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桜サク夏  作者: 綾瀬タカ
45/52

45 双子としての幕開け

 その日の夜。ベッドに入って明日のことを考えていた。

 私はどうすればいいのだろうか。夏は私に、気づくだろうかと。

 そして、すべてを話したら、夏は私を許してはくれないのだろう、と。


「桜っ、おはよ〜」

 窓辺のカーテンを開けられて、朝陽が眩しく私を照らした。

「椿……なに……」

「なにって、もう朝だよ。お母さんももう仕事行ったから、早く支度して。一緒に出るよ」

「え?」

 入れ替わった場合、私は椿よりも10分、遅れて出るのだが。

「駅まで、一緒に行こうよ。いいじゃない。あたしたちは双子なんだから」

 そう、椿は言った。



 *  *  *



「じゃあ椿。ここで一旦お別れだね」

「うん」

「椿。彼はきっと、椿のことを想ってるよ」

「ありがと」

 心なしか、椿には緊張の表情が見える。聞けば昨日、椿は彼に会ったのだという。駅で偶然――。だけどそれは、偶然ではないと思う。彼は、椿を待っていた。私ではない、もうひとりの桜を。

「じゃあ、あたしも行くね」

「桜」

「ん?」

 不意に、椿が私を呼び止める。

「どうしたの、椿」

「桜。桜はたぶん、肝心なところを何も教えてくれてないから、あたしもはっきり言えないけどさ、」

 椿は私の肩に手を乗せて、にこっと笑った。

「夏は、桜のことが好きなんだ。自分でも気づいてるか分からないけど、桜のことが好きなんだよ。だから桜は、何も気にしないで、言いたいことを言えばいいんだよ。そうすればちゃんと伝わるから」

「椿」

 じゃあね、と言って改札を抜けていった椿。向こうから来る人々が、椿を通り過ぎ、また同じ顔の私を見て驚き、「わ〜双子だ」など言っているのが聞こえてきた。

 ついに知られてしまった。今まで隠してきた、私たちの双子の関係を。これからはもう、双子として生活していかなければならない。

「椿。これが、あたしたち双子の、双子としての、幕開けだね」

 椿の後ろ姿が完全に消えてから、私も改札を抜けた。明日からは2人でここを通る姿を、頭の中で思い描きながら、実はこの町に引っ越してきてからの1年、そんな生活にずっと憧れていたことに気づく。

 もう双子を隠す必要もない。私たちが同じじゃないことを分かってくれた人が、私たちの前に、それぞれ現れたから。それだけで、充分。

 ただ、その人がこれからも私たちの隣にいてくれたら、それはとても、幸せなことなのだろうけど。






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