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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第9章:魅了
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第122話 暴露大会

 その日の晩は、なんとなく、すぐに眠らずダラダラとお喋りをしていた。面子は、僕とヤマジュンと上中下トリオの五人。

 お子様のレイナは、飯を食って風呂に入ったら、さっさと眠り、野球部として規則正しい生活習慣を貫いていたらしい山田も、無駄な夜更かしはせず早々に就寝していた。

 眠った人がいる妖精広場でお喋りするのは悪い気がしたので、場所は僕の部屋へと移した。レイナと山田を二人きりで寝かせるってヤバいけど、どうせ霊獣がついているから万に一つも危険はない。別に、僕にはレイナの身の安全に配慮してやる義務はないから、心配なんて欠片もしていないけど。

「こういう時に、酒があったらなー」

「だよな」

「ツマミはあるのになー」

 などと、上中下トリオがのたまっている。未成年のくせに飲酒が云々と、説教しようなどという気は毛頭ない。高校生にもなれば、アルコールにチャレンジしてみる年齢だろう。無意味にクソ真面目な僕は、飲んだことないけどね。

 しかしながら、下らない雑談に興じつつ、クルミと干し肉のカケラをツマミにしている状況を思えば、確かにここは酒の一杯でも飲んでいるべき場面だろう。ああ、悲しいかな、僕らが飲める飲み物は、いまだに妖精広場の美味しい水しかないのだ。喉は潤うが、心は満たされない。

「ヤマジュンはお酒、飲んだことあるの?」

「うん、まぁ、嗜む程度でね」

 なにその新入社員みたいな無難な受け答え。ヤマジュン、すでにしてアルコールとの適切な付き合い方をマスターしてたりするのか。

「飲んだことないの、僕だけか」

「おっ、なんだ桃川、酒飲んだことねーのか」

「人生、損してるぜ」

「桃川アルコール童貞だべ」

 ははは、と三人で笑ってやがる。いいだろう、どうせトリオには酒飲み自慢くらしかできないし。

「童貞とか言ったら、どうせみんなも一緒でしょ」

「おっ、桃川、その話題いっちゃう?」

「酒もないのにいっちゃうのぉ?」

「うぇーい! エロトークの時間だうぇーい!」

 僕の童貞返しに、謎の盛り上がりを見せるトリオ。なんだ、この自信は、まさかコイツら――

「うそっ、みんな経験あるの?」

「それくらい、あるに決まってんだろぉー?」

「あるある!」

「俺らは一年の時に、ちょっとな、へへっ」

「ちょっと、ってなにさ?」

「えぇー」

「それはなー」

「ちょっとなー」

「いいじゃん、教えてよ」

 如何にも聞いて欲しそうに、はぐらかすトリオが果てしなくウザい。でも、気になる気持ちも確かにある。

 ねぇ、高校生男子って、いったいどうすれば童貞卒業できるんですか?

「まぁ、アレは全部、恭弥のお陰だったんだけどなぁ――」

 彼らの口から語られた初体験のメモリーは、お世辞にも甘酸っぱい青春の恋愛とはほど遠いものであった。

 簡単に言えば、樋口から女を紹介してもらった、というだけのこと。一時間一万円だったらしい。

「そういうの、なんか怖いんだけど」

「ビビっててもしょうがねーぜ?」

「相手も同い年だったから、へーきへーき」

「実際、俺らなんともなかったべ」

 いや、性病の心配だけをしてるワケではないけども。僕としては、樋口のツテというのが最も恐れるべきポイントだ。変に弱みとか握られそう。紹介された女の子も、おさがりなのでは。

