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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第9章:魅了
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第104話 中嶋陽真

 彼の名前は中嶋陽真。どこにでもいる普通の男子高校生――だが、これといってケチのつけようはない平凡な顔立ちに、勉強も運動も、遊びや流行りも一通りこなす彼は、総合的に見れば普通以上といえよう。

 交友関係も広く良好。女子との接点も多少はある。クラスの中では、目立ちすぎることもなく、かといって空気ということもない。

 そんなバランス感覚に優れた平凡男子である中嶋陽真は「どうしてこうなった」、と、もう何度目になるか分からない無意味な自問を繰り返していた。

 とりあえず、ある日突然の異世界召喚でダンジョンサバイバルという現状は、この際もう事故みたいなものだと思って割り切れる。巻き込まれたものは仕方がない。納得できないが、目の前にある現実から目を背けることはできないのだから。

 戦うことにも、少しだけど慣れてきた。

 天職『魔法剣士』、それが自分に授けられた力である。


一閃スラッシュ』:斬撃攻撃力強化。


火矢イグニス・サギタ』:火属性下級攻撃魔法。


疾駆ハイウォーク』:移動速度強化。


 接近戦用の武技、遠距離攻撃の魔法、高い機動力を得た脚。素人の男子高校生が魔物と正面切って戦うには、十分な性能を誇る初期スキル構成。あとはほぼ、自分との戦いであった。

 中嶋陽真は、恐怖に立ち向かう勇気があるわけでもなければ、あらゆる行為を必要と割り切れば淡々と遂行できる冷酷さもない。怖いものは怖いし、余計なことに心を囚われたりもする。つまりは、ごく普通の精神性しか持ち得ていない。

 それでも、この突如として放り出されたダンジョンの中で、天職の力を使い、一人でダンジョンを歩き始め、立ち塞がる魔物と戦い、倒して進むことのできた彼は、普通よりも立派と呼んでもいいだろう。中嶋陽真は正しく知恵と勇気を振り絞って、ダンジョン攻略に挑んでいた。

 だが、そんな姿勢も、ついこの間までの話である。

「陽真くぅーん、大丈夫? 怪我、してない?」

「いや、僕は大丈夫だよ、愛莉、特に怪我はしてないから」

「ああぁーっ、ヤダっ、この手のところ、擦り傷みたいになってるぅ! 陽真くん、すぐに私が治してあげるからね――『微回復レッサーヒール』!」

 スケルトンとの戦いを終えた陽真に、甘い声ですり寄って来ては、その手をとって小さなかすり傷にわざわざ治癒魔法をかけるのは、最初に辿り着いた妖精広場で出会ったクラスメイトの女子、姫野愛莉である。

 男の自分でも怖いダンジョン攻略を、まして女子である姫野が立ち向かえるはずがない。絶望の悲しみに泣き暮れる彼女を見て、陽真はすぐに事情を察する。

 ひとまず、出会ったクラスメイトと協力しない理由はない。後に脱出人数が三人という衝撃的な制限の情報を知ることになるが、現状、自分と姫野の二人きりであることから、今すぐ解散する必要性もなかった。

 故に、何となく、ごく自然に、当たり前のように……中嶋陽真は、姫野愛莉を守るナイト様になったのだった。

「はい、これでもう治ったよ」

「あ、ありがとう、愛莉」

 ギュっと手を握られながら、潤んだ瞳の上目使い。男の陽真でも、あまりにあざとい仕草だと感じてしまう。

 これでレイナ・A・綾瀬や小鳥遊小鳥のような、小さ目の美少女にされたら完全にヤラれてしまうが、平均以下、顔面偏差値40といったところの姫野愛莉にやられても、陽真としては対応に困るばかりである。

 そもそも、姫野愛莉ってこういうキャラだっけ。

 特にクラスで接点はなかったが、地味で大人しい、ひたすら目立たないタイプの女子だったというイメージがあるし、それはきっとクラス全員の共通認識のはず。決して、下手なギャルゲーのヒロインみたいに、不自然なほどに男に媚を売るような態度のキャラではない。

 だがしかし、姫野愛莉の命を守って戦うこの現状を思えば……単刀直入に言って、愛莉が陽真に惚れてしまうのは、半ば当然といってもいい。

「はぁ……」

 それを素直に喜べない、複雑な男心もある。正直、姫野愛莉は全くもって好みのタイプではない。好みとかどうとか以前に、彼女はどちらかといえばブスよりで、容姿を重視するならそもそも選択肢にも上がらない類の女子だ。

