45 双子としての幕開け
その日の夜。ベッドに入って明日のことを考えていた。
私はどうすればいいのだろうか。夏は私に、気づくだろうかと。
そして、すべてを話したら、夏は私を許してはくれないのだろう、と。
「桜っ、おはよ〜」
窓辺のカーテンを開けられて、朝陽が眩しく私を照らした。
「椿……なに……」
「なにって、もう朝だよ。お母さんももう仕事行ったから、早く支度して。一緒に出るよ」
「え?」
入れ替わった場合、私は椿よりも10分、遅れて出るのだが。
「駅まで、一緒に行こうよ。いいじゃない。あたしたちは双子なんだから」
そう、椿は言った。
* * *
「じゃあ椿。ここで一旦お別れだね」
「うん」
「椿。彼はきっと、椿のことを想ってるよ」
「ありがと」
心なしか、椿には緊張の表情が見える。聞けば昨日、椿は彼に会ったのだという。駅で偶然――。だけどそれは、偶然ではないと思う。彼は、椿を待っていた。私ではない、もうひとりの桜を。
「じゃあ、あたしも行くね」
「桜」
「ん?」
不意に、椿が私を呼び止める。
「どうしたの、椿」
「桜。桜はたぶん、肝心なところを何も教えてくれてないから、あたしもはっきり言えないけどさ、」
椿は私の肩に手を乗せて、にこっと笑った。
「夏は、桜のことが好きなんだ。自分でも気づいてるか分からないけど、桜のことが好きなんだよ。だから桜は、何も気にしないで、言いたいことを言えばいいんだよ。そうすればちゃんと伝わるから」
「椿」
じゃあね、と言って改札を抜けていった椿。向こうから来る人々が、椿を通り過ぎ、また同じ顔の私を見て驚き、「わ〜双子だ」など言っているのが聞こえてきた。
ついに知られてしまった。今まで隠してきた、私たちの双子の関係を。これからはもう、双子として生活していかなければならない。
「椿。これが、あたしたち双子の、双子としての、幕開けだね」
椿の後ろ姿が完全に消えてから、私も改札を抜けた。明日からは2人でここを通る姿を、頭の中で思い描きながら、実はこの町に引っ越してきてからの1年、そんな生活にずっと憧れていたことに気づく。
もう双子を隠す必要もない。私たちが同じじゃないことを分かってくれた人が、私たちの前に、それぞれ現れたから。それだけで、充分。
ただ、その人がこれからも私たちの隣にいてくれたら、それはとても、幸せなことなのだろうけど。