「まぁ、俺らも最初は、ちょっとビビってたとこあったけどな」

「恭弥は一年の頃からアレだったしよ。中学からの筋金入りってやつ?」

「そうそう、俺らみたいな半端なのとはレベルが違うべ」

 本人不在でも、そういう評価が出てくるってことは、やはり樋口は不良として別格だったようだ。

「そういえば、三人とも入学した頃はもっと普通だったよね」

「おいおいヤマジュン、昔の話はやめるべー」

 僕は上中下トリオとは、二年に上がってから同じクラスになったので、一年の頃の彼らの姿は知らない。見たことあるかもしれないけど、覚えはまったくない。

 どうやら、三人はいわゆる高校デビューのようなタイプらしい。入学早々に、本物の不良生徒な樋口とつるみ始めて、あっという間にDQN化。

「へぇー、なんか大変だったんだね」

「恭弥はコエー奴だけど、スゲー奴だから」

「女のこともそうだけど、色々、世話になってっからな」

「蒼真と天道以外で、黒高生に勝てるのは恭弥だけだべ」

 と、樋口のことを語る彼らは、どこか誇らしげに笑っていた。

 やっぱり、僕が樋口を殺した件については、彼らには永遠に語らない方が良さそうだ。少なくとも、今はこの三人と良好な協力関係を続けていきたいし。

 そんな利害関係について考えなければ、僕の頭の中に罪悪感と言う名の魔物が、首をもたげそうになる。


「お前は、俺とは違う、いいヤツだよ……だから、やめとけ。お前は必ず、人殺しを後悔することになる……」


 そう言って命乞いする樋口に、僕は「後悔なんてするかよ!」と啖呵を切ったのだ。ならば、僕は意地でも後悔しないし、罪悪感に苛まれて、悩み苦しんだりもしない。

 たとえ、上中下トリオにとって、樋口は特別な友人だったとしても……僕にとってお前は、最悪の敵だったんだから。

「っつーか、桃川はどうなんだよー」

「えっ、僕?」

「へへっ、山田から聞いたぜ」

「お前、実は双葉さんと付き合ってたんだべ?」

「ええぇーっ!?」

 と、ガチで驚いているのが、ヤマジュン。

「えっ、ヤマジュン驚きすぎじゃない?」

 僕も、まさか山田の追及をかわすための適当な口八丁が、ここで自分に回って来るとは思わなかったけど。

「あっ、いや、ゴメン……なんか、その、物凄く意外で」

「だよなー? まさか、桃川に彼女がいるとはな」

「けど、相手が双葉さんって、すげーカップルだな」

「桃川、潰されて死ぬなよ? なはは!」

 いやぁ、メイちゃんに潰されて死ぬなら、本望かなぁ。このダンジョンで死ぬよりは、遥かにマシな死に様だよ。

「桃川くん、本当に双葉さんと付き合ってるの? 山田君が綾瀬さんのことで何か言ってきて、それを誤魔化すための嘘をついたとか?」

 流石はヤマジュン、鋭いというか、大正解だよ。でも、僕が双葉さんと付き合ってるという話を、頭から信じなかったことについては、それはそれでショックだったり。やっぱり、僕ではメイちゃんとは釣り合わないだろうか。

「えっ、嘘なのか?」

「まぁ、ヤマジュンも知らねーってのは、不自然だよな」

「いや、でも、ダンジョンに飛ばされる前の教室で、魔法陣のノートを桃川が双葉さんに渡してるとこ、見たぞ。やっぱ、密かに関係してたんだべ」

 下川、目ざとい奴め。あのシーンの目撃者がいたとは。

 しかし、あっさりと嘘を見抜かれて、疑われるのも癪だなぁ。

「嘘じゃないよ。僕、本当に双葉さんと……メイちゃんと付き合ってるし」

 見栄を張って、嘘を貫き通すことにしました。

「おおー、名前呼びかよ」

「桃川のくせに生意気だぞ」

「俺も彼女欲しいーっ!」

 ふふん、モテない男共の嫉みの視線が心地いい。ああ、これで本当にメイちゃんと付き合ってたら、もっと気分が良くなれたのに。

 嘘を塗り固めて手に入れた栄光って、虚しいものだね。

「そ、そ、そうなんだ……本当に、付き合っているんだね……いや、でも、桃川くんなら、双葉さんとはお似合いだよ」

 それって、おっぱい的な意味で? そうだよね、絶対そうだよね、僕の性癖を完璧に把握しているヤマジュンさんよ。

「なんかヤマジュン、ショック受けてね?」

「えっ、それって、もしかしてーっ?」

「ヤマジュン、実は双葉さんのこと好きだったんだべか!?」

「ええぇーっ! そうだったの!? でもゴメン、メイちゃんは譲れない!」

「い、いや、違う違う、全然、そんなんじゃないから」

 あはは、と苦笑いの表情がかえって怪しい。

 ちくしょう、レイナを巡って男同士の醜い争いなんて、と馬鹿にしていたけれど、まさか、自分が三角関係の泥沼にハマってしまうとは。なるほど、これは確かに、退くに退けない戦いだ。僕、マジでメイちゃんを譲る気はないよ。あのおっぱいとお尻と、狂戦士パワーは誰にも譲れない! 僕の生命線的な意味で。