 そして何より、中嶋陽真には好きな女子がいた。

「長江さん、大丈夫かな……」

 長江有希子のことが、好きだった。一年の頃からずっと。

 地味で大人しくて目立たない、というキャラでいえば姫野愛莉と似ているが、その儚い文学少女的な可愛さに、陽真は一年で同じクラスになったその時から心惹かれてしまった。

 少しでも接点が持ちたくて、同じ文芸部に入ろうかどうか、悩んだ挙句に、流石にあからさま過ぎて止めておこうと諦めた瞬間、平気な顔で文芸部に入部した男子の桃川に対し、筋違いの恨みをもったこともあった。いや、この際それはいい、桃川は本気でライトノベルを書きたい類のオタクで、長江さんと全く接点がない様子から、彼を恨んで羨む必要は全くなかった。

 結果的に図書委員となって、図書室で定期的に長江さんと本について話ができる立場を確立したことで、ひとまずお近づきになれたと満足している。

 クラスの男子は蒼真桜を筆頭とした美少女軍団に目を奪われているが、長江有希子の魅力に気づいているのは自分一人であり、全く男の気配がない彼女に近づいているのも自分だけであり、遠からず告白して――と、甘い青春の夢を思い描いていたものだが、今、陽真の隣で寝ているのは姫野愛莉であった。

「……はぁ」

 妖精広場の片隅で、肩を寄せ合うように自分と愛莉は寝ている。文字通り、ただ寝ているだけで、それ以上のことは何もない。まだ、ない。

 この妖精広場という安全地帯で休息をとっていても、怖いと怯える姫野愛莉が「お願い、一緒に寝よ、陽真くぅーん」と媚びた態度でお願いしてくるので、無碍に断ることもできず、こんな状況となっている。

 すぅすぅと小さな寝息を立てる愛莉を見下ろすと、やっぱり大して可愛くもない寝顔がそこにはある。

 これで隣にいるのが長江有希子だったら、と何度も何度も思ってしまう。出会ったのが愛莉ではなく有希子であったら、きっと自分はもっと奮闘していただろうと確信もしている。

 僕が本当に好きな人は、長江さんなんだ。姫野愛莉のことなんて、何とも思っていない。いくら、彼女が甘い声で自分の名前を呼ぼうとも、初めて女子を名前で呼び捨てで呼んでも。絶対に、きっと、姫野愛莉が中嶋陽真の特別になることなど、ない。

「うっ、うぅ……」

 そのはずなのに、男の本能が反応してしまう。

 多少アレでも、クラスメイトの女子が無防備に自分の隣で眠っているこの状況。愛莉の好意をわざとらしいほどのアピールで受け続け、彼女は見え見えの罠で自分のことを誘っている。

 冗談じゃない、僕は揺らがない。浮気なんて絶対しない。

 付き合ってもいない憧れの女子に対して操を立てる決意はしかし、ダンジョンサバイバルという極限状況下に置かれた男の肉体が反旗を翻す。

 男は死の危険に直面すると、一刻も早く子を残そうとして性欲が増進する。そんな説を何かで聞いたことがある。

 たとえその説が間違っていたとしても、ダンジョンに来てから三日以上、ただの一度も自慰行為をしていない、する暇も心の余裕もなかった陽真の体は、平和な学生生活を送っていた頃とは比べるべくもないほど高ぶってしまっているのは確かな事実であった。

 そこへさらに、魔物との戦い、という強い興奮状態となる出来事が重なる。普通を地で行く陽真は、黒高ヤンキーのように血気盛んなこともなく、心の内に殺人欲求や破壊衝動を秘めた異常性なんてのも持ち合わせてはいない。だが、一人の男である以上、それ相応の闘争心というのも存在する。

