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012 合流~生き残るには強くなるしかない~


 サクラリアとたんぽぽあざみは抱き合って再会を喜んだ。

「うぉあああん! アタシ死ぬかもって思ったよー。リアー、もっとぎゅってしてー! なでなでしてー」

「あざみちゃん、一人でここまできたなんてすごい!」


「うあああぉぉん、こわかったよー。いい子いい子してー! あとずっと、おんぶして歩いてー」

「調子に乗らないのー、もうー。でもよかったあ」


「ああ、このぬくもり。オフ会以来だわー。っていうか、リアの姿、全然リアルと変わんない! この世界じゃ黒髪サラつやヘアなんてそうそう拝めないもの、ありがたやー」

 

 がばっと埋めていた顔をあげて、あざみはサクラリアの顔をまじまじと見つめた。

「なんか今落ち込んでない? いや、絶対落ち込んでる。そんな顔」


 サクラリアは表情を読まれるのを避けるように、あざみの手の中からすり抜け、ユイとヨサクを紹介しようとした。

 しかし、気まぐれ気質なあざみの方が先に動いた。

「ああああああ! 私を置いてきぼりにしたサラ髪マッチョ!」

 ヨサクは腕組みを解かずに、手のひらを上げてみせる。


「よう狐女、奇遇だな。それともオレ様を追いかけてきたのかい」

「追いかけようにもどこをどう消えてったかもわかりゃしない!」

「そいつは熱烈だ。でも手を出したら膾にされると思ってたが」


「か弱い乙女が身を守るのに吐いた強がりくらい見抜きなさいよ」

「一人であの村から旅した女をか弱いとは言い難いねえ」

 お互いに悪態をつきながらもどこか楽しそうなやりとりである。


 それを見てユイはサクラリアに話しかけようとした。しかしサクラリアはいつの間にか皆から離れ、護岸用の石垣の上に腰を下ろしていた。ユイは歩み寄り、その横にちょんと座る。先に話しかけたのはサクラリアの方だった。

「なんで、ユイはそんなに強いの?」

「<古来種>になるためには、負けてられねぇからな」


 具体的な答えを求めているようではなかったので、ユイはその気持ちを汲んであえて曖昧に言った。逆に聞いた。

「姉ちゃんだって、レベルはあがったろ? それじゃだめなのか?」 

「敵に勝つためにはレベルも大事。でもこのままじゃ自分に負けそう」


 サクラリアを支配しているのは無力感である。「ユイとヨサクが自分より何倍も強いというのは仕方のないこと」と、サクラリア自身も思っている。そこは割り切れる。この無力感の根本は、己を生かす戦術がないことによるものであろう。


 これまでの戦闘では、<デュエット>という魔法を中心に桜童子の攻撃を上乗せするかたちで刃を振るってきた。それなりに接近戦で役立つ思いがあったのだ。離れれば、<グランドフィナーレ>を奏でて勝利を得ることもできる。

 しかし、その実はギルドマスターがギリギリのところまで敵戦力を削っておいて、サクラリアにおいしいところをとらせていたというだけのことだと気づいてしまった。

 桜童子の優しさに甘えているだけの自分に気づいてしまった。桜童子の全力には今のままではついていけない。<ツクミ>で目が覚めた時よりも、置いていきぼりの寂寥感が募る。

 

 不意に涙が零れる。

「ぅぅぐっ、強く……なりだいようっ!」

 ユイは自分よりずっと大人なサクラリアの頭を引き寄せて抱きしめた。

「こどばばじゃ、うぐっ、にゃあ様にあえないよう」


「強くなるしかないんだ。この世界を生き残るには」

 ユイは、柱に埋もれるようにして眠りに就いた<古来種>の姿を思い出していた。

 <古来種>はユイを救った英雄だったが、<典災>と名乗る敵の囁いた一言に、心に毒が回った。ユイに装備を譲り、戦い方を授け、やがて永遠の眠りにつこうとしたとき、ユイの恩人はこうつぶやいた。

「強さとは、一体なんだったのだろうか」


 ユイは彼の恩人を眠りから呼び覚ます鍵とともに、その問いへの答えも探さねばならないと心に秘めている。だからこそ、自分に言い聞かせるようにもう一度つぶやいた。

「強くなるしかないんだ」 


「ありがとう」

 しばらくしてサクラリアは立ち上がった。ユイに顔を見せないようにしたまま、話しかけた。

「私、やっぱり今のままじゃ弱いままだよ。このままじゃ帰れない」

 そしてまだ何らかの言い争いを続けるあざみに声をかける。


「あざみちゃーん! 私、しばらくここにいていいかなあ。試してみたいことがあるの。ユイも、いい?」


 サクラリアの表情は何か吹っ切れたようだった。振り返った顔を見てユイは安心したように微笑んだ。


「おう! 姉ちゃんがここにいるなら、オレもここにいるぜ」


「悪いが、俺は先に急ぐぜ」

 肩をすくめて話すヨサクに詰め寄るあざみ。

「くぉらあああああああ! アンタもあたしと一緒に行くの! その<エッゾ>の何とかさんに電話したげるから、電話貸しなさい!」

「携帯電話なんてあるわけねえだろうがよ! どんだけこの世界慣れしてねぇんだよ」


「ああ、勘違いよ! 悪かったわね、念話しなさいよ! 念話越しにアンタの耳元で叫んだら絶対そのデミガンティアさんって人に聞こえるから」

「<ブリガンティア>のデミクァスさんだ! 分かった、分かった。その声で耳元で叫ばれちゃたまらねえ」


 あざみはしっぽを揺らしながら腰をくねらせる。

「なになに!? ぞくぞくするって? このドMモンク!」

「鼓膜が破けるって言ってんだよ。ハア、分かったよ。俺もつき…」

「あたしの声に魅了されちゃったんなら言えばいいのに」

「最後まで話を聞け!」


 絡み付こうとするあざみの耳をヨサクはつまみ上げる。そして、サクラリアを指さして叫ぶ。


「おい、ヒューマンの嬢ちゃん! 三日だ! 三日で何とかしろ。それまでは付き合ってやるよ。それでいいか!」

  

「ありがとう。私、三日以内に強くなってみせるから」


 サクラリアの瞳に、強がりやハッタリなどではない真実の決意が宿っている。


「泣いてた嬢ちゃんとは別人のようだな。何か策があるのか? おい、ガキんちょ! バカ女狐! 戦闘訓練やるぞ、付き合え!」


 あざみは「えー」と文句の声を挙げて立ち去ろうとしたが、ヨサクに首根っこをつかまれて引きずられていく。


「姉ちゃん。平気か」


 心配そうにユイが顔を覗くが、サクラリアは軽く微笑んで答えた。


「道具ならあるわ。大丈夫。私、きっとやれるから!」

 ユイは、時折振り返りながら<武闘家>と<武士>の後をついていく。

 サクラリアは思いつめた表情で 円刀(セイバー)を抜き放った。

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