「くそー、女の話したらムラムラしてくるじゃねーか」

「あー、最近は溜まってるからなー」

「レイナちゃんがいる手前、しょうがねーべ」

 実際、それで我慢しているんだから、凄いよね。この場合、三人の理性が凄いのか、レイナの魅了が凄いのか、分かんないけど。

「頼むから、他の女子と出会った瞬間に襲うのはやめてよね」

「はぁ?」

「んなことしねーって」

「心外だべ」

「でも前科はあるよね?」

「げっ!?」

 僕の一言に、急に顔色を悪くするトリオ。

 蒼真パーティが転移する寸前に、下川が『水流鞭アクア・バインド』で小鳥遊小鳥を攫おうとした、レイプ未遂事件。

 ふむ、一応、反省の色はあるらしい。

「桃川、知ってんのかよ?」

「なんで桃川が知ってんだ」

「あっ、そうか、桃川、前に蒼真と一緒だったからだべ!」

「うん、正解」

 正確には、蒼真君本人じゃなくて、その場に居合わせた委員長達からだけどね。

「い、いやぁ、あれは、その……なぁ?」

「あん時は一番溜まってたっつーか、精神的にもヤバかったっていうか」

「男三人で死ぬ気でダンジョン進んで来たら、蒼真の野郎がハーレムしてんだぞ! あんなの見せられたら、もう黙ってられねーべ!?」

「うんうん、その気持ちはよーく分かるよ」

 僕も蒼真君の、割と楽勝なダンジョン攻略模様を聞いて、結構な嫉妬をしたものだ。妬ましいのはその強さだけで、彼のハーレムについては、それほどでも。どうぞ、妹を筆頭に、あのヒステリックな女どもの面倒を見ていてくださいよ。今ならもれなく、レイナをつけてあげるから。

「僕としては、蒼真君を相手に、生きて逃げ切れた方が驚きだよ」

「そこはほら、俺の『水霧アクア・ミスト』で」

 視界を塞ぐ魔法に習熟していたお蔭で、命拾いをしたようだ。咄嗟の時には、下川の行動力はなかなかのもの。

 しかし、あの蒼真君を相手に、ただ霧を撒くだけで逃げおおせるとは考え難い。恐らく、彼自身にも葛藤があったはずだ。

 人間を殺すのか、という葛藤が。

 まぁ、これで本当に小鳥遊小鳥が攫われて、三人にレイプされていたら、きっと蒼真君も迷うことなく殺していただろう。ただの未遂で済んでいたから、殺すまでの踏ん切りはつかなかったに違いない。

「なぁ、桃川、蒼真はあの事について、なんか言ってたか?」

「許すとか、許さないとか」

「うん、三人のことは絶対に許さないって言ってたよ」

 うわぁ……と、目に見えてテンション下がってる三人組。そりゃあ、あの蒼真君に恨まれたら、恐ろしいに決まってる。文字通りの死活問題。

 実のところ、僕は蒼真君と一瞬しか一緒じゃなかったから、何も話してないけども。許さない、と主に言ってたのは剣崎明日那だし。許されないのはテメーだろ。

 それでも、蒼真君の性格を思えば、時間の経過で忘れるように何となく許す、みたいなことは絶対しないと思うけど。ほら、ああいうタイプって、ケジメってのを大事にするし。

「安心してよ。もし、蒼真君達と合流することがあったら、僕が上手く仲裁するからさ」

「おお、頼むぞ、桃川!」

「マジで頼むぞ!」

「絶対だぞ、絶対だからな!」

 命がかかってるから、必死だなぁ。

 けれどこの先、順調に僕らのダンジョン攻略が進めば、いずれ、蒼真パーティと合流する可能性は十分にありうる。というか、そうじゃないと僕が困る。メイちゃんとは必ず再会しなきゃいけない。