 この手で魔物という敵を打ち倒す時、そこには確かな快感がある。自分の命を守るため、自分が生き残るため。正当な理由と共に、純粋な暴力の快楽が伴う。

 そんな戦う男の隣に、いつでもどうぞと誘う女がいれば……

「ね、寝よう……明日もダンジョンを進まなきゃならない。ちゃんと寝て、休まないと……」

 煩悩を振り払うように、陽真は無防備な寝顔を晒す愛莉に背を向けて、固く目を瞑った。

 興奮とは別に、体にまとわりつく確かな疲労感が、さほど時間をかけずに陽真を眠りの世界へと導いた。

「……もうそろそろ、いいかな、陽真くん」

 背中越しにかけられた囁き声は、すでに眠りに落ちた陽真の耳には届かなかった。




「ねぇ、陽真くん、今日はお休みにしようよ」

 気だるい体を起こし、疲労感の抜けきらない陽真に、愛莉が心配そうに言いだした。

「えっ、でも、先を急がないと……」

「うん、だけど私、陽真くんの方が心配なの!」

 過剰なほどの気遣いの言葉。

 しかしながら、疲労の回復しきっていない状態で、ダンジョン攻略に乗り出す危険性も確かにある。大した装備もなければ、準備のしようもない現状で、唯一できることといえば、魔物との戦いに備えて万全のコンディションを整えることくらい。

「ね? だから今日は、お休みにしよ?」

「そう、だね……それじゃあ、一日休むことにするよ」

 心も体も、休息が必要だと陽真も思った。

 愛莉と共に行動することで、孤独は紛れるし、彼女を守らなければという男らしい使命感で闘志も湧く。それに『治癒術士』の彼女がいるから、多少の負傷も問題ない。

 しかしながら、魔物との戦いを恐れる愛莉は、『光矢ルクス・サギタ』という立派な攻撃魔法を持ちつつも、ロクに戦闘に参加することはない。逃走する時に『閃光フラッシュ』を放ってくれれば御の字、といった程度の貢献度。

 故に、陽真一人に戦闘の重責が圧し掛かる。疲労が溜まってしまうのも当然の結果であった。しかし、そのことを面と向かって愛莉にケチをつけない、仕方がない、責めようという気がおきない陽真は、まだ多少の余裕があるともいえた。

 戦いは大変な仕事だが、スケルトンや赤犬くらいの魔物なら、十分に対応できる。魔物の弱さに、救われている部分も大きい。

「ねぇねぇ、陽真くん、膝枕してあげよっか?」

「えっ、い、いいよ別に……」

「遠慮しなくていいから、ほらほら、おいでー」

 いやほんとマジで嬉しくもなんともない、けど、愛莉の勢いに流されて、陽真は半ば強引に膝枕に持ち込まれる。

「どう?」

「あ、うん……いい、かも」

 残念な容姿レベルの姫野愛莉だが、それでも女は女。ふとももの温かさと柔らかさには、抗いがたい魅力を感じてしまう。まして、つい昨晩は必死に煩悩を押し殺して眠りについたものだから、こんなことをされればまとムラムラと湧き上がってしまうのも致し方ない。

 気持ちいい、が、生殺しみたいなものだった。

「陽真くん、いつも私のこと、守ってくれてありがと」

 好きでもない女から、笑顔でかけられる甘い言葉は、受け取っても困る苦しいもののはずなのに、どこか心地よさを感じてしまうのを、陽真は否定しきれなくなってきた。

 その日、愛莉は片時も陽真の傍を離れず、膝枕をはじめとしたスキンシップ攻撃を繰り返した。特に意味もなく、手を握って来たり、抱き着いたり。けれど、その一つ一つはここ最近、彼女と出会ってから何度もされてきたことで、わざとらしいほど執拗にベタベタされても、最早、違和感を覚えなくなっていた。

 そうして麻痺した感覚のまま、今日も陽真は愛莉と共に寝る。昨日と同じ、広場の隅。光がほどよく遮られる、大きな妖精胡桃の木の下で。

「陽真くん、まだ起きてる?」

 気を遣うように、小さな囁き声。そのくせ、吐息が耳にかかるほどに、近い。

 横になってからややしばらく、今夜も煩悩を振り払うかのように愛莉に背中を向けていた陽真に、不意打ちのようなタイミングで彼女は声をかけてきた。

 いや、かけてきたのは、声だけではない。

「あ、愛莉っ!?」

「ごめんね、少し、このままでいさせて……」

 背中全体に密着する温かい感触は、振り向かなくとも、後ろから抱き着かれているのだと分かる。そっと優しく、いじらしく、体を寄せては、ゆるく腕を絡ませる。勝手に抱き着いてきたくせに、か弱い態度でお願いされれば、陽真はとても振り解けない。

