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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第9章:魅了
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第116話 密林の素材集め

「ど、ど、どうするよ……」

 と、頭を抱え込んで深刻に思い悩んでいるのは、何故か僕一人だけ。

「なぁ、この剣、結構よくね?」

「うおっ、スゲェ、いーじゃんコレ、ほとんど錆びてねぇ!」

「くそー、やっぱ魔法の杖はねーかー」

「おっ、何だお前ら、いい剣とってきたじゃねぇか」

「げっ、山田!」

「さっきの戦いで、一本ダメにしちまったから、ちょうどよかったぜ」

「ちょっ、待てよ、この剣は俺が見つけたんだし、っつーか俺の剣だってもう限界近いんだって!」

 僕の後ろでは、ゴーマ中隊からの戦利品である剣を巡って、上中下トリオとロリコン山田がワイワイと醜い争いを繰り広げている。お前ら、マジで気楽だな。

「はぁ……私、もうクルミ飽きちゃった」

「まぁまぁ、これでも食べないと元気が出ないから。栄養だけはとっておかないと、体も壊れてしまうかもしれないよ」

「うぅー」

「体にいい薬だと思って、頑張って食べようよ、綾瀬さん」

 そして、ヤマジュンは息を吐くように駄々をこねるレイナ・A・綾瀬のお守りである。

 このパーティに加入して、まだ一時間も経ってないけど、もうすでに辞めたくなってきた。いいよもう、お前らゴーマの大軍に逆襲されて全滅しちまえよ。

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、現実から逃げちゃダメだ……」

 現実逃避をするには早すぎる。このパーティを見限るのは、もっと早すぎる。

 ここから先に進むには、ゴーマの砦を攻略しなきゃいけないならば、どう頑張っても僕一人では不可能だろう。何とかこの面子で乗り切る方法を考えなければ。

「どうする……塔の防衛強化……いや、レムの復活が最優先か……」

 攻略以前に、ゴーマの逆襲に対する備えをしなければいけない。真っ当に考えるなら、僕らの拠点であるこの塔を要塞化して守りを固めるのと、レベルアップも含めてパーティそのものの戦力を高めること。この二点になるだろう。

「剣士、戦士、重戦士、水魔術士、治癒術士、クソニート……守りを固めるのに、役に立つ天職ではないよね」

 MMORPGみたいに『鍛冶師』とかの生産職が天職にあれば、城壁とまではいわないけど、上手にバリケードを作ったりできそうなものだ。まぁ、どうやら僕らは戦闘系の天職しか授からないような話だったから、このテの天職が存在していたとしても、授かっているクラスメイトはいないだろう。もしいたとしても、この場にはいないのだから、考えるだけ無駄なことか。

「ああー、蘭堂さん、会いたいよぅ……」

 思わず泣き言の一つも零れてくるってもんだ。

『土魔術士』の蘭堂さんがいれば、拠点防衛は完璧だったろう。全く準備の時間がない地底湖塔での戦いでも、あれだけ『土壁』を立てまくってジーラの大群を凌いだのだから。

 これで一日でも準備時間があれば、『土壁テラ・シルド』『岩槍テラ・クリスサギタ』『永続エタニティ』の建築コンボでかなりの防御設備が完成するだろう。さらに、いざ戦いとなれば『石弾テラ・サギタ』と『石砲テラ・ブラスト』を撃ちまくる固定砲台と化すのだ。

 防衛戦に限れば、蘭堂さんはかなりの能力を誇る。

 けれど、やはり彼女も今この場にはいない。僕がどれだけ、あの強力な土魔法と、あの素晴らしい褐色おっぱいを望んだとしても、いないものはいないのだ。

「壁を作る魔法がない僕らが、バリケードなんか手作りしても、たかが知れる」

 天職という特殊な能力がなければ、僕らはただの高校生。周囲の密林から木を伐り出して、簡易的な柵を作って守りを固める……なんて工作・工事は、ゴーマの襲撃がなかったとしても、上手くできるとはとても思えない。