 ともかく、その時に備えて、余計な軋轢や因縁なんかは、できるだけ水に流していきたいところだ。僕としては、今のままの面子で合流を果たしたいと思っている。

 いざとなれば、僕が明日那に突き飛ばされた件があるから、十分に蒼真君とは司法取引できる余地があるから、大丈夫だろう。それにヤマジュンもいれば、仲裁役としても最適だし。やったね委員長、もう君だけが胃を痛くする必要はないんだよ。




 そんなこんなで、しゃべり場はお開き。三人は、やはり仲良く三人で広場に戻って就寝した。

「ごめんね、ヤマジュン、もうかなり遅い時間なのに」

「いや、いいよ、ボクもまだあんまり眠くはなかったし」

 ヤマジュンだけ引き留めたのは、勿論、古代語講習の続きである。

「それにしても、さっぱり分からん」

「うん、残念だけど、文字そのものがアルファベットみたいに、シンプルじゃないからね」

 何も知らずに英文を解読しようと思ったら、まずは、同じ文字が何度も繰り返し使用されていることに気づくだろう。なにせ、アルファベットはたったの26文字だ。構成される文字は、すぐに全部が明らかとなる。

 だが古代文字は、まるで漢字のように多種多様な文字が存在している。基礎的な文字と思われる、比較的、多く登場する簡易な文字はあるものの、まだそれがアルファベットや平仮名のような存在であるかどうか、確定することも難しい。

「規則性が全然、見られないのも厳しいよね」

「うーん、もしかしたら、平仮名、片仮名、漢字、の三種類が混じる日本語のように、複数種類の文字を組み合わせているのかもしれないよ」

 そうなると、解読の難易度は一気に跳ね上がる。『古代語解読・序』という明らかに初級スキルだけで、古代語の全容を解明していくのは、まず間違いなく不可能だ。

「とりあえず、今は単語だけ暗記していくことにするよ」

「うん、それが一番だよ」

 そうして、ほどほどに勉強会も進んだところで、不意にヤマジュンが言った。

「ねぇ、桃川くんは、天職とは違う能力について、心当たりはあるかな」

 ちょうど、『天職』という古代語について、説明を受けている時だった。

 天職と違う能力といえば、超能力とか、気の力とか? いや、違うな。そんな、漫画やアニメに登場するフィクションのことではなく、この異世界における現実的な力のことだ。

「あるよ」

 ヤマジュンがわざわざ二人きりの時に、持ち出した話だ。何の事だか分らない、と嘘ではぐらかすことは簡単だけれど、僕はこの話に乗るべきだと思った。

「それは、どういう……いや、まず、ボクの方から話すべきだろうね」

 少しだけ悩んだ素振りを見せて、ヤマジュンは語り始めた。

「実はね、姫野さんがいたんだ」

 誰だっけ、と言いかけたけど、確か、メイちゃんの友達の一人だったと、ギリギリで思い出せた。いつだったか、メイちゃんが話してくれたのだ。クラスで仲の良かった友人、木崎さんと北大路さんと姫野さん、三人のことが心配だと。

「もしかして、死んだの?」

「……分からない。ここに来る途中の、ジャングルではぐれてしまったんだ」

 正確には、逃げ出したのだと、おおよそのことの顛末を聞いて、僕は理解した。

 ヤリサーの姫と化していた姫野さんは、僕から奪った生贄転移でやって来たレイナが合流した結果、男共はブサイク中古を捨てて、ハーフのロリ美少女に夢中になったと。

「ボクはね、姫野さんが、ただここで生き残るための処世術として、体を使っていただけとは思えなかった。彼女には、何か別の……男に取り入るための能力、を身に着けていたような気がしたんだ」

