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個ではなく



 聖剣の手がかりがあるとされている無人島は、何もない山だけが聳える場所だった。まるで守るように立ち塞がる魔物を倒しながら頂上へ向かうと、急に道が開け、神殿のような白い建物が現われた。建物自体は大きなものでは無かったが、一目で特別な場だと分かるような、一種独特な空気があった。


 そこでは、聖獣と呼ばれる存在が立ち塞がる。聖獣はかつて人間の希望であった先代の勇者に頼まれ、聖剣の鞘へ辿りつく為の手がかりを守り続けてきたらしい。

 その聖獣に辛勝を上げれば、聖獣はフラムに緑色のまん丸とした石を授けた。それが、鞘が隠されている場所の鍵となるそうだ。全部で六つ存在し、あと五つ、今回と同じように聖獣を退け、鍵となる石を手に入れなければならないらしい。


「ヴィオラとレドは、どうやって知り合ったの?」


 その帰りの山を降る道中で、フラムは彼らしい邪気のない表情でそう尋ねてきた。どう答えたものかとすぐ後ろを歩いていたレドを振り返り、じっと見詰めれば彼は自身の顔をその両手で覆い隠した。


「何をじっと見つめているのですか、ヴィオラ様。もしや俺に見惚れて……」

「寝言は寝てから言え。まだ陽は高いぞ」


 自惚れ甚だしい言葉に無性に苛立ちを感じたが、それを露わにしたところでレドはまたもふざけた事を口にするだけだ、と容易に想像がついた。何とか気持ちを宥める。少し考え、フラムの問い掛けにはある程度正直に答える事に決めた。嘘を吐くときのコツは、必要以上の嘘を吐かない事だと心得ている。


「レドが魔族に襲われているところを私が助けてな。それ以来、よく仕えてくれている」


 そして、あまり深く突っ込まれるとボロが出そうなので、話しの水を相手に向ける事にした。


「君たちは?旅に出る前からの知り合いなのか?」

「えーと、リアはそうだよ。俺の家のお向さんで、ほとんど生まれたときから一緒でさ、ずっとリアには迷惑させられてきたんだ」

「あっ、こらフラム!それは私の台詞でしょー!」


 聞き捨てならない、と道を塞ぐ魔物に魔法で攻撃をして追い払ったリアがこちらを振り返る。聞けば二人は同い年らしく、揃って無邪気で活発な明るい性格をしており、年齢以上に幼く見えるときがあった。こんな子どもが勇者とは、俄かに信じがたい。


「ユノはね、聖剣に仕える特別な神官で、王都じゃ有名人だったんだよ。『聖剣の乙女』って言われてたんだ。ちょっとした冒険のつもりで聖剣を抜きに行ったら、一番に見付かっちゃった」

「ヘリオドールはあんなのだけど、えらーい貴族様なんだよ。二人ともこんな機会がなきゃ、一生話す事はなかったと思う!」

「おいおい。あんなのってどういう意味だよ、リア」


 前を歩いていたヘリオドールが振り返れば、こわーい!と茶化しながらリアがきゃらきゃらと笑う。ヘリオドールも特別に不快に思っている様子はなく、不満げな顔は見せたがそれ以上何かを口にする事はなかった。


「アルバは傭兵とかしてたみたいだけど、五年くらい前に生き倒れてたのを助けた事があって、それ以来王都に来ると顔を出してくれてたんだ」


 フラムがそう言うと、いつも寡黙なアルバが少しばかり苦笑を浮かべる。


「懐かしいが、情けない話なのであまり言ってくれるな」


 いいじゃんか、と悪戯っぽく笑うフラムはまるで保護者に甘える子どもそのものだった。とても勇者には見えない。

 それぞれの会話を微笑んで見守っていたユノが、くすくすと彼女らしい静かな笑みを漏らす。


「ヴィオラさんとレドさんもですけれど、今こうして会話をして、共に旅をしているのが、奇跡のようですね」


 人間は、お互いに干渉し合い、何かと関わりを持とうとする生き物らしい。それでも、住む土地や立場が違えば、おいそれと言葉を交わす事もできない。それを思えば、確かに奇跡のような状況だろう。特に、私達は魔族とそのペットだ。本来ならば、交わすのは言葉ではなく、刃であったはずだ。


「俺さ、何回か本気で死ぬって思ったし、責任重大で俺には務まらないって思ったこともあるけど、勇者に選ばれてよかったなって思うよ。今は、ちゃんと役目を果たしたい」


 フラムが笑う。彼らしい何の翳りもない顔で。


「仲間に恵まれて、素直によかったなって思ってる。どんな事も、一緒なら乗り越えられるってさ」


 彼の笑顔の理由が、私には理解が出来ない。困難が訪れたとき、それを乗り越えられるかどうかなんて、結局は本人の技量による。それなのにフラムは、否、フラムだけではなく彼らは、誰かが共にある事に特別な強みを感じているのだ。


 弱く、無力で浅はかな人間の、それが知恵なのかもしれない。個では無く群の力を磨く事で、きっと彼らは今日まで滅ぼされる事無く生き繋いで来たのだ。それが人間のしぶとさ、強さ。油断をすれば足下を救われるだろう。

 そう考えて、彼らのそばで、私はそっと息を潜めていた。



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