 ロクに防衛設備を整える手段がないのなら、戦力強化の方に力を注ぐのが最善だろう。少なくとも、レムがいれば、二号含めて、二人分は兵士が増えるのだから。

 それに、あっさり敗北したとしても、レムがいれば僕が一人で逃げ出す時には役に立つ。自分の身の安全を考えても、やはりレムの復活は最優先事項だな。

「よし、後はレムの性能次第で考えよう」

 どこまでレムの力を取り戻せるか、あるいは、アラクネのように新しい魔物を屍人形として獲得できれば、選択肢も変わってくる。そう考えると、新たな可能性にちょっとだけワクワクしてきた。

「それじゃ、まずは協力交渉からか……あー、気が重い」

 あんまり進んで、お喋りしたい面子じゃないからな。でもまぁ、天道君に取引を持ちかける時よりかは、気楽だと思っていこう。

 さて、ここでいきなり山田に話を切り出すのは馬鹿のすること。

「ねぇ、ヤマジュン、ちょっと相談があるんだけどー」

 話し合いをするにあたって、根回しってのは大事だ。先に自分の意見に賛成してくれる味方を作っておくのは基本だろう。特に、ある程度みんなに対して発言権を認められている、ヤマジュンのような人物を味方につけておくことは大いに意味がある。

 これは決して、ズルいことではない。別にどちらでもいい、という無党派層みたいな人は多いから、そういう奴らは相応の人物が賛成を示すことで、自分達も賛成へと意思決定をしやすいのだ。逆に、それがなければ大した意見もないのに、頑なに反対したりもするから、人の心ってのは本当に厄介で、面倒くさい。

「――というワケで、桃川くんが協力して欲しいそうなんだけど。どうかな、魔物狩りは僕らも普通にやっているし、そのついでだと思えば大した手間でもないだろう。それに、新しい戦力が増えるのは、ボクらにとって大きなプラスになると思うよ」

「おう、そうだな、やってやっか!」

 レイナ抱きしめ要請の話があったからか、山田は真っ先に乗ってくれた。すでにして、鼻息が荒いんですけど、このロリコン。

「あの使い魔を作るってことか」

「まぁ、いいんじゃね?」

「アラクネとか味方にできたら、強いべ」

 これといった反対もなく、スムーズに協力体制は確立された。

 これで、後は素材を集めて作るだけ……なんだけど、本当にこんなパーティで上手くいくのだろうか。不安でしょうがないが、やるしかないのだから、精々、頑張ろう。




「おかえり、レム」

「ガガ!」

 ひとまず呼び出したレムこと『汚濁の泥人形』は、ちょっと懐かしさも感じる、黒いスケルトンの姿。

 ここにはスケルトンは生息していないけれど、その代わりにゴーマの死体は山ほどある。今までゴーマ素材は使えない予感がしていたから、あえて使わなかったけれど、別に全く使えないワケではない。要はスケルトンと同じ程度の素材レベルというべきか、大した効果はもたないから、使う意味がないだけのことだった。

 でも、スケルトンがいなければ、こうして初期モデルのレムを創る素材としては役に立つ。

 今回使用したのは、僕らが撃退したゴーマ中隊にいた、ゴーヴという戦士ゴーマの死体。普通のチビと違って、成人男性と同じ程度の背丈と、発達した筋肉を持つガタイの良いゴーヴは、どうやらスケルトン小隊の隊長くらいには素材としての質は良い。

 あとは、このジャングルで採取した躍動感あふれるポージングのマンドラゴラと、僕の血液を少々。何かと問題になる僕の例の素材は、まぁ、次の機会でいいだろう。

ともかく、レムは姿こそスケルトンのままだが、最新型と同じだけの背丈にはなっていた。完全に初期型のようなチビっ子じゃないのは、素材の効果の他にも、もしかすればレム自身もレベルアップとかしているのかもしれない。

「おおー」

「スゲー」

「召喚魔法みてーだ」

 黒き混沌の沼からズブズブと現れたレムを見て、上中下トリオが素直な感想を漏らしている。

 今回の素材集め、もとい彼らでいうレベリングの魔物狩りは、この上中下トリオが同行することになっている。

 ヤマジュンと山田は、お姫様と一緒にお留守番。基本的に、レイナを一人で残すことはしない。どうせやるんだったら、全員で行動した方がいいに決まっているのだが……レイナは彼らの狩りに付き合うつもりなど毛頭ないようだ。

