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桜サク夏  作者: 綾瀬タカ
52/52

52 桜咲く夏

完結です。ご意見ご感想お待ちしています。

「お前に会いたかったから来た」

 

 それはきっと、今の夏ができる、精一杯の告白。


 私にはその言葉だけで、十分、伝わっていた。


 

 *  *  *



 電車がまもなくホームに到着する、というアナウンスが流れていた。それは私が乗るはずの、乗らなければならないはずのものだった。けれど、それよりももっと、しなければならないこと。

 私はここで、夏と向かい合わなければならない。夏と、話さなければならなかった。



「それって、嘘をついたこと……許してくれるの?」

 躊躇って、それでも夏は、小さく頷いてくれた。

「あたしを、認めてくれるの?」

「ああ」

 そう言って、もう一度同じように、頷いた。

「ありがとう。夏、本当にありがとう。……でも、どうして?」

「椿、と、さっき屋上で会って、」

「椿?」

 それから夏は、椿に言われたということを話してくれた。「男と女のケンカってあんな感じなのかな。まさに修羅場ってやつだったよ。何せ椿がすげー恐くて」と、夏は振り返り、怯えるような顔をしてみせた。

「双子って、そういうものなのかよ。俺、殺されるかと思った」

 夏があまりに真剣にそう言うから、思わず、笑ってしまう。

「笑うな。本気だそ、あいつは」

「確かに椿は、あたしのことも好きだけど……」

「も?」

「だけどね、椿は、夏のことが好きなんだよ」

 夏は「え?」と小さく呟いて、口を開けたまま放心した。

「椿はね、1年前、夏のことが好きだったの。あの罰ゲームの告白も、椿にとっては本気だった。あのころ、夏と椿は、両想いだったんだよ」

 夏も椿が好きだったと知ったときから、ずっと、言わないでおこうと思っていた。夏が今さらそれを知って、もしかしたら椿への想いを再燃させてしまうんじゃないかと、私は私で、不安を抱いていたから。

 だけどそれでは、いつまでたっても夏に、恋に対して、臆病でしかいられないから。

「椿ね、言ってたの。『たとえこれから好きな人ができても、夏のことはずっと大切に想ってる。恋してたときよりももっと、ずっと強い感情かもしれない』って」

 さらに椿はこう言った。大好きな2人が幸せになってくれれば嬉しい、と。


 椿が私に力をくれた。私をいつも見守っていてくれた。


 だから、私だって強くなる。


「だから夏。あたしが夢見てたこと。もし叶うなら、あたしは、夏のそばに、ずっといたい。夏があたしを許してくれて、認めてくれたなら、これからも一緒にいさせて」

 

 

 *  *  *



「桜、おはよ〜」

「おはよう乃李」

「椿は元気?」

「うん。もうクラスに馴染んでるみたい。さすがだよね」

「何言ってるの。桜だって、すっかりうちのクラスの一員じゃない」

「おはよ〜」

「あっ、夏。おはよう!!」

「おはよう、桜」



 夏が私の告白にどんな答えをしたかは、2人だけの秘密。だから、椿にも教えない。



 だけど、私は今も、椿の学校に通っている。



 今度は、弥代桜として。





【END】

ご愛読ありがとうございました。

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