前回までのあらすじ
「あとはこの時限式核爆弾を人々のいないところへ持っていけば…」
俺は悪者を倒し、悪者が仕掛けた核爆弾を胸に抱えて空を飛んでいた。
「正義のヒーローが爆弾をどこかへ運んでいくわ!」
「いいぞヒーロー!」
「我々の経済的損失を最小限にとどめておくれ―!」
「キャー!カッコイイわぁー!」
どこだ? どこに運べばこのヒーローものでお決まりの展開を解決できるんだ…
爆弾を人々のいないところへ運ばなくては…
このヒーローもので鉄板のストーリー展開を上手に処理し、
みんなから黄色い声援を浴びるにはどうしたらいいんだ…
くそぅ、ちやほやされたい!
早くご飯と言えばお味噌汁、ヒーローと言えばこの展開、
というお馴染みの組み合わせを如何にカッコよく解決し、
早く運べばいいものを無駄にアクロバティックな飛行をしたりしながら尺を稼いでギリギリのところで街を救い、
ボロボロになりながら帰って少しだけ心配させ、
「やっぱりこの街にはヒーローがいなくっちゃね!」
と人々に言わせたと同時に恋人に涙を流させ、
帰還後に恋人から熱いキッスをされた上に
「私が癒してあげるわ…」
とか何とか言われちゃってベッドで激しくハリウッド女優と互いの体を求め合い、
無我夢中でセックスする為にはどこが一番見せ場的に最適なんだ…
多種多様の亜種を生み出しつつ、
似たり寄ったりの展開であることにも気づかずにいる頭の弱い観客たちの涙腺を刺激し、
興行収入を塗り替えて全米を涙させるには一体どこに爆弾を運べばいいんだ!
「あそこだぁぁぁ!」
俺は都市から離れた海の底へ、爆弾を抱えたままダイブした。
「ああッ、ヒーローが海の中に!」
「大丈夫かしら… 心配だわ!」
「帰ってくるよねぇ ママ、ヒーローは帰ってくるよねぇ?」
「海が放射能汚染されて漁獲量が激減するじゃないか…」
よし! 海の底に沈めた上に距離をとったぞ!
このくらいかな?
このくらいの距離で爆風を受ければボロボロになれるかな?
あ、ちょっと近いかな?
この距離だとパンツ破けちゃうな…
絵的にパンツだけは破けないようにしないとな!
あとでテレビカメラ来たときにチンコ出てたらカッコ悪いもんな!
どんなにスーツがボロボロに破けてもパンツだけは破けない!
それは暗黙の了解的なお約束ごとなんだぜ?
メディア倫理委員会やPTAのヤツらがうるさいからな!
仕方ねぇからちょっと離れるか、よーし! この辺だ!
この辺ならちょうどいい塩梅だ!
海なだけにいい塩加減だ!
さぁ来い、爆発しろ! 遠慮せずに爆発しろ!
ウェルカム爆風! バッチコイ、ヒィヤッハー!
――人々は目撃した、閃光とともに真っ黒なキノコ状の雲が遠くの海に立ちあがるのを――
「ヒーロー…」
「うぅ…私たちのヒーローがぁ…」
「ママぁ! ヒーローはどうなっちゃたんだよぅ」
「今年のサンマはもうダメだべぇ~」
と、そのときヒーローが傷だらけのボロボロになりながら海岸に現れた。
「あ! ヒーローよ! 生きていたんだわ!」
「え… でもあれ…」
人々がそこに見たものは傷だらけのボロボロになったヒーロー…
の、頭蓋をむんずと掴みあげている巨大な半漁人の姿であった。
「くそぅ… 半漁人めっちゃ強えぇ…」
そう、ヒーローには一つだけ計算違いがあったのだ。
海の底には半漁人たちの街があったのである。
平和に暮らしていた半漁人たちの街…
その街を核攻撃により壊滅させてしまったヒーローは半漁人の怒りを買い、ボロボロの半殺しにされたのである。
「キサマラ人類ヲ… コロス!」
家族を、友人を、未来を担う子供たちを…
人類の生み出した爆弾によって、全て一瞬の間に奪われた半漁人の怒りと悲しみ。
その感情のボルテージが頂点に達し、強くコブシを握りしめた瞬間!
ヒーローの頭蓋は鈍い音を立てながら砕け散った。
まるでスイカ割のスイカのように砕け散ったのだ。
ビーチなだけに!
ビーチなだけに!!!
「うおぉぉぉ!!!」
全身汗でビッショリと濡れた体…
ベッドから起き上がると朝日が目に沁み込んでくる…
隣で寝ていた裸のハニーが心配そうに見つめている。
「どうしたの? 悪い夢でも見ていたの?」
俺は激しく伸縮を繰り返す心臓を抑えながら呼吸を整えようとしていた。
だが、間が悪いことに大音量の警報音が部屋中に鳴り響き、
俺の体は肉食動物の気配を感じ取った草食動物のようにビクついた!
そして部屋のモニターにヒーローものにありがちな博士的なヤツが映ったかと思えば、街で悪者が暴れているというテンプレート的な発言が飛び出した。
「ヒーローよ! お馴染みの展開じゃ!
強力な爆弾を街に仕掛けた悪者が君に倒されるのを待っている!
早く行きたまえ! 彼ら派遣だから定時で帰ってしまうんだ!」
行かなくては…
例え傷だらけのボロボロにされる夢を見ただけであって、
体には何ら異常が無く、いたって健康体だったとしても、
正義のヒーローは行かなくてはならないのだ。
俺は立ちあがりヒーロースーツを手に取った。
「行ってしまうの…?」
「ああ、だがこのままじゃ行けない」
「どうしたの? 体が痛むの…?」
「そうじゃないんだ」
別に体が痛むわけではなかった。
健康そのもので、すぐに戦える状態だった。
ただ、このままではスーツを着れないのだ。
俺が立ち上がると同時にアレも立ち上がってしまっていたから…
そう、朝だからだ。
夕方に立つのは雨、朝方に立つのはアレである。
夕立ちと朝立ちは似て非なる言葉なのだ!
「ハニー! 一発ヤッてから行こう!」
「んもう! 元気なんだから!」