 アイツが動く時は、次の目的地へ移動する時か、いよいよあの塔がゴーマに占領されて逃げ出す時だけ。

 まぁいい、僕もレイナがいない方が気楽だし。アイツがウロチョロしていると、何が起こるか分からない。余裕で勝てる雑魚戦でも、一転してピンチに陥りかねないからな。いや、敵がいなくても、何かケチをつけられて霊獣に背中から襲われそうだ。

 そうして、僕らは魔物狩りへと出発した。

「――おい、ゴーマいるけど、どうする?」

 メンバー中、最も目端の利く『剣士』上田が早速、敵を発見してくれる。

 当たり前だけど、僕が樋口の取り巻き野郎である上中下トリオと行動を共にするのは、今日が初めてである。そもそも、口を利いたのも初めてかもしれない。

 だから、実は三人の内の誰が上と中と下なのか、割とあやふやだった。

 流石に、ナチュラルにクラスメイトの名前を間違えたら、余計な軋轢を生じる危険性もあるので、事前にヤマジュンから顔と名前を一致できるようこっそりご教授願っている。

 それで、えーと、剣士の上田は、ロンゲの奴だ。顔は三人の中では一番イケてる方だけど、樋口と並ぶとアイツの方が男前ではあったので、所詮はイケメンぶってるフツメンといったところだ。

「ゴーマはコアも出ないし、素材も使えないし、戦うだけ無駄だから全部スルーで」

「だよな。そんじゃあ、頼んだ下川」

「しゃーねーな、いっちょやってやるべ」

 と、自分の魔法の出番にちょっと嬉しそうなのが『水魔術士』の下川。

 下川は三人の中で、唯一、眼鏡をかけてる奴だ。髪はウニみたいなツンツン頭にしているけど、このダンジョン生活の中でもいまだに維持しているのは、恐らくワックスを持っているからだろう。

 三人の中では一番背が低いし、体系もヒョロいから、魔術士系の天職に当たったのは妥当かもしれない。

 ちなみに、道産子でもないにに「だべ」とか言ってるのはコイツだ。

「――『水霧アクア・ミスト』」

 敵と遭遇した場合は、『水魔術士』下川の『水霧アクア・ミスト』という深い霧を発生させて視界を奪う魔法を使うことで、上手く逃走することができる。

『氷魔術士』の長江さんが持っていたという『氷霧アイズ・ミスト』と効果は同じ。横道によって、その能力を体感している僕からすると、この魔法の隠蔽性は信頼できる。正直、僕もこういうの欲しいんですけど。

 術者は霧の中でも視界不良の影響をほとんど受けない仕様らしいので、先導を下川に交代して、僕らは首尾よくゴーマ部隊から離れて行った。

 どう見ても魔法としか思えない、突然発生した霧に包まれても、ゴーマの奴らが騒ぎ出さなかったことを考えると、奴らはこの怪しい霧を自然のモノだと思い込んでいる可能性がある。僕が同じ状況に遭遇したら、絶対、近くに霧を張る魔術士がいると警戒する。

 下手すれば、自らの存在を示すだけになってしまうのだが、この感じなら、ゴーマ相手には深く考えずに使っても良さそうだ。

「けどよー、ゴーマ以外を狙うっつーなら、何がいるよ?」

「猿とかは結構いたよな」

「そうそう、ピョンピョン跳ねるヤツ」

「あー、その猿もあんまり使えないから、スルーで」

 やはり塔周辺はゴーマの縄張りになっているらしく、他の魔物はあまり見かけないという。

「悪いけど、野宿覚悟でちょっと遠出するかもしれない」

「マジかよ桃川」

「こんなジャングルで野宿とか」

「ないわー」

「僕も嫌だけど、何も収穫がなければ、こうして出てきた意味もないよ」

 うーん、どうするべか、と今更ながらに悩み始める上中下トリオ。

「そんじゃあ、ちょっと危ねーけど、川に行ってみっか?」

 と、建設的な意見を提案してくれたのが、『戦士』の中井。

 三人の中では、一番背が高く、ガタイもいい。身長だけなら樋口に匹敵してる、けど、筋肉がついてるのはアイツの方だった。腹筋とかバキバキに割れてたし。

 他に特徴といえば、ヘアバンドをつけてるくらいか。クラスでは単なるファッションでしかなかったけど、前髪が邪魔にならないヘアバンドは、戦闘においては役に立つといえないこともない。まぁ、今でもカッコつけて装着しているだけだろうけど。

