ダンジョンの地下街なのだが、今は無人だというのは一目瞭然だ。
建物は崩れかけで、道路は荒れ果て、おまけに太陽の光もないのに、ジャングルで見かけたような木々や植物がそこかしこを侵蝕している。ちょうど、人間が死に絶えて無人となった街が、少しずつ自然の緑に飲み込まれていっている最中、のような感じだ。
この街からはとっくの昔に人はいなくなり、今は野生の魔物が闊歩する、危険なダンジョンの一部であるに違いない。
それにしても、こんなに広大な廃墟の街が広がっていると、実に探索し甲斐があると、ワクワクしてくるね。
それじゃあ早速、この街に何が潜んでいるのか、確かめに行こうじゃないか。




