47 夏の空
空が果てしなく広がっているのは、空の上の人たちが見守ってくれているからだと思う。
だからこの雨上がりの空は、きっと、夏の大切な人がつくってくれたものなんだ。
私と同じ、夏に嘘をついた、あの人が。
「あ〜あ。せっかく晴れたのにな」
6限が始まったばかりだった。保健室に行く、と言って先生の目をすり抜け、保健医の杏堂先生には正直に、「夏を待っている」と話した。何かを言いかけた杏堂先生の口からは、「分かった」とひとことだけ返ってきた。それが先生の言いかけた言葉ではないことくらい分かっていたが、私の欲しいひとことが返ってきたので、とりあえずそれ以上は追及せずに保健室を出た。
そして私は、屋上に来た。夏が来るはずないのに、ここにいたら、夏が来てくれるような気がして。
「なんて、思ってはみたけど」
そこにいるのは私ひとり。夏の姿なんてもちろんなくて。
今日はもうだめかもしれない。そう思った、ときだった。
「お前……?」
やっぱり夏は、来てくれた。
* * *
「どうしたんだよ、お前」
「それはこっちのセリフなんだけどな」
「今6限だろ。サボりかよ」
「だから、そっちに言われたくないって」
お互いの胸のうちを探るように、私たちは話し始めた。2人の間に流れるこの奇妙な雰囲気は、きっと夏のせいだ。
夏はもう、私が誰だか分かっている。だから、私のことを「椿」と呼ばない。
「何で今さら、学校に来たの。逃げたんじゃなかったの」
「そんなんじゃねぇよ。今日は、用事があったんだ」
「用事? 何?」
口ごもって言葉を詰まらせた夏は、私の真剣な目を見てぐっと体を引くと、呟くように小さな声で、言った。
「今日は……友達の、命日なんだ……」
「命日……」
「ああ」
「それ、って、夏に嘘をついた友達……?」
何で、と驚いて言った夏に、杏堂先生から聞いた、と答えた。夏は「ああ」と呟いて、空を見上げた。
「空に手が届きそうって、そのことだったんだね」
「別に、夢見てるわけじゃないんだ。まさか友達に会えるなんて思ってるわけでもないし。ただ知りたいのは、何で俺にだけ、嘘をついてたんだろうって。答えなんて返ってこないのは分かってるけど、でも、ここにいると癒されるっていうか――。そんな気分になれるから、どうしても、やめられないんだ」
「ううん。きっと、ここで夏はその人と会ってる。夏が気づいてないだけで、その人は、ここにいるんだよ」
だって空は今日も、こんなにも青く澄んで。
何度も見てきたターコイズの空色も、夏と一緒に見てきたものだったから。
「あたしと夏がここで会えたのも、その人が見守ってくれているからだよ」
この空は夏のために。
空の上から夏を見るために、つくられたものなんだろう。