 ともかく、きちんと説明されればそれなりに特徴があって見分けがつく三人組なので、一度覚えれば、間違うことはないだろう。

「その川って、もしかして綾瀬さんが水の霊獣でワニの魔物を一網打尽にしたってところ?」

「そうそう、あん時はヤバかったなー」

「レイナちゃんいなかったらフツーに死んでたべ」

 ははは、と笑いごとじゃないのに盛り上がる彼らは、いっそ清々しい。僕もこれくらい馬鹿、もとい、能天気になれれば、人生もっと楽しいのかも。

「ワニは強い?」

「ゴーマよりはずっと強ぇよ」

「結構、鱗が硬いしな。意外と動きも速ぇし」

「まぁ、倒せないほどじゃねーけど、群れてたら無理だわ」

 なるほど、強さとしてはゴアと同程度、雑魚モンスとしては強い方に分類される感じか。コイツの素材は期待できそうだ。

 ワニといえば、地底湖で天道君が倒したボスを連想するけど、そこまで大型の奴は見なかったという。やはり、特別に強かったりデカかったりする奴は、ボス部屋にしかいないのだろうか。

「よし、それじゃあワニ狙いで行こう。とりあえず、倒すのは一体だけで十分だから」

 それなら何とか、というワケで、僕らはワニ型魔物の住む川へと向かった。

 途中、ゴーマを霧でスルーすること二回、無事に目的地へと到着。

 いかにもアマゾン川です、みたいな密林の中を大きなカーブを描いて流れる、茶褐色の水面のそこそこ大きな川だ。泥混じりの水は全く底まで見通せず、何が潜んでいるのか分からない。

「ピラニアとかいないよね?」

「さぁ、大丈夫じゃね?」

 根拠のない保証をくれる上田。全く安心できないんですけど。

「もしかしたら、ワニ以外にもピラニアみたいなヤバい魔物がいるかもしれないから、血を流した状態で川には入らないようにしよう」

 ああいうのって、血の臭いに物凄く敏感だというし。こんな泥混じりの川に住むなら、視界に頼らない感覚器官が発達させているだろう。

 もっとも、それ以前に傷口をこんな汚い水につけた時点でヤバいだろうけど。

「ワニいるかー?」

「これはいないんじゃね?」

 ひとまず、ターゲットであるワニを探してみるが、茶色い川は静かに流れているだけで、水面に動く影はない。

「じゃあ、適当にブラついて探してみっか」

 軽い提案だけど、それしかない。僕らはちょっとダラけた雰囲気で、川を上流に向かうように歩き始めた。

 ここから下流に向かって行くと、ゴーマが利用している橋があるらしい。今は奴らに構いたくないから、通り道には近づきたくない。

 道中、食べられそうな植物などを採取しつつ、歩いていくが、一向にワニが現れる気配はない。せいぜい、鳥が川に突っ込んで魚をとったり、水面を飛ぶ羽虫をジャンプして捕える魚とか、そんなシーンを目撃するだけ。これで純粋にアマゾンにでも観光に来ているなら、十分な光景だけれど、今の僕らにそんな動物たちの自然の営みに感動している余裕はない。

 いいから、さっさと出ろよワニ。でも、大群で現れるのは勘弁してください。

 そんな自分勝手なお願いを無為に考えていた、その時だ。

「――っ!? ヤベぇ、なんか来るぞ!」

 先頭を歩く剣士上田が鋭い警告の声を上げた――次の瞬間だ。


 キョァアアアアっ!