「いや、うん、別に、いいけど」

「ありがとう、優しいね、陽真くん」

 ちょっと、抱き着く力が強まった。これ以上は、適当な相槌さえも危険な気がすると、陽真は静かに息を呑む。

「私、怖いの……明日になったら、また、ダンジョンを進んで行くのが……」

「そ、そうだよね、俺も怖いよ。怖いけど、進まないと帰れないから」

「うん、戦うのも、進むのも怖いけど……でも、私、陽真くんが危ない目にあうのは、もっと怖いの!」

 何言ってんだコイツ、と冷静に落ち着いた時に聞けば即レスできたはずなのだが、しかし、この愛莉の台詞を聞いた瞬間、陽真はついうっかり、不覚にも、ちょっと嬉しかった。

 心のどこかで、愛莉は都合よく自分だけを戦わせて、盾にしているだけなのでは、と考えてしまっていた。

 それでも、自分の身の安全だけでなく、陽真のこともちゃんと気にかけて心配する気持ちがあった、戦う役目を押し付けることに負い目を感じているのだと、そう思えたことで、今までの戦いの苦労も多少は報われた気がした。

 単なる演技だろ、という当たり前の可能性すら、今の彼には思い浮かばなかったのだ。

「陽真くんのことが心配で、陽真くんが傷つくのがすっごく怖くて、もし、私でも治せないほど怪我しちゃったらどうしようって……」

 どれほど健気に身を案じていようとも、愛莉が陽真一人に戦いを押し付けているのは、紛れもない事実である。

「いや、まぁ、大丈夫だよ、多分……愛莉がちゃんと治してくれるし、本当に危ない時は何とか逃げるから」

「うん、うん……ごめんね、陽真くん……もっと、私が力になれたらいいんだけど、でも、私、魔物が目の前にいると、怖くて、とっても怖くて、手が震えて止まらないの!」

「いいよ、そんなこと気にしないで、仕方ないって。愛莉は、その、お、女の子だし……魔物と戦うとか、無理なのはホントにしょうがないって思ってるから」

 陽真が絶対に文句を言いだせない流れを作ってから、戦えない言い訳を切り出す愛莉のズルさに気づかないのは、現在進行形で密着されて理性が揺らいでいるからか。

 女子に抱き着かれて、ドキドキと鼓動が高鳴る高揚感と同時に、好きでもない相手にそれをされて感じていることに対する自己嫌悪のせめぎ合い。

 少しでも平静さを保とうと、愛莉の言葉に集中しているはずなのに、彼女の温もりばかりが気になって仕方ない。

 早く終われ。いや、終わるのも惜しい。

 どっちつかずの感情は、いつもなら結局は睡魔に負けて終わるのだが――

「ありがとう、陽真くん。私、戦うのは無理でも……もっと、陽真くんの力になりたいなって、思うの」

 今夜は終わらない。否、これから、始まるのだ。

「えっ、ちょっ、愛莉、えっ」

「えへへ、陽真くーん」

 スルリ、と蛇のように陽真の下腹部へと愛莉の手が滑り込む。脇腹をくすぐるように通り抜け、ゆっくり撫でるように腹部を過ぎ、さらにその下へ――

「いやっ、待っ、ええぇ……」

 そこに触れられた感覚に、思わず口から情けない吐息が漏れる。ゾクゾクと快楽が背筋を駆け昇って行き、体は硬直し、愛莉の触れたソコはさらに硬く、熱く、いきり立つ。

「ねぇ、私にして欲しいことない?」

 弄ぶように、愛莉の掌は陽真の股間を撫でまわす。

「陽真くんのためなら、何でもしてあげるぅ」

 つかず離れず、生殺しのような手つきに、禁欲状態で脆くなった理性が溶かされてゆく。

「だから、教えてよ、陽真くんが私にしたいこと、私にして欲しいこと」

 最早、葛藤する意味すら見失う。自分は何をこんなに我慢して、抵抗しているのか。愛だの恋だの、くだらない。男と女が二人きりで寝ているこの状況で、何もしない方がどうかしている。

