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003 決意 ~この世界で強くなる~


「姉ちゃん、<冒険者>のくせに臆病なんだな!」

「むー、わ、私もさ、頑張ればできる子なんだよー」


「いいっていいって! オレが姉ちゃんを守ってやるって」


 莉愛は複雑な気分になった。目の前のツンツン髪の少年は恐ろしく強かった。たったひと蹴りであの恐ろしい熊を倒してしまうのだから。


 だが、どう見ても彼は小学生くらいだ。これがせめて高校生くらいならば、「イケメン発言きたー」と莉愛は叫んでいたところだろう。


 少年の装備を見ると、全然サイズが合っておらず、ワラで詰め物をしたり、紐で縛ったりしている。しかし、どれも幻想級なのではないかと疑いたくなるほど美しく輝いている。そのためか、どうにも体より大きなランドセルを誇らしげに身につけた新入学児童のイメージが払拭できない。

 

「姉ちゃん、善い<冒険者>なんだろ」

「むー?」


「長老言ってたぜ。悪い<冒険者>が村を襲いに来るかもしれないって」


 莉愛は少年らしい単純な二元論で物事を把握しているのを危惧した。が、それをいうなら自分はこの世界を全く把握していないじゃないかと反省した。今のままでは善いも悪いもない。ただの弱い(・・)<冒険者>だ。



「強くなりたい」


 この瞬間が、莉愛にとって冒険者サクラリアとしての目覚めだった。

 少年はニカッと歯を見せて笑った。


「オレはヴィバーナム・ユイ・ロイ。<古来種>になる男だ」

「ぶはっ」


「なんだよ! オレの名前そんなおかしいか」



 少年は真っ赤になって怒った。

 彼を凝視するとステータスモニタが現れ、<ヴィバーナム・ユイ・ロイ>という名と<大地人>という肩書きが表示される。


 名前ではなく、(大地人が古来種になる?)と笑ったのだが、どちらにしても失礼であったことは間違いない。


 サクラリアは素直に謝った。そして、手を握った。少年の手は温かかった。大地人だからと見くびっているから自分は弱いのだ。強くなるにはこの少年から学ばなければいけないことも、きっと多くあるはずだ。



「よろしくね、ユイ」

「うわ、姉ちゃん。変な略し方したな。ま、いいや」


 少年と同じキシシという笑い方をサクラリアはしてみた。この世界で強くなることを胸に誓いながら。



■◇■


「こら、ヤクモ! おとなしくすわってなさい」


 禿姿の少女の額には角が生えている。

 ハギの声が耳に入っているのかわからない表情で、三歳児のように駆け回る。

 その赤い服の少女を追って走るハギの肩で、鸚鵡と尾長鶏をかけあわせたような鳥がケケケと笑う。



「ハトジュウ。ヤクモを捕まえてもらえませんかねえ。ココ、ナカスの街のゾーン外なんですよねえ。ほーら、柄の悪いお兄さんにぶつかった」

 


 赤い服の少女はものも言わずに帰ってくる。ぶつかった相手は、腕も足も丸太のような男で、おそらくは<武闘家>だ。

「おい、コラ。おい、そこの法儀の男! お前だよ、お前」



 数メートルは離れていたと思うが、<ワイバーンキック>でも使ったかのように、一気にハギの前に立ちはだかった。

 その太い棍棒のような腕が顔面でも入れば、「防御力が紙同等」と言われている法儀族のハギにはひとたまりもない。連撃が自慢の武闘家であるから、瞬きの間に神殿送りということもありうる。



 頭の中で式神を送り出すタイミングを計算する。

 (ハトジュウで目をくらましている間に、ヤクモに自分の身代わりをさせる。移動系の特技がまったくないのが痛手だが、ゾーンに戻るあいだに<禊の障壁>は展開できるだろう。ともかく撤退の一手だ)

 しかし最大の武器がある。

 大人なハギができる最高にして最大の武器を放った。


「どうも、申し訳ありません。まだまだ使役に不慣れなもので!」

 すなわち謝罪。これは社会人として身につけた技である。



「お前が面倒見ねえで誰が面倒見んだよ! 保護者なら手ぇつないで歩きやがれ! ここはPK流行ってるやべぇところなんだぞ! こんな可愛い嬢ちゃんほったらかしにしやがってよう! おい、わかってんのか」


「至らぬもので、どうも申し訳ございません」


 武闘家は、さらさらな髪をわしっとかき上げ、その手をハギめがけて振り下ろす。ハギの鼻先に太い人差し指が止まる。


「はん! オレ様に出会ったことに感謝するんだな」

「それは、どうも。あの、あなた様のお名前は」

 

 ハギはどこまでも卑屈な態度を崩さない。これが営業で身につけた力だ。

 <武闘家>はすっと胸を張るようにして不敵な笑みを浮かべた。 


「オレは<ブリガンティア>のヨサクだ。ステータスを目に焼き付けやがれ。いいか、オレは<妖精の輪>を使って<エッゾ>まで行ってやる! たとえ何年かかってもな。そうだ、お前も連れて行ってやろうか」


「寒いのは苦手でして」

「はん! しょうがねえな。嬢ちゃん大切にしろよ。あばよ」


 そう言い残して嵐のように去っていった。



「意外にいい人でしたねえ」

 

 ヤクモが物言いたげに顔を見上げている。

「ハギ、カッコワルイ」



 式鬼にまで卑屈さを馬鹿にされた。はじめて言葉を覚えてからこればかりしか喋らないが、使いどころを誤ったことがない。

 しかし、式神が言葉を覚えるというのは<エルダーテイル>時代にはなかった設定だ。これも拡張パックの影響だろうか。


 肩のハトジュウがケケケと笑った。

よーし、これから毎日0時にアップするように設定してみる!

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