「天職『売春婦』だったんじゃないの?」

「可能性はあるよね。でも、天職とは違うんじゃないのかと、ボクの、いや、治癒術士の勘で、そう感じたんだよ」

 なるほど、勘ね。元の世界では単なる気のせいってのが九割九分九厘だけれど、この魔法の異世界においては、かなり頼れる第六感だ。

 きっと、天職『治癒術士』には、そういうのを嗅ぎ分ける勘が、裏ステータスのように備わっていると考えるべきだろう。

「僕は、横道に会ったよ」

「えっ、あの、横道一君に? えっと、その、大丈夫だったの?」

「何とか撃退はしたよ。アイツは、長江さんを殺したから……殺して、食ったんだ」

 食った、という言葉に、ヤマジュンが絶句している。

「あの、それって、性的な意味で?」

「いいや、文字通りの意味だよ。死体を食べたんだ、丸ごとね。まぁ、その現場は直接、見たワケじゃないから、骨とかは残ったのかもしれないけどね」

 でも、奴が長江有希子の死体を食べたのは、紛れもない事実だ。『賢者』小鳥遊小鳥によって暴かれた真実であり、アイツもそれを認めた。

 そして何より、実際に僕達を、喰らおうとしていた。

「そ、そ、そんな、ことが……」

「分かるよ、ヤマジュン。きっと、横道は天職とは、別の能力を得たんだと思う」

 確か、『食人鬼』と小鳥遊小鳥は叫んでいたと思う。今にして思えば、アレは単に人を殺して食ったことに対する侮蔑ではなく、『賢者』のスキルで奴が授かった力の名前を言ったんだろう。

 だから、アイツは『スキルイーター』などと呼んでいたけれど、きっと正式名称は別にある。死体を捕食することで相手の能力を奪う、おぞましいスキルを奴は持っている。

「危険度の度合いは違うけど、姫野さんと横道、二人は同じように、天職以外の力を授かったんだ。多分、邪神とか魔神とか、そういう邪悪な感じの奴からさ」

「ああ、やっぱり、そうなんだ――『眷属』は実在するんだね」

「けんぞく?」

 聞きなれない単語を、確信を持ってヤマジュンが口にしている。一体、何を知っているのか。

「ボクも詳しいことは何も分からないよ。ただ、僕が最初のボス部屋で見つけた、古代語の一文、ここに、『天職』と対になるような感じで、『眷属』と書かれているんだよ」

 眷属、と実際にノートに文字で書いてくれて、ようやく意味を理解する。よく『眷』の字を書けたね。

 眷属ってのは、親族や同族、または配下の者など隷属的な身分の者を差す。そして、神の使者という意味でもある。

「だとすれば、姫野さんは『サキュバス』の眷属とか、そういうのってことになるね」

「天職の力は強力だから、山田君のように、それで調子に乗ってしまったりするのは仕方ないことだと思う。けれど、眷属の力は……その人の人格、そのものを歪めてしまうほど、恐ろしい能力のような気がするんだ」

 山田とトリオとヤリまくりだった姫野さんは、まだまだ可愛い方なのだろう。横道のように、お前を殺して食ってやるぜ、と大真面目に言う奴は、最早、同じ人間であるとも言い難い。

「だから、今すぐにどうっていう話ではないんだけれど……それでも、桃川くん、これからクラスメイトと合流する時は、天職なのか眷属なのか、よく、見極めた方がいいかもしれないよ」

「うん、そうだね、ありがとう」

 横道との遭遇で、薄々察してはいたが、ヤマジュンが『眷属』という言葉と、古代語に記されるほどの存在であることを教えてくれたお蔭で、明確にその脅威を認識できた。

 古代語が分からなければ、はっきりとつかめなかった情報だろう。こういうのは、貴重だよね。

「ごめん、変な話をして。でも、早めに話しておいた方が、いいかなと思って」

「いや、全然、凄くためになったよ。ホントにありがとね」

 そうして、真面目な話でちょっと気疲れしたのか、急激に眠気も襲ってきた。もう、勉強を続けられるコンディションではない。

 ここらで解散するとしよう。

「あっ、そうだ、ヤマジュン、最後に一つだけ」

「えっ、何だい?」

「本当に、メイちゃんのこと、何とも思ってないの?」

「あはは、思ってないよ。安心して、桃川くん」

 と、心の底から苦笑いを浮かべるヤマジュンに、僕はようやく、安心できた。これで、気分よく眠れるよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 眷属は魔法陣を介さずに与えられる力なわけね つまり勇者は天職じゃなくて眷属だったりすんのかな?
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