 甲高い鳴き声を上げて、魔物が飛び出してくる。川から、ではなく、密林の方からだった。

「クソっ!」

 川の方向にばかり注意を向けていて、思わず不意打ちのような形になってしまったが、それでも天職を授かった者は強い。

上田は驚きつつも、素早く剣を抜き放ち、奇襲同然に飛び込んできた魔物を迎え撃った。

「ラプターだ!」

「ってことは、他にもいるべ!」

 現れた魔物は、恐竜型だった。ゴアと同じ、二足歩行の小型肉食恐竜のような、というか、本当に図鑑で見たのとほぼ違いがない姿をしていた。ゴアは頭が大きく、角ばってゴツく見える体格だったけど、コイツはストレートに恐竜らしいシャープな細身だ。

 ジャングルに生きるための保護色なのか、深い緑色。茶褐色の模様のようなモノが混じっていて、迷彩柄によく似ている。鋭い爪と牙を備えているが、分厚い甲殻と鱗に守られたゴアと比べると、まだ刃は通りやすそうだった。

 一応、この密林に出現する魔物として、ヤマジュンからさらっと説明は聞いていたけれど、なるほど、コイツが小型の地竜種の代表というらしい『ラプター』なのか。

「おら!」

「でやぁ!」

 経験のある相手だからか、前衛役の上田・中井コンビは恐れることなく素早く反撃に移る。振るわれた刃は緑の鱗を裂き、出血を強いるが、浅い。

「『黒髪縛り』、『蜘蛛の巣絡み』」

 ラプターはゴアと同じく群れで狩りをする。最初に現れたラプターに続き、すでに二頭、三頭、続々と後続が川辺へと姿を現している。多分、数は向こうの方が上だから、囲まれて一気にかかられるとまずい。

 だから、とりあえず僕は即座に発動できる呪術でもって、一頭でも多くの足止めを図る。

「ギャオッ!」

 鋭い声を上げながらも、ラプターの足が止まる。

 よし、ラプターは僕の『黒髪縛り』と『蜘蛛の巣絡み』、どちらも普通に足を絡め取ることに成功している。一気に引き千切れるだけのパワーがなければ、絡みつく黒髪の束も、ベタつく蜘蛛の巣も、振り払うには苦労するだろう。

「――『水壁アクア・シルド』!」

 どうやら、数に勝る相手の足止の考えは下川も同じらしく、彼は攻撃よりも防御魔法による敵の行動の妨害を選んでいた。

「よっしゃ、行けるぞ――『一閃スラッシュ』!」

「喰らいやがれ――『一打スマッシュ』!」

 僕が動きを封じた二頭に対し、武技をクリティカルヒットさせて確実に息の根を止める、剣士と戦士。

 後続は水魔術士の防壁によって上手く追撃をかけられない。それでも、素早く回り込もうとする奴には――

「ガガ!」

 鋭く槍を繰りだすレムが、体を張って止めてくれる。

「広がれ、『腐り沼』」

 その間に、『腐り沼』を展開させてラプターが動き回る足場を奪い、さらにいつもの如く黒髪触手を生やして、毒沼へと引きずり込もうと蠢き始める。

「キョアッ! クエ、クエッ!」

 そこで、リズムの異なる高い鳴き声が森の中から響く。

 すると、即座にラプター達は踵を返して、バタバタと再び密林の奥へと消えて行った。

 群れのリーダーが不利と断じて、撤退を指示したのだろう。見事な判断と、迷いのない素晴らしい逃げ足だ。

「ちいっ、逃げられたかー」

「もうちょい行けると思ったんだけどよ。この斧、スゲーいい感じだし」

 ひとまず戦闘が終了したことで、前衛二人組が警戒を解いた。

 戦士中井が使っている斧は、実は芳崎さんのモノだ。レムはブレスでやられたけれど、寸前でジュリマリの贈り物である槍と斧を放り投げて、破損だけは避けていた。

 ただのスケルトン状態に戻ったレムでは、戦士用の斧を素早く振るえるほどのパワーはないから、中井に貸すことにしたのだ。野々宮さんの槍は、そのまま今のレムが装備している。

「予想外だったけど、ちょうどいい獲物がとれたよ」

 ラプターは素早く逃げて行ったが、それぞれの武技を受けて、二頭分の死体は残っている。

「ワニはいいのか?」

「うん、ラプターにするよ」

 決して強い魔物ではないけれど、密林の中を音もなく素早く駆け抜けるラプターの機動力は魅力的だ。鋭い爪と牙を備えた肉食恐竜の姿は、攻撃力の面でも及第点だし。このジャングルというフィールドを思えば、ワニよりも使えるかもしれない。

 というワケで、アラクネの後継機はラプターに決まった。

 よーし、帰りはコイツに乗って行こう。人は一度、楽を覚えると忘れられないものなのだ。

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