 何がいけない、何が悪い。男は女が欲しいし、女も男が欲しい。この行いが罪だというなら、誰か助けてくれよ――だって、ここには僕と愛莉の二人しかいないのだから。

「あ、愛莉……」

「うん、なぁに?」

 振り向いた先で微笑む彼女の顔は、何故かいつもよりずっと綺麗に見えた。

 愛してはいない。けれど、欲しいと思った。

「愛莉、愛莉っ!」

「あん、いやーん」

 性欲に流された哀れな少年を、少女はその身で受け止めた。




「いやー、男ってチョロいわぁー」

 初体験の感想がソレだった。自分にはしばらく、もしかすれば一生、縁がないと思っていた行為だったが、終わってみれば大したことはない。

 そして、そんな『大したことないコト』だけで、男という存在は喜んで尻尾を振って尽くしてくれる……これまではリア充だとかビッチだとか、男に媚びた態度の女性を忌み嫌い蔑んできたものだが、愛莉は彼女達の真意が初めて理解できた。

 そして、女の武器を使いもせずに、ただ何となく縁がないと言い訳しては男を遠ざけ、積極的に近寄ろうともしなかった、これまでの、そう、呑気に学園生活を送っていた自分が酷く愚かだったと悔やんでしまう。

「ふふ、あはは、あーあ、ホントに馬鹿みたい」

 以前の私も、こんな平均以下の女を必死に求める中嶋陽真も。

 でも、これが正しい男女の在り方。人間という生物の真理なのだと、愛莉は心の底から悟った。

「これで、陽真くんは私のモノ。自分から手を出したんだから、ちゃんと責任、とってよね?」

 意地の悪い笑みを浮かべながら、隣で眠る裸の陽真の頭を撫でる。

 既成事実。この先、もし他のクラスメイトと合流することがあっても、陽真は愛莉から離れることはできない。たとえ、彼の本当の思い人である長江有希子が現れたとしても、彼女に近づくことさえできはしない。

 男女の関係を結ぶ、という事実は、それほどまでに強固な心理的強制力を持つ。特に、日本人の学生の恋愛観ならば。

 逆に言えば、セックスさえしなければセーフ、という側面もある。だからこそ、愛莉は陽真に抱かれなければならなかった。彼を、今後もずっと自らを守り、尽くす、手駒として持ち続けるためには。

「それじゃあ陽真くん、明日からまた、ダンジョン攻略、頑張ってね」

 一つの目的を達成した満足感と共に、愛莉は陽真に寄り添うように眠りについた。


「――愛されたい?」


 夢の中で、愛莉は声を聞いた。


「男の子に愛されたい? 素敵な男性に尽くされたい?」


 深夜アニメのヒロインみたいに、わざとらしいほどに可愛らしく甲高い少女の声音。普通の女性なら耳障りと感じるソレも、不思議と耳に心地いい。


「バカなオス共を、いっぱいいっぱい従えたい?」


 ぼんやりと霞がかった視界、淡いピンク色の怪しい霧の向こうに、声の持ち主と思しき女性のシルエットが浮かぶ。


「うんうん、いいよ、叶えよう、みんな叶えてみよう!」


 自分よりも、小柄で華奢な少女には、鞭のような長い尻尾と大きな蝙蝠の翼が生えていた。安直な女悪魔のような人影は、今にも見失ってしまいそうに揺らいで見える。


「ようこそ、アナタは私達の眷属――『淫魔』でーっす!」


 眷属『淫魔』


吸精ユメミルチカラ』:エッチして力を吸い取っちゃう。ごめんネ、ちょっとだけだから?


共感カサナルキモチ』:アナタもワタシも気持ちいい。だから、エッチなこといっぱいしよう!


甘言アマイコトバ』:まずはお話して仲良くならないとね? 心地いい言葉で酔わせてあげる!


 体の中に、熱いナニかが注ぎ込まれるような感覚に、身もだえしながら絶叫を上げているはずだが、自分の体の感覚さえも判然としない。熱いのか、痛いのか、気持ちいいのか。自分の身に何が起こっているのか全く分からない。

 だが、不思議なほどに強い確信だけがあった。

 ああ、これがきっと、私のあるべき姿なのだと。

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― 新着の感想 ―
これ、抗えるリアル高校生男子居るんかな、、、? 強すぎるだろ、、、
[一言] 強すぎる……
[良い点] 本当に、天職「淫魔」が有るんかい!?
感想一覧
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